サラリーマンを辞めて弁護士になってみた・「じんべえ四郎」の雑記帳

僕は勉強をするのも仕事をするのも嫌いなスーパニート体質な人間です。 以前はサラリーマンをしていたのですが,忙しい上にストレスも多く給料も安くて「自分の人生って何なんだろう」と空しい気持ちで過ごしていました。 そんな時に「弁護士になって田舎で仕事をしたらのんびりと自由に生活できるのでは?!」と思いたち仕事を辞めて司法試験に合格しました。 弁護士になった今でも仕事は忙しいですし大変なことも少なくありませんが,弁護士になって自由になり自分の仕事にもやり甲斐を感じることができるようになりました。 勉強も仕事も嫌いな僕がどうやって弁護士になったのかとか,日々の出来事とか法律のこととかゆる~く書いていきたいと思います。

資格試験のために「勉強法」の本は読んでおくべき,という話


資格試験の勉強をしている受験生の中には,試験科目の勉強ばかりしていて,「勉強方法」に関する勉強はしていない,という人がいます。

勉強方法が間違っていたり,非効率な勉強方法ばかりしていると,いつまでたっても資格試験に合格出来ない,ということになりかねません。

たとえば,大阪から東京に向かう時に,歩いていったら時間がかかりますけど,新幹線を使えば,あっという間に着きますよね。

資格試験も同じで,勉強方法には非効率な勉強方法と,効率的な勉強方法があります。

世の中には,勉強法に関する優れた本が沢山ありますから,早く試験に合格したいのであれば,勉強法の本も何冊か読んでおくべきです。

私も司法試験の勉強の合間に,勉強法に関する本を何冊か読み,「自分の勉強方法が間違っていないか?」「自分の勉強方法が非効率的ではないか?」という自問自答するようにしていました。

勉強法の本を読むまでは,私は自分の勉強方法に自信があったのですが,やはり勉強法の本を読むと,より効率的な勉強方法が見つかったり,自分の誤りに気づいたりするものです。


そこで,私が司法試験の勉強のために読んだ「勉強法」に関する本を紹介したいと思います。







○「速く」「反復」することの大事さを教えてくれる本


成績が上がらない受験生の中に多いのが「理解するまでなかなか次に進めない」というタイプ。

こういう受験生は,何の試験勉強をしても成績が上がりにくいです。

「●勉強ができなかった奴の成績が劇的に上がるという事件?」という記事で書きましたが,私は中学校の頃,成績がとんでもなく悪かったです。

その時に,頭の悪い私が成績を一気に上げた勉強方法が「取りあえず分からなくても,速く,何度も反復する」という勉強方法です。

人間の脳は,「じっくり」と1回勉強するよりも,「さくっ」と何度もまわしたほうが,理解したり,記憶したり出来るようになっています。


そんな勉強方法の大事さを教えてくれるのが,「図解 超高速勉強法―「速さ」は「努力」にまさる」という本です。

●ISBN-10: 4766783190

ちょっと古い本ですが,今でもこの本は「勉強方法」の基本だと思います。

私もこの本を読んで,改めて「速く」「反復」することの大事さを実感しましたし,自分では分かっていたつもりだった「速く」「反復」する勉強方法の奥の深さを知りました。


他にも,同じような趣旨の本として「速読勉強術」などがありますが,余裕がある人は両方読んでみても良いと思います。

●ISBN-10: 4569674917


試験の多くは,「速く」「反復」する勉強方法で乗りきることが出来ます。

ただし,一部の試験(司法試験や東大・京大の二次試験)などでは,「自分で考えなければ対応できない」問題が出題されます。

この「自分で考えて解く」問題は,暗記やパターン化で対応できる場合もありますが,多くのパターンを暗記するよりも,「自分で考える力」を身につけたほうが,記憶すべき量を減らすことが出来,結果的にトータルの勉強時間を減らすことができます。

最初のうちは「速く」「反復」する勉強方法で構わないのですが,ある程度の力が付いてきたら,「自分で考える方法」や,「速く」「反復」する以外の勉強方法も併用したほうが効率的です。

そこで,「速く」「反復」する以外の勉強方法に関する本も紹介したいと思います。


○「速く」「反復」する以外の勉強方法


「自分で考える方法」や,「速く」「反復」する以外の勉強方法に関する本として,私は柴田孝之先生の本をおすすめします。

試験勉強の技術―東大・司法試験に一発合格 柴田 孝之
●ISBN-10: 4478010013

柴田孝之先生は,旧司法試験に短期間の勉強で1回で合格した人なのですが,柴田先生の勉強法の本は,論理的で説得力があります。

速さと反復以外に勉強にとって大事なことを教えてくれる本です。

私は柴田先生の本は何冊か読んでいますが,もし柴田先生の本に出会っていなかったならば,司法試験には合格しなかったのではないか,と思うことがあります。





その他に,伊藤真先生の勉強法の本もおすすめです。

●ISBN-10: 4763184946

ロジカルな柴田孝之先生の本に比べると,伊藤真先生の本はやや精神的な話が多いのですが,資格試験の学校の塾長として多くの受験生を見てきただけあって,かなり実践的な内容が多く含まれています。

私は伊藤真先生の本を読むまでは,頑張ってあれもこれもと暗記をしようとしていたのですが,伊藤真先生の本を読んで「本番直前に知識を詰め込む準備をしておけば,前もって無理して暗記しなくても良いんだ」ということが分かり,それで勉強の効率が一気に上がったような気がします。



○記憶法に関する本


勉強で必須な作業が「記憶」と「暗記」です。

勉強では「理解」が大事だと言われることもありますが,実際に多くの試験では「暗記」力が問われていることは確かですし,基本的なことを「記憶」していないと「理解」することも出来ません。

そのため,どうしたら効率的に知識を「暗記」出来るのか,ということについても学んでおいたほうが勉強を効率的に進めることが出来ます。


インターネットで検索すると「暗記術」や「記憶術」に関する高い教材のようなものが売っています。

私も,そのような教材を買ってみたことがありましたが,あまり役に立ちませんでした。

色々な教材や本を読んだり試してみたりしましたが,「記憶」と「暗記」についても,結局,普通に本屋さんで売っている本が役に立つと思います。

個人的におすすめなのが,下の1冊です。


「記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方」
●ISBN-10: 4062573156

この「記憶力を強くする」は学術的な根拠に基づいて書かれているため,怪しげな「記憶術」みたいな本なんかよりも信用できますし,役に立つことが沢山書かれています。

勉強の中で「記憶」や「暗記」をしなければならない場面になった時に,この「記憶力を強くする」に書かれていることを参考にすると,間違いなく役に立つと思います。





○勉強の「やる気」や「モチベーション」に関する本



資格試験の勉強をしていると,どうしてもやる気が出ない時ってありますよね。

そんな時には気分転換をするのも良いのですが,勉強の「やる気」や「モチベーション」を上げるための本を読んでみるのも良いと思います。


勉強のやる気を出すためには,色々な方法がありますが,自分を客観的にコントロールすることが大事です。

自分を「やる気」が出るようにコントロールするための方法が書かれた本としては,「スタンフォードの自分を変える教室」をおすすめします。

「スタンフォードの自分を変える教室」
●ISBN-10: 4479793631


「もうちょっと気軽に読める本が良い」,という人には「勉強にハマる脳の作り方」という本も読みやすくておすすめです。

「勉強にハマる脳の作り方」
●ISBN-10: 4894513315




その他,勉強に挫けそうになった時には,メンタルトレーニングの本や,アスリートの考え方に関する本を読んでみるのも有用だと思います。

「逆境を生き抜く「打たれ強さ」の秘密―タフな心をつくるメンタル・トレーニング 」
●ISBN-10: 4413017986


「イチロー思考―孤高を貫き,成功をつかむ77の工夫」
●ISBN-10: 4809404129





やる気が出なくて勉強が手につかない人には,大平光代先生の「だから、あなたも生きぬいて」を一度読んでみることをおすすめします。

「だから、あなたも生きぬいて」
●ISBN-10: 4062737582

大平光代先生は,中学生の時にいじめに遭い,自殺未遂を経て暴走族や暴力団の世界に入った後に,弁護士を目指し,漢字の読み書きも十分に出来ないところから,司法書士試験と司法試験に合格した方です。

この本を読むと「こんなに苦労して勉強した人がいるんだから自分も頑張ろう」と思えると思います。



以上,『資格試験のために「勉強法」の本は読んでおくべき』というお話でした。

勉強の合間や,通学・通勤途中にでも少しずつ読んでおくと良いと思いますよ。

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平成29年の司法試験の短答式「民法」の解説をしてみたいと思う(1)


司法試験を目指そうとしている人は,基本書や予備校本を頭から読むという勉強法をするよりも,早い段階で,司法試験の過去問を解いていったほうが早く合格出来ると思います。

そして,司法試験などの過去問を解きながら,必要に応じて,基本書や予備校本を参照する,という方法が効率的だと思います。

そこで,私自身の復習も兼ねて,司法試験の短答式を解いて解説していきたいと思います。
(途中で挫折したらすみません。)


司法試験の短答式は,暗記が必要な問題もありますが,知識ではなく考えて解くことが求められている問題も多くあります。

司法試験は科目数が多いので,暗記する量を減らすことが出来れば,それだけ短期間で合格できる可能性が高くなります。

したがって,出来るだけ知識に頼らずに,頭で考えて解けるような解説を心がけていきたいと思います。



取りあえず,今回は平成29年の「民法」からやっていきたいと思います。

ちなみに,問題文は法務省のホームページからダウンロード出来ますので,実力を試してみたい人は,問題文をダウンロードして一度解いてみると良いでしょう。

●http://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji08_00145.html





〔第1問〕


Aが19歳で,親権に服する男性であることを前提として,次のアからオまでの各記述のうち,正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。


ア.
Aがその親権者から営業を行うことを許可された後に親権者の同意を得ずに売買契約を締結した場合には,その売買契約がその営業に関しないものであっても,Aは,その売買契約を取り消すことができない。


これは「誤り」ですね。

民法5条1項本文と2項は「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。・・・」「前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。」と定めています。

要するに,原則として未成年(20歳未満のひと)が親などの同意を得ないでした法律行為(売買契約など)は,取り消すことが出来る,というのが原則です。

(条文については,ちゃんと六法で確認してくださいね。)

この例外がいくつかあるのですが,その1つとして,民法6条1項は「一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。」と定めています。

要するに,未成年者が営業(商売など)をすることを許された場合には,その営業に関しては契約を取り消すことが出来なくなる,ということです。

なぜ,このような例外があるかと言うと,未成年者が商売をしようとした時に,いちいち親の同意を得なければならないと不便だからです。

この6条1項という例外がある理由(趣旨)を踏まえると,「契約がその営業に関しないもの」である時には,契約を取り消すことが出来たとしても「商売をする時に,いちいち同意を得るのは面倒」という例外を設けた理由には反しないですよね。

また,「契約がその営業に関しないもの」である時には,契約を取り消すことが出来たとしても,契約の相手が「契約が取り消されるなんて思わなかった!」と,不測の損害を受ける程度も小さいです。なぜなら,未成年者の法律行為は取り消すことが出来るのが原則ですから。

したがって,この肢は「誤り」です。

民法6条1項は条文の文言も「一種又は数種の営業を許された未成年者は、『その営業に関しては』、成年者と同一の行為能力を有する。」として,契約が営業に関するものである時だけ,取り消すことができないこととしていますので,条文を覚えていれば正解にたどり着ける問題ですが,条文を覚えている必要はありません。

先程の6条1項がある理由(趣旨),すなわち「未成年者が商売をしようとした時に,いちいち親の同意を得なければならないと不便」ということを考えれば,条文を暗記していなくても正解にたどり着けます。

このように,司法試験に少ない勉強で合格したい人は,暗記に頼るだけでなく,自分の頭を使って問題を解く工夫をしてみると良いと思います。

●ちなみに,基本書については,佐久間先生の「民法の基礎 (1) 総則 第3版」の87頁や,内田先生の「民法I 第4版: 総則・物権総論」の108頁のあたりを読んでおくと理解が深まると思います。

(私が使っている基本書の版が少し古くて頁が少しずれている可能性がありますが,ご容赦ください。)






イ.
Aの親権者が,新聞配達のアルバイトによりAが得る金銭の処分をAに許していた場合において,Aがそのアルバイトによって得た金銭で自転車を購入したときは,Aがその売買契約を締結する際に親権者の同意を得ていないときであっても,Aは,その売買契約を取り消すことができない。


この肢は「正しい」です。

先程お話したとおり,民法5条1項本文と2項は「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。・・・」「前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。」と定めていて,原則として未成年者が親などの同意を得ないでした法律行為(売買契約など)は,取り消すことが出来る,というのが原則を定めています。

この例外として,5条3項は「第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。」と定めています。

例えば,親が子に「これでチョコレート買ってきて良いよ」とお金を渡して,子がコンビニでチョコレートを買おうとした時に,頑固なコンビニの店員から「後でチョコレートの売買契約が取り消されたら困るから,お嬢ちゃんにはチョコレートは売らないよ!」ということになったら困りますよね。

そこで,法定代理人(親)などが,目的を定めて処分を許した財産(チョコレートを買うために渡したお金など)は,この目的の範囲内なら,未成年者は自由に使うことが出来て,後で取消しをすることは出来ない,こととしています。

また,親が使い道(目的)を定めてないでお小遣いを渡した時も同様です。

親が「お小遣いとして1000円あげるから,好きな物を買いなさい」言って子どもにお金を渡したのに,また頑固なコンビニの店員から「お嬢ちゃんには売らないよ!」と断れたら困りますよね。

そのため,民法5条3項は「第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。」と定めているのです。

問題を見てみると,Aが今回自転車を購入したお金は,親権者(親=法定代理人)が,Aに金銭の処分を許していたわけですよね。

ですから,Aが今回自転車を購入したお金は,5条3項の「処分を許した財産」にあたり,「未成年者が自由に処分することができる」,すなわち,後で取消しを主張することは出来ない,ということになります。

要するに「親などが処分を許していた財産で買ったりしたものは,取り消すことが出来なかったな」ということを覚えておけば解ける問題です。


●基本書については,佐久間先生の「民法の基礎 (1) 総則 第3版」の86頁や,内田先生の「民法I 第4版: 総則・物権総論」の108頁のあたりを読んでおくとよいと思います。



ウ.
Aがその親権者の同意を得ずにAB間に生まれた子を認知した場合であっても,Aは,その認知を取り消すことができない。


この肢は「正しい」です。

「認知」というのは,おおまかに説明すると,結婚(婚姻)していない親から生まれた子どもの親が誰であるかを法律的に決める手続です。

結婚している母親から生まれた子は「たぶん,その夫の子どもだろうな」ってなんとなく分かりますけど,結婚していない母親から生まれた子は,誰が父親なのか分からなかったりする可能性がありますよね。

そこで,法律は,結婚していない親から生まれた子については,意思表示や裁判で親子関係を発生させる手続を用意しているのです。それが「認知」です。


一方,先程の未成年者の「取消し」の規定に戻ると,民法5条1項本文と2項は「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。・・・」「前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。」と定めています。

そもそも,なぜ,未成年者が法定代理人の同意なく法律行為をした場合に取消しが出来るかというと,未成年者の財産を守るためです。

例えば,判断能力が十分に身についていない小さい子,悪い大人に騙されて,高額なツボや布団を買わされたりした時に,子が払ったお金を取り戻せないと,子が可哀想ですよね。

だから,未成年者の財産を守るために「未成年者の法律行為は取り消せる」という規定があるのです。

他方で,「認知」というのは,自分の子かどうかをはっきりさせる手続ですから,悪い大人に騙されて,財産を持って行かれる,ということはあまり考えられないですよね。

ですから,民法780条は「認知をするには、父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときであっても、その法定代理人の同意を要しない。」と定めて,親などの同意がなくても,子は「認知」をすることが出来ることとしています。


ちなみに,「認知」など,自分の親子関係や婚姻(結婚)関係など発生させる行為を,法律用語で「身分行為」と言いますが,「身分行為」については,親などの同意を得ずに,基本的に自分の意思で出来ることになっています。

例えば,高校生の男の子(A)が,付き合っている女の子(B)を妊娠させてしまって,子どもが生まれたとしましょう。

そして,AもB「生まれてきた子は,AとBの子だ」と言っているのに,親が反対して,生まれてきた子がAの子だと認められなかったらどうでしょうか。

Aは,親の反対のせいで,実際には親子であるにもかかわらず,法律的な親子関係が認められないことになってしまって,AもBも子も可哀想そうですよね。

ですから,「身分行為」については,基本的に当事者の真実の意思に基づいて決定されるよう,法律の中で配慮されています。

こういった考え方を持っていると,細かい知識を覚えていなくても,「認知は身分行為だから,法定代理人の同意がなくてもできそうだな。ということは,認知は取り消すことはできないだろう。」と,自分の頭で考えて解くことが出来ると思います。

●基本書については,内田先生の「民法IV 補訂版 親族・相続」の188頁と6頁のあたりを読んでおくとよいと思います。




エ.
Aが精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある場合でも,Aが成年に達するまでは,家庭裁判所は,Aについて後見開始の審判をすることができない。


この肢は「誤り」ですね。

「後見」という制度は,おおまかに言うと,判断能力が十分でない人(被後見人)について,財産の管理などを行う「後見人」という人を裁判所が選任して,被後見人の財産の管理などをさせる制度です。

そして「後見」の制度には,「未成年後見」と「成年後見」の2つに分けられます。

「未成年後見」は,未成年者に親がいない場合や,親が財産を管理する権限がない場合に,後見人に財産の管理などをさせる制度です。

「成年後見」は,「精神上の障害(認知症など)により判断能力(事理弁識能力)を欠く人」について,後見人に財産の管理などをさせる制度です。

ようするに,「未成年後見」と「成年後見」は,財産の管理などを必要としている人が「財産を管理できる親がいない未成年者」か「精神上の障害により判断能力を欠く人」か,で区別することが出来ます。

そして,未成年者であっても,「精神上の障害により判断能力を欠く」という要件を満たせば,理屈の上では「成年後見人」という財産を管理する人を選任することができます。


この肢はちょっと難しいと思いますが,「未成年後見」と「成年後見」が,似ているけど別の制度だということが分かっていれば,「別の制度なんだから,未成年者にも成年後見が使えそうだな」と判断することが出来ると思います。

後は,この「エ」の肢で迷っても,「イ」の肢と「ウ」の肢について自信をもって「正しい」と判断できれば,「エは誤りだろうな」と正解を導くことが出来ると思います。

●基本書については,内田先生の「民法I 第4版: 総則・物権総論」の105頁の注に「制度上は未成年者に成年後見人や保佐人・補助人を付すことも可能であるが,通常は,親権者または未成年後見人により対処されることになろう」と書いてあります。

ただし,出題趣旨としては,基本書の細かい知識を聞いているわけではなく,「未成年後見」と「成年後見」の違いを理解していれば,正解にたどり着けるだろう,ということだと思います。

ですから,基本書を隅から隅まで暗記しておく必要はありません。


オ.
Aが相続によって得た財産から100万円をBに贈与する旨の契約を書面によらずに締結した場合において,書面によらない贈与であることを理由にAがその贈与を撤回したときでも,Aが贈与の撤回について親権者の同意を得ていなかったときは,Aは,贈与の撤回を取り消すことができる。


これは「誤り」です。

「贈与」とは,おおまかに言えば,「財産を無償(タダ)であげる契約」です。

民法549条は「贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」と定めています。

他方,550条本文は「書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。・・・」と言っています。

たとえば,友達に口頭で気前よく,うっかりと「この20万円の新品のパソコン,タダであげるよ。」と言った後に,「しまった!このパソコンは高いし,あげるのはもったいな。」と思うこともあるでしょう。

その時には,(書面ではなく)口約束だけで「あげる」という約束をしていたのであれば,その贈与の約束(契約)を撤回することが出来るということです。

この550条の「撤回できる」という規定は,軽率に(うっかり)と,財産を無償であげることを予防するために,設けられたものです。


さて,問題を見てみると,未成年者Aは
(1)「100万円をあげるよ」と言った後に
(2)「やっぱり100万円をあげるという契約は,撤回するね」と言って,さらに
(3)「やっぱり,100万円をあげるという契約を,撤回すると言ったことは,取り消すね」
と言おうとしている訳ですよね。

もし,これが認められたら
(4)「やっぱり,100万円をあげるという契約を,撤回すると言ったことは,取り消すねと言ったことは,取り消すね」とか,
(5)「やっぱり,100万円をあげるという契約を,撤回すると言ったことは,取り消すねと言ったことは,取り消すねと言ったことは,取り消すね・・・」
みたいな感じで,エンドレスに取消しを繰り返すことが出来そうです。

そうすると,Aに「100万円をあげる」と言われた人は,いつまで経っても「100万円をもらえるのか,もらえないのか,はっきりしない」という不安定な状態に置かれるかも知れません。

したがって,常識的に考えて,この肢はなんとなく「誤り」だろうな,ということが分かると思います。


直感的に「誤り」っぽいといういことは分かると思いますが,この問題を法律的に分析してみます。

民法5条1項を見ると「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。」と定めています。

未成年者が,法律行為(売買契約など)をするためには,法定代理人(親など)の同意が必要だけども,「単に権利を得、又は義務を免れる法律行為」,要するに,未成年者にとって「お徳」になる行為については,法定代理人の同意がなくても,未成年者が1人で出来るよ,ということです。

「オ」の肢を見てみると,「贈与の撤回」は,未成年者にとって「お徳」な行為なので,(財産をあげないことになるので,未成年者にとっては財産が減らない分,利益になる),未成年者が1人で出来るということになります。

そして,未成年者が1人で出来るということは,後で取り消すことは出来ない,ということです。

したがって,法律的な理屈からも,未成年者が贈与の撤回を「取り消す」ことは出来ない,ということになります。


●基本書については,佐久間先生の「民法の基礎 (1) 総則 第3版」の87頁や,内田先生の「民法I 第4版: 総則・物権総論」の108頁のあたりを読んでおく良いと思いますが,知識がなくてもよく考えれば直感的に正解にたどり着ける問題だと思います。


〔第2問〕


第2問は「保佐」に関する問題です。

第1問で出てきた「成年後見」は「精神上の障害(認知症など)により判断能力(事理弁識能力)を欠く者」について,「後見人」に財産の管理などをさせる制度でした。

これに対し,「保佐」は,「精神上の障害により判断能力(事理を弁識する能力)が著しく不十分な者」について,「保佐人」をつけて,一定の行為については保佐人の同意を必要として,保佐人の同意のない一定の行為については,取消しができることにして,判断能力が著しく不十分な者の財産を保護してあげましょう,という制度です。

保佐人の同意を必要とする行為は,民法13条に書いてあります。

後見に関する7条・9条と,保佐に関する11条・13条を読んで,違いについて見比べておくと良いと思います。

●「保佐がよく分からん」という人は,佐久間先生の「民法の基礎 (1) 総則 第3版」の94頁や,内田先生の「民法I 第4版: 総則・物権総論」の111頁のあたりを読んでおく良いと思います



被保佐人Aが保佐人の同意又はこれに代わる家庭裁判所の許可を得ずにBに対してA所有の甲土地を売り渡したことを前提として,当該売買契約の効力に関する次のアからオまでの各記述のうち,誤っているものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。



ア.
BがAの保佐人に対し当該売買契約を追認するかどうか確答することを1か月の期間を定めて催告した場合において,保佐監督人があるときは,保佐人が保佐監督人の同意を得てその期間内に追認の確答を発しなければ,当該売買契約を取り消したものとみなされる。


「ア」の肢は誤りです。

似たような問題は過去問で何度も聞かれていますので,過去問をやっていれば瞬殺できる問題です。

「追認」というのは,おおまかに言えば,取り消すことができる行為を「もう取り消しません!」と確定させることです。

被保佐人(判断能力が著しく不十分であるとして裁判所から決定を受けた人)が,保佐人(被保佐人の財産を守るために裁判所に選ばれた人)の同意を得ないでした一定の行為,たとえば,不動産の売買契約などは,取り消すことが出来ます。

このことは,民法13条1項と4項に書いてあります。

第13条
1項 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
一 元本を領収し、又は利用すること。
二 借財又は保証をすること。
三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
・・・
4項 保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。


問題を見てみると,被保佐人Aは,保佐人の同意を得ないで,Bと売買契約をしたんでしょうね。

したがって,保佐人は, AとBの売買契約を取り消すことができます。

でも,保佐人がAとBの売買契約を取り消すか,取り消さないのか,はっきりしないまま時間が経っていくことがあります。

そうすると,Bとしては困る訳ですね。「取り消すのか,取り消さないのか,はっきりしてくれ!」と言いたくなります。

このBが保佐人に「取り消すのか,取り消さないのか,はっきりしてくれ!」と言うことが「催告」です。

そして,民法20条1項と2項は「制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後、その者に対し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。」「制限行為能力者の相手方が、制限行為能力者が行為能力者とならない間に、その法定代理人、保佐人又は補助人に対し、その権限内の行為について前項に規定する催告をした場合において、これらの者が同項の期間内に確答を発しないときも、同項後段と同様とする。」と定めています。

少し長いですが,要するに,被保佐人(A)と取引をした相手(B)は,「取り消すのか,取り消さないのか,はっきりしてくれ!」という「催告」をすることができて,被保佐人か保佐人が返事をしない場合には,「追認」,すなわち「取り消しません!」と言ったのと同じことになる,ということです。

したがって,「ア」の肢の「追認の確答を発しなければ,当該売買契約を取り消したものとみなされる」という部分は「誤り」ということになります。

なお,この「催告をしたのに,返事がない場合,追認したことになるか?」という問題は,繰り返し出題されています。

なぜなら,催告をする相手によって,「追認したことになる」場合と,「取り消したことになる」場合があり,受験生を混乱させるのに都合の良い問題だからです。


基本的な考え方としては,以下のとおり整理できます。

A 制限行為能力者の場合

a 本人が制限行為能力者である間

ⅰ 保佐人等に催告 返事がなければ「追認」
理由:保佐人は「追認」できる立場にあるので,返事がなかったということは追認したとみても差し支えないため

ⅱ 本人(被保佐人)に催告 返事がなければ「取消し」
理由:被保佐人は「追認」ができる立場にないので,返事がなかったのであれば,取消したとみることができる

b 本人が行為能力者に復活した後
 ⇒本人(被保佐人)に催告 返事がなければ「追認」
理由:行為能力者に復活した保佐人は「追認」できる立場にあるので,返事がなかったということは追認したとみても差し支えないため


B 無権代理の場合
⇒本人に催告 返事がなければ「取消し」
理由:無権代理は,他人に勝手に法律行為をされた場合なので,本人は,法律行為は無効であると考えているのが通常


どうでしょうか。何が何だか分からなくなってきたのではないでしょうか。

ポイントは,

原則として,判断能力がある人に催告をし返事がなかった場合には「追認」となるが,判断能力が不十分なに催告をし返事がなかった場合には「取消し」になる。

ただし,無権代理の場合には,「取消し」になる

と整理しておくと,分かりやすいと思います。

このように「催告をしたのに,返事がない場合,追認したことになるか?」というパターンはいくつかあり,きちんと整理して覚えておかないと答えることが出来ません。

他方で,整理して覚えておくと,問題を瞬殺できますし,司法試験に合格する受験生は,このように繰り返し聞かれる紛らわしい問題できちんと点を取ることが出来ます。



●基本書であれば,佐久間先生の「民法の基礎 (1) 総則 第3版」の102頁や,内田先生の「民法I 第4版: 総則・物権総論」の1218頁のあたりを読んでおくとよいと思います。

●こういった紛らわしい知識の整理には予備校本が便利で,例えばLECの「C-Book民法I(総則)<第5版> (PROVIDENCEシリーズ)」では,この「催告をしたのに,返事がない場合,追認したことになるか?」というパターンが整理されています。






イ.
BがAに対し当該売買契約について保佐人の追認を得ることを1か月の期間を定めて催告した場合において,Aがその期間内にその追認を得た旨の通知を発しないときは,当該売買
契約を取り消したものとみなされる。


「イ」の肢は「正しい」です。

「A」は被保佐人(判断能力がない人)ですから,先程整理した「判断能力が不十分な人に催告をした場合」にあたるので,「取消し」したことになります。



ウ.
Aが行為能力者となった後に,BがAに対し当該売買契約を追認するかどうか確答することを1か月の期間を定めて催告した場合において,Aがその期間内に確答を発しないときは,
当該売買契約を追認したものとみなされる。


「ウ」の肢は「正しい」です。

「A」はもともと被保佐人(判断能力がない人)ですが,行為能力者になったので「判断能力がある人」に復活しています。

そして,「判断能力がある人」に復活したAに催告をした訳ですから,「追認」したことになります。



エ.
Aが行為能力者となった後に,AがBから甲土地の所有権移転登記手続の請求を受けたときは,当該売買契約を追認したものとみなされる。


「エ」の肢は「誤り」です。

この問題も過去問になれていると瞬殺出来る問題です。

この問題のAとBが逆であれば「追認」したことになりますが,BがAに登記手続の請求をしても「追認」したことにはなりません。

「追認」とは,先程説明したとおり,「もう取り消しません!」という意思表示,すなわち「取り消すことができる行為を確定的に有効なものとする一方的な意思表示」ですが,口で「追認します」と言わなくても,追認したことになってしまう制度があります。

これを「法定追認」と言いますが,民法125条が法定追認について規定しています。


第125条 前条の規定により追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。
一 全部又は一部の履行
二 履行の請求
三 更改
四 担保の供与
五 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡
六 強制執行

2号にあるとおり,「履行の請求」をすると,「追認をしたものとみなす」ことになるんですね。

ただし,この125条の趣旨は,「取消しや追認をすることができる人が,追認したと思われても仕方ないような行為をした場合には,追認をしたことにしましょう」という点にあります。

ですから,取消しや追認をすることができない人が,125条に規定されているような行為をしても,追認したことにはならないんです。

問題文を見ると,被保佐人から行為能力者に復活したのはAなので,取消しや追認をすることができる人はAです(124条1項も参照してみてください。取引の相手であるBではありません。)。

ですから,Aが「履行の請求」をすれば追認をしたことになりますが,Bが「履行の請求」をしても追認したことにはなりません。

問題文には「AがBから甲土地の所有権移転登記手続の請求を受けたとき」とあって,Aが請求したのか,Bが請求したのか分かりにくいですが,落ち着いて問題文を読んで間違えないようにしましょう。

●基本書については,佐久間先生の「民法の基礎 (1) 総則 第3版」の227頁や,内田先生の「民法I 第4版: 総則・物権総論」の297頁のあたりを読んでおくとよいと思います。



オ.
Aが行為能力者となった後に,Aが甲土地の売買代金債権を他人に譲渡したときは,当該
売買契約を追認したものとみなされる。 

肢「オ」は「正しい」です。

先程の民法125条を見れば分かりますよね。

民法125条5号は「前条の規定により追認をすることができる時以後に、」「取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡」をした時に,「追認をしたものとみなす」こととしています。

「前条の規定により追認をすることができる時」とあるので,124条1項を見ると「追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にしなければ、その効力を生じない」と書いてありますので,被保佐人Aが行為能力者になった場合には,「取消しの原因となっていた状況が消滅した」ことになり,「追認をすることができる」状況になっていると言えます。

そして,Aは,「甲土地の売買代金債権を他人に譲渡」した訳ですから,「取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡」したことになり,追認をしたことになります。


このあたりは知識だけでなく,常識論で解ける問題です。

たとえば,あなたが被保佐人Aに土地を売ったとします。

そして,あなたが「被保佐人Aに土地を売ってしまったから,取り消されるかも知れない」と思っていたところ,被保佐人が復活して行為能力者になりました。

そして,被保佐人Aが,土地を売ってあなたから得た代金を,他の人にあげた後に「やっぱり土地の売買契約は取り消すよ」と言われたら,どう思いますか。

「取り消すよって言っても,オレが渡したお金はもうAの手元から無くなっているでしょ。契約を取り消してもAはお金を返してくれせないんじゃないの?今さら取り消すなんでおかしいでしょ。」と思うのではないでしょうか。

ですから,Aが「売買代金債権を他人に譲渡」した後は,追認したことになって,取消しすることは出来ない,という結論は正解だろう,と常識論で解くことが出来ると思います。


〔第3問〕


第3問は「失踪宣告」に関する問題です。

「失踪宣告」とは,大まかに言えば,行方不明等になった人について,生死不明の状態が一定期間(基本7年)続いた時に,裁判所の手続で,行方不明等になった人を死亡したことにしましょう,という制度です。

行方不明になった人を,法律上いつまでも生きていることにすると,戸籍上,年齢150歳の人とか200歳の人とか出てきて,関係者にとっても迷惑で不便です。

そのため,生死不明の状態が一定期間続いた時には,裁判所の手続を使って,法律上,死亡したことにしましょう,というのが「失踪宣告」の制度です。

司法試験では「失踪宣告」の問題は論文式試験では出ることはないと思いますが,短答式試験では定期的に出題されています。

司法試験の分野では比較的マニアックな分野ですが,マニアックな分野に時間をかけすぎると,いくら時間があっても足りません。

ですから,「失踪宣告」については,あまり深入りせずに,数年分の過去問を解けるようにしておけば十分だと思います。





失踪宣告に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。

ア.
沈没した船舶の中に在ったAについて失踪宣告がされた場合には,Aはその沈没事故の後1年が経過した時に死亡したものとみなされる。


「ア」は「誤り」です。

慌てると間違える問題なので気をつけてください。

民法30条を見てみましょう。

1項(普通失踪) 不在者の生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪そうの宣告をすることができる。

2項(特別失踪) 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止やんだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後1年間明らかでないときも、前項と同様とする。


1項に書かれているとおり,原則として,不在者(行方不明になった人)の生死が7年間明らかでない時には,裁判所で「失踪宣告」の手続をとることができます。

例外が2項で,「戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者」については,「戦争が止やんだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後1年間」生死が明らかでなければ,裁判所で「失踪宣告」の手続をとることができます。

映画のタイタニックとかをイメージしてもらえれば良いと思いますが,戦地や,沈没した船で行方不明になった人は,亡くなっている可能性が高いですよね。

ですから,7年という原則を修正して,例外的に1年間生死が明らかでなければ,「失踪宣告」の手続をとることができます。

過去問に慣れていない人は「沈没した船=1年」と考えて,「ア」の肢を「正しい」と判断してしまったりするのですが,注意が必要です。

「沈没した船=1年」は,「失踪宣告をすることができる」時期のことであって,「死亡したものとみなされる」時期のことではありません。

では,「死亡したものとみなされる」時期は,いつになるのでしょうか。


民法31条を見ると答えが書いてあります。

第31条 前条第1項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第2項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。

要するに,

原則として「失踪宣告をすることができる時期」=「死亡したものとみなされる時期」だけれども,

「戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者」については,「危難が去った時に、死亡したものとみなす」ということです。


タイタニックの映画を見たことがある人は思い浮かべてもらえれば分かりやすいと思いますが,レオナルド・ディカプリオが乗っていた船が事故にあって,最終的にディカプリオは海に沈んでいきますよね。

常識的に考えて,ディカプリオが死んだのは,(ア)船が事故に遭って海に沈んだ時,(イ)船が事故に遭ってから1年後,のどちらでしょうか。

常識的に考えれば,ディカプリオは「(ア)船が事故に遭って海に沈んだ時」と考えるのが自然でしょう。

ですから,「沈没した船舶の中に在った者」については,「危難が去った時に、死亡したものとみなす」ことになっているのです。


●基本書については,佐久間先生の「民法の基礎 (1) 総則 第3版」の23頁や,内田先生の「総則・物権Ⅰ」の48頁のあたりを読んでおく良いと思います。

●LECの「C-Book民法I(総則)<第5版> (PROVIDENCEシリーズ)」では,「普通失踪と特別失踪の相違」が表で整理されていますので,自分で整理をするのが面倒な人は付箋を貼って試験直前に見直すことが出来るようにしておくと良いでしょう。






イ.
Aの生死が7年間明らかでなかったことから,Aについて失踪宣告がされた場合には,Aは,7年間の期間が満了した時に死亡したものとみなされる。


「イ」の肢は「正しい」です。

先程の民法31条と30条を見ればわかりますよね。

第31条 前条第1項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第2項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。

この31条が言う「前条第1項の規定」というのは,30条1項の普通宣告(戦地に臨んだ者や,沈没した船舶の中にいた者,ではない,普通の行方不明の場合)のことです。

30条1項(普通失踪) 不在者の生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪そうの宣告をすることができる。

問題文には「Aの生死が7年間明らかでなかったことから,Aについて失踪宣告がされた場合」と書いてありますから,普通宣告のことを言っていることが分かります。

そして,31条には「前条第1項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に・・・死亡したものとみなす。」と書いてありますから,この肢は「正しい」ということが分かります。


ウ.
Aの生死が7年間明らかでなかったことから,Aについて失踪宣告がされ,Aが死亡したものとみなされた後にAの生存が判明した場合でも,失踪宣告がされた後にAがした売買契約は,失踪宣告が取り消されなければ有効とはならない。


「ウ」の肢は「誤り」です。


この問題は,条文を見ても,基本書を見てもはっきりしないので,少し難しい問題だと思います。

民法31条は失踪宣告の効果について「死亡したものとみなす」としか書いていないため,「死亡したとみなした時にどうなるのか?」ということは書いていません。

また32条1項には,失踪宣告を受けた人が実は生きていて,失踪宣告が取り消された場合について,「失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。」と書いていますが,失踪宣告が取り消されなかった場合に,失踪宣告を受けた人がした契約等が有効なのか無効なのか,はっきりと書いていません。

そして,一般的な基本書にも,「失踪宣告を受けた人が生きていて,契約をした場合に,それが有効なのか無効なのか」ということは,はっきりと書いていないと思います。

この答えは,「●新版 注釈民法〈1〉総則(1) (有斐閣コンメンタール)」という辞書みたい本を読めば「死亡の効果はを生じさせるというのは権利能力を剥奪するという意味ではない」「新しく身分上・財産上の法律関係を形成して生活することは可能である」と書いてあるのですが,司法試験の受験生が,いちいち注釈民法を読むのは大変です。

ですから,この「ウ」の肢は,常識論で考えて「なんとなく誤りだろうな」と分かれば良いんです。

では,常識論で考えてみましょう。

あなたが夢のマイホームを建てるために,Aさんから1000万の土地を買ったとします。

その後に,Aさんから,「オレ,実は失踪宣告受けてたみたいなだよね。だから,あの契約はなかったことにしてくれ。」と言われたら,どう思うでしょうか。

「いやいや。失踪宣告を受けたのはAが行方不明になったからでしょ。なんで,とばっちりを受けなければいけないんだ。」と思うのではないでしょうか。

要するに,失踪したAさんよりも,取引の相手のほうを保護する必要が大きいですよね。

ですから,失踪宣告を受けたAが契約をした場合には,失踪宣告の有無にかかわらず「有効」だろう,という考えることが出来ます。

このように,分からない問題は自分の頭で考える習慣をつけると,短答式試験の点数も上がっていきますし,暗記する量も少なくなります。




エ.
Aの生死が7年間明らかでなかったことから,Aについて失踪宣告がされ,Aが死亡したものとみなされた後に,Aの子であるBがA所有の甲土地を遺産分割により取得した。その後,Bは,Cに甲土地を売却したが,その売却後にAの生存が判明し,Aの失踪宣告は取り消された。その売買契約の時点で,Aの生存についてBが善意であっても,Cが悪意であるときは,Cは,甲土地の所有権を取得することができない。


「エ」の肢は「正しい」です。

登場人物が3人以上出てきた場合には,事案を正確に把握するために図を書くと,ミスの防止に繋がります。

 (1)遺産分割により甲土地を取得
A→→→→→→→→→→→→→→B(Aの子)
               ↓ 
(3)Aの生存が判明  ↓ 
失踪宣告 取消        ↓(2)甲土地を売却
               ↓ 
               ↓ 
               C

ここまで細かく書く必要はありませんが,「A→B→C」,くらいの図は書いておくと分かりやすいと思います。


民法32条1項には,「失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。」と書いてあります。

要するに,失踪宣告の取消しがあっても「失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない」ということが書いてあるのですが,ここでいう「善意」とは,BとCのいずれの「善意」のことを言っているのかが問題になります。

※「善意」とは失踪宣告が事実と異なることを「知っている」という意味で,「好意」という意味ではないので注意をしてください。

パターンは4つに分かれます。

(1)B善意 C善意
(2)B悪意 C悪意
(3)B善意 C悪意
(4)B悪意 C善意

まず,(1)の「B善意 C善意」の場合は,2人とも「善意」な訳ですから,32条1項の「善意でした行為」に当てはまります。

したがって,「行為の効力に影響を及ぼさない」,すなわちBC間の契約は有効ということになります。


次に,(2)の「B悪意 C悪意」の場合は,2人とも「悪意」な訳ですから,「善意でした行為」に当てはまりません。

したがって,BC間の契約は無効ということになります。



では,(3)の「B善意 C悪意」のパターン。これが問題で聞かれているパターンですね。

この場合はBC間の契約は無効,すなわちCは土地を手にいれることが出来ない,ということになります。

これは,32条1項の趣旨を考えれば知識がなくても解けます。

32条1項は,失踪したAと,失踪宣告を信じて取引に入ったCの,2人の間のバランスを取るための制度なんですよね。

失踪宣告が事実であるとCが信じていた場合には,Cを保護する必要はありそうですが,失踪宣告が事実と異なることをCが知っていた時(悪意の時)には,Cを保護する必要はないですよね。

ですから,(3)の「B善意 C悪意」のパターンでは,BC間の契約は無効で,Cは土地を手に入れることは出来ない,という結論が妥当だということが分かります。

こういった法律的な考え方は,問題を解いて悩みながら基本書を読んで,自分の頭で考えるようにすると身についていくと思います。



今回の問題では聞かれていませんが,最後に残ったのが(4)の「B悪意 C善意」のパターン。これはちょっと難しいです。

もし,本試験で問われたら間違える人が多いと思います。

Cが善意であれば,Cを保護する必要があるので,BC間の契約は有効で,Cは土地をゲットできると考えるのが自然なような気がしますし,学説の中にはそのように考える説もあります。

しかし,古い判例の中には,「B悪意 C善意」のパターンで,32条1項の適用を否定したものがあります。

個人的にはしっくり来ないのですが,32条1項が「善意でした行為の効力」として,誰が善意かを特定していないことを考えると,BとCの両方が「善意」でないと,32条1項は適用できないでしょ,ということなのではないかと思います。

●私は十分に説明できませんが,なぜ判例がそのような結論を導いたのかについては,佐久間先生の「民法の基礎1」の28頁あたりで説明されていますので,一読しておくと良いと思います。






オ.
Aの生死が7年間明らかでなかったことから,Aについて失踪宣告がされ,Aが死亡したものとみなされた後に,Aの生存が判明したが,失踪宣告が取り消されずにAが死亡した場合には,もはやその失踪宣告を取り消すことができない。

オの肢は「誤り」です。

おそらく基本書を読んでも書いていないと思いますが,考えることで正解にたどり着ける問題です。

32条1項本文は「失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。・・・」と書いてあるだけで,失踪者が死亡した場合には,失踪宣告を取り消すことが出来ない,とは書いていません。

また,失踪宣告の制度趣旨は,「失踪者について,生死不明のままにしておくと,失踪者の財産関係や身分関係が長い間放置され,失踪者の関係者にとって極めて迷惑なので,失踪者を死亡したことにして,法律関係を処理しましょう」というものです。

要するに,失踪宣告は,失踪者のため制度ではなく,失踪者の周りにいる関係者のための制度なんですよね。

そうすると,失踪者Aが生きていることが判明した場合には,その後にAが死亡したとしても,関係者のために失踪宣告を取り消してあげないと,周りの関係者が迷惑を被ることになります。

したがって,Aが死亡しようがしまいが,周りの関係者のために失踪宣告を取り消すことが出来ないと困る,ということが分かると思います。

よって,オの「失踪宣告を取り消すことができない」という箇所は「誤り」です。


以上,第3問の解説でした。

第3問は正しい肢2つの組み合わせを選択させる問題ですが,「イ」の肢は過去問をやっていれば「正しい」と判断できる問題ですし,「エ」の肢も法律的な考え方をもっていれば知識がなくても簡単に正解にたどり着ける問題です。

失踪宣告は比較的マニアックな分野ですが,少しの準備をしておくことで確実に点を取れる分野ですので,これを機会に基本書(佐久間先生の「民法の基礎1」の23頁や,内田先生の「総則・物権Ⅰ」の48頁のあたり)を読んで整理しておくと良いでしょう。




〔第4問〕


虚偽表示に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし誤っているものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。


ア.
甲土地を所有するAがBと通謀して甲土地をBに仮装譲渡し,AからBへの所有権移転登記がされた後,Bの債権者Cが甲土地を差し押さえた場合において,その差押えの時にCが仮装譲渡について善意であったときは,Aは,Cに対し,Bへの譲渡が無効であることを主張することができない。

「正しい」です。


登場人物が3人以上出てきたので,図を書きます。

通謀・仮装譲渡
A→→→→→→B
       ↑
       ↑差押え
       ↑
       C

民法94条1項は「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。」,2項は「前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」と定めています。

要するに,AとBが「形式的に土地を売ったことにするけど,実際には売ってないからね」と約束をしていた時には,AB間では土地の売買契約は無効であるのが原則。

しかし,さらにCがBから土地を買ったりした場合で,CがAB間の約束(通じてした虚偽の意思表示)を知らなかった時には,AはCに対して,AB間の売買が無効だとは言えなくなるということです。

その結果,Bから土地を買ったCは,土地を手に入れることができます。

94条2項の趣旨は,通謀による虚偽表示という悪いことをしたAよりも,Bが土地を持っていると信じて土地を買ったCを保護しましょう,ということです。

より正確に言うと,「94条2項の趣旨,すなわち,真の権利者は虚偽表示が無効であることを対抗できないとする趣旨は,虚偽の外観の作出について,帰責性がある真の権利者の犠牲のもとに,外観を信頼した第三者を保護することで取引の安全を図る点にある」,ということになります。

この制度趣旨は暗記していないと論文式試験で答案を書くことが出来ませんので,きちんと暗記をしておくべきです。


さて,問題文を見ると,「AがBと通謀して甲土地をBに仮装譲渡した」とあるので,BがCに土地を売って,Cが善意であれば,Cは土地を手に入れることができます。

しかし,問題文を良く見ると,Cは土地を買ったのではなく,「差押え」しています。

そこで,94条2項の「第三者」に差押えをした債権者が含まれるのかが問題になります。

判例は,単なる債権者は「第三者」にあたらないが,差押えをした債権者は差押えをした債権者に含まれる,要するに通謀虚偽表示をしたAに対して,「アタシは第三者だから土地よこせ」と言える立場にある,ということです。

なぜ,そうなるかというと,通謀虚偽表示という落ち度があるAと,何も悪いことをしていないCとのバランスの問題です。

Bからお金を回収できると思って,せっかくB名義の土地を差押えたのに,AとBが通謀虚偽表示という周りに迷惑な行為をしていたせいで,Cの差押えが空振りになったらCが可哀想ですよね。

そして,Aには通謀虚偽表示をした落ち度があるので,Cに土地を持って行かれても仕方ないですよね,ということでCを優先した,ということです。

●94条2項の「第三者」に誰が含まれるかについては,佐久間先生の「民法の基礎 (1) 総則 第3版」の121頁以下や,LECの「C-Book 総則Ⅰ」で整理されていますので,読んでおくと良いでしょう。



●その他,94条全般については,佐久間先生の「民法の基礎 (1) 総則 第3版」の118頁や,内田先生の「民法I 第4版: 総則・物権総論」の50頁のあたりを読んでおく良いと思います。


イ.
甲土地を所有するAがBと通謀して甲土地をBに仮装譲渡した後に,CがBとの間で甲土地についてCを予約者とする売買予約を締結した場合,仮装譲渡についてCが予約成立の時に善意であっても,予約完結権行使の時に悪意であれば,Cは,Aに対し,甲土地の所有権を主張することができない。

「正しい」です。


通謀・仮装譲渡
A→→→→→→B
       ↓
       ↓売買予約
       ↓
       C


これも,94条2項の「第三者」に誰が含まれるかという問題ですが,ちょっと難しいですね。

判例を知っていれば解ける問題ですが,判例を知らない受験生も多いと思いますので,頭で考えて解く問題だと思います。

判例(最判昭和38年6月7日)は,「通謀虚偽の売買契約における買主が当該契約の目的物について第三者と売買予約を締結した場合において、その目的物の物権取得の法律関係につき、予約権利者が民法第94条2項にいう善意であるかどうかは、その売買予約成立の時ではなく、当該予約完結権の行使により売買契約が成立する時を基準として定めるべき」と言っています。

売買「予約」というのは,文字どおり「将来において売買契約を締結する」という合意(予約)で,予約の時点では,まだ売買契約は成立していないんです。

そのため,予約完結権というものを行使しないと,売買契約は成立しないんです。

そういった意味では,売買予約の時点では,Cは土地をほぼ確実に手に入られる状態にあるという訳ではなく,土地を手に入れることが出来るか分からない不安定な状態です。

通謀虚偽表示をしたという落ち度があるAと,未だに売買の予約をしているに過ぎず土地を手に入れることが出来るか分からない不安定なCとを比べた場合,Cを保護する必要は小さい,と判例は考えているんだと思います。

問題文を読んで,「Aにも落ち度はあるけど,売買予約をしているに過ぎないCを保護する必要も小さそうだな。そうすると,売買予約の時に善意でも,売買契約が成立した時に悪意なら,Cは土地を手に入れら無くても仕方ないんじゃないか。」と思うことができれば,この「イ」の肢が正しそうだ,ということが分かると思います。


●売買予約の予約者が94条2項の「第三者」に含まれるかということは一般的な基本書には書いてないと思いますが,佐久間先生の「民法の基礎 (1) 総則 第3版」の121頁以下等で整理されている94条2項の「第三者」について読んでおくと,どのような人が「第三者」に含まれるかという感覚がつかめると思います。



ウ.
甲土地を所有するAがBと通謀して甲土地にBのための抵当権設定を仮装した後,その抵当権設定が仮装であることについて善意のCがBから転抵当権の設定を受け,その旨の登記がされた場合には,Aは,Cに対し,原抵当権の設定が無効であることを主張することができない。

正しい

通謀・抵当権設定(仮装)
A→→→→→→B
       ↓
       ↓転抵当権設定
       ↓
       C

これは知識がなくても,ちょっと考えれば容易に正解にたどりつける問題でしょう。

抵当権は,不動産などから優先弁済を受けるための担保で,転抵当権は抵当権を持っている人が抵当権をさらに担保に入れるものです。

要するに抵当権や転抵当権を持っている人は,何かあった時に不動産から優先弁済を受けることが出来るという,非常に強い権利を持っています。

これは,先程の売買の予約のような不安定な権利ではなく,具体的な強い権利です。

このように考えると,「落ち度があるAよりも,転抵当権という権利をもっているCを保護すべきだろう」「そうすると,AがCに原抵当権(AB間の抵当権)が無効だと主張することはできないだろう」と,正解にたどり着くことが出来ると思います。

よって,ウの肢は「正しい」です。

ちなみに,転抵当権者が94条2項の「第三者」にあたることを前提とした判例(最高裁判所判決昭和55年9月11日)がありますが,百選判例ではないのですし,ちょっとマニアックな判例だと思いますので,知らなくても落ち込む必要はないでしょう。




エ.
甲土地を所有するAがBと通謀して甲土地をBに仮装譲渡し,AからBへの所有権移転登記がされた後に,Bが死亡した場合において,Bが死亡した時にBの相続人であるCが仮装譲渡について善意であったときは,Aは,Cに対し,甲土地の所有権を主張することができない。

誤り

通謀・抵当権設定(仮装)
A→→→→→→B 死亡
= ↓
C 相続
      

エの肢は「誤り」です。この問題は相続が分かっていれば簡単です。

相続は「死者の生前にもっていた財産上の権利義務を他の者が包括的に承継すること」です。

要するに,相続人Cは,法律的に見るとBとほとんど同じ地位にあるんです。

死亡したB≒相続人C,ということです。


そうすると,「AがCに所有権を主張できるか(仮装譲渡が無効だと主張できるか)」という問題文は,「AがBに所有権を主張できるか(仮装譲渡が無効だと主張できるか)」という問題文に読み替えることができます。

ここまで来れば簡単ですね。相続人CはBと同じ立場なので,94条2項の「第三者」ではないということです。

ですから94条2項の適用はなく,94条1項の原則のとおり,AとBの間の売買契約は無効となり,甲土地はAの手元に残っていることになりますから,「Aは,Cに対し,甲土地の所有権を主張することができる」ことになります。

なお,司法試験の論文式試験対策として,94条2項の「第三者」の定義を絶対に暗記しておく必要がありますが,94条2項の「第三者」の定義は「虚偽表示の当事者および,その包括承継人以外の者で,虚偽表示によって生じた法律関係に基づき,新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った者」です。

そして,相続人は,この定義における「包括承継人」に含まれます。

ですから,94条2項の「第三者」の定義を暗記して,理解しておけば,この問題は楽勝です。


●基本書については,佐久間先生の「民法の基礎 (1) 総則 第3版」の120頁や,内田先生の「民法I 第4版: 総則・物権総論」の52頁のあたりを読んでおくと理解が深まると思います。


オ.
甲土地を所有するAがBと通謀して甲土地をBに仮装譲渡し,AからBへの所有権移転登記がされた後に,BがCに甲土地を譲渡し,さらに,CがDに甲土地を譲渡した場合において,Cが仮装譲渡について悪意であったときは,Dが仮装譲渡について善意であったとしても,Aは,Dに対し,甲土地の所有権を主張することができる。

誤り

通謀・抵当権設定(仮装)
A→→→→→→B
       ↓
       ↓譲渡
       ↓
     悪意C
       ↓
       ↓譲渡
       ↓
     善意D


オの肢は「誤り」ですね。

まず,転得者Dが94条2項の「第三者」に含まれるかが問題になりますが,94条2項の趣旨,すなわち,「虚偽の外観の作出について,帰責性がある真の権利者の犠牲のもとに,外観を信頼した第三者を保護することで取引の安全を図る点にある」,という趣旨は転得者にもあてはまります。

Bから譲渡を受けたCだけでなく,Cから譲渡を受けた転得者Dも,「この土地はCの土地だろう」と信じて買ったのであれば,保護してあげる必要がありますよね。

では,Bから譲渡を受けたCが「悪意」で,Cから譲渡を受けたDが「善意」だった場合,Dは94条2項によって保護されるのでしょうか。

先程の94条2項の「虚偽の外観の作出について,帰責性がある真の権利者の犠牲のもとに,外観を信頼した第三者を保護することで取引の安全を図る」という趣旨を考えると,Cが悪意でも,Dが善意であれば,Dを保護してあげないと可哀想ですよね。

ですから,Cが「悪意」でも,Dが「善意」であれば,Dは保護されます(Dが勝ち,Aが負ける)。

したがって,「Aは,Dに対し,甲土地の所有権を主張することができない」ということになります。

これでオの肢は終わりなのですが,この「転得者」のパターンは,手を変え品を変えて司法試験の過去問で何度も繰り返し聞かれているので,整理しておきましょう。

CとDの善意・悪意のパターンは4つあります。

(1)Cが「善意」,Dが「善意」のパターン

これはDが保護される(Aが負ける)ということは問題なく分かると思います。

CもDも善意なのですから,Dを保護してあげる必要がありますよね。


(2)Cが「悪意」,Dが「悪意」のパターン

これはDを保護されない(Aが勝つ)ということは分かると思います。

CもDも悪意なのですから,Dを保護してあげる必要はないですよね。


(3)Cが「悪意」,Dが「善意」のパターン

これは先程みたパターン。

「善意」のDが負けると可哀想なので,Dが保護される(Aが負ける)ことになります。



(4)Cが「善意」,Dが「悪意」のパターン

問題はコレ!ひっかけ問題によく使われるので注意してください。

Dが「悪意」なので,Dを保護する必要はない,したがってDは保護されない(Aが勝つ)となりそうですが・・・判例は「善意のCが現れた時点でCが確定的に権利を取得するから,転得者Dは悪意であってもAに勝つ」と言っているのです。

なぜ判例がこんな判断をしているかと言うと,悪意のDを保護することが,結果的に善意のCを保護することになる,ということだと思われます。

CがBから土地を買った時点では「善意」だったけれども,その後,AとBが通謀虚偽表示をしていたことがみんなに判明したとします。

そうするとどうなるでしょうか・・・Cは誰にも土地を売ることが出来なくなってしまう可能性があるんですよね。

だって,AとBが通謀虚偽表示をしていたことが分かった後に,Cから土地を買ったら,A「お前は悪意だろ。土地返せ。」って言われるかも知れないからですよね。

この問題を解決するためには,「Cが善意なら,Dが悪意でも,Dが勝つ(Aが負ける)」としなければなりません。

そうすれば,DがCから土地を買っても,「Aに返せ」と言われなくて済むので,Cは土地を売ることが出来るようになり,結果的にCは保護されます。

このように混乱を防ぐための考え方を「法的安定性」と言ったりすることもありますが,民法の世界では「法的安定性」が考慮されることが多々あります。

何が正解かを考えた時に「この結論をとった場合に,混乱が起きないか」ということを考えてみると,より正解にたどり着きやすくなると思います。

●このあたりは難しい問題ですが,佐久間先生の「民法の基礎 (1) 総則 第3版」の130頁や,内田先生「民法I 第4版: 総則・物権総論」の57頁のあたりを読んでおくと理解が深まると思います。


※注意してほしいこと!

この「ひとたび善意の第三者が現れた場合には,法律関係が確定し,その後の転得者は悪意であっても権利を取得できる」という考え方を「絶対的構成」と言います。

しかし,「ひとたび善意の第三者が現れた場合には,転得者は悪意であっても権利を取得できる」と覚えた初学者を,混乱に陥れる判例があります。


それは,民法177条の「第三者」に関する判例です。

民法177条は,「不動産に関する物権の得喪及び変更は・・・登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」として,94条2項と同じように「第三者」を保護するための法律なのですが,判例は民法177条の「第三者」について,94条2項の「第三者」と全く逆の判決をしているのです。

そして,この177条の論点で,単なる「悪意」は保護されるけれども,「背信的悪意者」(著しい悪意者)は,保護されないという論点があり,この論点における転得者の処理が94条2項の場合と一部逆になっているのです。


94条2項の場合

(3)Cが「悪意」,Dが「善意」のパターン
⇒Dが保護される(Aが負ける)

(4)Cが「善意」,Dが「悪意」のパターン
⇒Dが保護される(Aが負ける)

という結論でした。


しかし,177条の場合,

(3)Cが「背信的悪意」,Dが「背信的悪意でない」のパターン
⇒Dが保護される(Aが負ける)

(4)Cが「背信的悪意でない」,Dが「背信的悪意」のパターン
⇒Dは保護されない(Aが勝つ)

と(4)のパターンの結論が逆になります。

なんでそうなるのかということについては,佐久間先生の●「民法の基礎〈2〉物権」の84頁をみてもらったほうが早いのですが,94条2項の場合と違って,177条の「背信的悪意」の論点では信義則(民法1条2項)というものが根拠になっています。

そして,理屈的に言うと,信義則に反するかどうかは,個別に(人ごとに)判断することになっているので,Cが背信的悪意でなくても,Dが背信的悪意なら,Dは負ける,という結論になっているのです。

民法の勉強がある程度進んでいる人は,基本書を読み比べてみると思いますし,あまり民法の勉強が進んでいない人は,取り合えず「94条2項と177条で転得者の処理が一部逆だったな」ということを頭の隅に入れておけば良いと思います。





以上,取りあえず,第1問から第4問まで解説してみました。

需要がありそうで,私のやる気もあったら,また続きを書きたいと思います。

ではでは。

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司法試験の勉強は辛いのか?

司法試験に合格して弁護士になると

「仕事を辞めて司法試験に合格するなんで大変だったでしょ?」

「勉強は辛かったでしょ?」

と言われることがあります。



でも司法試験の勉強をあまり「辛い」と思ったことはなかったんですよね。

むしろ司法試験の勉強は「面白い」と思うことのほうが多かったです。




○司法試験の勉強は法学部の勉強とは違う

私は大学生の時は法学部に所属していましたが,当時は法律の勉強が嫌いでした。

法学部の勉強って,学者の先生が言いたいことを言っているだけだったりして,実際に生活や仕事にどう役に立つのかイメージできないので,つまらないと感じてしまう人は多いと思います。

でも司法試験の勉強は法学部の勉強とは違います。

司法試験は実務で法律を使いこなせるようにするための試験です。

単純に暗記ばかりしているわけではなく,推理小説を読むように事案を分析したり,スポーツのように問題解決の方法を繰り返し体に叩き込むような側面もあります。

司法試験の勉強をしていると自分が成長していることが分かりますし,新たな発見があるんです。




○仕事の辛さに比べばマシ

司法試験の勉強をあまり「辛い」と思わなかった理由には「一度仕事をした後に仕事を辞めて勉強を始めた」という点も大きいと思います。


確かに,思い返してみれば司法試験の勉強でも辛いことはありました。

法科大学院の定期試験前は泣きそうになりながら徹夜で勉強をしていましたし,「留年したらどうしよう」と不安で眠れないこともありました。

勉強時間も合計で5000時間くらいはしたと思います。

でも仕事の辛さに比べると,勉強の辛さなんて大したことないんですよね。



仕事をしていると,自分のミスは自分だけではなく周囲の人にも影響を与えます。

場合によっては自分のミスが他の人の人生を狂わせてしまう可能性もあるので,責任が重いです。


でも勉強は全て自己責任なので,失敗しても他の人に迷惑がかかることは少ないですし,失敗してもまたやり直せばいいだけの話なんですよね。

忙しい職場で仕事をしていれば1年間の勤務時間は2500時間を超えることも珍しくありません。

そう考えると3~4年で5000時間の勉強時間を確保するって,実はそんなに大変ではないです。


私がサラリーマンとして仕事をしていた時は20代にもかかわらずストレスで白髪がどんどん増えていきました。

でも,仕事を辞めて司法試験の勉強をするようになってから白髪はほとんど無くなりました。ストレスをあまり感じていなかったんだと思います。

そして,弁護士になったらまた白髪が増えてきましたので,やっぱり「仕事の辛さ>司法試験の勉強の辛さ」なんだろうなと思います。

とうことで司法試験の勉強の辛さなんて,仕事の大変さに比べれば全然マシだと思います。




○法科大学院について

他に司法試験の勉強をあまり「辛い」と思わなかった理由として,法科大学院で仲間が出来たことも大きかったと思います。

勉強って1人でやっていると辛くなってしまいます。

でも仲間と一緒の勉強をしていると「アイツも頑張っているから自分も頑張ろう」って思えますし,辛いことがあってもお互いにグチをこぼし合えるので,勉強が続けられなくなるほど「辛い」という状況には陥りにくいと思います。

法科大学院制度は賛否両論ありますが(現在は「否」の意見が増えているような気もしますが・・・),司法試験の勉強仲間ができるという点や,頼りになる先生に相談できる点では法科大学院に進学するメリットはあるのかなと思います。



○まとめ

司法試験の勉強を「辛い」と思うかどうかは,結局その人次第だと思いますが,法科大学院の同級生を見ると,勉強が「辛い」と言っている人はほとんどいませんでした。

「法律の勉強が面白い」と思える人や,「司法試験に合格するんだ」という覚悟がある人は,「勉強が辛い」と思う場面は少ないんだと思います。


司法試験に興味はあるけど,自分が「法律の勉強が面白い」と思えるかどうか不安だと言う人は,とりあえず簡単なところからでも良いので法律の勉強をしてみると良いと思います。

たとえば,宅地建物取引士,公務員試験,法学検定,ビジネス法務検定あたりから勉強を始めてみて,それで「法律の勉強が面白い」と思えるようになったり,「司法試験に合格するんだ」という勢いが出てきたら本格的に司法試験の勉強をしてみると良いと思いますよ。

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