昨年の年末前後から、Radio Paradise でこのバンドの最新アルバム Sleeping With Ghosts (2003) からの数曲がよくかかっていた。ヴォーカルは極めて特徴的な声質の高音域で歌う。ほとんどシャウトすることがない中性的なヴォーカルが、ほぼディストーション一発のコード・ストロークで厚い音の壁を築くギターと、重く堅実なベース、それに抜けのいい生ドラムの上に乗っている。音数が少ない隙間だらけの時と、ぐっと分厚く音を鳴らして疾走する時とのメリハリもいい。控えめに背景音を鳴らすキーボード類の使い方もうまい。
先日とりあえずこのアルバムだけでも入手しておこうと思って店頭に行くとほとんど在庫がない。結局 amazon.co.jp で注文した(amazon の外盤CDは Tower より大概はるかに安いことに最近ようやく気づいた)。ついでに以前の3作も試聴して、各アルバムごとに聴くことができる数曲を全部聴き、また“大人買い”してしまった。結果的にどのアルバムもかなり出来がいいと思えた。
この Placebo(リンク先は公式サイト)というバンド、David Bowie の熱狂的なファンだったヴォーカル/ギターの Brian Molko が、ルクセンブルクで過ごした少年時代に彼の地で同じ学校に通っていたベイシストの Stephan Olsdal とロンドンの地下鉄で偶然再会したのをきっかけに結成したという。Molko は米英の二重国籍、Olsdal はスウェーデン、ドラマーの Steve Hewitt は英国。彼らはまたバイセクシュアル・同性愛者・いわゆる“ストレイト”だそうで、華奢で風貌も中性的な Molko は、プロモーション・ヴィデオのなかで女装して化粧を決め女性になりきった姿を披露したりしている。政治的な発言もけっこうしているらしい。
1枚目から3枚目までのアルバムには、いずれにも最後にクレジットなしの hidden track が含まれており(CDプレイヤーにかけっ放しにしておくと、10分近い無音状態の後に出てくる)、2枚目の Without You I'm Nothing (1998) のそれは曲名も "Evil Dildo"。内容も Molko の自宅の留守番電話に残っていた「お前がどこに住んでいるかわかってる、部屋に忍び込んでお前の局部をちょん切って……」というとんでもない脅迫メッセージをそのまま使っているという(しかし実際にはほとんど聞こえない。全篇インストゥルメンタルで、曲調は限りなく重たく陰鬱)。
……というようなことを、ウェブ上でいろんなところを覗いて知った。Placebo のデビュウ・アルバム Placebo は1996年リリースで、自分がロックについて何も関連情報を蒐集したり音を実際に聴くことがなかった1990年代のバンドだ。そういう耳で聴くと、このバンドの音は、彼らより10年以上前に溯った80年代前半に無数に出た alternative 系の音によく似ていて、かなり懐かしい。あの頃と違うのは、演奏が技術的にしっかりしていてかなり上手い、録音もいい、CD時代への移行とほぼ前後して顕著になった(たぶん音のデジタル処理によって可能になった)atmospheric とでもいうべき音空間の作り方、などだろうか。バンド・メンバーのコスモポリタン的な出自や性的嗜好にまつわる逸話、政治的な発言や歌詞などには、マージナルな存在としての特異性を打ち出そうとする若さとポーズを私(のような中年)は感じるだけだが、出している音や曲はかなり気に入った。
たぶんこのバンドが好みに合うかどうかは、Molko の特徴的な声と歌が生理的に大丈夫かどうかでほとんど決まるような気がする。
----------
以下、Placebo に関するウェブ上リソース(備忘)。このバンドが日本でどの程度のポピュラリティをもつのか、上述のような理由で私はまったく知らないが、嬉しいことに極めて充実した日本語ファン・サイトがある:
愛蓮さん主宰の「Another Scarred Memory」。バンド最新ニュース・ディスコグラフィ・歌詞と訳詞(ひじょうに的確)、その他バンドにまつわるさまざまな情報多数。
上掲の愛蓮さんのサイトのリンク集から、Masa さんの「Placebo-online.com」。「reviews」コーナーのライヴ・レポートは文字通り世界各地で実際にこのバンドのライヴを観た記録で、圧倒される。
英文では、たとえば Kite さん主宰の「Black Market America」。音楽雑誌などに掲載された Placebo 関連の記事など。
また、英仏2カ国語で「XSOFPLANET.NET」。Placebo は英国を拠点にしているようだが、欧州大陸ではかなり人気が高いらしい。
BBC サイト内では、いくつかおもしろいものが読める。BBC 6music の 「Placebo プロファイル」右上から、Molko への Steve Lamacq によるインタヴュウ音声ファイルへリンクあり(URL: http://www.bbc.co.uk/6music/ram/int_placebo.ram)。Sleeping With Ghosts のミキシング最終段階で "The Bitter End" が一気に出来た……等等。これを聴くかぎり、Molko は案外インテリ風の喋りだ。
また、BBC Radio1 の「Talk Live Now - 24/7」、Placebo の回(ヴィデオおよびその書き起こし)。
もうひとつ、BBC South Yorkshire の(古いが、新譜発表の数カ月前)2003年4月3日付「Placebo ライヴ評」。スローテンポの曲は間延びしていてダメ、などなかなか手厳しい。
最後に、上掲のバンド公式サイト「PlaceboWorld」。いくつかの曲およびプロモーション・ヴィデオの試聴可能。
私は最新アルバムの限定版として出たカヴァ曲集おまけCD付き2枚組を買いそびれてしまい、これも Radio Paradise で聴いてちょっと気に入っていた Kate Bush の "Running Up That Hill" のスローテンポの Placebo カヴァは手元にない。今年10月には新たに既発シングルのコンピレィションが出るようだが、これには入っていないのだろうな……残念。
〔お願い〕 誠に勝手ながら、2004年8月4日付で本サイトは新URLへ移転しました。本稿と全同のものを、移転先のこちらにて公開しています。新たにコメント・トラックバックなどをお寄せいただく場合、大変お手数ですが移転先にてお願いできれば幸甚です。