こんばんわ。
というわけで今日の分です。
 

「……完全?」
 知らず、ユーノの喉から言葉が漏れていた。
 目の前の鏡像は、間違いなくなのはに似てはいるが、コピーには見えない。なにせ本物のなのはに対して、成長した姿である。加えて磊落に過ぎるその口調――
 おかしな空気が漂う。
 ユーノの感じた疑問はその場にいる全員に共通するものだったようだ。
 代表するつもりでユーノはそう口にした。
「うん、壊れてるんだ、オレ
 鏡像はあっけらかんと言った。
「……壊れ、てる?」
「あぁ。鏡笏がもとから壊れてたから壊れてるオレが生まれたのか、たまたまオレだけが壊れて生まれたのかは分かんねーけど、間違いなくオレは壊れてる。鏡笏本体としての記憶が僅かながらにでもあるのがその証拠かな。本来ならオレは、鏡が映した像に過ぎないんだから」
「普通に使えば、影は影であることを自覚しないまま生まれてくる、っちゅーことかな」
 はやての言葉に鏡像は顔をしかめた。
「分かりやすいけどその言い方はやめてくれ。鏡が映すのは光だよ。光しか映せないのが、鏡だ」
「鏡としての矜恃かな」
 ユーノが言うと鏡像は「ま、そんなところだ」と頷いた。
「でも壊れてる、って言っても機能を発揮できてないって意味じゃないぜ。本物の記憶、経験、性向――性能。性能スペックを映し取るのがオレ性能スペック。そこらへんは完全に機能してる。なんなら今日の昼食でも思い出しあててみせようか?」
「記憶、か――」
 面白いな、なのはが呟いた。
「じゃあ昨日の夜、何を食べたか思い出してみてくれないかな。私は忘れちゃったから」
 ――うまい!
 はやてとユーノは揃って喝采を送った。
 鏡像は当てる記憶の例に今日の昼食、と言った。だがこれまでの会話を聞いていればそんなものは簡単に推理できる。なのはたちは今日の朝から異世界に入り、遺跡を探索し、ロストロギアを発見してミッドチルダに戻り、そのまま鏡像の追跡を行っている。
 昼食を食べている暇などなかった。
 それが答えだろう。しかしこれに正答したからと言って本当に高町なのはの記憶を持っているかどうかは分からない。
 だからなのははあえて昨日の夕食を選んだ。一週間前の夕食のメニューでは曖昧に過ぎるが、昨日のならば明確な記憶として思い出せる。しかも本物のなのはは「覚えていない」と言っているのだ。もし何らかの理由で高町なのはの記憶を持っている、と擬装しようとする場合、本人の言に答えを左右されざるを得ない。
 果たして鏡像は苦い顔をした。 
「それ、答えなきゃダメか?」
「あれだけ自信満々やったんやから答えて貰わんと」
「そりゃそうだが……えーと、フェイトちゃん。答えていいのかな」
「はい?」
 何故自分が呼ばれたのか分からない、という態のフェイトだったが、すぐに顔を紅潮させて隣人に目をやった。
「なっ、なのは……っ!」
「へっ、なにフェイトちゃ――」
 なのはが言い切らないうちに耳元へ口をやり、何事か囁く。
 囁かれながら、なのはの目がみるみる開かれていった。
「あっ、ちょっ、待って。タンマ、違う日、違う日でいいから。別の日で、明日とか」
 それはもう記憶でもなんでもない。
 予定だ。
「……何をそんな焦っとるん?」
「駆け引きはいいけどさ。本当に忘れてるのかと思って焦ったぜ。昨日の夕食だよな?」
「ちっ、ちがっ。もうギブ。ギブでいいから!」
「……! …………!」
 早口で必死にまくし立てるなのはと白い肌を朱に染めてパクパクと声にならない声をあげるフェイト。
 ユーノは何がなんだか分からないまま、年齢相応の仕草だな、とだけ思った。
 鏡像は応えず、ただ疑問を口にした。
「昨日の夕食ねえ――食べさせた方か、食べさせて貰った方か、どっちを言えばいいのかね?」
 それは正答を兼ねる疑問。
「「……あぁ」」
 得心いったという風にはやてとリインが顔を見合わせた。
「まったくなぁ。オレとしちゃ楽しい記憶だから思い出すにはやぶさかじゃねーけど――」
 なぁ? と鏡像が二人に対して嗜虐の視線を送る。
 ただ一人、未だにどういうことか理解していないユーノが疑念の視線を送る。
 だがその視線が届くことはなかった。
 二人が視線を飛ばすより早く、なのはとフェイトはどしゃりと机に顔を突っ伏していた。
 真っ赤な耳が四つ、羞恥に揺れている。

第19話   第01話へ   第17話