あの傲岸な伊藤のPuellaに勝って欲しい。塚田がんばれと思いつつ10時の開戦前からの観戦。

denou4-3 午後、塚田入玉模様になる。入玉はもう確実だ。しかし大駒4枚がPuella。これじゃ入玉しても点数で完敗だ。
 コンピュータの形勢判断は、コンピュータ2900ポイント有利。絶望的状況。かなしくなって離れた。



 かなしいけれど、とりあえず塚田の敗戦を確認しようと18時過ぎに繋ぐと、相入玉模様から、塚田も大駒を取りもどし、1点勝負になっていた。なにがどうなったのか。まさかここまで盛りかえすとは。塚田の根性だ。
 なぜか知らんが、この時間になっても追いだされることなく、ミラーサイトではなくニコ生で見られる。325806人も見ているのに。ありがたい。




 点取り勝負で、「もしかしたら塚田が持将棋に持ちこめるかも」という形。勝ちはない。ベストで引き分けだ。
 延々と続く相入玉の将棋。短絡にと金を作り続けるコンピュータソフト。缺陥か!?
 木村の絶妙の解説に会場から笑いが起きる。いつもとはちがう風景。
 どうやらPuellaは持将棋の点数計算が苦手のようだ。
 点取り合戦になったら、手持ちの駒でのと金作りより、取られる可能性のある盤上の歩を勧めてと金になるのが常法なのだが。

 さて、塚田、持将棋に持ちこめるか。あと1点だ。盤面右端の歩三枚の内、一枚を取れば24点に達する。がんばれ。(19:20) 



 19:31、塚田のと金が歩を取って24点になった。これで相手が持将棋の申しこみを受ければ持将棋が成立する。会場から拍手が沸く。 

 19:38、持将棋成立。会場から大拍手。引き分けではあるが、 塚田、よくがんばった!(島崎三歩風に)

 しかしこれ、持将棋の点数計算の弱さ(金銀も歩も同じ1点)という缺点を突いたものであるのも確か。それをソフト側が今度修正してきたら……。

 さらにまた、持将棋の申しこみをコンピュータが受けず、千手二千手三千手と指し続けたら、人間は体力が切れて倒れる。時間切れでコンピュータが勝つ。

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 対局の間でのインタビュウ。
 奇妙な決着、珍妙な勝負に、立会人の神谷が笑い続けている。

 1986年、塚田が前人未到の22連勝を達成する。それまでの記録は有吉の20連勝だった。誰も越えられないと言われたその記録を越えたのが、同時期に連勝をしていた神谷だった。「花の55年組」の同期生である。その年、神谷が達成した28連勝を越えるのは不可能と言われている。ちなみに羽生の連勝記録も22である。

 絶対的劣勢の場面、投了を考えた瞬間はあったかと問われ、塚田が声を詰まらせ、ハンカチで涙を拭う。

 機械との闘い、負けられない人間の誇り。チーム対抗戦。1勝2敗を受けての第4戦。最年長。
 残酷でもある。胸が熱くなった。
 笑いに満ちていた雰囲気が一転してウェットになる。

 塚田が一番強かった二十代、王座の頃から知っている。中原さんから奪った。
「塚田スペシャル」が吹き荒れたころ。

 今回最年長、50歳近くなってのこの場への登場はつらかったろう。
 事前予想で確実に勝つと思われていたのが船江なら、最も不安だったのが塚田だ。
 その船江が負けた後を受けての一戦。
 絶望的状況から、ほんとによくがんばった。



 来週は第五局、最終戦。A級三浦の闘い。相手はモンスターマシンGPS将棋。700台以上を繋いでくる。
 三浦のプレッシャーも半端ではなかろう。
 がんばれ、人間!

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【追記】

 いま20:50。
 20時10分から記者会見があった。立会人の神谷が、塚田と35年のつきあいがあるが、初めて涙を見たと語っていた。

 塚田との質疑応答を聞いて、あらためてショックを受けたのは、Puellaを借りての練習将棋で、真正面から塚田の得意とする横歩取りをやっては勝てないという告白だった。「もしも勝てるとしたら」、あの「入玉模様」しかなかったのだ。ただし、もちろん、引き分け狙いではない。自分だけ入玉し、相手を負かすつもりでいたら、コンピュータも入玉してきたので驚いたという。そして絶望的状況。
 ところが相入玉模様になるとPuellaの意外な缺陥が露呈した。持将棋の点数計算が苦手なのだ。しかしすぐに直してくる。今回はうまく引き分けに持ちこめたが、来年はもう無理だろう。

 塚田の横歩取りが通用しないというのは、勝ちまくった「塚田スペシャル」時代を知っている身にはショックだった。しかしそれは「塚田スペシャル」の利点と、その後の全棋士が知恵を絞って作りあげた対応策を完全に定跡として記憶しているのだから当然だ。

 昨年、米長が敗れたとき、彼がどんなに「6二玉」の価値を主張しようとも、それを言えば言うほど、「矢倉は将棋の純文学」と言った彼が、何百万手もの定跡を体内に抱えたコンピュータソフトには、正面からの矢倉では勝てないのだとの確認になり、かなしくなった。あの時点でもうすべての結論は出ていた。戦う棋士がひとりの人間でしかないのに対し、*コンピュータソフトは、古今の百人以上ものすぐれた棋士が心血注いで作りあげた定跡や戦法を全部身に着けているのだ。優れたコンピュータソフトと戦うということは「全将棋史」と戦うと言うことなのである。

 つまり今後、羽生渡辺クラスが出てきたとしても、それですらもう「コンピュータソフトの苦手部分を突く」という闘いになり、彼らでも矢倉や相掛かり、横歩取り、ふつうの「居飛車対振り飛車」ではもう勝てないのだ。
 それはかなしいけど、明確なひとつの結論だろう。



 カメラはインタビューの畳の間から、また六本木の会場に戻り、木村と安食の会話の後、最後に初公開の来週用のPVを流す。かっこいい。ほんと、電王戦のPVはよくできている。
 米長の映像も使い、ポイントをつかんでいる。闘いに臨む棋士の姿が鮮烈だ。
 PVに感動したMCの安食総子女流が涙でしゃべれなくなっている。

 今日の番組のアンケート結果。もちろん私も「とても良かった」に1票。
 男を上げたね、塚田さん。かっこわるかったけど、かっこよかったよ。
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【追記】──河口七段の観戦記を読んで 4/20

 待ちに待った河口さんの観戦記がアップされた。18日アップと知り、こまめにチェックしていたが、遅れに遅れ、やっと読めたのは20日の午前5時だった。河口さんもご苦労なさったのだろう。
 それによって知ったことを追記しておきたい。

 誰もがあの相入玉将棋にうんざりしていた。塚田に勝ち目はない。もしかしたら奇蹟的な「引き分け」に持ちこめるかも知れないが、その可能性も薄い。ただ黙々と指し続ける時間。Puella αはバカの一つ覚えのように歩を垂らしてと金を作る。それを解説の木村八段が揶揄する。六本木の観戦会場からは笑いが起きていた。



 今回の観戦記で知った愕き。
 河口さんもうんざりし、立会人の神谷七段(塚田と同期)に、塚田が投げるように進言したらどうかと意見を言ったのだとか。そばに居た先崎八段も同意見だったという。

 しかし神谷が動かない。「256手まで指す規定があります。規則は規則です」と言って。
 河口さんの本音は、「みっともないから、もう投げたら」だったらしい。しかしさすがに対局場に行き、塚田にそう言うわけにもゆかないと自重する。もしも誰かが短気を起こし、それをしてしまったなら、それを拒んでも黙々と指し続けることは、さすがの塚田も出来なかったろう。
 そして、点取りが苦手な将棋ソフトの缺点を突いて、奇蹟的な持将棋が成立する。



 プロ棋士としての、あまりに惨めな姿に、同期生の悲惨な姿に、立会人の神谷が「狹跳、もう投げたら」と口にしていたら、あの持将棋はなかったのだ。残ったのは、入玉という変則戦法を用いたが、将棋ソフトに相手にされず、大駒を全部取られ、大差で負けた惨めな棋譜、だけだった。
 塚田の辛い心境を知りながら、河口に、先崎に、投げるよう言ってこいと進言されても断固拒んだ神谷が、あの塚田の「逆転の引き分け」を生んだのだ。

 230手で持将棋が成立したとき、立会人の神谷は、対局者の向こう側で、「くっくっくっ」と、おかしくてたまらないという感じで笑っていた。笑いすぎだった。私はそれを不快に思った。たしかにみっともない将棋だったが、指しに指し続けた塚田の気力を思えば、笑うのは失礼だろうと感じた。そのあとの塚田の涙を見て、さらにその思いを強くした。

 しかしそれはそんな単純なものではなく、泣きたいのは神谷なのに、河口さんや先崎に言われるまでもなく、すぐにでも対局場に行き、立会人として「狹跳、もう投げなよ」と言いたいのに、「256手まで指す規定ですから」と彼らの意見を拒み続けた神谷だからこそのうれしさから来る笑いだったのだ。

 もしも先崎が立会人だったら、口にしていたかも知れない。あるいは塚田に強いことを言えるより年輩の棋士が立会人だったなら……。するとあの持将棋はなかった。
 そう思うと、あのみっともない引き分けではあるけれど、塚田のがんばりに涙した世紀の凡戦という熱戦は、塚田の同期生、立会人の神谷が作りだしたものでもあったのだ。



 河口さんの観戦記はさすがだった。
 だが河口さんは観戦記を厳しい言葉で結んでいる。

最後に一言書いておきたい。

 本局のような将棋も、将棋にはこういった場面も生じるのだ、との例として相応の価値はあろう。しかしニコニコ動画などによって、プロ将棋をファンに見てもらい、楽しんでいただくために、二度とこういう将棋は見たくない。

 たしかに。
 塚田のがんばりに感動した一局ではあったが、私自身、大駒を全部取られて、入玉しても点数で負けとわかった時点でうんざりし観戦を打ち切っている。塚田の人間としてのがんばりに感動はしたが、ひどい一局ではあったろう。

 だが、コンピュータなど触ったこともなく、まして将棋ソフトと対局などしたことなどあるはずもない河口さんのこの意見は、升田大山時代から知っている引退プロ棋士の意見として極めて正当ではあるが、私は「河口さんは将棋ソフトの強さをわかっていない、その恐怖を肌で感じていない」という不満を覚えた。

 かつてA級棋士であり、タイトルも獲得した塚田は、事前対策として、正攻法でソフトと何百局も対局したのだ。 だけど勝てない。「塚田スペシャル」を用いても、その後開発された対抗法をソフトはすべて記憶している。間違えない。正面からでは勝てないと認めざるを得ない屈辱。そこから生まれた奇策がアレだった。



 今回ドワンゴは、夢枕獏、先崎、大崎善生さん、河口さんと、コンピュータに詳しくないひとばかりを観戦記に選んだ。 それは計算尽くの戦略だったのだろう。
 夢枕は、電子メールはするらしいが原稿は手書きのアナログ人間だ。「電子メールはできる」と自分はコンピュータを知らない人間ではないと自慢するあたりでどの程度かわかる。
 先崎もまたコンピュータ的世界を否定することを人生の柱としているひとだ。
 河口さんはコンピュータどころではない。「携帯電話すら持っていない」と書いていた(笑)。

 唯一大崎さんが、古くからゲーム機やパソコンで将棋ソフトと遊び、旅先にもノートパソコンを持参して原稿を書く今時のふつうのひとだが、パソコンマニアというほどでもないだろう。今回の観戦記でいちばん好きなのは大崎さんのものなのだが、それは別項でまとめる。



 パソコンと対局しないひとの観戦記には、パソコンに負けるという恐怖が書けてなかったように感じる。それは観戦記をそういうひとに依頼したのだから当然だけど。

 私のような最盛期でもアマ三段という低レベルの者でも、ファミコンからPS、パソコンでも十数年勝ち続けてきたから、初めて負けたとき(PS2の『激指』)はショックだった。それが悔しくて私は本気になり、なんとかPS2の『激指』四段に勝てるところまで復活したが、すぐにパソコンでは、逆立ちしても勝てない時代になってしまった。相手にならないほど弱くてバカだった将棋ソフトに、相手にされない時代になった。

「あんなに弱かった将棋ソフトがこんなにも強くなった」という感慨はある。1万円以上出して買った将棋ソフトに勝ってばかりではつまらないから、負かしてくれるほど強いのはありがたいことでもある。同時にやはり、どんなにがんばっても将棋ソフトにはもう勝てないのだという敗北感も引きずっている。



 私ごとき素人でも、それなりの絶望感がある。もうどんなに頑張っても、棋書を読んで努力しても、絶対に将棋ソフトには勝てないのだ。それは、「すでに将棋ソフトが自分よりも強い時代に将棋を始めたひととは決定的にちがっている感覚」だ。

 小学生でおとなの高段者を破る神童として、将棋一筋の人生を生きてきた人が、それを職業としている棋士が、必死に考えてもパソコンに勝てないと自覚したとき、どんな思いをしただろう。

 総じて、今回の観戦記は、ひとり明後日の方角ではしゃいでいた夢枕は論外として、先崎も、河口さんも、将棋ソフトに負ける痛みというものに関して、鈍感なように感じた。
 もしも先崎や河口さんが『激指12』と指していたなら、観戦記の切り口はまったくちがったものになったろう。おそらく市販品の『激指12』でも河口さんより強いはずだ。

 河口さんは引退棋士だが、先崎八段は現役だ。来年はぜひ選手として出場し「自戦記」を書いてもらいたい。その自戦記と今年の観戦記を読み比べたい。 出ないだろうけど。

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Hさんからのご指摘──2013/04/21 6:29

*コンピュータソフトは、古今の百人以上ものすぐれた棋士が心血注いで作りあげた定跡や戦法を全部身に着けているのだ

 の部分に、Hさんからご意見を戴きました。



これ、実はそうではないところがあります。
例えば、一昨年の晩秋、当時のボンクラーズが米長との対戦を控えてネット将棋の将棋倶楽部24に席主の許諾を得て参戦して、匿名のプロや奨励会員やトップアマと数千局指して弱点の洗い出しをしました。
(その結果ボンクラーズのレーティングが人間では絶対に届かないレベルに到達したのですが)

そのボンクラーズの棋譜を遠山雄亮5段が全て精査した解説番組が昨年の電王戦前にニコニコで放送されました。
http://www.nicovideo.jp/mylist/29409825

かなり長い番組なのですが、お楽しみいただけるのではないかと思います。
この中で遠山が指摘しているのですが、鷺宮定跡とか、そういう古い定跡にころっとはまって負けることがあるのだそうです。
特に多い負け方が、角換わり腰掛け銀の富岡流、先手必勝とされている流れに自分から飛び込んでの自爆でした。




 なるほど、今回第五局が終った後の会見で、GPS将棋が「どれぐらい、どのような定跡を挿れているのか」という質問に、「1995年からの順位戦を中心に」のように応えていました。手作業なんだから「古今東西全部」は無理ですよね。となると、そういう「知らないので苦手な戦法」も現実に存在するのでしょう。

 将棋ソフトに関するこの部分で重要なことは、「人間が覚えさせる」ということですよね。もしかしたらこれからは、ソフト自身が自動で棋譜を収集して学習する、なんてことにもなるかもしれません。そうなると『ゴルゴ13』に出てきたモンスターソフト「ジーザス」みたいに、人間が寝ている間に、かってにネットの中を徘徊し、教えていない定跡をいつのまにかマスターし、やれと言ってもいないのに、かってに新戦法を考案し、なんてことも起きるのでしょうか。すくなくともいまは、人間が「これを覚えなさい」と過去の棋譜を与えて成長させているから、知らない戦法、知らない定跡の流れになると、そうなることもあるのでしょう。



 そうかあ、対振り飛車「鷺宮定跡」は私の得意とするところです。あれで勝てる可能性もあるのですね。あくまでも「まだ学んでいない時」に限られますが。
「金開き」とか「角頭歩突き」なんてのをやったらどうなのだろう。「鬼殺し」の受け方なんて知ってるのかなあ。あとで『激指』でやってみます。

 でも所司七段が監修した『激指』定跡道場は、その辺の定跡をしっかり覚えさせているから「鷺宮」にも強いんですよねえ。

 遠山五段監修のそのニコ生は今も見られるのでしょうか。今から出かけてみます。楽しみです。
 ご指摘、ありがとうございました。感謝いたします。