mitsukoshiisetanmain 三越伊勢丹ホールディングス(HD)の2019年上期(2018年4月~9月)決算が発表された。売上高は5639億円(前年同期比4.3%減)、営業利益は108億円(同41.5%増)。利益が大幅に増えた形だが、これは赤字に陥っていたアパレル子会社を3月に終了するなどリストラによるもの。本業の百貨店事業、特に地方店は減収が続いており、これをどうするかという命題は残ったままだ。

 今年9月には、伊勢丹の相模原店と府中店を19年9月に、新潟三越を2020年3月に閉鎖すると発表している。今回の決算でも名古屋三越(売上高317億3900万円、前年同期比14億円増)を除き、地方店はすべて減収という厳しい状況にある。

 杉江俊彦社長は会見で「大規模店舗の閉鎖はもうない。これは断言する」と言い切った。しかし、 広島三越(営業利益マイナス2億6000万円)や松山三越(同マイナス3億5600万円)のように赤字を垂れ流す店舗を抱えていては、投資家の理解を得られない。なおさら売上げ減に歯止めがかからないのは、今の市況に合わなくなっている証左だ。

 では、地方百貨店はどうすればいいのか、考えてみたい。既存店のフロア構成は、地階が生鮮や塩干、グロサリー、菓子、ベーカリーなどの食品。1階が海外の高級ブランド、ネクタイやハンカチ、帽子、巻物、財布、靴、バッグ類。2階より上がアパレルや雑貨。5階以上はギフトや宝飾品、時計、眼鏡、スポーツ、旅行、催事場等々になる。

 1階に出店する海外ブランドは売上げが取れるとは言え、ルイ・ヴィトンやエルメス、グッチなど顔ぶれは決まっている。一方、国内ブランドは百貨店系アパレルが中心になり、価格の割に企画デザインや素材が今イチで、お客のニーズに合致しなくなっている。雑貨や眼鏡、スポーツ、旅行は郊外SCの方がテナントは充実しているし、価格競争力もある。これではとても太刀打ちできないのは、素人目にもわかる。

 こうした商品政策から総合すると、地方百貨店が売上げ不振に陥った根本原因は以下になる。一つはもともと人口や市場規模から、商品を絞り込んで品揃えを行ったため、売上げを増やすための政策を打ちづらいこと。特にメーカー側がブランドイメージを維持する狙いから、ますは首都圏(東京)中心で投入し、地方での展開にはいたらない。だから、数字の積み増しが期待できないのである。

 二つ目は百貨店は中高年からの支持はあるにせよ、求めるニーズと品揃えが合致しなくなっている。昔と今では中高年の意識もセンスも変わっているのに、それを探ってMDに反映できる人材がおらず、本腰を入れるまでにはいっていないのだ。

 業界人諸兄の中には、対策として「思いきってアパレルを切り、食品、化粧品、宝飾品を強化拡充すべき」と仰る方がいる。確かに地方百貨店が生き残るには、現状のような「大規模小売店鋪」(第一種は店舗面積3,000m2以上、特別区・指定都市は6,000m2以上)では難しい。借地借家なら賃料がかかるし、売場は派遣社員で回すにしても、最低限の管理要員が必要になる。週1回の折り込みチラシやラテ媒体を使うCM、イベント企画など、販売管理の経費もバカにならない。多層なら水光費は莫大だ。

 だから、アパレルをカットして規模を縮小するというのは、わからないでもない。それにしても、最低限かかる経費を利益が薄い食品や化粧品(海外ブランド、自然派コスメを除き、国内メーカーの制度化粧品は荒利25%)で賄えるとは思えない。高利の代表格、宝飾品や高級・輸入時計は商品回転率が鈍いし、催事販売や外商になって却って販管コストがかかってしまう。第一、宝飾品の市場規模はバブル時代の3兆円から7000億円まで縮小しているとのデータもある。売れ行きは景気の動向に左右されるし、コンスタントに売上げを望めるのは、やはり大都市になる。

 仮に地方百貨店が食品、化粧品、宝飾品を拡充強化するにしても、自社運営では難しいからテナントにならざるを得ない。また、集客のための公共施設とのドッキング策もハード面をどこまでの規模にするか。現状の店舗を生かすにしても地下1階、地上6~7階の多層は必要ないから、建て直さなければならない。中途半端に出店投資が必要だし、肝心なテナントが確保できる保証はない。正直、難しい経営判断を迫られる。

 三越伊勢丹HDの杉江社長がさらに店舗を閉鎖するには、従業員の雇用や地域経済に与える影響などいろんな柵が関わってくる。だが、ドラスティックの改革ができないようでは、経営者としての資質も問われてしまうのだ。もっとも、今回の会見で発表された戦略で唯一光明を見出すとすれば、筆者は以下のことではないかと思う。

 基幹店の商品情報や在庫情報を全店で共有し、基幹店のすべての商品が地方店でも購入できる仕組みを構築」



基幹店の商品が買える店

 地方店は大手百貨店の暖簾だけ残し、杉江社長が語った基幹店の商品情報を全店で共有し、基幹店のすべての商品が地方店でも購入できる「サテライト業態」を開発するという考えはどうだろう。衛星店はこれまでも地方には存在したが、それは外商の窓口やギフトや小物の販売程度だった。だから、一歩進んでネットと連動させ、基幹店の商品が購入できる拠点にする。それが地方店が生き残る唯一の手段かもしれないと考える。

 まず、地方では本当に「高級・高感度なブランドを集積してもニーズがない」のか。ニーズは少ないとは思うが、「0」ではないはずだ。地方ではそうしたブランドを扱う百貨店がないから、お客は自分の目で確かめることができず、試着や接客を受ける機会もなく、購入にいたらないだけではないのか。そうした仮説を立てながら、潜在ニーズを逆に探るという手法はあっていいと思う。

 常時、店頭で商品のラインナップはできないから、基幹店の在庫を掲載したサイトをつくり、スマホアプリもしくは店頭のタブレットで確認できるようにして、お客が欲しい商品(食品含めて)を見つければ、注文を受けてサテライト業態まで配送する。お客には試着や接客を受けてから、購入するかしないかを決めてもらえばいいのである。その場合、基幹店では逆に機会ロスが発生する可能性があるが、受取日、購入猶予の期間など厳密なルールを作った上で、先に目を付けたお客を優先する方が販売ロスを抑えられるという考え方もある。

 もちろん、ネットで注文して試着し、気に入らなければ返品するだけなら、オンラインショップでもいいとの理屈になるが、百貨店の商品は一般に委託や消化仕入れの形態を取るため、EC上では商品がどういう状態で動いているかを把握できない。だから、実店舗のような拠点を設けて管理する必要があるのだ。まあ、セレクトショップのベイクルーズでは、すでに行われているサービスだが。

 そことの違いは、売り逃さないように三越日本橋店で導入に踏み切ったコンシェルジュサービスを地方にも拡充する。これこそ、百貨店ビジネスの原点である「対面販売」への回帰で、EC礼賛の風潮と一線を画するものだ。せっかく、基幹店の商品を引き当てて、お客のもとに配送までするのだから、懇切丁寧な接客(小物など+1のコーディネート販売にも注力)を行い、確実に販売につなげていく。そうした試みで、地方でも0ではないマーケットを掘り起こしていくのである。

labelling2 店構えや内装といったハード面では、高級ホテルを彷彿させるクロークというか、ストレージ風の受取りロッカー(冷蔵機能は別に確保)を整備し、商品別にラベリングしてストック管理する。さらに試着室や接客ルームもゆとりを持たせた空間を確保していく。スタッフ数は限られるだろうから、お客を待たせることを想定し、ラウンジを設けてお茶やお茶菓子をサービスすればいい。(経費を抑えるために地方の老舗茶舗や菓子舗と提携して、大手の暖簾を使ってサンプリングにするという手もある)

 これくらいならそれほどの店舗面積は必要ないし、建坪さえ確保できれば地方の一等地で平屋か低層での展開は可能だ。当然、コストもかかるので、顧客からは1000円から2000円程度の年会費を徴収する。地方在住のお客にしてもネットで世界中の商品を見ている。だから、百貨店側が一方的に品揃えした商品を押し付けるのは、もう時代遅れなのである。

 筆者は地元百貨店ではもう10年以上、アパレルは購入していない。それはお気に入りのブランドが撤退したり、期間限定のリミテッドショップでは品揃えに限界があるからだ。しかし、ブランドのフレグランス、料理用の食材や食料品、菓子類は購入している。特にスーパーでは手に入らない博多地鶏や塩干、生海苔、山葵漬けなどは必須アイテムだ。

 だから、百貨店そのものは否定していない。先の東京出張でもスケジュールは強行軍ながら、何とか時間を作って日本橋の「髙島屋SC」を視察した。印象は中高年が好むテイストを上手くとらえ、バランスのいいリーシングをしていると感じた。一つ一つを日本橋という市場に合うかどうか、じっくり吟味した結果ではないかと思う。

 これは国内外のブランドを集積したGINZA SIXとは大違いだ。視察という目的を外れ、地方から訪れたお客になってレギュラー店よりワンランクアップした「タビオ」で靴下、「ブリック&モルタル」でインスタ映えしそうな調理用プレート、紀伊国屋で食材を購入した。三つとも地方百貨店ではお目にかかれない商品で、現物を見ることができたので即決、即買いした。そこは日本橋の髙島屋たる所以がそうさせたのだろう。

 また、斜向いにある別館の「ウォッチメゾン」にも、福岡の百貨店では扱われていない「U-BOAT」を見に行った。U-BOATは潜水艦好きとしては、ずっと気になっている時計だ。それについても百貨店らしい丁寧な接客で、店頭にはないが欲しい型番の商品は取り寄せも可能だと言っていただいた。おそらく現物を見ると、なおさら欲しくなるだろうから、これから購入を検討してみることにする。

 百貨店が扱う商品は、購入するしないは別にして現物を見れば、お客の心は揺らぐ。福岡のような地方に置いていない商品はなおさらだし、それ以外のローカルマーケットでは、さらに顕著ではないかと思う。

 百貨店は小売業だ。商品を仕入れて売るしかない。大西洋前社長は地方で埋もれているメーカーを掘り起こし、共同でSPAを目指すような構想も打ち出していた。生憎、社長解任で実現には至らなかった。また、杉江社長も旅行やブライダルとの提携を口にしている。前者は商品在庫を抱える厳しさを知らない百貨店の戯言とも受け取れ、後者は百貨店が在庫を抱えてこなかったからこそ、出て来るイージーな発想にも映る。

 むしろ、地方百貨店は小売業として、お客が求める商品を世界中から徹底して探し出し、販売することに心血を注いだ方がいいと思う。地方では0ではないお客にも目を向け、少ないニーズからいかに購入に結びつけていくか。地方百貨店の生き残りには、従来にない発想による「小売り革新」が不可欠なのである。