September 20, 2008

無用独語

更新がまったくなく、いらして下さる方には、たいへん申しわけありません。

以下の姉妹サイト「無用独語」で、ほぼ毎日更新しています。よろしくお願い致します。

http://dokugo.seesaa.net/



August 01, 2007

アパート「水漏れ初体験」顛末記

旅行の3日前だった。外での昼食から帰って見ると、一階のホールに消防士らしき男が2人立っていた。そのかたわら、階段の上から、ものすごい勢いで水が滝のように落ちている。

「すわ、火事か?! まさか、オレのアパートじゃ……」

と驚き、消防士にどうしたのか訊くと、おまえは何階に住んでいるんだと問い返した。

「何が起こったんです?」

 

上の階に住む者が蛇口を閉め忘れて外出し、水が流れ出したんだと言う。しかし、普通の量ではない。2、3時間は流しっ放しにしたに違いない。もちろん電気は止まっていて、昼間でも陽の入り込まない階段付近は真っ暗である。「もう蛇口は閉まってるから」との消防士の確認にホッとし、手さぐりで階段を昇る。どこまで行っても、水がひっきりなしに落ちてくる。家は6階だが、水はさらにその上から落ちてきていた。

 

6階まで来てみると、水は床全体に広がろうとしていた。いそいで自分のアパートのドアのところに急いでタオル類を掻き集め、玄関付近に並べ置いて壁を作った。

ホールからはまだ騒ぎ声が聞こえる。もう7月の半ばだから、バカンスに出てしまった家庭もあるだろう。その点、まだ旅行に出ていなくて幸いだった、などと変な安堵をしつつも、これからどうなるか不安であった。

 

今は夏時間で10時ぐらいまで明るいからなんとか生活はできるが、これでは仕事ができない。トイレやシャワーが不便などころか、冷蔵庫にあるものも悪くならないか気になる。管理人は「すぐ電気は戻るから大丈夫」と言った。しかし、そこはフランス。そう迅速にはいかないのである。冷蔵庫の牛乳などは、すぐダメになった。結局、電気は、その後翌々日まで戻らなかった。

 

噂には聞いていたが、アパートの水漏れ。しかし、それが自分の身に起ころうとは、しかも、旅行出発前に。あまりにもクラシカルではないか。仕事は、あちこち駆け回ってなんとかギリギリにやっと仕上げた。

いったい、こんな仕業をしたのはどこのどいつだ。電気は来ないわ、冷蔵庫のものはダメになるわ。まったく腹が立ったのだが、しかし、もっと腹が立ちあきれたのは次のことだった。

 

誰がこんなことをしたんだろう、と興味がわいたので、懐中電灯片手に上の階に行ってみた。ウチの真上のすぐ隣に位置するアパートの入り口に警官らしき男が二人立って中の住人と話している。事情聴取だろうか。どんなバカ者だろうか、とそのアパートを覗いてみた。

 

若い女が一人、バスローブを着て何かを説明していた。足元の床からは、まだ激しく水が流れ出ている。明らかに、ここが“震源地”である。しかし、女は、まるで自分のことでないように、(薄ら笑いさえ浮かべて!!)事の成り行きを説明している。アパートの住人のこちらを見ても、謝るどころか挨拶さえしないのである!!

 

そんな大馬鹿パリジェンヌの話を、知り合いのパリ人にしたら「ああ、それがパリ人なのよ」とこともなげに言った。ほとんどが自分の責任感という意識がなく、「パリ人のごう慢さ、不遜さは耐え難いほどなのよ」。

 女性はとくにそのようだね、と怒りを込めて言うと、「そう、パリジェンヌは有名ね。だって、パリジェンヌだから」と応えた。

 

その瞬間、過去に出会ったさまざまなごう慢な「パリジェンヌ」が頭に浮かんだ。平気で列に割り込んでくる若い娘(男より女の方がはるかに数が多い)、ところ狭しと混んでいるレストランで平然とタバコをすう女性、スーパーの狭い通路でこちらが道を開けるのを当然であるかのように見下すマダム……。パリ人である上に、社会で甘やかされて出来上がったパリジェンヌ。

 

 キレイな顔の下に隠された、無責任で、横柄な糞パリジェンヌめ。まあ、世界的な基準からいえば、日本の男性、とくにオッサンもかなり鼻持ちならん存在だが。

 しかし、パリに来て、ホトホト「女」というものが嫌いになってゆく

December 11, 2006

フランス語会話クラスにて(歴史的遺産)

パリに住むようになってから、週に一度、フランスフランス語会話クラスに行っている。

 

自分の語学的無能さを棚に上げて言うのだが、身近で語学に熱心な人を見ていると、「話したい」という意欲は、本当に「話せるようになる」のエンジンなのだなあとつくづく感じる。むかし、どうやったら英語が上手くなるかと訊かれて、必ずしていた答えは、「アフガンなどでの、外国人に物を売りつける子どもなどを、ごらんなればわかるように、本当に話したい、話さなくてはならないと必死になれば、なんとか話せるもんです」というものだった。まさに、「必要は能力の母」と思うのだ。

 

このクラスに出てくる人々の進歩ぶりは、目を見張るものがある。最初はほとんど話せない人でも、そこは、さすが子どもではない。どうしても言いたいことがあると、シドロモドロでも必死に伝えようとする。たとえばアメリカン人のマリリンは、ブッシュ大統領のことになると批判が多いのか、口角泡を飛ばし熱心に話そうとする。もう一人のアメリカ人リーは、先ごろのローマ法王の“失言”が正確に報じられていないと、汗だくになって必死に説明しようとした。そんな風にしていると、オレが参加してからのたった2ヵ月ほどのあいだでも、驚くほど進歩する。二人とも、(アメリカ人らしく)時間を独り占めしてしまうのが問題なのだけれど……。

 

 さて、その会話クラスの話である。このクラスは、あらかじめ新聞記事やコラムを読んできて、そのトピックについてまず各自が自分の考えを言うのだが、毎回、取りあげる話題がなかなかおもしろい。今日は、歴史的遺産の話であった。

 

 新聞コラムは、しばらく前にあった「ベルサイユ宮殿」の修復(お色直し)のこと。コラムにつけられた写真では、大気の汚染などで汚れていた「前」が、修復「後」ではまるで別の建物のように異なっている。そこまでするのは、時間の流れの中にある歴史遺産の「歴史性」を“逆行”させようとすることになるのではないか、という批判である。

 

もっともな話で、歴史的建造物が朽ち果てていくのも、何かのひょうしに壊れてしまうのも、自然や人間たちとともに時間の流れの中に置かれた必然のようなものではある。それに介入することは、人間の不遜な行為なのではないか。しかも、すべての「老朽化」や「退化」に手を加えるわけにはいかない……。

 

 そこで、自分の番がやってくると、こんな話をした。

 「写真家が、林に、いや、ジャングルですね、生き物、動物の生態を写真に撮りに行くと想像してください。そのとき、大きな鮭(saumon)、いや、お説教(sermon)じゃないな、えーと、大きな蛇(serpent)が、巣にいる小鳥を食べようとしたり、大きな獣肉(gibie)じゃなくて、獣(bête)が小動物を殺そうとするとしましょう。そのとき、この写真家は、『残酷だから』といって、その行為を止めさせるべきでしょうか。その“栄養の鎖(chaîne d’aliment)”、えっ?“食物連鎖(chaîne alimentaire)”というのですか? そう、それに介入すべきでしょうか。それは違うと思います。それは正しくないと思います。

 

しかし、われわれの建物の場合はどうでしょうか。建物が大気の汚れなどによって、汚れていく場合は別かもしれません。その大気汚染が、人間の行為によって起こる場合は。それは人間に責任があるのですから。その場合は、介入すべきではないかと思います」。

 

そんなことを、シドロモドロに、あちこちつっかえながら述べた。まわりの反応が好意的だったので、調子に乗って(困った性格だよなあ)、こんなことも(さらにシドロモドロに)言った。

 

「もちろん、議論が分かれる場合もあると思います。たとえば、戦争の空爆でやられたドイツ、ドレスデンの教会を修復するというのは、いい考えではありますが(わたしも見に行って感動しました)、あのような美しいものを破壊した人間の“愚かさ”、戦争という人間の“バカさかげんの証言者”を残すという意味はあるかもしれません。ただ、歴史的なモニュメントの場合、誰がそれを決める権利があるのか。難しいと思います。たとえば、アウシュビッツ収容所は、人間の“残酷さ”の証人として残す価値があると思いますが、もしその生存者たちが、それを望まないとしたら……。われわれに、それでも残すと言う資格があるでしょうか?」

 

 クラスのみんなは黙っていた。このクラスには、ヨーロッパの国々から来た人たちがいる。「アウシュビッツの現実」は、もっともっと複雑で、そんな単純なものではないだろう。そんなことを思いながら、同時に、広島の原爆ドーム――それが、最近、周りにビルが立ち始めて、この「ヒロシマ」の目撃者がないがしろにされ始めたこと、似たようなことが起こりつつあるケルンの大聖堂、さらに、薄れゆく戦争の記憶、痛み、苦悩、いや、残酷な犯罪の被害者がその犯罪者にも会いたくない時の気持ちさえも、こんな喩えでは伝わらないだろう、と考えた。歯がゆかった。

 

「喩え」が悪かった。いや、というよりも、いま学び始めたばかりの、この自分の“貧しい言葉”があまりに表面しかなぞらないのを、痛感した瞬間だった。



mougo at 21:30|Permalinkclip!

September 14, 2006

丸山真男と日本社会

   思想家、丸山真男についてのビデオを観る。その中で、丸山の言葉で印象に残ったものをいくつかあげる。

1.     オウム事件では、日本でしか通じない“論理”というものを見たと思う。(オウムというグループでしか通じない論理が、悲劇的事件を起こしたわけだが、その「自分にしか通じない論理」というのは、日本社会全体に無関係というわけではない、という意味である。)

2.     日本人は、自分のと違った分野、自分と違ったグループとは交流しない。自分のグループとはすぐ話をし始めるのに。

3.     日本人に特有なのは、いわゆる「他者感覚のなさ」というものである。仲間とばかり話したがる。

4.     認識というのは(周りでさまざまなことが起き続ける以上)無限に続くものだが、その無限の認識過程を断ち切るところに「決断」が生まれる。私も決断をしなくてはならない(東大の職を辞するにあたって)。

5.     (昭和天皇の崩御の時の日本社会のような)自粛ムードというのは、眼に見えない強制力が働いているわけだが、誰が始めたというわけではない。そこには内面性の欠如がある。

6.     私が提案したいのは次のことだ(題せば「永久革命の民主主義」)。

(ア)  まず一人一人が独立した人間になること

(イ)  他人を独立の人間として尊重すること

(ウ)  間違っていることについては「ノー」と言うこと。この「ノー」と言いうる精神が重要である。

2番目の「自分と違ったグループとは交流しない」というのは、海外の日本人によく見られる現象だと思う。海外にいるのに、すぐ「出身大学はどちらですか」と、日本の“出自”をたずねる日本人は多い。同じ大学だとホッとするらしい。仕事も同じ業種だと話が盛り上がるが、そうでないとほとんど会話が進まない男性たち。しかたなく、お互いに知っている漫画やテレビ番組の話なんかをしている。そういう共通の話題があるときの盛り上がりはすごいもののようだ。日本人社会の全体に広がる“仲良しクラブ”現象。

そこにあるのは、「自分と違う者」との接点を求める姿勢よりも、自分と同種・同質の者を探し求める態度だと思う。仲間とばかり話したがるのはそのせいだろうし、初めて会う人や違う文化から来た者に苦手(あるいは、お決まりの「お世辞」しか言えない)なのも、その延長線上にあるのかもしれない。常々、日本人には、いわゆる「社交性」というものがないんじゃないかと感じているのだが、それは日本人のこういう「他人の壁」メンタリティーで説明できるかもしれない。

こうしたことを、生涯一貫して理論的に指摘し続けた丸山の原点は、反権威・反「タコツボ化」だった。「タコツボ化」というのは、上に書いたような「仲良しクラブ」的な傾向を言う。ビデオを観て、彼の学生時代、東大法学部教員時代、戦争中の出兵、東大法学部助教授時代、大学紛争時代、東大法学部の職を辞した後さまざまな小さな読書会や講演会に頻繁に参加していた頃、そして一生を通じての著作活動――と、その生涯を通じて、学生のとき受けた影響が色濃く反映しているのが分かった。

彼は、東大法学部学生時代に、長谷川如是閑の講演会を聴きに行っていたというだけで警察に捕まり、本郷の富士見警察署に連れて行かれ、強引で理不尽な尋問にさらされたという。そこで、日本の「権威」を笠に着る者の威圧的で独断的な態度を目の当たりにし、それが丸山の日本の政治・思想風土観の形成に影響した。(その後、丸山は「特高」に追い回されることになる。)



November 07, 2004

球団合併問題(3) ―― その後の経緯


さて、球団合併問題のその後、ストライキにいたるまではどうであったか。細かく述べるのは煩瑣になるので、定点観測的にいおう。全体の問題を整理することにもなるかもしれない。ニュースソースとしては、朝日新聞の主にインターネット版を使っている。今回の問題に直接的な関係のない、朝日、毎日、日経、のどれでも良かったが、たんなる便宜上、朝日新聞を使った。他意はない。

このような事態になって、選手たちも黙っていたわけではない。プロ野球の選手たちで構成する「労組プロ野球選手会」(以下、選手会)が、まず、豊蔵一・実行委員会議長(セ・リーグ会長)に、合併問題について選手もふくめて話し合うための特別委員会の招集を申し入れた(6月18日)。申し入れ書では、球団の財政を再建するために、この問題が出てくるはるか以前の2004年1月に近鉄から提案があった「命名権売却」という資金調達手段について再度検討することや、買収企業が名乗りをあげやすいように30億円の参加料を免除することなど、合併を避けるための具体的な方法を審議するよう求めている。さらに、近鉄も含めた赤字球団を救済するために、ドラフトの「完全ウェーバー制」(下注参照)の導入やセ・パ交流戦実施など球界全体の利益をあげるための方法についての話し合いも求めていた。きわめて合理的で、球界のための具体策にあふれたものだった。ところが、選手会の申し込みは門前払いを食っている。この特別委員会の開催の正当性については、野球協約19条に定められているにもかかわらずである。

注:持っているお金の多寡にかかわらず、勝率が下位の球団から選手を指名できる制度。アメリカの大リーグやフットボールリーグのNFLでは、この方法でチーム間の不均衡がかなり改善されている

選手会は、近鉄とオリックスの合併問題が十分に議論されていないとして、日本プロ野球機構(正式名称「(社)日本野球機構」、以下、プロ野球機構)に1年間の合併延期を要望した。野球協約にある特別委員会の開催も、再度、申し入れた。しかし、プロ野球機構側からは明確な回答はなかった(7月5日)。(5日後の10日、12球団代表者会議は、延期はしないと決定した。)この騒動の中心的存在であり、オーナー会議で議長もつとめる巨人の渡辺オーナーは、7日、「100年議論すれば十分だと言うのか。1年かける必要はない。2カ月あれば十分」と述べた。さらに、「朝日新聞の論調に迎合するような方向に引きずられる必要はひとつもない」と付け加え、反朝日の立場を明確にした。西武の堤オーナーは、長年にわたって初めてオーナー会議に出席したが、会議後の記者会見でパ・リーグでもう1組の合併の計画が進んでいることを示唆し、1リーグ移行について「9月8日のオーナー会議までに(合併話を)積み上げ、来季からと思っている」と強い意欲を表明している(7月8日)。

一方、近鉄バファローズの選手会は、12球団で初めて、合併に反対しチーム存続を求める趣旨の署名運動をすることを明らかにする(7月4日)。それと時を一にして、ファンの側からも行動がおこった。近鉄の本拠地大阪ドームの近くにある商店街は、同商店街と電子メールで募ったチームの存続を願う署名、約1万人分を、大阪市内の球団事務所を訪れ手渡している(7月5日)。 その後、日本各地でファンのデモや、球場で選手会を応援するはっきりした声などがあがっていく。

ファンの声に押されるように、選手側からも現場やファンを無視したやり方に不満が噴出してくる。
選手会の会長の古田選手(ヤクルト)は、「ファンの意見を広く聞きたい」と述べる(7月8日)。それまで、労使交渉の窓口は各球団代表クラスになっていたが、古田会長は8日、合併問題での球団側との話し合いについて「オーナーたちと話をしたい」という意向を明らかにする。新聞報道によれば、その夜、その発言について報道陣から意見を求められた巨人の渡辺オーナーは「無礼なことを言うな。分をわきまえないといかん。たかが選手が。立派な選手もいるけど。オーナーと対等に話をする協約上の根拠はひとつもない」と吼えた。選手会古田会長の「もっと対話を。こんな性急な決め方では、ストも視野に入れなければならない」という意味の発言に対しても、「スト?どうぞ。やればいい」と怒鳴ったという(8日)。

9日、12球団の選手会長と球団代表らによる意見交換会が大阪市内で開かれた。球団代表側は合併にいたるまでの経緯や苦しい球団経営事情などを説明したが、各球団の選手会長はみな合併案に反対の声をあげた。翌10日、プロ野球選手会は、名古屋市内で臨時大会を開き、球団合併が強行される場合「最終手段として、ストライキを行う場合もある」という方針を決議した。選手会がストライキに関する事項を大会で決議するのは、史上初めてである。このほか、(1)合併の1年間凍結(2)選手と経営者側が話し合う特別委員会の開催(開催されない時は、コミッショナーへ提訴)(3)選手の年俸高騰を防ぐ対応策の検討(4)合併問題などの再発を防ぐため、一部の球団に戦力・資金が集中する現行制度の見直しの提案(5)合併について検討する有識者らを含めた諮問機関の設置、などの方針を決めた。13日、選手会の松原事務局長は東京都内のコミッショナー事務局を訪れ、10日の臨時大会の内容を伝え、26日に開かれる実行委員会の議題にすることを求めた。

こうした選手たちの活動を、ファンは大いに支持していく。10日にプロ野球のオールスター戦のあったナゴヤドームでは、「合併反対」「負けるな選手会」「1リーグ制断固阻止」など大小約20枚のプラカードが掲げられた。オールスター戦の出場選手は、12球団の球団カラーを織り込んだミサンガ(編みひも)を手首に巻きつけて試合をした。選手たちの結束を示すとともに「ファンも選手もプロ野球の一員です」というメッセージをこめたという。

12球団のすべてのオーナーが、みな、合併論者や1リーグ論者だったわけではない。この時期、阪神の久万オーナーは、2リーグ制維持をはっきりと表明した。その数日前に、2リーグ制維持を主張する元阪神監督の星野氏(現在、阪神のシニアディレクター)と会談したというから、きっと彼の論に説得されたのであろう。そして、なんと、セリーグの巨人を除く各チームのオーナーと個別会談を始めたのである。驚くべき一手だった。そして、ヤクルト、中日、横浜、広島のセ・リーグ球団が「2リーグ制」を標ぼうしていく。(これは、1リーグになると巨額の放映権料が入る対巨人戦が減るためだ、という思惑が働いたからだという説もある。)

プロ野球12球団による実行委員会は、7月26日午後に始まった。来季から1リーグ制に移行するのかについて初めての公式に議論する場であった。これに先立って、セ・パ両リーグはそれぞれ理事会を開き、パの理事会は、セに対し「もう一組の合併が起こったら1リーグ制で、とお願いする」ことをあらためて確認していた。しかし、会議は6時間45分に及んだものの結論は出ず、8月16日に改めて話し合うことになった。 阪神の野崎社長が「来季は2リーグでやり、球界再編は1年間かけて議論すべきだ」と主張したが、1リーグ制移行をあえて主張するパ・リーグの球団は反対したのである。

プロ野球選手会も積極的に動く。野球協約では、特別委員会で「契約に関する事項を選手を交えて話し合う」と定められている。そこで、選手会は、8月9日、それを経ないで近鉄とオリックスの合併を進めることを承認した実行委員会決議の無効を訴え、プロ野球組織の根来コミッショナーに裁定を求めた。また、選手会は、自分たちの要求が、特別委員会の招集について「検討中」とする以外は、すべて拒否されているのをふまえて、7月27日から8月8日の間に12球団の組合員752人全員による無記名投票を行い、近鉄とオリックスの合併凍結などを求めるストライキ権を確立する。そのむねを、12日、経営者側に当たるプロ野球機構に伝える。選手会のスト権確立は初めてである。

しかし、プロ野球機構側の対応は、あいかわらずであった。業を煮やしたプロ野球選手会は、8月24日、合併・再編問題についてのプロ野球組織側の交渉を不誠実とし、その週中にも東京地裁に「団体交渉を求めうる地位にある確認」の仮処分を申請する方針を固める。組織側が、特別委員会を開催しないと決めれば、「選手契約に関係ある事項についての選手を交えた議決機関」と定めている野球協約や統一契約書によって請求権があるとし、法廷で争う方針をしめす。

選手会は、根来コミッショナーに対し、特別委員会を招集するように実行委員会(議長は豊蔵セ・リーグ会長)に指令を出すことを要望していた。しかし、そのことに対しても、翌25日、根来氏は、それを拒否すると正式に選手会に伝える。その理由として、根来氏は、指令を出さない実行委員会が近鉄とオリックスの合併は経営権の問題と判断している点や、野球協約上、「指令を出す要件が抽象的」である点などをあげた。野球協約では、特別委員会は選手契約に関する事項について議決する機関であり、また、コミッショナーが指令を出す要件は「野球最高の利益を確保するために」と定めている。2球団が合併すればチームの選手の何人かのクビが飛び、リーグの再編成はペナントレースや日本シリーズ(試合をする究極的目的)すべてに影響するというのに、この現在の問題は「選手契約」の問題とは関係なく、「野球最高の利益」にかかわるともみなさない、というわけである。恐ろしい詭弁というほかないであろう。選手会の古田会長が法的措置を取る可能性をにおわせたのも、当然である。
 
8月27日、近鉄バファローズの親会社である近畿日本鉄道は、基本合意していた球団合併に伴う契約をオリックスと結んだと発表する。しかし、詳細は明らかにせず、翌月8日のオーナー会議の最終承認を得て公表すると表明する。

こうした流れを止めようと、選手たちも、早い時期から必死であった。前月7月14日に近鉄選手会がファンの合併反対署名活動に参加を決めたのを皮切りに、以降8月3日までに、中日、横浜、ロッテ、ダイエーと、続々と阪神を除く球団が署名活動を展開していく。その様子を、ちょっと点描してみよう。

中日の選手会は23日、広島戦の試合前にナゴヤドームのゲート前で、合併に反対するファンの署名を集める。合併の当該球団以外の選手会としては初めてである。この日はたった30分間で500人分以上の署名が集まった。

24日付け中日スポーツ紙によると、署名運動に参加したのは、川相、山本昌、岩瀬、川上、バルデス、筒井壮、土谷、前田章の8人である。社団法人プロ野球選手会の専務理事も務める川相が「合併は球界の縮小につながり、選手にとって死活問題。中日の選手会は反対しようと思っています。賛同される方は署名をお願いします」と呼び掛けると、ファンは用紙に名前を書こうと長い列をつくった。今後もホームゲームの際は随時、試合前に署名を呼び掛けていくという。(中日スポーツ)

また、日刊スポーツによれば、まず初めに川相昌弘内野手が「近鉄とオリックス、それに新たにあると言われている合併に反対しようと思っているので、賛同される方は署名をお願いします」と呼び掛けた。川上憲伸、岩瀬仁紀両投手ら8選手が球場入り口横の机に座るとファンの列ができ、この日は502人分の署名が集まった。川相内野手は「井端選手会長と前からやろうと話していた。ホームゲームの時はこれからも続けたい」と話した。(日刊スポーツ)

元巨人の川相は、自分がもといた球団に正面から反対を唱えている。信念のある立派な行為だと思う。ヤクルトなどでも、ファンは合併に反対する横断幕を張るが、球場側に撤去されてしまう。球団のファンの行動に対する締付けがあったわけである。

一方、アテネ五輪日本代表の宮本慎也主将(33=ヤクルト)が、ファンの結束を促した。・・・合併問題に関し「セ・リーグの球団のファンも横断幕とかで意見を主張してくれたらいいのに」と、近鉄やオリックスのファンだけでなくセのファンも行動してほしいと訴えた。
 合併問題が浮上して以降、ヤクルト戦で合併に反対する横断幕が出たのは球宴直前の中日戦(ナゴヤドーム)だけ。本来、掲示してはいけない場所だったこともあるが、警備員に撤去を求められ、あっという間に消えた。宮本としては、選手会が12球団の垣根を取り払って一致団結しているように、ファンも声を出してほしい考えだ。(日刊スポーツ)

一方、毎日のプロ野球ネタの中心である渡辺オーナーのお膝元、巨人の選手会もついに動き出す。球団合併や1リーグ制への動きに異議を唱える署名運動を試合前に行って、25分で672人署名集めたという。これは、観客の数からいえば微々たるものだが、署名活動の参加選手に対しては球団側から解雇・トレード・減俸といった「報復行為」も心配された、と報じられていたのだから、よくやった、と言うべきだろう。(7月28日付日刊スポーツ紙)

ファンも、全日本各地で、反対活動を実施していく。たとえば、8月11日、近鉄の私設応援団関東支部の呼びかけに応じて集まった約350人のファンのデモ行進が、東京都内で行われた。デモは日比谷公園をスタートし、「来年も日本シリーズが見たい」「ファンの心オーナー知らず」と書かれたプラカードを掲げて、「安易な合併を許すな」「ファンの声を無視するな」と声を上げた。9月5日には、12球団のファン約200人がプロ野球球団の合併反対と2リーグ制維持を訴え、「心はひとつ、リーグは二つ」「古田がんばれ!」などのプラカードを掲げて東京都内をデモ行進した。7日には、球団合併や1リーグ制移行に反対するイベント「野球を愛するファンの決起集会」が東京の日比谷公園野外音楽堂であり、約1500人が集まったという。

(参照)2004年8月9日プロ野球の明日を考える会シンポジウム配布資料
http://page.freett.com/bbholic/siryou040809.htm 


mougo at 00:08|PermalinkComments(0)clip!野球