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Q:今回のニューモ デルはモールトン博士のアイディアに基づいてダイナベクター(以下DV)が開発したものなんでしょうか?


A:さかのぼると2007年、私がスポーク・テンションをフレームに利用するコンセプトを考案し、真鍮パイプと半田づけで作った四分の一モデルを翌年モールトンに持ち込んだのです。
それをご覧になったモ博士は非常にびっくりされて、博士自身が70年代に作った同じようにスポークを使った試作品を見せてくれまし た。
私も非常に驚きました。地球の反対側どうしで、同じことを考えついたわけですから。

私のモデルと博士のものはスポークの使い方が異なってました。
博士のほうはパイプとスポークの組み合わせでは強度を確保できない、という結論に近づいていたようですが、私の手法を見て、この方法は発展させる価値がある、と言って頂きました。


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 ( 1/4 スケールのモデル 2007年11月)


 
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 (模型好きの博士にほめられました。 2008年1月)

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 (昔、博士が作ったスポーク・テンション・フレーム試作品)
 



Q:そこから共同作業が始まったと。

A:模型が気にいった博士に「これはテストをするから置いていけ」と言われ、

その後あちらの工場でけっこう本格的な強度試験をしてくれたのです。共同作業と言うほどではありませんが、こうしてメールをやりとりして進捗状況を報告したりしてました。

ところが実際に私のほうで原寸大のフレームを作ってみると全然剛性が出ない。
何本も改良版を作っていくうちに、スポークの配置法、弱点、特性などがわかってきました。
そういう報告には非常に熱心なアドバイスを頂きました。


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(モールトン工場での試験の様子。スポークを張ると緩めた時の1.5倍の剛性などの好結果)



Q:博士の反応はどうでしたか?

A:博士のほうはスポークを細いパイプの横に張って、パイプの引っ張り強度を補完する方法でした。
つまり引っ張りには強いが、圧縮には強度ゼロというスポークの特性からくる考え方です。
そこから発展してカーボン・パイプの中にスポークを通すという方向で新しいフレームの開発をされてました。
M-Dev90と呼ばれる博士の遺作です。


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(M-Dev 90 の試作初期と発表時の写真)



私のほうはスポーク・ホイールを発想の原点においているので、スポークの使い方が違うのです。
フレームをリムに見立て、中心のハブからはえたスポークが強度を出す考えです。
博士のほうは既存のモールトンより軽くて強度のあるフレームを目指してましたが、
私のはAMと同程度の重量、というレベルです。
ですから競合するところはなく、私の方向性にはオープンな支持を頂きました。


Q:博士が亡くなったのは2012年の12月ですね。 DVモールトンのプロトタイプはご覧になったのですか?

A:フロントフォークはご覧になりましたが、残念ながらフレームのプロトの前に亡くなられました。 
2011年に大震災があり、気分的に渡英できずにいたら12年に
妻が病死、その後小学生だった息子が不登校になったりで開発は2年近くストップしていました。
博士の訃報に接するや後悔の気持ちとともに開発を再開し2014年春、そのフレームを持って博士の墓前に報告してきました。

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(墓前に持っていった5台目の試作フレーム)
 

 

 

Q:フロントフォークについて解説して下さい。

A:アンチノーズ・ダイブ、つまりブレーキをかけても沈まない、ニューシリーズ系のFサス(フレクシター・フォーク)の特性と同じです。
さらにフリクションを極限まで減らし、スムースな作動を得る設計です。
AMフォークのように単純にバネを押すだけというシンプルな構造よりは部品点数も多く複雑ですが、それもこれもフリクション低減のためです。
特にボトムリンクのピボット部に合計4個仕込んだボールベアリングはフリクション低減に大きく寄与しています。


二本のスプリングの合計重量はAMのシングルスプリングより重く、また周辺の小さな部品の点数も多い。それでもAMのフォークより軽く出来たのは肉薄オーバル・テーパーのメイン・フォーク部材、中空クラウン、アルミのボトムリンクなどによりま す。


Q:そのボトムリンク支持のボールベアリングについて説明して下さい。


モールトンでは4個のオイルレス・メタルによってラジアル荷重を、8枚のプラスチック・ワッシャーでスラスト荷重を 受け る設計です。
取り付けナットの締め具合によってワッシャーにフリクションを発生させ、ダンパーとしています。
この設計では、仮にナットをゆるめ気味にしてフリクションダンパーをゼロにしても、やはりブッシュのフリクションな どが 残ります。

このフリクションをゼロに近づけるためにボールベアリングを使いました。
フリクション・ダンパーは後ろ側のみ残してありますが、これは万一スプリングが破断したとき、サスペンションがふわふわにならないよう、ロックするのが主目的です。 また多少ダンパーが効いているほうが良いと思う方は調整ナットを少し締めこんで下さい。


ボールベアリングはグリス封入のシールドタイプ、ステンレス製ですのでメンテナンスフリーです。



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(ボールベアリングのリンクピボット、スプリングフックにはプラスティック・ブッシュ)
 

 Q:博士の設計ですか?


A:モールトンはこの形状のサスはすでに60年代に試作しているのです。スプリングを引っ張りで使うのでなく、ゴ ムを使ってましたが・・・
博士が出してくる過去の試作品の数々には圧倒されました。考えられる形状は全て実験済みのように思います。
ただアンチ・ノーズダイブは60年代にはありません。

モールトン60年代試作


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(60年代の試作フォーク2種、ラバーを使用) 



 Q:アンチ・ノーズダイブの設計はどのように?


A:ダブル・パイロンのFサスの作動を徹底的に解析しました。BMWのテレレバーもカタログ写真から図面を起こし比較しました。
どちらもアンチ・ノーズダイブ機能のフォークを持った二輪車です。
ポイントは上下アー ムの角度等です。 このあたりは4輪車のアンチロール対策(コーナリング時に傾かない)の上下ウィッシュボー ンの角度、、オー トバイのアンチ・スク ワット対策(急加速で後輪サスが縮まない)のスイングアーム角度の理論と基本 は同じで、ずいぶん 勉強しました。
アメリカのレーシングカー・シャシー設計のスペシャリストで、モールトンのスピード記録樹立にも関わったダグ・ミリケン 氏が教えてくれた参考書にも助けられました。

そうやって完成したFフォークの試作品を自分のAPBにつけてみて、おそるおそるFブレーキを握ってみて、アンチ・ノー ズダ イブが利いてることを
確認した時の感動は忘れられません。
さっそくモールトンに送り、博士からも太鼓判を頂いた次第です。

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(APBを改造して作ったアンチ・ノーズダイブのフォーク)



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(博士から合格のサイン「イイネ!」 2010年6月)



なおDV-1のアンチ・ダイブは効きを少し弱めて、ブレーキングの初期はわずかに沈む、いわゆるセミ・アンチ・ノーズダイブの設定になっていますの で、ブレーキをかけても全く沈まないという違和感がありません。



Q:アンチ・ノーズダイブが作動するとサスが固まって動かなくなる危険性はありませんか?

A:ブレーキ時の重心移動に影響されてサスが沈むことのないように、平行でない上下リンク各延長線の交点(仮想ピボット)を、重心と前輪接地点を 結ぶ線の近くに持ってくる、いわゆるメカニカル・アンチ・ダイブは全ての自動車のフロントサスに採用されています。クルマ同様路面の凹凸に対応する機能とアンチ・ノーズダイブの機能は完全に分かれており、ブレーキング中でも路面凹凸には対応します。

→ フロントフォーク作動の動画はこちら 



Q:スプリングを引っ張りで使うのは珍しいですが、スプリングが破断する危険性はどうですか? またゴムにしない理由は?

A:スプリング容量に対して伸び量が低く抑えられてるので破断しにくい設計です。
また片側が破断しても前輪は傾きません
さらに万一破断してもスプリングが車輪に巻き込まれないよう、スプリング内にワイヤーを通してあります。(ただし、まだ最適なワイヤー材料が見つかっていない状況)

スプリング両端にギザギザを切ったプレートをねじ込む方式で、破損に対する信頼性を上げました。

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 (両端のプレートにあけた小穴にワイヤーを通す構造)



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 (スプリング・アジャスターの詳細  下のネジは逆ネジ)
 
          

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 (ブレーキをはずした状態  全てがギリギリの寸法)

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(モールトンの試作フォーク)


 

また、コイルスプリングをプログレッシヴなバネ特性で使いたかったのも理由のひとつです。
スプリングを引っ張るステーを上向きにすることによって、前車軸の沈み量に対し、バネの伸び量を一次直線よりも暫増させ、つまり 沈むほどに踏ん張るプログレッシ ブな特性にしています。
スプリングはスタンダードとハードの2種類のバネレートが選択可能で、上部のアジャスターによってプリロードが 調整できます。 

ゴムを使うとしたらブレーキの上に一個置くか、フォーク下端に左右で二個置くしかないのですが、どちらもスマートにつけるのは難しいのです。

   


Q:むきだしのスプリングが錆びることはありませんか?

防錆処理がされているので、長期間雨ざらしにでもしなければ錆びない、というのがスプリング・メーカーの弁です。
ステンレスも検討しましたが、鉄より柔らかいステンレスでは同じレートで作ると太く重くなり、耐久性も落ちると言われ、やめました。
クルマのサスペンション・スプリングは雨や泥でびしょ濡れになりますが、多くが防錆処理された鉄製である、と付け加えておきます。
逆にAMフォークのスプリングは閉鎖空間に閉じ込められ、ハンドルステムから侵入した水がたまり、真っ赤に錆びていることがよくあります。
むき出しだからよく乾いて錆びない、とも言えるです。

ただ、スプリングを塗装することは検討中で、レートによって色を変えるのも面白いでしょうね。


Q:キャスターやトレールなど、ハンドリングの味付けについて説明して下さい

ヘッドチューブとシートチューブは平行で72度、BBハイトは乗らない状態で285mm、などだいたい17インチのモールトンに準拠してま す。
トレールは68mmにしてあります。
既存のモールトンに乗り慣れた方でも違和感はないでしょう。

量産型では71度にして、もう少しトレールを増やすつもりです。
  

Q:フロントフォークに角度がついて後退しているのが外観的に気に入らない、という声がありますが?

A:トレールを稼ぐために5度ほど傾けています。フォーククラウンは既製品の7度傾くタイプを使っています。もし特注でモールトンのようなクラウンを作らせて、フォークをステアリング軸と平行にしても強度や重量で不利になる筈です。

またオーバル・テーパーのフォークは、そうやって苦労して軸と平行にしても横から見ると「段違い感」が強調されてしまうと思います。アッパーリンクを収めるためにフォーク付け根の内幅が40mm必要なのも難しい点です。



Q:リアのラバーコーンはモールトンのものですね。

A:モールトンのパテントを回避するため、最初からここは新設計で行く予定でした。
しかしラバーコーンはモールトンの肝ですから、これと同等のものを作るのは困難が予想されました。

まずモールトン・ラバーコーンの特性を見るために実測してデータを取ってみました。
すると興味深いことに、ばねレートが非常ににシンプルな直線を描いたのです。
つまりコイルスプリングと同じ一次直線なわけです。

通常ゴムをつぶしていくと最初はやわらかく、途中から急激に硬くなるプログレッシヴな2次曲線を描きます。

モールトンのラバーコーンは、このゴムの特性をさらに極端にプログレッシヴ化したものだ、と今までは思っていました。
ところが実際に計測をしてみると全然違ったわけです。
あのラバーコーンは上記の特性を出すために独特な形状になっています。
おそらくミニ(クルマ)を設計するとき、コイルスプリングよりコンパクトでありながら、コイルスプリングと同じ特性のも のを
ゴムで代替するよう考えられたのでしょう。

いろいろと試作品を作って試してみましたが、モールトン・ラバーコーンにはどうしても勝てないことがわかりました。
キャパシティーというか、フトコロが深いというか、モールトンのものはどんな体重の人が乗っても特性がほとんど変わらないのです。
つまり直線を描くバネレートが非常に高い荷重に対しても維持される。

結局あのラバーコーンを超えるものは作れないだろうという結論に達したのは彼らの最新モデル、スポルティフを自分用に入手して乗ってから でした。
普通モールトンはラバーコーンを潰すレバー比、つまりBBから後輪車軸、BBからラバーコーンまでの距離の比率がだいたい2:1です。
ところがスポルティフは2.5:1という極端なレシオでした。 つまりそれだけゴムは強く押される訳です。
普通荷重過多になればゴムもスプリングもボトム(底付き)してしまい、高いバネレートのものに交換する必要が出てくるのですが、スポルティフ は違いました。

確かに高いレシオによってソフトになっているものの、底付き感が皆無なのです。 つまりあのラバーコーンは守備範囲(キャパシティー)が異常 に広い。
私は体重が80kgくらいあるのに2.5:1のレシオでも難なく使えるのは驚きでした。
つまり普通にただ潰すだけのゴムであれば、体重によってレートの違うゴムに変えなければいけないのですが、モールトンのラバーコーンはその必 要がない。
正直これには白旗を揚げる以外になく、逆に言えばモールトンを名乗る以上、あのラバーコーンは必須だという結論です。

なお今回の試作ではルックスの観点からラバーコーンを少し高めにしましたが、結果乗り味が硬くなってしまいました。
量産型では20mmほど下げる予定です。



Q:リアフォークは既存のモールトンとあまり変わらないですね

A:変えてみようと思ってずいぶん試作を作り、当然スポークの採用も検討しました。しかし重量、強度、生産性、ルックスなどを総合的に見ると、既存のものを越えられないというのが結論です。

 
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(チェーンステー交差型の試作リアフォーク。ルックス、重量で難あり没に)


リアフォークのねじれ剛性、横揺れ剛性とも最初のスペース・フレーム、83年のAM7で完成されており、モールトンもこ れを超えるものは出せていません。(小改良は除く) 

モールトンからの改良点としては、リアフォーク・ピボットの取り付け穴とBBからの距離が6mm短くなっていて、これに よってリアフォークの横揺れ剛性が向上しました。
もうひとつはピボット部のスフェリカル(球状)ベアリングの採用が改良点です。


Q:そのリア・ピボット(支点)の球状ベアリングについて説明して下さい

A:この部分はモールトンでは含油メタルによる金属ブッシュですが、ブッシュ内径調整、横ガタ調整などが面倒でした。定期的なグリスアップも必要です。
スフェリカル・ベアリングでは調整が不要で、ガタもゼロですしテフロンを使っているので注油不要、さらにステンレス製なので錆びません。
耐久性は無限ではないですが既存のブッシュより長持ちする筈です。
モールトンのメタル・ブッシュは一個13g、スフェリカル・ベアリングは14gですが、モールトンで使う肉厚鉄製のスピ ンドル35gはそっくり不 要になり、さらにピボット部は両端のベアリングハウジングを残して中心部を省略、結 果ピボットまわりの重量は既存のものより40gほど軽くなりました。


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(スフェリカル・ベアリング  いわゆるピロボール)


 

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(BBに限界まで近づけられ、肉抜きされたリアフォークのピボット)


またモールトンのメタル・ブッシュは「つば」部分が片側で2.4mm、左右合計で4.8mm飛び出しており、チェーンス テーの生えぎわをそのぶん 狭めています。そのためモールトンのピボットステー(BBから生える耳)は段違いにプレス成 型されて幅を稼いでいます。

「つば」がないスフェリカルベアリングではチェーンステーは外側ぎりぎりから出せるので、結果としてチェーン ステーの生えぎわ幅は、ステーの段違い成型なしでも
既存モールトンと同じ52mmになっています。

現在クルマの足回りなどではスフェリカル・ベアリングは非 常にポピュラーで、産業用ロボットにも多用されています。
なによりフリクションとガタが無いので滑らかな乗り味になります。 

なおこのベアリングには絶対注油しないで下さい。油がゴミを付着させて、かえって磨耗するからです。
 

Q:車輪径は17インチですが、特に理由はありますか?

実は最初は451というサイズで設計・試作をやりました。
しかし完成してみると、どうにも間延びしててカッコ悪いのです。 またねじり強度も今ひとつでした。
451の完成が今年の3月末、そこで急遽17インチに変更して図面を書き直し突貫工事で製作したのがこの車体です。
17にするとBBとヘッド・チューブ下端が近づき、ねじり強度がラクに稼げる。また日本では17インチの人気が高いうえ、ニューモデルもしばらく出ていないので17にしました。

451のほうは乗れる状態にしてすぐに英国に送り、モールトン社にサミットでの発表の可否を問いました。
「よく出来ていてたいへん興味深いが、まだ発表は時期尚早」という返事でしたが、サミットの話題作りのために英国側を説得、今回の発表にこぎつけたという経緯です。 まあ451はカッコ悪かったんで、彼らの意見もよくわかりますが・・・



Q:451では外観の他に問題がありましたか?



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(451の試作車両とフレーム)



A:まずトップチューブが高すぎてコンパクトでまたぎやすいというモールトンの主要テーマのひとつをクリア出来てません。でも最大の問題はフレーム剛性を確保出来なかったことです。特にフレーム中心からBB上に伸びるスポークが人がまたがると緩んでしまうことがわかりました。 これを改善するには車輪径を小さくするしかないと判断しました。

ただ451に乗ってみてフロントフォークの作動や全体のバランスは予想以上の完成度であることを確認できたのは収穫でした。 リアフォークも細い部材で作ると太いフレームチューブとルックスの点でバランスが悪いことも判明、17インチではリアフォーク部材を太くしました。チェーンステイが14mm、シートステイが12.7mmとモールトンよりひとまわり太いですが、薄肉のため重量はほとんど変わりません。(写真の451ではそれぞれ12.7mmと9.5mm)

その他アンチ・ノーズダイブの作動が適切でなく、これを最適化するため17インチではアッパーリンクの取り付け角度を変えたり、という叩き台の役割を果たしてくれました。試作品は多いほうが完成度が高くなります。この451の以前に5本の試作フレームがあり、今回発表した17インチは7本目のフレームということになります。


Q:フレームに戻ります。実際スポークを使うと強度と重量は改善されるのでしょうか?


A:結論から言うと軽くするのには限界があり、AMシリーズのどの非分割モデルよりも軽くはないのが事実です。
とは言えAMスピードとの重量差は100g以内ですから充分軽いといえるでしょう。

強度的にはメインフレームのねじり剛性、横揺れ剛性はAMシリーズと同等ですが、縦折れ剛性、つまり人がまたがった時の歪みに対する強度大きいことがわかりました。
つまりサスペンションがよく仕事をするフレームということです。

サスペンションはショック入力時にゴムやスプリングが縮むわけですが、フレームが柔らかいとフレームも曲がってショックを吸収してしまうぶんサスは仕事をしなくなります。フレームが強固だとショック入力はサスに集中してスプリングがよくつぶれて仕事をするようになるのです。
モールトンのフレームが強固に出来ている理由です。


Q:スポークに被服をかぶせる理由は?

A:ひとつは安全のためです。直径2.6mmのスポークは人間の肌を傷つけるには充分な細さです。
またルックスの観点も大きな理由です。これは予想外だったんですが、ブレーキやシフターのインナー・ケーブルが似たような太さ・質感で、スポークと混じりあってごちゃごちゃした印象になってしまうのです。ケーブルより目立たせることでスポークの構造がひと目でわかるのも、色つきの被服(カバーチューブ)をかぶせる理由です。

上の451試作車ではスポークに被服をかぶせてません。
これだと少し離れてみるとスポークが見えず、わりと平凡な形状のフレームばかりが目についてしまいます。スポークを目立たせてその存在感を演出すると視覚的インパクトが高まるのです。

今回はショーモデルなのであえて派手なピンク系にしましたが、色は5色くらいから選べます。
この被服は使用していくと傷ついたり汚れたりするでしょうから、定期的な交換が必要になります。
色を変えれば着せ替え人形的な楽しさがあるでしょう。場所によって色を変えるというのも面白いのでは?



Q:具体的に乗り味はどのように変わりましたか?

A:スポークの使用によってフレーム剛性の特性が変わっているので、今までのモールトンとは違う乗り味になりました。
スポークはプリ・テンションと言って、あらかじめかなりの強度で張られており、フレームが曲がらないように踏ん張っています。
わかりやすく言えばメインフレームの鉄パイプ部が骨、スポークが筋肉になります。

筋肉が引っ張られるとそれを支える骨には圧縮の力がかかります。
このせめぎあいが既存のどの自転車とも異なっていて、独特な乗り味です。
「乗り味」というのは数値では表せないのですが、筋肉の発達したチーターのような動物、という印象。入力を上げて速度が増すほどに剛性を感じるフレームです。

またフレーム歪みを計測すると、力を加えるほどに踏ん張るような性質で、最初の入力には一瞬曲がるものの、次第に硬くなっていく感じです
プログレッシヴな特性のサスペンションと似ています。

日本語には「剄い:つよい」という漢字があります。 「強い」とは違って竹のように曲げられても元に戻ろうとする復元力が大きいことを意味します。 また雑草が引っ張ってもなかなか抜けないのも雑草の「剄さ」です。「ガチガチに強い」のではなく、「しなやかに剄い」のがこのフレームで、日本的だと思ってます。
最近の硬すぎるカーボン製ロードレーサーなどとは全く異なる方向性でしょう。


Q:アメリカ人は「強い」に憧れますが、英国人はどうなんでしょう?

A:以前モールトン博士とゼロ戦について語ったことがあります。ゼロ戦の機体にはしなやかさがあって竹のようだった、というパイロットの言葉に興味を示されていました。スポーツカーでもシャシー強度を上げすぎるのは問題というのを英国人は知っていますから「剄い」という言葉はわかってくれると思います。


Q:スポークが緩んでフレームのアライメントが狂うことはありませんか?

A:スポークで組んだ車輪に問題が起きないのと同じでその問題はミニマムです。

出荷時に冶具に乗せてフレームアライメントを確認しながら締め付けていきます。
ニップルにはゆるみどめ剤が塗布されているのでゆるみません。
アライメントに疑問が出たらすぐにご返送頂ければ調整します。
ただしフレームは骨格の時点でしっかり精度が出ているので、ニップルによる神経質な調整が必要なわけではなく、逆に言えば ニップルが少しゆるんだくらいで変形するフレームではありません。

面白いのはこのスポークを指で弾いてみると、ギターの弦のように音を出すことです。人がサドルにまたがった時、ペダルに立った時、自転車から降りた時、全て音が変わるうえ、場所によって音の変化が異なります。つまり10本のスポークが絶えず変化する荷重をどのように受け止めているかわかるのです。言ってみればどんな場合でも全てのスポークの張りに変動がないほど良い設計ということになります。451では変位が非常に大きかったものが、17インチでは小さくすることが出来ました。

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ニップルの角度が前後で異なる ピンクのカバーは熱収縮チューブ)




Q:ニップルの締め具合を調整すればフレーム強度が変わって、乗り味も変えられるのですね

A:いや、現状で限界まで締めこんであり、それで強度が出ている状態ですから、緩めないほうがいいです。
緩めても剛性が落ちるだけなので、基本的にニップルはいじらないで下さい。
なおニップルは専用のニップルまわしがないとニップルを傷めてしまいます。
お客様はみだりににいじらないようにお願いいたします。


Q:分割型フレームはないのですか?

A:ご覧のとおりの構造なので分割にすることは不可能です。 分割できるモールトンは他にたくさんあるので、そちらをどうぞ。


Q:ダイナベクター・モールトンの生産は日本で行うそうですね

A:メイド・イン・ジャパンにこだわっています。 モ博士は日本に来るといつも日本のモノ造りに感銘を受けていました。
かつてモノ造り大国であった英国の凋落ぶりを嘆いてもいました。
日本で造ることは我々にとってもチャレンジですが、そこで得た技術やノウハウを英国側と共有するのも大事であると考えま す。
そうすることで本家英国のモールトンの品質向上にも寄与できたら、と思います。


Q:フレームはどこで製作するんですか?

A:フレームや他の部品は全て外注で、当社ではスポークを張ったりフォークを組んだりという組み立てのみになります。
フレームのロウ付けはクルマメーカーに配管部品を納めているロウ付けの専門企業さんにお願いしていますが、さすがに日本のクルマ工業を支えるだけあって高精度な仕事です。
その他いくつかの外注さんを探すうちに、日本の中小企業の技術力と意識の高さに感動しました。
彼らと仕事をしていると、勝手に品質が向上していくようなところがあり、海を隔てた英国企業とだったらこうはいかないと 思います。

 

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(今回の試作フレームのロウ付けは京都の Moku 2+4 の林さんに依頼)



Q:既存の自転車業界と距離を置いている?

A:実際問題フレーム製作を依頼できるような自転車メーカーが日本には無いことがわかったのです。
職人さんがやってる小さな工房か、マスプロの巨大メーカーばかりで中間がありません。
年間数百台という生産台数はどちらにも向かない、いわば中途半端な規模なのです。

それとメインフレームはいいとしても、リアフォーク、フロントフォークは通常の自転車とは全く異なる形なので自転車用の汎用冶具が使えないのも大きな理由です。

自転車業界と距離を置くと言うよりは、我々の欲するものを既存の業界以外に求めるほうが新技術を容易に使える気がします。 中小企業の技術は日進月歩していますから。
例えばハイドロ・フォーミング(強大な水圧による管の成型加工)やレーザー、精密溶接など専門工場の最新設備は本当に素晴らしいですよ。最近はどこも少ロットの仕事を請けてくれるので助かります。

60年代のモールトンはラーレーなど既存メーカーが作ってくれないのでクルマ・メーカーにフレームを作らせたのです。
もし自転車メーカーに作らせていたら、初期のモールトンのインパクトも薄まったのではないか、と思います。
常識を破るモールトンは既存の業界と全く関係ないところで作られたからこそ、それまでの自転車とは異なる強烈なオーラがありました。

例えば自転車工場であれば長年の経験と常識が反映される造り込みになる筈ですが、自転車未経験な工場では全てが一から検 討されます。
すると出来上がったものの雰囲気も変わってくるのです。
願わくばDVモールトンも、60年代モールトンのようなオーラを発散させられれば、と思います。



Q:フレームの素材について教えてください

A:基本的にカイセイのSNCMです。 ステンレスのスポークは12番という珍しい線径(2.6mm)で英国製です。
スポークは自転車では14番か15番、オートバイでは8番から10番が一般的ですが、中間の12番はリヤカーや電動アシ スト自転車に使われるサイズのようです。 6個使うニップルは真鍮製ですが強大な荷重がかかるため、これをアルミにすることは無理だと思います。


Q:海外へも輸出されるんでしょうか?

A:もちろん商売ですから需要のあるところには売っていきたいです。
ただし欧米には厳しい安全基準があり、これのテストを受けて認証をもらうのにけっこう費用がかさみます。
当面は日本と台湾オンリーで売っていきます。もちろん日本の安全基準はクリアします。


Q:完成車販売はしないんですか?

A:部品を集めたり、組み立て要員を雇ったり、スペースを確保したり、と完成車を組み立てるのはいろいろと大変で、現状では考えてません。 


Q:開発で最も苦労したことは?

A:やはりスポークの使用法というかスポークをフレームに張る方法です。 
BBとヘッドチューブ下端の高低差が大きいので、ねじり強度を出すのが難しいのです。
構造物にスポークを張って強度を出すのは、車輪以外に参考になるものは複葉機の翼支持とか一部の建築くらいしか無く、ずいぶん試行錯誤しました。
特にスポーク相互の角度など、かなりの試作を繰り返していくつかの原則を発見しました。
リアのラバーコーンも苦労しましたが、これをやってみてモールトン博士の凄さがよくわかりました。

フロントフォークはアッパー・リンクを狭いスペースにまとめるのが大変でした。2本のスプリングのサイズやレートもずいぶん試行錯誤しまし た。
スプリングやアジャスターの配置は、まだもうちょっと改良するつもりです。

塗料も問題でした。
スポークもニップルも支持する部分は小さい面積なのに大きなテンションがかかるので、引っ張られる部位が微妙に変形して、パウダーコートなどの硬い塗料では塗装剥離を起こすのです。これも通常の自転車には無い悩みでしょう。
塗膜の柔らかい昔風の塗料がいいのです。 もし再塗装をされる場合は気をつけて下さい。
試作品では日本の伝統塗料、人工ウルシのカシューを使いました。

とにかくモールトンを名乗る以上、強度、重量、性能、そしてルックスがそれにふさわしいものでなければなりません。
そういうバランスの面で苦労してみると、なによりモールトン博士は美しい自転車を作ることにもかなり腐心されていたんだな、と 納得しました。
理論的・機能的に優れたものは自然に美しくなる、というのは間違いであり、工学理論に加えて美的センスがなければ、あのような美しい自転車は出来ないのです。

あとはやはり冶具にかかるコストですね。英国のモールトンよりはシンプルな構造ですが、量産するとなると冶具だけで 1000万円はかかる と言われました。
だから複雑なダブルパイロンなど、日本で作ったらいくらかかるのか想像もつきません。

 

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(試作用の自家製治具と451のリアフォーク)





12番スポークのネジを切る工具もアメリカの専門メーカー、フィル・ウッドに特注、これも50万円くらいかかりました。

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 (米国 Phil Wood 製スポーク・カッター)






Q:将来的にさらに発展・進化させる予定はありますか?

A:工業製品ですから改良はしていくつもりです。
細かな改良だけでなく、スポークで補強される骨格部分をスチールパイプ以外で作る試みも面白いと思います。
たとえば木材なども可能性があるのでは?

通常の自転車フレームを木材で作る場合、たわみ方の特性などで木材の種類をシビアに選択する必要があります。
ところがDV-1の構造ではほとんど圧縮強度のみに注目すればよく、となると案外作りやすいのではないかと思います。
同じ質量で見れば木材は鉄の二倍の強度がありますから。


Q:カーボンも面白そうですね

A:カーボンは3次元的な立体成型が得意ですから強度的にスポークでの補強は必要ないと思います。
スポークやニップルが支持部に一点集中で強大なストレスがかかる点も、カーボンには向かないのではないでしょうか?



Q:DV-1はモールトン全体のラインナップではどういう位置づけになりますか?

A:価格的にSSTより高く、お城製より少し安いモデルです。
SSTよりもあらゆる点でお城製に近く、当面フレームキットのみでの販売という点も、よりマニア向けな自転車です。
今後は耐久性試験を経て合格させたり、量産の準備をしたりで、発売時期、価格はまだ全くわからない状態です。 


Q:最後に各部の部品規格を教えてください

A: ヘッドはイタリアンでスレッド・タイプ、BBは68mmJIS、エンド幅は100と130、 シートピラーは31.6mm、ブレーキは ショートリーチです。
試作品のシートチューブ長(芯トップ)は400mmです。         


最後にスタジオ撮影した写真バックと正面をどうぞ。







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