ファイナンス理論

2010年11月14日

キャッシュフロー計算のポイント


よくフリーキャッシュフローの計算時に、つまずいていた項目を整理します。

フリーキャッシュフロー(FCF)
=営業利益×(1−実効税率)+減価償却費−設備投資±運転資本の増減額


1.設備投資
設備投資の計算は当期に行った新規投資で、BSの当期の純固定資産−前期の純固定資産+当期の減価償却費で算出される。
※純固定資産=固定資産−減価償却累計額
IT時代により、有形資産の土地、建物、備品、工具、器具に対して、無形資産(ソフトウェア)の設備投資の比率が高まっている。

2.運転資本の増減額
WCの変化の計算ですが、(当期の流動資産ー流動負債)−(前期流動資産−流動負債)にて算出。この値が+であれば、運転資本が増加したので、キャッシュフローは減少するので、−運転資本の増額となり、この値が−であれば運転資本が減少したので、キャッシュフローは増加するので、+運転資本の減少額となる。なお、WCは売掛金の増加、在庫の増加、そして買掛金の減少による、増加する。
※さらに短借入を控除する場合もある。WC=流動資産−流動負債ー短期借入

FCFの最大化は、金融収支前経常利益の最大化は
・売掛金の早期回収
・棚卸資産の最小化
・買掛金の期間の長期化
・税金の最小化
・設備投資の選別
にて達成される。



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2010年10月17日

キャッシュフローいろいろ


ファイナンス、アカウンティングではキャッシュフローに様々な種類があるため、混同しがちになります。ここで、特徴をまとめてみました。

結論は正確性VS使いやすさ(計算が楽)で分けていると解釈しています。

正確性の順で並べると、
営業活動のキャッシュフロー>フリーキャッシュフロー>EBITDA

使いやすさ、実務上すばやく比較するときなど実用性の高さで並べると、
EBITDA>フリーキャッシュフロー>営業活動のキャッシュフロー

ファイナンスでのバリューエーションの計算に、フリーキャッシュフローが好まれるのは、営業活動のキャッシュフローほど正確だと、毎期の計算の不確実性が高まってしまう。一方EBITDAだと、正確性にかややかけすぎてしまうということでしょうか。あとは、フリーキャッシュフローでは、設備投資(CAPEX)は営業活動上欠かせない投資として、フリーキャッシュフローに反映した点も大きな違いです。企業のキャッシュフローの大きな変化要因を取った、フリーキャッシュフローを取るのが、折衷案的に手ごろと言うことでしょうか。
EBITDAは業務上バリューエーションの議論をするときに、簡易的なものとして、役に立つ。PEの投資、企業のM&A対象バリュエーション基準など。

以下、違いを、もう少し詳しく、見てみました。

1.EBITDA ( Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization)

EBITDA = Operating Income + Depreciation + Amortization
= EBIT + Depreciation + Amortization
= Net Income + Income Tax Expense + Interest Expense + Depreciation + Amortization
※ここでいうNet Incomeは特別損失利益加算前の経常利益と考えたほうが正確。基本はEBITDAの定義式に依存。

なぜ、EBITDAが当期純利益より、好まれるか?

1)営業活動をより強く表している
2)税金はルールによって、影響を受けるため、税引き後利益である当期純利益は本業の実態からかけ離れてしまう。支払う税金は、支払い金利が多ければ、つまり財務レバレッジが効いていれば、少なくなる。そして、当期純利益は下がる。
3)減価償却(有形・無形)は会計上の変更であって、実態ではキャッシュは減っていない。当期純利益は減価償却を反映。


2.Cash Flow from Operations

CF from Ops
= Net Income + Depreciation + Amortization - Chg in Non Cash Current Assets(Inventory, A/R) + Chg in Non Debt Current Liabilities(A/P, Deferred Revs)
= Net Income + Depreciation + Amortization - Chg Non Cash Working Capital

なぜ、EBITDA以外にキャッシュフローが使われるのか?


大きな違いは未収収益や運転資本の増減の変化を反映することで、より実態を表す。

1)未収収益(deferred revenue)
会計上の操作。実際には現金を契約時に手にしているが、実態としては契約が長期に渡るため、会計上はすぐには計上されない。例えば、アップルのiPhoneは2年契約をしても、1Q相当分(3/24)しか、売上には計上されないそうです。つまり、EBITDAや当期純利益には、この実態のキャッシュの流れは把握されていません。低く見積もられてしまいます。
前払費用、前受収益、未払費用、未収収益、繰延資産、貸倒引当金、退職給付引当金などは、実際のキャッシュと違う動きをするので調整する必要がある。

2)営業活動の効率化(Operation Efficiency)
例えば、在庫が膨らむ、売掛金が増えるのはその分キャッシュを使っているので、キャッシュフローの減少を意味します。これも、当期純利益、EBITDAに反映されていない点です。

大きな差の要因が上記ですが、その他、貸倒引当金の計上なども差になるので、営業活動によるキャッシュフローの計算書で勘定項目をチェックすると違いが鮮明になってきます。

http://www.kikuchikaikei.com/casyuhurow.htm

3.Free Cash Flow

会社が設けたお金は、取引先、従業員、政府(税金)と渡った後、資金の出し手に還元されます。資金の出し手は大きく、デットとエクイティに分かれます。
一定期間(通常一年)の事業活動により生まれ、債権者、株主に還元されるキャッシュをFree cash flow to firmと言い、以下で計算されます。

FCFF = NI + NCC + Int(1-T) - FCinv - WCinv. Net income

NI = Net income.
NCC= non cash charges such as depreciation and amortization.
Int(1-t) = after tax interest expense.
FCinv = change in fixed capital investments.
= change in gross PP&E or change in net pp&e + depreciation. Net pp&e + depreciation = gross PP&E
WCinv = change in working capital investments.
= AR + Inv - AP

債権者と株主へ還元できるキャッシュフローなので、当期純利益に金利コストを戻し、足します。

別式では、以下でも表せます。

・FCFF = EBIT(1-T) + NCC - FCinv - WCinv.

EBITは、税引前且つ金利コストを引いていないので、Int(1-T)を加算する必要はありません。

また、キャッシュフロー計算書の営業キャッシュフロー(CFO)を用いて、
・FCFF = CFO - FCinv + Int(1-t)
とも書けます。

ここでのCFO = Net Income+Depreciation+WCinv.

CFOは、減価償却、運転資本(wc)の変化を含んでいます。

続いて、債権者への還元(金利)支払った後の株主のみのキャッシュフローを考えます。

FCFE = FCFF +/- Net borrowing - Int(1-T)

債権者、株主へのキャッシュフローから、借入の増加分を引き(または減少分を足す)、金利コストも引きます。

FCFE = NI + NCC - FCinv - WCinv + net borrowingやFCFE = CFO + net borrowing - FCinv. でも計算されます。


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2010年04月22日

コーポレートファイナンス(7)〜Optimization of Capital Structure〜


デット、エクイティの最適化について。
銀行から借り入れを行う際の検討事項は、
調達コストが本業ビジネスのROAを上回るか。
5%で借入た資金をビジネスで4%でしか回せなければ、
逆ザヤの損失が生じる。この損失分は株主が受けることになる。
一方で5%で資金調達をして、ビジネス投資で8%稼げば、3%の利益が生まれる。(単純化のため税金はなしと仮定)その利益分は株主が恩恵を受けることになる。

一般的に、好景気の時はEBIT↑⇒ROA↑なので、デットコストを上回るリターンをビジネスで達成することが多くなる。そのリターンは株主に帰属するため、ROE↑となる。好況時はデット調達をすべきである。

一方、不景気になればEBIT↓⇒ROA↓なので、デットコストを上回るリターンをビジネスで達成することができなくなってくる。その損失は株主に帰属するため、ROE↓となる。不景気のときはデット調達は控えるべきである。不景気時のデットコストによる本業利益圧迫が強いと、倒産リスクが高くなる。

もし好景気、不景気を予測することができるなら、
不況⇒好況の転換期に安い金利で資金調達を行っておく。好況⇒不況の転換期に資金を返す。借入をしない。

典型的な身近な例として、リーマンショック前の不動産業界では、中堅の不動産デベロッパー、不動産流動化会社が高レバレッジ、つまり借入を起こして、高いROEを達成して成長を拡大していた。ところがリーマンショック後は不動産物件、証券の買い手がつかなくなり、EBITが下がり、デットコストを負担することができなくなり、一気に倒産ラッシュが置きました。高い給料に誘われて、転職した友人もおりましたが、もしキャピタルストラクチャーの理論がわかっていれば、高レバレッジ企業に行くこともなかったのでしょうか。

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2010年03月25日

コーポレートファイナンス(6)〜プロジェクト評価〜


プロジェクトを評価する手法として幾つか方法がある。
前提として期間(通常年間)のキャッシュフロー予測、割引率が与えられている。

1)Net Present Value(NPV)
2)The Payback Rule
3)The Discounted Payback
4)The Average Accounting Return
5)The Internal Rate of Return(IRR)
6)The Profitability Index

それぞれ、メリット、デメリットがあるが最も判断を誤らせないのが、NPVである。次がIRRである。

IRRのデメリットは、

・Mutually exclusive projects
・Non-conventional Cash Flows

の時は使用できないこと。

予算が限られているときに複数のプロジェクトのうち、どれか一つのプロジェクトを選択しなければいけない時(Mutually exclusive projects)にミスリードをしてしまう。下記例においては、IRRは低いが、NPVが高いプロジェクトAを選ぶべきというのがファイナンス理論の考え方。投資効率の概念より、リターン額を重視するようである。(後述PI欄参考)BではAより100、資金を使用していないため、機会損失という考え方もできるであろう。


ProjectA
初期投資: -500
Year 1 : 325
Year 2 : 325
IRR : 19.4%
NPV : 64,5

ProjectB
初期投資: -400
Year 1 : 325
Year 2 : 200
IRR : 22.2%
NPV : 60.7

また、プロジェクト期間中にマイナスキャッシュフローが存在する場合は(Non-conventional Cash Flows)、IRRが複数存在する。

例えば、

初期投資: 90,000
Year 1 : 132,000
Year 2 : 100,000
Year 3 :-150,000
R=15%

のプロジェクトのNPV=0にするIRRは、10.11%と42.66%と二つの解を得てしまう。10.11%<15%(R)なのでプロジェクトを拒否ということになるが、実際はNPVはプラスなのでプロジェクトに投資すべきである。これもIRR使用時の留意点である。

PIは投資に対してのリターン率を示す概念であり、プロジェクトに投資する余裕がある場合は、高いリターン率のみで判断するの危険である。極端な例えだが、予算が2億円でどちらか一方のプロジェクトを選ばなくてはならない。プロジェクトA:500万円の初期投資でPIが1.2、リターンは100万円。プロジェクトB:2億円の初期投資でPIが1.1、リターンは2,000万円。経営の判断として、投資効率を取るかリターン額を取るかの判断だ。プロジェクトとして効率の良い前者を取った場合、もし1億9,500万円の投資先が他に見つからない場合は、資金を眠らせていることになり、会社としては2億円の現金を持ちながら、100万円のリターンしか得られないことになってしまう。よって、PIだけでプロジェクト評価をするのもリスクがある。

The Payback Ruleは実際のビジネスではよく出てくる概念で、回収までに何年かかるかを意味するが、最大のデメリットは回収後のリスクについて触れていないこと。経営者は短期的な結果を株主から求められることが多い。だから、すぐに結果がでるプロジェクトを採用しがち。ここで問題となるのは、短期的に資金回収ができて利益がでても、中長期的に企業にとって損失をもたらすプロジェクト。その損失が出る頃には、CEOは報酬を貰ってその会社を去っていることが考えられる。これはアメリカ企業システムの負の側面であり、ドラッカー的経営アプローチでは否定されるところである。Ethical Finanaceの観点では、The Payback Ruleに留意すべきである。




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2010年03月04日

コーポレートファイナンス(5)〜ファインスは数学と芸術であり、また人生でもある〜

Finance=Math+Artである。Fiananceは人生であると、よくBinay教授は言っております。だんだんとその意味がわっかってきたので、書いてみます。

1.Finance=Math+Art
現在価値の計算の際に必要な要素は、期間、キャッシュフローの予測値、ディスカウント率です。後は様々な条件の組み合わせで、数学的に解いていく。ところでこの三要素のうち、ディスカウント率の決定がいささいか理論的ではない。なぜなら、類似企業の選定にはある程度のセンスが入るからである。類似商品、同程度の資産規模、売上規模の企業を選定しても、算出者の恣意性が入る。(将来キャッシュフローはファイナンスの世界では所与のものであるが、作成者(企業等)の信憑性を考えることから、この要素もアートと個人的には思う。)だから、ファインスは数学と芸術で構成されている。

2.Finance=life
ファインスの世界ではアセットそのものは評価せず、アセットが生む将来キャッシュフローを基に意志決定を行う。将来キャッシュフローの現在価値が、投資額より大きければ投資を実行する。少なければ投資はしない。人生で言うならば、過去の積んで来た経験(アセット)が生む将来のリターン(価値)の合計が、投資額を上回る公算があれば、実行をすべきであり、下回るのであれば控えるべきである。

MBA留学への投資が、今後の人生の価値を投資額以上に高める公算が本当にあるべきか再度考えさせられます。将来キャッシュフローの作成者である私がその信憑性(アート)を高めなければならない。






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