HAKATA PARIS NEWYORK

今のファッションを斬りまくる辛口コラム

本業はファッション、グラフィックなどデザイン関連のクリエイティブディレクター。創る側の視点で今のファッション関連の事情を評論する。マスメディアはもちろん、業界紙誌も扱わないテーマに踏み込む。

強者が負ける理由。

NJ-walmart お盆休みなので、別の業界について書いてみる。ちょうど1カ月前だった。「米国のウォルマートが傘下の西友を売却する検討に入った」とのニュースが駆け巡った。

 西友と言えば、1980年代に大躍進を遂げた西武セゾングループのスーパーで、店舗網の拡大によりその知名度を全国に広げていった。グラフィックデザイナーの田中一光氏とコピーライラーの小池一子氏らによってコンセプトが練られた「無印良品」。これもセゾンの総帥、堤清二氏から「西友のPBを作れ」との命によって開発された。

 NHK大河ドラマ「西郷どん」の原作者、林真理子氏は駆け出しの頃に、「つくりながら、つくろいながら、くつろいでいる」というコピーを書いている。西友DAIK(DIY館)が浜田山に開業する時のポスターに採用されたものだ。西友はセゾングループの傘下で、単なるスーパーの領域を超え、生活文化企業を目指していたのがよくわかる。

 ところが、90年代にはバブル経済が崩壊し、西友が抱えた東京シティファイナンスの不良債権は多額で、西武セゾングループは崩壊の一途を辿っていく。西友は生き残りを賭け、2000年に中堅スーパー「サミット」を運営する住友商事と業務資本の両面で提携。01年には筆者が住む福岡市のスーパー「サニー」を岩田屋から買収した。だが、翌02年には米国の大手ディスカウントストア「ウォルマート」が西友の株式6%を取得し、2008年には完全に子会社化してしまう。

 西友では大胆なリストラ策が断行される一方、ウォルマートの経営改革によりPBの「グレートバリュー」、 特売やチラシを廃止してEDLPを実践する戦略が取られた。新規出店ではウォルマート仕様の「トール什器」や「リーチインクーラー」(ドア付き冷ケース)、「LED照明付き冷ケース」などが完備された。什器は日本人の身長からすればやや高めだが、品出しの効率化を進め、冷ケースは冷房効率をアップさせて省エネにつなげる。西友では珍しく、サニーでは初めての「セルフレジ」も導入された。すべてコスト削減を狙うものだ。

 肝心な商品政策でも、ウォルマート流の製販同盟のもとで低価格路線の品揃えを実現しようとした。卸を通さず、メーカーとの直接取引に拘ったが、日本の消費者はNBからローカルブランドまで、バリエーション豊富な品揃えで買い慣れている。多品種小ロットの商品政策を実現するには、どうしても多彩な取引先を有する卸を介在させなければならない。グローバルに少品種大量販売を手がけて来たウォルマートには、どだい無理な話だった。

 日本は「お客がルイ・ヴィトンの財布からコインを出して100円ショップで買い物する」と揶揄されるほど、世界でも希有な市場。しかし、それにわずか2%の大金持ちと98%の貧乏人がひしめく米国のやり方が通じるわけはないということである。

 2003年3月、佐賀県で日商岩井が開発したSCモラージュ佐賀が開業し、西友がメガストアの「西友巨勢店」を出店した。東京の流通業界誌から原稿執筆の依頼を受けたので、佐賀まで取材に行った。「ウォルマート、日本初の大型店出店」「黒船、上陸」という格好のニュースでもあることから、在京メディアは色めき立っていた。

 日経新聞を筆頭に各ビジネス誌、はてはテレビ東京のワールドビジネスサテライトまでが大挙して押し寄せ、キャスターの塩田真弓はカメリハまでやってた。記者会見でメディアが質問するのは、西友についてばかり。核店舗にはミスターマックスもあったため、司会者が「ミスターマックスさんへの質問もお願いします」と、西友への質問を遮る一幕もあった。これには平野能章社長が苦笑いしていた。

 この後の報道では「地元スーパー、流通業は苦戦は免れない」という論調ばかり。「お店の隣に世界最大のウォルマートが出店すると、どうしますか」と、扇情的な見出しを付ける業界誌もあった。ところが、2010年、西友巨勢店は10年も持たずに撤退した。

 チラシを打たずにEDLPを謳い、エンドにロールバックの安売りの商品を積み、 店頭に97円のバナナや日配に100円の白菜漬、常時41~50%割引の冷凍食品を置いたくらいで、 絞り込まれた品揃えに簡単に手を出すほど、日本の消費者は甘くない。チョコレートやクッキーも、外国産で割高では、お客は手を出す気にはならない。

 特にスーパーがいちばん力を発揮すべき「生鮮三品」で、西友巨勢店は地元佐賀の食品スーパーや朝穫れ野菜、産直魚介類を扱う道の駅に歯が立たなかった。もちろん、衣料品なんかは語るに足るものすら無い。所詮、メディア特有の東京目線では、地方の市場なんて全く見えていなかった証左である。 

sunnyakasaka 一方、西友傘下となったスーパー、サニーは筆者も20年以上御用達にしている。事務所近くの赤坂店では頻繁に買い物しているので、西友系になる前と後の変化も細かく見て来た。西友巨勢店が苦戦した理由は、サニー赤坂店でも同様に感じる。また、赤坂店では西友に買収される前には、店頭製造の「デリカ(惣菜)」もあり、たらの芽の天ぷらなど旬の素材を生かしたメニューが豊富だった。

 しかし、西友系になるとコロッケや魚のフライなどの揚げ物系に絞り込まれ、しかも工場一括製造・配送に切り替わった。メニューのバリエーションが無くなり、昼食、夕食に合わせた「作りたて」もなく魅力も半減。しかも製造専門のパートスタッフが要らないため、雇用も創出されない。店舗の隣にハローワークがあることで、ウォルマート流のコストダウンは地域住民が働く場所さえ奪っていくのかと、身につまされてしまった。

seiyuhonten ただ、サニーも2015年3月末に福岡・熊本で11店舗を閉店している(赤坂店は営業中)。この中には08年に新規出店した南熊本店も含まれる。ここのオープン日には東京・赤羽の西友本社から商品部、店舗開発、広報部などのスタッフが乗り込み、成りもの入りで新店舗をメディアに公開した。しかし、西友に買収され、ウォルマート流の運営に切り替えたサニーは、既存店の寿命まで縮めてしまう皮肉な結果を残したのである。

 食品スーパーの中には、利益が取れないグロサリーをセーブし、生鮮と日配に重点を置くところもある。野菜はカットせずに丸ごと1点から、魚は1匹売りで注文に応じて捌き、刺身は冊で販売してお客に切ってもらうなど、加工コストを下げて価格に転嫁するのだ。これが食べ盛りの子どもを持つ主婦や料理慣れした中高年、飲食業者を惹き付けている。こうしたきめが細かく、臨機応変な販売手法は、大味で詰めが甘く効率重視の外資系スーパーにできるはずもない。



西友を立て直せる企業は?


 結局、ウォルマートが西友を立て直せなかったのは、日本市場を低価格戦略だけで簡単に攻略できると見くびったことだ。ただ、メディアの関心は、立て直し失敗の要因ではなく、ウォルマートが西友をどこに売却するかに移っている。その候補については、苦戦するGMS再建に白羽の矢がたった「ドンキホーテ」か、3月に新たな合弁会社「楽天西友ネットスーパー」を設立した「楽天」かと、目されている。

 西友の既存店は全国に335店舗もある。ほとんどは建物が老朽化しており、ドンキホーテに変わっても、居抜きで利用するには限界がある。駅に近い立地の店舗は不動産価値が高いと言われ、東京(78店)、千葉(13店)、神奈川(20店)はデベロッパーなどの売却することで収益を得ることもできなくはない。

 仮にドンキホーテが手を出すにしても、一括買収と言うよりデベロッパーなどを介して、自社業態にふさわしいところを選り抜くのはないかと思う。一方、楽天はネットモールでは実績があるが、リアル店舗の運営ノウハウを持たないから、手がけられるかは未知数だ。識者の中には、楽天購入の商品の受取拠点やキュレーションの場に活用すればいいという意見もある。はたしてどうなのか。

 まあ、EC礼賛の諸兄は、ネットスーパーに関して好意的に見ている。しかし、グロサリーや衣料、日用雑貨ならいざ知らず、生鮮は鮮度のいい物が買える食品スーパー、朝穫れ野菜の産直魚介を揃える道の駅に簡単に勝てるのか。個々の店舗が単独でネット注文を受けるにしても、その分の在庫やデジタル専門の要員はどう確保するか。既存店の店売り在庫を流用すれば、逆に来店したお客の機会ロスを生むリスクもある。

 ダイエーの時代ですら一旦物流センターに集めて、各店にデリバリーしていたため、生鮮品は鮮度が落ちて競争力を失っていた。ネットで購入する層は魚を三枚おろしにはできないし、核家族にはカット野菜でないと売れない。店売りと同様に加工もしないといけない。そうした手間をかけて、ネット向け商品は鮮度保証ができるのか。楽天がネットスーパーで西友を立て直すにしても、それがいちばんの懸案だと思う。

 第一、天候不順などで青果が不作、鮮魚が不漁なった時、ネットスーパーなら確実に商品が手に入り、価格も据え置きなんてことは、現実的にあり得ない。結局、お客は商品が手に入らなければ、近場の店まで探しに行くしかない。バーチャルがリアルを超えられない現実がそこにはある。

 今、流通業界、関係メディアはAmazonの一人勝ちに戦々兢々としている。Amazonは17年6月に自然・有機食品の米小売り大手「ホールフーズ・マーケット」を137億ドル(日本円で約1.5兆円)で買収した。今度は逆にリアル店舗の展開とともに、世界規模のオムニチャネルの実現とあらゆる業界シェアの独占、オンラインにおける即時配達の普及、そしてECと相性が悪い食品市場への進出を狙っている。

 ただ、コンビニのAmazon Goは別にして、生鮮食品などを扱うAmazon Freshが日本市場で成功するかについて、筆者は懐疑的である。前出のように日本の消費者はブランドや産地はもちろん、加工調理や鮮度管理まで厳しい目をもつからだ。カルフールやテスコですら、こうした問題に対応できずに撤退した。ウォルマート傘下の西友しかりである。資本力や規模をもつAmazonであってもクリアする課題という点では、まだまだハードルが高いように感じる。

 その意味で、楽天が西友を買収するかは、Amazon Freshの手法や状況をじっくり観察した後に判断するのではないかと思う。信販事業といい、球団経営といい、携帯電話といい、楽天は後だしジャンケンなら得意だし。まあ、ネットモールで加盟店から手数料を得て成長した楽天に流通、スーパーを任せられる人材がいるとも思えないが。

 スーパーや流通の課題に向き合うには、「店頭の商品を手に取って徹底的にチェックした上でさらに選り抜き、いかに楽しい生活を提案できるかに拘ることから始まる」。これは全国一視察が多いと言われるスーパー、ハローデイのトップが当方が仕事で接したときに語った言葉。まさに西友がダメな点、ウォルマートが再生できなかった理由を如実に言い当てていると思う。

 日本人の商慣習を甘く見て、少品種大量販売による低価格、卸機能を軽視してPBや二流、三流ブランドばかりを揃えるようなやり方で、簡単に日本市場が攻略できるはずはない。つまり、流通外資は負けるべくして負けたのである。 勝ちに不思議の勝ちがあり、負けに不思議の負け無しなのである。 

 Amazon Freshが日本市場にどう挑むかを見ながら、西友はどこの手助けで蘇ることができるのか。その担い手は外資でも大手でもなく、愚直にスーパー事業を進める日本企業であるような気もする。

無ければ創るだけ。

2018.0808leathermain 昨日は「小倉井筒屋の3店舗閉鎖」について書いた。ただ、地方百貨店の厳しさは、九州の各都市では今後も続くのではないかと思う。一方、大都市の百貨店は市場規模、顧客の可処分所得、根強い支持、ブランド志向等々から、依然として攻めの経営が続けられるようだ。

 先日、そんな百貨店の代表格、阪急うめだ本店が『OTONA LEATHER』by AOYAMA LEATHER」というレザーウエアのオーダーイベントを行っているとの情報を得た。6階の婦人服売場コトコトステージ61で、8月14日まで開催中とのことだ。http://www.hankyu-dept.co.jp/honten/information/ladies/madam/00663224/?catCode=101001&subCode=102003

 HPを見ると、「デザイン・サイズ・レザー・カラーを選んでお客様好みの一着を作ってみてはいかがでしょうか」と、お客に投げかけられている。同フロアが対象とする40代~50代の女性が「革の質感や色、サイズを自分の好みに合わせて購入したい」との要望をもつことから実施したという。

 筆者がいたマンションアパレルの取引先でも、かつてはオーダーの受注会を開催するところがあった。当時は今よりファッションへの関心ははるかに高かったし、お客さんはでき上がった服への目利きも鋭かった。そうした点で、ショップ側も既成服だけではすべてのニーズには応えられないとの判断から、誂えに対応するメーカーに依頼し、受注会を企画していたのだ。その中にレザーウエアもあったと、記憶している。

 うちのメーカーは既成服オンリーなので、とてもそこまで対応できなかったが、ショップからすればお得意さんの声を一つ一つ拾い上げて一定の規模に達すると想定できれば、ビジネスとして考えざるを得ない。その一つがオーダーだったのだ。東京や大阪のようなお客の可処分所得が高い都市では、昔から代わることの無い安定したニーズなのかもしれない。それを決して放っておかないのは流石、阪急百貨店である。

 今回のイベントで提案されるアイテムは、この秋のトレンドになりそうなノーカラージャケットから、定番のライダーズ、女性ならではのショートボレロ、ロング丈ガウンまでの4型。革はスペインラム、シープなどの3種類、計14色から選べるという。サイズはノーカラー、ライダーズが7、9、11号、ショートボレロ、ロング丈ガウンが7、9号に対応してくれるそうだ。

 価格は6万円代~16万円代。革を鞣したり、染色するのに1カ月から1カ月半、それから縫製を行うので、完成までに2カ月程度かかるようだが、これもオーダーならば順当なところ。厳密に言えば、決まったデザインから選び、サイズを調整するパターンオーダーということになる。それでも、量販品にはない、自分だけの1着が作れるわけだから、価格的にも妥当なラインだと思う。

 今回のイベントは女性向けに限定されている。男性の場合は、ZOZOTOWNがゾゾスーツを使った採寸のデジタル化で仕立てるオーダースーツが注目を集める等、まだまだスーツが主流になる。でも、安さばかりが訴求される既製スーツが売れなくなっている一方、パターンやイージーとバリエーションの豊富さ、価格面など敷居が下がったことで、割高なオーダーが人気を集めているのも、何となくわかる気がする。

 ただ、メンズレザーのオーダーになると、バイカーなどマニアック向けの誂えが主流で、気軽に注文できるとまでは行かない。モード系もないことはないが、工房は東京に集中しているから、デザインから採寸、型紙制作、仮縫いまで考えると、どうしても注文には二の足を踏んでしまう。

 こればかりはネットでやり取りすると言っても、微妙な感覚のズレが埋められなければ、仕上がった時に「こうじゃなかったのに」となるリスクを伴う。だから、今回の『OTONA LEATHER』by AOYAMA LEATHERのような催事を、百貨店がメンズでもやってくれればいいのにと、ずっと以前から思っていた。

 というか、2011年に博多阪急が開業する時、売場20カ所に「コトコトステージ」と名付けたスペースが開設されると、リリースされた。駅利用客が百貨店に立ち寄っても常に飽きさせない工夫を凝らすため、常時何らかのイベントを仕掛けるということだった。ちょうど、買いたい服が中々見つからない時期で、折角、阪急が九州に上陸するのならと、思い切って開設準備室に「ぜひ、メンズのレザーウエアのオーダーイベントを実施してほしい」との願いをしたためて、手紙を出した。

 すると、ご丁寧な返事が来て、それには「福岡のお客さまからいろんな要望が来ていますので、鋭意検討の上に、実施していく考えでございます」と、記されていた。その時は阪急の本店で、レザーのオーダーイベントが企画されるなど、知る由もない。しかし、今回、阪急うめだ店のイベントを知って、女性と男性の違いはあるにしても、大人のお客は同じことを考えているのだと、改めて痛感した。

 市場にはチープな既成服ばかりが氾濫している。売場に並んでいる商品を見て、いざ購入するかどうかの段階になると、数千円ですら払う価値は無いと、思うことが少なくない。成熟した大人にとって、それほどブランドに拘らなければ、オーダーの方が良いかってこともある。素材や色が選べて体型にもフィットする、自分が思い描いたデザインに近い形に近づくのなら、なおさらそちらの方が良いからだ。

 メンズのオーダースーツがイージー、パターンと人気を集めているのも多少の温度差こそあれ、もう安いカジュアルウエアなら、何でもいいやって共通認識になりはじめている裏返しではないか。

 ただ、百貨店がメンズレザーのオーダーイベントを開催するのは、まだまだ時期尚早だろうか。企画会議に持ち上がるにしても、東京や大阪の店舗が先行すると思う。福岡ではいつになるわからないので、前々から考えていたマイオリジナルデザインのレザージャケットをこの秋に制作することにした。

 企画構想から10数年、デザインは10年前にし終え、パターンも周囲のアドバイスをもらいながら、何度も微調整を加えてトワルまで作り上げることができた。サウジアラビアンラムの革、YKKの高級ジップ・エクセラの手配も終えている。後は工場の職人さんと最後の詰めを行えばいいだけの段階にきている。

 春レザーなので、早くても年末、遅くとも1月中に完成すればいい。お盆明けにゴーすればいいだろう。もう10年以上、まともな服を買っていない。だから、これくらいの贅沢はいいかなとも思う。

 まあ、百貨店やセレクトショップの手法を批判したところで、自分の感覚にどストライクの服が並ぶことはないだろうし。無いものは創るしかない。クリエイティブワークに携わるものとして、挑戦する方が得るものは大きいはずだ。あと何年生きられるかはわからないので、一生もののレザーウエアにしたいと、考えている。

求心力を持たない証し。

coret-google1 7月31日、福岡・北九州市の百貨店、井筒屋がJR小倉駅前の「コレット」、同黒崎駅前の「井筒屋黒崎店」、山口県宇部市の「井筒屋宇部店」の3店舗を来年5月までに閉鎖すると発表した。同社の2018年2月決算は、売上高が783億400万円(対前年比1.7%減)、営業利益が11億4,700万円(同17.7%減)と減収減益。業績は9年連続で減少しており、これ以上傷口が広がらないうちに手を打ったかたちだ。でも、地元経済界にとっては、まさにに青天の霹靂、寝耳に水の話だったようである。

 北九州市では、前任の末吉興一市長時代から「北九州ルネッサンス構想」をはじめとした数々の地域再生策が実行された。その中にはJR小倉駅前の再開発事業やアジア太平洋インポートマート(AIM)の整備などがあり、大型商業施設の誘致が積極的に行われた。その一つが百貨店の「小倉そごう」である。

 同店は1993年、小倉駅前再開発で誕生したテナントビル、セントシティ北九州(現コレット)に出店したが、2000年に閉店した。親会社そごうの経営破綻が原因で、小倉から西に13kmほど離れたJR黒崎駅前の「黒崎そごう」も同時に閉店している。その後、ビル側は別の施設誘致に動き出したが、各フロアには地元地権者の保有床が虫食い状態で残り、地権者の思惑の違いから中々コンセンサスが得られず、誘致は難航した。

 結局、破産管財人を介して、地権者保有床を北九州都市開発が賃借することで商業ビルの権利を一本化し、4年後の2004年に小倉伊勢丹」が出店した。しかし、伊勢丹にしても新宿店のようなMDが実現できるはずもなく、また小倉では地域二番店に過ぎなかったことから、わずか4年で撤退を余儀なくされてしまう。

 そんな曰く付きのビルに地元経済界たっての願いから、井筒屋がコレットを出店したのは、伊勢丹撤退後の2008年のことだった。西に400mほど離れた「井筒屋本店」との2館体制が実現したわけだが、同社は01年には黒崎そごうの跡地にも井筒屋黒崎店を出店している。もっとも、2つの大手百貨店でさえ運営に苦しんだのに、一地方百貨店がそう簡単に軌道に乗せられるはずもない。

 出店翌年には営業不振から、井筒屋はコレットの構造改革に着手するはめになる。自社の社員を半減させて、大半をテナントに任せる方法だ。ところが、顧客によっては好きなブランドが出退店する痛し痒し状況。経営側も「このままではジリ貧になる」のは気づいていたはずだが、出店間もないこともあり、問題を先送りしたに過ぎなかった。

 結局、井筒屋全体の業績は上がるどころか、9年間も下がり続けている。ここまで来れば、立て直しができるどころの段階ではない。いちばん楽な不振店舗の閉鎖、本丸の本店への投資集中しか、選択肢は残されていなかったということだ。

  他の商業施設にしても惨憺たる有り様だ。アジア太平洋インポートマート(AIM)はコストコ誘致に失敗し、代わって渦中の「大塚家具」が1999年にショールームをオープンしたが、10年の契約期間終了で2009年に閉店。その2年前には、「ラフォーレ原宿小倉」も撤退している。自治体主導で莫大なインフラ投資を行った再開発事業は、商業活性には何ら効果を発揮できないままなのだ。


 現・北橋健治市長は、八幡東田地区のスペースワールド跡地にアウトレットを誘致する構想を打ち出しているが、実現すればわずか6キロほど東に位置する小倉地区が影響を受けるのは間違いない。もちろん、井筒屋もそれを見越した本店への集中投資なのだろう。だが、百貨店自体が時代にそぐわなくなっているのを考えれば、テナントビルに切り替えるなどドラスティックな政策をとらない限り、売上げの維持すら望めないと思う。

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 井筒屋の影山英雄社長は、3店舗閉鎖の理由を次のように語った。①「コレットや黒崎店の営業を継続するために(家主に)家賃の引下げを懇願したが、難しかった」、②「5万㎡の本店、3万㎡のコレットを区別して運営できなかった」、③「カード会員も年ごとに利用しないお客が増えるなど高齢化にも対応できなかった」

 ①は収益が上がらなければ、コストを下げざるを得ないということ。バブル崩壊の影響、デフレ禍、中間層の没落など、中価格帯から高級品が売れなくなっている状況で、百貨店はいちばん影響を受けている業態だ。しかし、出店立地は両店とも駅前の一等地。家主が簡単に家賃を下げるとは思えない。

 しかも、コレットが入居するビルは、管理会社が地権者から保有床を賃借している弱い立場。「(地権者から)家賃を下げるくらいなら、他に貸せばいい」との反発があったとしても不思議ではない。再開発立地とは言え、実情はシャッター通り商店街と何ら変わらないのだ。高い家賃を払うには、高価格帯の商品を売るしかない。でも、一地方百貨店にGINZA SIXのような高級ブランドが集まるはずはないし、中価格帯の量販政策にしてもコマ不足は否めない。

 ②は百貨店経営のセオリーから言えば、2館が離れた場合は成功しないという顕著な事例。コレットを完全にテナントビルにすれば良かったのだが、取引先との関係から委託販売、消化仕入れの形態も残したわけだ。しかし、これで商品政策やターゲット設定が中途半端になってしまったのである。

 本店をマチュア、アダルト向き、コレットをヤング向きにする方法も考えられたと思うが、3万㎡を完全にヤングブランドを埋められるほど、井筒屋が取引先のコマをもっているとは思えない。しかも、コレットの真向かいの小倉駅には、JR九州運営の「アミュアプラザ小倉」があり、人気ブランドや有力セレクトショップが出店している。コレットでも若者向けのフロア「KOCO GIRLS(ココガールズ)」 を設け、他にも新規ブランドの導入を試みたものの、なかなか売上げ増の起爆剤にはなり得なかったようだ。

 井筒屋本店にはかつて九州で唯一店舗展開する「Y-3」があった。筆者も出張の際には必ず覗いて何度が購入したことがある。しかし、ブランド側は「福岡市に路面店を出した方が集客とも売上げとも期待できる」との判断から、2014年秋にうちの事務所近くの福岡大名に直営店をオープンし、井筒屋から退店した。つまり、井筒屋は全体売上げが下降線を辿ったことで、ブランドを福岡に奪われていく負の連鎖に陥ってしまったのだ。これを挽回するのは容易ではない。

 ③は百貨店のカードホルダーが加齢とともにメリットを感じなくなっていること。消費の中心となる世代なら、来店しただけでポイントが貯まるのは魅力的だ。しかし、買い物内容が限定されていくと、カードそのものの保有が面倒になる。また、JR九州など他社のカードが定期的にポイント還元などのキャンペーンを展開すれば、消費意欲の旺盛な世代が歳を重ねたとしても、メリットの薄い百貨店のカードに乗り換えるとは考えにくい。

 百貨店のハウスカード導入時は、「顧客の囲い込み」「購入履歴からビッグデータ入手」などが盛んに謳われた。しかし、カードそのものが利用されていないわけだから、顧客を囲い込んでも購入履歴から得られるデータは、とてもビッグデータとは言い難い。そんな脆弱なカードがMD構築や仕入れに生かせるわけがないのだ。

 運営側が「サイレントマジョリティ」なんかと唱えたところで、お客の心理は「買いたい商品がなければ、買わないだけ」と、いたって明快だ。今の時代、Webのオーディエンスデータの方が確実かもしれない。まあ、カードにしても今日では利用範囲が広く、ポイントも貯まる鉄道系などが主流になっており、ホルダーはそれも多くが2枚、3枚と持っている。消費行動を考えるとネットもあるわけだから、なかなかワンストップショッピングというわけにはいかないのが現状だ。

 ここ数年、関東、関西を含めて大手百貨店の地方店が次々と閉鎖されている。筆者の推測では年商150億円が地方百貨店の損益分岐点ではないかと思う。井筒屋の場合は3店舗の閉鎖で260億円の売上げを失うというが、この数字を見るとすでにペイラインをはるかに下回る瀕死の状態と想像される。

 ローカルメディアは閉店報道で、こぞって地元の「惜しむ声」を拾い上げる。また、中高年が主力の客層である百貨店の閉店は、「周辺の顧客離れに直結する」と、警鐘を鳴らす。しかし、本当にそうなのだろうか。実際のところは、地元住民が百貨店で買い物をしなくなったから、閉鎖に追い込まれているのではないのか。取材を受ける側のお客も日頃は激安スーパーやドラッグストアで買い物しときながら、百貨店の包装紙が使えなくなると不満を口にするは、あまりに虫が良過ぎる話ではないのか。

 全国メディアでは取り上げられていないが、コレットには近隣商店街に店を構える専門店もテナント出店している。開業時に井筒屋側から依頼を受け、商店主は百貨店に出店するステイタスから快諾したようだ。しかし、今回の突然の閉鎖については、事前に何の連絡もなかったと困惑する。閉店に向けて従業員の雇用をどうするかという懸案もあり、問題はまだまだ尾を引きそうである。

 デパートメントストアという響き、豪華は店構えとディスプレイ、世界各地のブランド、銘品のラインナップ、それらが醸し出すイメージとステイタス。こうした百貨店像はすでに過去のもので、栄華と繁栄はもはや神話と化したと言ってもいいだろう。

 地元紙は(コレット)撤退により、小倉都心部の求心力に大きな影響を与えるのは必至だ」と、結論づけている。しかし、そもそもコレットや他2店は端から求心力がなかったからこそ、ずっと営業不振が続いたのだ。しかも、売上げが上がらないのは、地元のお客にとって百貨店なんか無くても、生活に困らないとの無言の意思表示と受け取れる。これこそ、サイレントマジョリティではないのか。

 すでに百貨店が小売りの雄というのは神話に過ぎないのに、メディアが未だに「求心力」を持ち出すことに唖然とする。情緒論だけで百貨店経営、小売業は語れない。コレットが撤退しても、ビル自体は居抜き店舗として存在する。管理会社はすでに地権者側から次の施設誘致を求められているのは想像に難くない。これが現実なのである。

 ここからはあくまで筆者の推測だが、後がまには百貨店業態から定期借家契約型業態、いわゆるSC(ショッピングセンター)に転換した「マルイ」が出店するのではないかと思う。同社は政令指定都市にドミナント展開する計画をもっている。2016年4月に博多マルイをオープンしたことを考えると、順当に行けば次は小倉出店になるだろう。

 小倉マルイが実現して年商100億円規模でペイすれば、皮肉にも小倉駅前の一等地でも百貨店業態は通用しないことが裏付けられる。はたして、小倉はピンチをチャンスに代えることができるのだろうか…

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