木工職人のチーズケーキ


 そういうわけで素人なりに工夫しながら「カフェ」として営業をして1年半ほど過ぎた頃、お客様が思ったよりも多いことに気を良くして「もっとカフェでお客様を呼べないか」などと余計なことを考えるようになってしまった。それには何かここだけの「名物」を作らなければならない、という結論に至った。ステーキ?ピザ?ケーキ?などと候補をあげていろんな店の視察を繰り返した結果、「チーズケーキ」というのがロケーション的にも似合いそうだし持帰る事が出来ることで売上を伸ばせる可能性が高いのではということで結論を出した。まあ私はうまいものも料理も大好きだし、ケーキを作ったことだって一度や二度ではないからやってやれない事は無いだろう・・・。そんな安易な発想の下このプロジェクトはスタートした。

 さっそく有名無名のケーキ店やチーズケーキ店を食べ歩き、遠方の有名店は通販で取り寄せて味見を重ねた。しかしその結果、どういうわけか「・・・まずい」というものが大部分だったのが驚きだった。もっとも私はチーズ嫌いでチーズケーキもチーズの強いものほど苦手だったというどうしようもない原因はあるのだが、好みはあるにしてもこんなまずいものが有名店で売られているというのはちょっとショックだった。自分の舌を絶対視するわけではないがもう少し一般的な「おいしさ」が必要なのではと思えてならなかった。もちろん数は少ないがおいしい部類に入るものもあってそれを超える事が目標になった。

 試食と並行して試作も始めた。手に入る限りのレシピ本を集め片っ端から作ってみる事にした。チーズケーキを作るのは初めてである。主に使うのがクリームチーズと呼ばれる非熟成のフレッシュチーズであることももちろん初めて知った。そのクリームチーズもスーパーで手に入るものだけで数種類あり全て味が違う。材料とレシピの組合せでとんでもない数に上る試作は想像を超えた大変さだった。

 素人が始めるからと言って妥協するつもりは最初からなかった。納得のいかない物は出す意味が無い。それは根っからの凝り性という性格、木工で養った職人気質でもあったのかもしれない。良いものを追求する心地良さは木工でもケーキ作りでも変わらないものがあると私は思っている。もちろんそれは試作段階の困難さも示していて、砂糖の量を少し変えるだけで味が変わってくるケーキの世界は木工よりも手ごわかったかもしれない。

 数か月に渡る試作でレシピが絞り込まれるとオリジナリティーを加える段階になる。出来合いのレシピで満足しないのはこだわりなのかへそ曲がりなのかはわからない。より納得がいくものへとレシピ同士の組み合わせやレシピに無い材料を加えたりして行くのだ。そこは怖いもの知らずの素人、これとこれは組合せないとかいう常識が全くないことが結果的に良い方向に繋がっていった。そうして出来あがった現在のレシピはどこの本にも無いオリジナルになっている。

 試食の段階でNO1と位置付けたケーキを超える満足のいく味に仕上がったオリジナルチーズケーキ。果たして売れるのか?

 つづく