January 26, 2004

mp3ストリーミング:BlueMars/CryoSleep

BlueMarsLogo

かつて、BlueMars/CryoSleep という素敵な mp3 ストリーミング局があった。既に放送を停止して久しい。

御注意〕 同局は2004年7月上旬に復活を果した。詳しくは2004年7月5日付拙稿(移転先サイトでの転載記事はこちら)をご覧ください。公式ウェブサイトも2004年7月中旬にリニューアルされている。同じく2004年7月20日付拙稿(移転先での転載記事はこちら)でふれています。

なお、この拙記事公開当初、ここに掲げた BlueMars ロゴは、同局公式サイトから無断で拝借していた。以下で述べているように、ネットでのストリーミング放送における音楽著作権使用料をめぐる一連の騒動の影響を受けて同局が停波し、かつ主宰の lone さんが多忙とのことで、画像使用の許諾をいただけるとは思えないと当方が勝手に判断して、連絡を取らなかったためです。2004年復活後のサイト・リニューアルで、同局サイトのアート・ワークがsplif さん(リンク先は同氏のサイト Bwoup.com)によるものであることを知り、慌てて lone さん・splif さんお二方に改めてロゴ画像の使用許諾をお願いし、ご快諾いただいた。お二方に半年近かったこの記事でのロゴ無断使用をお詫びするとともに、それにもかかわらず拝借を歓迎してくださったことに御礼申し上げます。〔以上、2004年8月7日追記〕

アンビエント音楽

恥ずかしながら、私のアンビエント音楽に関わる体験は、高校の頃に聴いた Brian Eno の Music for Airports (1978) と、その数年後、学生時代に何のきっかけかLPを買った Harold Budd/Brian Eno 共同名義の The Pearl (1984) との2枚に長らく限定されていた(もっとも、この2枚ともよく聴いた)。

このうち、前者は大変よく知られた作品だろう。リリースから四半世紀が経過し、自分がアルバムを入手してからもそれとほぼ同じだけ時間が流れたが、その間何度繰り返して聴いても飽きが来ない、自分にとっては絶対定番の1枚。後者は、もう少し情緒的な色合いが濃く、アコースティックあるいはプリペアード・ピアノの音色が印象的な、妙に懐かしい響きをたたえたアルバムで、こちらも今でも時々、TV番組のBGMに使われて思わぬ時に耳に入ってきたりする。

邪魔をしない音/音楽

Music for Airports のライナー・ノーツには、Eno 自身のアンビエント音楽に関する短いエッセイが掲載されていた(原文はウェブ上にもある:Music for Airports liner notes)。アルバム同様、これもまた大変よく知られた文章だと思うが、その末尾にこうある:

アンビエント音楽は、聴き手に特定の水準を強要することなく、さまざまなレヴェルでの関心の持ち方 (levels of listening attention) を可能にするものでなければならない。おもしろい (interesting) のと同程度に無視することもできる必要がある。

たぶん、BlueMars/CryoSleep のプログラム(選曲)は、この Eno の文言に最も近いかたちをもっていた。私はもっぱら、より静かな楽曲のほうが多かった CryoSleep を愛聴していたのだが、ステーションIDのアナウンスやジングルの類一切なしで蜿蜒と流される楽曲には、駄作がほとんどなかった。Eno が上で言うとおり、意識を集中して聴き込めば十分に鑑賞に堪え、また思いを楽曲から離して別のことを考えてもまったく差し支えない、そういったものばかりだった。


同局をとくに夜から深夜の時間帯に流しっ放しにして何をするでもなくボーっとしていると、いつも散らかったままの部屋や窓から見える取り柄のない夜景もどことなく違ったように見え、大仰でなく文字通り、どこか別世界に移動したような気がしたものだ。

往時のこの局のウェブサイトもまたまったく寡黙な構成だったが、ここに掲げたロゴマーク画像(縮小しているので文字が潰れてほとんど解読不能になってしまった)には "In Memory of Earth/B L U E M A R S - 2031 and beyond" とあり、ロゴと同じく濃紺の背景色のトップページの冒頭には "Music For The Space Traveller/lone's ambient streams" とあった。ロゴの、なんとなく物悲しい表情に映る宇宙飛行士のイメージと、「蒼い火星/冷凍睡眠」というストリームの名前が、光瀬龍の「宇宙年代記」シリーズで、太陽系内のサイボーグや情報化して肉体を捨ててしまう遠い未来の人類が湛える悲哀と微妙に重なり合いながら、また別種の妄想をかきたてる(もっとも、これもまた当方のまことに勝手で過剰な思い入れに過ぎないのだが……(苦笑))。

このほとんど毎夜の流しっ放しで、私は結果的に Eno の Music for Airports 以来20年近くが経過してようやく、アンビエント音楽の2度目の洗礼を受けることになった。聴き込んでも良し、聴かずともそれはそれでよし。さらには日常的な空間をすっかり変質させてしまうような力をこうした音楽が具えているとは、嬉しい発見だった。

耳に障らないだけの音/音楽

もちろん、Shoutcast のディレクトリで検索すると、現在もけっこうな数のアンビエント音楽ストリーミングがある。そもそも自分が BlueMars/CryoSleep と出遭ったのも、このディレクトリに掲載されているものを片っ端から聴いてみて、気に入りそうな局を探している時だった。

Ambient, downtempo, chillout, atmospheric... こんなキーワードを掲げたストリーミング局を、今でも時々、思い立つと試聴してみる(正直なところ、これらのサブジャンル(?)をアンビエント音楽としてひとつに括ってしまっていいのか、よくはわかっていないのだが)。しかし、残念ながら BlueMars/CryoSleep のような上質のプログラミングにはなかなか遭遇できない。何が違うのか?

おそらく、現行の多くのアンビエント音楽ストリーミングは、単に耳当たりがいいだけのものが多いせいだ。漫然とBGMとして流しているかぎり、それらはたしかに聴き手であるこちらの邪魔をすることはない。それなりに統一された雰囲気を醸成し、心地よい時間を作る助けになってくれる。

だが問題は、聴き手のそうした音への関心が、BGMという、無関心と集中との両極の間に広がる曖昧な境界をもつ範囲から、いずれかの極の方へ近づこうとした時に起こる。無視してほかのことに集中するには自己主張しすぎており、対面して聴き込むには何かが足りない。幅がなく、厚みがなく、容量がない。そう感じてしまう。

死んだ子の歳を数えても詮方ない。どうやら BlueMars/CryoSleep は復活しそうにないので、SomaFM の Drone Zone を最近よく聴いている。ここもインダストリアル・ノイズのような楽曲や、人声をほとんど生のまま(耳障りなかたちで)取り込んだ楽曲が(私に言わせれば)「混入」したりするので、手放しに安心して聴けるというわけでもないのだが、このチャンネルの Music Director が Rusty Hodge とクレジットされている時のプログラミングは相当いい。ちなみに、送ったファンレター(!)への返信によれば、Rusty さん自身も BlueMars/CryoSleep のファンだったそうだ。ただ、「CryoSleep はもうちょっとスペース・ミュージック重視で、〔自分のストリーム〕Drone Zone と競合したとは思ったことはない」由。

Who's performing what?

実は、個人的にはもうひとつ問題がある。アンビエント音楽はしばしば1曲自体の演奏時間が長く、それがストリーミングというメディアを通じて連綿と連なって流れていると、ミュージシャンや楽曲個々の個性よりも、ストリーミング・プログラムとしての全体の雰囲気(segue)の印象のほうが強い。結果として、心地よく集中しながら耳を傾けたり、他のことをつらつら考えたりしているうちに、誰の何という楽曲だったのか、非常にしばしば気にならなくなってしまう。

「そんなこと、局のウェブサイトのプレイリストで確認すれば済む」。そのとおり、でもそれすら怠ってしまうことが多い。気に入ったミュージシャンのものはCDなどで自分の手許に置いておきたい。それが微々たるものであっても、その作品を創ったミュージシャンをサポートすることになるのもよくわかっている。できるだけメモをとって書き留めておくようにはしている。だがやはり、あまりに気持ちいい音が続くと、忘れてしまう。ミュージシャンの方々、ごめんなさい。

お願い〕 誠に勝手ながら、2004年8月4日付で本サイトは新URLへ移転しました。本稿と全同のものを、移転先のこちらにて公開しています。新たにコメント・トラックバックなどをお寄せいただく場合、大変お手数ですが移転先にてお願いできれば幸甚です。

----------

  • BlueMars/CryoSleep 公式サイト。周知のとおり、閉局は、インターネット経由での「放送」(Webcasting) をめぐる、米国での著作権・楽曲使用料徴収問題のゴタゴタの影響をもろに受けたためだ。誠に残念でならない。他にも多数のストリーミング放送がこの問題のせいで閉局、あるいは一時的な放送途絶に追い込まれた。

    この局のストリーミング停止後、すでに1年半くらいはゆうに経過しているが、ウェブサイト自体はまだ存続しており、そのプログラムが湛えていた雰囲気の一端を視覚的に懐かしく思い出すことができる。しかし、そのうちデッドリンクになるかもしれない。

  • インターネットでの楽曲使用料問題については、細かい経緯は把握できていない。大まかな流れとしては、米国行政府による使用料支払い義務化の提案とその立法化(当然、背後にはレコード会社など音楽制作業界のロビー活動があっただろう) → 金銭的な負担の増加と放送の自由の侵害とを危惧したストリーミング放送各局による暫定的な放送停止と行政府・立法府への抗議と働きかけ → なんとなくうやむやになったまま放送再開……というものだと理解している。(しかし、楽曲使用料の徴収問題は現在正確にはどうなっているのかは、正直さっぱりわからない)。

    関連する情報源としては、たぶん RAIN: Radio and Internet Newsletterが詳しいが、日刊であるため常時フォローするのは相当しんどい。ほかに、よく言及されるのは Future of Music Coalition/Copyright Arbitration Royalty Panel。ここは Webcaster たちの味方なのかどうか、調査不足のため未詳。

  • Harold Budd 経歴@theiceberg.com

  • Brian Eno 非公式(だが、どうやら非公認でもないらしい)サイト。ウェブ上で最も詳しいリソースか。

  • 邦語の Brian Eno ディスコグラフィ


この記事へのトラックバックURL

http://trackback.blogsys.jp/livedoor/moondial/67406