ZOZOSUIT1 大風呂敷を広げたもののZOZOSUITの配布遅延で、鼎の軽重を問うネット書き込みを続出させたスタートトゥデイ。先日の2018年3月期決算発表では、マーケットがGW休暇に入るタイミングを見計らったように3カ年中期経営計画と、採寸用ボディースーツ「新ZOZOSUIT」1000万着を配布する旨を発表した。これも株価対策を考えての周到な計画と言えば、言い過ぎただろうか。

 それにしても、ZOZOSUITの初期型は無料配布にしたため、あまりに多くの注文があって生産が追い付かなかった。その反省から生産体制や技術面の課題を解決すべく改良を重ねて仕様を大幅に変更し、ようやく顧客のもとへ届けられる見通しが立ったという。詳細については、決算発表の直後にメールが配信された。

 ZOZOSUITは、真っ黒なボディーにピッチを広げたコインドットのような「マーカー」がプリントされている。 これをスマートフォンで写真に撮ることにより、人体の形状を3Dモデルとして浮かび上がらせ、計測する。スマホを固定し、自分がその前で一周して、なるべく多くのマーカーを読み取らさせれば、カラダの形状やヌードサイズがより詳細にわかり、データとして蓄積できるという。

 まあ、システム自体は大学のスポーツ科学部で、選手の動作解析(モーションキャプチャー)などの研究に使われているものを、サイズ計測用にアレンジしたものと思われる。自分のスタイリングを360度撮影して、フィット感やコーディネートの良し悪しを判断するカメラシステムも、昨年のファッションウィーク福岡でお披露目されている。だから、スタートトゥデイ側は「技術改革と研究開発による大幅な仕様改良」を強調するが、メカ的には別段、新しいものではない。

 言ってみれば、新スーツはもじもじクンの衣装にドットをプリントしたようなシロ物だから、コストはそれほどかかっていないはずだ。プロトタイプの初期型はあまりに高度なメカで、希望者全員に無料配布する大盤振る舞いが話題をさらった。上場企業としてはマーケットの反応や株価操作の狙いもあるだろうから、それくらいの打ち上げ花火が必要だったのは理解できる。

 ただ、ファッションビジネスで考えると、スタートトゥデイが言う「生産体制や技術面の課題」を抱えたまま無料配布を謳ったのは、いささか勇み足ではなかったのか。プロトタイプのメカレベルと単なるドットプリントの新スーツ。この格差はあまりに大きい。ここまでダウンスペックにしたことを見れば、すでに大企業の仲間入りを果たしているファッションカンパニーとしては、非常にお粗末と言わざるを得ない。

 今後は入手した顧客のサイズデータをサイトの販売やPBの開発にどう生かしていくかである。プロ野球の元監督でID野球を推し進めた野村克也氏の言葉に「データはゴミにも薬にもなる」というのがある。つまり、データは取る側、受ける側の考え方一つでどうとでもなるのである。集めたデータを本当に生かしきれる能力が必要なのだ。

 ZOZOTOWNはすでに購入データをもとに顧客の体形から、その日のスケジュールや天気、顔、髪形、所有する服といったあらゆるデータを解析し、最適コーディネートを完璧に提案でする「リコメンドサービス」を進めている。だが、現時点で過去に蓄積したデータを生かし、リコメンドへの到達できているのはわずか1%という。ZOZOTOWNが扱うブランド、またPBを拡販するには、まだまだデータ不足というわけだ。

large_zozosuits02 新スーツでどこまでの顧客のサイズデータを入手できるかはわからないが、実際にどれほどのお客がスーツを着てスマホの前でクルクル回るのだろうか。適当に撮影した場合、専用アプリと言えど、詳細なデータを測定できるのか。でも、恰好を想像しただけで滑稽に思える。その面白さを逆手に取って、顧客がYou-Tubeにアップしないとも限らない。それに釣られて次々とスーツの注文が殺到するようなら、ZOZOTOWNにとっては笑えないオチが付いてしまう。ヤフオクやメルカリに出品されると、噴飯ものである。

 データが欲しいのはZOZOTOWNの方で、顧客の協力次第ということからしても、はたしてビッグデータになりうるのかとの懸念もある。決算発表時で前澤友作社長は「初期型では、実際に配布した顧客のうち、使用した人の割合は60%。そのうち50%がPB商品を2.5点購入した」(既報)と、述べている。

 この数値も分母まで発表されてはいないので、どれくらいの実数かは不明だ。顧客がPBを購入した理由も、詳細なサイズデータが判明したからなのか、単にTシャツやジーンズが気に入ったからなのか、ハッキリしていない。どこまでデータを収集して解析し、そこから最適化したリコメンドができるか。とにもかくにも、1000万着という新スーツが、サイズ計測に活用されるかどうかにかかっている。

 スタートトゥデイは先日、子会社の「スタートトゥデイ工務店」「ヴァシリー」「カラクル」の3社を合併して新会社「スタートトゥデイテクノロジーズ」を設立した。この3社に在籍しているプログラマーなどがWeb、アプリ、AI(人工知能)など持てる技術ノウハウを駆使して、ファッションに関するデータを収集解析して数値化し、機械学習によって、その日に着ていく「リコメンド提案」に取り組んでいくそうだ。

 ファッションの数値化により、きれいに見える着こなしの黄金比」が割り出せ、現状では1%しかなしえていないリコメンドを完璧にすることは不可能ではないと踏んでいる。ファッションが似合うか否かはフェイスやルックスが絶対条件である一方、従来から売場で行われてきた販売スタッフによる「外し崩し」という意外性の着こなし提案もある。それについてもAIがデータをもとに学習しているから難なくできるという。

 ただ、ここまではZOZOTOWN側が考える、自社に好都合なシステムに過ぎない。一方的にリコメンドの商品情報が提供されても、購入するか否かや商品の選択肢には顧客の「主観」や「心理」「感性」も反映される。人間は未だに自分の感覚に頼るアナログな部分はあるし、実際に試着しないと購入に二の足を踏むケースも少なくない。

 筆者はせっかくデジタル技術というインタラクティブなシステムを使うのなら、顧客の側がサイズデータを購入に生かせる仕組みがあってもいいのではないかと考える。ZOZOTOWNのリコメンドに対し、顧客側がジャッジ、ディサイドする技術を加味する。つまり、双方向のシステムを作るということである。

  顧客は自分のサイズデータだけでなく、ZOZOTOWNが取り扱う全商品について「詳細なサイズガイド」が知りたいはずだ。それがわかれば、購入には一気に結びつくのではないかと思う。

shoesfitting-system 筆者が考えるシステムはこうだ。まず、顧客の体型や足型のサイズを計測したデータを、平面、正面、俯瞰でシルエット表示できるようにする。レオナルド・ダ・ビンチが描いたウィトルウィウス的人体図のデフォルメ版をイメージすればいい。

 一方、販売する商品についても肩幅、バスト、ウエスト、ヒップ、袖幅、手首周り、アームホール、股下、わたり幅、膝周り、裾(ヘム)周り、足型(木型のサイズはメーカーが公開しないと思うから)は全長、幅、甲高などの「内寸」(生地厚があるので外寸ではなく)を記した絵図を公開する。

 服の内寸の計測は、センサーを付けたボディに服を着せるとサイズ計測ができるようなものか、レザー光線距離計を活用して、ボディに着せた服や靴の内部に照射して計測するとか。商品サイズを計測するメカの開発が必要になるが、今のIT技術なら決して不可能ではないと思う。

 顧客は欲しいブランドや買いたい商品が見つかると、サイト上で自分のサイズシルエットと商品のサイズシルエットを重ね合わせて、どこがキツメで、どこがゆるいなどフィット感が想像できるという流れだ。どうだろうか。せっかくスタートトゥデイテクノロジーズを設立したのだから、そのくらいの開発投資を行ってもいいのではないのか。

 これなら、全体的にはジャストフィット、部分的にはゆるめ、きつめの目安が試着しなくてもわかる。服の着丈、肩幅、身幅、袖丈、ウエストなどを表記する現状の「サイズ詳細」よりも圧倒的に購入に結びつくケース、いわゆる購買率がアップするのではないかと思う。

 特に靴は、ソール全長なんかを表記しても、足型のサイズ確認にはあまり関係ない。しかし、自分の足の詳細な長さ、幅、甲高と、靴の内寸のサイズがわかれば、試着なしのバーチャルフィットでも確認できるわけだから、購入に結びつくケースは今より増えるはずである。当然、返品率も下がって来ると思う。

 ZOZOTOWNが進めようとしているリコメンドは、顧客データを詳細に分析することで、顧客個々で異なる購買行動につなげる提案をしていこうものだ。「自分に似合うのなら買う」「カッコ良く見える着こなし」「わざと外し崩しのテクニックをしたい」等々。今の顧客に何らかのメリット(情報)を訴えて、購買率を上げる狙いだと思う。しかし、それはあくまでZOZOTOWNが主導権を握る一方的なものに過ぎない。

 これだけインターネットが発達しているわけだから、消費者は「情報強者」になっていることも考えられる。情強はそれだけ商品に対する審美眼や選り抜き術、見抜き・気づき力も鋭いから、ZOZOTOWNのリコメンドに躍らされるとは考えにくい。やはり、顧客側が購入する主導権を握りたいケースもあるわけで、それに即応するには前出のような服や靴の詳細なサイズデータを公開することも必要ではないか。あくまでインタラクティブなシステムが必要と思うのである。

 マンションアパレル時代、取引先のチーフバイヤーさんが言っていた言葉が今も印象に残っている。このバイヤーさんは都内の有名大学を卒業後、チェーンストアに就職しレディスのバイイングに携わっていた方だ。大学での専攻は筆者と同じ法律だった。

 ある時、「俺は法学部出だから、取引先との契約問題や債権債務、商品の瑕疵なんかの知識はあるんだけど、仕入れの仕事にはほとんど役に立たない。できれば、統計学なんかを勉強しておけば良かったとつくづく思うよ」と、仰っていた。

 当時、チェーンストアでは、本部で一括仕入れするセントラルバイイング制が導入されており、店頭のPOS(購買時点管理)レジと本部のPCは電話回線でつながり、売上げや在庫の管理から売れ筋のフォロー、新規のデリバリーまでが効率的に行われていた。

 もちろん、バイヤーは服種別、アイテム別のトータルな品揃え計画を立てて、商品を調達しなければならない。品揃え計画には適品、適量、適時、適所、適価の5適商品を確保が不可欠で、これには売上げ情報から読む商品データの蓄積とその解析によってオンシーズン(次シーズンも)の計画が立てられるのである。バイヤーはカンに頼る仕事ではない。これには統計学の知識が重要だという意味に解釈できる。

 今から30年以上前にそうだったことが、ITの発達とAIの技術が加わって蓄積したデータから統計値に近いリアルなリコメンドが割り出せる。それが浸透していけばファッションの生産から小売りまでが激変するというか、最適化されていくということである。

 ZOZOTOWNはじめ、ガリバーのAmazonは、ビッグデータに基づく統計的見地でどこまでファッションの消費環境を変えることができるか。また、お客はそれにどこまで反応するのか。現状では完璧な仕組みなどあり得ないと思うので、進化のプロセスを注意深く見つめていきたい。