訪問ありがとうございます。

この記事の内容は地裁におけるものであり、本事件は高裁で逆転被告会社が敗訴しています。その点、十分にご理解の上、下記の内容をお読みください。


結果的には、損害賠償額こそ35万円と、決して高額とはいえない額でしたが、育児休業後の時短勤務の労働条件に関する裁判例という意味では、実務的にも大きな意義がある判決ではないかと思い、取り上げることにしました。

本事件は、育児休業終了後時短勤務の申し出て復帰した従業員(原告)について、雇い主であるコナミデジタルエンタテインメント(被告)が配置転換を行い、かつ、転換後の職務に基づくグレードの引き下げとそれに伴う賃金減額、企画業務型裁量労働制の適用解除措置等の違法性を訴えたものです。

これだけを聞くと、なにやら被告が悪者みたいに思えるのですが、しかし事実内容を確認すれば、どうもそういうことではないらしいということがよくわかります。むしろ、被告会社の制度・運用は参考になります。

まず、配置転換について説明します。

原告は、元々(産休以前)は、海外サッカーチームのライセンス業務を担当していました(某有名サッカーゲームなんですけど)が、復帰後には、国内ライセンス業務に配置させられます。

この点について、裁判所は、被告の育休規程を根拠に、被告会社は、「各規定に基づき、その人事権の行使として、業務上必要がある場合には、配置転換ないしそれに準ずる担当業務の変更を行う権限を有するものと解される」と会社の広範な人事権を認めた上で、次のように判断しました。すなわち、1)「被告側担当者が頻繁に変更することについてクレームを受け、これに対して被告側担当者を固定する必要があったこと」、2)時短勤務の申出をしていたことから「海外サッカーライセンス業務に戻すことは、業務遂行の観点からも、困難な状況にあった」こと、3)国内ライセンス業務について、前任者が適正・能力に問題があったことから、後任者として、「原告は同業務の適任者と判断される者であった」ことなどから、この配置転換を育介法の禁止する不利益取扱いには当たらず、また、育介法が育休後の円滑な職場復帰の努力義務について、「原職又は原職相当職に復帰させなければ直ちに同条違反になるものとは解され」ず、本事件の配置転換についても違法なものとは言えないとしました。

ここで、ポイントになるのは、配置転換に合理的な理由があるということでしょう。配置転換については、一般に労働契約上の根拠があることと権利濫用がないことによって認められていますが、育休復帰後についても、この点はほぼ同様に判断されているということができるでしょう。したがって、会社としては、復帰後の配転について、規定にしっかり定めておく必要があります。

次に、賃金減額について述べます。

被告会社では、特定の社員(コナミ社員というらしい)について、いわゆる成果主義的な報酬体系が採用されていました。実は、本事件では年俸が640万円(役割報酬550万+成果報酬90万)から520万円(役割報酬500万+調整給20万)と、120万円も減額されていました(時短による減額を除きます)。この点は、非常に大きな不利益が生じていると言っていいと思うのですが、結果的に、裁判所はこの措置をほぼ認めました。

ポイントは、「役割報酬については役割グレードの決定と連動して一義的に定まる仕組み」であったということです。この点が、「就業規則に根拠を置く本件報酬体系に基づく措置」とされ、役割報酬部分の減額については、原告の主張を退けたのです。

ただし、本事件唯一の被告会社のミスともいうべき点が、成果報酬の決定にありました。

被告会社の成果報酬は前年4月~3月までを査定対象としていました。しかし、原告が産休に入ったのは7月16日だったのです。つまり、3ヵ月は実際に就労していたにもかかわらず、被告会社は、成果報酬0と査定したです。これを裁判所は、「裁量権を乱用したものと認め」、結果的に30万円の慰謝料の支払いを命じることになるわけです。

この判断は、示唆に富んでいます。つまり、実際に就労した期間があるにも関わらず、その期間が短いからといって査定に含めないという取り扱いは、違法と判断されることがあるということです。本事件では報酬に関するものでしたが、賞与についても、同様に判断されると考えられるでしょう。

最後に、裁量労働制の適用の排除について述べますが、これについては、裁量労働制がどういうものかを知っている人であれば、時短との整合性は低いと考えるのが自然でしょう。裁判所も、「育児短時間勤務の措置を受けるものについては、業務遂行の時間配分に関する裁量性がないものといわざるを得ず」、「短縮された一定の労働時間しか労働しない者に上記のみなし時間分の労働をしたものと扱うのは不合理」として、裁量労働制の適用排除についても、被告の主張は退けられました。

このように、本事件は、労判の解説にもあるように、育休復帰後の措置に関する事件であり、また、成果主義的な報酬体系の下で争われたという意味で、イマドキの訴訟であったといえるでしょう。ただし、その対応については、これまでの考え方が維持されるということが認められたという意味で、実務的にも学ぶことが多い判例だと思います。