2023年09月16日

日本で美術展が開催されたものの、コロナ禍で行くのを諦め、哀しい思いをしたものがいくつかあるのですが…

行けなかったのが哀し過ぎて、思わず本だけ買ってしまったのが、フランソワ・ポンポン展でした。



フランソワ・ポンポンさんは19世紀のフランスの彫刻家なのですが…

まず、名前を聞いただけで「かわゆっ!」となりませんか?

さらには、この方の作る彫刻がまた「名は体を表す」ならぬ「名は作品を表す」といった感じで、とにかくカワイイのです。

デフォルメされ、シンプルなフォルムで表現された動物たちは、まさに「ポンポンさんの動物彫刻」という感じで、まるっと、ころっとしています。

100年前に作られたとはとても思えないほど、現代的なセンスを感じます。

このポンポンさん、30代の頃は「考える人」で有名なロダンの工房で働いたこともあります(工房長をつとめたこともあるそうです)。

動物彫刻家として有名な彼ですが、動物彫刻に転向したのは50代になってから

人物彫刻を行っていた若い頃はなかなか認められず、他の作家の「下彫り」などをして生計を立てていました。

(国内外問わず芸術家を調べてみると、50を過ぎてから芽が出る方って、結構多いんですよね。)

50を過ぎての作風が、この細部の表現を限りなく削ぎ落したシンプルなフォルム(しかもカワイイ)というのがスゴいな…と、個人的に感動します。

本は展覧会用の図録として作られたのか、掲載されている作品数は非常に少ないです。

詩人として有名な谷川俊太郎さんが、彫刻写真に文章を添えているのですが、それも数は少ないです。

ポンポンさんの略年譜生前の言葉が載っているとはいえ、ページ数などを考えると、なかなかお高い本なのですが…

フランソワ・ポンポンさんと、その作品だけでも、もっと多くの方に知ってもらえると良いな…と思っています。


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2023年08月13日

毎年8月には「戦争」に関する本を1冊紹介していますが…

今回ご紹介するのは、この本です。
 
広島の原爆 (福音館の科学シリーズ)
那須 正幹
福音館書店
1995-03-31


原爆を「物語」として描いた本は数多くありますが…

これは「物語」ではなく、原爆の多角的な「知識」を伝えるために描かれた、子ども向けの「科学絵本」なのです。

作者は「ズッコケ三人組」シリーズで知られる那須正幹(なす まさもと)さん。
 

 
那須さんは広島市の出身で、3歳の時に爆心地から3kmの自宅で被爆していたのです。

「子ども向け」の本だからと言って、侮ってはいけません。

この本では原爆の仕組みや、原爆が落とされることになった経緯、原爆搭載機エノラ・ゲイの当日の飛行記録放射線が人体に与える影響etc…、専門的な知識を交えながらも子どもにも伝わるよう、詳細な図解とともに描いています。

(今年の映画で話題になった「オッペンハイマー」さんの名も出て来ますし、放射性物質の蓄積しやすい臓器や放射性物質の半減期まで書かれています。)

むしろ「子ども向け」ということで、ほとんどの漢字にルビが振ってありますし、絵本ということで図が多用されていますので、大人にとっても分かりやすいのではないかと思われます。

中には文字が細か過ぎて、全てを読むには辛いページもあるのですが…

(戦後の世界情勢や反核運動の年表は、だいぶ細かく複雑です。つまりはその分「詳細」な資料になっているということなのですが。)

この本は、ただ「知識」に終始しているというわけでもありません。

広島という町がたどってきた戦前・戦中・戦後の歴史も、克明な絵とともに描かれています。

綺麗で住みやすかった町が、だんだんと戦争の色に染まっていき、防火帯を作るために建物が壊され…

「その日」には、閃光を浴び、爆風に吹き飛ばされ、炎に巻かれて地獄と化した…その様子が「空から眺めた風景」のように描かれているのです。

原爆の日の光景は、紛れもなく「地獄絵図」ですが、人間が豆粒大の小ささで描かれているせいか、「ひろしまのピカ」ほどには生々しくありません。

(それでも、トラウマになる方はなるかも知れませんが…。)

個人的に胸に迫ったのは、原爆後の広島を、教え子を探して尋ね回った教師の詠んだ歌です。

死者名簿に教え子の名前を見つけると、もはや哀しみも忘れてほっと息をついてしまう…それほどまでに、そこは過酷な有様だったのだと、想像も及ばないその地獄に、震えが来ます。

この絵本の絵を手がけた西村繁男さんは、広島の出身ではありません。

ですが、広島の原爆に並々ならぬ思いを抱き、広島の町並みを絵で再現するために、1年近く広島に住み、資料や証言者と向き合って作業を行っていたそうです。

なかなか気軽に手に取れるような種類の本ではないかも知れませんが…

「広島の原爆」が「どういうものだったのか」――物語ではなく実態として知りたい方には、ぜひ読んでいただきたい1冊です。


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2023年04月12日

最近知って、注目している絵本作家さんにjunaidaさんという方がいるのですが…
 
この絵本はそのjunaidaさんの作品の1つです。
 
Michi (福音館の単行本)
junaida
福音館書店
2018-11-14

 

この絵本には、文章が一切ありません
 
しかし、それゆえに読み手の想像力で、無限の物語を読み解くことができます。
 
タイトルが示している通り、この絵本には「道」があります。
 
無数の道が、交差する様は、さながら迷路のようです。
 
(実際、迷路のように道をたどって遊ぶこともできます。)
 
そして道は、ページをまたいで次のページへと続いています。
 
そしてページをめくるたびに、全く違う「世界(街)」が現れるのです。
 
道を覆う街、あるいは世界は、ページごとに異なります。
 
本の街、滝の街、雪山の街、楽器の街、宇宙空間の街…。
 
子どもの頃に、身近な小物を別の何かに見立てて遊んだように、この絵本の街には様々な「見立て」があります。
 
とてもファンタジックで素敵な「見立て」で、この本を読了後に、現実世界でその小物を見かけると、今までと違った目で見られるほどです。
 
そして、街はその1つ1つが、とても細かく緻密に描き込まれているのです。
 
街の中には「人」や「いきもの」の姿も数多くあります。
 
ただ描かれているだけでなく、遊んでいたり、人物同士が何かを話していたりと、物語を感じさせる形で描かれています。
 
細々とした街の中の、豆粒のような人々の、そんな1つ1つの「物語」を想像するだけでも楽しめます。
 
そして、この絵本にはもう1つの楽しみ方があります。
 
ページの中には必ず、男の子か女の子かのどちらかの主人公の姿が描かれています。
 
ですが、それも他の人々と同じく豆粒のようなサイズで、まるで「ウォーリーをさがせ!」のように、主人公探しを楽しめるのです。
「はっきりした物語が無いと楽しめない」という方には向かない絵本かも知れませんが…
 
「緻密な絵が大好き」「自分で物語を想像するのが好き」な方には「大好物」なのではないかと。



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2023年03月19日

Amazonさんで、ブラックフライデーの「本のまとめ買いキャンペーンの時に買った1冊が、この絵本なのですが… 

のせのせ せーの!
うきまる
ブロンズ新社
2022-04-15


前々から気になっていて、キャンペーンを機に思いきって買ってみたこの本(絵本は値段がお高いので、毎度購入に悩みます。特にネット通販だとギャンブル性が高いので)…

個人的には「大当たり」でした。

久々に「これは良い買い物だった…」としみじみ感動できました。

この本の魅力を知ってもらうには、レビューよりも感想よりも、まずは「試し読み」で実際のページをいくつか見ていただく方が確実です(Amazonさんの商品詳細ページでは数ページ読めます)。

この絵本は、ストーリーを楽しむと言うより、絵を見て、想像して、その「答え合わせ」を楽しむものです。

(そして「想像した答え」をも超える「組み合わせ結果」にビックリ・ワクワクするものです。)

基本的な構成は「左側のページの何か」と「右側のページの何か」を組み合わせ(「のせのせ」)して、「せーの」で次のページをめくり「どんな変化があったのか」を楽しむ形になっています。

(さらに表紙では透明なカバーで「のせのせ」が楽しめるようになっています。)

ただ、その「組み合わせ」が、一筋縄ではいかない「絵本ならでは」の、魔法じみた奇想天外な「組み合わせ」なのです。

また、ただ「組み合わせ」を楽しむだけでなく、その「組み合わせ」によってストーリーに変化があるのも、楽しいポイントです。

絵と絵の「組み合わせ」を楽しむだけなら、ストーリーは無くても良いくらいなところですが、この絵本には一本のストーリーの「流れ」があります。

(表紙裏からして既にストーリーが始まっています。)

登場人物たちにも皆「つながり」があり、「組み合わせ」による「変化」にも「意味」があります。

(中には「それでいいの!?」という「変化」もあるのですが。牛さん…。)

そして絵本を最初から最後まで通して見ると、朝起きて支度をして、おでかけして、帰ってきて、眠りに就く…という「一日」の物語になっていることに気づくのです。

絵本というものは、ただ単にストーリーを追ったり、絵を楽しんだりするだけのものではなく、読むことを通して「想像力」を育むことができたり、「発想力」や「様々な視点」を学べるものだと思います。

そしてこの絵本は、まさにそんな「イマジネーション」を育ててくれる気がするのです。



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2023年02月04日

日本では昔から「猫が顔を洗うと雨が降る」などの俗信がありますが…
 
この本はそんな動物関係の「俗信」をまとめた辞典です!
 




 
(これは「動物編」のため、動物関係の俗信だけをまとめていますが、他に「植物編」「衣裳編」もあります。)
 

 

  
ポップな表紙から「ライトな雑学本」と思ってしまう方もいらっしゃるかも知れませんが…
 
この本は、だいぶガッツリした「辞典」です。
 
改行も少なく、文字は多く、挿絵もないので「暇つぶしに良さそう」と軽い気持ちで手に取ると、後悔するかも知れません。
 
(なにせ、柳田国男さんに師事した著者がまとめた本ですので…。)
 
その代わり、各俗信については、地方ごとの差異バリエーションまで事細かく載っていますので、「資料」としては、かなり読み応えがあります。
  
各動物ごとに項目が分かれいるため、自分は、時間のある時に、興味のある動物の所から少しずつ読んでいく…というスタイルをとっているのですが…
 
「猫」や「犬」、「牛」や「馬」など、人間に身近な動物は、かなりの数の「俗信」が載っていてビックリします。
 
しかも、地方によってまるで逆の言い伝えもあるのが、とても興味深いです。
 
たとえば記事タイトルにも載せた「猫の洗顔」ですが…
 
「雨が降る」ではなく「晴れる」と言われている土地も、(少数派ではありますが)津軽から鹿児島まで、広範囲にわたって分布しています。
 
宮城県では「天気になる」の他「客が来る」とされているそうです。
 
ちなみにこの「客が来る」は、中国の唐代でも言われていたことで、岡山県でも同様の俗信がある(猫が顔を洗うと、その背中の方角から客が来ると言われている)そうです。
 
(著者は、この辺りがいわゆる「招き猫」の原型なのではないかと書いています。)
 
自分は猫好きなため、猫の項目は特に重点的に読んでいるのですが…
 
以前ご紹介した「世界の猫の民話」と同じく、「猫と人との、古くから続く関係性」が垣間見えて楽しくなります。


 
特に「いなくなった猫を家に戻すまじない」や「猫が病気になった時のまじない」が各地にある辺り…
 
昔から人は猫を愛し、いなくなったり、病気になったりするたびに、必死に「おまじない」をしていたのだな…と、その関係性に想いを馳せ、愛おしい気持ちになります。
 
Amazonさんの商品詳細ページでは「試し読み」で「もくじ」が読めますので、自分の知りたい動物について記述があるかどうかは、そこで確認できます(中には、載っていても数行だけという項目もあるのですが…)。
 
動物の俗信だけでなく、各地方ごとの「異称」なども知ることができますので、興味のある方はチェックしてみてください。


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