月の彼方で逢いましょう を含む記事

月の彼方で逢いましょう 感想

総評 ■■■■■□□ 5
シナリオ ■■■■■■□ 6
主人公  ■■■■■■□ 6
ヒロイン ■■■■□□□ 4
CG   ■■■■■■□ 6
音楽 ■■■■■□□ 5
声優 ■■■■□□□ 4
演出 ■■■■■■□ 6
2019-07-15 (3)
OP曲である『月の彼方で逢いましょう』のピアノアレンジ感動を引き起こすために計算しつくされたと言っても過言じゃない一枚絵で心を大きく揺さぶられてしまった作品でした。思わず涙を誘われてしまった場面を迎えたのは岬栞菜さん√、佐倉雨音ちゃん√、日紫喜うぐいす先輩√の計三回。しかしながら逆に言うとそれ以外の√が割としょっぱい。
2019-07-15 (10)
『アフター編』の松宮霧子&月ヶ洞きらりさん√は主人公の青臭さも残るもののヒロインの為に全てを擲って行動するさまが素晴らしく思い出には残ったのですが、『スクール編』の残り二人新谷灯華&倉橋聖衣良√は何と言えばいいのか難しいですが強いて言うのであれば『出る作品を間違えてる』印象が限りなく強い。新谷灯華さんの方は所謂ところの設定でゴリ押しした『なんちゃってシナリオゲー』と言っても差し支えないと思うし、倉橋聖衣良ちゃんは他の√と比較した時に心情の掘り下げが少なく良くも悪くもいちゃラブ重視の『白月かなめさんの声にただ甘やかされるゲーム』という感想が浮かんでしまう。

【新谷灯華√】
新谷灯華√感想抜粋リンク

【日紫喜うぐいす√】

日紫喜うぐいす√感想抜粋リンク

【佐倉雨音√】

2019-07-15 (8)
一番この作品のタイトルである『月の彼方で逢いましょう』の意味であったりとかこの作品のコンセプトと言っても差し支えのない問答『もし、未来と過去をスマホで繋げたら、あなたはどんな後悔をやり直す?』に対しての解答が確実に伝わってくる√でした。複数ライターを併用した偶然かもしれないが日紫喜うぐいす√の『苦しみも分かち合った仲間もスクール編から続く思い出も全てを犠牲にヒロインの命を救う』というお話に対して完全に対比関係にあるようなお話でした。というか佐倉雨音√完全に日紫喜うぐいす√に反発して喧嘩売ってきてるとすら思った。

日紫喜うぐいす√では命を落としたうぐいす先輩を救うために、主人公との出会いは無かったと過去改変をしそれでも心の中に燻るありし思い出を頼りに『竜恋の丘』でまた再び出会うという悲恋に満ちた終幕を迎えました。しかし佐倉雨音√でも『雨音の母親に心臓病で亡くなることを伝えられたら?』という後悔を晴らした後の世界を覗き見する場面が存在しており、その世界では雨音の後悔は勿論払拭されたのだが主人公と雨音の接点が失われてしまっていた。この今挙げた二つの√では『過去改変で主人公とヒロインが過ごした思い出が消されてしまう』という点で大変似通ってるのだが、雨音√では過去改変後の未来を『残酷』と一刀両断している。
2019-07-15 (9)
極めつけは雨音ママの『でも、病院には行かないわ。あなたやカナタくん、他の人も積み上げてきたすべてが別のものに変わってしまう。今そこに、あなたの求めていた幸せはある?』だよなぁ。うぐいす√の過去改変では主人公の『小説出版の夢が叶わなくなる』ことにより間接的に主人公だけでなくその親友ポジションの男の職業まで悪いものに落とされてしまうしその悪影響は至る部分に散見された。しかしながら雨音ママは先述した悪影響についても『ポール・グレイの妻』として予め予想を付けており、また『親』としてその他の人の未来も否定しうる過去改変』の力は発揮すべきではないとしているので『親』のしたたかさをこの場面で思い知らされる。泣いた。

【倉橋聖衣良√】
2019-07-15 (11)
この√を象徴する話題が『回鍋肉』の下りだと思ってる。スクール編では主人公>聖衣良だった関係が幾何の月日を経て立派な大人の女性として生まれ変わった聖衣良ちゃんが主人公をリードする主人公<聖衣良の関係に様変わりし、最終的には主人公=聖衣良ちゃんの対等な彼氏彼女に落ち着くその移ろい感が巧みだったように感じた。
2019-07-10 (2)

『野菜足りてなさそうだったから、今日は回鍋肉!野菜だけじゃなくて、お肉も食べられるし!』『ホイコーローって、元、買ってきたのか?』『そんなのなくても作れるよ』『あっさり言われてしまった。なんだか、こういうところにも“成長”を感じてしまう』


聖衣良ちゃんが『回鍋肉』をわざわざ漢字表記で言えるようになってるのが素直にまず驚かされる。カッコいいカタカナ言葉を覚えようとして『アレンジ』と『リベンジ』を間違える大人のレディになろうと背伸びしたイメージが脳裏に焼き付いているからなおさらね。そこで主人公が『ホイコーロー』ってカタカナで返すんですよね。小説家である主人公なら活字で書けて当然なはずなのに小説から離れてるからか漢字表記が出来なくなってるのかなぁと感じてしまいます。また食事をコンビニ食ですましてるせいで家庭食になじみが無くなりつつあるのもここから伺わされる。更に言うと『元、買ってきたのか?』と聖衣良ちゃんに初めから料理を作ることは叶わないと決めつけてますし、主人公の中では久しぶりに会った聖衣良ちゃんはいつまでたっても子供のような存在なのかなぁと思わされますね。

【岬栞菜√】
2019-07-15 (7)
神。100万ドルの夜景見ながら告白するシーン大好き。本質。

【松宮霧子√】
2019-07-15 (2)
これも主人公が編集部企画の婚活に関して綴った著書『ガチ婚活』で公私混同告白してくる場面が好きすぎる。『妥協しない』が松宮さん35歳のポリシーでその価値観を共有できる人とも結婚したいと述べていたのですが、主人公も口癖のように『妥協しない』と言いながら残業する社畜になりながら自然と松宮さんの思考に引っ張られていく様子が見てて微笑ましかった。告白も『妥協しない』結果生み出されたものと考えると感慨深いですね。

【月ヶ洞きらり√】

2019-07-15 (6)
中古性狂いおばさん(CV手塚りょうこ)だと思ってたら、他の√での主人公に対して送る助言アドバイス役はだいたいこの人だし周りに気配りできるめちゃくちゃいい人のイメージだけが終わってみればこびりついてる。実際栞菜√では主人公と一時疎遠になってしまい寂しがってる様子の彼女を見かねて飲みに誘ってるし、霧子√でも『丸裸になりなさい』と理屈っぽい主人公に取り繕わずに霧子さんに思いをぶつけろと『ガチ婚活』の本で告白するきっかけ与えてくれるし。
2019-07-15 (5)
一番好きな場面としてはうぐいす√で自責の念に駆られた主人公に『あなたの絶望や苦しみは、きっとあたしには計り知れないものよ。きっとその経験が、あたしには書くことの出来ない、素晴らしい言葉やセリフをいつか書かせてくれるんでしょうね。うらやましいわ』と嫌われ役演じて主人公から感情を引き起こすところかなぁ。聖衣良ちゃんとは臨時でビブリオカフェの店員店主やった仲ですし、やつれていく主人公を介護する聖衣良ちゃんが見てられなくなったのでしょうか。『作家』として書くことが生きることと力説し主人公を立ち直らせた場面が印象的です。そしてそう『心の中のうぐいすさんにむけて書いていこう』と決意した矢先に現在と過去をつなげるスマホを発見してしまい再び主人公の心は闇深く沈んじゃいますが、このワンシーンがあったが故に『周りの人を犠牲にしてでもうぐいすさんを生き返らさせる主人公』の造形がよりくっきり表れてくれた気がします。
2019-07-15 (12)
彼女の√に関して言えばそういういい大人の女性像から少し離れて、告白らしい告白もなく最後まで捉えどころが無い人のようにも見えましたけど、自分の書きたいように書く、言いたいことは言うという自由奔放な主義に中々惹かれるものがあった。それは彼女の担当編集である主人公を見れば明らかで彼女の担当を離されても『自分のしたいようにする』主義を受け継ぎ彼女に無断で色々と行動を画策し他人に迷惑かけてでも彼女の本を出版する姿は、褒められるべきでは無くても闘志に溢れるというか『熱血さ』があらゆるところからにじみ出てましたし『自分勝手』であることが『生きがい』に直結するのかと改めて思い知らされました。

月の彼方で逢いましょう 新谷灯華√ 感想

総評 ■■□□□□□ 2
シナリオ ■■□□□□□ 2
主人公  ■■■□□□□ 3
ヒロイン ■■■■□□□ 4
CG   ■■■■■□□ 5
音楽 ■■■□□□□ 3
声優 ■■■■□□□ 4
演出 ■■□□□□□ 2
2019-07-13 (1)
『月の彼方で逢いましょう』のタイトルを冠するような本丸√だと発売前に予想していたが故に、タイムループ・過去改変系のお話にありがちな『設定を無理やり押し込めて話をまとめる』終わり方に釈然としないものを感じたり、道中登場人物のご都合的な行動に疑問符を浮かべてしまったりと正直残念な感情はぬぐえませんでした。ある意味家庭事情を加味した時に立派な教育を受けられていないはずで致し方ないとはいえ新谷灯華ちゃんのネコみたいな自由奔放な性格が終盤はかなり鼻についてしまうんですよね。『協力者になってくれる?』と口にしながら結局は『主人公巻き込みたくない…』を連呼して自己犠牲に走り出した場面はまさに『未来ラジオ』『スワローテイル』等のなんちゃってシナリオゲーを彷彿とさせました。

悪かったところ
1、致命的な過去描写不足

2019-07-13 (3)
『自分の家族の人生を壊した殺人犯、増岡隼磨への復讐計画』これが本作品のお話の軸と言えるのだろうけども今一その肝心の怒りの感情が伝わってこないのが正直なところである。どうしてだろうと考えた時に『増岡に罪を認めさせて、あいつが隠したお金を奪い返す』『残りの人生を奪ったお金で悠々と暮らそうだなんて私は許せない』と若干現在からの視点で昔を説明的に振り返るお話展開ばかりされ、『当時の家庭が崩壊していく様子』などが記載されておらず彼女の気持ちを察するためにはいささか情報不足なものに思えてしまいました。
2019-07-13 (10)
せっかく片親が宗教にのめり込んでしまい『子供がけがをした時に輸血もさせてあげない』クソ親エピソードがあるのだから、親が腐敗して逝くまでの過程についての『過去話』でも入れてしまえば当時に感じた彼女の世間への無力感やそこから徐々に形成されていく復讐心なりを再現出来たのかな…?と思う。しかしながら本作にはそうした昔話を挿入出来なかった所以もしっかりと存在しており、それは『スクール編』と『アフター編』の二つの世界軸を視点を変えて移動する話の進め方をとっていたがゆえに更に過去の『新谷灯華過去編』の場面を作ってしまうと時系列の大きな混乱を与えてしまうからだと推測してみたり。いずれにしろ過去描写を挿入せずに復讐を語ってしまうとどうしてもその行動も『軽く』思えてしまうので不思議である。

2.ガバガバ復讐計画
2019-07-13 (5)
この作品に釈然としない印象を与えてしまったのはもちろん他にも存在する。例えば刑務所から仮釈放された増岡を拉致することに成功するも、少しの油断から主導権を握られ銃口を向けられ一対一で対面する本作品の山場の一つともいえるシーンとかも少し納得しがたい行動が目立つ。そこで『増岡が犯した婦女暴行事件の犯人の被害者が実は母親で、言い換えれば増岡は灯華の実の父親ということとなる。母親は灯華を愛することも憎むこともできず死んでいった。だから増岡に自分を殺させてもう一回刑務所送りにさせる』という行動に彼女は打って出る訳だけど復讐計画ちょっとガバガバすぎるやろ。
2019-07-13 (6)
流石に主人公、灯華、増岡しかいない電波塔とはいえども殺人事件を起こせば発砲音やらで確かに投獄はされてしまうとは思う。しかしながらそうならば殺害しなきゃいいだけだと思ってしまうのが実際のところである。動機もないし。こんな子供のお遊びに付き合わなくても急ぎ逃げおおせることが出来るやろ。最終的にそうなりましたしね。

そして次に『灯華が実の娘と知り突如錯乱する増岡』な。物わかりあまりに良すぎるやろ。他人に罪を擦り付けて罪を軽減することを可能にしたしたたかな一面やその強盗殺人犯行後も二年生き延びることが出来たところから垣間見える狡猾な姿。こんな高い知能性を持つ犯人が『急に現れた女に私は実の娘』だなんて突然告げられても、何も思わないのが普通やしそもそも疑うのが常だと思うんですが。勿論『投獄中は模範囚として過ごした』とありますし10数年の月日を経て改心した可能性も残されてはいるんですけどね。
2019-07-13 (8)
また物わかりが良すぎるのは殺人犯こと増岡だけでなく本作メインヒロインの灯華ちゃんも同様である。さすが家族。『おまえがそばにいてくれて良かった…これからもそばにいてほしい。灯華が誰の子で、どんな人生を過ごしてきて、なにを背負っているかなんて関係ないんだ!だから…頼む!俺と一緒に逃げてくれ!』という薄い台詞でなんで復讐諦めて納得したかのような態度取るんや…。
2019-07-13 (2)
これも本作では『復讐を諦めた』という台詞を直接言ってるわけではないので少しだけ穿った見方、すなわちいちゃもんのように聞こえてしまうかもしれません。しかしながらこの後彼女は不運にも跳ね返った銃弾を被弾してしまい奇しくも『復讐の目標』を果たすこととなりますが、その際に主人公と屋上でドクターヘリを待っていた最中一度も『復讐』だなんて言葉は出ませんでした。このことから彼女には死の瀬戸際にいても人生の目標であった『復讐』は忘れ去るかのように主人公との会話に勤しんでいますし、彼女の中から『復讐』という名の毒は消えたように感じました。始めは主人公とひょっとこフェラしながらいちゃいちゃしてたらいつの間にか失踪事件起こしてたぐらいだったからそれと比べると大きな成長ではある。
2019-07-13 (11)
話を戻すと『灯華が誰の子かだなんて関係ない!』というお世辞でも簡単に言えそうな発言でヒロインの復讐心を消し去ってしまったと考えるとやはり不完全燃焼感が否めなかったんですよね。そんなんで感動してくれるなら彼女も失踪事件だなんて勃発させなかったやろうに。

3.再会
2019-07-13
『悪いこともいっぱいしちゃったし…辛いこともあったし…そういうのいろいろ…全部片づけてから会いに行こうって…新しい自分になってから…奏汰に会いたいなって思って…』

この灯華ちゃんの台詞がどうしても傲慢たるものに思えて仕方ありませんでした。日紫喜うぐいすルートにて主人公が灯華との別離を『引きずる未来』と『引きずらなかった未来』での落差は実感させられており、灯華ちゃんが与えた主人公のその後の人生における影響力は十全に想像することが出来る。そうした場合に灯華ちゃんの『新しい自分になってから会いたかった』という『会おうと思えば会うことが出来た状況』はどうしても『灯華ちゃんも生存していたことぐらいは先に報告していれば主人公も彼女に対して悩み続けることは無かった』と思い苛立ちは隠せなかった。お話的に面白くするためと言うのはわかるんだけれどもさ。もし生存告知していればうぐいすルートのように主人公が小説家として大成する未来もあったかもしれないのに。

4.アフター編の主人公の使い方
2019-07-13 (9)
終盤はもはや自分の編集作業につきっきりでスクール編の主人公の手助けと言えるような行動を自分から起こすことは少なかったように思える。行動力が高いと思えた瞬間は地味に増岡の女であった三崎さんに一度会いに行ったぐらい。二度目三崎さんに会ったことで得た情報がスクール編の主人公の行動に良い影響は与えましたが、あれも三崎さんの方がわざわざ主人公の方を訪ねてきてくれた結果なので主人公のファインプレイとは大声では言えないし。最後らへんの疑似LINEでのやり取りとかもうただの『Yahoo知恵袋』なんだよな。

現在月ヶ洞きらり→日紫喜うぐいす→倉橋聖衣良→新谷灯華ときてようやくこの作品も折り返し地点まで来れましたね。味わい深い作品で他√も楽しみです。

【他√感想リンク
日紫喜うぐいす√ 感想



月の彼方で逢いましょう 日紫喜うぐいす√ 感想

総評 ■■■■■□□ 5
シナリオ ■■■■■□□ 5
主人公  ■■■■□□□ 4
ヒロイン ■■■■■■□ 6
CG   ■■■■■■■ 7
音楽 ■■■■■■□ 6
声優 ■■■■■■□ 6
演出 ■■■■■■□ 6
2019-07-08 (19)
『運命の選択(Selection of Destiny』がコンセプトの一つとして挙げられておりそのコンセプトを冠するかのような挑戦的エンドを迎え、tone worksらしからぬ終わり方で物議をかもした日紫喜うぐいす√アフター編。自分は好きです。序盤ではうぐいすさんとの暖かなずっと続くと思われた日常を描写し、中盤はうぐいすさんだけが自分の全てではなくその周辺の人物が助け合って二人は生きていけた『仲間』の強さを思い知ることが出来る。そして終盤にかけてここまで築いてきた展開をあざ笑うかのように『過去のつながり』を冒涜的にあえて扱うことで『命』よりも『心』と語りかけてくる安っぽいドラマみたいな展開を否定し、それ故に逆に『命』の重さを感じられることが出来ました。こういうアンチテーゼ、好意的、否定的に映るかは別にして見たことない展開が繰り広げられることには素直に心躍らされました。

1.日紫喜うぐいすの病状とは

2019-07-08 (3)
本編中で記載されてる描写として挙げられるのは『血液凝固因子不足』『血管が脆い』『基本的治療は凝固因子製剤の週三回投与』『肝機能不全』『10年しか生きられない』等々。病名をこれらの情報から当てるのは至難の業だが血液凝固因子不足はほとんど肝臓で作られるため肝機能低下で内出血を起こしやすくなるというのは非常に理には適ってる。一応推測だけはしておくと『自己免疫性後天性凝固因子欠乏症』とかが指定難病に挙げられてるから一番しっくりはくる。この辺はエッチゲ特有謎病気だと解釈してさらりと流そうとは思いますが。

2.本の『モノ』としての解釈
2019-07-08 (11)
死を眼前に突きつけられてるせいかスクール編から『時間』に対する人と一風変わった価値観を披露している。その価値観が少々垣間見えたのが主人公とのデート中に語った本の『モノ』としての価値のお話でした。電子書籍よりも実際に手に取れる本の形態の方を好むというもので、『太陽の光等で経年劣化することで自分のものとして実在しているように感じる』との理由を詳らかに語ってくれた。こう後から思うと電子書籍の形態を好まないのも、自分とは違い年を取らず衰えることもない情報媒体としてただそこに存在しているそれらに対して、反抗心を少しは抱いていたのかな…とも思ったり。

3.『太陽』『月』『星』
2019-07-08 (12)
お互いに月で繋がる関係と自負していた日紫喜うぐいすと黒野奏汰の二人の関係。二人は小説作家として成功をおさめ夢が実現する瞬間を見せた奏汰を『太陽』、生の希薄に乏しく主人公によって輝かされていたうぐいすを『月』としてそれぞれ例えられていた。しかしここであまり本編中では語られていないが『星』という例えも温泉宿に泊まりに行く場面で部分的に散見されていた。『これだけ月が明るいのに、こんなに星が見えるだなんて。こんなにあったのに見えてなかったなんて不思議ですね。』
2019-07-08 (15)
ここで『星』として例に出しているのは『月』の周辺で輝く人物、つまり倉橋聖衣良、月ヶ洞きらり、環円、田島賢斗含むうぐいすの務める喫茶店に集う人物達である。『甲斐性なし』と聖衣良&きらりに言われ主人公はうぐいすとの小さな旅行を決意するのだが、この比喩から彼女たちの恩義が見て取れる。更にこの発言を言っているのが『うぐいすの病状が悪化する前』というのも涙を誘わせる。
2019-07-08 (20)
彼女が病床で寝込んでからも『普段のまま彼女には接して欲しい』という主人公のお願いにより、この周辺の人物の『星』としての輝きは増し、そのおかげでうぐいすの『月』としての生をより豊かにしてもらえたと思う。病状が悪化してから周辺の人物に感謝するのはよくみる展開であるが、病状悪化前からの感謝は、病生活を送る中で実感した弱音からではなく、いつもながらの生活でひっそりと感じた心からの言葉のように思われ、小さなところではあるが感動を禁じえなかった。お見舞いに来て笑顔を振りまいていた聖衣良ちゃんがうぐいすのいないところでこっそり泣き出すのズルい。

4.月の満ち欠け
2019-07-08 (18)
本作品では『月の満ち欠け』の比喩がアフター編では大きくは二度なされており、一回目は『彼女が衰弱し笑顔が減っていく様子』二回目は『主人公の中からうぐいすの思い出が消えていく様子』を描出したものである。二回目に至るまでの過程を軽く記載しておくと、主人公は彼女の死後紆余曲折はあるものの、死に際に残した彼女の小説に元気づけられかつての小説の情熱を少しずつ取り戻していく。ところが彼女の病気を根治させる可能性を持つ新薬の開発がなされていることを知り、彼女がドイツに長い間留学療養していれば、言い換えれば主人公と出会わなければ、『命』は救えたかもしれないという事実が彼のもとに『罪悪感』として大きくのしかかることとなる。そこで彼は昔の自分にメールを送り『あえてうぐいすに嫌われる行動』をとらせ『うぐいすとの交際』を無かったことになるよう現在・未来を改変したのだ。
2019-07-08 (6)
この満ちたものが欠ける様子を二度にわたって使うことで主人公の行動の愚かさ、醜さが巧みに描写されていたと思う。一回目では『命』がすり減る様子を月の満ち欠けで表し彼女の『肉体的』な死に至るまでの過程がありありと伝わった。そして二回目。この彼女の死を迎えた時でも『満ちていたものが欠ける』という表現を使っていたということは、裏を返せば主人公は未だ彼女との思い出により精神的には『満ちていた』はずなのだ。『うぐいすは未だこころの中にいる』ときらりさんに助言を頂いたのにも関わらず、その『こころの中にいるうぐいす』を過去を改変することで殺してしまった。そう主人公は二回にも渡ってうぐいすを殺したのだ。これを愚かと言わずに何といようか。
2019-07-08 (4)
また主人公のこうした行動は作品中では大きく否定はされていないが、小さく否定する材料はまずまずそろっている。例えば雨音ちゃんが主人公の現在と過去をつなげる機械であるエンデュミオンについて語り始めた時だ。エンデュミオンは神話がモチーフとなっているのだがその逸話を聞いた際に『大切なパートナーの死を怖れ、世界の法則を曲げてまで不老不死を願う…そんなの、ワタシにはただのエゴとしか思えない』『もしかしたら、エンデュミオンは、普通の人間として歳を取り、死を迎え、肉体が朽ち果てることを望んだかもしれない』とさりげなく主人公に語っている。不老不死とはいかないまでも主人公の『死』を否定する行動は雨音ちゃんには理解に苦しむ行動と捉えられている可能性が高いのは否定できない事実である。
2019-07-08 (7)
では何故主人公はこのような不可解な行動に出たのだろうか?一つ目には元も子もないが『単に気がふれていた』というのもあるだろう。エンデュミオンが現在と過去をつなげる可能性をもつという噂を耳にしただけで一日中過去の自分に『後悔するぞ』と送り続けるというのは常人の思考を脱してるといってもよい。ちなみにエンデュミオンが遺作となったエンジニア『ポール・グレイ』も奥さんを失くしてからオカルトの世界にはまり込んだといってますし、それと完全に同じ線路を走ってる主人公にはもうかつての輝きは無い。それこそ先述したようにきらりさんの『うぐいすは未だこころの中にいる』という助言を無視し捨て去ったわけですから主人公の周りに出来ていた『太陽』『月』『星』の関係性は全て失われたと言っても過言では無いのだ。
2019-07-08 (8)
次に二つ目がアンチテーゼ的解釈なのではあるがそうした『うぐいすは未だこころの中にいる』というこの手の話のお約束を無視して、それでも彼女には生きていてほしかった、ただそれだけの生物としてごく普通の要求をしていたのではないだろうか。ようするに先ほど雨音ちゃんがエンデュミオンの逸話で出したように全ては主人公の『エゴ』等だとは思う。うぐいすの感情、周りの人からの言葉、そういうのをすべて無視して『彼女に生きていて欲しい』と願うのは確かに愚かではあるが切って落とすことは出来ない人間としてのあたりまえの感情だとは思いませんか?自分的にはこの解釈が一番しっくり来ています。心の中にずっと最愛の人がいるだなんて台詞は綺麗ごとで、どんなに汚い手を使っても好きな人、いや好きだった人が生きていることが何よりも大事というのは欲望に忠実で実に人間らしい。
2019-07-08 (10)
三つ目には主人公は結果的には『間接的にうぐいすを殺してしまった(ドイツ療養を充分にさせてあげられなかったせいで新薬の投与を受けられなかった)』のは事実ではあるし、そこから生じる『罪の意識』に突き動かされた形での行動。これも主人公が気が狂い始めたのはニュース以後ですし間違いなくある感情ですよね。彼女と交際したが故に最愛の人を殺してしまったのですし、その交際を無かったことにしたいという後悔する気持ちで心の中が溢れるのも仕方ないことですよね。LINEで『後悔するぞ』ってあんなに連呼してたし。
2019-07-08 (9)
そして四つ目が『月は欠けてもまた満ちる』。サノバウイッチ、11月のアルカディア等でも見られたエッチゲ定番の『記憶を忘れても再び出会うことが出来る』と考えていた可能性だ。自分的にはあの気がふれた主人公がここまで未来のことを考えているとは思えないのだが最後に主人公がうぐいすと過ごした記憶の残滓で書いた『月の彼方』を縁にして、再び過去改変後もうぐいすさんと会えたわけですし、過去が改変した後もそうした『思い出はどこかに残る』と信じていたのかもしれませんね。
2019-07-08 (13)
と、此処まで記載したように安易に『HAPPY END』と言えない結末や主人公の不可解な行動には理解に苦しむところがあり選ぶお話だったとは思いますがそれ故に新鮮で記憶に残る作品だったと思いました。



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