森の舟

ミステリ感想・古本購入録をつらつらと書いていきます



 先日、「ミステリ以外って全然読まないんだよねぇ」と言ったら、大学の友人が「じゃあ、これを読んでみなよ」と言って一冊の本を貸してくれました。それがこの『O・ヘンリ短編集()』です。

 人から借りる本というのは、時に思いがけない形で視野を広げてくれたりします。それが、普段は読まないジャンルだったりするとそういったことは尚更、起こりうるのです。

 実際、今回借りた本も、思いがけずわたしの視野を広げてくれました。最初はO・ヘンリなんて「賢者の贈り物」くらいしか知らなかったし、もっと言うと読む気もさらさらなかったのです。でも、今回この短編集を読んでみたことによって、もっとO・ヘンリの作品を読んでみたい! となりました。

 

 だって、これ、ミステリなんだもの!(貸してくれた子、本当にごめんなさい)
 

 例えば、一作目の「警官と賛美歌」。寒い冬を越えるための策として、刑務所へ行こうと画策するホームレスが、わざと警官の目につくように軽犯罪を犯していく話です。これだけだと、ミステリなのか? と言う感じですが、オチが素晴らしい。DE・ウェストレイク並みにキレたオチが最後に待っているのです。

 二作目、「赤い酋長の身代金」。二人の男がある金持ちの息子を誘拐する(もうこれだけでもミステリでしょ?)が、誘拐した子供は、とんでもなくわがままで、度し難い悪ガキだった、と言う話。これもユーモアが抜群に効いている素晴らしい短編で、これまたラストがいい。

 三作目、「振り子」はミステリではないものの、個人的にはこの短編集ではベスト3に入れたい秀作。何年もの結婚生活において妻に依存し続けていた男が、妻が出ていった時に自分のやってきたことを反省し、改心するように決意する。そこに妻が帰ってきて……。下手な叙述トリックものの作品よりもインパクトのある最後の一文には必笑。

 まだまだ行きましょう、四作目、「緑の扉」。これはもう、紛うことなきミステリでしょう! 歯科医が配っていたチラシを何気なく受け取った主人公。何気なくその裏を見るとそこには「緑の扉」と書かれていた。どうも彼のチラシだけに書かれていたようだ。冒険心を駆り立てられた彼は、緑の扉の部屋へと飛び込む……なんて言う話は、今で言う日常の謎系のミステリに他ならず、冒険心を駆り立てられる主人公と同様、読んでいるわたし達の心もワクワクさせてくれます。何よりも構成がとてもミステリ的。つまり、謎の提示→調査→解決といった型がそのまま使われている作品です。

 その他にも親切心がとんでもない結末を招く「善女のパン」、刑期を終えた金庫破りが余罪の追求から逃れようとするが……という「よみがえった改心」などなど、ミステリ「的」な作品は多く収録されていました。

 ただ、ミステリ云々を抜きにしても、これらの作品はものすごく面白く、小洒落たユーモアとキレのあるプロットを読みたい方には大いにお勧めできる作品集です。

 よく考えたら、河出文庫から『O・ヘンリー・ミステリー傑作選』なる本が出ていたし、今更わたしが言うまでもないですね。そういえば、エラリー・クイーンの『ミニ・ミステリ傑作選』にも短編が採られていますし、やっぱりO・ヘンリはミステリ作家なんじゃないか!


 
ミニ・ミステリ傑作選 (創元推理文庫 104-24)
エラリー・クイーン
東京創元社
1975-10-22

 

 

 O・ヘンリはミステリ作家だと結論が出たので、それはいいとして(いいのか?)、考えてみると純文作家と言われる人たちでもミステリを書いている人はいて、それをまとめた本があったな、と思い出すわけです。

 河出文庫の『文豪ミステリー傑作選』に採られている作家は、ゴリゴリの文豪だらけです。漱石、鴎外、芥川、谷崎、鏡花、川端、太宰に三島。この名だたる文豪たちは皆、ミステリを書いているのです。実際、ミステリとしての出来がいいのかどうかと言われると、物による、としか言えないのですが、どれもちゃんとミステリをしています。個人的には三島由紀夫なんてすごくミステリ「的」な作家だと思うのですが、どうでしょうか?




 三島由紀夫といえば、昔教科書で読んだ「美神」なんて完全にミステリでしたよ。

 美神の像の高さを高く偽って学会に報告したR博士。しかし、後続の論文は全てR博士が測った高さと同じ高さで報告されていた。死の間際、R博士はN博士に美神像の高さを測らせる。その結果は、なんと偽って報告した高さちょうどだった。何度計り直しても同じ高さになってしまう。R博士は怨嗟の目で像を睨むと「裏切りおったな!」といって死んでいく……。R博士の死に顔はあまりに恐ろしいものだった。

 どうでしょう? ミステリじゃないですか? ミステリってことにしましょう。




 

 

 悲しいかな、何にでもミステリ味を見出してしまうのはミステリオタの性なのでしょうね。だけれども、結局物語の基本的な型というのは、提示された謎を追う、といったものになるのですから、よくできた物語はミステリ「的」なものになってしまうのでしょう。

 ミステリと喧伝されていなくても、実はミステリだった、という小説がこの世にはたくさん埋もれているのではないでしょうか。まだ見ぬミステリを求めて、今日の記事はここまでにいたします。

「炎の結晶」霜月信二郎(幻影城 No.27/甦る幻影城I)


 

 

あらすじ
 

 とある年の7月。銀座の画廊で常滑焼の個展が開かれていた。今は亡き江河嵩清の遺作展である。個展の支配人は井上可奈子という、かつて嵩清と愛し合った女だ。そこへ訪れた主人公の南雲は、嵩清の作品を見ているうちに、6年前の事件を思い出し始める。可奈子が犯人だと疑われた、4人もの犠牲者を出した事件を……。

 

 

感想

 

 霜月信二郎と言って「ああ、あの人か」となるのは、よっぽどのミステリマニアか、わたしの知り合いくらいだとは思うのだけれど、わたしとしてはどうしてもこの作家を埋もれさせたくないので、しばらく彼の作品(言っても6作しかない)のレビューが続く……かもしれません。

 さて、やはり霜月信二郎作品のレビューを始めるからには、『幻影城 第二回新人賞』に応募された、デビュー作であるこの作品から始めなければならないでしょう。

 霜月信二郎は、かなりレベルの高い本格ミステリを書く作家で、どの話でもがっつりと謎解きを入れてくる作家なのですが、デビュー作からその特徴は如実に現れています。「ハネムーン殺人事件」(名前がダサい!)の犯人として疑われた可奈子が嵩清の元へ逃げ込み、そしてやがて愛し合うようになる、という少し文学的な雰囲気を漂わせるような話が大筋にあるのですが、しかし、それとは御構い無しに、解決編では何ページにも渡る謎解きを行なって行くのです。

 これは『幻影城 新人賞』の選評にあったことなのですが、短編ながらも4人も人が死に、そのそれぞれにトリックが使われているので、まとめきれなくなっている印象を受ける、という指摘はもっともだと思います。というのも、さっき書いた通り、解決編では長い長い謎解きがあるのですが、どうもそれが、せっかく綺麗にまとまっていた物語に水を差すような形になっている感じになっているというのが否めないからです。

 しかしながら、短編の出来として落ちる、ということはなく、むしろ壮絶な真犯人の最期と、余韻が残る物語のラストを大いに評価するのならば、かなり良い短編だと言ってもいいんじゃないだろうか、と思います。特にラストの可奈子のセリフには、他の欠点なんてもうどうでもいいじゃないか、と思わせてくれるほどの印象を残します。

 余談ながら、この年の新人賞はあまり芳しくなかったようで、中島河太郎や権田萬治、中井英夫などと言ったそうそうたるメンツが口を揃えて「今年はダメだった」と言っているのを見ると、相当なものだったのだと思います。けれども、中井英夫が「そんな詰まらぬ動機で殺人が始まるものか」というのはどうなんだろう……。

 閑話休題。

 そういったわけで、この作品も応募当時はそこまで高評価をえたわけではなかったのですが、今となって同時受賞した他の2作、『殺人・弥三郎節』(加藤公彦)、『阻まれた死』(辻蟻郎)と比べて見ても、『炎の結晶』が頭一つ抜けているように感じます。事実、『甦る幻影城Ⅰ』に採られたのは霜月信二郎のみで、その他採られた作家を見てみても、泡坂妻夫に連城三紀彦、そして田中芳樹と、錚々たるメンツに肩を並べています。

 座談会でボコボコに言われたことが身に染みたのでしょうか、これより先の短編では、無茶なことをせず、まとまりのあるいい短編を書く作家になりました。特に個人的にオススメしているのが「密室のショパン」と「黄金の小指」。どちらも子気味良い短編なのですが、その話は、またいずれ。

 とりあえず今日は霜月信二郎の名前だけでも覚えて帰ってくださいね。

 三日坊主にはならなかったものの、ブログの毎日更新は2週間ほどで途絶えてしまった。やっぱり、書評(というか本の紹介)という名目で毎日更新するのは難しいなぁと痛感してしまいました。
 でも、世の中には『松岡正剛の千夜千冊』のように、千日間、毎日レベルの高く読み応えのある書評を書いているサイトもあったりして、やろうと思ったらできないこともないのかなぁとも思いつつも、向こうはプロ、こっちはズブのド素人、最初から到底敵う相手では無かったのだと思い直したりしてます。
 余談にはなりますが、『松岡正剛の千夜千冊』はいいサイトなんですよ。一つ一つの書評が面白く、またその書評の中の一言にハイパーリンクされていて、そこからサイト内のまた別の書評に飛べるのです。書評から書評に移っていくだけで、無限に時間を溶かすことができます。 
 というわけで今日は古本購入の話。
 神田神保町の秋の古本祭りが始まりましたが、その前に行われていた@ワンダーの半額セールでの買い物+αです。火曜日からスタートだったのですが、たまたま大学の授業が休講で、朝一で突撃することが出来ました。
 11時開店だったのに、10時半に着いてしまったのですが、そんな時間でも店の周りにはもう人がちらほら。わたしが言うのもなんですが、みんな暇なのかな? 結局、11時になって開店したあと、待ち合わせしていた人と合流し、そこから棚を眺め始めました。
  ポケミス棚がなかなかに充実していて、画像のポケミスは全部そこで買ったものです。悪党パーカーものが二冊も買えたのは僥倖でしたね。そのほかにも、刑事くずれ、ボアナル、『兵士の館』と、割合いい買い物ができたのではないでしょうか。半額ですしね。(ちなみに『緑は危険』は文庫で持っていたことを忘れてダブらせてしまいました)
 文庫棚で見つけた中で個人的に一番嬉しかったのは、矢作俊彦の『マンハッタン・オプ』三冊揃い。読みたかったんですよね。そして、読んでみたら実際にとても良かった。(後日感想をあげたいと思っています)
 そんなホクホクの収穫とともに、水道橋の方へ歩く途中で、店外書棚の100円本で『霧の悲劇』を出している店を発見。もちろん購入。皆川博子もしっかりと読んでいきたい作家です。
 その後、古書いろどりを覗きに行こうとするも、折り悪く開店しておらず……。仕方ないのでもう一度@ワンダーに戻り、少し気になっていたミステリマガジンを購入。「コリアン・ミステリ・ナウ」という文字列にやられましたね。
 韓国ミステリってほとんど聞いたことがなくて、読んだことも当然なかったんです。 それだから、少し手にとって読んでみようかなぁと。近々、『星をかすめる風』、という韓国ミステリが邦訳される予定でしたが、どうも出版社の都合で刊行中止になったらしいです。少し気になっていただけに残念で、その代わり、と言ってはなんですが、韓国ミステリ特集をしているミステリマガジンで済ませよう、というわけなのです。こちらも、最初の一編である「その夜は長かった」(李秀光)だけ読んでみましたが、これがなかなかに面白い。妻に裏切られ殺された男が幽霊となって、浮気する妻とその愛人を観察するというミステリなのですが、オチがいい。小粒ながらも、よくできた作品です。まだ読んではいないのですが、「精神病を引き起こす脱毛剤」(白)も魅力的なタイトルです。 
  そんなわけで、今回の古本購入は個人的には満足できました。しかし、10〜11月にかけての古本市と言えば神保町の秋の古本祭りがメインです。もちろん、そちらにも足を運んでいます。その時の収穫は、また、記事のネタに困った時に……。
 それと、今日から少し忙しくなってしまうので、2,3日ブログの更新が滞ってしまうかと思います。結局、毎日更新は三日坊主になった気もしますが、申し訳ございません。

購入本リスト
『強盗プロフェッショナル』D・E・ウエストレイク
『兵士の館』アンドリュウ・ガーヴ
『わたしの愛した悪女』パトリック・クェンティン
『刑事くずれ/牡牛座の凶運』タッカー・コウ
『刑事くずれ/最後の依頼人』タッカー・コウ
『悪党パーカー/殺戮の月』リチャード・スターク
『悪党パーカー/裏切りのコイン』リチャード・スターク 
『島』ボアロー、ナルスジャック
『死はいった、おそらく……』ボアロー、ナルスジャック
『嫉妬』ボアロー、ナルスジャック
『ちゃっかり女』ボアロー、ナルスジャック
『緑は危険』クリスチアナ・ブランド
『墓標なき墓場』高城高
『一千万人誘拐計画』西村京太郎
『霧の悲劇』皆川博子
『蘇った死顔』矢作俊彦
『笑う銃口』矢作俊彦
『はやらない殺意』矢作俊彦 

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