July 23, 2004

Placebo というバンド

昨年の年末前後から、Radio Paradise でこのバンドの最新アルバム Sleeping With Ghosts (2003) からの数曲がよくかかっていた。ヴォーカルは極めて特徴的な声質の高音域で歌う。ほとんどシャウトすることがない中性的なヴォーカルが、ほぼディストーション一発のコード・ストロークで厚い音の壁を築くギターと、重く堅実なベース、それに抜けのいい生ドラムの上に乗っている。音数が少ない隙間だらけの時と、ぐっと分厚く音を鳴らして疾走する時とのメリハリもいい。控えめに背景音を鳴らすキーボード類の使い方もうまい。

先日とりあえずこのアルバムだけでも入手しておこうと思って店頭に行くとほとんど在庫がない。結局 amazon.co.jp で注文した(amazon の外盤CDは Tower より大概はるかに安いことに最近ようやく気づいた)。ついでに以前の3作も試聴して、各アルバムごとに聴くことができる数曲を全部聴き、また“大人買い”してしまった。結果的にどのアルバムもかなり出来がいいと思えた。

この Placebo(リンク先は公式サイト)というバンド、David Bowie の熱狂的なファンだったヴォーカル/ギターの Brian Molko が、ルクセンブルクで過ごした少年時代に彼の地で同じ学校に通っていたベイシストの Stephan Olsdal とロンドンの地下鉄で偶然再会したのをきっかけに結成したという。Molko は米英の二重国籍、Olsdal はスウェーデン、ドラマーの Steve Hewitt は英国。彼らはまたバイセクシュアル・同性愛者・いわゆる“ストレイト”だそうで、華奢で風貌も中性的な Molko は、プロモーション・ヴィデオのなかで女装して化粧を決め女性になりきった姿を披露したりしている。政治的な発言もけっこうしているらしい。

1枚目から3枚目までのアルバムには、いずれにも最後にクレジットなしの hidden track が含まれており(CDプレイヤーにかけっ放しにしておくと、10分近い無音状態の後に出てくる)、2枚目の Without You I'm Nothing (1998) のそれは曲名も "Evil Dildo"。内容も Molko の自宅の留守番電話に残っていた「お前がどこに住んでいるかわかってる、部屋に忍び込んでお前の局部をちょん切って……」というとんでもない脅迫メッセージをそのまま使っているという(しかし実際にはほとんど聞こえない。全篇インストゥルメンタルで、曲調は限りなく重たく陰鬱)。

……というようなことを、ウェブ上でいろんなところを覗いて知った。Placebo のデビュウ・アルバム Placebo は1996年リリースで、自分がロックについて何も関連情報を蒐集したり音を実際に聴くことがなかった1990年代のバンドだ。そういう耳で聴くと、このバンドの音は、彼らより10年以上前に溯った80年代前半に無数に出た alternative 系の音によく似ていて、かなり懐かしい。あの頃と違うのは、演奏が技術的にしっかりしていてかなり上手い、録音もいい、CD時代への移行とほぼ前後して顕著になった(たぶん音のデジタル処理によって可能になった)atmospheric とでもいうべき音空間の作り方、などだろうか。バンド・メンバーのコスモポリタン的な出自や性的嗜好にまつわる逸話、政治的な発言や歌詞などには、マージナルな存在としての特異性を打ち出そうとする若さとポーズを私(のような中年)は感じるだけだが、出している音や曲はかなり気に入った。

たぶんこのバンドが好みに合うかどうかは、Molko の特徴的な声と歌が生理的に大丈夫かどうかでほとんど決まるような気がする。

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以下、Placebo に関するウェブ上リソース(備忘)。このバンドが日本でどの程度のポピュラリティをもつのか、上述のような理由で私はまったく知らないが、嬉しいことに極めて充実した日本語ファン・サイトがある:

  • 愛蓮さん主宰の「Another Scarred Memory」。バンド最新ニュース・ディスコグラフィ・歌詞と訳詞(ひじょうに的確)、その他バンドにまつわるさまざまな情報多数。

  • 上掲の愛蓮さんのサイトのリンク集から、Masa さんの「Placebo-online.com」。「reviews」コーナーのライヴ・レポートは文字通り世界各地で実際にこのバンドのライヴを観た記録で、圧倒される。

  • 英文では、たとえば Kite さん主宰の「Black Market America」。音楽雑誌などに掲載された Placebo 関連の記事など。

    また、英仏2カ国語で「XSOFPLANET.NET」。Placebo は英国を拠点にしているようだが、欧州大陸ではかなり人気が高いらしい。

  • BBC サイト内では、いくつかおもしろいものが読める。BBC 6music の 「Placebo プロファイル」右上から、Molko への Steve Lamacq によるインタヴュウ音声ファイルへリンクあり(URL: http://www.bbc.co.uk/6music/ram/int_placebo.ram)。Sleeping With Ghosts のミキシング最終段階で "The Bitter End" が一気に出来た……等等。これを聴くかぎり、Molko は案外インテリ風の喋りだ。

    また、BBC Radio1 の「Talk Live Now - 24/7」、Placebo の回(ヴィデオおよびその書き起こし)。

    もうひとつ、BBC South Yorkshire の(古いが、新譜発表の数カ月前)2003年4月3日付「Placebo ライヴ評」。スローテンポの曲は間延びしていてダメ、などなかなか手厳しい。

  • 最後に、上掲のバンド公式サイト「PlaceboWorld」。いくつかの曲およびプロモーション・ヴィデオの試聴可能。

    私は最新アルバムの限定版として出たカヴァ曲集おまけCD付き2枚組を買いそびれてしまい、これも Radio Paradise で聴いてちょっと気に入っていた Kate Bush の "Running Up That Hill" のスローテンポの Placebo カヴァは手元にない。今年10月には新たに既発シングルのコンピレィションが出るようだが、これには入っていないのだろうな……残念。

お願い〕 誠に勝手ながら、2004年8月4日付で本サイトは新URLへ移転しました。本稿と全同のものを、移転先のこちらにて公開しています。新たにコメント・トラックバックなどをお寄せいただく場合、大変お手数ですが移転先にてお願いできれば幸甚です。

  

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July 22, 2004

“本家(?)”空耳あわ〜:「Am I Right」

……というような面白サイトに偶然たどり着いた。Charles R. Grosvenor Jr さんの 「Am I Right」(英文)。元のサイトの開設は1996年とのこと(「About Us」頁)。「タモリ倶楽部」の“空耳あわ〜”のほうがおそらくはるかに古いが、ネタの集積具合はこちらのサイトのほうが圧倒的。(むろん、外語の歌詞が日本語でどうおもしろ可笑しく聞こえるかと、元々の言語(英語の歌詞しか扱っていないようだ)でどのように聞き間違えるかは、まったく別物だが)

内容はいくつかのカテゴリに分かれている(同サイト左側ナヴィゲイション参照):

  • Misheard Lyrics: “空耳あわ〜”と同趣向

  • Song Parodies: お笑い替歌

  • Names: ミュージシャンまたはバンド名・曲名によるお遊び

  • Real Lyrics: 原曲の歌詞のままで、笑える・しつこいほどのくり返し・あまりにも無意味・偽善的・頭にくる……など

とりあえずは、同サイト・トップ左上の「Band Search」でお好きなミュージシャンの名前(原綴)を入力しての検索をお勧めしたい。該当する記事(大半が投稿で寄せられたものとのこと)があれば、上述の4つのカテゴリに従ってズラズラと出てくる。“空耳”はしばしば多数リストされているため、"There are additional XXX〔バンド/ミュージシャン名〕 misheard lyrics available"〔他にも XXX の“空耳”あり〕のアンカーを要クリック。(ただし、主宰の Grosvenor さんもおっしゃっているとおり、必ずしもすべての“空耳”で爆笑できるわけではない)

たとえば、個人的に偏愛するバンド、Pink Floyd の“空耳”をひとつ。音韻もたしかに似ているし、“空耳”のほうの情景を想像すると爆笑もの。(これを選んで引用する当執筆人の品性が疑われるが、元々こんな程度です(苦笑)……元の正しい歌詞の直前部分を補足した以外は一切注釈なし、なおかつ「続きを読む」にて):

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July 20, 2004

BlueMars/CryoSleep サイトも全面リニューアル

再び、標記のとおりです。

今朝、気になる曲(備忘、John Serrie: "Century Seasons")が流れていたので公式サイトのプレイリストを見にいくと、php を使った新しいサイトに全面更改されていた。すでに1週間前、7月13日付でリニューアルされていた由。使用されている画像やチャンネルごとの惹句も、まことにいい落ち着き具合と雰囲気を湛えている。

この更改により、7月5日付拙稿での同局サイトに関する記述はすべて無効です。以前と較べてより直感的にわかりやすくなっているので不要かと思うが、拙記事アップデイトの意味も含め、以下念のため。

ヘッダ画像直下のナヴィゲィション・ボタン(現状では、"BLUEMARS" の文字(これ自体サイト・トップへのアンカー)の右側に5つ並んでいる)をクリックすれば、各ストリームのページが画面下段に出て、プレイリストもその下段画面右側へ統合されて表示。

番組を聴くには、サイトのトップ下段画面左側下方に3つ横並びで並んだ各チャンネル・バナー、あるいはチャンネルごとのページで下段画面左側上方の横長バナーをクリック。ストリームの内容も、徐々に新しい曲が増えてきている。

クラッキングとスパミングのせいで以前のサイトでは閉鎖されていた掲示板も、近日中に復活する模様。

お願い〕 誠に勝手ながら、2004年8月4日付で本サイトは新URLへ移転しました。本稿と全同のものを、移転先のこちらにて公開しています。新たにコメント・トラックバックなどをお寄せいただく場合、大変お手数ですが移転先にてお願いできれば幸甚です。

  
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July 17, 2004

Carpenters を“大人買い”する

小学校高学年の頃、Carpenters の "Yesterday Once More" が大ヒットした。これがたぶん、自分が物心ついてから“洋楽”を意識した最初期の記憶だ。それ以前は、母親がふだん家で流しっぱなしにしていたAMラジオでこれまた一時期しつこいほどにくり返しかかっていた Beatles の "Let It Be" くらいしか憶えていない。ちょうど Beatles が解散を発表した時期の前後だったのだろう。

Carpenters は一度だけライヴも観た。子供たち(といっても、生徒会長を後に務めることになる優秀な友人と私の男2人組だったのだが)だけでコンサートに行くというので、課外のことなのにわざわざ学校の先生に許可をもらって出かけたのを憶えている。この兄妹デュオは、1970年代前半、ニッポン放送(当時は日本の中波帯もまだ10khz刻みで1240khzだった)で野沢那智さん進行の『カーペンターズ物語』(? 番組名は完全なうろ憶え)という週1度の帯番組が放送されるほど人気があり、私も毎週楽しみにこの番組を聴いていた。アメリカで制作されたものに日本語をかぶせていたと思うのだが、ときどき特に日本のファンへ向けた二人の肉声メッセージも流れた。私が観たライヴはヒット曲オンパレードというわけではなく、途中で元々ドラマーだった Karen Carpenter のドラム・ソロ、それにお得意のオールディーズや Burt Bacharach メドレーも挟んだ楽しいものだった。

先日 Amazon.co.jp で音楽CD1枚980円セールをやっていて、見るともなしにリストアップされたものを眺めていると、Carpenters のオリジナル・アルバムが何枚か含まれている。これまでも時々彼らの歌がラジオから流れると「ああ、そういえば子供の頃あんなに好きだったのに、結局アルバムは1枚も持っていなかったな」と思い出し、それでも長らく店頭で手にとってレジまで持っていく気にはならなかった。これも何かの縁かと、まとめて注文した。

今回購入したのは Ticket to Ride (1970) から Horizon (1975) までのスタジオ録音オリジナル・アルバム6枚。検索エンジン上位に挙がる Carpenters FAQ には、アルバムごと・曲ごとのエピソードも添えられていて、聴きながら読んでいろいろ懐かしかった。

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July 10, 2004

Arvo Part: "Cantus in memory of Benjamin Britten"

音楽を聴いていて、旋律に感動することはある。楽器の音色や歌い手の声質一発で泣かされることもある。歌ものなら、歌詞の内容や修辞、歌い方に心を揺さぶられることもある。

だが、響き……としかたぶん呼びようがないものに深い感銘を受けたのは、自分にとってはこの曲(と演奏)が初めての経験かもしれない。そしてうまく言い表す言葉や知識を残念ながら私はもたないのだが、ここでいう“響き”とは、おそらく和声(harmony)ではないような気がしている。

もちろん、音楽は時間軸に沿って流れるし、この曲でも何も変化がないわけではない。自分は楽理を理解していないのでそう思い込んでいるが、ほんとうは純粋に“響き”だけに感動したのではないかもしれない。そもそも感動の元について分析まがいのことをすることに意味があるのか疑問でもある。それでも敢えて“響き”に揺り動かされたと強弁したくなるようなものが、この曲にはある……そう思う。

標記の曲で、私が聴いたのは以下の2つの演奏だ:

  • Arvo Pärt(アルヴォ・ペルト): Tabula Rasa (ECM New Series 1275, 1984)所収、Dennis Russell Davies 指揮・ドイツ Stuttgart 国立管弦楽団演奏

  • Arvo Pärt: Fratres (NAXOS 8.553750, 1997)所収、Tamás Benedek 指揮・ハンガリー国立オペラ管弦楽団演奏〔このCDでの標題は "Cantus in memory of Benjamin Britten for strings and bells"

  • 各々、リンク先はレーベル公式サイトの当該アルバム頁宛。NAXOS 盤は演奏時間7分29秒で、5分ちょうどの ECM 盤より約2分半長い。なお、NAXOS 公式サイトでは登録さえすればなれる無料会員で、一部を試聴可能。

曲名に明らかなように、この曲は Pärt が1976年に亡くなった英国の作曲家 Benjamin Britten(リンク先は MusicWeb の Britten に関するページ、Rob Barnett さん執筆の包括的な評伝)を悼んで書いたものだという。

冒頭、鐘が鳴り、その残響が消えるギリギリのところで静かに弦が鳴り始める。ただならぬ響きだ。弦が二重か三重かの層を成して短調の音階をゆっくり下降していく。それは旋律なのだろうか? アンビエント音楽で自分には耳なじみのあるドローン(drone, 通奏低音)も、ここではヴァイオリンなど高音域の楽器の音よりさらに緩やかに下降しながら循環する。次第に演奏全体の音量が上がり、弦の重層を背景にして標題がいうとおりに弔鐘のように鐘が一定の間隔をおいて打たれる。終盤、鐘が止まり、弦だけがさらにテンポを落として音階を下降する音がしばらく続き、やがて弦の音階上の動きも止まり、最後に1音だけ鐘が鳴る。そして静寂。

「ただならぬ響き」といま書いた。一聴、真先に頭に浮かんだのがこの言葉だった。悲歎、ほとんど純粋で透明なまでの。何度も書くが、こんな音楽は自分にとっては初めてだった。出遭えてよかった。

この Pärt という、かつて“バルト三国”と呼ばれた国々のうちのひとつエストニアに生まれ、ソヴィエト政権下で苦労した作曲家のことは全然知らなかった。先日の Tom Waits についての拙記事を書く契機となった Kompf さんのウェブログ「快楽原則」、2004年6月14日付「TABULA RASA」で初めて名前を知り、そのエントリで取り上げられていたこのCD(= 上記 ECM 盤)も、先日のCD大量買い込みで入手。トラックバックを送ります。Kompf さんがお書きになったことは、Pärt の上掲2枚の作品を聴くうえで非常に参考にさせていただいた。ありがとうございました。

以下、やや脱線。

「ペルト」の表記は本来ならばエストニア語で(? いずれにせよエストニア語ではウムラウトと呼んでいないのではないかとは思うが)「Pärt」です。livedoor Blog のシステムでは、残念ながらエントリ標題に実体参照表記を用いると表記冒頭の「&」が二重に解釈されて変換されてしまい、また RSS 生成でも不具合が起きるようなので、標題のみ「Part」とせざるをえませんでした。

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July 05, 2004

BlueMars/CryoSleep ストリーミング再開

うっかり見過ごしていた……(恥)。標記のとおりです(嬉)。

世界中に熱心なリスナーをもっていたアンビエント音楽中心のmp3ストリーミング放送局 BlueMars/CryoSleep の復活を報せるメールが、先週末の土曜日(2004年7月3日)午前11時半過ぎに、同局を主宰する lone さんから届いていた。1年半強ぶりの放送再開とのこと。

このストリーミングの番組内容については、よろしければ2004年1月26日付拙稿「mp3ストリーミング:BlueMars/CryoSleep」もご笑読ください。放送再開のメールに気づいたのが本日朝のことで、まだじっくり聴くことができていないが、どうやら選曲の方向性には大幅な変更はない模様。

また、この長期にわたる“停波”により生じた空白を穴埋めするべく、放送中止以前の BlueMars と CryoSleep の2波に加えて、第3のチャンネル「Voices From Within」を新設した由。従前の同局公式サイトに新しく付け加えられたバナーには、結跏趺坐で瞑想するシャカらしき浅黒い肌の人物が描かれている。こちらは(しばらく聴いてみたかぎりでは)、日本・インド・チベットの仏教寺院での僧侶による読経(!)やブルガリア民謡、Sheila Chandra(リンク先は公式サイト、要Flashプラグイン)など、非西洋的な響きがする音を主に流しているようだ。

これら3つのチャンネルのプレイリストは、上掲の同局公式サイトの下方ナヴィゲィション・エリア内「Music history」から、参照時点から溯って約1時間分まで参照可能。ストリーム自体はその左隣の3つのリンク、あるいは“淋しげな宇宙飛行士”(と私が勝手に呼んでいる)BlueMars ロゴの左・右・下に配されたバナーをクリックすることで聴くことができる。

上掲拙稿にも書いたが、個人にとっては相当重たいネット放送での音楽使用料負担(米国内での使用料徴収システムの制度化・明文化)と、主宰の lone さん自身が多忙で番組制作に時間を割けなくなってきたとのことなど諸事情から推して、この局の復活はほぼ100%ないものと思っていた。嬉しいかぎり。

眠れずに過ごした深夜や明け方などにぜひ一度、聴いてみてください。

〔04年7月20日追記〕公式サイトも7月13日付で全面リニューアルされた。7月20日付拙稿をご覧ください。〔04年7月20日追記終〕

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June 25, 2004

ebtg と雨音

Rainy Day by andreasl

蒸し暑いばかりでほとんど空梅雨という感じの今月の天気だが、Everything But The Girl (ebtg) の最後のアルバムになりそうな危惧を抱かせないでもない(後述)コンピレィション、Like the Desert Misses the Rain (2002) には、SE(sound effect)として雨音をリミックスの過程で加えたと思しき曲がいくつか収められている。新譜がいつまで待っても出ず、半ば業を煮やしてリリースから数カ月後に渋々買っ(てしまっ)た、ほとんど発表済みの曲ばかりを集めたアルバムだ。それまでもこの二人が作るアルバムでしてきたのとまったく同様に、飽きるまでくり返し聴き、しばらく遠ざかってはまた飽きるまで聴く。そのサイクルをすでに幾度か反復した。だが長らくこのSEには気づかないままだった。どうやら雨音を勝手に自分で補って耳を傾けていて、実際に加えられたSEに違和感を全然感じなかったらしい。

ebtg を聴いていると、なぜか雨の情景を思い出す、それもあまり規模の大きくない、雑踏するほどに人はいないが寂れているわけでもない街の。街を思うのは彼らの音が程よく洗練されているためだろうし、いつも背景で聞こえているような気がしてしまう空想のなかの雨音は、ギターのアルペジオやまれに使われるピアノの単音、生音か電子的なものかを問わずハイハットやシンバルが規則正しく刻むリズムのせいかもしれない。

Tracey Thorn と Ben Watt の同い年デュオ(いつの間にか夫婦になっていた)、雨がちな気候の英国イングランド出身、イギリスならどこにでもいそうで実際どこにでもいる典型的なアングロ・サクソン的風貌。それでも音楽の才能は独特だ。カヴァの意匠も音も、アルバムごとにあざといほど大きく変えてきた。変わらないのは、ほぼ色恋沙汰にまつわる気持ちの揺れ動きを描いたものばかりと言っていい歌詞のテーマと、Tracey の歌声だ。

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June 13, 2004

Battersea 発電所のある風景

Battersea発電所

この「スヌーカー・テーブル/食卓を天地ひっくり返したような」と形容されることもあるらしい印象的な建築物を初めて目にしたのは、例にたがわず Pink Floyd の Animals(1977) アルバム・カヴァだった。焦げ茶色のどっしりとした建物から天を衝いて垂直に伸びる4本の象牙色の煙突。おそらく夕刻、陰影を深めるレンガ造りの巨大な発電所の上空を豚が飛んでいる。

Animals のカヴァ写真

Animals の発表直前、英国・ロンドンの Capital Radio が6夜連続で「Pink Floyd Story」という大特集を放送した(後にNHK-FMがこの番組を丸ごと買って、立川直樹さんの進行で放送。私はこれを文字通り貪るように聴いた。カセットに録音もしたが、所在不明)。当時すでにバンドの主導権をほぼ掌握していたベイシストの Roger Waters は、同番組インタヴュウのなかで、このアルバム・カヴァの意匠についてこんなことを言っている:

〔インタヴュア:どうして Battersea 発電所をカヴァに?〕 こいつはかなり素敵な建物だと思うよ。暗鬱で非人間的で。

〔インタヴュア:写真自体も暗鬱だよね〕 そう。

〔インタヴュア:なんていうか、気を滅入らせるような、抑圧的で……〕 そうだね。

……〔略〕 えーとね、僕は Battersea 発電所が象徴している露骨で粗野なものがけっこう好きなんだ。男根のように聳える4本の煙突タワーも。“力”という概念も、奇妙な意味合いで魅力的だと感じている。

Pink Floyd Story 第6夜冒頭での Roger Waters の発言

余談になるが、このインタヴュウは特集の最終第6夜に放送された。Capital Radio は「この特集番組で Floyd の最新作を世界に先駆けて紹介する」と鳴り物入りで宣伝していたのだが、最終夜のオン・エア直前、BBC Radio One で同局名物DJの John Peel が抜け駆け(?)して全曲を放送した、という逸話はよく知られている。……といっても、私自身はそのことを知ったのはけっこう後で、他愛ないが「John Peel やるな」と、驚くべき趣味の広さを誇る、このDJである以前に何よりも音楽愛好家である人にますます尊敬の念を抱いた。

日本におけるこの「Pink Floyd Story」の放送は、確認できていないがたしか Animals 国内盤リリース後のことだったと思うので、Waters がインタヴュウで述べたことはすでに耳にしていたはずだ。だが、私はこのカヴァを見てただただ建物の存在感に圧倒されるだけだった。反面、こんな建物が本当にあるのかと、どこかで実在を疑っていた。後にロンドンでこの発電所の脇を通る列車に乗った。その路線が Battersea を通ることをまったく知らず、車窓から見えてきたときは不意を打たれた。夢中でカメラを構えて写真を撮る。「本当に本当にあったんだな」と、阿呆のようにくり返し心の中で呟きながらシャッタを切ったのを憶えている。ただ、実物のとくに煙突はかなりの威容を誇っていたが、自分で撮影した下手くそな写真に納まったこの建物全体は妙にこじんまりとしていた。今から思うと、無理をしてでも近傍の駅で降りて実物の近くまで行っておけばよかった。

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June 05, 2004

Webjay と Halloween, Alaska

しばらくぶりにRadio Paradise(リンク先は同局公式サイト、よろしければ同局について書いた拙稿もご笑読ください)を聴いていたら、ずいぶん新しい曲が増えていた。従来と変わらぬいぶし銀の選曲と並べ方の良さを感じさせる番組のなかで、Halloween, Alaska(リンク先はバンド公式サイト)というバンドの曲が印象に残った。改めてこのバンド名でウェブを検索してみると、標記の Webjay というサイトにプレイリストが掲載されている。このページをブラウザで開いて、頁左上のプルダウン・リストから音源プレイヤーを選択したうえで、その左脇にある大きめの「play page」ボタンを押すと、選んだプレイヤーが起動、リストアップされている音源を聴くことができる。音源自体はバンド公式サイトに置かれた mp3 ファイルをポイントしている。実に便利。

ウェブ上の音源で DJ

この Webjay というサイト、一般的にどれくらい知名度があるのか自分にはさっぱりですが、私は今回初めて訪れました。公開されているプレイリストをいくつか聴いてみて、ヴァラエティに富んでいて質も高いのに非常に惹かれた。そこでご紹介する次第。

Wired News の Katie Dean さん執筆、2004年4月9日付「Music Gurus Scout Out Free Tunes」という記事(日本語訳は Wired News Japan では見つからず)によれば、Webjayはソフトウェア開発者 Lucas Gonze さん(リンク先は同氏のサイト所掲プロフィール)により今年2月に運営を開始。いったい如何なるサイトなのかというと、(いささか長くなるが)同サイト「About」には:

Webjay はウェブ上でのプレイリスト聴取と公開を手助けするツールです。

WinAmp, iTunes, RealOne, Windows Media Player といった mp3 プレイヤーでは、演奏する曲のリストを指定することができます。ほとんどの場合、これらの曲は各自のコンピュータ上にあるのですが、ウェブ上にあるものも指定可能です。Webjay は、まさにこのウェブ上にある音楽のプレイリストのために使うことができます。

ウェブ上にある音源ファイルをリンクしたプレイリストは持ち運び可能です。mp3 プレイヤーとインターネットへの接続さえあれば、誰でもプレイリストを作りまた交換することができます。その際、実際に音源ファイルの現物を移動させる必要はありません。つまり、ファイルサイズの小さなプレイリスト(これ自体は或る特殊な書式に従って書かれたテキスト・ファイルです)を、友人にメールしたり、ウェブサイトで公開したり、仕事場へ持っていくことができるのです。

とある。もちろんプレイリストがポイントするウェブ上のリソースは音源ファイルに限らず、動画などでも構わないわけで、実際に動画ファイルのみを集めたプレイリストも公開されている。

前掲の Wired News の記事には、Webjay で自作プレイリストを公開している人の「ウェブ上にこんなに非合法に“フリー”ではない、文字通りフリーの音源があるのに驚いた」という発言も紹介されている。私も上述のとおり同感です。たとえば salishsea さんという方が作られたプレイリストには、ひとつはインド音楽(「Music of India: Classical and Sacred Music of India」)、もうひとつにはフィンランドのアンビエント音楽(「Ambient Music of Finland: -- dark winters --」)の音源を集めた、各々数時間(!)にわたる総演奏時間分の音楽が含まれている。どちらのリストもまだ全部を聴くことはできていないが、一部を聴いてみたかぎりでは音源の音質も演奏も高水準だった。

こうしたプレイリストは Creative Commons のライセンス第1版(著作(権)者表示・非営利・同一条件許諾)の下で公開され、また音源の権利関係については、プレイリスト製作者に非合法の音源を使わないよう自重を要請している(同サイト「About」の「Is it legal?」参照)。

RSS によるプレイリスト情報配信やブックマークレット(?)など、ウェブログなど他のウェブ上リソース/サービスへの配慮もある(ようだ……斜め読みしただけで、まだほとんど理解できていません)。API の第0.0版がつい先日(2004年6月2日付)公開されたばかり。まだまだ発展途上という感じですが、これからどんなプレイリスト(そして音楽)と出遭うことができるか、楽しみです。既存の音楽産業(上掲「Is it legal?」には、痛烈な皮肉をきかせた文面もみえる)から絡まれることなく、順調に育っていってくれるといいが、それも私のようなこのサイトの利用者と、想を凝らしてプレイリストを作ってくれる方々次第ということだろう。

Halloween, Alaska は実はミネソタ州のバンド

この Webjay を自分が知るきっかけになった Halloween, Alaska は、サイトでアルバムCDを直販している。バンド名検索で上位に出てきた「SPLENDID」(オンライン音楽批評マガジンとのこと)の2004年4月9日付レヴュウや、同じく「EMISSION: Music Reviews for the Rest of Us」(独立系ミュージシャンを中心に扱う音楽批評サイトのようだ)の2004年5月28日付レヴュウによれば、このバンドのメンバーはそれぞれ米国インディーズ音楽シーンで名前の通った人たちのようだ。私はこれらのレヴュウで挙げられている前身諸バンドについてはまったく知らない。

自分に思い当たるかぎりでは、醸し出す“空気感”や生楽器の音の落ち着いて印象的な使い方などから、英国の Comsat Angels(リンク先は同バンドのファン・サイト「Sleep No More」)のアルバム『Chasing Shadows』(1986)(Comsat Angels は実はこのアルバムしか聴いたことがない)を思い出した。この Halloween, Alaska のアルバムを買ってみようかと、いま真剣に悩んでいます。

お願い〕 誠に勝手ながら、2004年8月4日付で本サイトは新URLへ移転しました。本稿と全同のものを、移転先のこちらにて公開しています。新たにコメント・トラックバックなどをお寄せいただく場合、大変お手数ですが移転先にてお願いできれば幸甚です。

  
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May 30, 2004

歌詞を誤読する:Peter Gabriel "No Way Out"

Goldfish

  あなたのシャツの色がかぐろくなってゆく   肌が青ざめていくにつれて   あなたが金魚を高く掲げたさまを思い出す   ビニール袋の中をぐるぐる游ぐ金魚   ビニール袋の中でぐるぐる游ぐ金魚   お祭のまばゆい照明にかざして見ていた   あまり高く掲げすぎて   手を滑らせて落としてしまった   私たちはそこら中を探したのだった

Peter Gabriel "No Way Out" から

拙訳を掲げてみたが、これではこの曲の良さが台無しだ、と我ながら思う。原曲(とその歌詞、Up (2002) 所収)はこんな下手な訳詞から想像されるほどへなちょこではない。レヴュウの多くが指摘しているように、曲調や歌詞の内容が "Red Rain"So (1986) 所収)にそっくりであろうと、ひいてはアルバム全体がどこか常に過去の自身の音楽への自己模倣のにおいを発していて悲しくなろうと、この曲のこの箇所にさしかかると聴いていてひどく切なくなる。

Peter 本人のコメント

この曲について Peter 本人は、公式サイト内、Moon Club(要サイン・アップ)-->「video」で見ることができるインタヴュウ(2002年付。アルバム・リリース前のプロモーション素材のひとつと思われる)で、こんなことを言っている:

〔イントロの軽いディストーションがかかった短いギター・ソロに関して〕ずっと“サーフ・ギター”が好きだった。僕にとっては最も想像をかき立てるギター・サウンドのひとつだ。

この曲では Chris Hughes が SuperCollider というものでプログラムしたドラム・ループを使っている。“粒化”(? granulation)というテクニックを用いているんだけれど、音の塊をバラバラに細分化してしまうんだ。でも出来上がった音はすごくいい。Chris はいい仕事をしてくれたと思うよ。このリズムにはとても満足している。

ドラマーになり損ねた人間として、たぶん多くの人がご存じのとおり、僕は相当のリズム狂い、ドラム狂いといってもいい。たしかこの曲では4人がパーカッションに関わっている。Steve Gadd がブラシ、Manu Katche がドラム・キット、Dominic from Reef [= Dominic Greensmith?] がタム。Dominic を僕らはよく知っている、いつもここでリハーサルをしているからね、すごいドラマーだ。最後に、僕には頭のなかで聞こえている音がまだあったので、自分でタムを加えた。でもこうしたことすべてひっくるめて、創っていくのは楽しかったよ。

「Moon Club Preview Phase 1 - Preview 3 - No Way Out」での発言

1950年生まれの Peter は、もう50代半ばを迎えて髭も白い。以前来日した時に(あれは何のライヴだったか? 屋外会場で、多数の日本・外国のバンドと一緒に出た、たしか何かのアピールの催しだった)、バンド・メンバーのほぼ全員が長い金髪のかつらを被って登場し、1曲目の冒頭でいっせいにかつらを取って放り投げ、剃り上げた頭を出す、というお笑いパフォーマンスを披露して茶目っ気を見せていたのを思い出す。見た目からは年齢相応にずいぶんと落ち着いた感じを受けるけれど、あなたのヴォーカルの、高音域でシャウトする時のざらついた質感や、弱音でささやくように歌っても圧倒的な存在感は全然変わりませんね。

上掲インタヴュウに出る「SuperCollider」とは「SuperCollider: A real time audio synthesis programming language」のことなのでしょうか? ざっと眺めてみたのですがさっぱりわかりません(音声などのデジタル処理用言語? ご存じの方がいらしたらご教示いただければ幸甚です)。

Peter の公式サイトでは、これ以外にもさまざまなヴィデオや音が視聴できる(映像は要QuickTime)。内容も随時アップデイトされているようで、今年4月には2003年北米ツアーの模様を収めた Peter の娘さん Anna の監督によるドキュメンタリ映像(『Growing Up on Tour』と題してDVDで発売される(されている?)ようだ)のプレヴュウ素材も公開された。同ツアーで廻った会場ごとに撮られた、約2,3分の尺のコメント・クリップ(十数本あり)も見られる。熱心なファンはとっくにご承知のことと思うが、プロモーション素材の背景に流れる曲には、アルバム収録の最終形とミックスやテイクが微妙に異なっているものもある。こうして映像を見ていると、また来日して日本でライヴを見せてくれないだろうかと思うが(6月から約1カ月、英国・欧州ツアーが始まるようだ)……無理なのかな。

さて、以下は標記のネタに戻って、大好きなこの曲の歌詞をいかにとんでもなく誤読していたか、その恥ずかしい錯誤のありさまと、リリース後1年半以上経ってようやく正しい(?)解釈へたどり着いた顛末です。「続きを読む」に追い込みました。

本稿投稿の折、なぜか更新ping発信の際に前回拙稿が新規投稿として飛んだようです。めずらしく(自分にしては)頻繁に更新した報い(?)でしょうか。ご迷惑をおかけしました。

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Posted by moondial at 02:57Comments(0)TrackBack(0)