小さな命と向き合って14

2016年5月「小さな命と向き合って7」の新館として生まれました。 動物病院のリアルな医療現場からの記事を通じ、 読者皆様の小さなご家族の病気の予防や注意喚起に 繋がればという思いで綴ります。

「もう少し早く気づいていたら・・・」「病気のサインと知っていたら・・・」と動物医療の現場で日々感じる思い。そんな思いをブログを通じ、多くの飼い主様に知っていただき、辛い思いをする動物や飼い主様が一人でも減ってもらえれば、という願いを込めて記事を綴っていきたいと思っております。

海と富士山を見に行ってきました。
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建物に囲まれた日常から、
良い気分転換になりました。
癒されますね。



この春で、動物の命と向き合い続けて、
35年。
多くの仔と出会い、沢山の飼い主様と会話をし
いくつの手術をしてきたのだろうと
ふと振り返ってみたり。
経験値は、大きな財産でもありますが、
それがかえって油断に繋がらぬよう
これからも、一頭一頭きっちり
向き合っていきたいと思っています。

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「食欲がなく、吐いています。」
と来院された3歳のニャンさん(♂)
前日の朝は少量食べたが、
昨夜は、ほぼ何も食べず
寝ていることが多かったとのこと。
嘔吐回数は3回(昨夕1回、夜間2回)

飼い主様に、誤食の可能性を聞いてみたが
はっきりとしたものはなさそうとのこと。
以前誤食傾向があったため、
食べそうなものは棚などにしまって、
きっちり管理しているとのこと。

体温は平熱だったが、腸蠕動が聴取されず。
レントゲン、血液検査を実施。

レントゲンでは、はっきりとした異物等の
異常所見は確認できなかった。
(レントゲンでは布やゴム、ビニールなどは
透過してしまい、写る可能性は低い。)


血液検査では中等度の脱水所見と
SAA(炎症があると高値を示す)が

やや高値を示していた。

はっきりとした診断を下すまでには
至らなかったので、
輸液や制吐薬、
栄養補助剤などの対症療法実施した。


翌々日、吐くことはなくなり、
もう1匹のニャンと遊んでいたが

昨夜より元気消失、食欲低下が認められた。
腹部エコーも実施したが、決定的な所見は
認められなかった。

一時的に元気や食欲は改善しても、
半日から一晩で
また調子が悪くなる。
嘔吐症状も消失したり、1~2回吐いたりと
不安定な状態であった。


検査等ではっきりとした所見が得られず、
症状にも波がある状態であるため
飼い主様に試験開腹をお勧めした。

飼い主様も同意され、試験開腹を
行うこととなった。

全身麻酔をかけ、開腹を始めた。
胃から大腸に至るまで、広域を診るために
大きめに開けた。

胃から色の変化をみながら、硬いもの等が
ないかを確認しながら、丁寧に触知していく。

十二指腸の後方あたりに、何か角張っていて、
硬いものに触れた。
漿膜の色もやや充血し、腸間膜リンパ節も
腫大していた。
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「かなり気のなる状態である。」
その硬いものを、指で腸管内を上下にゆっくり
移動させてみたが、
全く動かない。

全体像を把握するために、その部分は
一旦スルーして、
そこからさらに腸を
直腸方向へ、
丁寧に触知しながら
すすめていった。


結腸に3個ほど便と思われるものが
あった。

動かしてみると、直腸方向へ移動する
ことができた。

再度気になる部位に戻り、硬い部分を
触知した腸に
メスを入れた。
すると黒くなった異物が顔を出した。

腸にはまり込んでいる。
粘膜を傷つけないよう、少しずつ上方に
引き上げた。

「とれた!」
何らかの異物である。
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この異物によりリンパ節の腫大も説明がつく。

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切開部位を縫合し、再度胃から腸まで確認して

閉腹し、オペを終了した。



今回摘出した異物を飼い主様にお渡し、
ご自宅で確認していただいたところ
半年前まで使っていたピンク色のサンダルの
一部であることが判りました。
半年前に処分されていたので、半年間
この仔の胃にあったと思われます。
その間、胃酸等により異物は硬化し色も
黒っぽくなっていました。
(元はピンク色だったそうで、今回摘出した異物も
切ってみると、ピンクだったそうです)
それが何かのタイミングで、胃から十二指腸へ
ひっかかりながら動き、この部位で完全に
とどまってしまい、今回のような状態を引き起こしたと
思われます。
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術後、嘔吐症状は1度もなく、食欲も旺盛で
回復傾向を示しております。

【顔つきも良くなりました。】
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常法とおり全身麻酔を施し、開腹を始めた。
腹膜をあけ、下部に位置する胃を
優しく上方に持ち上げ、胃の外から
異物の有無を慎重に触診していく。
注意深くすすめると、何やら硬いものに触れた。
再度触ってみたが、やはり硬いものがある。
その部位の漿膜面に、うっすらと黒っぽい
ものが透けて見える。
大きさといい、硬さといい異物と思われた。

その部位をメスで切開する。
血管の少ない部分を選び、慎重に切開を加えた。
黒っぽい異物が顔を出した。
クリップと共に、この仔の黒い被毛
も絡まっているようにみえた。
器具を用い、その異物を引き上げようとしたが
食い込んでいるのか簡単には取り出せない。
前後左右に少し動かしながら、ようやく摘出した。
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変形し変色したクリップには被毛が絡んでいた。

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胃の粘膜も確認したが、異物による影響は
そこまで重度には至っていないようであった。
切開した胃を縫合し、胃の内容物の漏れがない
ことを確認後、閉腹しオペを終了した。

よく頑張ってくれました。
これでスッキリしたでしょう。

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結果的に、嘔吐や食欲低下などの症状が
出ないうちに摘出できてよかったと思います。
何か異物を口にしてしまった際は、症状が出なくても
早めに受診することをお勧めします。

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