2005年03月15日

【糸】

その男は鏡の前で首筋あたりから伸びる一本の糸を見つけた。

引っ張ってみるとそのまま伸びてくるので、衣類のほつれだと思い、時間も無かったのでその男はそのまま放っておいた。

その日の通勤電車は混んでおり、その男ももみくちゃにされながら耐えていた。

目的の駅に着き、その男は電車から降りた。

その男はいつの間にか飛び出していた例の糸が棚に引っかかっていることに気付かなかった。

糸をつけたまま電車は出発、その糸はシュルシュルと伸び続けた。

その男はホームを降りようと歩き出したが、直ぐに転んでしまった。

その男は自分の足を見て絶句した。

男の足はまるで毛糸のセーターがほどけていくように徐々に消えていっていた。

電車は進む、男から伸びる糸を引きずって。

とうとう首だけになっったその男の目に映ったのは、自分と同じようにホームに散らばる衣服のぬけがらだった。

電車は進む、糸となった男を引きずって。

終わり
  

Posted by monokakidoumei2 at 23:20Comments(0)TrackBack(0)