HAKATA PARIS NEWYORK

今のファッションを斬りまくる辛口コラム

2016年12月

本業はファッション、グラフィックなどデザイン関連のクリエイティブディレクター。創る側の視点で今のファッション関連の事情を評論する。マスメディアはもちろん、業界紙誌も扱わないテーマに踏み込む。

立場と環境が人を育む。

2016last 今年もあと4日となった。個人的に注目した業界ニュースは企業倒産が300件を超え、百貨店の閉店が相次いだこと。だからでもないだろうが、若者が業界を志望するケースが減っており、各方面から人材の確保が容易ではないとの話を聞いた。

 暮れにビジネスを終了した某コミュニティサイトは、折りに触れて「若者がなぜ業界を目指さなくなったのか」というテーマを取り上げた。大学生にインタビューして生の声を拾ったものだが、学生がファッションをメディアコンテンツの一つとして捉えてはいるものの、「糸へん」への理解にはほど遠いと感じた。

 ゼミでビジネス研究を始めている大学もあるが、こればかりは外から学ぶのと中に入って知るのとでは大きなギャップがある。まして専門学校生となれば、デザイン中心の技術教育をスローガンにするだけで、業界が抱える課題にほとんど与しておらず、若者の考える能力を刺激し、真のプロに育てられるとは思えない。

 企業に目を向けると、従業員の頭数を揃えるために給料や待遇といった見せかけの情報を流布したところで、ほしい人材が確保できるのだろうか。人手不足の問題は何も昨年や今年に始まったことではない。バブルが崩壊して以降、コストダウンがまかり通るようになり、構造的な問題になるのはわかりきっていた。

 きれい事かもしれないが、 企業側はどうすれば、業界のことを好きになってもらい、長く働いてもらえるのか。働く側もこの仕事に携わることで、いかに自分が成長していけるのか。「パートアルバイトで何とか回していけばいい」とのモラトリアムな風潮が人材の育成や技術技能の習得を蔑ろにしてきたのではないか。両者がそれらに真摯に取り組まなかったことのツケは、決して小さくないということだ。

 話はズレるが、ちょうど1年前に電通の女性社員が長時間労働の末に自殺した。入社するために一生懸命で、内部事情をそれほど知っていたとは思えない。一般学部の女性だから、志望先はコンテンツ制作で、職種ではコピーライターか、CMプランナーか。ならば入社試験とは別にクリエイティブテストもあったと思う。彼女がそれを受けたかどうかはわからないが、東大出の能力を買われて配属されたのは、電通が最も注力するネット関連の部局だった。

 入社後、研修が終わり、直属の上司からは「まずは与えられた仕事を頑張れ。そこで結果を出せば希望は叶う」的な言葉をかけられ、鼓舞されたのだろう。だから、当初は長時間の勤務も夢を叶えるためには厭わなかったのかもしれない。しかし、この言葉は社員を都合よく使うための魔法の言葉になることもある。真面目でそれを強く信じる社員がいればいるほど、組織は機能し強固になるからだ。

 結果的に長時間労働が肉体を疲労させ、さらに上司のパワハラが重なって精神ストレスを蔓延させ、将来を嘱望された若手社員は死に追いやられてしまった。電通側はマスメディアを支配するだけにすぐに片が付くと思ったのかもしれない。ところが、ネットを中心にブラック企業のレッテルが貼られ、企業力を誇示する象徴の「鬼十則」さえ、電ノートから削除するはめになった

 その影響が多方面に出始めている。長時間労働の問題は大企業はもとより、地方の有力企業にまで飛び火し、増え過ぎる労働時間をセーブする動きが強まっている。とある地銀の営業マンがうちの事務所に来て、来年3月から夜7時以降は残業ができなくなると言う。広告屋である電通が自らの醜態をアピールしたことで、クライアント企業の残業抑制を啓蒙する結果になるとは、何とも皮肉な話である。

 アパレル業界ではまだ残業カットの動きは見られないが、長らく労働集約型産業と言われ、まだまだ長時間労働が根強く残る。ただ、IT化の進展で電通ほど高度な属人的産業ではなくなった中、人手不足にも取り組みながら、落としどころをどう見つけていくか。答えは教育機関まで遡って見いださなければならない問題でもある。

 専門学校、大学を含めて就職に際しては「人間が行う仕事とは何か」「作業と仕事の違いは何か」の基本を押さえさせ、活動をさせることだと思う。技術も技能も持たないとルーチンワークの中に組み込まれていかざるを得ない。そこを深く考えずに作業に従事するまま歳だけとっていけば、人間の方が技術革新に追い抜かれてしまうのだ。

 業界は大きく変わっている。単純に販売、購買するだけならネットでも十分となった。必要な物流機能もどんどん機械化されている。人的な労働でも生産性の低いものは、ますますロボットなどに置き換えられていくだろう。国内のサービス業では日本人の労働者が集まらないから、外国人で賄うなんて言うこと自体がすでに時代遅れなのかもしれない。だからこそ、作業とか、労働力とか単純なことではなく、業界で携わる仕事の質を高めることに力を入れていなかければならないと思う。

 商品そのものを見直し、それを作って売るフロー、人間が従事することにイノベーションをもたらす取り組み、つまり仕事の質を高めることが必要なのである。どこに物的コストをかけ、人的な技術、能力を割くのか。生産性の低い労働は人間以外に任せられないのか。仕事内容を変えるためにITをいかに有効に活用するか等々である。

 上質な糸や生地を懇切丁寧に作る。これは人にの手や目が関わることが多い。そんな素材を生かして形と色のバランスを整えるべく時間をかけて商品のアウトラインを作るのは人間の仕事だ。複雑なディテールの縫製、高度で秀逸な加工も人の手間や技が必要になる。そうした商品をじっくりスタイリングしてホスピタリティをもって提案し、着る人のストーリーを演出するのも人間にしかできないだろう。

 一方で、コストダウンのために上記条件のどれかをセーブすることで成り立たせようというビジネスもあるだろう。しかし、市場は敏感に反応する。「ケチった」ところはすぐに見透かされてしまい、元の木阿弥になる。ベーシックなアイテムやプレーンなデザインにして手間と時間を抑えるが、質はどこまでキープしていくのか。素材や縫製をギリギリまでコストダウンして短サイクルで回していく商品を生み出すか。

 コストパフォーマンスを求められる商品はITの力を借りて省力化、システム化して製造し、物流の合理化や販売のネット化をどんどん進めていけばいい。コモディティ化で低価格を売りにする商品が存在価値を増す中で、生き残るにはどれかの条件を削るだけではなく、どれかの条件を際立たせないと競争力にはならない気がする。今年はこうしたビジネスフローの差異が現れた年であり、来年はもっと明確に分かれていくと思う。


与えられた仕事で頑張れは空手形


 人間が行う仕事はどうなるのか。正規と非正規、同一労働同一賃金の議論があるが、同じ仕事内容なら正規、非正規の分け隔ては全くないという企業も出始めている。リタイア組でも技術や経験を持つ人なら非正規でも時間を有効に活用してもらい、それなりの報酬を与えることでやり甲斐を感じてもらおうという企業もある。「午前中だけ仕事をすれば十分」という自適な人がいるからだ。

 逆に新卒の若年労働者に対しては、能力とモチベーションをじっくり見極め、適正な配置、配属が必要になる。筆者が就職した頃は、与えられた仕事を頑張って結果を出せば希望は叶う的な言葉をかけられ、やる気を起こそうとされた。しかし、 仕事をすればするほど、企業は個人の希望より組織を優先することが薄々わかって来る。

 今振り返ってみると、それは空手形に過ぎなかったと思うし、適当な時に見切りを付け、やりたい仕事に向けて転職したことに後悔はない。やりたい仕事をさせてくれそうな企業でないと、人は集まってこない。それを前提にいかに魅力ある仕事を創造し、働く環境を整えるかが大きなテーマになっていくと思う。

 社員のモチベーションを上げていく施策も必要だ。業界は中小零細企業が多く、斜陽産業のイメージが強いだけに社員は給料や待遇だけでなく、会社や自分の立場の弱さに辟易している面もある。ある小物メーカーはそうしたネガティブさを打破しようと取り組み始めた。中部地方で創業して130年、ずっとファッション小物を作り続けており、プレーンなデザインで日常で長く使える上質なものづくりと高い技術を特徴とする。

 そうした製品の良さを世界に訴えることで社員に誇りを持ってもらおうと、モード最先端の欧州での勝負に出た。自社技術を生かして製造したストールをブランド化してパリのトレードショーに出品したところ、欧米はもちろん日本のセレクトショップからも高い評価を得た。日本のバイヤーが海外で見る商品となると、オーバースペック気味に感じる性格を読んだ戦略とすれば、なおさら経営者は天晴ということだ。

 もちろん、タグにはブランド名の他に同社の社名が堂々と刻み込んである。社内的にはそれが社員の達成感を生み、プライドをくすぐるともにモチベーションアップにもつながった。こちらの施策の方が重要なのである。ファクトリーブランドをビジネス化するのは難しいと言われる中で、数少ない成功事例だと思う。

 また別の小規模アパレル企業は販売職が敬遠されている中、専門学校や大学に若干名の求人を出しただけなのに、必ず100名ほどの応募がある。こちらは社長自ら学校に出向いて学生を相手に企業理念から自社のビジネスの仕組み、必要とされる社員像や能力を説いて回っている。決まりきったフォーマットに形式的な企業情報を書き込んで、待ちの姿勢で応募者を集めるようでは、求める人材には出会えないと考えからだ。

 しかも、販売職は決して非正規雇用にはせず、リスペクトするために職種名には「コンシェルジュ」と付けている。肩書きは会社にとって重要な役割であると本人に自覚させ、会社で働く意義をきちんと理解させていくのだ。昨今、販売職のようなサービス業は完全に売り手市場になっている。募集してもなかなか人材が集まらないと嘆く声も聞くが、そんな企業に限って「働く意義」を示せていないような気もする。

 このアパレル企業では若いスタッフが仕事をしていく中で、別の目標を見いだすようになると応援する。独立して途中でビジネスに躓くようなことがあれば、企業にいた頃に見つけた技術や能力をきちんと評価して、再び雇用するような仕組みも作っている。

 これから業界に入ろうという若者をどれだけ尊重して、持てる能力と技術と人間力を発揮させるようにできるか。ポジションが人を作り、環境が人を育てるのである。来年はそんなこだわりがビジネスの雌雄を決する一年になっていくように思う。


減らすべきムダがある。

uniqlonewyork1 先週、先々週とジャーナリストの横田増生氏による週刊文春ユニクロ潜入ルポについて書いた。第3弾が掲載された12月22日号はトップ記事が「電通の真実 激震ドキュメント」だった。電通の内情はグラフィックデザインに携わることからよく知っている。これについても書けなくはないが、別の媒体で機会があれば論評してみたい。

 ところで、ユニクロ潜入ルポの第3弾は、「黒字のため“ロボット化”する従業員」のテーマで、横田記者が店舗の従業員と人件費の問題に触れている。どの企業でも売上げが伸び悩む中、労務管理と賃金コストは二律背反する問題だ。政府は同一労働なら正規、非正規と同一賃金にするように政策目標に掲げて議論を進めているが、企業としてもそう簡単に答えが出せる問題ではないだろう。

 当たり前のことだが、人件費は減額すると従業員からは不満が噴出して士気が下がり、生産性が落ちるリスクをもつ。また法律上は減額に見合う正当な理由がないと、下げることはできない。それでも、ユニクロでは人件費の調整について、現場は上層部から「口酸っぱく」言われているようである。

 それを如実に示すのが、昨年の創業祭惨敗を受けての異変だ。売上げ不振を招いた原因が「値上げ」だったとの反省から、柳井正社長は低価格路線へ回帰し、併せて経費削減を厳命した。さらに低価格のままでは売上げが下がるため、並行して「客数を増やせ」との条件までつけている。だが、2016年8月期決算をみると、客数は対前年比で5%も落ち込み、一度遠のいたお客を呼び戻すのはそう簡単ではないことを示す。

 一方、経費削減の目標は1000億円に及ぶ莫大な規模だ。2016年3月~8月の下期にはパートアルバイトの出勤調整を行って人件費を削減し、営業利益は前年同期比の38.0%の増益と、早速効果をもたらした。しかし、横田記者が勤務するイオンモール幕張新都心店では、創業祭が不振だったことから「会社が倒産してしまう危機状況になる」との大義のもと、従業員の頭数が必要な11月でさえ出勤調整を行ったほどだ。

 親会社ファーストリテイリングは内部留保が3400億円あり、自己資本比率は安定した40%台で、株主への年間配当金は約360億円といたって優良企業である。にもかかわらず店舗では人件費を抑えて、利益を上げることが堂々と行われていることに横田氏は疑問を投げかける。結果的に店長クラスはサービス残業せざるを得ず、収益目標の達成という「手柄」のために、自ら身を削っているのだ。

 店舗をエリア毎に管理するリーダーやスーパーバイザーは、「販売管理費が非常に高くなっています。…原因は人件費を超過させているからです。粗利と人件費の関係に十分な注意を払ってください」(記事より引用)と、バランスシートを見て指示するだけ。店舗の責任者とは違い直接パートアルバイトには接しないからか、実にドライな物言いに聞こえる。上場企業、グローバルSPAとしてはこれがスタンダードなかもしれないが、コストは人件費だけではない。もっとムダなものがいくらもあるように思う。

 販売管理費には荷造りや運搬に関わる経費があげられる。 ユニクロの場合、この中にもムダなものがあるのではないか。工場から日本に送り届ける輸送費は別にして、国内の物流センターから各店舗への運搬費はどうなのかである。店舗にあれだけ膨大な在庫を積み上げているが、それがセールを含め100%消化することはありえない。仮に50%しか消化していないのなら、残る50%の在庫運搬費は、ムダと考えることもできる。

 また、その分の荷受けから品出し、畳みや整理に携わる従業員の人件費、その分の在庫を展開するスペースの不動産賃貸料も、コスト増の要因ではないのか。今やユニクロの顧客の何割かは店に行かずにネットで購入していると思う。その分の在庫も店舗に置かなければ、まだまだコスト削減ができるはずである。

 ECはお客が送料負担を嫌がるケースや一定額以上の購入で送料無料のコスト負担も生じるが、店舗販売にしてもトラックで商品を配送していることに変わりはない。店舗向けにまとめた大口配送と家庭向けの小口配送とのコストバランスになるわけだが、店舗に在庫を積むことでムダな作業コストが発生しているのは間違いない。

 ベーシックなデザインで、単品コーディネートで完結。お客が自由に着こなせば良いを標榜するユニクロだからこそ、店舗は小規模にして全国数カ所に物流センター兼ストックルームを作り、そこから配送するような仕組みを整えてもいいのではないか。そもそも論として人件費を削りたいなら、店舗における省力化をもっと進めるのが先ではないのかと思う。システムで成長したきたユニクロだからこそ、思いきってショールーミングを選択することも、経費削減に向けた重要な経営判断ではないかと思う。

 販売管理費には広告宣伝費もある。メーンはテレビCMと新聞の折込みチラシだ。CMではシーズン毎のトレンド商品のキャンペーン、企業イメージの訴求などを行っている。不定期のスポットだが、全国ネットで放映本数は多くなるため、毎回のCM投下費用は数億円規模になると思われる。

 チラシについては、週末に行ってきた値引きセールが縮小され、EDLP(エブリデーロープライス)戦略にシフトしたため、毎週金曜日の新聞折り込みもかつてのB3サイズ一辺倒から変わってきている。それでも直近に折り込まれたクリスマスセール向けは、B2サイズでユニクロとしては最大だ。これらが全国の新聞(2015年一般紙の発行部数は約4000万部だが、購読部数はそれより少ないと思われる)の朝刊配達分に入るのだから制作・印刷費、折込み料を合計すると、こちらも1回で数億円の規模になるだろう。

 テレビCMは代理店に言わせれば、「ブランドロイヤルティを維持するために不可欠なもの」かもしれない。だが、販促効果を考えるとネット浸透によるテレビ離れは深刻だし、番組視聴率が必ずしもCMの認知度を示すものではなくなってきている。

 目下のテレビ視聴者は圧倒的に60代以上が多いが、いくらユニクロのターゲットが老弱男女と言っても、限られた視聴者の中で効果を十分に発揮しているかには疑問が残る。映像の必要性はあると思うが、40代以下ならネット動画で十分ではないのか。経費削減の面でCMを見直すというのではなく、マス媒体における費用対効果という点で一考の余地はあるのかもしれない。

 チラシは新聞購読者との関係性があるため、テレビCMよりもピンポイントで販促情報を提供できる。だが、新聞を購読しない層が確実に増えているのは、人口が最も多い東京23の区新聞折込み総部数が約240万部しかないことを見てもわかる(2015年6月29日 オリコミのデータ)(http://www.orikomi.co.jp/wp-content/themes/default/img/orikomi/maps/cir/cir_tokyo.pdf)。

 あるポスティング会社によると、平均的な新聞投函率は戸建で60%、分譲マンションで50%、ワンルームマンションで5%程度まで下がっているとの情報もある。新聞を購読しなければ折り込みチラシも見られないわけで、折り込み広告社に新聞購読者層やレスポンス率を精査させながら、徐々にネットチラシに切り替えていくなど、経費として見直す部分はまだまだあると思う。

 ユニクロは米国における新規出店に際しトラフィック媒体、ローリングビルボードなどのオープン広告と併用して、出店後にはデジタルマーケティングにも注力している。例えば、ユニクロUSAはネット向けのファッションマガジンにユニクロの商品を着たお客の写真がアップされると、自前のFacebookですかさずシェアしている。

 またFacebookを使ったスタイリングコンテストやユニクロのPinterestをハックするキャンペーンなど、デジタルマーケティングは旧来メディアが幅を利かす日本より進んでいる。というか、日本でもマス媒体が以前のような力を持たなくなっていることを考えると、もっとSNSを活用することで媒体コストを削減できるのではないか。

 売上げの半分を日本で稼いでいるから、国内事業における販売管理費を削減する意図はわからないではない。しかし、いくら柳井社長が「プライスリーダーを取り戻す」「経費の削減」を訴えたところで、価格を下げても客数は戻っていないし、人件費を削ることで現場が確実に疲弊しているのも事実だ。

 ファーストリテイリングの2016年8月期の連結売上高は1兆7,864億円だが、前期比伸び率をみると6%と前年の22%を大幅に下回っている。10月に2020年度売上げ目標を5兆円から3兆円に下方修正したのは、紛れもない国内市場の縮小、客数の減少を受けてのことである。

 だからこそ、低価格や経費削減といった単純な政策ではなく、ビジネス全体の枠組みを見直さなければならないと思う。低価格戦略を続ける以上、海外の生産態勢、為替などからコスト変動とは切っても切れない。原価率の圧縮で商品の質が低下すれば、さらにお客は離れていく。SPAシステムを構築し、どこよりも磨きをかけてきたからこそ成長できたのだ。それゆえ新たなシステム構築がカギになるのは言うまでもない。

 横田氏はルポで「私自身、一年働いてみて、従業員は非人間化されたマシーンになることが求められているのではないかと感じることがあった。人間というより黒字を生み出すロボット、調整弁として都合のいいように使われている気がしてくるのだ」(記事より引用)と、徹底した人件費抑制の背景にも切り込んでいる。

 ユニクロの業務は高度にマニュアル化されているため、さらなる人件費削減が厳命されればスタッフの出勤調整も堂々と行われ、限られた人数で対応せざるを得ない。ゆえに生身の人間、感情をもつ人間にとっては、受け入れ難い面もあるだろう。

 しかし、収益の拡大を最優先する柳井社長がそうしたメンタリティに与するはずもない。だからこそ、ユニクロは小手先に施策ではなく、ビジネス戦略自体を変革していかなければならないのだ。そこでは感情をもつ生身の人間をロボットのように使うのではなく、現実にロボットを活用すべき段階に来ているのでないのかと思う。

 Amazonはすでに川崎市の物流倉庫で、国内で初めて自走式ロボットを導入した。ロボットを活用することで、人間が棚に置いた商品を探して歩き回るのではなく、人間が仕分け作業をしている場所に棚が自動的に運ばれてくるのだ。これで作業の負担を低減するほか、商品を探す手間が減り、受注から発送までの時間短縮にもつながるという。

 ベーシックな商品をセルフサービスで売っているユニクロこそ、店舗はショールーム化して在庫量と人海戦術的な作業を極力減らし、ECとロボットなどによるオートメーション化を連動させる物流システムの構築に取り組むべきではないか。当然、ロボットが作業をこなすようになると、人間による単純労働は必要でなくなり、人件費削減とは別次元のレイオフが始まることも想定される。

 これはユニクロに限ったことではなく、ファッション業界、全サービス業に通じることだ。ロボット化のような仕事が嫌なら、人間らしい仕事とは何かを考えなければならないし、そのための能力開発が求められる。これからのファッション業界で、人間はどんな仕事ができるのか。ユニクロ潜入ルポの深層に潜む課題からも目が離せない。

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店は疲弊している。

uniqlo2 疲弊とは肉体や精神が疲れることを指す。また不況や出費が続いて自力で立ち上がる力を無くしていることを意味する。通常は人間か、企業に当てはまるが、今回はあえて店舗を対象にしてみたい。疲弊している店とは、ユニクロ。先週に続き、ジャーナリスト横田増生氏の潜入ルポからの考察である。

 第2弾は週刊文春の12月15日号に掲載された。今回は前回よりはるかに生々しいドキュメントで、冒頭には以下のような本社人事部長と横田氏とのやりとりがある。


 「この記事を書かれたのは●●さんですよね」「そうです」「わかりました。ならば、当社のアルバイト就業規則に抵触しているということで、解雇通知させていただきたい、と思っています」

 「(この記事の)どこが、就業規則に抵触しているのでしょう」「まず、週間文春の十二月八日号を書かれたということは、当社の信用を著しく傷つけたということですね」「記事のどこが就業規則に違反するんですか」「アルバイトの就業規則の第七十五条の十四項と、第十六条一項に当社は該当すると判断しました」

 「この記事を寄稿されたこと自体が該当すると思っています。中身云々は別として、当社にとってまったくプラスになるような内容ではない」

 「懲戒解雇ですか?」「懲戒解雇ではありません。解雇通知です」


 私がいちばん聞きたかったのは、記事に事実と違う点があるのか否かだった。事実でないことを書いたというなら重大な損害を与えたと言うのも理解できる。しかし、何度も「記事に間違いがあるのか」と尋ねた末に、返ったきたのは、「間違っている云々の中身の吟味はしておりません」という一言だけだった。


 「記事は間違っていないということですか」と食い下がったが「お答えできませんし、お答えする必要もありません」(本文より、引用)


 横田氏のユニクロ潜入取材は、柳井正社長が雑誌プレジデント(2015年3月2日号)で「悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど。…社員やアルバイトとしてうちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたいですね」と、反論したことに端を発した。

 実際にアルバイトとしてユニクロの3店舗に勤務し、1年以上にわたって店舗業務を経験しながら取材を重ねている。その第1弾が12月1日発売の週刊文春に掲載され、一般にはわからない店舗業務の内幕が白日の下に晒された。

 ルポ第2弾は横田氏の「諭旨解雇」という形で始まり、潜入取材は終わりを迎えるが、1年以上業務に携わったことから記事は続く。目を引くのは柳井社長の号令のもと、今年10月に下方修正したとは言え、2020年に年商3兆円企業に向けた「売上げ至上主義」に少しも狂いがないこと。そのために店舗では依然としてサービス残業が続き、人手不足が慢性化していること。そこには肉体的にも精神的にも疲れきったスタッフが大勢いる。まさに「店は疲弊しきっている」のである。

 ユニクロの売上げ追求の是非はひとまず置くとして、問題の本質はそのための手段である。ルポには、横田氏が勤務したビックロが創業祭を乗り切るにあたり、圧倒的に人手不足であることが記されている。横田氏はその状況を以下のように克明に記している。


「私がビックロに一番驚いたのは、夜になると派遣社員が働き始めること」

「派遣社員はほとんどがユニクロで働くのが初めてのため、客対応は荷が重すぎる」

「…今度は見かけたことのない女性従業員が客対応に手間取っている」

「…先ほどの女性従業員に声をかけられた。『助かりました。本部社長室の■■です』」「前日付の『部長会議ニュース』の冒頭で柳井社長が、感謝祭の応援に行っていない社員は必ず行くように、と指示…」

「気持ちはありがたいが、現場からすれば、修羅場の感謝祭で売り場を知らない本部社員は足手まといになることも多かった」(以上、記事から引用)


人材の効率運用よりコストカット


 記事を一括りで解釈するとすれば、ユニクロのような強力なSPAですら、現場のレイバーコントロール(人的資源の効率運用)は脆弱であるということだ。派遣社員を雇うのはパートアルバイトを募集しても、人員が揃わないからだろう。派遣社員でもきちんと教育して戦力にすれば良いのだが、大型店ではスタッフの頭数が圧倒的に足りないため、じっくり時間をかけて教育する余裕すらないようだ。本来なら店舗社員やパートアルバイトで回していくべき店舗運営。そこにコスト高の派遣社員まで借り出さなければならない。まさに出費が続いて自力で立ち上がれず、店は疲弊している状態と言える。

 一方、ユニクロの本部スタッフはキャリア採用の中途入社やヘッドハンティング組になる。前職の経験や実績が重視されて採用されるため、現場の業務を知り得るはずもない。組織が肥大化すればするほど、現場と本部との乖離は顕著になり、結果的に社員のモチベーションに温度差が生じる。全員がそうとは限らないが、本部採用という特権意識もあり、現場に対しどこか上から目線で見ている部分もあるだろう。

 だからこそ、現場と本部との壁を取り除き、コミュニケーションを円滑にしていく上で、スタッフセクションの人間が店舗業務を応援するのは重要で、セールや創業祭は格好の場となる。ただ、それ以前に現場は深刻な人手不足に陥っており、同じ人件費を払うなら本部スタッフさえ活用せざるを得ない窮状も窺えさせる。

 前回のルポにも準社員の女性が勤務中に体の不調を訴えたり、男性社員がアルバイトに「そんなスピードじゃ、間に合わないんだよ」と叱責したり、派遣の中国人女性に「ちゃんと俺に言ったこと、分っている? いや分ってないね」となじったりと、現場の混乱ぶりが綴られていた。

 四半期ごとに発表される短信レポートには記されていない疲弊した店舗の状況が潜入ルポからはひしひしと伝わって来る。こうした状況が続くユニクロがはたして2020年に年商3兆円を達成できるのか。また、柳井社長は企業経営者として、求心力をもつのだろうか。疑問を呈さざるをえない。

 筆者がアパレル勤務の時代には派遣社員こそいなかったが、取引先のセールや創業祭では店舗に本部から応援に駆り出される人員は同様にいた。実際に総務部長のおじさんがレジ打ちしているのを見たことがあるし、部長級がエプロンを付けてぎこちなく接客する姿もあった。こちらは社外の人間なので傍観するだけだが、会社として売上げ目標を達成するには、全社一丸となって乗り切る態勢はどこも変わらないような気がする。

 レディスショップになると通常、男性はバイヤーや店長(候補)などバックアップやマネジメントが主な仕事で、お客さんに販売することはあまりない。だから、セールや創業祭の応援では店頭で活気出しのために声を張り上げたり、お客さんをフィッティングルームに誘導したり、スタッフが手一杯の時に対応したりと、補助的管理的業務になる。女性客はどうしても男性の視線を意識する。混雑する店内に男性がいることで、万引きなどの防犯担当の役割も担うのだ。

 ところが、ユニクロはターゲットが老弱男女になるから、接客は男女が同等に当たる。しかも大型店が多いから、多忙さは一般のショップとは比べ物にならない。商品の展開方法こそ簡素化されているが、万人向けのデザインでかえって客層は広く、購買機会も格段に増える。そのため繁忙時の接客対応にかかる人的負担は、尋常でないと思われる。

 単純に客対応がそのまま売上げにつながるのであれば、粗利益が50%程度と言われるユニクロの人時生産性(粗利益÷総労働時間)は相当に高い。だが、莫大な商品量の荷受け、その商品の品出し作業、客注のストック確認、閉店後の商品の畳みや整理など、生産性の低い作業もある。現状の業務のままでは営業効率が良いとは決して言えないだろう。

 記事では、昨年の感謝祭が惨敗だったため、ビックロの店長代行はその後の朝礼で「感謝祭は全社的に不振に終わっています。結果として経費を削っていかないと、下手したら会社が倒産してしまうという危機的状況です。今やらなければならないことは二つ。一つは、売上を取る。二つ目は経費を抑える。そのため、今週はスタッフの皆さんの出勤日数を削らさせていただきます」(記事から引用)と、言っている。

 つまり、店舗が利益を上げるには粗利益に占める人件費の削減は止むなしなのだ。先週のコラムはタイトルを「店長は経営者なのか」としたが、ユニクロではスタッフ雇用や経費削減が店長の裁量に任せられており、この行だけ読むと経営者たるのかもしれない。

 ただ、ルポにもあるようにビックロは、人手不足で夜間に派遣社員を雇用している。こちらは派遣会社を通すので直接雇用より人件費がかかるが、そうでもしないと人が揃わないのだ。そのためにパートアルバイトの出勤日数を削るのは本末転倒も甚だしいが、それほどレイバーコントロールが正常に機能してないとも言える。

 何より売上げの追求と利益の最大化を至上命題とする柳井社長が店舗に対し、コストカットを厳命しているのは間違いない。だから、店長他責任者としては手っ取り早く人件費に手を付けざるを得ないのである。しかし、業務を効率化し、職場環境を改善するのも経営者の役割のはずだ。店長がショップマネジメントを任されているのなら、従業員のことも優先的に考えていくべきなのだが、ユニクロからはそれがなかなか見えて来ない。

 潜入ルポ第2弾には「ユニクロにとって従業員とは何か、人件費とは何かを目の当たりにすることになった」とまでしか書かれず、後は前出の店長代行のコメントで、記事は終わっている。第3弾では従業員や人件費に関する横田氏の隠し玉が出てくるのかどうかはわかならいが、期待はしたい。

 横田氏も書いているように昨年ユニクロが値上げをしたことで、売上げが下がったのは事実である。当然、利益を確保するには人件費カットに踏み切らざるをえないわけで、そのツケはそのまま現場の負担となっていく。感謝祭のような繁忙期が終わると、店舗は通常営業に戻る。その分、売上げも落ち着くことになるから、利益を上げるにはなおさら経費を削らなければならない。

 ただ、本部からは次々と商品が送り込まれてくるわけで荷受け、品出し、畳み、商品整理といった作業は変わらない。こちらの無駄とも思える業務を削減せずに人件費だけを削るのでは、現場はますます疲弊していく。経営者ならまず社員が働き易い職場環境を整え、福利に資することも不可欠なのだ。

 ユニクロは日本のSPAとして国内では向かうところ敵無しと言える。しかし、店舗が疲弊したままではいくら決算が増収増益でも、卓越したシステムのどこかに綻びが生じ、成長に黄色信号が灯るかもしれない。疲弊している店の上で成立するマイダスタッチなんてあるはずもないのだ。

 多くのお客さんは思っているはずだ。あんなに大量の在庫を売り場におく必要があるのか。また在庫が全部捌けるのだろうかと。確かにヒットアイテムになると欠品する商品もあるだろう。それがどの商品になるのかはわからないから、機会ロスを無くすめに大量の在庫を置かなければならないという理屈はわかる。

 12月2日に発表されたユニクロの11月の国内既存店売上高は、気温が低下し冬物衣料の販売が好調だったため、前年同月比7.3%増と、4カ月ぶりに前年実績を上回った。比較的単価が高いカシミヤセーターやコート、ブルゾンといった商品がよく売れたようである。短信レポートにはそこまでしか書かれていない。しかし、数字は操作できるのだ。

 もし利益も上がっているとすれば、コストカットを徹底したからかもしれない。あれだけの大量な商品を抱えていれば、値下げや廃棄のロスも相当に及ぶ。なのに増益になるのはどこかにからくりがあるはずだ。取材するジャーナリスト、決算報告から分析するエコノミストやアナリストの多くが「増益」を単なる「コスト削減が要因」とまとめるが、その背景で店が疲弊している状況をどれほどが認識しているのだろうか。

 小売業である以上、売上げの拡大は当然の企業目標である。しかし、そのためには手段を選ばないのが企業にとって本当に理想的なことなのか。小売業は人(スタッフ)、物(商品)、器(店舗)のどれが欠けても成り立たない。だからこそ、店舗環境が良好であってこそ、目標が達成できることも忘れてはならないと思う。

店長は経営者なのか。

uniqlosenyu1 先週発売の週刊文春に「ユニクロ潜入1年」と題した記事が掲載された。ジャーナリストの横田増生氏がアルバイト勤務してまとめた渾身ルポの第1弾である。ユニクロは同記者の著書「ユニクロ帝国の光と影」を名誉毀損だと、出版社の文藝春秋を訴えたが、1審、控訴審はそれを認めず、最高裁は上告を棄却した。

 敗訴したユニクロの柳井正社長はブラック企業批判について、雑誌プレジデント(2015年3月2日号)で「悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど。…社員やアルバイトとしてうちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたいですね」と、反論している。ならばと、横田記者は名前を変えて実際に1年間、店舗で働いて書いたのが今回のルポである。

 ユニクロがブラック企業と言われ始めた背景には、社員のサービス残業や人手不足の実態があると言われる。ただ、横田氏も書いているようにユニクロには柳井社長を筆頭に形成されるヒエラルキーからはドライで上意下達の企業風土が生まれ、生え抜き社員のキャリアパスには限界があるように思う。

 幹部候補であるグローバルリーダーの募集要項(https://www.fastretailing.com/employment/ja/uniqlo/jp/graduate/global/environment.html)を見ると、社員の職階はJ、S、M、Kまであり、新入社員はグレードJ-1からスタートする(パートアルバイトはPN1から)。そこで店舗社員が課される当面の目標は、S-1のショップマネージャー、いわゆる店長だ。

 店長は、業務をこなしながら数センチにも及ぶ分厚い業務マニュアルを習得し、数段階の昇格試験を経て到達した優秀な面々でもある。まさに柳井社長が語る「店長とは経営者」にふさわしい人材のはずだが、自由に商品を仕入れられる権限はなく、本部が造る範囲内で商品を発注し消化していくしかない。

 もう10数年も前のことだが、 雑誌の企画で最高ランク、SS店長に1日密着したことがある。店舗はショッピングセンターのインストアで、朝8時からバックルームで待っていると、同30分過ぎに出勤。翌日の店長会議出席のため、夕方の飛行機に乗るとキャリーケースを持参していた。同35分には店舗社員とミーティングを行い、45分にはマニュアルに添い自ら考案した模擬テストを実施。テスト中は昨日の閉店後に行われた下位品番の品出しをチェックする。

 9時からは勉強会。次週実施予定の試験について傾向と対策をレクチャーする。各自に学習度合いを確認し、答えられないスタッフ、不正解のスタッフには容赦なく檄を飛ばすが、フォローも欠かさない。同45分からは全体朝礼。20名弱ものスタッフを前にハキハキ語る姿は壮観だ。終日のスケジュールを確認し、業務内容を指示する。その日が日曜日だったため、平日との商品体制、時間帯別の人員態勢の違いを明確に示す。

 10時開店。テスト中にチェックした下位品番の品出しで気づいた点を担当者に指示する。密着して印象的だったのが「言われたことができるのは当たり前。自分で考えて行動しろ。作業を仕事に変えろ」を連発したこと。その場で答えを問い質すなど社員教育にも熱が入る。発注する商品のバランスをスタッフとやり合う「日曜バトル」なんて、他のチェーン、専門店では聞いたことのないような仕組みにも触れることができた。

 ユニクロにとって店舗は営業の最前線であり、店長は売上げ目標と市場拡大を達成する鬼軍曹であるように感じた。半人前の兵士を一人前に鍛え上げて、次の最前線に送り込むのと同時に自分の陣地も守りながら、売上げ目標という勝利を収めないといけない。

 本丸にどかっと腰を据える柳井社長は、直属の部下を通じて前線に命令を出すだけ。売上げが芳しくなければその反省を求めるが、内容が不適格なら参謀という執行役員とて容赦はしない。店長と言っても、柳井社長にすれば売上げを生み出す道具程度。「経営するんだ」のスローガンも、店長を叱咤するフレーズに過ぎないと、記事を読んで痛感した。


叩き上げが経営参画できない

 他社はどうなのだろうか。筆者が業界に入って目にしたのは、取引先の小売店がいかにしてスタッフにキャリアパスを得ようとさせているかだった。アパレルを扱う小売業の場合、新入社員の多くが当面の目標を「バイヤー」に置いて入社してくる。展示会を回って商談を重ね、頭の中に売場編集やVMDを描きながら、商品を仕入れていく。

 新たなブランドを開拓するなら、東京の店舗であっても関西のメーカー、はては海外コレクションやトレードショーにも足しげく通う。ファッションビジネスを志す多くがそんなカッコいい姿に憧れるのは、ごく自然なことだった。

 大手百貨店や全国チェーンになると、募集職種はバイヤーにとどまらず販促や広報、外商などもある。ただ、どんな希望職種でも経営陣は、新入社員に対し目標達成のために「まずは現場(接客販売)で頑張れ!」と、叱咤激励するのがお決まりだ。売場で接客販売をすることが小売業の原点とばかりに社員を鼓舞するのは、組織を一つにまとめる手段として不可欠だからである。

 そうして優秀な中間管理職が育てられ、さらに本人の実績と野望、多少の人望が加わり、経営幹部に上りつめていくのが定石だった。それがアパレル業界の売上げ拡大を支えていたのである。

 創業当時のユニクロも、小売業ということでは募集職種や社員の目標設定について他社とそれほど変わらなかったと思う。ところが、ある時からユニクロは変わったように感じる。業界で勝ち残るには世界のトップを目指さなくてはならない。そのためには現場はあくまで現場は現場、経営は経営と別個に考え始めたような気がする。

 グレード一覧表には各職階の年収が記されている。完全実力主義で、会社は成長する機会を与えるのだから、それを生かすのは本人次第ということだ。新卒は営業の最前線である店舗で鍛えられ、実績と昇格試験でキャリパスを手にする。店長の先には部長やリーダー、本部社員という職階もあるがヒエラルキーがある以上、そこまで登りつめる現場経験者がどれほどいるのかと、つい考えてしまう。

 一覧表にはグレードE-4、年齢41歳以上のSS店長クラスは、平均年収が3400万円を超えている。金額だけみると、凄い額だが、実力主義を標榜している以上、実力=売上げが下がったとなれば、年収も下がるわけだ。仮に実力、実績が上がったとして、その上のグレードK-1、平均年収9000万円の執行役員になれるのだろうか。こちらとて実力主義は変わらないのだから、年俸が維持されて待遇と仕事が継続する保証はない。

 この理屈で考えると、K-4に君臨し年収2億4000万円の柳井社長でさえ、収益が下がれば役員報酬はカットされることになるはず。でも、そんな責任の取り方を耳にしたことはない。

 過去には経営幹部に求められる人間は同業異業、国籍出自を問わず、自薦他薦もしくはヘッドハンティングのような形で採用されることもあった。必要とされる条件は、「会社をどうしたいのか」というヴィジョンと、それに対する「政策実行能力」の有無だけ。現場で学んだ知識やトーク、技術などはあまり必要ないようで、優秀な現場経験者がどこまで経営に参画できるかどうかが非常に見えづらい。

 柳井社長は自分がスカウトした幹部でも期待通りの働きを見せないと、バッサリ切ったことがある。原因は経営陣がいくら優秀な頭脳で考えた政策でも、社員やアルバイトが簡単に実践できるとは限らないところにもあった。しかし、すぐに態勢を立て直している。店長という中間管理職の成長が反転攻勢に出る原動力になった側面もあると思う。それとてエリート幹部と現場との溝が埋められたかと言えば、決してそうではないだろう。


業務効率化は経営の使命

 記事にあるように、柳井社長は経営幹部に対し「売上げが悪い」と、仕事の目標設定まで変えさせるようで、売上げに対するプレッシャーは相当なもののようだ。上場企業だから四半期ごとに発表される短信が好結果でないといけないわけだが、部長会議ではおそらく「寸鉄人を刺す」ような叱責や皮肉が繰り広げられているのではないか。

 ただ、トップや幹部は四六時中現場にいないし、接客や商品整理するわけでもない。自分たちが与えた業務命令とそれを処理する店舗社員とで、仕事に対する認識の乖離が簡単に埋められるはずもない。ブラック企業と言われる遠因は、その辺にもあるはずだ。

 横田氏が携わったのはあくまでアルバイト。今日のユニクロが作り上げた商品企画から素材開発、縫製、物流までにおける卓越したノウハウを検証するものではない。ユニクロUに見られる利益度外視の商品開発力に切り込んでもいない。だから、ユニクロがもつもう一つの側面、あるいは本質を探ることにはならないとの意見もあるだろう。

 まあ、ビジネス社会は戦略を立てる経営者と、戦術を考え指揮管理する部長クラスと、優秀な統率力を備えた次長と、勇猛果敢にチャレンジする課長と、兵隊となる平社員で構成される。週刊誌の読者も大企業のトップから末端のブルーカラーまで、ピラミッド状態で構成されている。圧倒的な読者数で言えば、ゴシップ好き一般庶民となるだろう。

 そうした読者の琴線に触れる記事は、「社員たちのサービス残業」「人手不足」「創業感謝祭の過酷な勤務の実態」にならざるを得ない。横田記者だってそれを承知での潜入ルポだったと思う。業界紙誌ではないのだから、SPAとしての卓越したノウハウを紹介したところで、一般庶民の心は打たない。本社社員ではなく、その辺の課題に切り込むことは容易ではないから、別の機会に期待するしかない。

 でも、ユニクロがブラック企業のレッテルを貼られたのは事実だ。だから、いくら正社員を増やそうが、残業を減らし手当てを付けようが、汚名挽回は容易ではない。2017年卒大学生の人気企業の総合ランキング200を見ても、三越伊勢丹(80位)、ニトリ(85位)、高島屋(174位)がランクインしているのとは対照的に、人気は下降している。

 それは「ユニクロではいくら現場で頑張っても、やりがいのある仕事が見通せない」と、大学生の多くが感じている証左なのだろうか。なおさら社員にとって店長の先のポストが見えづらいとなれば、これから中間管理職の大量退職も現実味を帯びてくるのではないのかと思う。

 あの店づくりと商品展開を見る限り、閉店後の残業が簡単に削減できるとは思えない。店舗業務をもっと効率化しないといけないはずである。奴隷の仕事と揶揄される荷受け、膨大な商品量を品出しする作業、閉店後に待つ商品の畳みや整理然りだ。

 ユニクロの販売手法はお客が勝手に商品をとり、姿見で確認したり試着してレジカウンターに向かうセルフサービス。ならば、店舗には最低限の在庫とサンプルを置き、カラーや客注対応はVRでシミュレーションするなどをもっと進めてもいいのではないか。購入品は物流倉庫から自宅に配送すれば十分だ。そうすれば、現状の売場面積は必要ないし、面積が同じなら品揃えを増やせる。現状の品種でもカラーバリエーションが増やせれば、ずっと言われ続けてきた色音痴を解消できるかもしれない。何より労働生産性の低い作業は、どんどんカットできると思う。

 店舗社員はオペレーションとコントロールのみを担当し、IT化によるMDバランスと在庫変動、売上げ、商品投入をチェックしながら、店舗のマネジメントを学習していけばいい。そうすることで、サービス残業や人手不足はかなり解消できると思う。もしかしたら、売上げさえ伸ばせていれば、「経営幹部に睨まれる本社勤務より、お客さんに対しスマートに応対する店の方が楽しい」ってことになるかもしれない。もちろん、その先のキャリアパスが用意されての前提だが。

 柳井社長は敗訴した後、正社員化、残業手当の支給を進め、ブラックイメージの脱却をはかったと言われる。でも、店舗業務の効率化の方がコスト増大を抑え、生産性を向上させる点で好都合ではないだろうか。決め手は労働コストと物流コストを両天秤にかけたときに、どちらが利益を向上させるかだろうが。

 もちろん、ユニクロのことだから、兵隊や課長といった社員のコマ不足についても、次なる施策を考えていると思う。それがユニクロのユニクロたる所以だろう。しかし、業界にはこんな格言もある。「店では社長より店長の方が偉い」。だからこそ、現場叩き上げの人間がどんどん経営にも参画するようになってもらいたい。

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