風花誕生編

 時間は経っても相変わらず完成しない自宅。その自宅を指さして「あの建物はなあに?」と言ってきたのは岳温泉のホテルのおかみだった。「自宅です」と答えると「あらもったいないわね、私なら喫茶にでもするのに・・・」とのたまったのだ。

確かにお客さんから見て一番目に入る、一番立派そうな?建物が自宅というのは誰が見てもおかしい。痛いところを突かれたと私は思ったが「それなら喫茶にしてしまおう」と考えてしまったのが広子さんである。

せっかく作った自宅をと思うと何だが、外装も内装もそれなりにこだわっていてそういじらなくても店になりそうではあった。まあそういうのも悪くは無いかと私も乗ってしまって、工事中に目的変更となった。狭くとも暮らせないことはないさと、一階の風呂を除くすべてを二階に詰め込み、苦労して作った間仕切壁を取り外し床板や壁を補修、出入り口などの工事を除いてほぼ自分で施工。商売になると思えばスピードはかなり違うのだから現金なものである。工房で作ったテーブルとイスを設置すれば何とか喫茶店のようにはなった。最低限の厨房設備を入れ冷凍のケーキや食材を使って2002年春にオープンさせたのが「風花」である。

メニューはドリンクと既製品の冷凍ケーキ、冷凍やレトルトの食材を組み合わせた軽食。森の工房に寄ったお客さんにお茶を飲んで行ってもらう、というだけの目的だった。

名前は子供二人の名前から一文字づつとった。どうせ田舎者がやるのだからと横文字の難しい名前よりやさしく覚えやすい名前を選んだ。「どうせそんなにお客さんは来ないよ」そう言って始まった当初は広子さんが切り盛りしていたのだが、あまりのお客さんの多さに悲鳴を上げて私が担当する羽目になってしまった。その後もお客さんは増え続け「何でこんなところでコーヒーを飲んでいくの?」というほどの潜在需要があったことに驚いてしまった。

木工の工房との二足のわらじはなかなか大変でアルバイトを入れてしのいだが、お客さんが多くなると冷凍のケーキでも申し訳ないと生来のこだわり性が頭を持ち上げて来た。既製品ではない何か特徴のあるオリジナルのものを提供できないか?などとバカなことを考え始めたのだ。


つづく