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 小売業界は商品政策で差別化ができなくなっている。そのため、ミステリーショッパーだの、ロールプレイングコンテストだのと、接客技術や販売力で勝負しようとしているが、
その効果はなかなかすぐに出るものではない。

 最近もJフロントリテイリング傘下の博多大丸と福岡パルコが第2回の合同ロールプレイングコンテストを開催した。両店は以前から「母は大丸、娘はパルコ」をキャッチフレーズに共同販促・企画に取り組んで、三越伊勢丹グループの岩田屋や福岡三越、JR博多駅の博多阪急やアミュプラザに対抗。今回はさらなる接客技術や販売力の向上を目指そうと、2回目の合同ロールプレイングコンテストに踏み切ったようだ。

 博多大丸から11店、福岡パルコから9店が選抜されて、接客技術を競っている。しかし、このコンテストがはたしてどこまで両店の技術やスキルを高められるかは、疑問である。


 なぜなら、身内で行うコンテストの場合、その審査指標が相対的なモノに陥ってしまい、絶対的視点や客観性を欠くからである。競合店にはもっと優れた販売スタッフは、いくらでもいると考えられるし、そうした人間と競い合ってはじめて技術や能力は磨かれるのである。

 小売りサービス業界では、毎年全国SC(ショッピングセンター)ロールプレイングコンテストが実施されているが、このくらいのレベルで競い合わないと、自店、自分の客観的な技術や能力がどの程度のものかわからないのではないだろうか。

 ちなみに昨年の全国SCロープレコンテスト決勝大会には、九州地区から3名が参加する大健闘。あいにく福岡パルコのスタッフは入っておらず、パルコ全店でも静岡店から1名が参加できただけである。言い換えればその程度の次元で、競い合っていいのかである。


 そして、審査基準や審査員のレベルと、それを今後の接客教育にどう生かすかがもっと重要なのだ。審査基準では、まずお出迎えから、アプローチ、お客ニーズのヒアリングといったベーシックスキルから細かく見ていかなければならない。

 そして、問題解決力にまで踏み込むことが必要になる。「お客からこんなことを言われたときにどうする?」。それがマニュアルにあるような陳腐な受け答えでは何の意味もない。

 私がお客役をするなら、バイヤスやフェイントをかけることは当然ありうる。「あまりに定番的なものは着たことないからねえ」「やっぱり、この値段では今イチや」「セレクトショップなのに、これオリジナルじゃない」なんかの質問はぶつける。でも、それが解決できて適切な答えを導けてこそ、きちんと勉強したプロの販売スタッフと言えるのである。


 審査員については言うべくもない。接客のプロであるのはもちろん、陳列やディスプレイ、素材・繊維、商品知識、業界用語、カラーなどにも精通していなければならない。接客とは単にお客に接するだけではない。それを取り巻く環境まで含めて成り立つものなのだ。言うなればそれほど奥が深いものということだ。今回のメンバーは明らかになっていないが、前回はタレントを起用していた。でも、ロープレ審査はショップレポートとは違う。コンテストをバカにするにもほどがある。


 もっとも、ロープレコンテストを行っただけでは何の意味もない。まず、各販売スタッフの課題を洗い出し、必要な会話力を向上させること。そして、アプローチからお客の不安解消、クロージング、リピーター、顧客管理までの精度アップにつなげていかなければならないのである。

 はたして博多大丸にはここまでの一貫した接客教育のシステムがあるのか。また福岡パルコはデベロッパーとしてそこまでの仕組みを整えようとしているのか。話題づくりばかりが先行して、そこまで踏み込んではいないように思える。身内で行うマスターベーションでは、ファッション業界から「井の中の蛙」と言われてもしかたない。