HAKATA PARIS NEWYORK

今のファッションを斬りまくる辛口コラム

2015年10月

本業はファッション、グラフィックなどデザイン関連のクリエイティブディレクター。創る側の視点で今のファッション関連の事情を評論する。マスメディアはもちろん、業界紙誌も扱わないテーマに踏み込む。

オフィシャルスーツの落とし穴。

goromarujkbreak1










 いつの頃だろうか。スポーツの国家代表やサッカー、野球などのチームが「オフィシャルスーツ」を着用するようになったのは。

 契約期間はオリンピックやワールドカップの開催スパンの4年程度で、提供企業も世界的なアパレルブランドからスーツ量販店までとピンキリ。支給されるアイテムもスーツ上下以外にシャツやネクタイ、カフスボタン、腕時計、サングラス、下着までと様々だ。

 代表的な例では、サッカーのイングランド代表がイタリアのジョルジオ・アルマーニ社と2006年のワールドカップドイツ大会に向けて契約していたケースがある。

 デビッド・ベッカムがサッカー選手として全盛期の頃で、アルマーニ自身がベッカムに着てもらうことを前提にデザインしたという。

 あのルーニーでさえ、ミッドナイトブルーのジャケットとワイドスプレッドのシャツを着ると、様になっていた。さすがアルマーニのデザインである。

 ただ、イングランド代表はその後の2大会は地元英国の小売業、マークス&スペンサーと契約した。今度はアルマーニような高級ブランドから一転して、同社のPBとなったのだ。日本で言えば、西武や大丸といった百貨店クラスのスーツだろうか。

 他にイタリアのサッカー代表は、母国を代表するデザイナーのドルチェ&ガッバーナ。ドイツ代表のヒューゴ・ボスなどが有名だ。

 日本のスポーツチームも、活動資金の捻出が当たり前の今、オフィシャルスーツをブランドメーカーや小売業のPBと契約するケースが増えている。

 サッカーの日本代表は英国のダンヒル、なでしこジャパンはワールドのアンタイトル。野球の侍ジャパンは米国ブランドのブルックスブラザースと契約し、この秋から同じ商品が一般販売されている。

 驚いたのは、水泳の日本代表である。記者発表の集合写真を見ただけではわからなかったが、契約ブランドは「エンポリオ・アルマーニ」だった。イタリアのジョルジオ・アルマーニ社のセカンドブランド、ディフュージョンラインだ。

 相手は水泳選手。男子は上半身がムキムキだし、女子も肩幅が一般女性の比ではない。フルオーダーとまではいかないまでも、一人ひとり採寸をしたということだから、商品提供以上に同社のサイジングや仕様ノウハウを凄さを物語る。

 選手にとっても日頃はジャージ姿で過ごせても、公式行事や記者会見などに参加する時のドレスアップは悩みの種だと思う。

 「K-1選手が御用達」などを謳い文句に、「数万円で誂えます」をアピールする仕立て屋もあった。最近では上半身と下半身のサイズが極端に違うスポーツ選手向けの「格安」オーダーもあるくらいだ。

 しかし、世界を相手に金メダルを狙っている代表選手が有名スポーツブランドの高機能ウエアを着ながら、スーツが格安では何とも不釣り合いな気持ちだろう。

 そこ行くと、アルマーニ社がジャストフィットのスーツを提供してくれたことは、願ったりかなったりではなかったのか。

 かつては、プロボクサーのマイク・タイソンも、特徴あるアルマーニラインそのままにあの鋼の肉体を包んでいた。

 これらのケースを考えると、アルマーニ社は既成服デザインをそのままオーダー仕様に変えられるノウハウを持っているとも考えられる。

 既成服で十分な一般人にはあまり意味がないことが、高級ブランドメーカーとしてグローバル戦略を実践する上では、どこまでも貪欲だということである。

 それでは日本のブランドやメーカーはどうなのか。サプライヤーとして商品提供することはそれほど難しいことではない。しかし、契約料を支払ったり、一人ひとりの選手に細かくサイズ対応できる企業は限られるようである。

 そんなことを考えている時、契約企業にとっては「笑えない事件」が飛び込んできた。ラグビー日本代表五郎丸歩選手の「報道ステーション出演中、スーツが破れる」というニュースだ。

 ラグビー日本代表は、ワールドカップイングランド大会前には、あまり話題にならず実に地味な存在だった。種目の人気度の影響してか、サッカーや野球と違ってスポンサーも限られていたが、日本代表のスーツは洋服の青山が2011年から契約し、提供していた。

 スーツは同社の高級ブランド、ヒルトンの仕様をベースにしたオリジナル。イタリアのテキスタイルメーカーのネービーストライプの生地が用いられていた。ワールドカップイングランド大会などの国際大会をはじめ、公式行事への出席や渡航時に着用してもらう条件で、今年までの契約になっている。

 「事件」に至る経緯はわからないが、おそらく着ていたスーツは青山のもとの思われる。キャスターの古館伊知郎が番組中に気づきながらも、インタビューを優先するあまり、「スーツが破れたことについては、気づいていたが終了までに喋らなかった」と、自ら本番中に語っている。

 破れた箇所は、背中右肩甲骨脇の「後身頃と細腹との縫い合わせ部分」である。スポーツ選手、特にラグビー選手は背中心に広がる僧帽筋と接する「大円筋」は一般人に比べるとハンパなく発達している。

 最近のラガーシャツがTシャツのような平面パターンでなく、立体裁断になっているところも見ても、柔なウエアでは通用しないということを如実に物語る。

 さらにウエイトトレーニングで上腕三頭筋や上腕二頭筋も鍛えているから、少し腕力がかかっただけで、「後ろ身頃」や「細腹」は相当の力で引っ張られることになる。

 しかも、番組シチュエーションは通常の報道ステーションとは違っていた。普通はカメラの画角に合わせテーブル中央に古館キャスター、左に女子アナ、右がコメンテーターやゲストという風に位置取りが決まっている。

 普通に座っていれば、それほど上着に負担がかかることはないだろう。

 ところが、Vを見る限りではインタビューは、釣り堀のセットを前にビールケースのような椅子に古館、女子アナ、五郎丸選手が前かがみで座って行われた。おそらく、テレビ的に五郎丸の選手の身体を強調するためにディレクターの意図があったのかもしれない。

 古館キャスターは、スーツが破れるほどの筋肉の動きと、十八番のプロレス実況風で、その場を収めた。スーツが破れたことを強調すれば、スポンサーへの配慮を欠くと、瞬時に判断したかどうかはわからないが、縫製技術の知識などないのだから仕方ない。

 でも、もしスーツを提供したのが青山だとすれば、心境は幾ばかりだろうか。

 同社はバブル崩壊後の不況を追い風に「青山は安い」と有名俳優を広告塔にしてアピールした。加えて朝鮮系金融機関の低利融資をバックに、郊外型スーツ量販業態を大量出店し、一気に知名度を上げた。

 マスメディアも、こぞって「80%値引き」だの「90%オフ」だのと格安スーツを取り上げ、平成不況の中での青山の躍進を後押し、市民権を得た。その後、オンリーなどが参入し、ツープライススーツが定着したことを考えると、同社の貢献度は計り知れない。

 一方で、メディアを通じて肝心な「なぜ、そこまで安いのか」という業界的解説やカラクリが報道されたことはほとんどなく、一部では「安かろう、悪かろう」のイメージが根強くあったことも否定できない。

 だから、今回のケースでも「やっぱ、青山だから」「所詮、青山のスーツ」と、風評被害が起こるのがいちばん怖いのである。

 企業がスポーツチームをスポンサードするのは、スポーツの清廉なイメージからブランドロイヤルティを高める目的がある。その先にはメディア露出を活用して、マーケティング効果に期待しようという目論見もあるだろう。

 グローバル戦略を考えれば、国際的に知名度の高いスポーツは、海外戦略への影響度も大きい。

 ラグビー日本代表は戦前の注目度はそれほどでもなかったが、ワールドカップ3勝という実績は、日本の実力を世界にまざまざと見せつけた。そして、多くの俄ファンまで獲得するという想像もしていなかった効果をもたらした。

 同時にスーツを提供した青山にとっても、帰国後の代表記者会見をはじめ、選手個々がいろんなメディア出演することは、同社のスーツを多くの人々に見せつけ、契約料以上の広告効果につながっていたはずだ。

 しかし、一番の人気でメディア出演のオファーが殺到した五郎丸選手のスーツが破れたのは、青山にとっては笑えないオチどころか、一大事件と言うほかはない。

 ラグビー日本代表にスーツを提供したことは、他のスポーツチームとは多少意味合いが違うと思うからだ。

 相手は一般のスポーツマンでなく、筋骨隆々の荒ぶる猛者たちである。スーツ量販店トップの青山としては、屈強なラガーマンを通して、自社ブランドの品質の良さをアピールしたいとの意図が少なからずあったと思う。それが裏切られたのは事実なのである。

 昔、「象が踏んでも割れない筆箱」というのがあったが、ラガーマンの鋼の肉体を包む上質スーツの方がはるかにリアリティがある。それが破れたのは現実なのである。

 青山に限らず、スーツを提供した企業は、その原因が何かを広報するか、しないかを別にして、やはり確かめないといけないだろう。

「イタリア製の生地が意外に耐久性がなかった」
「使用したポリエステル糸が弱かった」
「縫製仕様に問題があった」
「背裏、見返し合わせ縫いが甘かった」
「見返し、脇閉じ縫いに手を抜いた」
「既成のパターンを安易に流用した」
等々、理由はいろいろと考えられる。

 それ以上に「五郎丸選手の体格や筋肉の動きが優った」と言うこともできる。映像を見るだけでは、何が原因だったのかわからないし、五郎丸選手には何の罪もない。でも、破れたことは真実だし、破れるスーツを提供したことも事実なのである。

 筆者の父親が30代の頃着ていたスーツは、ほとんどオーダーだった。今のように既成服が出回っていなかったこともあり、各企業にはスーツの仕立て屋さんが定期的に訪問し、注文をとっていた。縫製も随所に手縫いが生きた職人技っだった。

 それを目の当たりにして、現役バリバリの洋裁師だったお袋は、自分が手掛けるレディスオートクチュールと比較して、技術の細かさや匠の技を絶賛していたのを憶えている。

 それから何十年の時を経て既成服のスーツが浸透し、それなりのレベルを維持している。しかし、スーツ量販店の「安いスーツ」が生地、糸、縫製、副資材などあらゆるコストダウンの上で生まれたのも紛れもない事実だ。

 今回のラグビー日本代表のスーツがそうしたノウハウを封印して、まったく独自のオーダー仕様で作られたとは考えにくい。

 もしかしたら、アルマーニのスーツでも、マークス&スペンサーのスーツでも破れるかもしれない。侍ジャパンが契約するブルックスブラザース、神戸製鋼ラガーメンが着るマリオ・バレンチノでも、同じようなことが起きないとも限らない。

 言い訳はいくらでもできるだろうが、破れたのは事実だし、提供相手が注目株のラガーマンということを考えれば、青山のスーツに対する信頼が揺らいだのは間違いないだろう。

 青山のようなスーツ量販店がマーケティング的にアルマーニ社のように既成服デザインをそのままオーダー仕様に変えられるノウハウを必要としているかと言えば、それはないだろう。

 しかし、アパレル関係企業として何が破れた原因なのか、確かめて今後の素資材調達や縫製仕様、それから生まれる品質の改善に役立てることは不可欠ではないのだろうか。

 2020年にはオリンピック東京大会が開催される。今後は各スポーツチームへのスポンサードも活気を帯びてくるはずだ。

 オリンピックのたびに物議を醸している日本選手団のスーツ問題が再燃するのは想像に難くない。それを見込んでスポーツ選手にオフィシャルスーツを提供しようという企業も登場してくるだろう。

 かつてないスポーツメガイベントに向って、スポーツ団体はアパレル関係企業にとっても、格好のマーケティング手段となっていく。

 今回の事件は、スポーツマーケティングというビジネスの背景にある「落とし穴」を晒したことになった。スポンサー企業にとっても、良い教訓になったのは確かである。

日本製礼賛に潜む盲点。

mideinjapan1













 今年2月、テレビ東京の日経スペシャル「ガイアの夜明け」で、「“ニッポン製”の逆襲が始まる!」との特集が放送された。


 番組内で取り上げられた熊本市のベンチャー企業「シタテル」は、「小さなセレクトショップ」から「作ってみたい商品」を聞き出し、縫製工場に直接、生産を依頼する仕組みを作り上げようとしているとのことだった。


 小売り側にとってはオリジナルを作ろうにも、小ロットでは工場が受け付けてくれない。かたや工場側は大手アパレルなどのOEM生産を受注してきたため、新たなお客を開拓するルートを持たないという問題を抱えている。


 両者が抱える課題にインターネットなどITを駆使して解決を図り、ビジネスにしていこうというものだ。番組はこのセレクトショップと工場をマッチングさせる画期的な試みを、流通革命と銘打って紹介した。


 ローカル紙も「高い技術を持ちながら、海外とのコスト競争で苦境に立つ縫製工場も少なくない」「活躍の場を求める縫製工場と、付加価値を生み出したい中小・零細のショップをつなぎたかった」と、情緒的に切り込んでいる。


 ビジネスシステムについては、「注文は自社のWebサイトで会員登録した顧客が対象。要求に応じてデザインやパターンを手掛ける社内外の4人とともに、生地メーカーと協力してサンプルを作製する」


 「製造は有名ブランドやショップのOEM(相手先ブランドでの生産)を担う国内50の縫製工場と提携。各工場の受注状況や技術的な特徴をデータベース化して、顧客に合った最適な工場に製造を発注する」「これらの手続きはすべてネット上で行っている」


 「中小の工場との提携で、小口の受注にも対応しており、一般的には半年かかる納期を1~2ヵ月に短縮、原価も従来より安い4割程度に抑えられる」と、テレビメディアより詳細にまとめている。


 偶然なのか、熊本には「ファクトリエ」という似た事業を展開する企業もある。こちらはNHKローカルが夕方の情報番組で放送した。放送された内容は、以下のようなものだ。


 「従来は商品発注者と工場との間にOEM業者などが介在していたため、工場側は非常に低い工賃で縫製を引き受けなければならず、非常に疲弊してきている」


 「これに対し、工場がしっかりとした売上・利益を確保していくには、中間業者を完全排除して工場と消費者をダイレクトに結び付ける工場直販を提供していく。」


 「発注側と工場が直接つながると、中間業者をカットできてコストが削減でき、工場側も利益がつながる」仕組みということである。


 番組では、NHKの熊本支局が取材して編集したVTRに加え、スタジオのキャスターが同社のフォーマットをフリップで説明するほどの力の入れようだった。


 シタテル、ファクトリエともにビジネスの方向性はそれほど変わらない。違いはシタテルがアパレルメーカーの役割で、セレクトショップという小売業を取引先にするのに対し、ファクトリエは自らショップというポジションで、お客に接しているという点だ。


 両社とも詳しくチェックしたわけではないので、実際にどんな商品が作り出されているかの詳細には言及できない。もの作りは仕立てるがややデザイン先行、ファクトリエが上質の定番志向という感じだろうか。


 どちらにしてもテレビ、新聞による報道は一般向けだから、アパレルの構造やビジネスの仕組みをあまりよく知らない人にとっては、画期的な試みのように受け取れる。


 しかし、日本の高い技術、大量から適量、ITと条件を整えれば、アパレル業界が激的に変わる。作り手、売り手、消費者に喜ばれるバラ色のビジネスが成立するというのは、懐疑的と言わざるを得ない。これだけで様々な課題は解決できるとは思えないからだ。


 勘違いしてほしくないのは、シタテルやファクトリエの仕組みを否定するわけではない。しかし、ビジネスである以上、消費者に売れてなんぼの世界である。そのためには価格や販売力も重要であり、これがコストまで吸収できて消費者に受け入れられる。


 また商品づくりにはマーケティングやマーチャンダイジング、デザイン、トレンドや嗜好なども関わってくる。ショップ側が作りたい商品が必ずしも売れて、利益が上がるとは限らない。また定番の上質な商品なら、わざわざ作らなくても他にいくらでもある。


 国内工場を保護し、メイドインジャパンに再び目を向ける考えはわからないでもない。しかし、それがデフレ慣れした消費者の価値観まで変えて、昔のようにマスマーケットを形成できるかと言えば、そう簡単ではないだろう。


 マーケットのボリュームがどの程度かも各自の認識は違うと思うが、量の確保は工場にとって死活問題である。従来は商品1点の工賃が安いがロットがまとまるから、何とか収益が上がる面はあった。それがデフレによる値下げ圧力で工場は疲弊していった。


 ただ、量が増えずにロットがまとまらず、工場の稼働率が下がってしまうが、それに見合うだけの工賃が本当に取れるのかと不安もあるだろう。ITによるコスト削減くらいで適正な工賃がもらえるとは工場も思ってないからだ。


 では、順に問題点を挙げてみたい。まず、シタテルがビジネスのきっかけにした「小さなセレクトショップから作ってみたい商品」への対応である。


 「作ってみたい商品」とは何か。まずどうしても仕入れたいブランドがロットやバッティングの問題で手に入らない。そうした時に独自で作るというケースが考えられる。


 さらにショップのオーナーやバイヤーがとにかく他店と差別化するため、デザインや素材にこだわった「オリジナル商品」を作るというケースもあるだろう。


 どちらにしても、ゼロから商品を作る場合、まずデザイン、パターンが必要になる。シタテルではネットワークで結ばれた「社内外の4人」が携わるとしている。


 でも、ショップが作ってみたい商品が本当にたった4人のスタッフで具現化できるのか。それは疑わしい。トラッドのテイストならともかく、モード寄りになるとデザイナーやパタンナーがもつ感性では不可能な場合もある。


 ショップ側はデザインの専門家ではないから、イメージ図もしくは雑誌の切り抜きぐらいでしか伝えられない。


 仮にデザインが可能であっても、実際の服になるにはパターンが重要なカギを握る。イメージ通りという程度では、実にあやふやなもの作りになってしまう。お互いが納得できるには相当の時間がかかるし、できなければできるスタッフが必要になる。


 加えてデザインやパターンにはコストがかかる。作りたい商品が1枚でも、10枚でもかかるデザイン料やパターン代は同じだ。


 だから、一般的にアパレルメーカーはサンプルを作り、展示会でいろんなショップからオーダーをとってロットをまとめて量産し、デザイン料やパターン代を按分してコスト吸収している。


 つまり、枚数が増えなければ、コストはそのまま商品価格に跳ね返る。仮に1型のパターン代が3万円になった時、商品を1点しか生産しないのなら、 価格に3万円の上乗せされることになる。


 10点でも1点あたり3000円である。ショップ側はこうしたコスト増の商品を売っていかなければならないことになる。


 また「生地メーカーと協力してサンプルを作製する」と言っても、作ってみたい商品に見合う生地が手に入るのか。また、1反の生地から服を作る「反つぶし」になると、枚数が増えない場合、今度は生地コストが商品価格を上げてしまう。


 ショップ側にとって、作ってみたい商品は「リスクがあるから枚数は増やせない」でも、「販売価格もそれほど上げたくない」。


 となると、メーカー側はデザイン料やパターン代のコストを吸収するため、生地のコストを下げることを考えなければならなくなる。


 大した生地でもないのに、価格は高いということになりかねない。逆に生地のコストを上げれば、商品価格はなおさら上がっていく。


 ITを駆使して原価が抑えられると言っても、それぞれの工程に携わる業者が適正な利益を取れるかは、また別の次元のような気がする。


 要するに「ショップが作ってみたい商品」と言っても、それが最終的にいくらでお客に売れるのか。それをしっかり考えて、デザインやパターン、生地、縫製などのコストまでに練っていかないければ、何も始まらないのである。


 これは、お客さんが望む上質な商品を適正価格で提供するというファクトリエにも言えることだ。だから、こちらは売れ残りリスクを考え、定番デザインの商品に特化している。しかし、上質で高価な商品であっても、コスト吸収の問題は同じだ。


 メイドインジャパン回帰、日本製礼賛が先行するあまり、いちばん大事な売れる価格、適正利益、そして様々な技術といった工程がおざなりにされては意味がないのである。


 また、工場側の問題もある。これについては、先日、繊研新聞が「客寄せパンダ」というタイトルで、以下のようなコラムを掲載していた。


 「取材先の国内縫製工場を大手量販店のバイヤーが久しぶりに訪れ、「服を作って欲しい」と言ってきた。しかし、その縫製工場は量販店が要求する大ロットを生産する能力はない。それでも「何とか縫ってくれ」と懇願された。


 理由は「店頭で国産を打ち出したい」から。どうやらオーダーに継続性はなく、いわゆる〝客寄せパンダ〟の発想で国産フェアをやろうというものだった。海外生産に目を向けていたのに、円安になって急に戻ってきて、しかもスポットの仕事。その経営者ははっきりと断った。気持ちは痛いほど分かる。


 ただし、継続的なオーダーがあれば仕事を請けていいのか、疑問が残る。最初は少ない仕事から始まり、徐々にその量販店からのオーダーの比重が増え、最終的に専属になる可能性もある。そうなると次第に工賃抑制の圧力が強まる。コストが合わずに断ると仕事を減らされる。最悪、全て切られる可能性もある。


 国産を守る意識を前提に、適正工賃で継続的に仕事を出す気があるか。そこを見極めないといいように使われるだけになってしまう。」


 これが国内工場に共通した認識だろう。甘い話への猜疑心は拭えていないはずである。


 従来、工場は国内外の大手アパレルやOEM業者などと取引し、ある程度まとまったロットで縫製を行い、収益を上げてきた。しかし、「作ってみたい商品」「お客が着てみたい商品」のロットがまとまるかということである。


 いくらシタテルやファクトリエが小ロットに対応できる工場を確保すると言っても、工場が収益を上げるのは「適量」であっても、「量産」でないと成り立たない。量産とは決して1.2枚ではありえないし、20~30枚でも不十分だと思う。


 ファッションライターの南充浩さんが先日、ご自身のブログで「中価格帯のドメスティックブランドのOEMを手掛けたことのある業者は、商品未引き取りや不当返品、不当値引きなんて普通にされたというし、1500枚のオーダーで1枚当たりの利益が50円しかなかったということもあった。」 と書かれていた。


 大量生産で工賃を下げられるのだから、仮に工賃を据え置いて適量で適正利益が出るのか。IT整備で中間業者を排除するにしても、適量でロットが150枚に下がって、本当に工場にとって十分な利益が出せるのか。課題は尽きない。


 解決するためは何にもまして、なおさらショップ側の価格決定と販売力がカギを握っているのではないか。


 工場もメーカーも適正利益が出せて、ショップも儲かる。そのためには小売り側がリスクを背負い、お客に売り切ることで、答えを出せるようにならないと、画期的なビジネスも絵空事で終わりかねない。


 作ってみたい商品、お客が着てみたい商品には、それなりの責任がついて回るのである。そう考えると、ショップ1店の問題ではなくなってしまう。


 今度はショップ側にもエリアが違い、取引先がバッティングしない店同士が組んで商品を発注する仕組みづくりが求められるのかもしれない。それこそネットを使って情報交換し、作ってみたい商品を統一させたアウトラインを完成させる。


 それをもとにデザイン、パターンから生地までのコストを持ち合い、ある程度のロットを増やして発注すれば、メーカー、工場も適正利益を出せるかもしれない。


 ファッション業界は作る側だけのイノベーションで変わるわけではない。地域を超えた小売り間のネットワークも必要だということだ。


 アパレル構造を変えたいと考えるビジネスの背景に潜む様々な問題。メイドインジャパン回帰、日本製礼賛の死角に隠れた盲点。まだまだ尽きないようである。


トレンドの欠品が主因なのか。

lemaireuniqlo1











 ユニクロがクリストフ・ルメールと共作した「ユニクロアンドルメール」が10月2日に発売された。


 このコラムでも何度か触れてきたが、ユニクロは2006年のデザイナーズ・インビテーション・プロジェクトから国内外の新進、中堅を含め、デザイナーとのコラボ企画を実施している。


 これまで国内ではシアタープロダクツやミントデザインズ、サイ、海外ではフィリップ・リムやジル・サンダー。毎年のようにコラボ企画を手がけ、レギュラーの商品とは一線を画するモードライクな市場開拓にも挑んでいる。


 デザイナーズブランド側も、契約金やライセンス料など“カネ”に目がくらんだわけではないだろうが、ファーストリテイリング社の潤沢な資金力、アジアに広がる生産背景、まして捕捉しているマーケットは捨て難いはず。


 キャッシュフローが進めば、銀行サイドやスポンサー筋の与信力がアップして、「次のコレクション開催がスムーズに行く」との皮算用もあるだろう。


 一方で、クリエーターとしての血には逆らえない。自分が創りたい服や手がけたいビジネスがある。それがファーストリテイリング側の意向と折り合わないこともあるだろう。


 柳井正社長は真意こそ語ってはいないが、経営者として「デザイナーが思い通りのものを創っても、売れるわけがない」というのが本音ではないのか。


 ビジネスとして成り立たせるには、売場の声やお客の反応を重視したマーチャンダイジングが不可欠だ。それをもとにコレクションサンプルに修正を加えるから、商品もブランドも売れるのである。


 結果として、よりマスなマーケットを掴むには、万人むけのベーシックなデザインにならざるを得ないわけだ。


 ただ、こうしたビジネスライクなやり方は、得てしてデザイナー側の反発を招く。そこでファーストリテイリングとしてのギリギリの妥協点が、ベーシックに近い「ミニマルな作品」を生み出せる、いわゆるつぶしが利くデザイナーとの契約なのである。


 ジル・サンダー然り、今回のクリストフ・ルメール然りである。アンダーカバーの高橋盾は、UUではプリント柄の妙で魅せてくれたが、こちらのコラボ商品もデザインはいたってシンプルである。


 この辺の意図は、同社のR&D統括責任者である勝田幸宏取締役執行役員も、あるインタビューで「デザインを削ぎ落とした主張のない服がユニクロらしさでもある…(中略)これに価格の制限が入ってくる…」と語る。


 さらにクリストフ・ルメールとのコラボについても、「…これまで構築的な服づくりで美しさを表現してきたが、今回は初めてエフォートレス(肩の力を抜いて楽に企画に臨むという意味か)に挑んだ」とも語っている。


 コラボで生まれたデザインは、どれも虚飾はなく、襟や着丈といったディテールに多少デザイナーのエッセンスを出したくらいだ。今回のアンドルメールもジル・サンダーとコラボした+Jの路線から大きく外れていないと思う。

 

 問題はビジネス面だ。商品の展開方法や売り方は、どうなのだろうか。+Jで生じた課題を踏まえたのか。発売直後から1週間ほど経過した先週末に、筆者が居住する福岡市の中心部にあるミーナ天神店、キャナリシティ博多店をチェックしてみた。


 店舗によってアイテムは異なる。立地が都心ではより多くのアイテムが展開され、少し外れると展開数は絞られている。スペースはキャナルシティ博多店の方があるのだが、展開アイテムは少ないことを考えると、売場面積は関係ないようである。


 展開方法は、壁面にはめ込んだ棚&ラックでの「たたみ」と「ハンギング」。こちらは+Jと変わってはいない。新たな試みはプロモーション用の写真パネルを堂々と棚の上部に掲示した点だろう。


 事前のプレスプレビューやパンフの配布、チラシ掲載などに力を入れているので、「関心があるお客は店内を探すだろう」という認識なのか。チェックした2店舗については、大々的なVP、売場販促、プロモーションといった類いはなかった。


 では、買う側の視点での問題点を上げてみたい。まず、たたみ商品のサイズ確認がしにくいことだ。ハンギングされていれば良いのだが、自分のサイズが欠品していると、棚高いっぱいに積まれた在庫から確認しなければならない。


 しかも、冬物だから肉厚で嵩張り、摩擦で商品1点1点が取り出しにくい。サイズ確認をするのにすべての商品を取り出さなければならないのは、不便さを感じる。


 フィッティングルームまで行かず、その場でデザインやシルエットを確認するには、広げて見ることになる。だが、それを畳み直すのは煩わしいし、畳まないまま戻してしまうとぐちゃぐちゃで、後ろめたささえを感じてしまう。


 しかも、棚高が高いので、上部の在庫は身長176cmの筆者でも背伸びしないと、戻せない。背が低い女性スタッフがいちいち踏み台を持って行くのも、面倒ではないか。


 それがユニクロのVMDと言ってしまえばそれまでだが、お客が商品を確認しづらい点は、根本的に改善する余地があるのではないかと思う。


 アイテムは冬物だからウール主体、アウター注力にならざるを得ない。クオリティは価格からすれば、あんなものだろう。


 +Jのニットはローゲージのやや重たいものだったが、アンドルメールではレディスのカシミア混、メンズのラムウールとも幾分かは軽くなっている。

 

 またレディスのクロップドセーター(3,900円)など、セレクトさえノーマークの商品を企画した点では、さすがクリエーターとのコラボ商品である。


 布帛については、レディスのウールカシミアケープ(17,900円)、フーデットコート(14,900円)を確認したが、生地はレギュラー商品レベル、またレギュラーよりやや落ちるように感じた。他のニットアウターも同様の印象である。


 配色ではダークグリーンやグリーンといったレギュラー商品にはないニューカラーが登場し、“ユニクロは色音痴”と言われ続けてきた悪評からは一歩抜けきった感じもする。


 メンズでは、ウールカシミアコート(17,900円)、ウールカシミアノータックパンツ(7,990円)に限って、デザイン、生地の面でコストパフォーマンスは最高レベルだと思う。この2アイテムのクオリティには+Jにあった同じようなアイテムも及ばない。

lemaireuniqlo2










 


 しかし、ノータックパンツは発売開始からわずか1週間程度(10月10日の時点)で、キャナルシティ博多店、ミーナ天神店ともに店頭では欠品、完売が出てしまっていた。


 色は両店ともダークグリーンのみの展開だったが、ミーナ天神店は73cm1点を除きすべて完売、キャナルシティ博多店は売れ筋サイズなのか、ウエスト79cmのみが欠品。これには閉口した。やはり、お客は良い商品はちゃんとわかっているのだ。


 スタッフに79cmのストックをたずねると、スマホで確認してくれた在庫表はすべて0。前にも同じようなことがあったから、おそらく近隣店舗の店頭在庫のことではないか。フォロー体制については、「店頭にはもう入って来ない」という回答だった。


 さらにスタッフは「客注は受け付けますが…」と続けたが、その言葉に積極性は感じなかった。店頭在庫が無いのであれば、あとはネット通販で購入してほしいというのが本音ではないのだろうか。


 だが、パンツはシルエットの問題があるし、着丈調整を考えると試着はしてみたい。筆者は自分で丈上げをすることもあるが、多くのお客は試着をしてお直しは店舗に頼むケースが一般的のはずある。


 だとすれば、せめてパンツくらい、試着専用サンプルを置いててもいいのではないか。


 いくらネット通販で丈上げ対応、返品送料を期間限定で無料にしても、お客にすればサイズが合わなかった、色がイメージと違ったなどの理由で、返品交換しなければならないのは非常に面倒である。


 しかも、そうしたタイムラグがあることで、買いたかった商品が逆に売り切れてしまうのは、堪らなく辛い。


 オムニチャンネル戦略を想定すれば、店頭販売とE-コマースをスムーズに連動させることが重要になる。ならば、せめて試着用として1カラーでいいから、全サイズ準備していても良いのではないか。


 そうすれば、お客も安心して、ネット購入に移ることができる。むしろ、ユニクロのような業態こそ、ショールーミングを充実させ、実際にはネットで購入する方が合っているように思うのだが。


 こうした体験を踏まえて、腑に落ちなかったのが先日の連結業績発表で、柳井社長が語った「トレンド読めずに大量欠品してしまった」という反省の弁である。


 報道によると、「マストレンド、いわば世の中の変化、ファッションの変化を捉えられなかった。変化に対する注意力が足りず、生産の量やコレクションの幅も少なかった。その結果、ほとんどすべてのコア商品で欠品が起きた。ショートパンツやTシャツ、ポロシャツ…」だそうである。

 

 ベーシックな商品を大量に売っていくだけでは、お客の変化にはついて行けないので、マスになるトレンド商品も仕掛けていく。その戦略はわからないでもない。


 しかし、トレンド狙いの商品は売れ残りリスクもあるから、少なめの量しか投入しない。この中からヒットアイテムが出たら、売り逃しは避けられない。これはユニクロだけに限らず、ファッションビジネス全体が抱える永遠のテーマである。


 ただ、ユニクロはグローバルSPAで、商品企画はオンシーズンの1年以上前にスタートする。そうして生産した在庫を積みまして売り減らしていく手法をとる。トレンド狙いが奏功してヒット商品が生まれると、なおさらフォローは難しい。


 企画の段階で、どんなアイテムがトレンドになるかなんて予測できるはずもない。結果、柳井社長の反省の弁にあるように販売ロス、機会ロスとは切っても切れないのである。


 かつて柳井社長は、「…自分たちは変えたと思っていても、知らないうちに従来と同じような品番、色構成、デザインのものを出していた。今後はバランスを考えながら、少しファッションの方に振りたい」と見直しを語ったが、量を売るためのベーシック偏重は変わらない。


 しかし、ユニクロのような売上げ規模になると、すでにトレンド狙いの商品を簡単に生み出し、フォローしていけるような体制にはない。ヒットアイテムの傾向は国別でも違うだろうが、筆者が経験したようにヒットアイテムがどの店も同じという共通点もある。


 そもそもユニクロのような企業、ブランド、業態がトレンド商品をメーンにすることはできない。せいぜい、マーケットの間を埋める程度だ。だから、売上げが乱高下したり、低迷した要因は、マストレンドの欠品。そんな短絡的な問題ではないと思う。


 レギュラー商品を含めて、「サイズの欠品」「色柄の手配ミス」「在庫バランス」など根本的な要因もあると思う。その辺の徹底した分析、精査が必要なのだ。


 対策としては前年や前回のデータを下敷きに、「売れ筋になりそうなもの」「売れ筋にしていきたいもの」はサイズ、色柄などで在庫量をもっと厚めにするなど、リスク集中も必要だろう。


 そうした手当てをITを駆使して十分に行った上で、店頭に試着サンプルを全サイズ用意するなどアナログ的な手法で、お客をスムーズにE-コマースに移行させる。まだまだ売場サイドで取り組むことがいくつもあるようだ。


 柳井社長の反省の弁は、かつてGAPが直面した課題とも共通する。ベーシック路線ばかりを行き過ぎると、お客に飽かれてしまい、逆にトレンドを狙えば、売れ残りや売り逃しが生じてしまう。経営者としてのジレンマでもあるのだろう。


 しかし、そうした背景には、経営者の考えと現場の認識とに大きなズレがあるのではないか。いろんな課題を克服するには、もっと売場起点で取り組まなければならないということである。


 ユニクロは小売業として世界の頂点を目指す限り、「ヒントは売場に隠れている」からは避けられないのである。


販売員=服好きではないのかも。

syoseki2














 永年、ファッション業界に首を突っ込んでいること。加えてネットやSNSの浸透で最近、各所各社から原稿執筆やコメント依頼が舞い込むようになった。


 先月もあるベンチャー企業がスタートするファッションビジネスのコミュニティサイトで、評論、解説のオファーをいただいた。東京出張に折りには、スタッフがわざわざ滞在先のホテルまで出向いて来られたほどである。


 ファッションビジネス自体は非常に厳しい状況に追い込まれている。でも、ネット環境が充実したことで、運営スタッフはじめいろんな方々が、新たな可能性に取り組もうという姿勢には心が打たれる。そこで、自分にできることがあればと、オファーを快諾した。


 ファッション業界が抱える課題として、深刻なのが人の問題である。有能な人材が集まらなくなっているし、スタッフを育てようにも育て切れなくなっているからである。そこで、ファッションの人材教育について、考えてみたい。


 業界はデフレの時代があまりに長く続いたために、プライスの面で縮小均衡してしまった。販売競争での負け組みはついにブランド廃止、店舗閉鎖、人員削減にまで追い込まれている。


 平成不況の時には、「ブランドやMDで差別化ができなければ、接客サービスで勝負する」と宣う経営者が百貨店をはじめ少なくなかった。だが、接客サービスの技術や能力は、たった半年や1年の一律的な指導教育で身につくものではない。


 それ以上に販売スタッフとなる人間の素養、好き嫌い、やり甲斐、モチベーションなどが影響する。自己のキャラクターやベースの能力を教育によって開花させていかないと、なかなか一人前の販売スタッフは育てられないということである。


 企業はどんどん店舗数を拡大するも、販売スタッフの育成が追いついていかなかった。しかも、業態の同質化で競合がエスカレートし、カニバリゼーションも進行。売上げは伸び悩んでいった。


 企業にとって販売スタッフの接客サービスで差別化をはたし、競争力を付けるという目論見は外れ、その結果がブランドの廃止や店舗閉鎖を起こしたのである。


 それだけではない。ネットの普及により、E-コマースが浸透すると、今度はメディアをはじめ経営者までもが手のひらを返したように、「有力な販路」「可能性は大」「積極投資する」と言い出す始末だ。


 時間とコストをかけ、育つか育たないかのマンパワー、そんな不確実なものに投資するより、システムとテクノロジーさえ充実させれば、結果の発生が予見しやすいネットインフラの方が確実だと言っているようにも聞こえる。


 声高に叫ばないにしても、裏を返せば「販売スタッフの教育、育成は容易ではない」と、経営者自らが認めたようなものである。


 つまり、こうした構造転換した業界だからこそ、企業にしても、ファッション専門学校にしても、販売スタッフを教育し、有能な人材に育て上げることは、正当に評価されてしかるべきだし、競合他社が持ち得ない武器になるはずなのである。


 では、販売スタッフ教育の現状はどうなのだろうか。企業では入社後の導入研修、OJTと定期的なフォローアップ、専門家による指導、セミナー受講、資格試験対策などだ。


 しかし、目下、販売スタッフを育てることよりネットシフトの方が拡大しているので、目新しい教育が施されているとの話は伝わって来ない。むしろ教育投資はE-コマースなどへの資源集中から、縮小気味なのかもしれない。


 駅ビルを運営するルミネが選出する「ルミネスト」がある。全店を対象に行われるロールプレイングのコンテストで、最も接客能力が高い販売スタッフに与えられる栄誉だ。ただ、これもルミネはデベロッパーとしてコンテストの場を提供するに過ぎない。


 優秀な販売員を教育するのは、テナント出店する企業側である。毎年優秀な販売スタッフは選出されても、各企業がどこまで教育投資しているかはわからない。少なくとも販売スタッフ個々の力、勉強の結果によるところが大きいのではないかと思う。


 数年前には、ファッションビルのパルコが大丸・松坂屋のJ.フロントリテイリング傘下入りした。これにより筆者の地元では、福岡パルコと大丸福岡店による「合同ロールプレイングコンテスト」なるものが開催された。


 ただ、ロールプレイングは販売員教育の一手段で、決してイベントが教育目的足り得ない。オリンピックが各スポーツアスリートの目標であるのと同じで、それ自体を目的化してしまうと、2020東京大会のように様々な問題を露呈する。


 福岡パルコ・大丸福岡店のケースも、協業をアピールするイベントのような感じだった。しかも、ローカルタレントを審査委員に起用するなど、コンテスト結果を受けた販売スタッフ教育までに踏み込めていない点で、実にお粗末な企画だったと言える。


 その後、第2回のコンテストが開催されていないということを見ても、単なるイベントでしかなかったということがわかる。そもそも、ファッションビルと百貨店とでは、企業文化が違いすぎるし、販売教育に対する次元も異なるだろう。


 各社ともご多分に漏れず、「教育に力を入れている」とは言うかもしれない。しかし、百貨店の大丸福岡店と言っても、接客サービスは相対的にそれほど高くないというのが筆者が買い物をしての印象である。


 仲間内でコンテストをやったところで切磋琢磨はしないだろうし、タレントに審査してもらったところで、販売スタッフの高等教育、専門的な技術ノウハウは皆無に等しい。評価は経験豊かなプロが客観的に行うものだし、それでこそ勉強になるのである。


 一方、ファッション専門学校の販売スタッフ教育はさらに酷い状況だ。平たく言えば、カリキュラムからほとんどなくなっていると言って良いだろう。


 なぜかと言えば、少子化で学生募集が厳しくなっていること。若者が憧れる職種やカリキュラムでないと、学生が集められなくなっているからである。


 ファッション専門学校が「洋服を作って売る」というアパレルの基本構造にそった教育を行うとすれば、デザイナー教育と販売員教育を両立させることが必要になる。


 ところが、高々2年ほどの教育で簡単にデザイナー職に就けるわけはない。それはかつても今も変わらない。DCブランド全盛の頃には「ハウスマヌカン」という職業がもてはやされ、販売スタッフにスポットが当たった時期もあった。


 一方で誰もがデザイン教育を受けたところで、簡単に服づくりはできないという現実に変わりは無く、大半は販売職に身を置かねばならなかったという映し鏡でもある。


 しかし、販売職で大成するにも、きちんとした販売スタッフの教育を受けておかなければならないことに変わりはない。


 高校生がそうした販売スタッフを取り巻く現状をネットなどで簡単に下調べできる昨今、あえて販売教育を受けたいと思う学生がそれほど多いとは思えない。


 学校側もそれを熟知しているからこそ、スタイリストやプレス、良いとこバイヤーといった少しは夢のある職種を全面に出して学生募集を行うし、入学後のカリキュラムにも反映しているのである。


 もっとも、ファッションビジネス学科系のカリキュラムは、「企画」「ブランディング」「検定対策」「イベント」「PC」などが主要の内容で、学生募集では「スタイリストになれる」と言っときながら、撮影の授業すら組まれない学校もあるほどだ。


 「服を作っても商品が売れなければ、カネが入って来ないのだから、給料が払えるはずはない」という現実は、学生の夢を壊すことだから触れたくないというのが学校側の本音で、本当に必要な販売教育はなし崩しにされているのである。


 まあ、洋裁学校の延長線で、昔取った杵柄にあぐらを組み、教えているおばちゃん先生が少なくないことも問題だろう。自分への教育投資は一切行わないで済むのだから、コストはかからず、学校を掛け持ちすれば稼げるという程度ではどうしようもない。


 学生に対し偉そうに技術論を振りかざす前に、これだけ時代も業界も変わっているのだから、「あんたが専門学校に通って、デザインソフトだのWEBだのの勉強するのが先じゃないのか」と、突っ込んでやりたいくらいである。


 ともあれ、専門学校では販売教育がほとんど行われないのだから、当然、そのツケは業界というか、企業に回る。その企業も教育できなくなっていることを考えると、今後販売スタッフをどう育てていけばいいのか。


 筆者は一般の大学に通ったので、専門的な販売教育を受けたわけではない。マンションアパレルでは、会社の指示でファッションビジネス能力検定の2級の資格を取り、あとは日本色研が主催するファッションカラーのセミナーを受けた程度である。


 取引先の専門店には、セール時の応援に何度か行ったが、そこでも店頭に立って活気を出すための声かけをしたり、あとは商品整理したくらいである。


 本格的な販売スタッフの教育に触れるようになったのは、プレスプロモーションの仕事を始め、ブランドメーカーのFA(ファッションアドバイザー)募集広告や企業・入社案内を制作するようになってからだ。


 ファッション業界誌に執筆するようになると、優秀な店長、販売スタッフのルポも書くようになり、接客技術に裏打ちされる販売力に切り込んで取材をしたこともある。


 また、そうしたノウハウをもとに接客Gメン(最近で言うミステリーショッパー)の依頼を受け、店頭調査、結果レポートとアドバイス記事を何度かまとめ上げた。


 こうした経験から販売スタッフ教育には触れてきた方だと思う。そこで考えるのは、販売教育はもう接客サービス業全体に広げて見ていかなければならないということだ。


 ファッション業界がビジネスの登竜門=販売職といくら語ったところで、専門学校は販売スタッフ教育を放棄しつつあるわけだし、企業側も販売スタッフ募集に窮していることを考えれば、業界だけで行うのは無理がある。


 「販売」という括りでは、何も人間だけが携わるものではない。売場づくり、編集、見せ方、什器や棚、VMDなども販売を行うための手法である。行きつく先がネットインフラということになるだろう。


 であればこそ、洋服好きが販売員を目指すという発想は捨て去り、もっと枠を広げて接客サービスが好きという人間を育てていかなければならないと思う。サービス業としてのマンパワー、人間力が問われる職業である。


 そうした人材育成を行う中で、アパレル対応も考えていくということだ。「商品は異なるけど、お客さんに接するということでは一緒」という感じでのアプローチとも言える。


 商品価格が完全に下げ止まり、今後、すべてのアパレル、ブランドが価格を上げて高級品にシフトすることなどできるわけがない。ファストファッション、低価格商品が一定のマーケットを確保したのだからなおさらである。


 第一、そうした商品を購入するお客の方が高度な接客サービスを求めるはずはない。ならば、既存の高級ブランドや高価格帯のオーダーを中心に、接客レベルを更に上げていけばいいと思う。


 「高級品を販売するには、販売力がいる」「高級品のバイヤーほど、販売力も高い」という業界の定説は今も健在のはず。こうした中で、高級品にシフトしたい、価格戦略を買えたいブランドや業態は、販売スタッフ教育も並行して行っていかなければならない。


 そのためには販売教育の専門機関が必要だろう。当然、教育はファッションに限らなくても良いと思う。例えば、高級ホテルのような接客サービスをベースにする。ホスピタル精神に基づいた対話やコミュニケーション術、所作や物腰、立ち振る舞い、マナーや敬語使いなどである。


 販売に必要なアパレルの知識などすぐに身につけられるから、それほど心配する必要はない。不可欠なのは接客サービスの神髄をどう学ぶかである。


 ファッション業界で販売職に携わりたいと考える人間は確実に減っている。しかも、販売職の先にあるバイヤーも、大手セレクトがSPA化している現状を考えると難しい。ユニクロなどの大手チェーンは、店長育成といった経営管理能力の開発に重点をおく。


 個店の独立開業といっても販売力云々の前に、資金や経営力が不可欠になる。ましてオーナー自ら売ると言っても、常連客にホスピタリティある他人行儀な接客は必要ないだろう。


 そう考えると、ファッション業界で販売スタッフの育成するための将来像を設定することは、ますます厳しいと言わざるを得ない。


 しかし、接客サービス能力の醸成と考えれば、将来的な展望は開ける。日本のような成熟したマーケットでは、消費は確実にモノからコトへとシフトしている。お客は商品よりもサービスにお金を払う傾向が鮮明になっているのだ。


 働く側の意識として、PCの前での事務的な仕事より、人と接する仕事が好きという若者が減っているとは思えない。アパレル側に夢も展望も望めなくなっているだけで、すべての接客サービスが否定されているわけではないのである。


 であれば、アパレルでも高級オーダースーツの販売スタッフくらいは目指せるのではないか。サルトリアまでの技術はなくても、アドバイス術を身につければ鬼に金棒だ。レディスで言えば、プレタゾーンのお針子販売員が当てはまるだろう。


 接客サービスの高度な技術能力を身につければ、業界以外でもつぶしは利く。宝飾品や高級時計、高級外車などの個人セールスだってあるだろう。


 自分の接客能力次第で高額年俸を得ることも夢ではない。もちろん、ホテルマン&ウーマンもちろん、医療などへの転身も不可能ではない。


 洋服好き=販売員予備軍は、幻想である。接客サービス業の可能性や将来性に触れて、人材を育成していかなければ、業界内部だけでの販売スタッフの育成は限界値に達していると思う。


記事検索
プロフィール

monpagris

カテゴリ別アーカイブ
タグクラウド
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ