coret-google1 7月31日、福岡・北九州市の百貨店、井筒屋がJR小倉駅前の「コレット」、同黒崎駅前の「井筒屋黒崎店」、山口県宇部市の「井筒屋宇部店」の3店舗を来年5月までに閉鎖すると発表した。同社の2018年2月決算は、売上高が783億400万円(対前年比1.7%減)、営業利益が11億4,700万円(同17.7%減)と減収減益。業績は9年連続で減少しており、これ以上傷口が広がらないうちに手を打ったかたちだ。でも、地元経済界にとっては、まさにに青天の霹靂、寝耳に水の話だったようである。

 北九州市では、前任の末吉興一市長時代から「北九州ルネッサンス構想」をはじめとした数々の地域再生策が実行された。その中にはJR小倉駅前の再開発事業やアジア太平洋インポートマート(AIM)の整備などがあり、大型商業施設の誘致が積極的に行われた。その一つが百貨店の「小倉そごう」である。

 同店は1993年、小倉駅前再開発で誕生したテナントビル、セントシティ北九州(現コレット)に出店したが、2000年に閉店した。親会社そごうの経営破綻が原因で、小倉から西に13kmほど離れたJR黒崎駅前の「黒崎そごう」も同時に閉店している。その後、ビル側は別の施設誘致に動き出したが、各フロアには地元地権者の保有床が虫食い状態で残り、地権者の思惑の違いから中々コンセンサスが得られず、誘致は難航した。

 結局、破産管財人を介して、地権者保有床を北九州都市開発が賃借することで商業ビルの権利を一本化し、4年後の2004年に小倉伊勢丹」が出店した。しかし、伊勢丹にしても新宿店のようなMDが実現できるはずもなく、また小倉では地域二番店に過ぎなかったことから、わずか4年で撤退を余儀なくされてしまう。

 そんな曰く付きのビルに地元経済界たっての願いから、井筒屋がコレットを出店したのは、伊勢丹撤退後の2008年のことだった。西に400mほど離れた「井筒屋本店」との2館体制が実現したわけだが、同社は01年には黒崎そごうの跡地にも井筒屋黒崎店を出店している。もっとも、2つの大手百貨店でさえ運営に苦しんだのに、一地方百貨店がそう簡単に軌道に乗せられるはずもない。

 出店翌年には営業不振から、井筒屋はコレットの構造改革に着手するはめになる。自社の社員を半減させて、大半をテナントに任せる方法だ。ところが、顧客によっては好きなブランドが出退店する痛し痒し状況。経営側も「このままではジリ貧になる」のは気づいていたはずだが、出店間もないこともあり、問題を先送りしたに過ぎなかった。

 結局、井筒屋全体の業績は上がるどころか、9年間も下がり続けている。ここまで来れば、立て直しができるどころの段階ではない。いちばん楽な不振店舗の閉鎖、本丸の本店への投資集中しか、選択肢は残されていなかったということだ。

  他の商業施設にしても惨憺たる有り様だ。アジア太平洋インポートマート(AIM)はコストコ誘致に失敗し、代わって渦中の「大塚家具」が1999年にショールームをオープンしたが、10年の契約期間終了で2009年に閉店。その2年前には、「ラフォーレ原宿小倉」も撤退している。自治体主導で莫大なインフラ投資を行った再開発事業は、商業活性には何ら効果を発揮できないままなのだ。


 現・北橋健治市長は、八幡東田地区のスペースワールド跡地にアウトレットを誘致する構想を打ち出しているが、実現すればわずか6キロほど東に位置する小倉地区が影響を受けるのは間違いない。もちろん、井筒屋もそれを見越した本店への集中投資なのだろう。だが、百貨店自体が時代にそぐわなくなっているのを考えれば、テナントビルに切り替えるなどドラスティックな政策をとらない限り、売上げの維持すら望めないと思う。

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 井筒屋の影山英雄社長は、3店舗閉鎖の理由を次のように語った。①「コレットや黒崎店の営業を継続するために(家主に)家賃の引下げを懇願したが、難しかった」、②「5万㎡の本店、3万㎡のコレットを区別して運営できなかった」、③「カード会員も年ごとに利用しないお客が増えるなど高齢化にも対応できなかった」

 ①は収益が上がらなければ、コストを下げざるを得ないということ。バブル崩壊の影響、デフレ禍、中間層の没落など、中価格帯から高級品が売れなくなっている状況で、百貨店はいちばん影響を受けている業態だ。しかし、出店立地は両店とも駅前の一等地。家主が簡単に家賃を下げるとは思えない。

 しかも、コレットが入居するビルは、管理会社が地権者から保有床を賃借している弱い立場。「(地権者から)家賃を下げるくらいなら、他に貸せばいい」との反発があったとしても不思議ではない。再開発立地とは言え、実情はシャッター通り商店街と何ら変わらないのだ。高い家賃を払うには、高価格帯の商品を売るしかない。でも、一地方百貨店にGINZA SIXのような高級ブランドが集まるはずはないし、中価格帯の量販政策にしてもコマ不足は否めない。

 ②は百貨店経営のセオリーから言えば、2館が離れた場合は成功しないという顕著な事例。コレットを完全にテナントビルにすれば良かったのだが、取引先との関係から委託販売、消化仕入れの形態も残したわけだ。しかし、これで商品政策やターゲット設定が中途半端になってしまったのである。

 本店をマチュア、アダルト向き、コレットをヤング向きにする方法も考えられたと思うが、3万㎡を完全にヤングブランドを埋められるほど、井筒屋が取引先のコマをもっているとは思えない。しかも、コレットの真向かいの小倉駅には、JR九州運営の「アミュアプラザ小倉」があり、人気ブランドや有力セレクトショップが出店している。コレットでも若者向けのフロア「KOCO GIRLS(ココガールズ)」 を設け、他にも新規ブランドの導入を試みたものの、なかなか売上げ増の起爆剤にはなり得なかったようだ。

 井筒屋本店にはかつて九州で唯一店舗展開する「Y-3」があった。筆者も出張の際には必ず覗いて何度が購入したことがある。しかし、ブランド側は「福岡市に路面店を出した方が集客とも売上げとも期待できる」との判断から、2014年秋にうちの事務所近くの福岡大名に直営店をオープンし、井筒屋から退店した。つまり、井筒屋は全体売上げが下降線を辿ったことで、ブランドを福岡に奪われていく負の連鎖に陥ってしまったのだ。これを挽回するのは容易ではない。

 ③は百貨店のカードホルダーが加齢とともにメリットを感じなくなっていること。消費の中心となる世代なら、来店しただけでポイントが貯まるのは魅力的だ。しかし、買い物内容が限定されていくと、カードそのものの保有が面倒になる。また、JR九州など他社のカードが定期的にポイント還元などのキャンペーンを展開すれば、消費意欲の旺盛な世代が歳を重ねたとしても、メリットの薄い百貨店のカードに乗り換えるとは考えにくい。

 百貨店のハウスカード導入時は、「顧客の囲い込み」「購入履歴からビッグデータ入手」などが盛んに謳われた。しかし、カードそのものが利用されていないわけだから、顧客を囲い込んでも購入履歴から得られるデータは、とてもビッグデータとは言い難い。そんな脆弱なカードがMD構築や仕入れに生かせるわけがないのだ。

 運営側が「サイレントマジョリティ」なんかと唱えたところで、お客の心理は「買いたい商品がなければ、買わないだけ」と、いたって明快だ。今の時代、Webのオーディエンスデータの方が確実かもしれない。まあ、カードにしても今日では利用範囲が広く、ポイントも貯まる鉄道系などが主流になっており、ホルダーはそれも多くが2枚、3枚と持っている。消費行動を考えるとネットもあるわけだから、なかなかワンストップショッピングというわけにはいかないのが現状だ。

 ここ数年、関東、関西を含めて大手百貨店の地方店が次々と閉鎖されている。筆者の推測では年商150億円が地方百貨店の損益分岐点ではないかと思う。井筒屋の場合は3店舗の閉鎖で260億円の売上げを失うというが、この数字を見るとすでにペイラインをはるかに下回る瀕死の状態と想像される。

 ローカルメディアは閉店報道で、こぞって地元の「惜しむ声」を拾い上げる。また、中高年が主力の客層である百貨店の閉店は、「周辺の顧客離れに直結する」と、警鐘を鳴らす。しかし、本当にそうなのだろうか。実際のところは、地元住民が百貨店で買い物をしなくなったから、閉鎖に追い込まれているのではないのか。取材を受ける側のお客も日頃は激安スーパーやドラッグストアで買い物しときながら、百貨店の包装紙が使えなくなると不満を口にするは、あまりに虫が良過ぎる話ではないのか。

 全国メディアでは取り上げられていないが、コレットには近隣商店街に店を構える専門店もテナント出店している。開業時に井筒屋側から依頼を受け、商店主は百貨店に出店するステイタスから快諾したようだ。しかし、今回の突然の閉鎖については、事前に何の連絡もなかったと困惑する。閉店に向けて従業員の雇用をどうするかという懸案もあり、問題はまだまだ尾を引きそうである。

 デパートメントストアという響き、豪華は店構えとディスプレイ、世界各地のブランド、銘品のラインナップ、それらが醸し出すイメージとステイタス。こうした百貨店像はすでに過去のもので、栄華と繁栄はもはや神話と化したと言ってもいいだろう。

 地元紙は(コレット)撤退により、小倉都心部の求心力に大きな影響を与えるのは必至だ」と、結論づけている。しかし、そもそもコレットや他2店は端から求心力がなかったからこそ、ずっと営業不振が続いたのだ。しかも、売上げが上がらないのは、地元のお客にとって百貨店なんか無くても、生活に困らないとの無言の意思表示と受け取れる。これこそ、サイレントマジョリティではないのか。

 すでに百貨店が小売りの雄というのは神話に過ぎないのに、メディアが未だに「求心力」を持ち出すことに唖然とする。情緒論だけで百貨店経営、小売業は語れない。コレットが撤退しても、ビル自体は居抜き店舗として存在する。管理会社はすでに地権者側から次の施設誘致を求められているのは想像に難くない。これが現実なのである。

 ここからはあくまで筆者の推測だが、後がまには百貨店業態から定期借家契約型業態、いわゆるSC(ショッピングセンター)に転換した「マルイ」が出店するのではないかと思う。同社は政令指定都市にドミナント展開する計画をもっている。2016年4月に博多マルイをオープンしたことを考えると、順当に行けば次は小倉出店になるだろう。

 小倉マルイが実現して年商100億円規模でペイすれば、皮肉にも小倉駅前の一等地でも百貨店業態は通用しないことが裏付けられる。はたして、小倉はピンチをチャンスに代えることができるのだろうか…