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小雨の日、GPS将棋が、現役A級三浦八段に、矢倉で完勝した。今年1月12日、A級順位戦で羽生のA級21連勝を止めた三浦である。1996年、無敵の羽生七冠から棋聖位を奪い、七冠を崩壊させた、あの俊英の三浦である。そのことにより、「電波少年」で、松本明子にアポなし押し掛け交際を迫られ、「最初はお友だちから」と応じていた、あの三浦である。それが木っ端微塵にされた。
(写真は朝の10時40分。観戦者は56000人)



佐藤四段の和服が気合なら、*1カジュアルなセーター姿での対局は、これはこれで三浦の対局に臨む姿勢だったのだろう。かなり意図的だったと思われる。おまえごときに正装はしないという。
(いま18時50分からの記者会見では、背広を着てきた。)



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この勝利の価値は大きい。現役A級の三浦からの完勝なのだ。奇策ではない。三浦得意の矢倉なのだ。しかも7筋からGPS将棋が仕掛けての完勝である。残り時間は三浦が1分。コンピュータは1時間53分。
コンピュータ側の3勝1敗1引き分けだが、実質4勝である。
Puella αの伊藤が言うように、もう最強の将棋ソフトは「名人より強い」と言えるだろう。
森内名人がGPS将棋に勝てるイメージが湧かない。

電王戦は来年からどうなるのだろう。
今年、もう、それなりに、いや、それなりに、じゃないか、結論は出た。



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今日もなぜか無料会員なのに追いだされずに最後まで見られた。いま観客は441413人。
将棋の歴史が変る日に立ちあえた幸運に感謝する。

「禁断の扉を開けた」とは、こんなときに使うのだろう。
パンドラの匣に希望は潜んでいない。

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【追記】──将棋の美学 19:12

いま会見をやっている。
金子さんとおっしゃるGPS開発者のかたは、謙虚で気持ちいい人だな。感心した。将棋はこうでなくちゃ。
将棋の美は、礼儀にある。
勝敗が決したとき、「負けました」と頭を下げた敗者に、勝者は決して居丈高に口を利いたりはしない。敗者が平静になり、ことばを搾りだすまで、沈黙して、待つ。
それが将棋の美学だ。

私が『月下の棋士』を嫌いなのは、基本として、筋そのものがけったいなものだからだが、この美学がない作品であることによる。年輩者に対する口のきき方も出来ず、室内でもいつも野球帽を被り、正座もしない無礼な少年には、いくら将棋が強かったとしても、将棋を語る資格はない。やたらこの作品を誉めるひとがいるが、この考えは変らない。連載中は毎週スピリッツで読んでいたし、単行本もまとめて読破しているが、変らない。不快になる。嫌いだ。ごく一部では「あれを見て将棋を始めたこどもは態度が悪い」という批判もあるようだ。これはまたあとで書こう。

Puella αの開発者が嫌われる理由も、その辺にあろう。
それにしてもせつない。どうしてこんなにかなしいんだろう。

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【追記.2】──記者会見を見て 20:05──観戦者は47万人

全員揃っての記者会見。勝者のコンピュータ側が、みな謙虚だったのが清々しい。
Puella α伊藤だけがニヤニヤしていた(右から2番目)が、しかし彼の予言通りの結果になった。コンピュータ側の完勝なのだ、それは許される。

*2昨年の世界コンピュータ将棋選手権で、全勝のGPS将棋に唯一黒星を点けたのが、前年度の優勝ソフトボンクラーズの改良型Puella αだった。
いま思うのは、結びの一番で三浦を破るのがPuella αでなくてよかったということだ。それどころかPuella αは塚田に持将棋に持ちこまれ、五局のなかでいちばんつまらない将棋を指している(指させられた)。伊藤は「ふつうの将棋を指したかった」と不満を述べていた。「つまらない将棋だった」と言い、それは棋士に対して失礼ではないかと週刊誌にも取りあげられていた。大一番で目立ちたかった伊藤をそこに追い遣った塚田は、やはり殊勲なのだ。
もっとも、大賞の三浦を破るのがPuella αであり、伊藤が「Puella αは名人を越えた。来年は名人か竜王とやりたい」なんて豪語するのも、憎々しいラスボスとして、物語としてはおもしろいかも知れないけど……。



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六本木でMCの矢内も、今日の敗戦はいつになく悔しそうだった。A級三浦が勝って、2勝2敗1引き分けは、みんなの願いだった。
会見での谷川会長も悲痛な顔をしていた。

画像は7五歩からGPS将棋が仕掛けたところ。勝又によると新手だという。新手で三浦を撃沈したのだ。
いままでコンピュータソフトは、棋士の過去の定跡から戦法を構築して行くので、新手、新定跡とは無縁、創りだすのは無理、と言われてきた。そうじゃないことを証明した。すばらしい。



ニコ生のコメントで新鮮だったのは、「初めて見ましたが」と、将棋を全然知らないひとが、かなりの数、見ていたことだ。
将棋を知らないひとたちにも大きなアピールをした「電王戦」だった。
これは「将棋」というテーブルゲームにおいて、日本将棋連盟にとって、プラスになったのだろうか。
私のように落ちこんでいるものだけではなく、これがひとつのブームとなり、日本のこどもたちがもっともっと将棋を始めてくれるなら、それはとても寿ぐことだ。

でも、毎度言うことだが、これから将棋を覚えるひとにとって、パソコンでもゲーム機でも、将棋ソフトってのは「自分より強いもの」なんだな。なら十数年以上将棋ソフトに負けなしだった私は、そんな時代にいられたことを喜ぶべきなのか……。



たとえばそれは、息子に関して、抱きあげて遊び、肩車した記憶があるようなものだ。いま息子は自分より大きくなったけど、それはそれで成長の楽しみだ。息子のほうにも、かつては見あげていた大きなお父さんが、いまは自分よりちいさいというのは、それはそれで感慨だろう。

しかしこれから将棋ソフトで将棋をするひとは、最初から見あげるような大巨人と戦うことから始まる。どんなに努力しても(そりゃ強さはいじれるけど、最強設定では)勝てない相手との遊びになる。父と息子で言うなら、こどもは最初から自分よりも大きいのである。こどもに抱っこされることはあってもだっこすることはない。ここにおける意識の差はかなり大きい。

そうだな、私はファミコンの「森田将棋」、PSの「東大将棋」、PS2の『激指2』、パソコンの「極」から、「AI将棋」「東大将棋」「金沢将棋」、いまの『激指』「銀星将棋」まで、「かつては勝っていた。勝ちまくっていた」のだ。今は歯が立たないけど、その「かつて」を思い出に生きて行くか。息子は大巨人になってしまったけど、かつては私が肩車して遊んでやったのだ。



流れてきたコメントに「夢のような1ヵ月だった」とあった。
この5週間、私も楽しませてもらった。生中継ニコ生の価値は絶大だった。ニコ生あっての電王戦だった。
2ちゃんねるの「将棋板」には、「電王戦がおもしろすぎて他の棋戦がつまらない」との書きこみもあった。それもまた事実だ。私の中でも、この1ヵ月、名人戦より遥かに興味が強かった。将棋ソフトとともに、ニコ生もまた勝者である。

米長が生きていたら、どんなコメントを発したろう。どんなときでも凡庸な発言を嫌い、ひととは違う味を出して目立ったひとだから、また誰とも一味ちがう発言をしたことだろう。聞いてみたかった。この結果を見届けて欲しかった。あのPVが輝くのも、ラスボス伊藤の憎々しさと、やつれた米長がいるからなのだ。あらためてそう思う。

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H氏よりご指摘いただいての修正──4/20 6:06

*1──三浦八段は、ずっと背広(上着)を着ていて、セーター姿になったのは午後からだとのご指摘。小雨の降り続く、冬にもどったかのような寒い日だった。私も室内で秋物の薄地のジャケットを着た。
 三浦八段は、寒い日だったのでスーツの中に薄地のセーターを着て対局し、午後、暑くなったので上着を脱いだ=べつに意味はない、のではないかとのご意見。その通りでしょう。こちらで訂正し、本文はそのままにしておきます。

 じつは土曜日であり、競馬もやっていたので、一日中ニコ生にはりついていたわけではありません。短時間ながら外出もしています。観察不足でした。失礼しました。
 その裏には、「電王戦の中でも最高の話題となる第五局、A級三浦八段との闘いであり、視聴者が殺到し、もう昼前には無料会員は追いだされるだろう」との投げ遣りな気持ちがありました。最後まで見られたのは意外です。

「棋士のセーター姿」というのは、私はあまり記憶にありません。三つぞろいのベスト姿はけっこう見ていますが。とても新鮮な姿でした。真っ先に思いつくのは、「NHK杯戦にカラフルなもこもこセーター姿で登場して顰蹙を買った先崎」です。「そんなことに何の意味がある!」「目立ちたがり師匠の悪いところばかり真似して!」と糾弾されました(笑)。あれ以来テレビ棋戦でそんなことをする棋士はいないようです。

 でもそれは、私がむかしの「早指し将棋選手権」「NHK杯戦」ぐらいしか「映像」を知らないだけで、テレビ中継のない将棋会館での対局では「棋士のセーター姿」はごくふつうなのでしょう。先崎のようなのは特別としても、今回のように「寒い日に上着の中に薄地のセーターを着る。暑くなったので上着を脱いでセーター姿」というのはよくあることなのかもしれません。単に「私にとって棋士のセーター姿が新鮮だった」というそれだけの話ですね。すみません。



*2──昨年の世界コンピュータ将棋選手権で、全勝のGPS将棋に唯一黒星を点けたのが、前年度の優勝ソフトボンクラーズの改良型Puella αだった」に関して、Hさんは「私の棋力では、この将棋はGPS将棋が勝っていたのを、ソフト全体の弱点とされる入玉の対応を誤ってpuellaに負けた、と思っているのですが結城さまはどのようにお考えでしょうか」と問うてくださいました。

 おっしゃるとおりです。私も『将棋世界』でこれは見ています。今回の電王戦の前にも読み返したほどです。そこでの解説もHさんの言うように、「GPS将棋全勝優勝かと思われたら、最後の最後に思わぬ展開に」のようになっていたのを覚えています。
 全勝のGPS将棋に「入玉」問題で初黒星を点けたPuella αが、塚田に入玉から持将棋にされるという皮肉な展開になりました。Puella α伊藤の傲慢な態度が好きでない私(笑)は、詳しく触れませんでしたが、勝敗に関する見解はHさんと同じです。
 しかしこの入玉や点取りもコンピュータはすぐに改善するだろうし、鉄壁ですね。



 もうひとつ第四局の「コンピュータソフトは、古今の百人以上ものすぐれた棋士が心血注いで作りあげた定跡や戦法を全部身に着けているのだ」に関しても意見を戴きました。それは第四局のほうに【追記】したいと思います。
 Hさん、すばらしい内容の長文メールをありがとうございました。心から感謝します。