「経営者保証に関するガイドライン」の策定(平成25年)などによって、中小企業の経営者が個人保証を求められることも減ってはきていますが、会社の財務基盤が確立していない段階では、依然として会社の資金調達に社長の個人保証は欠かせないのが実情です。

個人保証をめぐる悲劇は何も経営不振の時に限りません。このようなことがありました。ある日、経営者が突然の病に倒れ死亡しました。遺族は、会社のことを何も知らされていない女性達です。番頭格の従業員は、私が経営を引き継ぐので会社の株を譲って欲しいといいます。気のいい彼女達は、それならと譲渡を内諾し、先方から提示された譲渡契約書の文言チェックのため法律相談にやって来ました。

そうです。彼女達は、死亡した経営者が数千万円の保証債務を負っており、自分達がその債務を相続することになるなど、全く想定だにしていなかったのです。

こうした場合、番頭格が保証債務の引継ぎに同意し、金融機関が保証人の交替を認めるのでない限り、株を譲渡してはなりません。ひとたび株を譲渡してしまえば、遺族は、会社から何の利益も得られないのに、会社倒産時のリスクだけ背負うことになってしまうからです。その上、いったん株を譲渡してしまえば、相続放棄も限定承認もできなくなってしまうのです。

この事案では、番頭格が保証債務の引継ぎを拒否しましたので、株の譲渡は取りやめにして、限定承認をしました。番頭格は、保証債務の存在を隠して、遺族に株の譲渡を持ちかけたに違いありません。

仕事を家庭に持ち込まないというお考えの下、ご家族に保証債務のことなど告げていないという経営者の方もいらっしゃるでしょう。しかし、この例のように、万一のことを考えると危険すぎます。こうした事態に備え、最低でも、普段付き合いのある弁護士や税理士とは、会社の状況を定期的に共有し、ご家族にもその弁護士や税理士の連絡先くらいは教えておくことが望まれます。 (弁護士 定近 直之)