ryusei

 『流星ひとつ』を立ち読みしていた私が思わず背筋をゾクっとさせたのはふたりの出会いの箇所だった。
 インタビュー開始の時、「はじめまして」と藤が言い、沢木が「はじめてじゃないんですよ」と応じる。すぐに藤が「あ、先日のパーティで会ってるもの、初めてじゃないよね」と返すが、沢木は「いや、その前に会っているんです」と言う。


 
 インタビューする1979年から5年前のパリ。一年間の放浪の旅を終え、帰国しようとする沢木はアエロフロートのキャンセル待ちでパリの空港にいる。いくら安売りチケットとはいえ「他人名義」というとんでもないシロモノである。当時はそれが出来たらしい。パスポートチェックが無事に済めば、他人の名前の航空券でもチェックインできたらしいのだ。信じがたい(笑)。さすがの沢木も、「これでほんとに搭乗できるのか」と半信半疑でキャンセルを待っている。

 そこに三人の日本人がやってくる。中年の男性と娘ふたり。ひとりは日本人形のように整った容姿、肌がきれいだ。もうひとりのむすめもとてもかわいい。ひさしく外国を流離っていた沢木は、久々に見る日本人娘のきれいさに感激する。
 
 沢木も三人組もキャンセル待ちの状態である。だがその三人組は、ことばが通じず、待たねばならない現状が理解できないようだ。沢木はでしゃばりと思いつつも、同じ日本人として、日本語でそれを三人に説明してやる。三人もやっと納得する。



 その後のアエロフロートのキャンセル待ち搭乗は、沢木までで打ちきりとなる。沢木は乗れない三人を気にしながらも機上のひととなる。そうなってから、さっきの人形のようにきれいだった娘は歌手の藤圭子じゃないかと気づく。一年間日本を離れていたが、なぜあの大スターの藤圭子に気づかなかったのだろうと不思議に思う。
 パリの空港。藤圭子23歳、沢木耕太郎26歳、これがふたりの初の出会いである。(続く)