moonstarginzamain 10月26日、福岡・久留米発祥のシューズメーカー、ムーンスターが初の旗艦店「ムーンスター・ファクトリー・ギンザ」を東京・銀座のレンガ通りにオープンした。(https://www.moonstar.co.jp/factoryginza/)ちょうど10月の東京出張時、偶然にも前を通ると、屋上部分にはビルボード、1階上部にロゴマークのサインが取り付けられ、内装工事が進んでいた。

 ムーンスターは自社ECには参入したものの、直営店舗の展開はしてきていない。売上げやブランド力では、アディダスやナイキといったグローバルブランドの後塵を拝するが、地下足袋の製造で培った高い技術力を誇る「メイドイン久留米」で、新たなブランド価値を醸成しようとしている。

 2年ほど前からは、メイドイン久留米の製品を米国のニューヨーク、フランスのパリの合同展示会に出展し、少しずつ輸出を増やしている。海外市場を狙うにはブランディングの強化は至上命題で、そのためには「現物を見て履いて確かめ」られる「直営店」が不可欠になる。「ブランドは旗艦店があってこそ広く浸透する」という成功法にも、舵を切らざるを得なかったわけだ。

 グローバルブランドは、世界の主要都市で旗艦店を展開する他、自社サイトでの直販、Amazon出店者への卸など、あらゆる販売チャンネルを利用して商品を流通させている。決算発表で販路別の売上げが公開されるのを見ても、マーケットを攻略するには、小売店との共存共栄、メーカー、卸、小売りの棲み分けなんて言っていられないのである。

 ムーンスターがグローバルブランドと同じ土俵で勝負することはないにしても、 従来通りに問屋を通して靴店に卸すだけでは、頭打ちのはず。売上げを伸ばすにも、ブランド価値を訴求するにも、PC、スマートフォン、タブレットなどデジタル面での対応、ECの整備・拡充、そして店舗でのショールーミング機能まで加えたオムニチャンネル戦略は、避けて通れない。ようやくそのファーストステージに入ったことになる。

 元来、靴という商材では、ぞれぞれのお客で履いたときの感覚は、微妙に異なる。にも関わらず、ムーンスターのECでは不良品以外の返品は、受け付けていない。サイズスペックについても、それほど詳細な情報が公開されておらず、お客はどうしても「自分の足にはどのサイズに合うのか」「返品できないのは厄介だ」と、同社サイトでの購入には二の足を踏んでしまう。

 実際に試着をするには、在庫をもつ小売店を検索しなければならず、そのシステムもブランドや商品カテゴリーの在庫があれば、すべての店舗名が表示されてしまうアバウトなものだ。しかも、店舗情報を頼りに靴店に電話しても、探している現物は置いてないと言われるのがほとんど。これだけでECが発達しているにも関わらず、ムーンスターはお客向けのサービスでは、非常に出遅れ感は否めない。旗艦店の展開はそうした課題をクリアする上でも、ようやく第一歩を踏み出したと言える。

 建物は1、2階が売場、3階がイベントスペース、4階がストックルームと控え室。1階ではメイドイン久留米のシューズなど国産品を展示販売する。2階ではフロア両壁にベビーからジュニア、メンズ、レディスまで約350ものサンプルをラインナップ。商品在庫は抱えず、注文はタブレットで行い、そのまま決済する。そのため、ラインナップは1型1色でバリエーションを出し、商品にはタブレットで検索しやすくするためにQRコードを添付。注文すると、翌営業日には栃木の物流センターから自宅に発送される仕組みだ。

 ムーンスターは日本人の足にあった独自の木型で、革靴やスニーカーを製造している。だから、お客が通販サイトで購入する時の「他メーカーでは26cmを履いているから、たぶん…」「レビューにやや大きめと書いてあったから」等々は、あまり参考にはならないと思う。やはり店舗で実際に「試着」をして、フィット感や履き心地を体感した上で、納得して購入してもらう。それでお客が満足すれば、次回からはダイレクトでEC購入につなげてもらう狙いだろう。

conceptgallery3conceptgallery1conceptgallery2 靴という商材は、服以上にショールーミングでのお客との接点が大切になるという判断なのだ。ただ、ムーンスターがショールーム機能を持つのは、銀座店が初めてではない。2016年4月、同社のお膝元、福岡・久留米の旧井筒屋百貨店跡地に建設されたコンベンション施設久留米シティプラザに「コンセプトギャラリー」(https://www.moonstar.co.jp/concept-gallery/)を出店した。

 ギャラリーなので、140年以上に及ぶ同社の歩みをパネルや映像で紹介したり、代表ブランドの全パーツを分解して靴の構造を一般に見せる広報拠点の役割だった。もちろん、最新商品のラインナップ独自開発の足型計測器「フッ撮る」を使った無料計測も実施していた。サンプルは銀座店ほどの展開はないにしても、足の正確なサイズさえ把握できれば、そのままネットに連動して注文も可能なので、ショールーミングの機能をもっていたと言っても過言ではないだろう。

 筆者も足型の計測はニューヨーク時代のナイキタウン以来になるので、ぜひ試してみようと思っていた。ところが、如何せん久留米シティプラザは福岡・天神から電車で30分、さらに徒歩で15分もかかる。福岡在住でもアクセスの悪さは影響する。結局、行かずじまいのまま、コンセプトギャラリーは今年の4月29日で閉館した。

 閉館した理由はよくわからない。だが、3期9年にわたって久留米商工会議所の会頭を務めた人物による建設強行。西鉄久留米駅とJR久留米駅の間というアクセスの悪さ。主要ホールの稼働の少なさとイベント企画の未熟さ。それによる一般テナントの集客難や営業不振。客足がまばらな商店街と連動の無さ等々。久留米シティプラザが抱えるいろんな課題が影響したのは、間違いない。

 そもそも、ムーンスターがなぜそんな施設に出店したのか。地元企業として自治体や商工会議所からのたっての要望があったのは、容易に想像がつく。だが、ブランディングのための直営店展開は最低でも福岡・天神だろうが、旗艦店になれば世界の主要都市に展開せざるを得ない。久留米シティプラザでの展開はあまりにお粗末だが、旗艦店を出店するなら日本人はもちろん、外国人観光客も数多く訪れる東京・銀座は譲れないという経営判断だったのではないか。

 しかし、ショールーミング機能は、もっと増やすべきではないかと思う。足型計測器は一部の靴専門店では導入されてはいるものの、まだまだ絶対数が少ない。メイドイン久留米というブランド価値を多くのお客に知ってもらうには、自分の足の正確なサイズを知ってもらうのはもちろんのこと、ブランド価値を裏打ちする穿き心地の良さやフィット感、疲れ知らず、丈夫さといった特徴をアピールすることは不可避である。

 サンプルをフルラインナップするにはスペースや出店投資も問題もあるが、小売店の一コーナーに足型計測器のみを置くだけなら、それほどコストはかからない。お客にはサイトで事前にほしい商品や色柄を選んでもらい、店舗で足長、足幅、甲高などを計測してサイズを決定後、タブレットで注文。商品はその店舗で受け取ればいい。売上げもその店で計上するやり方だ。サンプルを置かないので、厳密にいればショールーミングではないが、サイズスケーリング(計測)とネット通販と連動させれば、オムニチャンネル戦略の一環にはなる。

 ムーンスターのメイドイン久留米は、セレクトショップではウケがいい。バイヤーがチョイスした理由を販売スタッフがお客に説く上で、格好のキーワードになるからだ。でも、店舗でのラインナップや在庫数はあくまでバイヤーの裁量に委ねられており、他ブランドと一緒に編集していく上では、すべて展開されるわけではない。商品が絞り込まれるセレクトショップは、必ずしもお客のニーズに合致するわけではないのだ。

 デジタル、ECに慣れて来た最近のお客は、非常に賢くなっている。靴を購入する場合、実店舗で試着して現物を確認し、商品価格や送料を含めて一番安いものをネットで検索して購入するやり方だ。アディダスはそうした消費者の変化をいち早くとらえた販売手法を採っている。お客が公式サイトで注文した商品を、指定した直営店で現物確認や試着ができようにし、その場でキャンセルも可能とした。

 お取り置き期間も1週間程度の猶予があり、お客が店舗と交渉すれば多少の延長も可能になる。つまり、居住地の近くに直営店がなくても、都市部に出かけたついでに試着や現物確認ができる。その間に商品が値下げされると、注文日ではなく、店舗受取時点での価格で購入できる。セール価格からさらに割り引きされて購入できるケースもあるのだ。(実際にうちの事務所近くの福岡店、原宿店で確かめたから、間違いないと思う)

 企業規模が違うのでムーンスターとは一概に比較できないが、お客との接点を増やしてシーズン中に確実に在庫を消化し、キャッシュフローにつなげることは、メーカーとしての共通項だろう。ブランディング、商品の価値や特徴を伝え、確実に売り切るためのショールーミング機能。その拠点づくりがますます重要になっている。