2006年06月

雨の夜

誰といても寂しい時があります。むしろ大勢でいるほど孤独が募る。
なんだか置いてきぼりにされたような、いいようのない悲しい気持ち。
小さい頃から内向的で、孤独感に憑かれやすい子供だったので、「ああ私は独りきりだなあ」という感情とは、幼馴染みのような間柄です。
歳を喰って、少し鈍感になったせいか、寂寥にやられる頻度も随分少なくはなりましたが、それでも時々、訪ねてくることはあるのです。
たいていは心が消耗している時なので、できれば御遠慮願いたいのですが、来てしまったうえは追い返すわけにもいかず、しばらくは側に置く羽目になります。
ひとりぼっちの寂しさ辛さ。どの環にも入れない、という被害妄想混じりの疎外感。

外は雨です。

こんな日は、あの招かれざる幼馴染みがふいをついて訪ねてきそうで、ちょっと憂鬱なのです。

死なない会社

萩原朔太郎の作品に「死なない蛸」という短い詩があります。
餌を忘れられた水族館の蛸が、餓えを凌ぐために自分の足を一本づつ食い、やがて表皮も内臓も全て食い付くして消滅してしまいます。
でも蛸は、死んだわけではありません。
「ある物すごい欠乏と不満をもつた、人の目に見えない動物」として、永遠に水槽の中で生きているのです。

入ってから知ったことですが、私の居る会社は人の入れ替わりが極めて激しいのです。
辞めて行く人、辞めさせられた人、辞めざるを得なくなった人。6年前には、スタッフが総入れ替えになっています。

業績が不振になれば、会社は人件費がまず負担になります。自分の足を食う蛸のように、そこから手を付けはじめるのです。
足を失った蛸は餌を捕ることが不自由になり、ますます飢えます。そうなるともう、我が身を食うより他に手段がなくなるのです。

そうやって、人材を犠牲にして、会社はかろうじて残ります。例え全てのスタッフが食い尽くされ消えてしまっても、「ある物すごい欠乏と不満をもつた」姿の見えない孤独な幽霊として、現世にしがみつくのです。それが「法人」です。
代表取締役とは、その「霊」の依り代に過ぎません。

6月20日火曜日のやるせない出来事

本日付けを以て退職する(というよりさせられる)デザイナーT君と、最後の昼餐。
「これからお互いどうすんのよ」
といきつけの中華料理屋でしばし語り合いました。
もちろん彼は、明日から本腰を入れて就職活動。
そして私は、就業しながらも転職活動。
共通する思いは、こんな会社に自分の人生を預けてはいけない、という怒り。

T君を解雇するにあたって会社が行ったのは、パワーハラスメントによる精神的な追い込み(例のADの、「もう辞めてまえ!」という怒声を私は何度も耳にした)。
そして給与の大幅な減額提示(ただでさえ薄給なのに、弊社に残った場合の条件としてその30%減を提示されたらしい)。
屈辱的な処遇が、彼のプライドを引き裂かなかったわけがありません。
それでも退職日を迎え、どこか晴々とした表情のT君。
明日からの不安はあるものの、理不尽な処遇から解放された安堵のほうが、きっと今は勝っているのでしょう。
「おめでとう。良かったやんか脱出できて」
慰めではなく、心の底からの言葉。

午後6時。定時を迎え、社内の方々に挨拶をして廻るT君。儀礼的な会話が手短に交わされ、白々とした空気がが流れる中を、彼は去って行きました。
その後何ごとも、本当に何ごともなかったかのように、彼という人間が、初めから存在しなかったかのように業務は粛々と続けられ、私はその雰囲気に耐えきれず、その30分後に退社しました。
やりきれないとは、こういう気持ちをいうのでしょう。

モラトリアンの危機

「坂道を転がるように」という慣用表現がありますが、それほどの体感速度ではないものの、そうか「転落」とはこういうことか、という実感が、ここ数カ月じわりと差し迫り、背筋がぶるっと来るのです。
私は恐らくペシミストを気取ったオプティミストです。表層でどんなに己の過去や未来を悲観的に語っても、その実心の奥で、人生は「ケ・セラ・セラ」と、無邪気に信じて生きてきた、お目出度い男です。
「なんとかなる」という根拠は「今までなんとかなってきたから」という、あまりにもナイーブな信仰。
「なんとかならないかも」という現実の兆しを前にすれば、無根拠な楽観主義は、たちまちその脆弱さを露呈し始めます。
私は今、その儚いオプティミズムを、それでも守るべきか、破棄して別の現実認識を獲得するべきか、という岐路に立っています。
何ももったいぶった言い回しをする必要はありません。「大人になるか、ならないか」。その選択を迫られている。それだけのことです。

酷い話

「独りじゃ持てないから、片側を持ってよ」
そう素直に言えばいいのにね。
「独りでももちろん持てる。しかし片側を持つのは君の役目だから君、持ちたまえ」
どうしてそんな風に、虚勢を張るのかな。
嘘の上に嘘を積み上げないと支えられないような会社なら、
潔くたたんでしまえばいいのにね。

突然の面談。私に対する評価。給与提示。総毛立つようなキレイゴトの数々。茶番劇。
それで? 面接時に私が提示した金額はどこへ消えてしまったんですか?
その条件で納得したから、私を雇用したんじゃなかったんですか。

盟友T君が20日で退社する。有り体に言えば肩たたき。
どうしてそんな風に、社員をモノみたいに扱えるのかな。

代わりのデザイナーが7月に入ってくる。
ああまたきっと彼にも、上っ面だけの美辞麗句を並べ立てたんだろうな。
必ず後で言い訳できるような、こざかしい準備だけは怠らず。

T君は去り、給与額は約束と大幅に違う。
この会社に居る必然性が、本当に無くなってしまった。












ムーンライダーズ

今年で結成30年。
てことを今月のミュージックマガジンの表紙で知りました。
私が小学校低学年の頃にデビューしたバンドが、
今も現役で歌ってる。
演歌じゃなく、ロックの世界で勤続30年。
これってなんだか、スゴイことのような気がします。
だって、ロックンロールに老成は許されないから。
現役である限りは、バリバリの20代とも同じ土俵で歌わなければならない。

私は今、20代のコピーライターと、同じステージで勝負できるだろうか。

リアル

この世のモノを、EPS画像やシンプルテキストに置き換えているうちに、いつの間にか、手触りや温度や匂いや音のことを忘れてしまっているような気がします。
つるつるでのっぺりしたチラシみたいな感性で、この世を把握した気になっている。
それで不便は無いし、全てがこと足りている、そんな思い違いが、もうすっかり日常化していて。
だから、ごくたまに、その不感症が解けて、身の回りのモノやコトが生々しいカタマリに戻った時に、むしろ圧倒され、戸惑いを覚えてしまうことすらあるのです。
受け止めきれないことがあるのです。

ツバメ

少し前から、最寄り駅の屋根の下に、ツバメが巣を作っています。
私は毎年、この光景を好もしく見ています。
親鳥がエサを子供に運ぶ、その様子も微笑ましいのですが、
去年の巣を残しておいたり、巣作りしやすいように板を置いたりする、
駅の方(確かめてはいませんがきっとそうですよね)の心配りが、
なんだか嬉しいのです。
ことツバメに対しては、阪急もJRも等しく温かいように感じます。
そらぞらしいスローガンをかかげるよりも、
ずっと鉄道会社のイメージ向上に結びついている。
狙ってるわけじゃないからいいのです。
もしも狙ってたら、計算づくだったら、ちょっと恐いけど。

切るんじゃなかった。

気分を変えようと髪を思いきって短くしました。
でも、なんだか描いていたイメージと違う。
なんだろう、 カリアゲ具合が、なんか80年代っぽいというか。
ブロスカット?
そういえば私が社会人デビューした頃、こんな髪型でアロハ着て、みたいな人がコマーシャル業界とかにたくさんいたような気が。
なんにせよ、ビミョーに今の空気と趣を異にした出来ばえで、どこか時代錯誤。

まあヘアスタイルにこだわる年齢でもないし、むしろオヤジらしくていいじゃないか、と無理矢理な解釈を試みるも。
いやっぱりよくない。いやだな。かっこ悪いな。

いやいや、髪型なんかをヘンに気にするそのことのほうが、むしろかっこ悪いよな。
さらに言うなら、髪型云々以前に、ここ最近の私の生きざま自体が、もうどうしようもないくらいかっこ悪いじゃないか。

とこんな具合で、気分を軽くしようと思って切ったのに、かえって重くなってしまったのでした。

少なくとも一ヶ月くらいは、このヘアスタイルとつきあわなければならないのかと思うと。

はぁ。

初めてパーマをあてて失敗した女の子の気分。「もう明日から学校に行けない!」みたいな。

はぁ。

しかし髪型くらいでこんなに気持ちにダメージ受けるのは我ながら困ったものですね。

それにしても。

はぁ。

ため息が多いな。

はぁ。

トレード希望

グラフィックデザイナーの求人はいっぱいあるいのに
コピーライターの求人が壊滅状態なのはなぜなんでしょう。

ちなみに私は今や「元」コピーライターです。
近頃広告文案なんて書いてませんから。
来る日も来る日も企画書ざんまいの日々。
コピーは書き続けないと書けなくなります。
フォームを忘れてしまうのです。

二軍で鍛え直したい。

あ、その前に移籍したい。




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ジュンク堂とタワーレコードのおかげでかろうじて生きてる40age下流層コピーライター。脱モラトリアムはとっくに断念。水森亜土が目標です。








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