いつも行く酒屋は、70代の旦那と40前後の若旦那が店番をしている。
 客待ちのあいだ、若旦那はいつもノートパソコンに向かっている。

 旦那のほうとは何度か世間話をしていた。
 あちらのほうから客との会話の定番である、「いやあ、寒くなりましたねえ」などと話しかけてくるので、こちらも作法通りに「今年は冬が早いようですね」などと応えていた。
 無口な若旦那とは会話したことがなかった。私と旦那の会話の時もノートパソコンに向かっていて、こちらを無視することが多かった。そんな無礼な商売人にこちらから話し掛けることもない。



 店内のPOPがカラフルに、とてもよく出来ている。パソコンによる手製だ。あの若旦那がノートパソコンで作っているのかと、前々から気になっていた。画質からインクジェットプリンタだとわかる。
 ある日、いつもの焼酎を若旦那から買った時、社交性のない私には珍しく、「これはご自分で作っているのですか?」と思わず話しかけてしまった。

 若旦那は「ええ」とそっけなく応えた。すると横っちょで商品整理をしていた旦那のほうが、「いやあもう便利な時代になって」とか「わたしなんかにゃチンプンカンプン」と即座に応じてきた。旦那も若旦那も、私がそういうものに知識のない、まるで印刷物であるかのようなPOPに感嘆している客と判断したようだった。
 つまりパソコン好きの若旦那はそっち方面に知識のないオヤジが適当に話し掛けてきたなと私を敬遠し、旦那のほうは、知識のない客の適当な話し掛けに、接客態度のよくない息子が無愛想な応対をしそうだと、横っちょから助け舟を出してくれたのだ。それは鈍い私にも露骨なほど感じられたから、明らかにそうだったのだろう(笑)。

 気持ちとしてはわかる。知識のないひとに適当に話し掛けられ、脹らむことなく終る会話は虚しい。



 話し掛けた相手に冷たく応対され、横から助け船まで出される惨めな状況だから、誇り高い私としては憤然としてそこで会話を打ち切るのが常なのだが、なぜか私は、店中の商品に貼られているA−4版の値段(黄色地の紙に赤字で値段が書かれているタイプ)を見ながら、「これ、インクジェットでしょ。たいへんですね」と言っていた。前々から思っていたことだから自然に口を突いていた。

 社交家でない私がつい話し掛けてしまったのもそれが理由だった。昨今のインクジェットプリンタは「ハードは安く、消耗品で儲ける」に徹底している。CANONが自社の製品よりも安いインクを製造していた会社──なんて言うんだっけ、サプライ品メーカーでいいの?──を違法だと訴えた事件も記憶に新しい。儲けるジャンルのインク分野に他所から参入されて鳶に油揚げは許さないだろう。でもそういうメーカーが複数存在する(需用がある)ほどむかしからインクジェットプリンタの消耗品は高く、CANONが裁判を起こすほど、そこは儲かる分野なのだ。

 私のプリンタはここ数年カラーレーザーが中心だった。それで何の問題もなかったのだが、DVDのラベル印刷とか写真印刷ではインクジェットの画質が欲しくなるときがあり、つい先日数年ぶりにCANONのそれを購入したばかりだった。CANONのインクジェットプリンタを最初の製品から使ってきたという思い入れもある。そして予想通りインクの減りの速さに往生していた。以前もひどかったのに、ますますすごいことになっていた。ちょっとバカにならない額である。若旦那に話し掛けた「たいへんですね」は「これじゃ消耗品のインク代がたいへんですね」の意味になる。



 するとそれを聞いた若旦那がピクンと反応したのだ。そこがそれ好事家。好きな道には通ずるものがある。「そうなんですよ、インクがね」「ぼくはもうカラーレーザーにしました」「でもレーザーのトナーも高いですよ」「ですね。でもカラーレーザーはハードが、かつては夢でしたもの」「個人には無理でしたね」。
 一気に話が弾む。あまり周囲にパソコン好きがいないのか、若旦那も話の通じる客と出会い、ちょっとうれしそうだった。
 おかしかったのは、それまでは「パソコンを知らない者同士」として私に親近感?を持っていたのだろう旦那が、息子と私が自分のわからない話で盛りあがり始めたので、ちょっと傷ついた顔をして(笑)、そこからさっと去って行ったことだった。

 いつも行く酒屋で、そんなことからパソコン好きの若旦那と仲よくなったという、ここまでが「生活雑記」。ここからいわば本題の「安倍首相のフェースブックとフラン人の話」になる。

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 さらに話している内に、若旦那は政治思想的にも私とちかいひとだと知った。最初は「アベノミクスで株価があがって」なんて話題だったのだが、そこから自然に民主党政権批判になり、感覚が通じてゆく。

 客待ちをしている間、若旦那はいつもレジでノートパソコンをいじっていた。前記したように、旦那のほうが客である私に「今日は寒いですね」なんて話し掛けている間も、見むきもせず画面を見詰めている。いったい何をしているのだろうと思っていた。オンラインのRPGにでも凝っているのだろうかと。
 それが今回、私と同じく2ちゃんねるの「ニュース速報」等でニュースを追っているのだと知った。

 私がそっち方面にも通じていると知って、若旦那は「さっき、Facebookでフランス人がね」と話し掛けてきた。私はちょうど部屋を出る前にそれを読んできたばかりだった。ホットな話題である。



 安倍首相がFacebookで、大震災における台湾への感謝を述べた。昨年、民主党はあれほど日本のことを案じて多額の義捐金を寄せてくれた台湾を無視するというとんでもない無礼をした。有志がお金を出しあって台湾の新聞に感謝のことばを載せた。そんなことに関わることなどめったにない私だが、あれには一口参加させてもらった。それほど媚中の民主党が台湾に対してやったことは無礼だった。

 今回安倍首相は台湾にも礼を尽くした。当然だ。それがひととしてのありかたたが。するとそれすらも外交に使おうとする中共が式典への参加を缺席した。けっこうだ。出てもらいたくない。中共と南北朝鮮には。
 安倍首相はそれに対しても、「残念ではあるが台湾への感謝は当然である」とゆるがなかった。やっとまともな首相になったと安心したばかりだった。
 そのフェイスブックに朝鮮人が抗議の書きこみをした。ここまでは毎度のこと。

 その相変わらずの身勝手な論理に、フランス人が反論の書きこみをしたのだという。
 それが歴史観としても正しく、また日本語が上手で、Facebookはいまそれで盛りあがっているらしい。



 私はFacebookをやっていないので、それは知らない。ただ2ちゃんねるの「ニュース速報」にすでにスレが立っていた。とても興味ある話題だったから、若旦那の「Facebookでフランス人が」に、喰い気味に「ああ、あれですね」と応えていた。

 当然ながら2ちゃんねるでも、そのフランス人があまりに日本語がうまいこと、日本とシナ朝鮮の歴史と確執に通じていることから、日本人のなりすましではないかとの説も出ていた。
 こういうときFacebookをやっていれば、その文章を読んで自分の意見を書けるのだが、やっていないので読めない。彼がフランス人なのか日本人のなりすましなのか、その文章を読みたかった。



 パソコン黎明期、多くのひとにパソコン通信に参加するよう勧められたが関わらなかった。パソコンに電話線を繋ぐ気にはなれなかった。私には見知らぬひととネット上でのやりとりをしたい気持ちは毛頭ない。mixiもやらなかった。TwitterもIDはもっているが活動していない。Facebookなんてやるはずもない。最近はハンドルだけのメールには返事も書かない。ネット世界で交友を拡げるどころか、もう拡がりすぎなので拒んで狭くしたいほどだ。

 そんな私だからFacebookのそのフランス人の文章を読めないのは当然なのだが、なんとか読んでみたいので、今から探しに行く。うまく見つかるといいが。

kanren6
 安倍首相のFacebookで日本人的主張をしてくれたフランス人