2012年01月17日

『ラフマニノフ』 前北かおる

                                            『麻』2011年9月号
 『ラフマニノフ』 前北かおる(まえきた・かおる)一九七八年生まれ。
 「惜春」(高田風人子主宰)から、「夏潮」(本井英主宰)へ創刊参加。黒潮賞受賞。

 序は父君、扉絵は夫人、句集出版のきっかけは子息の誕生とあって、一家総出の句集だ。
作句年順である。

 自選十句。

   惜春の心ラフマニノフの歌
   露草のミッキーマウスミニーマウス
   オリーブの実の青きかな日の盛り
   春雨に弾いて歌うて夫婦なる
   この里の緑の写真冬座敷
   夕涼の雲より淡くドビュッシー
   而して星の満ちたる初月夜
   藪椿歓喜の歌を歌ふかに
   胎動の確と男児や夏来る
   羽衣の如くに尾鰭桜鯛

 この十句では、作者の幸せ感全開の感じ。句集中にある句もそんな感じで、意識してそうしているのではなく、そのままなのだと思う。前向きな作者がいる。

 句集名は一句目から採られたという。ラフマニノフの有名な歌曲に「ヴォカリーズ」がある。仮にこれならば、作曲は三十九歳のとき。初期の演奏の失敗等で神経衰弱になるなど打ち沈んだ後、自信を取り戻してからの曲。
作者がもし難儀な人生を送っていたり、五〇歳以降であったりすれば、「惜春の」ではなく「夜は秋の」としたかもしれない。このような曲に季節を当て嵌めるのは、聞く方の条件にもよるので難しいことだ。

 胎動による男女の判別にも通俗的なものがあるが、本来、生まれてみなければ分からないものだ。近頃は超音波で判断することが多い。それでも、男とは分かるが女とは決めがたいそうだ。男と分かった後で、やっぱりねと喜んでいるのであろう。ともあれ、男女の意味も、考え出せば深いものがある。

 集中の句もご紹介しよう。

   式までの教会通ひ春隣
   島洗ふ大雨も見え雲の峰
   掛稲のひと雨浴びしところなる
   炉の縁に膳を溢れし皿小鉢
   冬の蠅うるさくなりて打ちにけり
   どんぶりに盛られし若布島の朝
   湿原の貴婦人といふ夏木かな
   富士の溶岩転がつてゐる茶園かな
   アザーンの聞こゆる臥所水中り
   霧の果てより山彦の声返る
   天敵のなければ孤独寒鴉

 虚子に倣って、句を詠んだ日付、場所、投じた句会を添えている。一人で詠むことはあまりないとのこと。
 極楽の文学をいう虚子に学ぶことは、沢山ある。
                                        (二〇一一年・ふらんす堂)


momoka11 at 22:39│Comments(0)TrackBack(0) 句集 

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