September 2010

September 28, 2010

ノルウエイ生まれのお酒。

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旧知の友人、ノルウエイのシュテルさんからメールが来た。10月に日本に行くのでぜひまたむくね村の酒半に行きたい、会えるだろいうか、、?とのメッセージ。二つ返事で、楽しみにしている、ぜひ来てくれ、と返信した。

熊さんのような大男であるのに優しく繊細で、根っからの科学者。シンガポールエアのパイロットを務める傍ら、自身が創業した地ビール醸造所をノルウエイ最大で欧州でも指折りの規模に育て上げたという。大変なエネルギーだ。それだけ起業家としても有能な人が初めて我が蔵を訪れたのはもう五年以上も前になるだろうか。

確かそのころから、いずれビールの醸造が軌道に乗ったら、その次に日本酒の醸造に挑戦したい、と言っていたのを覚えている。それは熱心なことだと思いながら、まさか本当にしようと考えていたとは思いもよらなかった。

2008年の秋、酒を通しての友人たちとの話から思わぬプロジェクトが立ち上った。海外の日本酒に関心をもつあらゆる人を対象として、我が蔵で丸一週間滞在しながら一本のモロミの仕込みを体験してもらい、併せて、蔵人が生活をした酒蔵の空間で暮らすことにより、日本の伝統と私たちの日々の営みに触れていただく、という趣旨であった。名づけて、Mukune International Sake Brewing Program.

アメリカを始めとして海外市場で吟醸酒の認知が深まり、多くの多様な人々がセミナーやテイスティングに嬉々として参加されていることを見ると、時を得た企画であると考えられたし、少しでも応募があれば気長に続けて日本酒ファンの中心になってくれる人が育ってくれれば願ったりだ、と考えた。

忘れもしないその年の12月8日。この企画についてのすべてのメッセージと具体的なプログラムが形となり、我社の英語サイト、www.mukune.com でオンライン発信を開始した。数時間も立たないうちにぼつぼつと応募書類に熱心な志望動機を縷々書き込んだ
返信が届き始めた。意外に反応が良いのに驚くうちに一日たち二日目を迎えたところでこれは何とかしなければとんでもないことになる、と満員御礼のお礼と今季参加者募集の終了を告げたのが開始から48時間後。その時すでに応募者は北米、ヨーロッパ、アジア各国から36名に達していた。

企画の立ち上がりから協力いただいていたサンフランシスコの日本酒専門店のオーナー、ボウさんも興奮覚めやらぬ様子で、まさかここまでの反応があるとは、とみんなで喜びながら、2月から4月まで四回のセッションで合計24名の日本酒ファンが我が蔵で研修し、その経験と思いを胸にそれぞれの国に帰っていった。彼らが我が蔵に滞在中に書き綴ったブログは私の最大の歓びであり勲章である。そう、新しい日本酒伝道師たちの誕生の物語であった。

そのなかにもちろんシュテルがいた。際立つ熱心さと科学者の目で工程を観察して蔵人や他の研修生とともに作業をこなし、書ききれぬくらいの記録と現場映像を持って帰っていった。その時からもう彼の日本酒醸造の事業化は進んでいたのだ。米の手配、酵母菌や麹菌の確保。麹造りや仕込みのための機材や道具の確保。異国の何も無いところから立ち上げる苦労は察するに余りある。しかし、その苦労はやがて報われる、価値のある苦労であった。そして、この7月に何の前触れもなく彼から航空便で荷物が来たとき、その中身が何であるか一瞬にしてわかった。急いで開けた箱の中から現れたのが冒頭の写真の姿をした酒であった。

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「裸島」なんと発音するのだろう。ラベルには「山廃にごり生酒純米酒」。85%吟風 精米歩合70%。15%山田錦 精米歩合70%。酵母701号 日本酒度-3 仕込み一号
ビン詰日付 29.04-2010 誇らしくも高らかに謳いあげるこの規格書の裏で、満面に笑をたたえた彼のうれしそうな顔が見えてくる。やったね、シュテルさん、おめでとう、心からの祝福を送るよ。

酒の縁は人の縁。日本で生まれ育った素晴らしい日本酒は今や海を超えて愛でていただく方々がどんどん増えている。そればかりでなく、酒を生業として生きる人達も増えてきた。輸出入の貿易関係の方々、それぞれの国で卸や小売の流通を担っていただく方々。料飲店でお客様に接して日本酒を勧めていただく方々。その上これからは、シュテルさんのようにそれぞれの国で日本酒の醸造に取り組み、新しい根を張らせて将来に花を咲かせていただく人々など、多くの皆さんの力でもっともっと日本酒が多くの国や地域で飲んでいただけるようになるのが私たち蔵元共通の願いだ。

シュテルさんが送ってくれた酒ももうこの一本となった。勿体無くでいつか特別の日に、と思っていた日が彼の来訪によって10月に来るようだ。彼との再会のひと時は彼のその後の歩みとノルウエイ産清酒、仕込み第一号の誕生のドラマに聞き入り、裸島、山廃にごり生酒純米を酌み交わして語り明かそうではないか。日本酒の素晴らしさに乾杯!





  









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September 26, 2010

道つくり

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快晴。雲ひとつない、という言葉のとおりの青く澄み切った秋の朝を迎えました。今日はむくね村北組、秋の道作りの日。水田の間を縫って続くあぜ道や里道の草刈です。ひとしきりの作業のあとは米作りの情報交換。田んぼを見下ろす貯水池の堤防から眺めるとそれぞれの田んぼの稲穂の色の違いがはっきりと分かります。

まだ青々とした田んぼや黄金色になりかけの田んぼ、また、部分的に変色している田んぼなど、品種の違いや生育状況の進み具合がよくわかります。今年の夏に続いた高温で、うんかの発生も見られるようです。農協の営農指導員の方から、例年より四五日早く刈り入れる用意をすること、また、日々の登熟状態のチェックを怠らないこと、というアドバイスが出ています。

例年の交野郷の刈り取り時期は秋の祭りの頃の10月中旬。収穫までもう一息、注意して見守ってゆきましょう。

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午後四時。種切りから約47時間。今季の初出麹です。麹蓋から取り出すと、栗の花の香りがあたり一面に漂い、口に含みとたっぷりとした甘みが広がります。

これから40℃以上あった温度をゆっくりと下げて乾燥させる「枯らし」の期間に入り、来週水曜日の「酒母」の仕込みに使います。さて、今年も上々の滑り出しとなりました。




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September 25, 2010

初麹

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半年振りの酒造り、すべての作業が今季の初仕事です。昔、わが蔵の酒造りを担っていただいていた老練の但馬杜氏さんが、秋に蔵入りしてその年の酒造りの立ち上がりの頃、「夏の間ゆっくりしすぎて、酒の造り方を忘れてしまいましたがな、、」と冗談をおっしゃっていたのを懐かしく思い出します。冬の最盛期には頭で考える前に自然に体が動いて複雑な工程が流れるように進んでゆきました。さて、少しづつあの勘をとりもどしましょう。

昨日の金曜日の朝に蒸した米は麹ムロに運ばれ、手入れの後、「種きり」、「揉み上げ」と進み、今日の昼前に「切り替えし」、続いて、「盛り」の作業を行いました。米は五百万石、精米歩合は55%。31℃で種きりした麹は33℃まで上がっていました。

蒸し米の表面に付着した麹菌は、麹ムロの高温多湿という麹菌にとって最も好ましい環境で順調に繁殖し、表面から米粒の中心に向かって菌糸を伸ばして行きます。この増殖には酸素を必要とするので、数時間ごとに混ぜたりかき回したりという手入れを行います。

こうして、約二昼夜に及ぶ麹造りの工程で、米のでんぷんが糖に転化され同時に発酵に必要な数々の酵素も生成されてゆきます。写真は切り返した後の麹で、これからすぐに盛り作業。出麹(麹の完成)は明日、日曜日の午後四時の予定です。





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September 24, 2010

満月の夜

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昨日は秋の満月の夜。むくね村の裏山、東の空から輝く月がゆっくりと昇って村を柔らかい光で包み込みました。空気はすでに晩秋かと思う冷たさで、しんと静まり返った村里に秋の虫たちの鳴き声が響いています。

母屋の前で空を眺めたひと時。その風景をお伝えしたいと一枚写真を撮りました。無垢根の秋の風情を感じていただければ幸いです。




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September 23, 2010

準備完了。

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夜明け前の雷鳴と土砂降りの雨の音に目を覚ました今朝。むくね村は裏山から降りてくる清涼感に溢れた空気に包まれていました。

いよいよ明日は初蒸し。酒造りの第一段階、酒母(モト)を仕込むための麹造りのスタートです。醸造酒の製造には発酵を司る酵母菌の健全な成長に必要な栄養となる糖分が不可欠ですが、果実酒と違い穀物酒である日本酒の場合、原料である米そのものには十分な糖分がありません。そこで、米の澱粉を糖分に変える働きをするのが麹菌です。

洗ったあと高圧で約一時間蒸された米はゆっくりと冷やされ、40℃を切ったあたりでこの麹室(こうじむろ)に運び込まれます。この部屋の室温は常に35℃に保たれていて、小さくほぐして手入れされながら四五時間かけて30℃近くまで下がったところで、「モヤシ」と呼ばれる乾燥麹菌を振りかけます。これが「種付け」です。

それから約二昼夜、麹菌の繁殖と共に米の品温はだんだん上昇して、最高温度は43℃まで上がってゆきます。その間、切り返し、仲仕事、仕舞仕事と呼ばれる固まった麹米をほぐして品温をコントロールする作業が行われ、種切りから50時間前後で麹が出来上がります。

清掃作業を終えて磨きあげられた麹室は部屋の空気を加熱するヒーターを入れられ、ただいまの室温は35℃。蒸米の搬入を待つばかりになりました。





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September 22, 2010

もうすぐ初蒸し

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一旦落ち着いた暑さも少し揺り戻したように、今日のむくねの里は暑い一日となりました。

酒蔵では今年の酒造りの開始に向けて、着々と準備が進んでいます。夏の間静かに眠っていた酒蔵がにわかに活気を取り、酒造りチームのみなさんが動きまわっています。

仕込みの工程に使う機械類の点検と試運転、ホースや布類、またタンクや麹造りの道具などの洗浄など、いろいろな仕事をこなして24日の麹米の初蒸しに間に合うように備えています。いよいよ22酒造年度の始動です。

どうぞ今年もいい酒ができますように、、、。




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September 21, 2010

秋の草焼き

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むくね村の環境を整えるいろいろな作業や行事が、季節ごとに定例で実施されてゆきます。19日の日曜日は朝から草焼きの作業がありました。夏の間、伸びに伸びた貯水池の堤防の草を一週間前に刈り取り、乾燥したところで焼却する作業です。

伝統ある里村には、村を維持するためのいろいろな組織があります。お寺の檀家同行、観音様を護持する観音講、村の水管理を担当する水利組合、墓地や山地を管理する財産区。また、氏神様をお守りする氏子総代や農協、消防団など、小さな村にたくさんの組織があるのはそれだけせねばならない仕事があるということで、千年に及ぶ村の歴史を支えてこられた先人の知恵に頭が下がります。

それらの仕事の担当が、40軒あまりのむくね村の住民に順番に割り当てられてゆきます。担当の仕事を先輩方から引き継ぎ、こなしてゆくうちに若い時はわからなかった色々な仕組みやその意味がわかり、そしてまた作業を通じて村人の連帯感が醸成されてゆくのです。当家は今年から三年間、水利組合の世話人として仕事をさせていただいています。

暑い夏ではありましたが田んぼの水が不足することもなく、稲穂は順調に育っているようでありがたい事です。むくね村の米の収穫の時期は10月中旬、もう一息のところまで来ています。

草焼きの炎が立ち上がり、煙が森にたなびいてゆくのをみて、秋の訪れを感じたひと時でした。



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September 20, 2010

お彼岸の入り

RIMG1131今日は秋のお彼岸の入り。むくね村の森にある当家のお墓にお参りし、先祖への祈りと感謝の心を捧げました。

墓地から菩提寺の須弥寺へ連なる丘の釣鐘堂から見下ろすむくねの村里はもう秋の気配に満ちています。

今年の酒造りの開始ももう間近。心も新たにとりくんでゆきたいと思います。



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