買う気はなかった。見学のつもりだった。いい思い出のないレースだ。
 アパパネとの相性が悪い。彼女の勝ったレースはほとんど負けている。そりゃまあ勝ち馬を軽視するのだから当然だけど。

 去年、ブエナビスタ1着固定3連単で勝負した。ブエナビスタの出るレースではいつもそうしてきた。
 ハズれたのはしかたないが、ブエナビスタがアパパネに負けたのがショックだった。2頭ともG1をいくつも勝っているがG1の中身が違う。アパパネは牝馬限定G1に強かったメジロドーベルのような馬だ。ブエナビスタはちがう。男馬相手にG1中のG1を闘い、勝っている。ウオッカ、ダイワスカーレット、ブエナビスタと比すとアパパネは落ちる。男馬ならともかく、その馬にブエナが負けた……。

 去年の傷をいまだに引きずり、今年は参加しないつもりだった。参加するなら意地でもアパパネ消しとなるが、いくらなんでもふつうに考えれば3着以内には来るだろう。最悪でも3連複、3連単には絡む。消す自信はない。



 参加しないと決めたが未練はあった。
 買ってみたい馬が2頭いた。1頭はドナウブルー。ウイリアムズが乗ること。そして来週のオークスで主演する妹ジェンティルドンナへの繋がりだ。姉妹連続G1制覇となったら盛りあがる。前走の11着大敗は気にならなかった。人気が下がってちょうどいい。

 もう1頭はマルセリーナ。これまた岩田騎乗停止により私の好きな田辺が乗ってきた。ダービーの弟グランデッツァへの流れだ。



 ぎりぎりになってやはり買いたくなった。しかしこんな流れで当たることはない。JNBからIPATへ1万円だけ入れ、観戦料と割り切ることにした。結果はどうあれこの2頭から買えば、このあとのオークス、ダービーの楽しみかたが違ってくる。
 ドナウブルーとマルセリーナの2頭軸3連単マルチにするかと思う。しかしさんざんこれで負けてきた。
 1番人気アパパネを軽視するのだから馬連馬単にしよう。これならアパパネを押えれば的中もあり得る。本命をどっちにするかと迷ったが、馬の形はドナウブルーのほうが好きなので、ここからにした。

 ◎ドナウブルーから、○マルセリーナ、▲ホエールキャプチャ、△オールザットジャズ、△フミノイマージン、△アプリコットフィズ、そして押さえの△アパパネの6点。千円ずつ馬連、とも考えたが、500円ずつの馬単にした。裏を返し12点。負けを覚悟の観戦料として6千円は妥当だろう。

 IPATのオッズで12点の内10点が万馬券なのを確かめた。



 というわけで、馬単107倍を的中。ちょうど去年の負け分を取りもどした。こういう「去年の負け分」なんて考えは不粋。しちゃダメ。赤面。でもこれでヴィクトリアマイル嫌いが直るか。

 2頭軸マルチ3連単にしていたら、750倍が200円当たってちょっとしたお小遣いになったが、そこまで欲ばると、直前になってマルセリーナを人気のオールザットジャズに切り替えてハズれたりするのが私だ。今回ぐらいの無欲の小銭勝負がほどよいのだろう。これで額を一つ大きくして勝負すると確実に負け組になる。どういう運命のしたにいるのか。まあオークス、ダービーに向けて気分のいい勝利ではある。この際、金額は関係ない。

 なにより感謝するのはウイリアムズ騎手の巧さ。



 今回は本命にしなかったが、タレンティドガールの血を引くホエールキャプチャはデビュウから応援していた。生産者取材をしていたころ、ビクトリアクラウン(昭和57年のエリザベス女王杯馬)が大好きだった私は千代田牧場と親しくしてもらった。天皇賞馬ニッポーテイオーやエリザベス女王杯馬タレンティドガールの故郷訪問も優駿に書いている。

 それと、これはちょっと自慢できるが、タレンティドガールがイギリスのニューマーケットに渡り、Nashwanを種付けした1991年の秋、私はニューマーケットに行ってタレンティドガールに会っている。そこからすぐ千代田牧場に電話したものだった。もう21年経つのか。

 タレンティドガール(才媛)という馬名は、上智大学在学中に急逝した千代田牧場の娘さんを偲んでつけた名だ。
 その年の最強牝馬は、桜花賞、オークスを圧勝し牝馬三冠間違いなしと言われていたマックスビューティ。マックスビューティの桜花賞ぶっちぎりは、テスコガビー以来の衝撃だった。マックスビューティがいかに強かったかは三冠目のエリザベス女王杯(当時はまだ秋華賞はない)のトライアルに、牡馬の菊花賞トライアルである神戸新聞杯!を撰んだことでも解る。そして、楽勝だった。そのあとローズステークスにも参戦して勝つ。ここまで桜花賞、オークスを含む8連勝。
 そのマックスビューティを破ってタレンティドガールがエリザベス女王杯を勝つ。

 イギリスまで連れていってNashwanをつけるのは、千代田牧場にとっても冒険だった。大勝負だった。
 後にマックスビューティもイギリスに渡って繁殖生活を送る。



 私が撫でた大きなお腹のタレンティドガールの中にいたのが父Nashwanのエミネントガール。
 そのときに撮った写真があるはずだ。アップしたい。どこにしまったのか。

 そのエミネントガールにサンデーサイレンスをつけて生まれたのがグローバルピース。
 そのグローバルピースにクロフネをつけて生まれたのがホエールキャプチャである。

 つまり、ホエールキャプチャのおばあさんであるエミネントガールが、ひいおばあさんのタレンティドガールのお腹の中にいるときにイギリスで会い、お腹を撫でている数少ない日本人なのだ、私は。千代田牧場の飯田さんも、生まれて日本に来てからしか会っていない。
 私の知る限り、それをしたのはカメラマンの今井寿恵さんと助手の長濱さんしかいない。今井先生は事務所の名前を「ニューマーケット」にするぐらいだった。イギリスにはそれこそ「絵本の中から抜け出たような町、建物」が現存するが、ニューマーケットは静かで美しいいい町だった。



 ホエールキャプチャは、去年は「善戦馬」だった。JF2着、桜花賞2着、オークス3着、秋華賞3着、エリザベス女王杯4着。全体的な成績は冠を戴いた馬よりも安定していたが……。
 ここにきて、やっとG1を勝った。

 タレンティドガールをイギリスに送り、Nashwanをつけた冒険が、21年目に実ったのである。

 ホエールキャプチャは、のんびりした雰囲気から、いいお母さんになるだろう。その前に、祖祖母と同じエリザベス女王杯を勝つか。

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【餘談】──ビクトリアクラウンとミスラディカル

 昭和57年、ビクトリアクラウンがエリザベス女王杯を勝ったときの2着がミスラディカル。
 関西馬贔屓の杉本清アナが、「ミスラディカル、ミスラディカル、音無が追う、音無が追う!」と絶叫した。明らかに勝ち馬はビクトリアクラウンとわかっていたが、このひとはそんな偏った実況をする。そこがかわいい(笑)。

 三流騎手だった音無騎手のノアノハコブネと並ぶ数少ない活躍馬である。 もちろん今は超一流調教師。

 このミスラディカルは珍名で有名な小田切オーナーのかなり初期の持ち馬である。最初ではないだろうけど重賞で活躍した最初の馬だろう。オークス馬ノアノハコブネも小田切オーナー。 


【餘談.2】ビューチフルドリーマー系とシラオキ系

 先日、ビューチフルドリーマー系の血統について書いた。ブログじゃなく商業文章。代表はオークス馬オオハヤブサになる。これはもともとは本桐牧場の血だが、今では千代田牧場が主流となっている。

「ビューチフルドリーマー系の血は、天皇賞馬ニッポーテイオー、エリザベス女王杯馬タレンティドガールへと続いている」と書いて、すこし話が古いので、編輯者と「せめてホエールキャプチャが去年ひとつ勝ってたらねえ」と嘆いた。 これからは書ける。よかった。脈々と流れる古い日本の名血が勝つとうれしい。サンデーの活躍馬の中でも特にスペシャルウィークが好きだったのも母系がシラオキ系だったことにある。ブエナビスタ好きもその流れ。

 ニッポーテイオー、タレンティドガールのG1勝ち後も、千代田牧場は生産者としては安定した成績だったがオーナーブリーダーとしてG1勝ちと無縁だった。
 そんな中、ひさしぶりにピースオブワールドがJFを勝つが、これは輸入牝馬(父Caerlean)にサンデーをつけたものだった。千代田牧場の新しい血である。
 それが生産者であり、常に血を新しくして開拓して行くものだが、たまにはこんな古い「日本の名血」が勝つのもいい。私のように血統に疎いものが代代溯れる名血なんて、そうはないのだから。