dutiestaxes1 7月17日、安倍首相と欧州連合(EU)のトゥスク大統領、ユンケル欧州委員長は、日本とEUの経済連携協定(EPA)に署名した。世界のGDPで約3割を占める自由貿易圏が誕生することになるが、これには自国保護を打ち出す米国トランプ政権の通商政策にくさびを打ち込む狙いもあると見られる。

 ともあれ、関税が撤廃されれば、欧州産の安いチーズやワインが入って来て国内産業が痛手を被る可能性がある。だが、逆に日本の安全で美味しい米や果物が輸出できるわけで、ヨーロッパとの貿易が活性化される点では歓迎されるべきだと思う。

 ただ、これが為替にどう影響するかは、EPAが発効されてみないとわからない。まあ、貿易にそれほど詳しくなくても、日々の為替変動はニュースで必ず目にする。ユーロ円はこの7月第3週初めで129円台半ばから、19日には131円台半ばまで上昇した。それだけドル円におけるドル高・円安の勢いが強く、ドル円主導のドル高相場になっていた影響があるのだろう。 

 EPA協定により自由貿易が進む期待はあるにしても、実際の貿易に市場原理が働くまでにいたらないと、ユーロ円はドル円に比べると来年春までは130円台の高値のまま維持されるのではないか。

 だから、ファッション業界にとっては、為替がユーロ高・円安基調なら、EPAの発効で関税が即時撤廃されるのは、大歓迎だ。ヨーロッパから商品を輸入して販売する場合、ユーロ高が続く限り割高感は否めない。だから、関税が撤廃されただけでも、価格に乗せられる税金分が差し引かれるので、お客には売りやすくなるのだ。

 具体的には皮革製品や靴、毛皮などは段階的に関税率が下がり、11年目か16年目に撤廃される。高級ブランドのバッグに課せられる最大18%の輸入関税が撤廃されるまでには11年を要するが、繊維・繊維製品では最大13.4%の関税が即時撤廃される。単純計算で1割弱安くなるだけなのでピンと来ないが、個人輸入をしていると関税を支払わないだけでも、お得感はある。

 アディダスやプーマのスニーカーではヨーロッパ限定、日本未発売のタイプがある。並行輸入業者の通販サイトなどでは販売されているが、レア価値(利益)+関税、消費税などが上乗せされているので、商品価格は現地の倍、2万円を超えるものも少なくない。レザータイプの価格が下がるには時間がかかるが、それ以外のものが1300円~1500円程度安くなれば、多少は買いやすくなる。そんな感じだろうか。

 筆者は2005年くらいから、メンズアイテムではSPA、セレクトショップを問わず、国内ブランドでは気に入ったものが見つからず、ほとんど購入しなくなった。商品がアジア生産に変わり、ブランドが違っても素材や色に独自性はなく、全体的にフラットパターンばかりになってしまったからだ。さすがに日常のウエアには事欠くようになったので、インターネットで探すようになったが、試着ができないことや返品の手間を考えると、どうしても購入に二の足を踏んでしまう。

 そんな時、知り合いのフランスのメーカーに素材感に特徴があって着やすく、企画デザインでも個性を持ち、価格が値ごろなメンズブランドがないか、問い合わせてみた。すると、自社サイトを持つ何社かのうちで、海外通販に対応してくれるところをピックアップしてくれた。

 ヨーロッパのマスプロブランドは、 HPの写真を見ただけで国内のものとは、企画の方向性が全く異なる。布帛は生地からオリジナルで企画したり、微妙に染め色を変えたり。ストレッチを出すためのエラスタンも企画にそって混紡率を変えている。組織に特徴のあるものが少なくなく、織り地を変化させて柄を出す工夫をするブランドもある。

 ニットは編み地に特徴があるが、トラッドのようなワンパターンではなく、切り替えるなどして個性的なデザインを打ち出している。厚手のコットンニットが多いところも、国内とは違うところだ。布帛、ニットともに素材感や色使い、パターンもさることながら、それらが醸し出すモード感覚は、どうしても目を惹いてしまう。 

 また、ユーロブランドでは国内のようにサイズアップで、身幅も大きくなるのではなく、着丈や袖丈のみ長くしたシャープな作りのものもある。国内企画では袖丈が短い筆者には、その点も好都合だ。そこで、気に入ったアイテムが見つかると何度か購入しているが、どうしても一度にまとめ買いすれば、関税や消費税がかかってしまうのが難点だ。

 これまで、何度か関税が課されたケースがある。例えば、9ユーロ程度のT-Shirt3枚と40ユーロのGilet Zippé(ジップジャケット)を輸入した時は、商品価格は総額で1万円以下なのだが、輸入関税が700円、輸入内国消費税等が500円、立替納税手数料が1080円と、合計で2280円も支払うことになった。

 また、 Zippé Cardigan59.99ユーロ、同89ユーロ、Daim Veste(スエードジャケット)99.95ユーロ、SuedeのChaussures(スニーカー)74.96ユーロを輸入したケースでは、服3点で関税(10%)2000円、消費税1386円、地方消費税350円、スニーカー1点に関税(27%)1620円、消費税441円、地方消費税107円がかかり、合計で5800円を納税した。

 なるべく関税がかからないように分けて購入するようにしているが、やはり気に入ったアイテムになると本国でも人気があって欠品も多く、価格が下がるセールまで待つことは難しい。お気に入りが見つかった時に、まとめて購入せざるをえないのだ。ただ、プロパー価格のままだと、関税率の関係から税金は高くなる。関税が撤廃されても、今より購入するケースが増えるとは限らないが、気分的にはだいぶ楽になると思う。

 そんなことを考えるのは筆者だけかと思ったら、意外にも福岡の都心部ではヨーロッパから個人輸入している人々がかなりいることがわかった。以前に商品を輸入した際、トランスポーターのDHLから国内配送を委託された佐川急便が商品を届けてくれた。送付先を事務所宛にしていたので、配送スタッフが都市部向けのキャリーに載せ、玄関口に横付けしていた。キャリーの中身をチラっと覗くと、他にもユーロ系ブランドの荷物が満載だったのだ。

 そう考えると、繊維・繊維製品において、最大13.4%の関税が即時撤廃されるのは、ユーロ製品が多少安くなる程度では済まなくなるのではないか。完成品はもちろん、生地やボタンでは独特な素材感や色合い、デザインのものが入りやすくなる。だから、新しいビジネスを考える事業者が増えてもおかしくない。

 アパレル業界の場合、今でも安い外国製品が入って来ているので、価格面で厳しい競争に晒される農産業のような危惧はない。しかし、ヨーロッパから良い素資材が入り安くなる点を鑑みれば、それらをうまく企画に採り入れ、商品企画を活性化させるチャンスでもある。それでなくても、アダルト向けのファッションは圧倒的にコマ不足だ。

 アパレルは20代~40代までの若い層で勝負すれば、60代以降のマーケットは捨てても構わないという意見もあるが、関税の完全撤廃を新たな企画や市場開拓の布石にしてもいいのではないか。それでなくも、マチュア世代は目が肥えているわけだから、ユーロ製のような商品に対しても目利きを持っているはずだ。

 若い層も中国製一辺倒にそろそろ飽きが来ていることも考えられる。純然たるユーロ製ではなくても、東欧や中近東で生産した商品、素資材でもユーロ企画なら毛色は変わって見えるはずだ。時代の変化、経済圏の大変貌は、ビジネスチャンスの可能性を秘めていると思う。