私が初めてカネヒキリを見たのは中山だった。2005年の2月。500万条件。デビュー2戦は芝で勝てず、3戦目にダートを使ったらぶっちぎり。これでこいつはダート馬だとなり、そのときは9番人気だったが、中山のこのときはダントツ人気。新聞には上から下まで◎が並んでいた。ペリエを鞍上に前走のぶっちぎりよりもさらに差を広げるモノスゴイ勝ちかたをする。こりゃすごいのが現れたと中山でぞくぞくした。
それ以降の大活躍はご存知の通り。屈腱炎になって終ったかと思ったら、そこから復活し、休養中に王者となっていたヴァーミリアンにモノの違いを見せつけた。

中山のこの日、ふと気づいた。勝負服が金子さんなのだ。カネヒキリという馬名からてっきり冠号「カネ」の馬だと思っていた。いちばんの思い出は有馬記念馬カネミノブか。その他、オークス馬カネヒムロ(岡部の初めての八大競走制覇)、桜花賞オークス二冠馬カネケヤキ(野平の祐ちゃん先生騎乗)と活躍馬は数多い。馬主は金指さん。
その冠号「カネ」がひさびさにダートの大物を送りこんできたと思ったのだ。しかしそれは間違いらしい。あの金子さんの馬なのだ。

カネヒキリってどういう意味なんだろう。「カネ+ヒキリ」ではないのか。
金子さんて抜群の命名センスをもっているのに、なんでこんなカネの冠号と間違われるようなへんな馬名をつけたのだろうと思った。



ということから調べて、カネヒキリは「カネ」の冠号とは関係なく、意味はハワイ語で「雷の神様の名」と知る。綴りはKane Hekilli。日本語の「カネ」とは無関係だったのだ。

でも古い感覚の私は、「先輩馬主にカネの冠号のひとがいるのだから、間違われるような馬名は遠慮するのが常識」と考えた。
しかしまた上記のカネミノブやカネヒムロ、カネケヤキを知っているファンも数少なくなったろうし、カネの冠号が現在活躍馬を送り出していないのだから、そこまで考慮する必要はないのかとも思う。金子さんはハワイ語の馬名が大好きだ。カネヒキリという雷の神様の名をつけるとき、「カネの冠号がいるしなあ、過去の活躍馬もいるし、どうしよう」などとは一瞬たりとも考えなかったのだろう。

あるいは1995年に馬主になった金子さんは、そんな古い馬の名前など知らなかったのかも知れない。



外国にいて今年の弥生賞は見られなかった。最重要クラシックトライアルである。ダービー馬は弥生賞出走馬の中にいる。帰国してすぐ調べ1、2番人気のエピファネイアとコディーノが負けたこと、「カミノタサハラ」という馬が勝ったことを知る。
いなくてよかった。いたら、エピファネイアとコディーノの2頭固定3連単で大勝負してとんでもないことになっていた。2頭とも連から消えるなんて私には想像できない。いやほんと、参加できなくてよかったと胸をなでおろした。

そこでまた思った。「カミノ復活か!」と。カミノで思いつくのはまず天皇賞馬カミノテシオだ。冠号「カミノ」と、フェデリコ・テシオの「テシオ」をくっつけた馬名である。ハイセイコーの同期生。
馬主の保手浜さんはたしか善哉さんと不仲だった。共同馬主クラブというものに反対していた。あのころはまだそんなことがあった。今じゃ大王国だからケンカするひとなんていない。いやこれ勘違い、善哉さんと不仲なのは冠号「スズ」の小紫さんか。

比較的新しいところじゃメジロマックイーン時代に脇役としてがんばったカミノクレッセがいる。アンバーシャダイの仔だ。これ、途中でトレードされたのだったか、最終的な馬主は保手浜さんじゃない。
春天2着のあと、距離が半分になる安田記念でも2着して、勝ったヤマニンゼファーも人気薄だったから馬連が160倍ついた。私の本を出してくれた出版社の小町社長がこれを5万円もっていて、800万になったっけ。

その保手浜一族の冠号「カミノ」からひさしぶりに大物が出たのかと思った。
するとまたそれは金子さんの馬であり、馬名の意味は「カリフォルニアの通りの名」なのだとか。冠号「カミノ」だとアルファベット表示は「Kamino」だが、これは「Camino」になっている。カミーノらしい。カイーノ?



私は、冠号「カネ」や「カミノ」と勘違いしそうになるこういう金子オーナーの命名が好きじゃない。紛らわしいことはして欲しくないと願っている。しかし冷静に考えてみれば、メジロマックイーン時代に連続2着して活躍した渋い脇役カミノクレッセを「比較的新しいところでは」と書いたが、一般的にはきっとこれって「大昔」なのだろう。知らない競馬ファンも多いだろうし。
となると、「カネ」も「カミノ」も長年活躍馬を出していないのだから、似たような馬名をつけようと関係ない、のだろう。

私は若い頃から冠号馬名が嫌いだった。それは今も変らない。社台RHがダイナを廃して、いい名前の馬が連続するようになったときは他人事ながらうれしかったものだ。世が世なら、社台RHとサンデーRはひとつの組織で、ネオユニヴァース、ブエナビスタ、オルフェーヴルは、ダイナユニヴァース、ダイナブエナビスタ、ダイナオルフェだった。

しかし永年競馬をやっていると、それとはまたべつに冠号感覚?が染み込んでいるらしい。カネヒキリとカミノタサハラという馬名に反感?をもっている自分が確実にいるのである。おもしろいもんだ(笑)。



くだらんことを考えた。
ハワイの花の妖精に「マイネルミノン」というのがいるとする。切り方は「マ・イネルミ・ノン」だ。金子さんはこの妖精の名が大好きで、前々から馬名にしたいと思っていた。そこにディープ産駒で、もろにこの妖精の名が似合うかわいい牝馬が現れた。つけるだろうか? 原名は「マ・イネルミ・ノン」でも、日本語では「マイネル・ミノン」とマイネルの馬のように発音される。やるだろうか? 金子さんならためらわずつけるような気がする(笑)。

金子さんの「次の冠号つぶし」に期待したい。次はなんだろう。

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【追記】──ロングも気にしない社台──ロングロウ──2013/04/22 2:16

今日、ロングロウという馬が出ているのを目にした。調べると、新馬戦では単勝1.3倍に支持された話題馬だという。メインレースぐらいしかやらないから、そんなことすら知らない。お恥ずかしい。
クロフネ産駒。馬主は吉田和子さん。善哉さんの奥さんだ。おいくつになられたろう。もう20年以上お会いしていない。

ロングロウはLong Rowか。長い並木。いい名前なのかつまらないのかわからない。



ロングと言えば中井長一オーナーの冠号。
とにかくもうこの「長一」というご自分の名前が好きらしく(笑)、ダービー馬ロングエース、ロングワン、ロングイチーとつけまくる。
私のいちばんの思い出は、カブラヤオー世代のロングファスト、ロングホークになる。
あと有名馬では、ロンググレイス、ロングシンホニーあたり。

これなんかも、さすがに今現在冠号ロングのオープン馬が何頭も活躍していたらつけないと思う。
でもそうじゃないから、遠慮はいらない、となるのだろう。
和子さんはご高齢だから、命名したのは周囲のひとだと思うが、善哉さんとの「人生の長い並木道」ということだろうか。
和子さんが馬主の有名馬では、天国の善哉さんへの投げキッス、桜花賞馬キスツゥヘヴンがいる。いやあれは早世した父アドマイヤベガへの投げキッスだったか。

そういやキスツゥヘヴンの母はロングバージンだから(すごい馬名だな)、中井さんの馬と社台は関係があったのか。いやいや、たしかロングバージンは日高の馬で、キスツゥヘヴンは、勝巳さんが購入した馬だった。こんがらがってきた。



ま、ともかく、今の時代、かつての高名な冠号に遠慮して似たような名前はつけない、という時代ではないようだ。いいのかわるいのか。

でも冠号というものに遠慮して、ことばを節するというのはつまらないことではある。たとえば島川オーナーの苗字音読冠号の「トーセン」とか啓愛義肢の「ケイアイ」なんてのは害がないからどうでもいいが、「ウイン」「グリーン」「ドリーム」「レッド」「サクラ」なんてふつうのことばを他者の冠号だからと遠慮して使わないと、9文字制限の馬名はますます窮屈になる。

そういや「ドリーム」はセゾンレースホースの冠号だが、一番有名なドリームの名はふたつのグランプリを勝ったドリームジャーニーでサンデーRの馬だ。その辺も遠慮しないのか。正しい姿勢だ。「ドリーム」なんてふつうのことばを冠号だから他の馬主は使えない、ではたまらない。
だからきっと、よいことなのだろう。



しかしまたここでもう一歩考えると、社台RHもサンデーRも、「サクラ」なんかには踏みこんでいない。もしかしたらいるのかも知れない。不勉強なのでそのへんは断言できないが、すくなくとも、あれほどの頭数がいる社台RHやサンデーRなのだから、かわいい名前のサクラを使ったオープン馬がいても不思議ではない。それはいない。
それをしないのは、サクラバクシンオーの生産繋養等良好な関係にあるサクラに気を遣っているのだろう。
ということから、平然と使う他者の冠号は、相手とそういう関係なのだろうという読み(邪推?)も出来る。