「森の工房オープン編」

 

さあ土地を買ったはいいが借り入れが受けられずに建物の青写真が宙に浮いてしまうという事態・・・。

親子の縁を切ってまで踏み出して後戻りなどできるはずが無い私達は、無謀にも300万余の運転資金用のお金で何としても建物を建てるべく奔走するのだった。

ゴールデンウィークまでにはどうしても引っ越してオープンさせなければ・・・車一台分程度のお金で何ができるか?安い建物=プレハブ、プレハブの中でも最も安いもの・・・究極の選択は本体坪単価5.5万円の32坪という建物で、要するに土木工事の現場事務所である。かろうじて雨風がしのげるという程度の建物に8坪の店舗、6坪の事務所、12坪の工房、6坪の自宅を無理矢理押し込めるというもの。機械や材料が全部入るのだろうかと不安はつきないもののこれ以上は予算が許さないのでこの際「あれば便利」は「無くてもいい」ということにしよう。

いくら予算が無いといっても標準の青い屋根のままというのは観光地だからというより美的センスが許さない?のでこげ茶色にオーダーし、名だたる強風地帯ゆえ風対策で強度をアップ、という程度のことは止むを得ないだろう。

申し訳程度に店舗用のサッシを入れ、入口両側に板を張って看板をかけ、自分で切り抜いた「森の工房」という文字を貼り付けとりあえず店らしくはしてみたが、夢に描いたものとは大違いのみじめでみすぼらしい建物がだだっ広い畑にぽつんと建ったわけである。こんなものにお客さんがくるのだろうかと不安だけが大きく広がるのだが、何ともいたしかたないことだった。

そして建物が完成するかしないかの内に無理やり引越しを強行する。もちろん業者を頼むほどの予算も荷物も無いのでドゥーイットユアセルフである。レンタルで借りた4トントラックの運転もユニック(クレーン)の操作も初めてでもまあやればできるもので機械、材木からわずかな家財道具も数人の友人に手伝ってもらって数回の往復で完了。引越し費用5万円也・・・ユニックのワイヤーを切ってしまって余計な出費があったのだけれど・・・。

今日からここで暮らすんだ!という私達に驚きを隠せないのはまだ工事中の業者さんと手伝いの友人だった。あまりにも殺風景でとても人が住めるようには思えないのももっともだった。

基礎工事、電気工事、駐車場の砂利敷きなどを含めるともう手元にはほとんど何も残らない状態。井戸はもともと掘ってあったものの水道工事まで予算が回らず、台所に流しはあっても給水も排水もつながっていない。もちろん風呂もなし、トイレは工房で使っていた汲み取り式の仮設トイレのみという次第。屋外の井戸のそばに流しと洗濯機があって、食事の支度はカセットコンロとホットプレートを使い、お風呂は岳温泉の公衆浴場に通うという、要するにまあ毎日キャンプのような生活というわけである。

子供を背負いながら外の流しで食器を洗い、洗濯機を回す姿は周囲の人にはどれほど奇異に映ったことか・・・まあ本人たちは至ってまじめで不自由な生活もまあ楽しいじゃないか!などとのたまっていたのだが。

 いや楽しむより先に店をオープンさせなければ・・・。仕入れるお金も無いので取引先を拝み倒して商品を後払いで借りたりしたわずかな仕入れ品とオリジナルの商品を集めてとりあえず体裁は整えたものの、立地はC級、店構えは貧弱、グリーンピア二本松という施設があるにはあるがそれほど多くの入場者がある風でもない。どう見積もってもここで採算が取れるほどの商売は見込めない。まあいいさ、いくら少ないとはいっても三春の工房よりは人は来るだろう。子供を見ながら畑でもつくって商品を卸売りすれば何とかなるだろう。何より家族3人水入らずで暮らせるのだから欲を出す必要は無い・・・なんて自分に言い聞かせながら。


そんなわけで1993年4月28日「森の工房」は誕生したのである。折りしも当時はバブルが崩壊し景気が一番良くないと言われた時期。最低の時に始まれば後は上がるだけさ・・・なんてね。


つづく
クラフトは薄
オープン当時の森の工房


オーナー 橋本和吉