December 31, 2021

【雑記】今年読んだもの(2021)

  新書以外で印象に残っているものも書き留めておきたいと思います。

  新書の方でもグローバルヒストリーをテーマにした一冊(『駒形丸事件』)を取り上げましたが、ここ数年は翻訳書も含め「グローバルヒストリー」を謳ったものが本当に多く刊行されているように思います。門外漢なのでいつも注意深くチェックしているわけではないものの、以下の『グローバル・ヒストリーとしての独仏戦争 ビスマルク外交を海から捉えなおす』『はじめての西洋ジェンダー史 家族史からグローバル・ヒストリーまで』はそれぞれ非常に面白く印象に残りました。

  まず『グローバル・ヒストリーとしての独仏戦争』は、「鉄血宰相」としてのビスマルク像について外交面から再考を迫るものですが、その際に戦争の問題を欧州に局限せず同時期のアメリカ、日本との関係などにも目配せしつつ論じています。国際法の遵守を強調しながら圧倒的な戦力を誇るフランス海軍に対抗する機会を探る慎重なビスマルク外交というイメージも新鮮で、またそうした国際情勢のなかに産声をあげたばかりの明治新政府が巻き込まれていくところも本書のアプローチの面目躍如たる部分だと思いました。自分が高校の頃に読んでいたら専攻を変えていたかも知れません(笑)

  一方の『はじめての西洋ジェンダー史』は、大晦日に読み終えたばかりなのですが、記憶の新鮮さは別にしてこちらもまた印象に残る一冊でした。国立歴史民俗博物館の「性差の日本史」展が大きな反響を呼んだのは20年のことでしたが、ジェンダーと歴史学の問題も近年盛んに議論されています。本書はそうした動向のなかで西洋史に焦点を当てつつ、家族史、女性史、ジェンダー史、身体史…とトピックごとに歴史学がかつてどのように問題を扱い、またそれが近年どのように変わってきたのかを豊富な研究成果を参照しながら紹介しています。構成も上手く、最後の二つ「新しい軍事史」、そして「グローバルヒストリー」の章によってアップデートされゆく今日のジェンダー史の課題が見えてくるようになっています。


グローバル・ヒストリーとしての独仏戦争: ビスマルク外交を海から捉えなおす (NHKブックス 1267)
飯田 洋介
NHK出版
2021-01-26






はじめての西洋ジェンダー史: 家族史からグローバル・ヒストリーまで
弓削 尚子
山川出版社
2021-12-02







  日本の近代史に関しては『日本近代社会形成史 議場・政党・名望家』を挙げます。本書は明治新政府以降、政治の意思決定の場において「個人」がどのように包摂されていったか(と同時にそのなかで「個人」がどのように形成されていったか)という問いを討究しています。上述の二冊は歴史書とは言え、一般向けに書かれているので読みやすいのですが、こちらは行論も史料の読解をベースとしたかなり硬質な研究書になっています。その意味では読む人を選ぶとは思います(もちろん、自分自身も門外漢なので早く研究誌における書評を読んでみたいです)。

  ただ、そうだとしてもたとえば「第I部 幕末維新期における国家と社会」で取り上げられている公議所の実態に関わる史料から垣間見える三田藩の公議人の逡巡などは血が通っているように面白く読めました。文学研究も近いところがありますが、引用する史料(あるいは資料)に何を語らせるかは書き手の腕の見せどころだと思います。また、常々感じてはいたものの、近代史における地租改正の問題の重要性を改めて認識する議論でした。


日本近代社会形成史:議場・政党・名望家
三村 昌司
東京大学出版会
2021-04-10







もう一冊、『東京ヴァナキュラー モニュメントなき都市の歴史と記憶』を挙げておきます。「ヴァナキュラー(vernacular)」とは、土地の話し言葉といった意味で、ここでは地域や日常のその特性のようなニュアンスを担わされています。本書はそうした概念を用いながら、開発に次ぐ開発を重ねる都市・東京において、1980年代に同時多発的に立ち上がった歴史再発見のムーヴメント(地域雑誌・『谷根千』、路上観察学、江戸東京博物館の構想など)を諸権力から都市空間を取り戻すためのカウンター・カルチャーと評価します。

  一方で本書の議論は、そうしたカウンター・カルチャーがその後、ヒース&ポターの『反逆の神話』的な商品化の潮流に巻き込まれていってしまうところまで及んでいます。ただ、このあたりの評価は率直なところ難しいという印象を受けました。谷根千ブームの牽引者・森まゆみは『東京人』の編集委員でもありますが、当該誌は(個人的に毎号面白く読んでいるものの)やはり消費文化とは切り離せないところにあります(その初代編集長が筋金入りの保守論者・粕谷一希だったことも併せて考えても良いでしょう)。それでも一つひとつは正面切って論じられる機会が稀であった80年代の問題に光を当てた点には揺るがない価値があると思いました。


東京ヴァナキュラー:モニュメントなき都市の歴史と記憶
ジョルダン・サンド
新曜社
2021-09-24





(※ 原著は、Tokyo Vernacular: Common Spaces, Local Histories, Found Objects, University of California Press, 2013)

  コロナ禍の8月には台東区の清掃事務所で職員の集団感染が起こり、不燃ゴミの収集が一時見合わされるといったこともありました。これは改めてエッセンシャルワークの重要性を実感する出来事でしたが、『ごみ収集とまちづくり 清掃の現場から考える地方自治』は、著者がいわゆるごみ収集車の作業員としてフィールドワークした経験に基づき、その実態を記録しています。
  
  自分の居住地域における各種品目の回収日・時間などは熟知していても、本書を読むまではその品目によって収集を担う主体が色々と異なった経緯で決まっており、また地域の特性ごとにシステムの構築のされ方も違うといったことすら分かっていませんでした。あるいは作業が滞ると途端に公衆衛生の悪化に繋がるわけですが、そこは意外にも柔軟なシステム外の力で何とかしていることもあると初めて知りました。

  フィールドワークの中心が東京都北区の滝野川庁舎の管轄区(=路地が入り組んでおり、今も戸別回収を行なっている珍しいエリア)であることによって、色々な問題がより鮮やかに浮き彫りになっている点も良かったと思います。もちろん、地域性の問題などは別に検討する余地がありますが、東京のような大都市でさえ上のようなネットワークなしに回らないということをリアルに描いています。その奥に公務員制度や自治体運営の問題が仄見えてくるという形で色々と思考を刺激されました。









  昨年(※ 2020年)には、大阪で都構想の是非を問う住民投票が行われました。結果はご存知の通りですが、コロナ対策に苦しむなかでの二度目の住民投票には強い批判の声もあったものの、今年の衆議院選挙で日本維新の会はその大阪を中心に16の小選挙区、比例で25の議席を獲得し、選挙前から大幅に議席数を増やしました(11→41)。こうした一見不可解とも思える維新をめぐる情勢について『大阪の選択 なぜ都構想は再び否決されたのか』は、サーベイ実験から得た知見をもとに読み解いています。

  維新というと、今でも何かと声が大きな橋下徹元代表の存在感であったり、在阪メディアを駆使したイメージ・コントロール力による関西圏での圧倒的な人気といった点がしばしばネットなどで流布してきました。しかし、本書の分析では橋下支持の実態がイメージとは大きく異なっており、またそもそも維新の熱心な支持層はそれほど多くもなく、一方で政党として府-市間の調整を上手くやっている(ように評価されている)からこそ二重行政の問題を解決するという都構想の必要性がさほど説得力を持たなかったことなどが指摘されています。

  私自身は口さがなく文化や学問を語る橋下徹には良い印象がなく、同様に維新にも批判的なのですが、そうであるがゆえに情報の取捨選択にはバイアスがあるだろうと感じていたので、そうした感覚を突き崩してくれる議論として読みました。これもまた方法論の良いイントロダクションになりそうな一冊です。

大阪の選択
善教将大
有斐閣
2021-11-10






  ほかにもいくつか記録しておきたいものはありましたが、とりとめもなく長くなりそうのでこのくらいにしておきます。明けましておめでとうございます。








moyoko0629 at 19:00|PermalinkComments(0)