8月27日(日)東京こけし友の会創立70周年記念例会・懇親会
9月2日(土)3日(日)全国こけし祭り(鳴子温泉)
という具合にこけしイベントが続き、愛好家としては大いに楽しんだのだが、ひとつ問題があった。
こけしが増えるのである。
こけしに魅せられて10年余り。こけしはモノでもあって、買えば増えるのが道理である。道理に従って我が家のこけしも置き場に困る状況が続いている。例会と鳴子でもう十分楽しんだし、このように置き場もないのだから、と自分に言い聞かせ、中ノ沢には行かないつもりだった。インスタグラムにも「中ノ沢こけし祭りは皆様の投稿で楽しむ予定」などと書いている。どこかにある行きたい気持ちを抑え込んでいる。
こけしを初めて知ったころ、私は新潟県の長岡に赴任していて、それ以来の行きつけの料理屋にどうしても挨拶に行かないといけない事情があって、9月9日土曜日に行くことにした。そういえば長岡にいるころ日帰りで仙台に行ったっけ(しまぬきでの鎌田孝志さんの個展だった)、などと思い出し、すると中ノ沢にも行けるかも、と思い出す。ちょっとのぞくだけでも行ってみようかな、まだ行ったことのない産地だし、以前から近くの沼尻温泉に興味津々だし。これがこけし(&温泉)愛好家の心理なのである。ここまで思いが至れば中ノ沢に行かないという選択肢はもうなくなっている。
今年の中ノ沢の祭りは各旅館で工人ごとにこけしを販売するというユニークなスタイルである。前泊組には色々と優遇があるようだが、こちらはさすらいの当日組ゆえ、あたりをつけて並ぶしかない。中ノ沢到着時点では「まあこけし一つくらい買うかも」くらいの心持ちである。買うとすれば関根由美子工人がいいなと思っていた。今年の白石のコンクールの審査品にとても良い感じのこけしを出していた(予約済であった)のを覚えている。関根工人が宿の前に立っていて、机の上にはまばらなこけし。それでもなんとか買えそうな長さの列なのでとりあえず並ぶ。そのあとしばし並ぶのを同行の相方にお願いして他の工人の列を偵察する。
野矢里志工人のところは実に長い列である。人気の工人であり無理もないこと。かく言う自分だって好きだけれども、これだけの長蛇の列ならあきらめもつくというもの。
それにしても今回の宿泊客限定サービスは当日組にとっては脅威としか言いようがない。列に並びながら何番目かな、などと少し緊張しながら待っていると(当日組は午前10時販売開始である)、列を横目にぐいぐい工人の前に来る人がいる。宿泊組だ。列には一瞥もくれずにさっとこけしを買っていく。目の前でこけしが減っていく!もうあまり残っていないのに!そんなに欲しいなら前泊すればいいだけのことだけれども。
関根工人のところで無事購入して、相方のリクエストにより瀬谷工人のところへ。次いで柿崎工人のところにも行く。この時点で早くもこけしが五つになっている。おいおいもうこけしは買わないんじゃないのかい、と自問自答し、よし今日は終わりだ、と体育館を覗いてから温泉街を後にする。
少し車を走らせて蕎麦屋で昼食。次いで前から行きたかった沼尻温泉田村屋旅館へ。もう本格的な宿泊はやっておらず、もっぱら日帰り温泉として営業しているようだが、この湯が良かった。緑に囲まれた露天で長風呂。内湯は少々熱くて長くは入っていられない。利用料無料の休憩所で横になる。汗が引かないほどに温まったのがわかる。
さっぱりしたところで帰途に就くのだが、どうやら中ノ沢が私を呼んでいる。もう一度だけ、と温泉街へ。野矢工人の売り場にはもう待ち人はいない。ずいぶん沢山のこけしを用意してきたようだと教わっていたのだが、ダメ元で聞いてみると、「まだありますよ。もう少ししかないですけど」とのことなので慌てて旅館の入り口を跨いで入る。果たして残っていたこけしは5体。7寸が四つ、6寸が一つ。紫色の花をあしらったこけしだけであった。4つ残った7寸を手に取る。細長さが目立っていて、バランスが良くないような気がする。次いで6寸。よく見ると7寸には花二つ、5寸は花一つがあしらわれている。二つの異なるサイズのこけしを並べて立たせてみると、これが実にいいのだ。さっき感じたバランスはこうして並べて見るためなのではないかと思うくらいに二つのこけしがぴったりと合う。こういうときほど二人で来る強みを感じることはない(一人一つに限定されていたのだ)。サイズ違いで2体を迎えることができた。さて、目の前でこけし販売をしているのは、ひょっとするとと思い話しかけてみると、果たして里志工人のご両親であった。ということはこの男性が幻の工人、野矢俊文さんである。母上はこけしに描かれた花、バンダイクワガタのことを熱心に教えてくださる。そこへ里志工人も帰ってきて初対面の挨拶。
野矢里志工人のこけし、こうして眺めていると、中ノ沢系の中でも異彩ぶりが際立つ。これは父親譲りのところも多分にあって(特に表情の描き方)、師弟関係によって受け継がれるものに気づかせてくれる。里志工人はその上に自身の魅力を無理なく加えているのだな、と思う。
結局のところ中ノ沢でも楽しみまくってしまったというお話。
9月2日(土)3日(日)全国こけし祭り(鳴子温泉)
という具合にこけしイベントが続き、愛好家としては大いに楽しんだのだが、ひとつ問題があった。
こけしが増えるのである。
こけしに魅せられて10年余り。こけしはモノでもあって、買えば増えるのが道理である。道理に従って我が家のこけしも置き場に困る状況が続いている。例会と鳴子でもう十分楽しんだし、このように置き場もないのだから、と自分に言い聞かせ、中ノ沢には行かないつもりだった。インスタグラムにも「中ノ沢こけし祭りは皆様の投稿で楽しむ予定」などと書いている。どこかにある行きたい気持ちを抑え込んでいる。
こけしを初めて知ったころ、私は新潟県の長岡に赴任していて、それ以来の行きつけの料理屋にどうしても挨拶に行かないといけない事情があって、9月9日土曜日に行くことにした。そういえば長岡にいるころ日帰りで仙台に行ったっけ(しまぬきでの鎌田孝志さんの個展だった)、などと思い出し、すると中ノ沢にも行けるかも、と思い出す。ちょっとのぞくだけでも行ってみようかな、まだ行ったことのない産地だし、以前から近くの沼尻温泉に興味津々だし。これがこけし(&温泉)愛好家の心理なのである。ここまで思いが至れば中ノ沢に行かないという選択肢はもうなくなっている。
今年の中ノ沢の祭りは各旅館で工人ごとにこけしを販売するというユニークなスタイルである。前泊組には色々と優遇があるようだが、こちらはさすらいの当日組ゆえ、あたりをつけて並ぶしかない。中ノ沢到着時点では「まあこけし一つくらい買うかも」くらいの心持ちである。買うとすれば関根由美子工人がいいなと思っていた。今年の白石のコンクールの審査品にとても良い感じのこけしを出していた(予約済であった)のを覚えている。関根工人が宿の前に立っていて、机の上にはまばらなこけし。それでもなんとか買えそうな長さの列なのでとりあえず並ぶ。そのあとしばし並ぶのを同行の相方にお願いして他の工人の列を偵察する。
野矢里志工人のところは実に長い列である。人気の工人であり無理もないこと。かく言う自分だって好きだけれども、これだけの長蛇の列ならあきらめもつくというもの。
それにしても今回の宿泊客限定サービスは当日組にとっては脅威としか言いようがない。列に並びながら何番目かな、などと少し緊張しながら待っていると(当日組は午前10時販売開始である)、列を横目にぐいぐい工人の前に来る人がいる。宿泊組だ。列には一瞥もくれずにさっとこけしを買っていく。目の前でこけしが減っていく!もうあまり残っていないのに!そんなに欲しいなら前泊すればいいだけのことだけれども。
関根工人のところで無事購入して、相方のリクエストにより瀬谷工人のところへ。次いで柿崎工人のところにも行く。この時点で早くもこけしが五つになっている。おいおいもうこけしは買わないんじゃないのかい、と自問自答し、よし今日は終わりだ、と体育館を覗いてから温泉街を後にする。
少し車を走らせて蕎麦屋で昼食。次いで前から行きたかった沼尻温泉田村屋旅館へ。もう本格的な宿泊はやっておらず、もっぱら日帰り温泉として営業しているようだが、この湯が良かった。緑に囲まれた露天で長風呂。内湯は少々熱くて長くは入っていられない。利用料無料の休憩所で横になる。汗が引かないほどに温まったのがわかる。
さっぱりしたところで帰途に就くのだが、どうやら中ノ沢が私を呼んでいる。もう一度だけ、と温泉街へ。野矢工人の売り場にはもう待ち人はいない。ずいぶん沢山のこけしを用意してきたようだと教わっていたのだが、ダメ元で聞いてみると、「まだありますよ。もう少ししかないですけど」とのことなので慌てて旅館の入り口を跨いで入る。果たして残っていたこけしは5体。7寸が四つ、6寸が一つ。紫色の花をあしらったこけしだけであった。4つ残った7寸を手に取る。細長さが目立っていて、バランスが良くないような気がする。次いで6寸。よく見ると7寸には花二つ、5寸は花一つがあしらわれている。二つの異なるサイズのこけしを並べて立たせてみると、これが実にいいのだ。さっき感じたバランスはこうして並べて見るためなのではないかと思うくらいに二つのこけしがぴったりと合う。こういうときほど二人で来る強みを感じることはない(一人一つに限定されていたのだ)。サイズ違いで2体を迎えることができた。さて、目の前でこけし販売をしているのは、ひょっとするとと思い話しかけてみると、果たして里志工人のご両親であった。ということはこの男性が幻の工人、野矢俊文さんである。母上はこけしに描かれた花、バンダイクワガタのことを熱心に教えてくださる。そこへ里志工人も帰ってきて初対面の挨拶。
野矢里志工人のこけし、こうして眺めていると、中ノ沢系の中でも異彩ぶりが際立つ。これは父親譲りのところも多分にあって(特に表情の描き方)、師弟関係によって受け継がれるものに気づかせてくれる。里志工人はその上に自身の魅力を無理なく加えているのだな、と思う。
結局のところ中ノ沢でも楽しみまくってしまったというお話。