2019年04月

 ああチクショウ、やっぱホームの雰囲気は最高だぜ。
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 23分に常田がミドルシュート打つまでの攻撃タイムと、88分20秒から追い上げようとする時の「ベガルタ仙台」コール音量大幅アップには感極まってしばらく声が出なくなりました、ハイ。
 屋根の反響をフルに活かせるスタジアムはたまらんですね。

◾︎ロマサガ2で学ぶベガルタ仙台2018-2019の陣形変遷

さて。
「サッカーの布陣を4-4-2とか3-1-4-2と言われてもわからないのでロマサガ(※1)の陣形で説明してほしい」というツイートが某所から飛んできました。

(※1)旧スクウェアのRPG『ロマンシング サ・ガ』を指す。ここでは2の画像を用いる

 オッス! オラ平成31年初頭リリース予定だったロマサガ3リマスター版が平成最終日になっても出なくてアテが外れたモト! いっちょやってみっか!

 2018年のベガルタ仙台の戦術は「ラピッドストリーム」でした。
 攻撃速度は異様に高まるけど攻撃後の回避率が0%になるため、初手で殴り倒さないといけません。守勢に回ったらよほどカバーうまいやつがいないと死にます。マンチェスター・シティ級なら相手の攻撃ターンをすっ飛ばす術とか使って殴り続けることができるんだけどな!
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 そして2019年。
 カバー役だった奥埜、野津田、板倉、中野が抜けた代わりにHP高い前線は増えたので、開幕直後は陣形を「ホーリーウォール」に変更。長沢・ハモン・石原直樹という前線の3人を肉壁+放り込みターゲットにする布陣です。
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 しかしこのホーリーウォール、「前3人の素早さが高くないと防御力ボーナスが入らない」っていう仕様なんですね。「ロマサガ2の素早さ=サッカーの戦術理解度」に置き換えると、長沢やハモンがやけくそに走りすぎ「防御ボーナスが入る前に個々が殴り倒されてメリットなし」状態でした。
 SFC版ではバグにより防御ボーナス自体が存在しなかったので、むしろそっちに近いかもしれない。もともと仙台は個の強さで他チームに劣るので、ダメージが減らず全体に散らばったら均等にみんな死ぬ

 とはいえただ戻すわけにもいかないので戦死を繰り返し、
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犠牲と試行錯誤の末、新陣形「インペリアルアロー」を生み出しました。
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初期の布陣「インペリアルクロス」と似てるけど実は異なるもの、守備担当の負荷が増える代わりに全体の行動速度が上がる陣形です。
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 うん、わからん!
 「要するに」と言って要約ができてないダメなパターンですね。自分がルドン高原に行って自害してきます。

◾︎ふつうに考察するベガルタの改変4バック

 仙台の守備時ポジションは一応こんな感じ。3バックだと両翼の裏をホイホイ突かれるのですけど、4バックなら裏取りを防ぐことができます。必要に応じて富田晋伍も下がり人数を調整するぜ。
 さらに常田克人、金正也のふたりが積極的な前パスで攻撃を組み立てます。守備陣の負荷は重くなりますが攻撃はずいぶん活性化。
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 4バックといえば手倉森誠監督の時代を思い出すんですけど、攻撃の形はきっちり渡邉晋スタイル。攻める縦列を5列に区切ってサイドバックが攻め上がり、後ろが3バックぽく残る。
 永戸と石原タカチョーがかぶることなく交通整理された攻めを見せていたのがよかったですね。蜂須賀が上がって吉尾海夏と連動し永戸が残るパターン、永戸と蜂須賀が両方上がって富田が下がるパターンもありました。
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 ジャーメイン良とハモンロペスがゴリゴリ切り込んでくるためかガンバ守備陣の処理ミスが頻発し、裏抜けもしばしば成功しますが、あとは決めるだけってところで決めきれないのはご愛嬌。ぐぬぬ、ジャメイケおじさん2号として仕事ができない。
「ウィジョいけっ…」
 近くにウィジョいけおじさんが潜伏していた模様。しかしガンバを応援するにしては消極的。すみっことはいえサポ自バックですし、謎です。仙台サポの友人と一緒に来たのかな。

 ガンバ大阪はファン・ウィジョ、アデミウソンという爆発力のある2トップを擁するも16分の好機以外は不発気味。コーナーキックではペナルティエリア外に3-4人を配置してこぼれ球を積極的に狙うスタイルですが、そっちはあまり迫力がありません。

 得点を誘発したのは東北高校出身の今野泰幸でした。
 36分、「いえ、僕ただいるだけなんで」という影の薄い雰囲気で東北学院高校出身のGKシュミットダニエルの前に立って動きを封じ、矢島慎也のCKからキム・ヨングォンの得点をしれっとお膳立て。
 てめえコンノヤロー、地元の仙台市太白区上山に帰省しても地味すぎて気づかれない存在感を有効活用しやがって。後半に吉尾海夏が同じことをやろうとしてファウルになりましたけど、「妨害するぞ妨害するぞ」という邪念が出すぎてましたね。
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 しかしやられてる気がしないなあ……というハーフタイムのツイートを考えていた45分40秒過ぎ、永戸勝也が利き足じゃない右足でムリヤリミドルを蹴ったらガンバDF三浦弦太の頭に当たり、東口順昭の逆に飛んでしまってゴールイン。これは三浦ついてない。
 シュートを蹴ったら6割は枠外、4割はキーパーの正面に飛ばす永戸勝也が! プロ初ゴール! プロデビューの2017年開幕札幌戦でどフリーのシュートを枠の外に蹴っ飛ばしてから2年2ヶ月、長かったなコンチクショウ! ただ後半は調子に乗ってシュートをバカスカ蹴っても全部やっぱり東口の正面だったな!
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▲計画通り(運任せともいう)

 後半、アデミウソンを軸にガンバのボール運びが活性化。68分には倉田秋に、59分、80分にはファン・ウィジョにやられたと思いました。矢島慎也の散らし、小野瀬康介の切り込みもなかなかいやらしかったんですが、やはり不調なチームらしく不要なミスが多い。仙台もミスが散見されましたけど、こっちはもともとミスが多いからな セカンドボールの奪取がハマってたこともありダメージは軽い。

 80分過ぎてからの布陣はこう。石原タカチョーあたりが特に疲労濃厚でしたけど、椎橋慧也のプレーで攻守ともに活性化できるのは大きい。
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 そして90+1分、ハモンロペスのマイナスのパスから75分あたり出場した関口訓充のスルーパスに反応した石原のクロスを80分出場した長沢駿が右足アウトサイドで押し込む。交代選手、全員絡んだ!
 その前の金正也→(パス切られたけど奪い返して)石原→永戸→蜂須賀→椎橋ミドルもよかったし、ドンピシャの交代でした。逆にガンバとしては前後半ATに失点して逆転を許すという痛い痛い負け方に。
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▲高級機材で人間どもを撮影なさる怪鳥閣下

◾︎左利きこれくしょん

 この日のスタメンは左利きが6人。
 実力のある選手を順に抜擢したら過半数レフティでしたが、実はベガルタ仙台歴代の補強が実ったともいえるんじゃないでしょうか。
 というのも仙台は2011年に原田圭輔、2012年に内山俊彦(両利き)、2013年に石川直樹とヘベルチ、2014年に鈴木規郎と二見宏志と山本大貴、2015年に金園英学と茂木駿佑(両利き)とハモンロペス、2016年に三田啓貴と常田克人、2017年に永戸勝也、2018年にジャーメイン良とハーフナーマイク、2019年に松下佳貴と吉尾海夏と田中渉、って左利きを重点的にどんどこ補強してるんですよね。
 手足左利きのレフティ好きとしてこの人選は個人的に
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 次は5/3川崎戦。また参戦するぞ!

 日本文学振興会が2016年に始めたイベント『人生に、文学を。』、講演は上橋菜穂子さん。お題は『指輪物語』と『鹿の王』。自分の好きな作家が自分の好きな作品を語るとか行くしかねーだろ、しかも上橋さんは諸事情でほとんど講演しないからな、と申請欄に思いの丈をめっちゃ考えて書き込み抽選を勝ち取りました。

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 現場で自分のA4ノート6ページにびっしり書き込んだメモを後から見やすいようまとめておきます。あくまで部分的な走り書きであり、自分なりの補足をしているため抜け漏れや誤解が結構含まれています。順序も整合性を考えてちょくちょく変えています。正式版はウェブにあがるやつを聞いてください。朗読がものすごくお上手で、オーデンの話とか肉声を聞くほうがぐっとくるので。


【自己紹介】

 はじめに、私の写真を見たことある方の中には「上橋さん、痩せた?」と思う人がいるかもしれません。

 「病気?」と言われてあることないこと広まっては困るので説明しておくと、綾瀬はるかさん(※1)などと写真を一緒に撮って思うところがありがんばって痩せました。


 (会場である)立教大学は母校。

 現在、講演は基本的にすべてお断りしているのですが、今年が作家デビュー30周年であること、テーマが『指輪物語』であることから受けました。


(※1)女優。NHKドラマ『精霊の守り人』で主人公・腕利きの用心棒バルサを演じた。


【上橋さんと指輪物語】

 大学の特任教授として文化人類学を教えています。Wikipediaでは「児童文学を教えている」と書かれていますが、文化人類学です!

 1度だけ集中講義で『ハリー・ポッター』と『ゲド戦記 影との戦い』を対比して読むというのをやったことがあるんです。「魔法学校」というトピックの類似と対比ですね。初回で『ゲド戦記』を読んだことない学生さんが多かったので、明日までに読んできてねと言うと次の日に「難しい」「ル=グウィンって下手だね」というんです。でも対比して読むうちに、学生さんが「おもしろさ」の多様性に気づいてくるんですね。



 このくだりは『ユリイカ』でル=グウィンをめぐる荻原規子さんとの対談でも少し話しました。

 子供の頃でも読める本と、大人になってまた新しい味が出る本というのがあります。


 指輪物語、私が持っているのは昭和57年の版ですね。(注:刊行年および見た目から評論社文庫の旧版)

 これを開くと字が小さくて、当時の私は「こりゃあ長く読めるぞ」と考えたものです。そして読んでみると……この世界にどっぷり漬かってしまい、しばらく出てこれませんでした。ローズマリ・サトクリフ(※2)の作品と並んで人生を変えた本です。

王のしるし(上) (岩波少年文庫)
ローズマリ・サトクリフ



 私は学者でもあるので学者脳というか分析思考があるんですけど、これが前に出すぎると作家として危ないんです。ですので「評論」と呼ばれるものとは距離をとっていたんですが、今回は講演に備えて『J.R.R.トールキン―或る伝記』を読みました。文化人類学のフィールドワークをやっていて(いろいろなお話が)語り・聞き・編集によって変わっていくのを見聞きしてきたので、変わっていくものへの怖さがあったんです。でも『J.R.R.トールキン―或る伝記』は実際の作者のメモなどが多かったので読めました。

J.R.R.トールキン―或る伝記
ハンフリー カーペンター



 これによると『指輪物語』は脱稿まで12年、トールキン57歳のときでした。並べるのも恐れ多いんですけど、私の『守り人』も『精霊の守り人』を出したのが1994年、『天と地の守り人』を出したのが2006年なので12年なんですね。そしてトールキンも私も、大学で教えながら書いています。教えながら書く、というテンポの面白さですね。

 母校で人前に立ってこんな話するんだぞ、と大学時代の自分に教えたら、ひゃあ! ってなると思います。


(※2)ローズマリ・サトクリフ(1920-1992)、イギリスの作家。ローマ帝国支配下のブリテン島を舞台にした物語が多い。作中にはしばしば障害者が登場する。有名なのは『第九軍団のワシ』『王のしるし』など。


【指輪物語をめぐる絶賛と批判】

 指輪物語は1955年にW.H.オーデン(※3)がニューヨークタイムズに書評を寄せてから爆発的に売れたそうです。1955年から1968年までかけて300万部売れ、でも評価はまっぷたつ。

 ところで私、英語ニガテです。わかるはわかるんですけど読むのが大変で。でも優秀な秘書さんがいますので、ほいっと翻訳をお願いしちゃいました。


(注:非常に密度の濃い上質な書評だったのでメモできたのは下記の2文だけ)

「過去に架空の世界をここまで詳細に創造したものはなかった」

「ここまで激論をぶつけた本があっただろうか」


 オックスフォード大学の教授ともあろう人物がこんなジャンルにここまで力を注いだのが許せん、という人もいます。そのひとりがエドマンド・ウィルソンという有名な評論家です。この人はオーデンを大評価しているのにトールキンをこれでもかと批判している人なんですね。



指輪物語を評していわく、

・詩の韻文が拙い。

・散文も玄人的素人のレベル。

・オーデンは自分の中の何かを投影して過大評価しているのだろう。

・ステレオタイプ的である。いかにも英国メロドラマ風で、善と悪、それも遠国の悪と自国の小さな善に分かれており、登場人物はありがちな性格付けでアクがない。

「子供が喜ぶガラクタ(jevenile trash)」である。こういったものを喜ぶ者は大人向けのガラクタは受け取らない。『指輪物語』の中に7歳児の頭脳を超える要素はなく、つまりは児童文学である。英国人は児童文学を見るととたんに子供の頃に戻り、マロリー(※4)やスペンサー(※5)をありがたがるように黄色い声をあげる。


 言いたい放題ですね。実はオーデンもレコード版『指輪物語』にコメントを寄せて「読む人は魅了されるか、まったく興味を示さないかのどちらかで、後からは変わらない」「私はそれを体験で学んだ」と書いています。

 これが文学ではないでしょうか。多様であるからこそ面白い。好みが画一では面白くありません。


 「子供が喜ぶガラクタ」といいますが、大人でもふと立ち戻り、声をあげたくなる物語があります。

 私は「本当にそうでしょうか?」という問いをクセとして考えるようにしているんですけど、「子供向け」だから「ガラクタ」というのはおかしいのではないでしょうか。成熟したものに「未熟」と批判をしたがる人はいるものです。植民地の調査をしていると先住民を未熟者扱いする論者が出てくるのに似ています。

 私は自分で「児童文学を書いていない」と言ってます。それは言った人が児童文学を軽く見ていることを示すからです。「子どもたちでさえも熱狂できる」と言われたら嬉しいです。

 『鹿の王』のサイン会で来てくれた最年少はですね、小学4年生の男の子。その子に誰から薦めてもらったのか聞いてみたら、小学3年生の女の子に教えてもらったんだそうです! 難しくなかった? と聞いてみたら「難しかったけどおもしろかった」。「体内に広がるミクロコスモス的な発想が興味深く……」なんて形の面白さではなくても、熱狂してくれたんです。こんなに嬉しいことはありません。



(※3)20世紀最高の詩人のひとりと言われているらしいイギリス出身の詩人。後にアメリカ国籍を取得。トールキンと同年同月に亡くなっている。

(※4)トマス・マロリー(1399-1471)。サーの称号を得ているが生涯には不明点が多い。アーサー王伝説を編纂した『アーサー王の死』で有名。

(※5)文脈から詩人エドマンド・スペンサー(1552?-1599)か。『妖精の女王』で知られる。


【ステレオタイプの面白さと怖さ】

 ウィルソンが言っていたステレオタイプについてのお話ですが、沈むタイタニック号のジョークを例にあげましょう。

 沈む船の救命ボートに人を載せきると、残った人にはもう海に飛び込んで死んでもらうしかないわけですね。そこで各国の人にうまいこと言って飛び込んでもらんです。

 アメリカ人には「飛び込んだら君はヒーローだ」、イギリス人には「紳士らしくお飛び込みください」、ドイツ人には「規則ですから飛び込んでください」、日本人には「みんな飛び込みましたよ」。

 もちろん、世の中にはそのステレオタイプに当てはまらない人もたくさんいるわけです。日本人でも同調しない人はいます。それを見出すのが文学です。

 ステレオタイプというのはスッと入るし、心の暗いところにある本性なので差別などの温床になりますし、怖さもあります。


 では、どうしてステレオタイプはステレオタイプたり得るのでしょうか。

 キャンベル(※6)のHero's Journeyを例にあげましょう。キャンベルによると、やがてヒーローになる存在がいます。しばしば身寄りがありません。このヒーローが導き手と出会い、やがて旅に出て、その先で敵と直面し、戦います。そして勝利を収めた後、ヒーローは変化を迎えます。



 どこかで聞いたことありませんか? そう、『スター・ウォーズ』。アナキンがオビ=ワン・ケノービと出会い、ダース・ベイダーと戦いますね。あるいは『ゲド戦記』。少年ゲドが旅の魔法使いオジオンと出会い、魔法学校に入り、そこで「敵」を見出し……ここから先は皆さんご存知のとおりですね。他にハリー・ポッター、指輪物語もそうですね。

 でも、これらが陳腐かというとそんなことはなくて、しかも見ると熱狂しますよね。最近だと『バーフバリ』なんかそうですよね。見てると「バーフバリ! バーフバリ! 王を讃えよ!」ってなりますよね。私なんか熱狂しつつ「民主主義はどうしたー!?」なんてツッコミを入れながらね。

 そういう熱狂はあって、しかもウケない人にはウケないので普遍的なものではない。そして売れると二番煎じ、三番煎じが出てくるんですけどそちらはウケない。見る人にはわかるんです。


 ここでまた、面白い本を紹介します。ブライアン・アトベリー(※7)の『ファンタジー文学入門』です。

ファンタジー文学入門
ブライアン アトベリー



 この中でローズマリー・ジャクスン『ファンタジー・転覆の文学』に触れている箇所があります。私は原典に直接あたっていないので孫引きですが。

・ファンタジーは「願い」の文学。

・社会的なものへの反抗、文化的な抑制に対する抵抗であり、文化的な転覆をもくろむ。

・トールキンやル=グウィンのファンタジーは別のアプローチであり、しかしそれゆえに失敗作である。

 心をざわつかせる反社会的衝動を鎮め、郷愁や現存する宗教的アレゴリーを肯定してしまう。


 どうでしょう。私は「この作品は現代社会のために書かれたんですか」とか言われると、もやっとします。トールキンもアレゴリー(寓意性)が大嫌いですね。

 私は「何を思って物語を書いたか」を自分では語らないことにしています。


 ステレオタイプは安易に使うと陳腐になり、差別に陥ります。そこから身を引きつつ、うまく使わなくてはいけません。自分自身が惹かれるものは、多くの人も惹かれる。底の底にあるものなんです。


(※6)ジョゼフ・キャンベル(1904-1987)、アメリカの神話研究者。神話の物語構造・原型研究で知られ、著書『千の顔を持つ英雄』が有名。

(※7)ブライアン・アトベリー(1951-)、アイダホ州立大学教授。SFおよびファンタジーに造詣が深い。アーシュラ・ル=グウィンと共同で本を出している。


【『鹿の王』が見えた瞬間】

 郷愁、というのはとっても不思議でおもしろいものです。

 ♪ペチカ燃えろよお話しましょ、という歌をご存知ですか? 私は暖炉を囲んでお話をするというあの歌に懐かしさを感じるんです。私自身にはそんな経験ないのに。


 『鹿の王』の初期イメージで見えたのは、雪の中で座る「飛鹿(ピュイカ)」(※8)の枝角の間に見える月です。もうひとつは、猪鍋。


 私はプロットというものを書いたことがなくて、『鹿の王』を思いつく前には腸内細菌の話と、エリシア・クロロティカ(※9)……『鹿の王』でいう「光る葉っぱ(ピカ・パル)」ですね、あれの話を読んで。

 面白いなあと思って翌朝起きたら……ヴァンが、いたんです。

 男の人の背中が見えて、森の中を歩いていて、それを小さな女の子が「おちゃん! おちゃん!」(※10)って呼びながら追いかけていました。



 内部の多様なものに生かされている「人間」が、内部に多様な人間のいる「国」と重なったんです。

 背中を見せているのは、人ではなくなっていく、世を去っていくから。

 1ページ目は岩塩坑から始まりますが、あれは数年前に母と一緒に行った(ポーランドの)ヴィエリチカ岩塩坑をイメージしています。匂いとかね。(岩塩坑の中で滑車を引くための動力扱いされる)馬の話もそこからです。


 私は書いていて伏線を引いたことがありません。よく伏線回収できますね、とか言われるんですけどエピソードを書いていたらそれが自然と伏線になっているんです。読んでいる人に流れが読めないように、書いてる方も読めません。ラストは私も読めなくて、うわあ一体どうなってしまうんだ、と思いながら必死でついてってました。だから私、連載は無理なんです。

 会場の後ろの方に『獣の奏者』の編集さんもいるんですけど「一反木綿のしっぽをひょーんと捕まえておくくらいのことしか教えてもらえませんでした」と言ってましたし、『狐笛のかなた』が完成して編集さんに連絡した時は(スタートしてから)時間が経ちすぎていて、「できました」って言ったら「何がです?」って聞かれちゃいました。



 あ、書いてる途中でメモはたくさんとりますし、調査だってすごく綿密に行います。今回も国立科学研究所などに取材に行きました。ただし書く時はもうひとりの自分に任せないと、考えすぎてありがちな話になってしまうんです。作者というのは書き上げてからゲラを見て「誰が書いたんだ」ってなりがちです。仲良しの荻原規子さんもそんなことを……実は今日、この中にいるかも?




(※8)上橋菜穂子『鹿の王』に登場する獣。鹿やトナカイに近いが、より俊敏で頑強。主人公ヴァンはこの飛鹿と関係が深いことから事件に巻き込まれていく。

(※9)葉緑素を体内に取り込むことで光合成して生きる珍妙なウミウシ。しかし産卵後に例外なく死ぬ。

(※10)「父ちゃん」の舌っ足らずな発音。誰のセリフかはまあ読んでください。


【変わりゆく書き手とフロド・バギンズ、変わるものと残るもの】

 先ほどバーフバリを讃えつつツッコミを入れる話をしましたが、危ういですよね、ひとりに頼り切るのは。そうやってクールな自分を脇においたままで、人を惹きつけるものを生み出せるか?

 物語を生み出すのが自分なら、偏見などをしっかり飲み込んで自分のものにしていかないといけません。そうして書いている最中に自分が変わっていくことはよくあります。


 私は『指輪物語』と同じように『ゲド戦記』が好きなのですが、文化人類学者になってからだと4巻以降におけるル=グウィンの心の移り変わりがわかるんです。

 同じ心の葛藤であったり、戦ってきたものだったり。プロ作家の思考ですね。

 自分の作品もそう読まれるぞ、という感覚があります。

帰還―ゲド戦記〈4〉 (岩波少年文庫)
アーシュラ・K. ル=グウィン



 物語が生まれてきた時、髪を切るようにちょっと手を入れちゃうことはとても危険なんです。

 少し手を入れるだけでそれは作者の意図として浮かび上がってしまう。だから細い道を進むことになるんです。

 捨てちゃいけないものがあって、それは「心を揺さぶるもの」です。ただし偏見、差別、出しちゃいけないものが少しでもあれば出さずに、私とともに墓まで持っていきます。


 先ほど取り上げたローズマリー・ジャクスンの言う「失敗作」、つまり私たちが書いている作品は、歴史のほうに親和性があるのかもしれません。無数の失敗があって、それでも生きているという「願い」の文学です。英雄、動力となる人間が一歩前に出て何かをやるのは悲劇にもなり得る。しかし一歩前に出たことで、それを見た人が悲しみ、感じ、生き延びてきたのかもしれない。



 もし『指輪物語』がステレオタイプなら、主人公はフロドでなくアラゴルンになっていましたよね。かわいそうなフロド。彼は使命を「自分では」達成できず、だから帰れなかったんですよね。傷を負い、物語世界が終わると同時に彼も去っていく。

 一方で私達が考える「英雄」になったのはサムなんですよね。おらのいうことわかってくださるだか。(会場笑)彼の夢はヒーローとして詩に詠まれることで、それは成就するんですから。ああ、なんちゅう誉れ! ってね。

 このサムのモデルになったのは第一次世界大戦で従軍したトールキンの身の回りにいた従卒だそうで、『或る伝記』にそのことが書かれています。


 トールキンは「『ケルト的』と言われるもやっとしたものから粗野な要素をとりさったものを描きたいと思った」「ベオウルフを北欧の類型と呼ぶのは手を抜いたものであり、プロットをばらばらにしてはならない。一体で感じなければいけない」と言っています。オーデンはかつてオックスフォード大学でトールキンの講義を受けた時に教授が『ベオウルフ』の1行目を叫ぶのを聞き「それはまさにガンダルフの声でした」と形容しています。

 ところでトールキンが息子のクリストファに送った書簡にはこんな一節がありまして。「息子よ、困った。今日は新しい登場人物が急に出てきた。彼は好人物だが、私は彼に出てきてほしいと思ってはいなかった。彼が突然イシリエンの森の中から現れたんだ」。誰のことかわかりますね、ファラミアです。私ファラミアが好きなんですよねえ。これに続いて兎肉のシチューの作り方を調べてるという話がありました。

 今回初めて巻末にある著者の断り書きを読んだのですが、私と合致しているなあと思いました。私も「この物語を何のため書いたのか」という問いが嫌いなので。



 『指輪物語』は、まず先に世界がありました。そして私は他者の作ったその世界にすべりこみ、フロドやサムと一緒に行かざるを得なかった。そして物語が主人公を帰してくれなかった。主人公もガンダルフも去りますが、世界は残ります。

 私の好きな二本柱があります。

 ひとつは「歴史」。人が生き死にしていく社会で、いつか自分も消えるけどその後も続いていくもの。

 もうひとつは「世界」。自分が知ってるつもりの世界よりも「世界」はずっと広い。体の内側であったり、別の生き物であったり、その他森羅万象だったり。

 これらを大事に、物語が歩いていけるよう、育てるように書いていきます。


【質疑】

(注:じゃんけんで上橋さんに勝った人が質問をできるという愉快なシステム。ひとつめの質問はメモし忘れたが、上橋さんの日本語の使い方に関する質問とそこまで意識していないという回答だった)

2.『守り人』シリーズでサンガルが好きなんですけど、上橋さんが住むならどの国ですか。

A.

 私はすべての国に住んでますから。

 涼しい風が吹く季節ならサンガルもいいですね。冬でなかったらカンバルも。ロタも冬は寒そう。でもヤギの味が苦手だからチャグムくんと一緒にヨゴかなあ。季節それぞれですね。


3.地図の細かさに驚かされますが、いつごろ地図が頭の中にできるのでしょうか?

A.

 できてません!(キッパリ)

 その国にいるので風景は見えるんですけど、整合性がある地図を作るのは最後になってからです。今ここで「銀座どっちですか」と言われてもわからないようなものですね。

 文化習俗もその場で(書きながら)出てきます。トールキンみたいに緻密な設定とか私とは正反対ですね。

 でもトールキン本人も後になってから整合性が取れなくなってまた地図書き直しだーとか騒いでたことがあるそうです。

 もちろん頭の中にイメージはあるし、『蒼路の旅人』では距離や船でかかる日数などしっかり計算しましたよ。でもまずは(物語を)生んでから。




4.世界と物語、異なる物語同士はつながっていると思いますか?

A.

 すべては想像でつながっていると思います。この現実世界も個々の想像でできており、私達は客観と想像の間を行き来するのだと思います。


個人的に聞こうと思っていた質問:

 バーフバリに関連して、上橋さんにとって理想の「王」とはどんな存在でしょうか。

 上橋さんの作品をにはサトクリフ『王のしるし』の主人公のような自己犠牲的・利他的な人物が多いですが、それが王なのでしょうか。

 『指輪物語』にはアラゴルンやサウロンやガンダルフやデネソール、『鹿の王』にはヴァン、ケノイ、与多瑠、ホッサルなど王になれそうな人物が多数いますが、中でも理想的な「王」の人物像をお聞きしたいです。

(4/25追記:今考えるとここに挙がっているのは全部男性で、女性王族はエオウィンやサンガルの姫君くらいか)


【感想】

 飛鹿の駆けるように話が飛んでいくためまとめるのが難しく、しかし話の軸はまったくブレていないという密度の濃い講演でした。エッセイで書く文体のように話すのがまた面白い。

 話から伺うに教授としてのウエイト自体はあまり大きくなさそうですが、二足の草鞋を履くことで物語に深みと味が加わるというのは確かにトールキンも上橋さんも一緒。作家の視点から見たファンの愛ある解釈というのはただの読者視点と違う分析があってうなりっぱなしでした。

 興味深いのは、上橋さんが「英雄頼み」を危惧するコメントを合間合間に挟んでいたことです。トールキンも上橋さんもひとりの英雄を描く一方で、その英雄だけが絶対的にならないよう物語を注意深く書いている。これは我々が日常的に意識すべき事柄だと思うんですよね。

 「本当でしょうか」の視点と、人を盛り上げる物語の視点。両方を自分の中に備えて、ギリギリの光る道を見つけていきたいものですね。


というわけで『鹿の王』良いですよ。ホッサルを主人公にした5巻が出たみたいですけど文庫版はいつになることやら。

 長距離走は好きだけど2kmくらいで集中力が途切れるモトです。

 今年もしかするとフランスでワインを飲みながら最大42km走るリタイア率超高いマラソンに参加するかもしれないので、そのトレーニングがてら兄と10kmマラソンに参加してきました。

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 荒川の河川敷を走る「あだち五色桜マラソン」です。コースは5km、10km、ハーフマラソンなどいろいろ。


 コースは文字に起こすとこんな感じ。

 土手の下をまっすぐ2.5km走る→ゆるい坂道を登り土手の上へ→スタートの方向へ土手の上を1.5km走る→信号を回避するため坂道を下って土手の下へ合流→1km走ってスタート地点で折り返し

 5kmマラソンの人はここでゴール、10kmマラソンの人は同じコースをもう1往復。

 給水所は2.5km地点と5km地点に1箇所ずつあり、水またはスポーツドリンクを選べます。ハーフマラソンではゲストが希望者に水をかけていました。

 また9kmあたりの地点でバヤリースオレンジと揚げ物を配ってるおじさんがいました。なぜに。

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 今回の完走で気にしたのはこのへん。

1. 出だし

2. とにかくペースを保つ

3. 坂道マジ死ねる

4. 中盤5~6kmあたりで疲労感が一気にくる

5. 気分転換超大事



1. 出だし

 人が多いのですが、コースの一番右は追い抜きレーンという無言のルールがあるようです。ここを走り抜けて、ちょうどいいと思われるペースの集団に加わります。

 自分の目標は「10kmを50分で走破」なので1kmあたり5分ペースの集団を探すことにしました。スマホしまいこんでるので体感および1km走った時の音声ガイドで位置を決めましたが、スマートウォッチなどでペースを視覚的に確認できるならそのほうがよさそうです。


2. とにかくペースを保つ

 1km5分と決めたら、あとはアクシデントがない限りアプリの音声ガイダンスなどを駆使してペースを維持します。

 スタート直後は体が軽いのでペースを上げたくなりますがやめときましょう。あとで死ぬぞ

 なお我が兄は後半ペースアップするという奇特な性質の持ち主で、ずっと1km5分ペースだったのに6km過ぎたところから加速し、1kmごとに自分を5-6秒ずつ引き離していきました。このへんは人それぞれ。


3. 坂道マジ死ねる

 2.5km走ったあたりで20m程度のゆる~い上り坂があるんですよ。上りきったところで折り返して今度は土手の上を走ります。太ももにきますが、まあなんとかなります。

 問題は2周目、7.5km走った後でまた現れる同じ坂道です。ここで調子を崩す人、続出。太ももを叩き始める人、さする人、ペースをぐっと落とす人。まっすぐ走るのに体が慣れてたところで「上り」「折返し」という特殊な動きが入るので結構なダメージがきます。

 わたしゃ自宅から走って行ける距離なので、あらかじめこの坂で予行演習してたのが幸いしました。


4. 中盤5~6kmあたりで疲労感が一気にくる

 まあ自分がふだん5kmしか走ってないせいなんですけどね!

 坂道を2回上り下りした疲労はでかいし、同じコース2周目に入って飽きがきて「あーもうそろそろ無理、マジ無理、やめたい無理」と脳内会議が始まります。

 このへんでふだん意識したことない筋肉もストライキの気配を示し始めるので、ただ粛々とペースを維持することを意識してました。


5. 気分転換超大事

 疲れてると、ちょっとしたことで元気出たり引っ込んだりします。マジで。サッカー選手がチャントを意識する気持ちがちょっとだけわかりました。


 実は今回、あらかじめスマホにランニング用の音楽リストを準備しておきました。50分前後で走破できなかったときのために1時間くらいのやつ。

 特に計算してなかったんですけど、たまたま8kmあたりのしんどくなってきたタイミングで元気の出る曲『Life Will Change』が流れてきたとたん一気に集中力が高まりました。


 ペルソナ5でストーリーが盛り上がる時に流れるテーマソングです。イメージとしては『暴れん坊将軍』における殺陣のテーマ曲に近いですね。

 隠れながら進むのは終わりだ、冤罪と自分自身の破滅から逃れるため、理不尽な現実や常識に抗う意思を示すため、人生を変えるため一気に駆け抜けるシチュエーション! イクゾー! 

   マジでテンション上がりました。なおペースは落ちました。


 これ以外には5kmでの塩レモン飴摂取、7.5kmでの給水もいいアクセントになりました。直接的に効いたかと言われるとわかりませんけど、自分なりの回復方法を実行して「これでしばらく走れる」と気分を切り替えるのはかなり効きます。


【装備】

 10kmだと余計な荷物は持てないので、こんな感じ。水分は各給水所にあるものだけで十分足りました。

・ユニクロで買ったドライメッシュの七分丈ズボン

・ベガルタ仙台2017年オーセンティックユニフォーム(夏限定の黒仕様、背番号17)

・ベガルタ仙台2018年天皇杯決勝戦用手ぬぐい

・腰巻き(千円札1枚、自宅の鍵、スマホ、塩レモン飴みっつ収納。財布等は自宅に置いていった)

・ワイヤレスイヤホン

・アプリ「NikePlus」


【課題】

 兄から「走るときの足音が異様にデカイのでフォームが悪いのでは」という指摘を受けました。

 イヤホンしてたからまったく気づきませんでしたが、そういえばJリーグの選手も陸上選手にフォーム直してもらう例が増えてますね。どこかで教えてもらえるのでしょうか。


【その他】

走りながら見つけたおもしろいもの。

・走るスリラー

 自分の走り方はわかんなくても他の人の走り方って目につくもので、スタート直後にマイケル・ジャクソン『スリラー』のゾンビみたいな手の動きで走る人がすっごく気になりました。

 いやもう、手を半端に開いて手首をロックしたまま左右に腕を振ってるとどう見てもその姿は踊るゾンビ。


▲1:30あたりの動き


・ムヒタリアンキッズ

 アーセナルのMFムヒタリアンのユニを着た西欧系の子供ふたりがお父さんと一緒に走っていました。

 ムヒタリアンはそこそこ出場してますがエースとはいえない選手なので、もしかすると同じアルメニア共和国出身なのかもしれません。

・それはいかにも英国的な

 各競技の上位3名には賞状が送られるのですけど、10kmマラソンの3位が英国出身のアーサーさん(仮名)でした。

 名前だけ聞いて「たぶん英国出身だな」「英国だな」って兄と話しながら御尊顔を拝見したところ、ライアン・ギグス(※)を思わせる容姿で「ああもう絶対英国人」とふたりで断言。実際に受賞の話を聞いていたら英国の方でした。


(※)元サッカー選手、現ウェールズ代表監督。選手としては一貫してマンチェスター・ユナイテッドで大活躍し2014年に引退。当時はサッカー弱小国だったウェールズの出身で「ギグス以外に強い選手がいれば」と惜しまれていた。彼の後にギャレス・ベイルら逸材が育ったウェールズ代表は2016年の欧州選手権に初出場しベスト4まで躍進している

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 なおゴールタイムは49分59秒。見事に目標タイム誤差1秒でした。この調子でスタミナと肝臓を鍛えてみます。待ってろボルドーワイン。


 スプラトゥーン2の有料追加シナリオ「オクト・エキスパンション」に「ネル社」(※1)っていう謎の組織が出てくるんですよね。

 名前を見るたびネルシーニョを連想してしまうんですよね。色々なブキ、もとい戦術を変幻自在に繰り出してテストするところも含めて。


(※1)英語版の名称はKamabo Corp.(カマボ・コーポレーション)。ネタバレになるので詳細は避けるが非常にうまい翻訳

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▲ネル社の実験施設


 さて、今日はルヴァンカップ第3戦。見るからに冷たそうな雨が雪に変わっていく中、相手はよりによって日曜に気温25℃の沖縄で試合をしてきた柏レイソルです。

 柏との公式戦は2002年からの全33試合中実に27試合が1点差以下の僅差、1点差勝利または敗北が16試合という渋いスコア差が多いです。2016年以降は仙台が6勝2分で好相性。

 お互い選手総とっかえといえ、GK桐畑和繁はじめ琉球戦のサブメンバー7名は中2日で大移動をするだけでも大変そうです。残りの選手は柏から直接移動だといいんですが。


 柏ユースに超詳しいフォロワーいわく「その筋の話によればネルシーニョは沖縄まで全選手帯同させたそうですよ」

 マジかよ。相変わらず容赦ないなおっさん。


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 仙台、柏どちらも3-3-2-2でスタート。ユースや地元の高校生も起用してくるあたりさすが育成の柏。うちの照山颯人をジュニアユースまで育ててくれてありがとうございます。一方でメンバーを落としていても高橋峻希や江坂任がいるってすごいな。

 まあ仙台も関憲太郎、石原直樹、長沢駿、梁勇基、関口訓充、ベガッ太さんが入場時にタオルを掲げるほど気に入ってる大岩一貴といった面々がいるので名前の迫力は十分ですね。


■前半:形成中のネリモノ

 前半はなかなかポジションのつぶしあいという趣でした。さすがにメンバーを落としているので柏の攻撃がなかなか結実しないのですけど、仙台のほうもちょっと安定しない。2トップのわりに石原直樹が引いたところで受けることが多かったせいか、左CBながらサイドバックのように上がっている永戸勝也がもうひとつ有利なポジションをとれないせいか。シモンが柏の選手と正面衝突して失笑+イエローカードを稼いでいたのが大崎フットニックの見せ場といえば見せ場だったでしょうか。

 そんな中でも松下佳貴が前向いたら面白い個人技を見せ、道渕諒平が積極的に前へ前へと切り込むのがなかなか爽快でした。松下は守勢に回るとポカが散見され、道渕は勢いあるけど精度はあと少しって弱点はあるけど向上すればリーグ戦にも絡んでいけるはずです。

 特に道渕、何がいいって多少ムリなシュートを外そうがクロスを盛大にふかそうが「ごめーん!」と割り切ったアクションをして笑いながら戻っていく神経の太さ。プレー精度は高いのに頭を抱えがちなせいでよく石原直樹に怒られてる選手についても、道渕を見習ってもう少しふてぶてしくなってええんやで。


■後半:焼きあがる笹かま

 さすがに攻撃が機能しないってことで後半お互いテコ入れしましたが、いきなり結果を挙げたのは仙台でした。

 なぜか中央CBの大岩が右サイドからクロスを上げ、右CBの照山とCFの長沢がエリア内でかぶるという愉快な展開から長沢の足元にボールがこぼれ、若干コースの甘かったシュートで先制点。雪が災いしてすべりやすいコンディションになってたのか、切畑止めきれませんでした。

 柏は江坂、菊池の連携から枠内シュートをぶっこんでくるも残念そこは関憲太郎だ。相変わらず至近距離での反応は抜群です。さらに長短のフィードキックを織り交ぜて味方にボールを供給できるようになっており、ベテランという年齢に差し掛かりつつも成長する選手の頼もしさにえーぞえーぞとうなずける状況。

 さて後半18分、前半から攻撃参加を見せていた永戸がWBの関口訓充を追い抜いて柏の裏をつき、松下のスルーパスを受けて柏守備陣の隙間にいいマイナスのグラウンダークロスを提供、石原先生が余裕を持って誰も取れないコースに技ありのシュートをかましました。これは美しい。後半10分あたりの逸機をきっちり取り返してくれました。

 そこから40分すぎるまで交代なし。リーグ戦のメンバーを最大限温存しつつ出場選手の努力を最後まで見る采配ということですね。終盤に倒され痛んだ松下に代わって富田晋伍を、リャンに代わってプロデビューの新卒選手・田中渉を出す。たまらんですね。

 ってアレ、左サイドに途中から入った高校生・鵜木郁哉のクロスから江坂に鮮やかなボレーを決められてしまいました。まあお土産だと思えばヨシ。予選突破に響かない限りは。


■戦術かもすぞ

 ルヴァンカップ3連勝。スカパー見るためスポーツバーに入ると勝ち試合を見ることができるので関東在住仙台サポはウッキウキ、この日も店の中がだいぶ混んでいました。

 リーグ戦ではまだ1勝なんだよなあ、いやいや勝つのはいいことだ、なんて会話もところどころ聞こえてきます。

しかしここで好調だからリーグ戦にもメンバーを抜擢できてるわけで、苦しいなりに進化はできています。勝ちなしに比べて夢も希望も増えるし。

次は秩父宮だ!馬鹿野郎ルヴァン杯次節は鳥栖戦だ! テンション上がるぞ!!

 ホアーッ!! ホ、ホアーッ!!!

 ふう危ない危ない、テンション上がっていきなり試合のネタバレをしてしまうところでした。冷静にいきましょう。


〜イラスト1枚で説明するリーグ戦これまでのあらすじ〜

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 前節はいい試合だったんだが、首に矢を受けてしまってな。そろそろリーグ戦で勝ちが欲しい。あといいかげんこのイラストの使い回しに飽きてきた。

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 1習慣の非公開練習を経てなんと3-5-2。さばけるアンカーと技術のあるインサイドハーフふたりを要する布陣です。アンカーは富田晋伍、インサイドハーフは今年になって仙台市内に設置されたという兵藤信号(※1)と吉尾海夏の元マリノスコンビが務めます。

 センターバックは大岩一貴の代わりに187cm左利きの22歳である常田克人を抜擢です。右WBは蜂須賀孝治が復帰、2トップはハモンロペスとジャーメイン良の突破力勝負タイプを並べてきました。まじんのおの(※2)+どくばり(※3)みたいな「なかなか当たらないけど一撃必殺」みたいなロマンあふれるコンビです。


(※1)兵藤慎剛が信号機を頭につけるというエイプリルフール定番の持ちネタ。なんと兵藤信号キーホルダーグッズも出たぞ

(※2)『ドラゴンクエスト』シリーズに登場する武器。命中率は低いが、当たれば相手の防御力を無視した大ダメージを与えられる

(※3)同じく『ドラゴンクエスト』シリーズに登場する武器。通常は1ダメージしか与えられないが、たまに体力関係なく相手を一撃で即死させる


 鳥栖はルヴァンカップで左サイドバックとして奮闘するもミスを連発したブルシッチをセンターバック起用です。トーレスは間に合わず、金崎夢生とイサク・クエンカの2トップ。勢いのある三丸拡が左サイドバックに入っています。


■前半:くまだ! くまがおれの家に!

 マンガ『伝染(うつ)るんです。』に「くま」というキャラクターがいましてね。ひとこともしゃべらないんですけど、山で遭遇したコワモテの大学生を気に入って山ぶどうとか届けにきたり、いつの間にか大学生の家に侵入して詰将棋をやってる小柄なかわいいやつです。

 すみません、吉尾が小柄ってところだけでむりやりこじつけました。



 いやあ見直すとけっこう危なかった。前半は仙台のシュート4本に対して鳥栖が6本、しかも際どいのをよく打たれていますしね。

 しかし平岡、常田、ジョンヤという急造の組み合わせに積極的な縦パスが組み合わさってるのだから仕方ないでしょう。この試合はむしろその積極性がいい方に出ました。常田から蜂須賀へピタリと入ったフィードキックとかそれだけでごはんが進みそうだし、ジョンヤの縦パスと攻め上がりも何度か奪われてましたがチャンスにつながっていました。

 ジョンヤはルヴァン杯鳥栖戦でも積極的に攻撃参加して「えっジョンヤ!?」という困惑と苦笑の声がスポーツバーにあふれてたんですけど、去年なかなか試合に絡めなかった悔しさをバネにここまで伸びたと思うと熱いですね。正直なところ、みんな金正也が攻撃的センターバックとして左の要になるとか想像してなかっただろう? 僕は心配しかしてませんでした。誠に申し訳ございません。

 伸びたといえば、富田晋伍もちゃっかりひとり飛ばした前へのパスを通せる頻度が昨年比ちょっとだけ上がっており、毎年恒例の地味なマイナーアップデートを今年も実施しているようです。富田晋伍バージョン2.0まではいかないけど1.15.6みたいな。成長できるのは若手だけじゃないんだぞ。

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▲ダメかと思ったら成長する選手(イメージ)

 守備といえば先制点も守備からそのままチャンスを作り出していましたね。蜂須賀が奪って、インサイドハーフから右サイドの裏へ上がっていたくま吉尾へ通し、ジャーメイン良が頭でゲット。いいコースに飛んでおり、祈るような「ジャメイケえええ(絶叫)」ではなく「ジャメならいけるやろ」くらいになってきた気がしますね。なおマークについてたブルシッチはうまく外されてしまっていました。

 前節セレッソ戦でGKキム・ジンヒョンのキックを兵藤が頭で跳ね返してそのままシュートまでいった場面がありましたけど、あれを彷彿とさせるうまいはめ込み方でした。


 いっぽう、鳥栖はクエンカというひとりでゴリゴリ突っ切れる飛び道具が脅威。富田と兵藤の両方を振り回してラストパスまで出せるってすげーよ。一方でありがたいのは周りのボール供給の質が良くないことや、クエンカ自身が周りとうまく噛み合ってないことですね。


■後半:かっぱ君と、ハモんろぺす。

 マンガ『伝染(うつ)るんです。』に「かっぱ君」というキャラクターがいましてね。弱気だけど急にハワイ行ったりするんです。

 すみません、兵藤慎剛が河合竜二(※4)に「カッパ」と呼ばれてたことを最近知ってむりやりこじつけました。


(※4)2018年で引退した元サッカー選手。兵藤とはマリノス、コンサドーレで同僚だった


▲こいつはかっぱ君じゃなくしいたけ


 三丸という優秀なサイドバックを活かして後半早々クロスからチャンスを作る鳥栖ですが、前半18分に福田晃斗が負傷交代した影響か攻撃がどうもはまらない。

 さて、原川力が出しどころなくて後ろのブルシッチにパスしたらブルシッチが上がってて吉尾海夏へのスルーパスみたいになってしまい、ポスト直撃から兵藤がこぼれ球ゲット。

 「不調なチームあるある」型の失点になってしまいましたけど、仙台の押し上げが効いていて出しどころがなかったのもひとつの要因ですね。

 鳥栖はさらにブルシッチがクリアしようとして空振って転倒してボールを手で触ってしまうというなんともアレなPK献上をやってしまいました。ハンドは気の毒な気もしますけど、こけた勢いでボール動かしちゃってたんですよね。対人は強いけど本当によくやらかすなブルちゃん。


 さて。

 自分は「やっぱり」ということばが非常に苦手であり、それでいながらうっかり使ってしまいます。

 苦手なのは、失敗を期待していたように感じてしまうから。使うのは、サッカーで物事がうまくいかなかった時に自分の心の傷を埋めるため。


 ハモンロペスがPKを失敗した時、去年札幌ドームで見た光景がフラッシュバックして「やっぱり」と言ってしまったのは自分です。本当にあいすみません。

 完全な言い訳ですが、決まったら「ハモンのPK成功率は札幌戦を除けば100%」ってツイートするつもりだったんですよ。ウイルソン(※5)の背番号9を引き継いだからってPK成功率までウイルソンに合わせる必要はないんだぞ。


(※5)2012年から2016年まで仙台に在籍したブラジル人FW。技巧派ストライカーだったがPKを外すことも多かった


 と思ったら93分に石原崇兆が大陸横断ドリブルで左サイドから中央までするする入り込み、ボールを受けたハモンロペスがダブルタッチでブルシッチをかわしてGK大久保択生の虚をつくシュートで3点目。ハモンの左足を警戒してたブルちゃんは予想外の右足についていけず、すっ転んで見送るだけという悲しい姿に。

 いや気持ちはわかるんじゃよ。「この微妙に変な髪型のタレ目ヒゲモミアゲ一体化モヒカン野郎、左は怖いけど右足は飾りやな」つって左足を切りに行ったのは理解できるんじゃよ。でもそいつ、1試合に1回くらい意外とうまい右足を披露することがあるんじゃよ……。

 全然関係ないけどハモンロペスを「ハモんろぺす。」って書くと『伝染るんです。』に似てませんか? 似てませんか。そうですか……。

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▲イラストの使い回しに飽きた? なんの話かな?


■総括:形の構築

 仙台というのは予算の関係上、その年の選手次第でチーム方針を柔軟に変える必要があります。

 インタビューを読むと、渡邉晋監督が当初考えていたのは「中盤の要が抜けた穴を分厚くなった前線で埋める」ことだった模様。しかし練習試合で守備が機能不全を起こしており、「5-3-2で後ろに人数かけて守る」「最低限の手数でハモン、長沢に突撃してもらう」という前後分断状態に。

 いっぽうルヴァン杯では昨年のサッカーを下地にした主体性のある攻撃ができており、相手が控え主体なのを差し引いてもこっちのほうが上手くいっているように見えていました。


 リーグ戦6試合目にして、ようやくいい具合のミックスレシピが見えたように思います。もっと早くルヴァン杯側に寄せたかった気もしますけど、金正也、常田克人、吉尾海夏、石原崇兆、ジャーメイン良といったメンバーを熟成させるまでに時間がかかったので無理はいえません。

 まだ1勝目なのでこれからですね。


…と、マジメな考察はここまでにしておいて。


 リーグ戦初勝利ィー!! ホアーッ!! ホ、ホアーッ!!! 

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▲勝ったぞ飲んでやる

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