HAKATA PARIS NEWYORK

今のファッションを斬りまくる辛口コラム

本業はファッション、グラフィックなどデザイン関連のクリエイティブディレクター。創る側の視点で今のファッション関連の事情を評論する。マスメディアはもちろん、業界紙誌も扱わないテーマに踏み込む。

一歩先は譲れない。

kikuchiasahi 11月18日の福岡市長選を前に、メディアはどう深堀りするか。現職の高島宗一郎市長が当選するのはほぼ間違いないので、選挙での関心はメディアの論調でしかなった。そこで、4日の公示日前後から市長選に関連するあらゆる記事を探した。行政批判がお得意の地元メディアはもとより、仕事の合間に事務所近くの図書館にも出かけ、大手新聞の地方版から地元紙の社会面まで読みあさった。

 もちろん、今回のテーマは市長の公約でも、その一環で実施されるファッション事業でもない。市長選関連の記事を読んでいる時、偶然見つけた朝日新聞文化面の「語る人生の贈りもの」で、10月29日から11月14日まで(連載14回)連載されたファッションデザイナー・菊池武夫氏についてである。このコラムでもだいぶ前に商社の三井物産が菊池氏が創設した「ビギ」を買収する話は取り上げた。

 その時は筆者が高校、大学と過ごす中でビギファンの知人、また社会人になってからアパレル関係者から伝え聞いたことを書いただけだ。何度か雑誌に掲載された菊池氏のコメントを読んだこともあるが、ご本人が回顧録のように語るのは、久々ではないかと思う。朝日新聞が菊池氏にご登場を願ったのは、アカヒ新聞と揶揄されるのを払拭したいわけでもないだろう。まして読者の中にいる往年のビギファンを意識する必要もない。

 文字数がそれほど多いわけではないので、インタビューからエポックな部分を切り取っただけと思うが、菊池氏が自分の言葉で語っているので、朝日側があえて脚色する必要もない。惜しむらくは、日経新聞の私の履歴書のようにロングランにしてくれれば良かったが、そうしないところが朝日の所以かもしれないが。まあ、筆者が知らなかったエピソードや記憶の曖昧だった部分がハッキリしたのは良かった。


 では、印象に残った菊池氏のコメントを抜粋してみたい。


 「アトリエはお店の中にもあるんです。服や靴、酒も遊びも仕事もあって、生活に必要な物全てが一緒、という感覚が昔からしっくりくる

 このライフスタイルには共感するところがある。菊池氏と比べるなど恐れ多いが、筆者もニューヨークから戻り、地元福岡の中心部に見つけたワンルームマンションに事務所を構えて20数年。郊外にある自宅から通えないことはないが、オフィスにはクリエイティブワークの道具はもちろん、日々の暮しに必要な最低限のものは揃えているので、仕事や余暇、ウエルネス(フィットネスやランニング)といった生活の拠点になっている。

 同じビギグループの「パパス」でデザイナーを務める荒巻太郎氏は、平日は都内のアトリエでほとんど過ごし、週末に箱根か熱海かの自宅兼ジムでトレーニングに励むとの記事を読んだことがある。メリハリをつけたいデザイナーはそうかもしれないが、オンとオフがコンパクトに一つの空間やエリアでまとまっているのは、非常に楽だ。楽しむのは仕事だけじゃないって感覚が有意義な人生に繋がると思う。


 「ヨーロッパ的な作りに見えるかもしれないけれど、実はむしろ日本らしさをいかに出すかを考えましてね。日本人の平面な体形や個性に洋服が合うように、シルエットや素材を工夫したんです

 これはすごくよくわかる。60年代後半から70年代にかけての日本の服づくりは、今ほどブランドが出回っていなかったため、知名度に頼るのではなく、素材やシルエットでクリエイティビティを発揮し勝負することができた。そこには、洋服好きのお客さんを知る目利きなバイヤー。彼らと喧々囂々のやり取りをするアパレルの企画担当者。もちろん、テキスタイルメーカーや縫製工場の協力があったのは言うまでもない。

 こうして原宿や青山などではマンションアパレルが誕生し、デザイナーや企画力で時流に乗ったところは、DCアパレルへと駆け上がっていった。その代表格がビギである。それまでのレディスファッションはコンサバで上品か、フェミニンで可愛いものが主体だった。しかし、ビギはそうした服とは一線を画すアダルトな雰囲気とエッジが効いたシャープな感覚を持っていた。菊池氏の工夫がそんな世界観を創り出したのだ。

 もちろん、そうした服づくりができたのは、菊池氏が専門学校でしっかり技術を学んでいたからだ。それが原のぶ子アカデミー(現青山ファッションカレッジ)での学習体験ではないだろうか。


 「原先生は布をトルソー(人台)に直接当てて、自分の考えるフォルムにしていくパリ式の立体裁断を教えていました。僕はその仕方で美しい形を作ることに没頭した

 原のぶ子アカデミーは、他の専門学校とは異なる人台(仮縫いするためのトルソー)を使っていた。フランスの「クリスチャン・ディオール」と同じものだ。当時、服づくりでは世界の最先端を行っていたフランス製ゆえ、人台の形状はとても優美で、人間の理想的なプロポーションを映し出していた。

 菊池氏と専門学校の同級生で一緒にビギを創立した稲葉賀恵氏も、洋裁師である筆者の母親が愛読していた雑誌「ミセス」か、「装苑」かで、同じようなことを語っていた。70年代、稲葉氏はファッション誌で洋服や着物を着てグラビアを華々しく飾っていたので、てっきりモデルだと思っていたが、記事を読んで本業はデザイナーだと知った。

 稲葉氏は原のぶ子アカデミーで「いろんな生地の糸抜きをした」とも語っていた。そこで布というものを知ることができたから、布目がよれた状態で裁断したり、縫製すればシルエットが変わってくるとも。生地のうねりや歪みを知るからこそ、それをデザインに生かせるわけで、それがビギのクリエーションを生み出すベースになったのは言うまでもない。


 「センスを磨くには知性しかないと思います。(中略)周りのことを全部理解して、整理して判断できる人。自分独自の考えを周りに巻き込まずにやり通す人です

 この行は、中高年男性が大半を占める朝日新聞の読者に対し、菊池氏の言葉を借りた朝日のメッセージのようにも感じる。特に現役時代は政治や経済、スポーツの紙面しか読まなかったが、リタイアして少なくとも文化面にも目を通せる余裕ができた世代への提案だろうか。

 いくら反日メディアとは言っても、広告収入で成り立つコマーシャルペーパーに変わりはない。面と向かって、中高年の男性に「もっとお洒落になろう」なんて、ベタなコピーが通用しないのは、朝日も承知のはずだ。

 むしろ、知性も学歴も一定のレベル以上だが、仕事優先で文化芸術にはほとんど感知せず、センスを磨くこともなかった企業戦士。それがリタイア組になったことで、時間もお金もあるのだから、衣服にも多少の興味を持ちセンスアップしてほしいとの願い。それが新聞社として広告スポンサー獲得に繋がるからだ。この辺は菊池氏も気づいていると思うが。


 「僕らの仕事は、時間を戻したり進めたりする力がないとやっていけない。アーティストのようであるけれど、着てくれる人とキャッチボールして、現実より一歩先を提案しなくてはならない

 服を着る人間は、洋の東西で体格の差こそあれ、普通の人なら手足と胴体、首、頭という部位は共通する。その中で、デザイナーは1枚の布が命をもつように服を創っていく。生物創世記さながら、海のように混沌としながらも、柔軟な発想がなければできないこと。人が着ることができるという意味で、服のデザインや形状は決まっていても、その時々のエッセンスや空気観を打ち出して、いかに斬新なものを表現していくか。それは着てくれる人との何気ない会話の中からヒントが見つかることもある。

 1975年、菊池氏は稲葉氏と63年以来の夫婦生活にピリオドを打った。そして、ビギの大楠祐二代表に独立をに願い出た。前年の74年、菊池氏はニコルの松田光弘氏や山本寛斎氏、コシノジュンコ氏らと「TD6」を結成。日本で初めてデザイナー集合ショーを開催した。その時、初めてパリコレに参加した寛斎氏の話に刺激を受け、国内マーケットだけを相手にする大楠代表の経営方針に疑問を抱いたのだ。

 「現実より一歩先を提案しなくてはならない」という思いは、デザイナーとしての血が滾るからこそだ。それは今も決して変わらないのだと思う。菊池氏はビギを退社して、メンズビギを設立した。だが、マーチャンダイジングを無視し、自分の思い通りのデザインをしたために事業に失敗し、ビギに舞い戻っている。

 ただ、その反省とワールドへの移籍など40年以上の時を経て、ファッションというビジネスを受け入れる人間的な度量も備わったのだと思う。それは「着てくれる人とキャッチボールして」に凝縮される。ビギの大楠代表が「感覚は新しすぎてはいけない。半歩先だ」を持論にしていたのに対し、菊池氏が「一歩先」を今さら持ち出すところは、当時からデザイナーとして譲れない決定的な違いではないのか。もっとも、「半歩先はつまらない。着るならやっぱり一歩先がいい」と支持するお客は、昔も今も一定数はいるはずである。


 「服作りではアジア諸国のパワーは増すばかりだし、市場では高感度で安価な物が求められている。そんな中で色々と提案しながら時代にフィットする答えをみつけていきたい

 80歳に近づくも、今なお現役の菊池氏がこう語るのだから、われわれ若輩者が妙に業界や服づくりに解を求めるなんて愚かなこと。いろいろ考えながら、あれこれ悩みつつやっていけばいいのかもしれない。むしろ、菊池氏の「語る―人生の贈りもの」は、これから業界を目指す若者にとっての気づきに繋がるのではないかと思う。

 このコラムを読んでいる学生諸君はほとんどいないと思うが、誰かのシェアで菊池の語るに触れる機会があり、全編を読んでみようと気になっていただければ、幸甚である。ネットで朝日の記事を読むには通信費がかかるが、公立の図書館なら朝日新聞のバックナンバーは無料で閲覧できるのだから。



Green Fridayへの一助。

blackfriday アパレル業界にとって10~11月は、卸先の小売店やショップに秋冬物をプロパーで売ってもらう月だ。卸側は販促イベントを仕掛けるわけではないが、最近は小売業もハロウィンが終わると、消費を盛り上げるにも手詰まり感は否めない。そこで、11月に入った途端、クリスマスプロモーションの企画を打ち出すところが増えている。

 「まだ1カ月半以上あるのに」という懸念にも、小売業にとっては「とにかくお客さんのテンションを上げて購買につなげたい」のが切実な願いかもしれない。それにしても、かつてクリスマスプロモを展開するのは、11月23日の勤労感謝の日以降だった。だから、11月中にも消費意欲をかき立てる別の仕掛けが必要になるようだ。

 今年あたりはそれが「Black Friday」なのだろうが、海外はとにかく凄まじい。先週明けから金曜日にかけ越境ECから筆者に届いたメルマガは、ブラックフライデー一色だった。しかも、パリのアパレル事業者まで、タイトルは「Vendredi Noir」ではなく、こぞって以下のようなタイトルになっていた。もはやブラックフライデーは、万国共通で固有名詞化したと言ってもいいだろう。


◆20% - Black Friday en avant-première

BLACK-WEEK : nos offres exceptionnelles  jusqu’à-30% !

◆Jusqu’à -30% [Black Friday] : c’est parti ! Stock limité !

◆Votre accès en avant-première à Black Friday : - 20 % sur tout


 フランスでもクリスマス商戦は1年でいちばんの書き入れ時だが、メルマガを見るとブラックフライデーを米国に倣ってセール催事に育てたいように感じる。割引率は20%~30%とそれほど安くないのだが、これまでネット通販をあまり利用していない新規のお客を獲得する狙いもあるのではないか。お客にとって2~3割程度の割引ならマークダウンの感覚だから、「プロパーでは少し高く感じた商品が多少手を出しやすい」との心理が働く。通販事業者としてはそこを突いて、一気に売る気にさせたのだと思う。

 ところがである。フランスの夕刊紙「Le Monde」の電子版は、11月23日付けでLe « Green Friday » en résistance à la consommation débridée du « Black Friday »」の記事を配信した。


https://www.lemonde.fr/societe/article/2018/11/22/le-green-friday-en-resistance-a-la-consommation-debridee-du-black-friday_5387124_3224.html


 見出しを直訳すれば、「ブラックフライデーの消費者抵抗を抑えたグリーンフライデー」。記事のポイントを拾うと、以下のような内容である。

 「米国からの過剰消費という象徴的イベント“ブラックフライデー”への抵抗」

 「リサイクルと再包装の控えめを主導するEnvieは、2017年にグリーンフライデーを創設し、過度の消費を避けるよう呼びかけ、オープンハウスイベントを開催しました」

 「パリ市役所とその40,000ユーロの助成金によって支えられた "グリーンフライデー"は今日、100人のメンバーを持つ協会となっている。それぞれは金曜日の売り上げの15%を様々な団体に寄付します」

 「グリーンフライデーの共同設立者の1人であるEmmaüsは、衣類の生活の意識を高めるための縫製ワークショップを開催します」


 「ブラックフライデーは米国の大量生産、大量消費の最たるセール催事で、それにネット通販が連動することでエスカレートした過剰消費に過ぎない」と、Le Mondeは言いたいようだ。そんな経済優先の消費文化に対し、フランス人の一部は購入資金を寄附に回したり、再利用やもの作りに取り組んでいる。彼らが見ているのは会計帳簿でしか見られない黒字より、誰の目にも映る森羅万象の緑なのだろうか。

 確かに成長より分配を重視するフランスの伝統に照らせば、こうした活動は何となくわかる気がする。また、Le Mondeは中道左派寄りのメディアと言われて来たし、紙面はSociété、社会面だから質素倹約を旨とするフランス人への回帰を訴えても、不思議ではない。そうは言っても、経済界は博愛主義を唱える余裕はなんてないはずだ。

 フランスの2018年4~6月期のGDP成長率は+0.2%と16年7~9月期以来の低い水準に止まっている。輸出は前年同期比で+0.1%と持ち直したものの、輸入が同+0.7%と輸出を上回ったことを見れば、経済成長に寄与していないことになる。アパレル事業者がブラックフライデーに乗じて何とか在庫を消化しようと、国外の顧客にもアプローチするのは、国内消費が伸び悩んでいるからなのだ。

 就任1年を経過したマクロン政権は、規制緩和で政府の役割を後退させつつ、民間の活力を刺激して生産力を上げる経済改革を進めようとしている。この中では企業収益を改善させて設備投資に弾みをつける狙いから、社会保険料負担額の軽減が検討されている。また、一般家庭向けでは2022年までに80%の世帯を対象に地方住民税を廃止する計画だが、富裕税の減税やキャピタルゲイン減税は19年までに先行して行われる予定というから、庶民より経営者、資産家が優遇されているように感じる。

 折しも24日には、政府による燃料税の増税に反対するデモが各地で行われ、パリのシャンゼリゼ通りでは暴徒化したデモ隊と警察が激しく衝突している。経済改革にはそれなりの痛みも伴うわけだが、それは庶民としては受け入れ難いとの明確な意思表示の現れのようである。

 フランスと言えば、目下の話題はルノーグループのカルロスゴーン会長兼CEOの逮捕だろうか。ゴーン会長はフランス国籍を持つとは言え、出自はレバノン人である。もし、彼が純潔なフランス人だったら、国の伝統である成長より分配を望んだのだろうか。そうであれば、赤字だったルノーは黒字化できなかったかもしれないし、ヨーロッパに置ける日産の販路拡大もあり得なかったかもしれない。それは今回の逮捕とは別次元のこととして考えていかないといけないと思う。

 アパレルに話を戻すと、米国のブラックフライデーは大量生産の在庫を年内に消化し、現金化するための手段でしかない。それにネット通販事業者のオンライン商戦「サイバーマンデー」が加わったことで、安さに釣られてポチりまくる消費者もいると思う。結果的に接客を受けず、現物をじっくり吟味しないで、衝動的に購入していく人々も多いのではないか。それがLe Mondeが指摘するところの過剰消費なのかどうかだが、企業側にとっては会計帳簿を黒字化するためには、四の五の言わずに売るしかないのも確かである。

 米国のアパレル通販サイトは、膨大な量の品揃えを誇る。検索ワードを入力してもお目当てのものにヒットするまで行かず、ウエアの購入には至らない。スニーカーなんかは日本未発売でデザインが秀逸なものが見つかるが、ほとんどが海外発送不可になる。どうしても欲しい時は代行業者をかますことで手に入るが、そんな商品に限ってブラックフライデーの対象になっていないので、購入を躊躇ってしまう。

 一方、フランスは米国のように大量生産、大量消費とまではいかないにしても、ネット通販を拡大し消費を活性化したいのはやまやまのようだ。肝心なアパレルは好みの問題があるにせよ、筆者の感性には米国よりもフィットする。ただ、フランスも米国同様に気に入ったアイテムはほとんど正価だ。やはり、事業者側もプロパーでも売れると踏んだものは値下げしない。なかなか狡猾である。

 米国もフランスもブラックフライデーで消費者を煽りつつ、販売事業者は割引して在庫を処分したいもの、正価のまま期末まで引っ張っていくものと、線引きはしっかりしている。特にネット通販事業者の狙いはセール催事に乗せられて、お客がどれだけ消費してくれるかなのだろう。その点、日本は決して景気は悪いわけではないのだが、ブラックフライデーと銘打った実店舗の店頭を見ると、今イチ盛り上がりに欠けている。

 アナリストからは今年のクリスマス商戦は堅調との予測が上がっているが、衣料品の販売増にはどれほど期待ができるのか。企業業績の勢いは下がりつつも、対前年比では増益のところはボーナスをアップさせている。ただ、来年は消費税が上がると言われているから、今年の冬から消費より貯蓄に回す傾向が強くなるのではないか。

 ただ、ファッション業界は店頭を見る限り、それほど目立ったトレンドは見当たらないし、そこまでお金を出してまで、買いたい服がないというのが消費者の正直な思いではないかと思う。話題のオーダースーツにしても、メディアが報道するほど動いているとは考えにくい。筆者は先週開業したマークイズ福岡ももちのプレス内見会で、すべての店舗を2時間くらいかけて見て回ったが、衣料品については既存店ばかりで買いたくなるものは皆無だった。

 まあ、日本チェーンストア協会が発表した平成30年度の販売概況によると、10月は衣料品795億円で前年同期比で11.0%も減少しているのだから、筆者に限らず多くの大人たちはショッピングセンターに出店しているショップでは買いたい商品は見当たらない証左だろう。やはり、消費者が「コレだ」と思うような商品を開発しないと、クリスマス商戦であっても売れないのである。

 結局、今回のブラックフライデーでは、筆者の好みやサイズを知っているフランスメーカーから推薦されたジップニットを2枚、同じく通販サイトで日本では見かけないレザースニーカー(サイズデータは把握済み)を1足購入した。ウエアは久々の購入となったが、ともに割引商品ではなく、プロパーである。10年以上履き続けているパンツは、今年も我慢して穿いて、来年に期待するとしよう。

 世界的な大量生産、ネット消費の陰で、日本では無駄な商品を買うどころか、店頭ですら買いたくなる商品すら見つからない状況。これははたしてグリーンフライデーの一助と言えるのだろうか。

都市型SCでも難有り。

markisfukuoka3 このコラムでは以前にも触れたが、11月19日「MARK IS 福岡ももち」のプレス内覧会に行って来た。2年連続でプロ野球日本一を達成した福岡ソフトバンクホークスの本拠地、ヤフオクドーム横に三菱地所が開発したショッピングセンター(SC)で、21日のグランドオープン先がけてメディア関係者に公開された。

 同地にはもともと「ホークスタウンモール」(2000年の開業)があったが、HKT劇場やフットサルスタジアム、ライブハウスのゼップ福岡など、「コト消費」を重視しすぎて集客では苦戦しテナントが次々と撤退。2010年くらいからは野球がない日やオフシーズンには閑古鳥が鳴く有り様だった。

 2015年、三菱地所はそんなホークスタウンモールの再生に名乗りをあげ、土地の所有権をもつシンガポール政府系投資ファンド「GICリアルエステート」から、信託受益権を取得。開発方針についてファンド側と検討を重ねた末、完全に更地して建て替えることを決定した。

 三菱地所は再生計画をショッピングセンターとタワーマンション2棟(ザ・パークハウス福岡タワーズ)からなる複合再開発とし、昨年6月から商業施設棟の建設に着工していた。SCは物販115店舗、飲食25店舗、サービス23店舗を集積(うち新業態9店舗、 九州初出店は32店舗)し、福岡の天神以西のSCでは市内最大級。運営管理は天神でイムズを手がける三菱地所リテールマネジメントが行っている。

 ポイントはホークスタウンモールの反省、特に集客で苦戦した点をいかに克服できたかである。延床面積はホークスタウンモールの7万6000㎡に対し、MARK IS 福岡ももちは12万5000㎡と1.64倍に拡大。開発規模で勝る分、テナントは物販からサービスまで合計163店舗と充実している。

 1階に配置されたのは地場スーパー「ハローデイ」。ホークスタウンモール時代にはスーパーがなかったため、リーシングの決め手になったと思う。SC自体が足下商圏の攻略を旗印に掲げるため、ハローデイもデイリーニーズに即応するため、ファミリー向けの惣菜や食品を充実。高齢者ウケしている産直鮮魚の調理加工などを抱き合わせれば、足下商圏の地行や福浜地区の住民を集客できる可能は高い。

 ただ、基本路線は売却問題で揺れる西友傘下のサニーにような安売り店ではない。また、隣の百道(ももち)地区にはハローデイ系列の高級スーパー「ボン・ラパス」があり、周辺の住宅密集地には他店も並ぶ。ハローデイは品揃えの充実度や販売企画では他のスーパーより抜きん出ているので、周辺からの車利用客をいかに集客できるか。そして、成否という点ではタワーマンションの完成以降、足下商圏になるマンション住民をどれほど顧客化できるかにかかっていると思う。

 2階には、ロンハーマンのコンセプトンショップ「RHC ロンハーマン(RHC RON HERMAN)」、カナダ発のアウトドアブランド「アークテリクス」が九州初進出。他にはインテリアショップの「アクタス」、書店の「ツタヤ ブックストア」。セレクトショップの「ジャーナルスタンダード レリューム」「ナノユニバーズ」「フリークスストア」。ライブホールの「ゼップ福岡」。物販47店、飲食3店、サービス2店が出店する。

rhcronhermanfrontrhcronhermanladies RHCロンハーマンが初ものとは言っても、 福岡ではすでに中心部の警固にロンハーマンは出店済みだ。だから、こちらはアートやトイ、サーフィンなどホビーニーズを拡大。“今を感じられる空間”を楽しむストアを目指している。カナダ発のアウトドアブランド、アークテリクスは国内最大の店舗。九州でも代理店を通じた卸で手応えを掴んでおり、クライミングやトレッキングといったハイパフォーマンスから24のタウンユースまでの幅広い展開で、レアな商品を好む顧客の開拓を狙う

 アクタスは天神に近い渡辺通りに既存店があり、市内では2店舗目となる。最初の福岡進出から30年以上を経過しており、ある程度、高級家具市場を掴んだ手応えから、2店舗目の展開に踏み切ったと思う。家具からインテリア雑貨、調理器具、子ども向けグッズまでの品揃えで、湾岸地区の住民を顧客化できるかがカギになる。

 ツタヤブックストアは、福岡の中心部では国体道路沿いにあった店舗がビルごとドンキホーテに変わり、こちらは移転したというか、新規出店という形になる。九州における旗艦店、広告的ストアの位置づけかもしれないが、代官山やGINZA SIXの店舗のように気軽に立ち寄れないところが難点だ。セレクトショップの3業態は、天神もしくは博多駅に既存店があるので、目新しさは感じない。

 ゼップ福岡は施設前のよかトピア通りに架かる歩道橋からペデストリアンデッキで入館が可能になっている。このデッキはヤフオクドームともつながる構造だ。ホークスタウンモールからの横滑りだが、収用人員は2000名から1500名に減っている。キャパを少なくしても小屋を確実に埋め、稼働率を上げる狙いだろう。だが、福岡の中心部には好調なライブホールはいくつもあるので、いかに観客の興味を惹ける出演者や題目を集められるか、運営側の力が試されるところである。

 3階はGUやグローバルワークといった大型業態から個店、フードコートを含む飲食まで、49店舗が揃う。フロアはファミリー層を意識してか、小動物と触れ合える「モフアニマルカフェ」、20種類以上の遊具で遊べる「あそびパークプラス」が出店。今年3月、本家米国の本社が350億円もの負債を抱えて倒産した「トイザらス・ベビーザらス」はホークスタウンモール時代にも展開されていたので、再出店となる。

 4階はエンタメと家電のフロアで、シネコンの「ユナイテッドシネマ」、「ナムコ」、家電量販店の「コジマ×ビッグカメラ」の他に、英会話や幼児教室、パーソナルジム、ヘアサロンなどがリーシングされている。ユナイテッドシネマもホークスタウン時代から継続出店となり、他のエンタメも既存店があるので特に珍しいというわけではない。



観光スポット化は難しい

 テナントの顔ぶれを見ると、ほとんどが既存業態である。一応、新業態9店舗、九州・福岡初出店はジャック&マリー、カヒコなど42店舗はあるものの、そこに行かないと買えないレアな商品とか、受けられない特別なサービスではないから、テナントで差別化し高い集客力を発揮できるとは思えない。ホークスタウンモールから継続出店する店舗も、以前に苦戦を強いられた点では、施設全体の集客力に賭けるしかない不確かな立場だ。

 交通アクセスが劣る点は以前から変わらない。路線バスが運行されているとは言え、便数が少なく、地下鉄利用でも唐人町駅から徒歩で10数分はかかる。マイカーでないと自由に行けない点は非常に不便だ。そのため、天神、博多駅を生活圏にしていれば、開業景気を過ぎた後にわざわざ行く必要はないと、多くのお客が思うのではないか。

 「コト消費」の時代だからと開発前にはボルダリングやスケートボード、マリンスポーツなどの施設誘致への期待があったが、リーシングには至っていない。また、人工海浜や福岡タワー、福岡博物館などがある西隣の「シーサイドももち」と連携して、東京のお台場のようにエンターテイメントやグルメ、ショッピングを楽しめる観光スポットにすればいいという意見もある。

 しかし、お台場のようにモノレールがあるわけではなく、徒歩で回遊しづらいという課題は残ったままだ。第一、シーサイドももちと簡単に連携できるのなら、コト消費を重視したホークスタウンモールがあんなに苦戦していないはずだ。

 今回、既存のSCとの差別化として、IT技術を駆使した新しいサービスが導入されている。AIコンシェルジュ「infobot®」は店舗や付帯施設の場所、サービス内容などを 人間の代わりに、音声(英・中・韓にも対応)、と画像で回答してくれるもので、日本初登場。光IDはスマートフォン専用アプリ内のカメラを館内のポスターや照明などにかざすとリンク先のURLを自動で認識するサービスで、こちらも商業施設では初となる。

 MARK IS 福岡ももちが設定する足下商圏とは天神を軸に福岡市の西半分、主に早良区、西区、城南区を攻略するしかないと思われる。それにしても施設が立地し、筆者も生活圏にする福岡市中央区は、2015年の国勢調査では「全国女性比率の高い市区町村ランキング」で、 女性を100とした場合の男性比率が80.3%と、ダントツの1位にある。(https://diamond.jp/articles/-/137921?page=2) 

 同調査による2010年度比の人口増減率はプラス8.0%、平均年齢は42.8歳、65歳以上の比率が18%。つまり、「全国一若い女性が多い街」と言えるのだ。

 そうした女性が住むのは、勤務地や学校へのアクセスが良い西鉄大牟田線や地下鉄空港線&七隈線沿線。独身女性はほとんどがマイカーを所有していないし、買い物は天神や博多駅で十分に足りる。必ずしもMARK IS 福岡ももちの足下商圏の人口が増えているわけではないのだ。なおさら市場特性を考えると、旧態依然としたファミリー狙いのSCにどこまでポテンシャルがあるかは不透明だ。識者の中には、「(全国一若い女性が住む市場特性から)三菱地所はSC開発のターゲット設定を見誤った」と言う方すらいる。

deck1 施設前の湾岸道路(通称:よかトピア通り)は片側2車線で、野球開催時には非常に渋滞する。来年3月下旬の開幕以降、週末のデーゲーム時には観戦客と買物客で、周辺道路の大混雑が予測される。それに対する緩和策として、歩行者デッキの整備や交差点改良やバス停カットの新設。イベント時には交通量に即した信号時間の調整や周辺道路の路上駐⾞対策の実施。イベント後には都市⾼利⽤者を⻄公園ランプ利⽤から百道ランプ利⽤へ誘導。臨時バスに連節バスの導⼊などがすでに実施されている。

 運営管理にあたる三菱地所リテールマネジメントでも、「西鉄や福岡市営地下鉄と連携して最寄りのバス停、駅利用で買い物ポイントが付与されるような公共交通利用の施策も検討している」と、アクセスの難点や道路混雑の課題の克服に取り組んでいる。 だが、これらがマイカー客増加による道路混雑の抜本的な対策につながるとは思えない。

 まあ、野球が開催される頃には開業景気も沈静化していると思うが、徒歩で行きづらい点がかえって交通渋滞を引き起こし、「週末は道が混むから、行くのを控えよう」と集客面でずっと尾を引くかもしれない。

 現状で言えることは、ホークスタウンモールが集客でかなり苦戦したことから、施設の規模、テナントの数、多少の先進的サービスで何とか対応しようという努力は窺える。だからといって、施設自体はファミリー向けのテナント集積のため、福岡市全体から必ずしも強力に集客できるかは懐疑的だ。

 以前から誘致の期待が高かった子どものお仕事体験テーマパーク「キッザニア」は、すでに三井不動産が博多区三筑の青果市場跡地に開発する「ららぽーと」にリーシングし、2022年に開業することが決まっている。三井不動産は同じ中央区の九州大学六本松キャンパス跡地の再開発「六本松421」でも、販売代理を務めるマンションMJR六本松を即日完売させるなど、福岡では営業的に先行する。

 地元デベロッパーからは「行き場を失った東京マネーが福岡のマンション投資に向かっている」との話も聞かれる。三菱地所がヤフオクドーム横に開発するタワーマンションのザ・パークハウス福岡タワーズも、資産運用の対象としては完売するかもしれない。だが、最多販売価格は一戸当たり5000万~6000万円だから、年収ランキングで全国Cクラスの福岡では簡単に購入できる額ではない。東京マネーが資産運用を狙うと言っても家賃が高ければ、借り手はつかない。それはSC業績の懸念材料でもあるのだ。

 MARK IS 福岡ももちは広域集客ならぬ狭域集客で、はたしてペイすることができるか。来場客の動向を見ながら、大胆なテナントの入れ替えなどを行わない限り、天神、博多駅に次ぐ福岡第三の商業拠点となることは、相当に難しいと言わざるを得ない。

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