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※イノサンしか読むものないのにグランドジャンプ買っちゃった🌹

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※あっ!ぷりがマリージョセフの顔を踏んでる!?

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※マリーを怒らせると"ギロチンぷり🐣"にされちゃうよ??



 🌹最後の感想です🌹

 イノサン最終回が載ったグランドジャンプ、買っちゃいました(*'-'*)

 宝物として大事にしまっておきたいと思います。折に触れて読み返そう・・・。

 ていうか、手元にあると何度も読み返してしまいました。その度に涙を拭いたり、鼻かんだり。感想だのあらすじだのを書くまでに無駄に時間がかかりましたよ(´Д⊂)

 楽しみにしてくれていた方には申し訳ありません。読むと寝込むんです。なんつって💀

 そういえば、最終回はビッグマダ・・・妹も読んでました。感想は、「俺がどうこう言うような話じゃねえよ」だそうです。えーと、褒めてんだよね?

 てなかんじで?私はお別れが辛くてぐじぐじ泣いていたわけですが、坂本先生の巻末のメッセージの方はどうかというと・・・。



 「更にデジタル技術を勉強したいです!」だと・・・?

 全然感傷的じゃねえ('д` ;) 悲しいお別れどころかクソポジティブな最後のメッセージだなオイ(ノ`Д´)ノ

 ・・・冗談はともかく、坂本先生には感謝するしかありません。

 ヤングジャンプでイノサンの連載が始まってから、全話(多分)リアルタイムで追いかけて読む事が出来ました。とても楽しかったです。



 公式ノベライズごっこであらすじ書くのも凄く楽しかったです。

 自分でオリジナルの小説書くよりも10倍楽しかったです。いや100倍(`・ω・´)!



 イノサン最高だったなあ・・・。

 私の"フランス幻想"を完全に満たしてくれて、おなかいっぱいでした。満足。

 思い返せば子供の頃。再放送の『ベルサイユのばら』のアニメをたまたま観たら、オスカルとアンドレのラブシーン。

 それを見たせいで性に目覚めたというか精〇したというか(万死値噓)、断片的でひどく偏っているくせに強力にこびりついて忘れられない作品になっていました。

 だからとって『ベルばら』読むわけでもアニメ観るわけでもなく。中途半端に消えずにずっと私の中に残っていたフランス幻想。



 それを思い出させてくれたのが『イノサン』でした。

 でも、身近にマンガを読む人は割と多くいても、イノサンの話をできる人はほとんどおらず。ずっと一人でヤンマガの連載を読んでいました。

 とうとう我慢できなくなって、ブログで色々垂れ流すようになったわけです。

 調子こいて本当にすみませんでした(´;ω;`)

 そして読んでくれた方、気持ちを共有してくれた方、ありがとうございました(´;ω;`)



 今ははい、来てます。かなり。イノサンロス。

 新しいグランドジャンプが出てもイノサン載ってないと思うと、寂しさで涙が出てくるというか泣き虫シャルロになった(美形じゃない死)というか、とても辛いです。

 でも大丈夫、対策はしてあります。

 『ベルサイユのばら』のアニメ全40話、録画して確保してあるのだあああ(ノ`Д´)ノ

 新しいグランドジャンプチェックしてイノサン載ってなかったら観るぜえええ!!

 イノサン載ってたら観ないぜえええ(載ってねえよ)!!

 いやそもそもイノサン全巻一気買いしてもいいし。電子書籍もあるし。うん。



 ・・・うん(グランドジャンプ巻末の予告をチェック)。 

 あーやっぱりイノサン・ルージュ載ってない(´;ω;`)

 あーあ。ゼロちゃんの旅に付いていきたい。んで「おじさんは親切で優しくてゼロの事を助けてくれて大好きだけど、おじさんと付き合ったり恋人になる事は絶対に無いよ?」と言われたい!!

 いや、言われたくねえよ。何言ってんの(´・ω・`)??

 あーアンドレと飲みに行きたい。酒飲めないけど。マリージョセフの㊙エピソード聞きたい!超聞きたい!!ジャンルイでも可!行こう、酒飲めないけど!!

 あーゼロちゃんからパンもらいたい。クソ硬いパンで歯が欠けそうだけど!

 アンドレパリに戻ってくればいいのに。マリージョセフの㊙エピソード聞きたい!

 ジャンルイでも可!マリーj(以下無限ループ)



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 🌹『イノサン・ルージュ』の最終話を読みました🌹



 前回は、

 グロシュルツが作った蝋人形と入れ替わる作戦が成功し、マリージョセフは海を渡り遠くイギリスに逃亡しました。何も知らないロベスピエールはマリージョセフの悪夢に苦しみ続け、シャルルアンリは増え続けるギロチン処刑に心を痛めます。恐怖政治が激しさを増す中、パリにシンボルが誕生しました。ギロチンの刃に正面から立ち向かった女、"ギロチンマリー"・・・。

 ・・・みたいなかんじでした。





 
 最終回は、物々しい雰囲気のパリ市庁舎前から始まります。



 「クーデターだ!国民公会でロベスピエール派の逮捕が議決されたぞ!!」

 「まずは市庁舎の守りを固めろ!ロベスピエール様を守るのだ!!」

 「我々国民衛兵隊は、ロベスピエール様の出撃命令が出次第反撃を開始する!」

 パリ市庁舎の前に衛兵達が集まり、気勢を上げています・・・。



 市庁舎の一室では、ロベスピエールとサンジュストが衛兵隊に正式な出撃命令を下すべく書類を作成しています。

 マクシミリアン・ロベスピエールの弟、オーギュスタンもいます。

 「残すはロベスピエール様のサインだけです、我が軍隊の力で私利私欲まみれの下衆共から議会を取り戻しましょう!」

 ロベスピエールの愛弟子サンジュストは相変わらず前のめりに強気ですが、オーギュスタンは怯えた表情を見せています。

 「兄さん、やはりプレリアール法は厳しすぎたのです!あの法案が通ってから1300人もギロチン送りになったのですよ!?」

 「誰だって触れられたくないスネの傷のひとつやふたつ、あるものでしょう?」



 「私に罪は無い!!」

 兄は弟の言葉を否定し、断言しました・・・。

 「新しい時代に生きるものは完全に清廉潔白でなければならない!」

 「ほんの僅かでも汚れを持つ者は、死刑だ!!」



 "次はお前だ、ロベスピエール"。ダントンの言葉の通りになりました。ロベスピエールは焦りを隠せません。今すぐ軍隊を動かさなくては、身を守らなくては危険です。

 それでも彼は"王"ではありません。軍隊を動かすには正式な手続きが必要です・・・。

 「死刑、死刑、正義の為に、死刑だ!!」

 「何故皆正しく生きられないんだ!正義こそが秩序と幸福の礎だというのに!!」

 羽ペンをインクに突っ込み、書類にサインします。早く書かなくては、R、o・・・。



 たった二文字書いたところで、不意打ちの衝撃がロベスピエールを襲います。

 銃声、書類に飛び散る赤、鮮血。大口を開けて驚きの表情で硬直するサンジュストとオーギュスタン、椅子からずり落ちて右頬の傷を押さえるロベスピエール。

 傷からは大量の出血。ですが、ロベスピエールはそれどころではありません。



 「ザマあねえな、ロベスピエール!」

 「地獄の底から不死身のマリーが戻ってきたぜ!!」

 右手に拳銃を構えた女処刑人。復讐を果たす為にパリに帰ってきたのです。



 「アガガガガガガーーーッ!!!」

 ロベスピエールの言葉にならない絶叫。マリージョセフ・サンソンは、彼女の事をよく知る者なら不自然に思うほど茶目っ気たっぷりに、決め台詞を繰り出します。

 「サイアク❤」



 「首筋にギロチンの傷跡がある!?この女、本当に墓場から舞い戻ったというのか!」

 愛するロベスピエールの悪夢が現実になった!サンジュストも冷静さを失います。

 「窮屈な世の中なんてまっぴらだ、俺達は誰にも縛られない!死ね!ロベスピエール!!・・・って、あれ??」

 「弾が出ねえ!畜生、あの中古屋め安物売りつけやがって!!」

 マリージョセフ・サンソンが止めの一撃に失敗?そんな事はあり得ません。仮に銃を使ったとしても、剣やナイフを用意せずに暗殺行為に及ぶわけがありません・・・。



 「今だ、取り押さえろ!!」

 ロベスピエールを守っていた衛兵達が一斉にとびかかります。あっという間になす術もなく取り押さえられてしまいました。マリージョセフならそんな事はあり得ないはず。

 「サンジュスト様、こいつは偽物です!カツラをかぶった男です!!」

 「ギロチンの傷は赤い糸です!巷で流行っているギロチンマリーの仮装です!!」



 暗殺失敗。完全に拘束されても、マリージョセフの偽物の男は笑います。

 「はーはっはっは!マリーは死んでいない!!」

 「俺たちの中で生きているぞ!俺達は自由だ!!」



 ロベスピエールはその言葉で全てを悟りました。

 マリージョセフ・サンソンはギロチンで死んだ。しかし、私が拍手喝采を送った"落ちてくるギロチンの刃を見せつける"演出のせいであの女は有名になり、反恐怖政治のシンボルとなった。

 私が、あの女を墓場から蘇らせたのだ。

 私が、あの女を不死身の存在にしたのだ。

 私が、死ぬ以外の方法は無いのだ。あの女を完全に消し去るには。



 クーデター派の兵士達がパリ市庁舎に攻め込み、ロベスピエールとサンジュストは逮捕されました。ロベスピエールが革命政府の最高指導者となってからちょうど1年後の事です。

 1794年の7月27日に逮捕され、翌28日に処刑。裁判は無し。

 まるでベルトコンベアで運ばれるように、まるで家畜が屠殺されるように。スムーズな流れ作業でロベスピエールとサンジュストはギロチンに送られ、処刑されました。

 29日にはロベスピエール派の71名が、1日のうちに処刑されました。



 


 「ロベスピエールの死は革命の死だ。もうこれ以上血が流れる事は無いだろう」

 「私のこの体は十分過ぎるほど血を吸った・・・」

 恐怖政治の嵐が吹き荒れる中で、夥しい数の人間の命を奪ったシャルルアンリ・サンソン。

 心の支えだったマリージョセフが去った後は、人の死に触れても何も感じなくなったと言いました。しかし、痛みを感じないという事は傷付いていないという事ではありません。

 女性のように美しく艶やかだった黒髪は白髪混じりどころか完全に真っ白に変わり、目の下は黒く落ち窪み、眉間には消えない皺が刻まれていました・・・。



 シャルルアンリは帽子を脱ぎ、息子アンリに語りかけます。

 「アンリよ、ムッシュー・ド・パリの名、本日をもってお前に譲り渡す」

 「私の代でこの罪深い家業を終わらせる事が出来なかった。・・・すまない」

 父親と息子が抱き合います。息子は涙を流して答えました。

 「時代が変わってもサンソンの家に生まれた以上、他の仕事で糧を得るのは困難でしょう」

 「私も妻と子供がいる身です。運命を受け入れます・・・」



 


 轟音。大砲の発射音と銃声。突撃する兵士達。傷付いた兵士、命を落とした兵士。

 革命や恐怖政治が一段落して落ち着いても、フランスの国難は終わりません。厳しい対外関係、戦争も続いています・・・。

 諸外国との戦争で活躍して頭角を現した男がいました。コルシカ訛りの田舎者の一兵卒から、皇帝にまで上り詰める男。

 ナポレオン・ボナパルトです。

 軍事クーデターを起こしたナポレオンは、自らが起こした政府の統領となりました。ロベスピエールが死んで5年。フランス革命が事実上終焉を迎えたのです。

 お馴染みの馬に乗った絵のナポレオン。「行くばい」と得意げです。



 1799年11月11日、マドレーヌ寺院。ルイ15世の時代から建設が滞っている教会です。

 夕闇が迫る時刻に、ナポレオンが護衛の兵士たちを引き連れて視察に訪れました。

 「国王の力をもってしても作り切らんかった聖女マドレーヌを祀る寺。ばってんこの私が完成させればフランス国民はひれ伏すたい!」

 この頃はまだまだ上り調子、こんな事はナポレオンの野望のほんの一部に過ぎません。



 「おいお前、そこで止まれ!!」

 突然の大声。衛兵が近付いてきた怪しい男を制止しています・・・。

 「お願いです、この嘆願書を!どうか、統領閣下にお渡しください!!」

 衛兵に止められた男。老人です。ナポレオンが自ら近付いてきて状況を確認します。

 「騒がしいな、何事たい?」

 「はっ!この老いぼれは最近統領閣下の周りをうろつき、しつこく嘆願書を渡そうとしてくる怪しい輩でございます!!」

 「ふむ、よかよか。新時代の統領たる者、全ての者の言葉に耳を傾けんとね」



 「ありがとうございます、何卒、お目通し下さいませ・・・!」

 老人が差し出した嘆願書を、ナポレオンは直々に受け取りました。

 「んで爺さん、アンタ何者ね?名ば聞くたい」

 

 老人は頭のシルクハットを胸の前に、恭しくその名を名乗りました。

 「四代目ムッシュー・ド・パリ、シャルルアンリ・サンソンでございます。とはいっても、既に息子に跡目を継がせ引退した身でございます」

 白い髪、深い皺、そして伸びた髭。

 マリージョセフがまだパリにいた頃。中年・壮年といった年齢に達しても若々しく美しかった頃の面影は、完全に消え去りました。

 シャルルアンリは急激に老け込み、その姿は実年齢すら追い越してしまったかのように変わり果ててしまいました。



 シャルルアンリ・サンソン。

 その名前を聞いたナポレオンと衛兵達は一様に驚きの表情を浮かべ、一瞬硬直しました。

 サンソン、死神、呪い。処刑人から直接手渡された物を持っている!? ひいっ!と軽く悲鳴を上げてナポレオンは嘆願書を地面に投げ捨てました。

 「そ、それでは貴様、6年前に・・・」

 「はい。私がルイ16世を処刑いたしました」

 シャルルアンリは捨てられた嘆願書を拾い、再び手渡そうとします・・・。

 「最高権力者となられた閣下にお願いしたい事があるのです!全ての死刑囚に恩赦を!!」

 「そして、このフランスから死刑制度を無くして頂きたいのです!どうか!!」



 「それ以上近付くな、死神め!!」

 ナポレオンは必死に懇願するシャルルアンリの胸に蹴りを入れました。シャルルアンリは尻餅をついてひっくり返ってしまいました・・・。

 「汚らわしか!うちん首も刎ねるつもりかね!?」

 視察終了。ナポレオンは急に寒くなったかのようにコートの前をきつく合わせると、衛兵達を引き連れて寺院を去っていきます。

 「さあ早く行きましょう閣下。あんな男に関わると勝利が逃げて行ってしまいます・・・」



 今はもう昔の話。

 マクシミリアン・ロベスピエールが権力を握る前、まだ理想に燃える一市民であった頃。彼は、シャルルアンリの息子ガブリエルを同志として迎え入れました。

 いつか来る新時代、誰もが生まれも育ちも関係無く、自由に生きられるようになる。処刑人の、サンソンの家に生まれた君でも私は差別しない。喜んで仲間に加えようー。

 あれから何年が過ぎたでしょうか。

 新たなフランスのリーダーは、シャルルアンリが渡した手紙を汚れたものとして扱い、少しも言葉に耳を傾ける事をせず、哀れな老人を蹴り転がして去っていきました。

 革命の時代も、過去のものとなりました。時間が通り過ぎて行ったのに、フランスはまた王と貴族がいた頃に逆戻りしてしまったのでしょうか?






 静寂。一人残された老人。

 シャルルアンリは目にいっぱいの涙を溜めながら、地面に仰向けで嘆きます。

 「私は、無力な人間だ」

 「生涯を通して、何一つ願いを叶える事が出来なかった」

 「マリー、自由に思うがままに生きた、強いお前にもう一度会いたい」

 「お前がどこかで生きているのなら、それだけで、夢を見る勇気を与えてくれるのに」



 シャルルアンリの目に映るのは、夜空。満天の星空です。

 流れ星がひとつ。

 いいえ、もっとです。ふたつ、みっつ、よっつ・・・。



 その数はあっという間に増えていきます。

 幾百、幾千の流れ星。流星の雨が夜空を埋め尽くしました・・・。

 

 一生に一度見られたら幸運?いえ、そんなレベルではありません。これは奇跡の類。

 地面に倒れていたシャルルアンリも思わず体を起こしていました。

 「何という事だ、流星が夜空を埋め尽くしている。そういえば、聞いた事がある」

 「古来より、天国の門が開く時、天上の光が零れ落ちる、と」



 無数に降り注ぐ流星の雨。シャルルアンリはその中にひとつ、違うものを見つけました。

 「赤い流星(メテオール・ルージュ)・・・!」

 

 気配と足音が、シャルルアンリの背後から近づいてきます・・・。

 振り返って見たものは、金色の髪。赤い唇。無数の流れ星が放つ光は、凛々しい男装のその姿を通り抜けて反射して、まばゆく輝いていました。

 

 「よう兄貴、久しぶりだな」

 今度こそ本当に、彼女がパリに帰ってきました。マリージョセフ・サンソンの帰還です。

 「おお、マリー・・・」

 シャルルアンリが堪え切れるわけがありません。即涙が溢れだして、頬を伝っていきます。

 「泣き虫シャルロ、ちっとも変わらねえな。ジジイになってもメソメソしやがって」

 マリージョセフは、シャルルアンリの涙を優しく指で拭いました。

 「天国の扉をこじ開けて、兄貴に会いに来てやったぜ?」



 口元を手で押さえて嗚咽しながら、シャルルアンリは問いかけます。

 「そうか、そうなのか、だからお前は若いまま、美しいままなのだな」

 「ロベスピエールの刺客は海を越えてまで追いかけてきたのか、可哀想に」

 マリージョセフは鼻で笑って否定します。

 「馬鹿にしてんのか? マリーは無敵、四肢を砕かれても誰にも負けやしねえ」

 「病と闘って、天寿を全うした。それだけの事さ」



 「メルシー兄貴、礼を言うぜ」

 「兄貴に救われたこの命、世界からどんなに嫌われどんなにハジかれても、燃やし尽くした」

 「最後の最後まで、燃やし尽くしてやったぜ」



 あの頃と変わらない、マリージョセフの不敵な笑顔。

 シャルルアンリは母親と同じ顔を持つゼロの事を思い出します。天真爛漫なその笑顔。よく見ると少しの違和感。そう、上顎の前歯が一本多いのです・・・。

 「過剰歯、33本目の歯を持って生まれてくる者がいる。ゼロがそうだった」

 「過剰歯の人間は秩序を乱すものとして忌み嫌われていた。だからゼロに鉄の仮面を被せたのか?あの子を守る為に」

 「いや、それはどうでもいい事だ。もうあの子は仮面を付けていないのだから」



 「マリー、お前と同じ顔を持って生まれてきたゼロは、33本目の歯を持っていた」

 「ミケランジェロの彫刻、ピエタ(慈悲)像のイエス・キリストは、過剰歯だ。彼はきっと、人間が背負う原罪をあの像に込めて、表現したのだ」

 「人間は完璧な存在では無い、完璧な人間などあり得ない。ゼロが私に教えてくれたのだ」



 流星の雨が、二人に向けて降り注いでいます・・・。

 泣き虫シャルロと無敵のマリー。シャルルアンリ・サンソンとマリージョセフ・サンソンは、強く強く、抱き締め合います。

 「全ての人間は、不完全な存在のまま、ありのまま生きる権利がある」

 「メルシーマリー。君が生まれてきてくれた事を私が祝福しよう!」

 お互いの存在を、完全に肯定する。そんな抱擁。



 さようなら、シャルルアンリ。さようなら、マリージョセフ。愛しき兄妹。





 
 ランスの一角、ジャンルイ・サンソン邸。

 もう夜も更けたというのに、一人の少女が旅立とうとしています。

 湧き上がる情熱、好奇心探求心。抑える事が出来ません。ついでに、食欲も。おっと失礼、これはいつもの事でしたっけ??

 「アデュー、パパ。ゼロは旅に出ます。明日からは処刑のお手伝いは出来ないよ?」

 「あの流れ星たちが落ちてゆく先に何があるのか、見てみたくなったんだ」



 可愛らしいリボンが付いたシルクハット。髪は腰まで伸びたツインテール。コートの腰から下の部分は前が大きく空いています。胸元の大きなリボンとスカートの二つのリボンがアクセントのドレスは、裾の部分が膝よりもはるかに上です。

 下着が見えてしまう?大丈夫、スカートの下には白いパンタロン。ベルボトムです。最後は足元、厚底の靴。パンタロンの白以外は黒。黒でまとめています。

 迸るファッションセンス。マリージョセフでもこうはいかないでしょう。200年後のパリを歩いてみたらどうでしょう??ゼロの着こなしにパリっ子は見惚れるに違いありません。



 持ち物は右手にステッキ、左手に大きなカバン。

 カバンの中身はお気に入りのスカートと、パン、パン、パン。ありったけのパンです。詰め込めるだけ詰め込んで、カバンはパンパン(笑)に膨らんでしまいました。

 おっと、もう一個目のパンに噛り付いているではありませんか。

 「大丈夫、パンが無くなったら誰かが分けてくれる」

 「だからゼロも、パンが欲しい人がいたら分けてあげるよ」

 「そうすれば、どこまでだって行けるんだ!!」



 彼女がサンソンの名を持つ者だと知って、酷い態度を取る者もいるでしょう。でも、彼女がサンソンの名を持つ者と知っても、笑顔で接してくれる者もいるに違いありません。

 何故分かるかって?顔を見れば良いのです。母親と同じ美しい顔でも、表情が違います。

 マリージョセフの顔には、世界中を敵に回しても戦うという意思と、自分の強さを確信する自信が表れていました。懐かしい鋭い視線、不敵な笑み。

 ゼロの顔から溢れているのは、天真爛漫さ。無邪気な笑み。目は大きく見開かれて、強い好奇心が隠せません。全部、全部見たい、全部見るんだ!



 ゼロ・サンソンの旅。

 良い事ばかりではないでしょう。悪い事ばかりでもないはずです。彼女に付いて行って見守りたい、旅の行く末を見届けたい。そんな気持ちが止まりません。

 でも残念、またいつか。それを語る時間は、もう残されていないのです・・・。

 「さあ行こう、まだ見ぬ世界へ!!」









 「マリーの夢は、貴族鏖(みなごろし)ー」

 欧州を制覇するかと思われたナポレオン一世の怒涛の快進撃も遠い昔。1870年、フランス最後の君主ナポレオン三世が退位。フランスは共和国になりました。

 生まれながらの特権階級は、フランスから完全に消滅したのです。



 「僕の夢は、死刑の無い世の中を作る事ー」

 1981年、フランス国民議会において、死刑制度の廃止が決定されました。



 凱旋門、エッフェル塔、道路を走る自動車。

 マリージョセフ・サンソンの夢はフランスを去った後、76年後に叶いました。

 シャルルアンリ・サンソンの夢は死後、175年後に叶いました。



 肉体が滅んでも生き続けた想い、願い。

 叶う事など決してないと思われた兄妹の夢は、現実のものとなったのです。





 
 フランス、パリ北部。モンマルトル墓地。

 現存するサンソン一族の墓に、二輪の薔薇の花が手向けられています。

 白い薔薇と赤い薔薇。

 白い薔薇は、兄の為に。赤い薔薇は、妹の為に。