NJ-walmart お盆休みなので、別の業界について書いてみる。ちょうど1カ月前だった。「米国のウォルマートが傘下の西友を売却する検討に入った」とのニュースが駆け巡った。

 西友と言えば、1980年代に大躍進を遂げた西武セゾングループのスーパーで、店舗網の拡大によりその知名度を全国に広げていった。グラフィックデザイナーの田中一光氏とコピーライラーの小池一子氏らによってコンセプトが練られた「無印良品」。これもセゾンの総帥、堤清二氏から「西友のPBを作れ」との命によって開発された。

 NHK大河ドラマ「西郷どん」の原作者、林真理子氏は駆け出しの頃に、「つくりながら、つくろいながら、くつろいでいる」というコピーを書いている。西友DAIK(DIY館)が浜田山に開業する時のポスターに採用されたものだ。西友はセゾングループの傘下で、単なるスーパーの領域を超え、生活文化企業を目指していたのがよくわかる。

 ところが、90年代にはバブル経済が崩壊し、西友が抱えた東京シティファイナンスの不良債権は多額で、西武セゾングループは崩壊の一途を辿っていく。西友は生き残りを賭け、2000年に中堅スーパー「サミット」を運営する住友商事と業務資本の両面で提携。01年には筆者が住む福岡市のスーパー「サニー」を岩田屋から買収した。だが、翌02年には米国の大手ディスカウントストア「ウォルマート」が西友の株式6%を取得し、2008年には完全に子会社化してしまう。

 西友では大胆なリストラ策が断行される一方、ウォルマートの経営改革によりPBの「グレートバリュー」、 特売やチラシを廃止してEDLPを実践する戦略が取られた。新規出店ではウォルマート仕様の「トール什器」や「リーチインクーラー」(ドア付き冷ケース)、「LED照明付き冷ケース」などが完備された。什器は日本人の身長からすればやや高めだが、品出しの効率化を進め、冷ケースは冷房効率をアップさせて省エネにつなげる。西友では珍しく、サニーでは初めての「セルフレジ」も導入された。すべてコスト削減を狙うものだ。

 肝心な商品政策でも、ウォルマート流の製販同盟のもとで低価格路線の品揃えを実現しようとした。卸を通さず、メーカーとの直接取引に拘ったが、日本の消費者はNBからローカルブランドまで、バリエーション豊富な品揃えで買い慣れている。多品種小ロットの商品政策を実現するには、どうしても多彩な取引先を有する卸を介在させなければならない。グローバルに少品種大量販売を手がけて来たウォルマートには、どだい無理な話だった。

 日本は「お客がルイ・ヴィトンの財布からコインを出して100円ショップで買い物する」と揶揄されるほど、世界でも希有な市場。しかし、それにわずか2%の大金持ちと98%の貧乏人がひしめく米国のやり方が通じるわけはないということである。

 2003年3月、佐賀県で日商岩井が開発したSCモラージュ佐賀が開業し、西友がメガストアの「西友巨勢店」を出店した。東京の流通業界誌から原稿執筆の依頼を受けたので、佐賀まで取材に行った。「ウォルマート、日本初の大型店出店」「黒船、上陸」という格好のニュースでもあることから、在京メディアは色めき立っていた。

 日経新聞を筆頭に各ビジネス誌、はてはテレビ東京のワールドビジネスサテライトまでが大挙して押し寄せ、キャスターの塩田真弓はカメリハまでやってた。記者会見でメディアが質問するのは、西友についてばかり。核店舗にはミスターマックスもあったため、司会者が「ミスターマックスさんへの質問もお願いします」と、西友への質問を遮る一幕もあった。これには平野能章社長が苦笑いしていた。

 この後の報道では「地元スーパー、流通業は苦戦は免れない」という論調ばかり。「お店の隣に世界最大のウォルマートが出店すると、どうしますか」と、扇情的な見出しを付ける業界誌もあった。ところが、2010年、西友巨勢店は10年も持たずに撤退した。

 チラシを打たずにEDLPを謳い、エンドにロールバックの安売りの商品を積み、 店頭に97円のバナナや日配に100円の白菜漬、常時41~50%割引の冷凍食品を置いたくらいで、 絞り込まれた品揃えに簡単に手を出すほど、日本の消費者は甘くない。チョコレートやクッキーも、外国産で割高では、お客は手を出す気にはならない。

 特にスーパーがいちばん力を発揮すべき「生鮮三品」で、西友巨勢店は地元佐賀の食品スーパーや朝穫れ野菜、産直魚介類を扱う道の駅に歯が立たなかった。もちろん、衣料品なんかは語るに足るものすら無い。所詮、メディア特有の東京目線では、地方の市場なんて全く見えていなかった証左である。 

sunnyakasaka 一方、西友傘下となったスーパー、サニーは筆者も20年以上御用達にしている。事務所近くの赤坂店では頻繁に買い物しているので、西友系になる前と後の変化も細かく見て来た。西友巨勢店が苦戦した理由は、サニー赤坂店でも同様に感じる。また、赤坂店では西友に買収される前には、店頭製造の「デリカ(惣菜)」もあり、たらの芽の天ぷらなど旬の素材を生かしたメニューが豊富だった。

 しかし、西友系になるとコロッケや魚のフライなどの揚げ物系に絞り込まれ、しかも工場一括製造・配送に切り替わった。メニューのバリエーションが無くなり、昼食、夕食に合わせた「作りたて」もなく魅力も半減。しかも製造専門のパートスタッフが要らないため、雇用も創出されない。店舗の隣にハローワークがあることで、ウォルマート流のコストダウンは地域住民が働く場所さえ奪っていくのかと、身につまされてしまった。

seiyuhonten ただ、サニーも2015年3月末に福岡・熊本で11店舗を閉店している(赤坂店は営業中)。この中には08年に新規出店した南熊本店も含まれる。ここのオープン日には東京・赤羽の西友本社から商品部、店舗開発、広報部などのスタッフが乗り込み、成りもの入りで新店舗をメディアに公開した。しかし、西友に買収され、ウォルマート流の運営に切り替えたサニーは、既存店の寿命まで縮めてしまう皮肉な結果を残したのである。

 食品スーパーの中には、利益が取れないグロサリーをセーブし、生鮮と日配に重点を置くところもある。野菜はカットせずに丸ごと1点から、魚は1匹売りで注文に応じて捌き、刺身は冊で販売してお客に切ってもらうなど、加工コストを下げて価格に転嫁するのだ。これが食べ盛りの子どもを持つ主婦や料理慣れした中高年、飲食業者を惹き付けている。こうしたきめが細かく、臨機応変な販売手法は、大味で詰めが甘く効率重視の外資系スーパーにできるはずもない。



西友を立て直せる企業は?


 結局、ウォルマートが西友を立て直せなかったのは、日本市場を低価格戦略だけで簡単に攻略できると見くびったことだ。ただ、メディアの関心は、立て直し失敗の要因ではなく、ウォルマートが西友をどこに売却するかに移っている。その候補については、苦戦するGMS再建に白羽の矢がたった「ドンキホーテ」か、3月に新たな合弁会社「楽天西友ネットスーパー」を設立した「楽天」かと、目されている。

 西友の既存店は全国に335店舗もある。ほとんどは建物が老朽化しており、ドンキホーテに変わっても、居抜きで利用するには限界がある。駅に近い立地の店舗は不動産価値が高いと言われ、東京(78店)、千葉(13店)、神奈川(20店)はデベロッパーなどの売却することで収益を得ることもできなくはない。

 仮にドンキホーテが手を出すにしても、一括買収と言うよりデベロッパーなどを介して、自社業態にふさわしいところを選り抜くのはないかと思う。一方、楽天はネットモールでは実績があるが、リアル店舗の運営ノウハウを持たないから、手がけられるかは未知数だ。識者の中には、楽天購入の商品の受取拠点やキュレーションの場に活用すればいいという意見もある。はたしてどうなのか。

 まあ、EC礼賛の諸兄は、ネットスーパーに関して好意的に見ている。しかし、グロサリーや衣料、日用雑貨ならいざ知らず、生鮮は鮮度のいい物が買える食品スーパー、朝穫れ野菜の産直魚介を揃える道の駅に簡単に勝てるのか。個々の店舗が単独でネット注文を受けるにしても、その分の在庫やデジタル専門の要員はどう確保するか。既存店の店売り在庫を流用すれば、逆に来店したお客の機会ロスを生むリスクもある。

 ダイエーの時代ですら一旦物流センターに集めて、各店にデリバリーしていたため、生鮮品は鮮度が落ちて競争力を失っていた。ネットで購入する層は魚を三枚おろしにはできないし、核家族にはカット野菜でないと売れない。店売りと同様に加工もしないといけない。そうした手間をかけて、ネット向け商品は鮮度保証ができるのか。楽天がネットスーパーで西友を立て直すにしても、それがいちばんの懸案だと思う。

 第一、天候不順などで青果が不作、鮮魚が不漁なった時、ネットスーパーなら確実に商品が手に入り、価格も据え置きなんてことは、現実的にあり得ない。結局、お客は商品が手に入らなければ、近場の店まで探しに行くしかない。バーチャルがリアルを超えられない現実がそこにはある。

 今、流通業界、関係メディアはAmazonの一人勝ちに戦々兢々としている。Amazonは17年6月に自然・有機食品の米小売り大手「ホールフーズ・マーケット」を137億ドル(日本円で約1.5兆円)で買収した。今度は逆にリアル店舗の展開とともに、世界規模のオムニチャネルの実現とあらゆる業界シェアの独占、オンラインにおける即時配達の普及、そしてECと相性が悪い食品市場への進出を狙っている。

 ただ、コンビニのAmazon Goは別にして、生鮮食品などを扱うAmazon Freshが日本市場で成功するかについて、筆者は懐疑的である。前出のように日本の消費者はブランドや産地はもちろん、加工調理や鮮度管理まで厳しい目をもつからだ。カルフールやテスコですら、こうした問題に対応できずに撤退した。ウォルマート傘下の西友しかりである。資本力や規模をもつAmazonであってもクリアする課題という点では、まだまだハードルが高いように感じる。

 その意味で、楽天が西友を買収するかは、Amazon Freshの手法や状況をじっくり観察した後に判断するのではないかと思う。信販事業といい、球団経営といい、携帯電話といい、楽天は後だしジャンケンなら得意だし。まあ、ネットモールで加盟店から手数料を得て成長した楽天に流通、スーパーを任せられる人材がいるとも思えないが。

 スーパーや流通の課題に向き合うには、「店頭の商品を手に取って徹底的にチェックした上でさらに選り抜き、いかに楽しい生活を提案できるかに拘ることから始まる」。これは全国一視察が多いと言われるスーパー、ハローデイのトップが当方が仕事で接したときに語った言葉。まさに西友がダメな点、ウォルマートが再生できなかった理由を如実に言い当てていると思う。

 日本人の商慣習を甘く見て、少品種大量販売による低価格、卸機能を軽視してPBや二流、三流ブランドばかりを揃えるようなやり方で、簡単に日本市場が攻略できるはずはない。つまり、流通外資は負けるべくして負けたのである。 勝ちに不思議の勝ちがあり、負けに不思議の負け無しなのである。 

 Amazon Freshが日本市場にどう挑むかを見ながら、西友はどこの手助けで蘇ることができるのか。その担い手は外資でも大手でもなく、愚直にスーパー事業を進める日本企業であるような気もする。