はい。2020年2月21日に発売した『ペルソナ5スクランブル ファントムストライカーズ』(以下P5S)、べらぼうに面白かったです。今は難易度ハードで2周目に突入しています。
 タイトル通り、渋谷のスクランブル交差点でいきなり心の闇とスクランブル戦闘に突入するのは笑いました。
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 わたくしゲームや本を読み解きながら社会批判などを読み解くのが大好きなんですけど、このゲームは表のテーマである「情報依存」だけでなく、裏テーマとして「ジェンダーバイアス」にも目を向けつつあるのではないかなと思った次第です。
 いわゆる「作者はそんなこと考えてねーだろ問題」と紙一重ですが、できるだけゲーム中の事実をもとに考察していきたいと思います。
 ネタバレはありませんが、3番目の都市くらいまでは言及しますのでご了承ください。

 注目点はこちら。

1. アトラスとコーエーテクモ「スネに傷持つコンビ」
2. 新キャラの男女比と職業
3. 女性の役割語の扱い
4. AIのジェンダーは判断に悩む
5. アウトっぽいシーンの描き方に関するまとまらぬ考察


1. アトラスとコーエーテクモ「スネに傷持つコンビ」

 2015年に発売されたアトラスの『ペルソナ5』(以下P5)は身近かつ時代に即した社会問題をトピックとして「理不尽さへの反逆」を訴えた名作です。海外でも50万本を売り上げ、4年経って完全版が発売されるくらいの人気です。
 いっぽう『P5S』はその続編としてアトラスとコーエーテクモゲームスが合作しており、開発の大半をコーエーテクモ側の「オメガフォース」チームが担当しています。『三國無双』シリーズで有名なとこですね。

真・三國無双8 - PS4
コーエーテクモゲームス
2018-02-08



 共に名作を多数生み出していて自分の大好きなゲームばかりですが、一方でアトラスもコーエーテクモも海外販売でやらかした前歴があります。宗教面じゃなくセクシャル面で。
 アトラスを例に挙げると『ペルソナ4』『キャサリン』における性自認の扱い、『幻影異聞録#FE』における水着表現の海外向け修正が挙げられます。コーエーテクモは同社内のTEAM NINJAが制作した『デッド・オア・アライブエクストリーム3』の海外発売見送りが挙げられます。

『ペルソナ5ロイヤル』のセリフ修正記事はこちら。2015年のやらかしを2019年にもやらかした例。

『デッド・オア・アライブエクストリーム3』の海外発売見送りに関する秀逸な考察はこちら。「エロいからダメなのではない」という説明は必読です。


 一方、コーエーテクモが制作の大半を担当した2019年の『ファイアーエムブレム風花雪月』は中世風世界を舞台にしつつも現代的な差別を巧みに練り込んだ物語になっており、期待できるかな……でも部署違うからな……と期待2割不安8割くらいでやってみたのです。

2. 新キャラの男女比と職業

 オープニングが終わるとまず登場する名前ありキャラ、鏑木京(かぶらぎ・みやこ)管理官と長谷川善吉(はせがわ・ぜんきち)警部補。どちらも公安、つまり警察です。善吉は怪しいながらも渋くて味のあるオッサンとして主人公たちに絡んできますが、善吉の上官である鏑木もかなりの「かっこいい曲者ポジション」を見せてくれます。
 日本の警察は女性割合が平成31年時点で約10%、女性管理職は2.5%の世界なので(参照はこちら)、鏑木管理官は相当に厳しい世界を戦い抜いてきたと推察されます。
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 さらにAI研究者として「一ノ瀬久音」と「近衛明」、政治家も各1名ずつ男女のキーパーソンが登場します(近衛はビジネス寄りですが、別の男性研究者も出てきます)。
 「AI研究者」って区切りはふわっとしてますが、2017年時点で研究者のうち女性は全体の15%、工学に限定すると10%です(参照こちら)。政治家だと2019年時点で女性は参議院22.6%、衆議院10.1%(参照こちら)、市区議会では15.2%(参照こちら)なので、まあいずれも男性の多い仕事です。
 これらの仕事における男女のキーキャラクター比を均等にするのは結構珍しいんですよね。

 敵となる王(キング)の設定はコーエーテクモ側で考えてアトラスが直しを提案したそうで、こちらの男女比もほぼ均等です。『P5』では主要ボスほぼいい年の男性でしたよね。
 まあこれは『P5』が男性偏重だというより権力者を敵として狙い撃ちしたらおっさんに集中した結果だと考えられますが、その続編でこの配分は意図的だと思うのですよ。

3. 女性の役割語の扱い

 ゲームでも洋画でも、いわゆる「女言葉」ってありますよね。「の」「わ」「よ」が語尾につくやつ。フェミニストであるエマ・ワトソンや『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の闘士フュリオサが翻訳では「私はこう思うの」「このウォー・リグは最強よ」なんていうやつ。
 話をわかりやすくするための役割語という側面もありますけど、現代日本で使われないのに創作では根強く残る特徴的なスタイルともいえますね。『P5』はけっこう口調を現代的にしていますが、仲間のひとり新島真などこの口調で話すキャラも多いです。
 話は逸れますが、これを逆手に取った一節が『ゲド戦記』の短編集「ゲド戦記外伝」の某エピソードにあるので、読んでみると面白いです。気づくと「あっ」てなります。

日本語とジェンダー
ひつじ書房
2006-06T


 さて、固有イラストがついてる今作の新規女性メインキャラ(※1)ほぼ全員「いわゆる女言葉」を使わないんですよ。例外的な1名である氷堂も「社会的地位や年齢を考えると女言葉使う世代かも」って思えるようになっていて、逆に説得力があります。
 ま、そのへんの一般市民キャラはけっこう使いますけどね。

 特に鏑木、ソフィア、一ノ瀬はテキストだけ見れば女性だと思えない口調ですが、それでいて3人とも個性書き分けはしっかりできているのです。一ノ瀬さんいいキャラしてますよね。トンペー(※2)の研究者だし。

 なお自分が「女口調=全部ダメ、ではない」と考えているところは補足しておきたいと思います。時代劇で現代的すぎる話し方の登場人物を下手に出すとフィットしないなんて事例もあります(※3)。
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▲一ノ瀬久音はP5、P5S通して最も好きなキャラのひとりになりました

(※1)鏑木、アリス、ソフィア、一ノ瀬、氷堂、茜
(※2)東鳳大学のモデルになった東北大学の通称。麻雀を基礎教養としていた昔の学生が親しんだ「東南西北(とんなんしゃーぺい)」からトンペーと呼び始めたという都市伝説が存在する。
(※3)逆に時代劇で口調も感覚も現代に近いキャラをアクセントとして使う手法もある。『真田丸』の「きり」など。

4. AIの扱いは判断に悩む

 この記事書いてるタイミングで高輪ゲートウェイ駅の話が出てきたのですが、アレは「AIってレベルじゃなく作った人の趣味が反映されただけ」で明らかにアウトなのでここでは触れません。

 性別を対で考えてきたこのゲームで、1組だけ男女比の不均等な対照的キャラクターがいます。高性能AIの「ソフィア」と「EMMA」、どちらも女性です。正確に言うとEMMAは性別不詳のAIなので「女声」と書くべきですが、どっちにしろ女性のボイスです。
 1年前ですがこんな調査記事もあったので、AIを安易に女性化するのは根深い問題だったりするのです。

 が、これは物語として計算した結果かもしれません。考えられる理由はふたつあります。
 ひとつは、EMMAの開発者である一ノ瀬が自身を投影したから女声になったかもしれないということ。
 もうひとつは、EMMAが前作某キャラと対の存在である可能性が高いということ。こちらはネタバレにつながるため別記事で書きます。
 ソフィア自体ルックスは少女ですが、性別を匂わせる要素は比較的薄いのですよね。

 これまでもコンピューターに擬似人格を宿したアトラス作品は多数あり、『デビルサバイバー2』のナビゲーションシステムは男女選択式、『真・女神転生Deep Strange Journey』のアーサーは男声、『真・女神転生4』のバロウズは女性、『真・女神転生4FINAL』のダグザは男性、とわりあいブレブレです。
 確証はありませんが、「壮年男性」の善吉と対称性を考えて「幼い女性」になったと考えられます。

 少し話はズレますが、AIと男女ついでに「AIが男女差別する傾向」の記事を見つけました。こちら
 学習させた履歴書データがもともと男性比率高かったため、「女性」というキーワードを含む履歴書についてはAIが低評価を出すようになってしまったという怖い話です。
・社会常識自体が偏っている可能性もある
・学習に偏りがあると結果もそれに沿った偏りを見せる
というのは『P5S』のテーマに通じる話でもありますね。
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▲「愛で動いてる」「AIだ」のダジャレは3回語られますが、ソフィアの名前を考えると意味深

5. アウトなシーンの描き方変化

 ここまで褒めておいて、どうなんだろなーいや過去から進歩してる気もするなーと言う場面を。
 ほぼ自分用のメモです。

 まあぶっちゃけ『P5S』後半の温泉シーンなんですが、「旅館側のミスにより男子が入ってるところに女子が来る」というラッキースケベの流れだけど「男子は覗く気ゼロで命の危機を感じ立ち去ろうとする」「でも見つかって誤解なのに殴られる」という展開になるんですよね。
 そもそも風呂シーン2回もいらねーだろうというツッコミは置いといて、ひとりも「覗き」を肯定的に話さないあたり、さりげなく倫理的アウト行為への警告を暗示しているようにも思えるんですよね。
 アトラスが2010年に出した『デビルサバイバー2』では女子部屋に潜入して声だけ聞くシーンがあり、リメイク版ではご丁寧に絵がつくという展開があったのですけど、それに比べると進歩はしています。

 杏が異世界でセクハラじじいにジロジロ見られた後は1日落ち込んで多数の仲間から支えられる描写があり、そこ丁寧だなあと思ったんですよね。セクハラじじいのシャドウの背景までモルガナが考察してたし。

 海に来た杏が水着ではしゃぐのを見て竜司とジョーカーが喜ぶシーンはわざわざアニメーションになってるんですけど、露出の多い私服や水着が本人の選択ならセクハラ的な表現が付きまとわない限り問題ないというロジックが成り立ちます。
 前述したDOAX3の記事に「要するに、嫌がる女の子のリアクションを楽しむコンテンツの意図そのものが、国外から批判を浴びているのだ」という一文があったのですけど、『幻影異聞録#FE』で織部つばさがグラビア撮影に挑戦するシーンで、WiiU版では「水着を着て恥ずかしがる」演出だったのが海外およびSwitch版では「ポップな衣装を着てドヤ顔でポーズをキメる」演出になったのも似た理由ですね。

6. まとまらないまとめ

 『P5S』がいいなあ、と思うのは「ここまで書いてきたことを直接的に言わない」ことです。
 荒木飛呂彦先生が講演で「大事なことをメインキャラクターに大声で言わせちゃダメ。その時点で読者は冷めちゃう」とおっしゃっていたのですけど、まさに鏑木や一ノ瀬は「当たり前のように男性の少ない業界で働いている」「でも苦労は察することができる」という描かれ方をしています。

 なお、今回はいわゆるジェンダーマイノリティへの言及はないように思われますが、これもひとつの選択と考えられます。からかうような小道具として使うよりはよっぽどいい。
 見落としている可能性は非常に大きいので、ご指摘があればぜひお願いします。

 このへんで強引にまとめます。
・男女比や言葉遣い、職業は意図して均等にしたと考えられる
・女言葉を使わない女性率の高さは着目点
・AIが女性的なのは前作および善吉とのバランスの結果か
・ラッキースケベ的な描写はあるけど減ってる
・一ノ瀬久音さんは素敵です
・新島真と喜多川祐介も大好きです

 今回はこんなところです。P5S自体の深掘り考察もそのうち書きたいです。ソフィアの名前自体がテーマの根幹やぞ。