デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)著者:藻谷 浩介
販売元:角川書店(角川グループパブリッシング)
(2010-06-10)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
「景気が悪いねぇ」というのがまるで挨拶のようになっている昨今の日本。デフレの薄闇に覆われているのを感じながらも、その物言いに時候の挨拶のような気軽さが含まれているのは、あたかもこの不況がいずれ季節のように過ぎ去っていくことを心のどこかで盲信しているからではなかろうか。
これはもしかしたら、我々日本人の中に受け継がれている、気象条件に抗うことを諦めてきた農耕民族のDNAのなせる業なのかもしれない、とも思う。
この論調は経済学者たちも同じで、テレビの解説では今まで繰り返された景気の波の歴史を提示して見せ、「今を耐えれば春がやってくる」という根拠の薄い気休め繰り返されている。
もっと悪いのは、GDPなどという最終結果の数字を持ち出し、「これを伸ばすことが国家戦略だ」などという的の外れた発言をする議員さんたちだ。まるで、圧倒的に不利な局面でも選手たちに具体的なゲームプランを提示せず、「集中だ、気合いだ」と発破をかけるだけの無能なアマチュア監督を見ているようだ。
著者のフラストレーションも相当のようで、
数字を読まない(SY)、現場を見ない(GM)、空気しか読まない(KY)人たちが、確認もしていない嘘をお互いに言い合って拡大再生産している(p69)など、具体的な数字による反証と併せて、かなり手厳しい言葉を連ねている。
絶対数をチェックせずに、率だけを見てパニックになるというのは、国内で大きい声で議論している方々の困った特徴(p31)
「モノづくり技術の革新こそが日本の生き残りの最大のカギである」という美しい誤解(p187)
見下している、というよりは、「なぜ分からないのですか」と成績の悪い生徒の愚痴をぶちまけているといった印象だ。
著者の論旨は明確で、日本経済が直面している問題は、都市と田舎の格差でもアジア近隣諸国の台頭でもない。
国際競争に勝っても勝っても、それとは無関係に進む「内需の縮小」こそ、日本経済が直面する恐るべき病気なのです。(p52)
「人口オーナス(生産年齢人口が減少に転じ、高齢者が急増している状態)」と呼ばれるものですが、その影響たるや、景気の波を簡単に打ち消してしまう威力がありますし、景気循環に対処するための各種方策はこれにはまったく通用しません。(p116)
「100年に一度」どころの騒ぎではない。今起きているのは日本始まって以来の、「二千年に一度」の生産年齢人口減少なのですから。(p111)
つまり、デフレの正体は生産年齢人口減少という構造的問題であり、一過性のものではない。
ここまでの話は、まともなビジネスセンスを持っていれば何となく感じ取っているはずのものなので、面倒であれば第9講まですっ飛ばしてもいいだろう。
では、どうするか。
国内のマーケティングを担当する身でありながらこういうことを言うのもどうかと思うが、個人的には、内需に頼る時代は終わったと思っている。
以前に韓国企業のビジネスマンに、日本と韓国の勢いの違いがどこにあるのか聞いたことがある。答えは、「韓国はもともと内需では生きて行けない規模の国で、最初からグローバルで競争することをベンチマークにしてきた」ということだった。
日本は、中途半端に内需があることが足かせになっているのだ。
ただ、著者はまだまだ内需には拡大の余地があると見ている。
散々一般の見識に不平をたれるだけあって、分量や深みには若干の物足りなさはあるものの、著者はカウンタープロポーザルも用意している。具体的には、以下の三つだ。
第一は高齢富裕層から若い世代への所得移転の促進、第二が女性就労の促進と女性経営者の増加、第三に訪日外国人観光客・短期定住客の増加(p202)これだけ書くと、ただの理想論に聞こえるかもしれない。ただ、消費性向の低い老人を優遇し、これからの消費者である若者の従業員から搾取する悪しき時代を、かつての高度成長期の環境汚染と重ねて論じるあたりは、なるほどと思わせる。
「人件費を削ってその分を配当しています」と自慢する企業が存在すること自体が、「環境関連のコストを削ってその分配当しています」と自慢する企業と同じくらい、後々考えれば青臭い、恥ずかしいことなのです。(p212)
好むと好まざるとにかかわらず、我々は今、大きな構造的転換を目の当たりにしている。この新たな世界においては、今までのルールや成功体験は役に立たない。例えば、企業の生き残りのために必要と信じられてきた生産性の向上も、経済成長には結びつかないどころか逆効果だ。
「国際競争力維持のために」と唱えつつ、内需縮小の火に油を注いでいる多くの企業の方々。目先の状況だけ考えれば無理はない行動と同情はしつつも、あなたのやっていることは緩慢な自殺にほかなりません。(p209)そうかもしれない。
そしてこの本は、まだ諦めるな、まだ知恵を絞りきっていないだろ、と叱咤してくれる。
以下、いつか使うかもフレーズ集。
高齢者の貯蓄の多くはマクロ経済学上の貯蓄とは言えない。「将来の医療福祉関連支出の先買い」、すなわちコールオプション(デリバティブの一種)の購入なのです。(p102)
最も希少な資源が労働でも貨幣でも生産物でもなく実は消費のための時間である、というこの新たな世界における経済学は、従来のような「等価交換が即時成立することを前提とした無時間モデル」の世界を脱することを求められています。(p174)
ハイブリッドカーの場合の言い訳は実利面と理想面と二つもあります。前者がエコカー減税や買い替え補助金であり、後者が「地球環境を考えるのはいいことだ」という大義名分です。このように利得とタテマエと両方の言い訳があれば、人間は抵抗少なく購買行動に走ります。(p215)
公的介入によってそれなりに高めの最低線(=ナショナルミニマム)を保証しつつ、その先の快適性追求を市場経済原理に則って認めるという結論は、過去に住宅市場で実現していたにもかかわらず、市場か政府介入かという今の不毛な二元論の中では忘れ去られがち(p261)