こんばんわ。
今日の分を上げておきます。
なんだかだんだん事務的になってきたな…。

 

 はあ、と溜息をひとつ。首を回して後方へ視界をやる。
 まぁそれでも、僕にとっては大きな不満だけど、他人から見れば、世界から見ればそうたいした問題じゃないってのは、
「まだ楽な方だよな……」
 呟いて反転。自宅へ足を向ける。慣れない夜の散歩もここらでおしまい。今日は帰ったら頭を冷やす意味でもシャワーを浴びて、水でも飲んで寝てしまおう。
「なのはたちも――」
 友人の名を呼んだ。僕よりも大きな責任とさらに大きな使命感を持った三人。彼女たちが抱いてる不満はやはり大きいものなのだろうか。そして何より――
 こんな特別でなんでもない夜を過ごしたりするのだろうか。
 そう考えると急に愚痴だらけの自分が恥ずかしくなってきた。今こぼした大きい方の不満についてはまだ義憤と言えないこともないが、小さい方は完全に私事だ。
 近々、無限書庫の司書長が老齢を理由に退職することが決まった。となると後任の司書長を決めなきゃいけないわけだけど、ウチの同僚は僕も含め、見事に『向上心はあるが出世欲のない』人間ばっかり集まっているので、逆椅子取りゲームが始まる。……単に面倒事の押し付け合いとも言うけど。するとここで「貸しひとつ」が僕の背中をぎゅうぎゅうに圧迫してくるわけだ。
 まだなんとかのらりくらりと躱してはいるものの、旗色が悪いことは変わりない。さてどうしたものかな、という。
 それだけの。ただそれだけの小さな不満。
「なんなら他所様から来てくれてもいいんだけど、と」
 いつのまにか自宅アパートの前まで来ていた。造りは古めかしいが防音がしっかりしているところが気に入っている。
 カンカンカンとポケット探りながら階段を踏んで扉の前へ。取り出しておいた鍵をぞんざいに入れ込んで回す。
 ドアノブに手を掛け――

 桜色のにおいをうなじに感じた。

 持っていたカバンをその場に落とした。とさ、と軽い音。同時にゆっくりとドアノブを回す。回しきるまでに魔力を左手に集中させたい。間に合うか。戦闘魔導師としての腕が鈍りつつあるのは分かっている。それでも――間に合った。扉を引いてまずは耳で中の様子を伺う。無音。だが判る。なにかがいる。左手に留めてある防御魔法を結界魔法に切り替えるか。刹那の思索。自分の部屋を中心に結界を展開すれば万が一、大規模魔法が使われたとしても隣近所への被害は抑えられるし上手く行けば結界内部に侵入者を閉じこめることが出来るかもしれない。だが却下。いくら得手とは言え大規模結界魔法に切り替えるタイムラグは一瞬では済まない。その間に攻撃を受け破壊を撒き散らされるのが最悪だと判断。
 最良は――管理局に通報後、防御魔法を展開しながら突入。攻撃が来ればその途切れる瞬間、来ないのなら防御魔法に数秒間の持続追加詠唱エンチャントを掛けその間にバインド魔法を詠唱、侵入者を捕らえて公安に突き出す――こんなところだろう。
 だけど今日は、今だけは無理だ。
 今夜はもう君の名前を呼んでしまった。
 やれやれ、と首を振り大きく息を吸った。
 扉の隙間から滑り込むように室内へ入る。
「あいにくこの部屋には何にもないよ。心配性でね、盗まれたくないものはもっと信頼出来る場所に置いてあるんだ」
 仕事場の引き出しのことだけどね、と胸中で舌を出す。間違ってはいないだろう。ミッドチルダで管理局管轄下の施設に盗みに入る無謀を知らない者はいないし、よもや居たとしても一職員の私物を目的にするとは思えない。

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