2022年09月14日

明治の文豪の作品というと、長くて難しくて読みづらい…そんなイメージを持っている方、多いのではないでしょうか?

しかし、有名どころの作家にも、短くて読みやすい作品はあるのです。

中でも特に「初心者文学の入口として読むのにピッタリ」だと思っているのが、夏目漱石さんの作品『夢十夜』です。


夢十夜・草枕 (集英社文庫)
夏目 漱石
集英社
1992-12-15



現代人向けに一言で紹介するなら「明治の文豪の書いたファンタジーSS集」で通じてしまうかも知れない…そんな作品です。

(あるいは、現代のドラマに例えるなら「世にも奇妙な物語」的だと言えなくもありません。)

全部で十話のオムニバス形式の作品なのですが、1話1話がとにかく短いです。

短編ですらなく「掌編」…SS(ショートショート/ショートストーリー)と言って良い短さです。

言葉も、それほど難しいものは使っていません(少なくとも森鴎外さんよりは余程易しい言葉です)。

そして、内容がファンタジックで不可思議で、しかも奥深く味わい深いのです。

毎話(毎夜)が必ず「こんな夢を見た。」で始まり、夜に見る「」をモチーフにした物語だと分かるのですが…

「夢」というものの持つ不条理さ、理屈を超越した不可思議さを、そのまま「物語」に仕立てているような、そんな小説です。

それでいて、本物の夢そのもののように「ストーリーが無い」「オチが無い」ということはありません。

(ただ「オチ」に関しては、ある程度以上の読解力がある方でないと、意味が分からないかも知れません。読解難易度は低めだと思いますが、直接的な表現ではないので…。)

十話ある物語には、ひたすら美しくて切ないものもあれば、どきどきするような緊張感のあるもの、ラストで急に恐ろしくなるものもあり…

世界観や設定も様々で、バリエーションに富んでいます。

(なので、人によって「この話は好きだけど、この話はビミョウ…」ということもあるかも知れません。)

この作品の「夢を元に物語を作る」というコンセプトは、映画監督の黒澤明さんにもオマージュされています。

1990年に公開された日米合作の映画に『夢』(※)というものがあるのですが…

全8話のオムニバスの、各話の冒頭は『夢十夜』と同じく「こんな夢を見た」で始まります。

(内容は夏目漱石さんの『夢十夜』とは異なり、黒澤明監督自身が見た夢が元になっているようです。)

その他にも、様々なメディアの様々な作品に、この物語の影響が見られます。

個人的に一番好きなのは、第一夜の物語なのですが…

「真珠貝」「星の破片(かけ)」「月の光」「真白な百合」「暁の星」と、出てくるモチーフの1つ1つが美しくて詩的なのはもちろん…

死した女が、百年かけて逢いに来る、その再会の仕方が予想外で…

そこで主人公が時間の経過に気づくというラストがまた、切なくて奥深くて、心に残ります。

明治の昔に書かれた物語とは思えぬほど、現代にも通じる、ロマンティックで幻想的な物語です。

電子書籍のKindleでは無料版もあります。
  ↓
夢十夜
夏目 漱石
2012-09-27


自分は高校時代に紙の文庫で読んだのですが、その時と同じカバー・内容のものは、もう絶版になってしまいました。

現在は他にこんなものが出ています。
  ↓

文鳥・夢十夜 (新潮文庫)
漱石, 夏目
新潮社
2002-09T

 
夢十夜 朗読CD付 (海王社文庫)
夏目 漱石
海王社
2015-07-10



以前紹介した「乙女の本棚シリーズ」からも出ています。
  ↓
夢十夜 (立東舎 乙女の本棚)
しきみ
立東舎
2018-12-15


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2022年08月06日

自分がこの本を最初に手に取ったのは、小学1年生の時…
 
ひろしまのピカ (記録のえほん 1)
丸木 俊
小峰書店
1980-06-01

 
初めて学校の図書室に入った時でした。
 
この本の内容を知る方は「よりにもよって、これが最初の1冊…」と思うことでしょう。
 
この絵本、まず表紙からして壮絶です。
 
保育園まで「ほのぼの」した優しいタッチの絵本しか知らなかった自分にとって、あまりに強烈で、それゆえに、思わず手に取ってしまったのです。
 
そして、内容がまた壮絶でした。
 
タイトルからしてお分かりでしょうが…この絵本は、広島の原爆を扱った絵本です。
 
原爆投下後の広島で起きた悲劇――その地獄絵図が、あまりにも恐ろしく、生々しいタッチで描かれています。
 
それまで、戦争のことも原爆のことも知らずにいた自分には、あまりにも衝撃的でした。
 
正直、トラウマになりました。
 
しかし同時に「この恐ろしい出来事について、もっと知らなければならない」という思いに取り憑かれました。
 
「この本に描かれたような恐ろしい出来事は、絶対に経験したくない」「戦争には遭いたくない」…それゆえに、戦争についてもっと知らなければならないと思ったのです。
 
以来、小学生の時の自分の読書テーマは「戦争児童文学」になりました。
 
学校の図書室、地元の図書館にある戦争関連の児童書は、ほぼ全て読み尽くしました。
 
そしてそのことが、自分の人生観に大きな影響を及ぼしました。
 
特に、命というものに対する考えは、同世代の児童とは全く違っていたのではないかと思います。
 
「命は儚く、いつ理不尽に奪われてしまうか分からない」――それが、自分の生命観の根底に、常にありました。
 
自分の命を自分で諦めてしまわない――「自死という選択肢を、小3か小4の時点で完全に放棄した」のも、その人生観・生命観が影響していたからなのではないかと思います(他にも様々な要因はある気がしますが)。
 
 
世の中には「戦争」という、とてつもなく恐ろしく、悲惨なことが存在している…
 
その事実は、人生の中で、何度も自分を助けてくれました。
 
辛いことがいろいろあっても「戦争よりはマシだ」と思えたからです。
 
今の世の中、子どもの精神に配慮して「悲劇的な結末を改変する」絵本も多いと聞きます。
 
けれど「恐ろしい内容の方が心に残る」「その後の人生に影響する」というのは、少なくとも自分の場合は「事実」です。
 
世の中の悲劇・悲惨・残酷さから完全に遠ざけられた子どもが「どう育つ」のかは、きっと、その子が大人になってみないと分からないでしょう。
 
せめて、子どもが自ら「世界の残酷さを、ちゃんと知っておきたい」と思った時、それをちゃんと学べる環境は整えておいて欲しいと思います。
 
ちなみに、幼少期に戦争児童文学を読み漁った自分が、戦争文学について思っていることが1つあります。
 
それは「戦争の悲惨さ、残酷さばかりを伝えるのでなく、その戦争を『回避する術』も教えてもらいたい」ということです。
 
それはまだ解明されていない「人類の課題」でもあるので、なかなか難しいのは分かるのですが…
 
「戦争は恐い」「戦争は人を不幸にする」ということだけを知っていても、「実際に戦争が起こりかねない時代に、何をどうしたら良いのか」全く見えませんので…。




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2022年05月29日

いつもこのブログやサイトの参考文献コーナーをご利用いただいている皆さま、どうもありがとうございます

この数年の間に少しずつアフィリエイト(Amazonアソシエイト)の金額が増えていきまして…

先頃やっと「Amazonギフト券の最低支払金額」である500円を超えましたので、584円分のギフト券が(メールで)届きました!
 
さっそくそのギフト券で購入させていただいたのが、コチラです。
  ↓
記者ハンドブック 第14版: 新聞用字用語集
一般社団法人共同通信社
共同通信社
2022-03-15



「記者ハンドブック」という名前ですが、中身はいわゆる「用字用語辞典」…漢字の使い分けや送り仮名の正しい使い方などを載せた辞典です。
 
ギフト券分をだいぶオーバーしていますので、自腹部分がかなり大きいのですが…こういう機会でもないと、こういう「ちょっとお高い書籍」にはなかなか手が出せませんので、とても助かりました。
 
この本、大部分が「用字用語辞典」であることには違いないのですが、プラスアルファでついている情報がかなり実用的で役に立ちます。
 
「マスコミ関係者が記事を書く際に使えるように」と作られているため、そういう「記事の書き方(記事のフォーム)」はもちろん、現代日本の「ことば」にまつわる様々な情報・使い方が載っています。
 
たとえば「誤りやすい語句」「全国の市名・区名」
「紛らわしい地名や会社名の正式な表記(実は「キャノン」ではなく「キヤノン」な例の会社さん等…)
「使えない『登録商標』の代わりに何と言い換えたら良いのか」
「法律関連用語」「病名」「身体諸器官」「主な計量単位」
「運動用語」「様々な略語(「APEC」は何の略か…など)
「中国略字表」「外国の地名・人名の表記例」
「年号と西暦の対照表」などなど…。
 
特に自分が注目して「これがあるからこの書籍を選んだ」という項目があるのですが…
 
それは「差別語不快語」に関する項目、そして「ジェンダー平等への配慮」という項目です。
 
今の時代、ちょっとでも「配慮に欠けた言葉の使い方」をしようものなら、たちまち炎上騒ぎが起きます。
 
しかし「その立場にない人間」が「その立場の人間の気持ち」を察するというのは、「知識」や「高い想像力」がなければ、なかなか難しいことなのではないでしょうか?
 
(人はどうしても「自分」をモノサシに物を考えがちで、「自分とは異なる立場の人間」の気持ちは「思考の死角」になりやすいものです。)
 
しかし、あらかじめ「どういう言葉が『差別』『不快』と捉えられるのか」「どういう配慮が求められるのか」を学んでおけたなら、少しはそういった炎上リスク回避できるのではないでしょうか?
 
…まぁ「小説の中だと普通に使われている言葉だなー…。どうしようかなー…」という単語が結構あって、今後悩みの種になりそうな気もするのですが…。



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2022年03月12日

少女小説」とは、どんなジャンルなのか…どんな変遷を辿ってきたのか…、それを知るために役立つのが、この本です。
 
コバルト文庫で辿る少女小説変遷史
嵯峨 景子
彩流社
2016-12-28

  
タイトルに「コバルト文庫」と、特定のレーベルが入り込んでしまっていますが…
 
「コバルト文庫」が「中心」というだけであって、それ以外の文庫にも、ちゃんと触れています
 
それどころか、コバルト文庫以前の「ジュニア小説」や「少女小説前史」についても触れられています。
 
ラノベBLボカロ小説についても触れられています。)
 
扱っているのが少女小説とは言え、「研究書」のような趣の本ですので、字は細かく、だいぶ内容が厚いです。
 
「ざっと知りたい」「ライトに知りたい」という方向けではなく、かなりガッツリ傾向分析や研究をしたい方向けだと思います。
 
ただし、それゆえにガッツリ学びたい派の方にとっては「1家に1冊置いておきたい」ような本になっています。
 
何せ、解説のみならず、様々な「資料」が付属しているのです。
 
コバルト文庫と他の文庫の年間出版点数(刊行点数)の比較グラフですとか、コバルト文庫のみならず、他のレーベルの新人賞の受賞作一覧ですとか、コバルト文庫の歴史が一目で分かるイラスト入りの「年表」ですとか…。
 
本文に関しても、情報ソースがかなり細かく記されていますので「もっと詳しく知りたい」方に重宝すると思います(参考文献については、参考にした情報の掲載ページまで記載されています)。
 
(その参考文献を実際に入手できるかどうかは別問題でしょうけど…。特に小説雑誌のバックナンバーなどは…。)
 
また、ただ「人気作品の傾向移り変わり」のみならず、「読者の声反応」も取り上げてくれているので、より「深く」少女小説の変遷を知ることができます。
 
読んでいて興味深かったのは「熱狂的ブームにも衰退はある」こと、「流行の後には『揺り戻し』がある」ということ。
 
そして、こうしたティーンズ向けレーベルの読者は「作家よりもシリーズに付く」傾向がある、ということです。
 
初版刊行が2016年のため、「最新の傾向(特に、昨今のネット発小説の隆盛)」については、さすがに語られていないのですが…
 
「姫嫁」ジャンルの成長など、現在の恋愛ファンタジーの流行(異世界か中世ファンタジー風世界が舞台で、姫や令嬢が主人公の恋愛もの)にも通じる傾向が読み取れたりと、勉強になることはかなり多いです。
 
ちなみに管理人本人も、コバルト文庫は結構読んだことがあります。
 
中学の学級文庫に少しあったのと、地元図書館のヤングアダルトコーナーにコバルト文庫が数多く取り揃えられていたので、同じく豊富に取り揃えられていた講談社X文庫や角川スニーカー文庫、富士見ファンタジア文庫などと一緒に読み漁っていました。
 
たぶん、リアルタイムの新刊などではなく、少し古めなシリーズだったのですが…(ファンタジー小説全盛期くらい?)
 
コバルト文庫が「少女向け」レーベルだということにさえ気づけないくらい、男主人公もガッツリ出てきたり、内容も恋愛中心なものばかりではなく、ミステリあり、SFあり、冒険あり、現代のサイキックものもありだったりして、「多様性(バラエティー)があって面白い」と思っていました。
 
(ちなみに十二国記シリーズロードス島戦記シリーズも、同じ棚に並んでいました。)


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2021年12月08日

西洋ファンタジーと言えば「魔法」、そして魔法と言えば「魔女」や「魔法使い」ですが…

日本人にとって「魔女」や「魔法」は、イマイチ馴染みが無く、物語の中に描かれたものにより「なんとなくフワッとしたイメージを知る」のがやっとなのではないでしょうか?
 
この本は、そんな「魔女」の暮らしを1年12ヶ月のスケジュールに沿って教えてくれます。 


 
ファンタジー好きな一部の方々は既にご存知であろう「ヴァルプルギスの夜ワルプルギスの夜)」など、「魔女の行事」についてはもちろんですが…
 
その他にも、ヨーロッパで古くから霊薬・信仰の対象として親しまれてきた「ハーブ薬草)」についてや、西洋の神話伝説言い伝え等々も、易しい言葉で簡潔に説明されています。
 
さらには「魔女のレシピ」なるスィーツのレシピや、「魔女の手仕事」なる小物や雑貨の作り方も、イラスト入りで載っていて楽しめます。
 
普通の紀行本やガイドブックには載っていない「ヨーロッパの素朴な民俗文化」「西洋の『田舎』の暮らし」を知ることのできる、ほんわかした雑学本です。
 
一気に読み進めても良いですし、季節や月ごとに、その季節や月の項目を読んでみても楽しいのではないかと思います。



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