2006年04月28日

主催/美術史学会
後援/全国美術館会議、文化資源学会

全体司会   根立研介(京都大学)
開会あいさつ 潮江宏三(西支部代表)
開催趣旨説明 後小路雅弘(九州大学)

検証1.ミュージアムとは何であったか
佐々木亨(北海道大学)「評価から見えてきた公立博物館の経営的課題」
狩野博幸(同志社大学)「国立博物館に明日はあるか」
質疑応答 コメンテーター 平井章一(国立新美術館)

検証2.ミュージアム経営のゆくえ
柿木央久(芦屋ミュージアム・マネジメント)「芦屋市美術博物館に関する報告」
高井健司(大阪市教育委員会)「大阪市における博物館施設への指定管理者制度導入について」
原田博二(長崎歴史文化博物館)「指定管理者制度」
質疑応答 コメンテーター 秦井良(静岡県立美術館)

まとめ 木下直之(東京大学)


 当シンポジウムの開催目的や各発表者の発表要旨は美術史学会のHPに掲載されている。ただし、狩野氏のものは未掲載であるし、これまでの例からしてそのうち削除されると思われる。以下、個人的に印象に残った点や感想を簡単に書いてみたい。

 当日のキーワードになったのは「出来ちゃった美術館に愛を」だった。確かに国立館を除くと公立ミュージアムというのは住民の内在的要求に設置されるのではなく、公共団体の節目(県政○周年とか議会○周年とか)に設置後は行政的には放置され続けた上、昨今の財政悪化によって行政的に放棄されかれない状況にあるという事なのだろう。

検証1
最初に佐々木氏による公立ミュージアムの設置目的、評価に関する今日の状況についての発表があった。このなかで、「評価」という言葉だけが一人歩きしているのではないかという危惧を表明された。評価の事例として、自身が関わっている静岡県立美術館評価委員会が提出した提言書を紹介されたが、この提言がどのように実践されていくのか、あるいは「評価」の指標・手法自体の確立が今後の課題であるということであった。
 狩野氏の発表は、枕として再編された埼玉県立博物館群の話題(学芸員による朝の出迎え、客寄せの「獅子舞」)があり、このような「暗澹たる時代」に京都国立博物館の昔語りをしても役に立たないと言うことから始まり、国立館の状況については悲観的であるが、学芸員とは「作品を楽しむ」ことから始まるので、それは堅持する必要があるという趣旨であったと思う。独立行政法人化に対しては悪いことばかりではなかったというのが狩野氏の評価であった(「SW展」の収益で資料購入ができたとか)。

質疑応答
 コメンテーターとして平井氏(国立新美術館)を加えてのトークとなった。
 佐々木氏によると評価はあくまでも改善のためにあり、評価をする立場にあるのは利害関係者(利用者)や同業者であることが必要と言うことであった。
 狩野氏に関するものとしては、「SW展」関連の証言が興味深いものだった。ひとつは独立行政法人化の導入が決まる前から京博の危機感に基づいて計画された展覧会であったという点である。その危機感とは、京博の観覧者は40代以上が80%以上を占め、将来的にさらに観覧者減に陥る可能性が高いと言うことであった。SW展は観覧者の80%が30代以下で、しかもそのうちの9割が「はじめて」の観覧者であった(*全観覧者の7割!)。そして、多くの人たちが平常展にも流れていたという。その際、京博側では平常展に「伝源頼朝像」といった教科書でおなじみの作品を並べ、「本物がここにある」ことがアピールした。その結果、リピーターも誕生し、新たな観覧者層の創出に成功したということであった。
 *SW展を見た時、いつもと客層が違うとは思っていたが、これほどまでとは驚いた。

検証2
 柿木氏による芦屋市立美術博物館の現状報告は、傍目から見ていて盛り上がっていたと思われた「存続運動」も含めて、かなり「泥縄」的なところや「たまたまの巡り合わせ」みたいなところがあり、今年1年を乗り切っても、来年度以降については全く見通しがないということであった。
 高井氏の発表は大阪市における指定管理者制度導入の経緯についてのものであった。大阪市ではこれまでの各ミュージアムの活動の継続性を保つために、指定管理者の募集にあたっては「指名型」を採用している。ただし、議会の決議で「公募型」(民間も含めての)への移行を求められたため、指定期間が「2年」と通常の約半分となっている。ただし、「公募型」指定管理者の場合、ミュージアム活動の「継続性」が担保できないとして、それぞれのミュージアムの独立地方行政法人化も視野に入れているということであった。
 原田氏は民間が学芸業務も含めた館運営全般を請け負った例で個人的にも注目していたのだが、ある意味当たり障りがないものとなった。入館者については当初予想よりも倍増と言うことで順調と言うことであたったが、学芸業務についてはやや不思議な印象を受けた。というのも、学芸部門である「長崎歴史文化研究所」(これは単に呼称だけのものらしい)の職員とは別に、旧長崎県立美術博物館・長崎市立博物館の職員6名(学芸員3・教員3)が「駐在」して学芸部門の指導に当たっていると言うことだった。確かに、学芸部門の研究職7名は5人が指定管理者による新規採用(2名は旧県・市の学芸員)でHPをみた限りでは博物館勤務が初めての人たちばかりなので、「駐在」による指導が必要と言うことになったのかもしれない。

質疑応答
 コメンテーターは秦井氏(静岡県立美術館)で、最初に指定管理者制度に対する各パネラーの意見を求めた。
 柿木氏は制度的欠点はともかく、美博にとってはひとつの切っ掛けになったというコメントであたった。
 高井氏はミュージアム活動と指定管理者制度はなじまないという意見である。指定管理者制度導入のための論議はあっても、指定管理者を評価するシステム自体は全くできておらず、特に指定管理者が当初掲げた目標を達成できない場合の処置をどうするのかという点がクリアされていない点を問題視されている。そのため、大阪市では上記のように独立地方行政法人化も選択肢として考え始めているらしい。また、各ミュージアムがそれぞれ別個の指定管理者によって運営されていることから、連絡・調整機能を持った部署を教育委員会に新設したと言うことであった(高井氏はそこの管理職である)。
 原田氏は開館半年であるため、制度自体の評価はできないという立場であったと思う。会場からは1年更新である学芸員の身分に関するもの、あるいは経験者がいないという点に関するものが多く、「駐在」について何らかの根拠があるのかという質問もあったが、これには「何の根拠もない」と言うことだった。
 また、新聞社の文化事業担当者からは指定管理者になると展覧会事業はどこと計画すればいいのかという質問が出たが、それについては代行者ではなく、設置者と直接話をしなくてはならないと言うのが共通の理解であった。となると、ミュージアムの運営は外部に出したとはいえ、それを監督したり、企画の場に立ち会うセクションを設置者側は作らねばならないわけであり、その担当者は継続性や外部との調整も考えるとコロコロと変わるわけにはいかないであろう。

 木下氏のまとめは、時間が超過したこともあって、個別の発表に対するコメントはなかった。しかし、美術史学会としては、運営形態がどのようなものであれ、ミュージアムにおけるより良いサービスを考える上でも、「作品の調査・研究」というものが担保されるという一線は譲れないと言う総括をされた。最後に、それに関して国立美術館・国立博物館・文化財研究所が最近打ち出した方向性についても、学会として改善を要望しているという報告をされた。 

 全体的な印象としては、芦屋市美博の問題を契機に美術史学会が兵庫県立美術館で開催したシンポジウムの時に比べて参加者が少なく、学会員以外の参加はさらに少なくなっていて、熱気が冷めかけているように思われた。これは理念的・制度的な議論をするような段階は越えてしまい、個別に現実に向き合う局面になってきたと言うことだろうか。ともあれ、公立ミュージアムの形態が多様化する中で、立場の違いを超えた提言をすることの困難さを感じたシンポジウムだった。



(21:20)

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1. 「ショットガン・ミュージアム」  [ あるアーキビストの日常 ]   2006年05月01日 19:45
できちゃった結婚のことを、英語で「ショットガン・ウエディング」というそうです。 これに準えるならば、明確なビジョンもニーズもないのに建設してしまった博物館・美術館は「ショットガン・ミュージアム」とでも呼べるのでしょうか。 ちょっと、ニュアンスが違うような気...

この記事へのコメント

1. Posted by あるアーキビスト   2006年05月01日 20:15
TBさせていただきました。
熱気が薄れているのは、やはり最も発言すべき当事者が、「それどころではない」せいでしょう。
ほかにも、変に批判して次の指定を受けられなくなるのは困るとか、直営に戻されたら失職するのではないかという不安があるかもしれません。
いずれにしても、議論が盛り上がらないのは、実情を知っている当事者ほど発言しにくく、部外者や安全圏にいる人たちでなければ大きな声で意見を述べられないという構造にも原因があるような気がします。
2. Posted by at this shop5    2012年06月08日 10:30
Thank you for your article, really effective piece of writing. おいしくて、可愛いお菓子とかありますよね!!

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