ドイツ・フライブルク市から地球環境を考える 村上 敦

環境先進都市ドイツ・フライブルク市在住のジャーナリスト村上敦(むらかみ あつし)が環境政策、エネルギー政策、都市計画、交通政策、など様々なジャンルの環境にまつわる話をお届けします。

ドイツのエネルギーシフトを日本に当てはめてみたら?

ドイツでは2015年7月の現在でも、エネルギーヴェンデ(エネルギーシフト)は、進展を続けています。
 
当然、他の先進工業国でもこれだけのスケールで実施している前例がない戦略、政策であり、ドイツ国内にも様々なステークホルダーがいますから、問題がまったくなく、快調に邁進しているのか、と問われれば、直進する道ではなく、山あり谷ありの茨道で、走りながら考え、一時は停止し、またスタートし、ということで順風満帆ではありません。ただし、毎年、毎月、毎日、少なからずも定めた目標(2050年のビジョン)にだけは向かって少しづつでも進んでいる、進歩していると評価することがいえるでしょう。
 
日本では、これらについては一方で礼賛する勢力があり、他方でそれに対して反論する、というか全く評価しない勢力がありと、なかなか真実が伝わっていない様子であることは、私のような仕事をしていると、ダイレクトに感じます。
 
例えば、バブル気味だった太陽光発電の普及について、徐々にブレーキをかけておくべきだったのに、政治的にいろいろな関心で、その対応が遅れ、ドタバタし、結局は一旦仕切りなおしでストップさせなければならなくなったことを捉えて、「ドイツのエネルギーシフトは頓挫した(失敗した)」というような声を上げている人、団体も数多くありましたし、そうした事象にはできるだけ触れないで、進展の目覚ましいところだけをいいコト取りして、「ドイツは素晴らしい」と持ち上げる人、団体もあります。
 
当然、こうした前例がない試みは世界中からの関心を集めており、で、あればこそ、そこには様々な思惑、視点、立場、考えによって、様々な評価が下されるのは当然です。また、こうした大きな関心が集まる事柄に対して、一つの意見しか出ないのでは、健全でも何でもありません。
 
でもね、もうちょっとエネルギーシフトの全貌を知った上で、細々した事象について語ろうよ、という自分がいます。大切な「森」のほうについては情報共有や理解が進まないまま、日々の細々とした「木」のほうばかりに議論が集中しているような気になるんです。
 
ということで、今回、ドイツの各種のエネルギーシフトにおける目標値、そして現状と出発点を整理し、同時に、本筋の対策の意味、意義について、エネルギーフロー図、つまり一次エネルギー供給と最終エネルギー消費の観点から、何のためにそのような試みをしているのかわかりやすい形でレポートしてみよう、と思い立ちました。同時に、そのドイツでの本筋の取組みを、もし、日本のエネルギー供給、消費の状態に代入してみると、何が見えてくるのか? そんな試みをレポートの中では取りまとめて見ました。
 
基本的には、ドイツは2050年までに、一次エネ供給量を半減し、化石・原子力に頼らない社会をわずか3つの対策(電力の再エネ化、自動車交通のEV化、建物の高断熱化、高気密化)で実施することができますし、その方向で進展しています。日本に当てはめてみると、4つの対策(電力の再エネ化、自動車交通のEV化、建物の高断熱化、高気密化、そして給湯エネの省エネ化・再エネ化)が必要になることも明らかになりました。
 
15ページの計算式の多いレポートになってしまいましたが、使っている計算は足し算、掛け算のみです。
 
ご興味のある方は、多少の時間を投資して、レポートを読み解いていただければ幸いに思います。
※なお、このレポートは私の個人的な見解です。文中に使用しているエネルギーフロー図は、ドイツ経済・エネルギー省の「エネルギーデータ」、日本のエネ庁発行の「エネルギー白書」から出典を明示した形で掲載しています。

ドイツの電力市場白書2015(その4)

もう一つ、重要なことを忘れていました。

電力市場1.0と電力市場2.0の明確な違いですが、それは不安定電力の再エネをどのように捉えるのか、その捉え方が変化することを意味しています。

日本の電力市場では、第一段階ですから、例えば再エネ(例:不安定電源のPV)を語る際には、エネ白書2015にもありますが、以下のような図で思考します。
再エネの捉え方 第一段階

 出典:経済産業省、エネルギー白書2015年、第二部第三節139ページ
http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2015pdf/

これに既存電力の発電カーブを描き加えて、電力需要曲線を重ねあわせると思考の完成です。


しかし、第二段階に突入しているドイツでの議論や、電力市場2.0での議論では、すでにこうした図表は使われません。気象データと突き合わせた上で需給バランスをシミュレーションし、それを時間軸順ではなく、出力順に並べ替え、以下のような図表で、市場のデザインをどうするのか、リザーブ電源規模をどのようにするのか、思案されることになります。
0の制度設計
出典:BMWi2015、Weissbuch-ein Strommarkt fuer die Energiewende、49ページ
http://www.bmwi.de/DE/Mediathek/publikationen,did=718200.html


ドイツでは、通常、これで需給バランスについて議論されています。これで思考している日本の学者さん、専門家、政治家っているのかな? 日本語の出典の資料だと、見たことないけれど。

説明はここではしません(ごめんなさい!)。というか今から出かけるので。時間があるときにやれたら、やります。

この図の意味、思考手法が早く分かるような社会になることを願っています。


そうそうそれから、電力市場の改革の話をしましたが、未だにドイツでは、建設工事中にバックフォーが地下埋設の系統を切断したり、最近の欧州の熱波で変電、分電器が燃えたり、不具合が起きたり、などの原始的な理由で停電はもちろん多々あります。そういう事態を回避するために、もっと地に足のついたことを、地道にやろうよ、そんなPower toIndustry2.0とか、電力市場2.0とか、事態をややこしくすることばかり進めないで・・・というような批判もあるかと思います。というか、僕自身、そう思っているし、系統の需給調整だってごく小さなエリアの地域内で、簡易的な原始的な形で再エネ+調整用コジェネでなんとでも(今よりも安価で、信頼性が担保された形で)問題なく出来るわけだし。

それが白書を読んだ最初の感想です。

とはいえ、今はIoTなどでしか産業が語られない社会。それを全否定してしまうと、そもそも何をしてもNGとなりますので、このブログでの話は、一応、それを認めた上で書いています。つまり、こうした複雑化された市場に移行してゆくと、どの道、不具合はプログラムされ、リスクも増加するわけですね。そうしたマイナス点と、産業が進化する過程でのプラス点、このバランスは最終的にはそれぞれの国や市民が決めるもんだと思っています。

ドイツの電力市場白書2015(その3)

こんな説明で分かるのかな? これ以上説明するよりも、60ページほどなんで、グリーンブック読んでよ、ということにしておきましょう。

あ、英語もあるじゃん。
http://www.bmwi.de/BMWi/Redaktion/PDF/G/gruenbuch-gesamt-englisch,property=pdf,bereich=bmwi2012,sprache=de,rwb=true.pdf

というか、うまい説明もあるじゃん。まあ、こんなに単純化すると、勘違いする輩も出てくると思うけれど。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/WORD/20130218/266376/?rt=nocnt

ちなみに、北欧、ポーランドはすでに電力市場2.0モデルで行くことにしています。英・仏・伊が容量市場、キャパ市場ですね。

また、このグリーンブックを策定するにあたり、学術的な調査として、以下のように4つの調査報告書がそれぞれの専門研究機関に委託され、その調査報告書も公表されています。
http://bmwi.de/DE/Mediathek/publikationen,did=643918.html
http://bmwi.de/DE/Mediathek/publikationen,did=647998.html
http://bmwi.de/DE/Mediathek/publikationen,did=647550.html
http://bmwi.de/DE/Mediathek/publikationen,did=647540.html
http://bmwi.de/DE/Mediathek/publikationen,did=703576.html

さて、半年にわたるステークホルダーへの公聴会、プラットフォームでの議論、とりわけステークホルダーから700近くのパブリックコメントを精査して、その結論を取りまとめ、政治的な決断がなされたものが、今回のブログでお伝えしたかった「電力市場白書2015」になります。これは、2015年7月初頭、つまり先日公表されています。
http://www.bmwi.de/DE/Mediathek/publikationen,did=718200.html

これ、100ページ超えますが、興味ある方は読んで下さいね。日本のエネ白書よりは、読み物としても十分に面白いです。

で、一部の保守州(BW州、BY州)と電力大手からは容量市場が欲しいというコメントが寄せられましたが、圧倒的な多数で「電力市場2.0」を支持する声が多く、最終的には政府の政治判断も入り、「電力市場2.0」を原則として、今後の2年間でバタバタといろんな法規制の大改革、同時に市場の進化が行われることになっています。もちろん、白書公表後にもヒアリングを続け、各法案は国会を通過しなければなりません。

が、このグリーンブック→ホワイトブックという流れは、すでに正義化しているので、このままそれほどの妥協もなく、続けられることかと思います。電力部門において、とりわけ市場参加者が急増し、草の根の動きも入り、政治的な右左ではなく、上からか下からかという対立構造を続けてきた恩恵で、ドイツ政府は一つの困難な政治課題を解消する手法として、ここに新しい形を確立させたと言っても過言ではないでしょう。


このブログの最初に、褐炭云々の話をしました。ただし、この白書を読めば、自ずと、短期的な負担はあるものの、

1.2021年には原子力発電所は予定通り、間違いなく廃炉される。

2.2020年過ぎには、一部の新しい褐炭発電は残すものの、基本的には大々的に褐炭発電はドイツから退場いただく。

3.これまで政治時期によって大幅助成促進、助成カット、というストップ&ゴーを続けてきたコジェネも、「コジェネ2.0」となり、継続的に2020年までは間違いなく、推進されること。
※コジェネ2.0とは、DSM化され、タンク容量も増大し、電力需給の様子次第では電力メインで稼働させることもできるスマートコジェネのことです。これはPower to Heatと呼ばれ、Power to Gasよりも手間の時点で大々的に普及します。

4.産業用電力のDSMについては、今後、数年でドイツでの産業での働き方を大改革させるほどのインパクトで推進されること。
※産業用の新しいDSMについては、Power to Industry2.0というタイトルがすでにつけられており、IoTとの融合をはかった、ドイツの経済政策のフラッグシップであるインダストリー4.0にも大きな影響を与える。ちなみに、IoTは、ドイツ語ではInternet der Dinge(インターネット・デア・ディンゲ)!笑ってしまうほど、ドイツ語らしい、男らしい響きです・・・

5.EVの取り扱いも、今後は多少の助成措置やパイロットプロジェクトでお茶を濁すだけではなく、大幅に進展しそうなシグナルを市場に明確に送っています。

6.稼働率の低下で問題化していた天然ガスタービンの発電所については、2017年頃からの市場の正常化でようやく採算性が取れる明るい見通しが立ってきたこと。

などなど、市場に対する明確なシグナルが発せられることになりました。

この信頼性はかなり高いです。だって、「電力市場2.0」が価格シグナルを出して需給調整が機能するか、しないかは、短期的、逐次的な「政府による介入なし」「透明性の高いロードマップ」という2つの柱によって成り立つことになりますので、公表してしまった以上、これはちょっとやそっとでは変更することができないからです。

また、この白書は過程から言って正義ですから、市民の大きな反対運動が何らかの形で持ち上がらない限り(電力系統マスタープランの策定の時のように)、この流れは止められないものとなりそうです。


ということで、言い忘れたことはないかな? なんか気が付いたら、(その4)を追記しますね。
 

あっと、言い忘れましたが、今のドイツの電力市場は電力大手によるチキンレース状態です。自身の老朽化した褐炭や原子力を止めてしまえば、市場は正常化し、残りの発電源の採算性が向上し、自社の悲惨な経営状況も改善するのですが、自身の出力を市場から退場させてしまうと、その時の利益が下がる。だから皆、赤字に泣きながら、誰が一番に飛び出すのか耐えているわけです。もちろん、資本が弱いところからこのチキンレースは飛び出すはめになります。だからこそ、電力大手自身も、他社のフリーライダーを限定的なものにするために、同時に自社でも新しい投資や戦略を描けるように、この白書策定の過程では活発で、建設的な意見を出し、自社の被害を最小限に食い止める試みが行われています。これ、15年前の電力大手にそのことを言ったら、絶対に信じてもらえないだろうけど。

そう、再エネを分散された資本で推進する意味は、こうした独占+政治との汚いつながり+不透明性を崩壊させることに繋がるのは、ドイツの事例では明らかではないでしょうか。また、フランス、イギリス、イタリアで容量市場が出現し、スカンジナビア、オーストリア、ドイツで電力市場2.0へと進化する、これもそんなところを象徴している出来事だと思いました。


ドイツの電力市場白書2015(その2)

とはいえ、皆さん、電力市場の形態をより進化させた「電力市場2.0」か、今の電力市場を多少修正し、新たに「容量市場」を並列させるのか、どちらかに決断すると言われてもピンと来ないですよね。

本来は、おおまかに概略しちゃうといろいろな意味で正確性に欠けてしまうので(本当はグリーンブックを読んで欲しいのですが独語ですので・・・また、正確にこのブログで説明している時間が私にはない)、注意が必要なんですが、

・「電力市場2.0」とは、基本的には、これまでは火力・原子力があって、再エネが加入してきた形で、正常・効果的に機能するように電力市場はデザインされて来たわけです(ここではEEXとEPEXのことを指します)。
https://www.eex.com/en#/en
http://www.epexspot.com/en/

ただし、再エネの量がドイツだけではなく、市場へ参加する周辺国でも増加してくると、そのデザインの逐次の修正だけでは間に合わなくなってきています。また、各国やEUで策定されている電力事業に関わる様々な法規制も逐次の修正を繰り返すようになると、不具合が出てきます。つまり、整合的、効果的、合理的ではなくなるわけです。ですから、それを再エネを主体とすることを前提として、大幅に改良しちゃいましょう、というのが「電力市場2.0」になります。

また、欧州の再エネのポテンシャルは風力&PVの2本立ての柱ですから、電力供給は需要に対して不安定になります。過剰供給の際のルールや、再エネで十分に需要が賄われなくなる際のバックアックをどうするのか、よく考えなければなりません。「電力市場2.0」では、その安全装置として二段構えを構成しています。

1.一つは、電力市場に公が介入しないで、需給が厳しくなったときに、市場が高騰することを、市場に対する一つの有効なシグナルとして(言葉は悪いですが)放置すること。また、市場取引のルールの明確化や監視の強化(公正取引との関連の明確化が必須です)などの対策もされながら、という意味ですが。
つまり、市場がピーク時に高騰しないことには、電力需給対応の様々な対策や市場参加者の戦略・投資(つまり、蓄電やDSM、多種多様な電力契約形態、自社の判断によるリザーブ発電など)が有効に行われないので、それを認めましょう、それでもブラックアウトにはなりませんよ。市場は賢いですから、という感じに取りまとめられるかと思います。また、市場のピークは時間帯的にそれほど長くなく、かつ、市場は刻々と状況を変化させるので、いろいろな学術的な試算でも、総合的な電力価格は下方に修練してゆくという前提です。

2.もう一つは、系統が物理的なアンバランスの状態に陥った時は、高圧系統事業者が指令して、市場に参加しないリザーブ発電源によって調整、その費用は、待機の費用も含めて、原則的に15分同時同量や発電予告を厳守できなかった事業者が負担する、というものです。


・それでは、「容量市場、電源キャパシティ市場」を並列させるというのはどういう意味かというと、基本的には電力市場の改善、修正は続けてゆくが、市場が発する価格シグナル(需給バランスが崩れた価格ピーク)によっても、市場は十分には賢くなく、本来準備しておくべきの調整用電源、蓄電やDSM、多種多様な電力契約形態、自社の判断によるリザーブ発電などが整備されない、という判断に基づいて、電力取引市場とは別に並列で「容量市場」を作っておいて、ここからの収入源を当てにした市場参加者の行動から、調整用の発電出力に余裕をもたせるという考えに基いています。つまり、上記の二段構えではなく、三段構えの構成にして、さらに1.と2.の間に、(いくつかの手法があるが)発電出力、キャパシティだけを取り扱う市場を出現させ、そこからの収入で必要な電源を確保しておくという意味です。

具体的にどのような手法が採用されるべきかについても、多種多様な手法があり、すでに米英で採用されているようなモデルを使うのか、あるいはフランス・イタリアなどで採用予定のモデルを使うのか、それによってやり方が全然違います。

例えば、A。政府や系統監督官庁が必要とされる「電源出力」の規模を設定し、市場入札の形でその出力市場が運営されるのか、B。あるいは「電力市場」参加者が、バランスが崩れた際の保険のようなものとして出力市場での出力の確保を義務付け、それが自動的に必要出力の規模となって「容量市場」での取引が行われるのか、また、その保険のようなものの義務付けの仕方で、系統監督官庁がほぼほぼ決める形になり、A。寄りのB。になるか、はたまたB。寄りのA。になるのか、などなどこちらも、どのような制度設計にするのかを決めなければなりません。


FITとRPS法の違いを詳しく理解している方なら、納得していただけるのかも知れませんが、原則的に、もし、FITで適正な再エネ買取価格が決定されるなら、あるいはRPS法で適正な再エネ発電確保量が決められるのなら、机上の上では、再エネの普及量も、再エネの平均的な価格も同一のものとなります。ただし、そうはならないのが現実であり、FITでは再エネの普及量は稼げるが、普及時の再エネ価格は高くなる傾向があり、RPS法では再エネの価格は低減させられるが、再エネの普及量は稼げない、ということになり、その結果、普及したからより安価になった、とか、普及しなかったから高止まりのままとか、法律策定後の中期的な市場への影響は避けられません。

この「電力市場2.0」+二段構えか、「容量市場、キャパシティ市場」を並列で創出しての三段構えかでも、理論的な将来の電力料金は同一になります。ただし、米英での事例を見る限り、「容量市場」の容量規模を公が策定したり、それをどのような形でも義務的に加入したりする上での規制をかけると、系統監督官庁側では、どうしても安全側に振れる可能性が高いので(またその規模を決めることは非常に難しいのでミス無しで完ぺき性が確保できるとは誰も想定していないことから)、「容量市場」を導入すると、電力価格はどちらかというとより高価になります。ただし、気持ち的には安心できる。

また、「容量市場」の導入は、公的な「電力市場」への介入と同義であるので、「電力市場」への影響も当然出てきて、価格高騰のシグナルが十分に発せられないことにもつながりますし、結局のところ、自由化ではあっても、中央集権的に電力市場を組織したい人、保守的な考えだと「容量市場」を、市場の完全自由を求めるリベラルな考えだと「電力市場2.0」を、という選択になりえます。


ドイツの電力市場白書2015(その1)

はい、ようやく、遅まきながら、かつ、目覚ましい進歩ではありませんが、ドイツでは、生産過剰にあえいでいる電力市場を正常化するため、老朽化した褐炭発電の廃炉の取り扱いについて、政府方針が打ち出されました。
http://www.bmwi.de/DE/Presse/pressemitteilungen,did=718136.html

1.2017年中には、老朽化した褐炭発電出力2.7GWを市場から取り除き、2021年までは廃炉作業に入らず、緊急用電源(緊急リザーブ発電所)として保持することになりました。

2.このリザーブ期間中は、電力消費者が支出する電力料金と国予算で、毎年2.3億ユーロ(約300億円) の「リザーブしてくれてありがとね謝礼」が電力大手に支払われます。廃炉作業の先送りができ、かつ、お金ももらえてウハウハです。

3.つまり、政府内でも、経済・エネ省でも検討されていた、褐炭発電を行う電力事業者に対しての「大気汚染税」 での解決策は用いられないことになります。本来は老朽化し、社会に不必要な褐炭発電が安価になりすぎている元凶は、EUのCO2排出量取引市場が(EU内のバブル経済の際にキャップを設定したため)暴落し、正常化していないことですが、これを迅速に修正する可能性は今のところなく、EUではCO2排出量取引市場の4回目の改革を2030年の温室効果ガス排出量削減目標に向けて、2020年過ぎに策定する予定で、その修正作業には今、まだ入ったばかり、というか今から各国との調整で入ろうとしているのが現状です。

4.ドイツの2020年マイナス40%(90年比)という目標(国際公約)においては、電力部門で2200万トンのさらなる削減が割り当てられていますが、上記の2.7GWというわずかな褐炭発電所の閉鎖では、1250万トンしか削減できません。また、このボーナスに対して、政府は電力大手に追加で150万トンを褐炭部門から下げるように要請するそうですが、法的にどのような枠組みでそれを行使するのかは決まっていません。

5.本来は現在21GW程度も稼働・待機している褐炭発電のうち、さくっと5GWぐらい今年にでも廃炉にできたら良いんですが、現在の電力大手寄り、かつ褐炭産業への数多くの天下りを排出しているメルケル連立政権陣営(CDU党、SPD党)、褐炭に一縷の望みを託すルールのNRW州&旧東ドイツのいくつかの州では、いまだに褐炭採掘の助成措置すら全面的に廃止にできない有り様ですから、こんなところの妥協案が良い所なのかなと思いました。


やれやれ。

このブログでも繰り返しているように、そもそもの元凶は、メルケル政権が遅くとも第二次の段階で、再エネを推進してゆくなら(国民的な合意)、その出力・発電量増加分を何らかの形で出力調整の効きにくい原子力・褐炭で徐々に削減してゆくという電力大手との合意や戦略を作らなければならなかったわけですが、「再エネは不安定で足しにならない」という事実に基づかない偏見や、お金のつながりによって、原発は8基+1基は止めたものの、脱原発の2021年の直前にバタバタと閉鎖されるシナリオを描き、かつ、褐炭は放置して助成措置を続けてきたツケが、ここに来てどうにもならなくなった、という経緯があります。


ただし(!)、それではドイツのエネ政策はロクでもないのかと言われれば、今回の一連の交渉、および調整で、明確な方向性だけは、市場に対して打ち出せたことから、まんざらでもないのかな、と評価する自分もいます。その根拠は「電力市場白書」に描かれていますので、その経緯と成果についておさらいしてみましょう。


まず、話は2014年10月に遡ります。政府、そして経済・エネ省は、「エネルギーヴェンデのための電力市場緑書」、いわゆるグリーンブックを公表し、半年間の時間を設けて、すべてのエネ、電力に関連するステークホルダーと話し合いをすることになりました。
http://www.bmwi.de/DE/Mediathek/publikationen,did=666660.html

ここでは、国内総電力消費量に対する再生可能エネ発電の割合=2013年(実績25.3%)、2020年(35%以上)、2025年(40〜45%)、2030年(50%以上)、2035年(55〜60%)、2040年(65%以上)、2050年(80%以上)はすでに既定路線であるとの認識の上で、今の「火力・原子力主体&調整+再エネ追加的」な電力市場を、第二段階目に突入した「再エネ主体+火力補助的な主体&調整」の市場へと移行するために(三段階目は再エネ主体&調整+その他で調整)、

1.現状分析と共通認識の共有、
2.どちらにしても近日中にやらなければならない対策のカタログとロードマップ(Sowiesoシナリオ)、またそれを共通認識として共有、
3.さらに、電力市場の形態をより進化させた「電力市場2.0」か、今の電力市場を多少修正し、新たに「容量市場(電源出力市場、キャパシティ市場)」を並列させるのかの、原理・原則的な決断、

について、議論することになりました。



エネルギー白書2015を眺めて(その3)

そうそう、もう一つだけ追加で指摘しておきたいことがあります。

国際エネルギー動向(第ニ部二章) 

本文の196、197ページにおいては、世界各国の発電状況が述べられており、発電源の項目では、フランスの原子力設備割合52%、発電量割合74%に(あたかもポジティブな事例として?)言及する気配りは忘れていません。

これはご愛嬌としても、197ページに提示された図は、196ページの説明文とともに、なんともバランスの悪いものとなっています。

「なお、欧州や北米では国境を越えて送電線網が整備されており、電力の輸出入が活発に行われました(第223-1-7)」

欧州の電力輸出入フランス

これは、送電線の利用状況(フィジカル・エネルギー・フロー)を示した図であり、国の電力の輸出入を取り扱ったものではありません!

通常は、この電力輸送が国境を超えて行われる場合は、入る側は「インサイド・フローズ」、出てゆく側は「アウトサイド・フローズ」と呼びますが、簡易的に「インポート」、「エクスポート」と呼ぶこともあります。

どちらにしても、必ず、こうした図を描く際は、「電力の物理的なフロー」を取り扱ったものと明記する必要があります。素人が書く新聞や雑誌記事じゃないんだから、エネ庁、もっとしっかりしてください。

エネ白書にあるIEAの統計数値と、欧州系統連盟ENTOSO-Eの数値とは統計値に若干の差が生じていますが、フランスだけに限らず、欧州全体では以下のPDFの3ページのような電力の物理的な移動が生じています。
https://www.entsoe.eu/fileadmin/user_upload/_library/publications/entsoe/Memo/2012_ENTSO-E_Memo.pdf


!ここで問題にしたいのは、このフロー図はいわゆる「輸出入」の数字ではないことです!

ドイツやフランス、スイスなど大陸内陸部の大型発電所は、国境でもあるライン川沿いなど川沿いに設置されていますから、国境を超えた河川の両側に強い電力系統も設置されています。

欧州の最も大きな電力の流れは(上記PDFの3ページをよく見て下さい!)、出力調整のほとんど効かない原発で大部分の電力を賄うフランスは(基本的には再エネと同じです)、電力需要のピークがある冬季・厳寒期以外には年間を通じて電力が余剰してしまうので、その余剰した原発電力(安価)を、ライン両サイドの系統を利用して、ドイツを経由してスイスに送り、その電力は主に、割高な輸入ガス発電をメインに据えるイタリアが、自国でのガスの炊き減らしをするために有効活用しています(あるいはフランスから直接イタリアに、あるいはフランスからスイスを経由してイタリアに)。

系統は設置していても、使わないなら、当然使用した時の系統利用料は高くなります。電力は貯蔵すると割高になりますから、どこかで余っている安価な電力があり、歴史的な経緯ですでに系統が設置されているなら、できるかぎりそうした系統をうまく使って電力をやりとりし、自国の割高な火力などの炊き減らしをする。これは市場原理で動く今の欧州の電力システムの基本中の基本です(どこかが、どこかに依存しているわけではない→設備容量はどの国も緊急時に自国の需要を賄えるように準備しているわけなので)。

また、例えばドイツから船便で日本へ商品を輸出する際、その船が南アフリカで一旦港に寄って補給をしても、その南アフリカの港の停泊分を持って輸出入にカウントすることはしません。ですから、輸出入ではなく、「物理的な電力のフロー=系統利用図」なのです。

このブログでもすでに取り扱いましたが、フランスはドイツを除く、すべての周辺国に対して電力の輸出入で輸出超過ですが、対ドイツに限っては輸入超過です。2012年の統計であれば、RTEが出しているレポート、以下のPDFの78ページを見て下さい。
http://www.rte-france.com/uploads/Mediatheque_docs/Presentation_RTE/Rapport_activite/2012/RA_RTE_2012_RA_UK.pdf

ドイツからフランスへの電力の輸出は13.9TWhであるのに対して、フランスからドイツへの電力の輸出は5.2TWhであることが分かります。欧州では電力の輸出入も、フィジカルな意味での電力の輸送も活発に行なっていますが、こうした図を正確な説明なしでつけることは、どうしても避けて欲しいと思っています。


なぜ、こんな重箱を突っついたようなことを繰り返し述べるのか? それは、私が日本各地で講演するとき、あるいはメールなどで、いまだに私に「ドイツは再エネを推進しているけど、結局のところ、陸続きでフランスの原発電力に頼っているので、ドイツの脱原発って意味なくない?」というような意見を言ったり、質問をしたりする人が大勢いるからです。

つまり、多くの日本人はこの点を誤解しています。ですから少なくとも、国が公表するエネルギー白書では、正確なところを記していただけると、「エネルギー白書を見て下さい」という一言で回答できるのに・・・という希望からブログを書いています。

ただし、再稼働のためにも、もし意図的にそうした世論を形成したい、という意図があるなら、まあ、こんなところでつぶやいてみても、ほとんど意味はないんですが・・・


あっ、それから、エネ白書を2015年の7月に公表するなら、ENTOSO-Eは今年4月にはすでに2014年のフィジカルエネルギーフロー図を公表していますから、こうしたものもできる限りアクチュアルなものを使用した方が良いとは思います・・・
https://www.entsoe.eu/publications/statistics/statistical-factsheet/Pages/default.aspx


エネルギー白書2015を眺めて(その2)

それから、もう一つの違和感の部分を論じたいと思います。

国内エネルギー動向(第二部一章) 

本文の108、109ページには、日本のエネルギー消費について論じる中で、単位GDPあたりの一次ネルギー供給量をグラフ化し、「現在の我が国のエネルギーの利用効率が、依然として高いことが分かります」と満足気に述べられています。

いや、危機感持つべきでしょう?中国やインド、アメリカのエネルギー効率と比較してもあまり意味ないでしょう。

私は2012年に「kWh=¥」という本を書き、その中で2009年度の日独のエネルギー利用効率について論じました。当時の最新のエネルギー白書2012では、2009年の統計しか入手できず、それを詳細に分析してみると、それまで世界最高と謳っていた日本のエネ効率は、丁度、人口1人当たりでも、単位GDP当たりでも、ドイツに追いつかれ、追いぬかれていることを指摘しています。

しかし、エネ白書2015では、2012年のデータでもなお、ドイツやEU平均を10%上回る高いエネルギー効率の数字やグラフが掲載されています(108、109ページ)。

いやいや、そんなはずはない。と思って、よくそのグラフ作成の定義を見てみると、GDPは名目で、リアルタイムの為替換算値を用いているのではなく、「2005年を基準年としてそれ以降はGDPは実質」で計算しています。なぜ基準年が2005年という10年前のもので良いのか?その意味が分かりません。

ということで、独日のGDP名目当たりの一次エネ投入量を、いろいろな為替パターンで計算してみましたので、ご覧下さい。また、人口あたりの一次エネもついでに計算しました。
日独のGDPあたりの一次エネ

ちなみに出典はこちら(なんでPDFとかこのブログには貼れないんだろう?):
日独のGDPあたりの一次エネ(出典)


まず「経済産業省」と「経済」と名のつく省庁であれば、日本の名目のGDPは、近年の円安&デフレでかなり目減りしてきていること、つまり世界的には価値の弱いものになってきていることに国民の注意を振り向ける必要があるのではないかと思います。というのも、2005年のGDPは以下のようでしたが、
http://ecodb.net/ranking/old/imf_ngdpd_2005.html

2014年のそれは、以下のような有り様です・・・中国には当然背中が見えないレベルまで追いぬかれたばかりか、日独の差がなくなりつつあります(日本はドイツの名目GDPの2005年は1.6倍だったのが、2014年は1.2倍)。
http://ecodb.net/ranking/imf_ngdpd.html

したがって、為替変動を含む名目GDPでの比較では、パターン1や2のところでも明らかなように、円が強力だった2012年はドイツのエネルギー効率を確かに1割ほど上まっていますが、円が通常に戻り、急激に安くなってゆく過程で、2013年(実績)、2014年(予測値含む)では大幅にエネ効率も悪化しています(2014年はドイツより3割も下回る)。

両国の生活実感として常識的だと思われる1ユーロ=125円で固定して計算してみると(パターン3)、2012年でもドイツより1割エネ効率が悪く、2014年は2割悪いという結果が出ました。

ということで、おそらく来年のエネ白書には、こうしたGDP対比でのエネ効率比較は姿を消すことになるでしょう。


どちらにしても、自国で天然資源を所有していない、かつ高付加価値の工業生産品を世界に売って、その稼いだ金で資源・原料を買う、という経済体制の日本のような国では、先のコストのところでも触れましたが、為替をどのように考えるか、今後の原料の単価をどのように想定するか、そして、エネ効率を上昇させ、省エネし、多様化し、変化を続けることの大切さを、しみじみ感じた一日となりました。


エネルギー白書2015を眺めて(その1)

日本のエネルギー白書2015年が公表されました。
http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2015pdf/

ということで、毎年のことですが、356分の1日を使って、全文を眺めてみました。

そして、そういえば「白書」の正確な定義ってなんだっけかな?と思いついて調べてみると、ブリタニカ国際大百科事典には「政府の活動分野ごとに、一般状況、活動、将来のあるべき状況とその実現方法などを明らかにした政府の公式文書」とあります。

ただし、全文を眺めた個人的な感想としては、

・「一般状況」については、世間一般や、世界の学術的な認識とズレがあるように感じました。また、アクチュアルではなく、時間的な時差もあり(自由自在に意図的に?)、(意図的な?)統計手法に首をかしげるところもありました。

・「活動報告」については、文字数は使っているもののキレがない。億円単位の予算を使ったのであれば、普通はもう少し、狙いと同時に成果についても知りたいですよね。

・ 「将来のあるべき状況とその実現方法」についてですが、行間には強く原子力再稼働を願う様子が綴られていたものの、例えば2050年にはどんな姿にしたいんですか、というような明確なものは感じられませんでした。その場、その場を見ながら、できるかぎり現状路線を維持して、なんとなく決めてゆこうという印象を受けました。

とまあ、いろいろ思うことはあったんですが、いくつかの「一般状況」について、ここでは論じてみたいと思います。


エネルギーコストへの対応(第一部第三章)

概要のレジュメプレゼン資料の中でも大きく取り上げられているのが、いわゆる「福島第一原子力大事故の影響で→原子力が思うように動かせず→火力を炊いたので化石燃料の輸入量が増加し→それによって貿易収支が悪化している」という聞き慣れた四段論法です。

そこでは、以下のような図が登場しています(本文70ページ)。

貿易収支の推移

ただし、細かく見てゆくと、その論法は誤りであることが分かります。

例えば、原油輸入量の推移(本文67ページ)を見ると、1990年〜2007年まで2.4億kl前後で推移してきた輸入量が、リーマン・ショックを契機に減少へ、その傾向は続き、2014年では1.9億klと10年前より2割低い数字で推移しています(2010年比で10%減!)

原油輸入量の推移


また、石炭輸入量の推移(70ページ)では、2004〜2010年までの1.85億トン前後の推移と比較しても、2014年はそれほど増加とは言えない1.88億トン(2010年比横ばい)
石炭輸入量の推移

唯一の増加はLNGだけですが、倍増したわけではありません。LNG輸入量の推移(68ページ)を見ると、2007〜2010年まで7000万トン前後で推移していたものが、傾向としては8000万代の後半へ増加、2014年の輸入量は8900万トンで25%程度の増加です(震災前の2010年比)。
LNG輸入量の推移


ということで、この貿易収支の悪化は、一部の増加であるLNGを除いて、完全には「化石燃料の輸入量が増大した」からとは言えないことが分かります。

で、本来政府の公式会見として、「一般状況」を国民に広く知らしめるのであれば、どちらかといえば、以下の3点を考察で述べても良さそうな感じですが、それに該当する明確な記述は見当たりません。

1.原油購入単価の上昇。輸入量は減少しているものの、2005年までは1リットル30円以下で輸入できていた石油が、2007〜2010年にはおおよそ50円前後に(08年のピークは考慮しない)、2011〜2014年には65円とじわじわと10年前の2倍以上になった(本文67ページ)。

2.LNG購入単価の急増。2006年まではCIF価格で4万円/トン以下のレベルで輸入していたLNGは、2007〜2010年には5万円前後に(08年ピークは考慮しない)、2011〜2014年には6万円から9万円に急上昇した(本文69ページ)。輸入量25%増加と単価の倍増近くの急騰のダブルパンチで2010年のLNG調達費3.5兆円→2014年7.8兆円となった。

3.上記の期間中、化石燃料の決済ではいまだに絶対的な米ドルとの為替レートは、2000〜2008年までは1米ドル=105〜125円で推移(なんとなく今の日米を見る限り、常人の常識の範囲内だと個人的には思える)。しかし、2009〜2013年までは1米ドル=80〜97円と記録的な円の強さを見せつけ、2014年には105円と再び常識的なレベルに戻る(2015年のこれまでの平均120円が心配ですが…)。

ということで、総括するなら、震災直後に円がここまで強くなかったら、おそらくやりくりできなかったほどのレベルの高さで、LNGを買わされた、あるいは買わざるを得なかったということでしょうね。

ただし、貿易収支2010年のプラス5.3兆円が、2014年にマイナス9.1兆円になった14.4兆円の悪化分のうち、化石燃料輸入の増大分7兆円分を、ただ単純に「最大の要因は、化石燃料の輸入」と締めくくることには違和感があります。

なぜなら、化石燃料価格が上昇傾向にあること、将来的にも、いつでも、急上昇もありえることは、かなり前から分かっていたことであり、とりわけ化石をほぼ100%輸入に頼る日本では、過去に世界で最も強い影響を受けたオイルショックのトラウマから、これまでの過去のエネルギー白書でも、さんざんこの問題を提議していたからです。

それゆえ、太陽熱利用やPV発電の推進、トップランナーに代表される先進的な省エネ施策など、過去には世界的にも先進的なエネルギー政策を展開してきましたし、また「多様化と進化(変化)」を続けてゆくべきだと論じられていました。

また、震災後の化石燃料調達費の急増ショックの予行練習として、2008年の「世界的全化石燃料価格の急騰」という出来事もありました。これで、2007年にプラス10.2兆円あった貿易収支は、マイナス0.8兆円まで11兆円分がぶっ飛んだ経験をしています。

そうした背景があるなら、なおさら、過去のエネ白書で自らが述べていたように「何か一つの産地やエネルギー源に集中する、かける、こだわる」というのはタブーな政策だったわけですが、それでも2008年に公表された「長期エネルギー需給見通し」では、既定路線は変更しないで、原子力発電の大々的な拡張という1つの柱にかける、こだわるという愚策を経済産業省が主導で進めました。

そして、その賭けは見事に裏目に出た。

この反省こそが、震災から一段落した今年のエネルギー白書には必要であり、だからこそ、今後どのように「多様化、進化(変化)」してゆくのか議論を尽くすべきで、「原発を除き、できる限り前提を変えない」という2008年に逆戻りした感のある、このエネ白書2015は納得が行かないものでした。

※震災後のエネ白書では「反省」として、原発の安全対策に多くのスペースが使われました。しかし、そろそろ、この本質的なところでの「反省」と、そこからの「学び」が示されるとべきであろうと個人的には考えています。

ギリシャ問題

環境とは関係がありませんが、ちょっと考えたことがあるので、ブログに記します。

専門ではないので、多少の間違いがあるかもしれませんが、今のところ、ギリシャは以下の様な負債を追っていると報道されています。

ESFSから1310億ユーロ
ECBのTarget兇ら420億ユーロ
ECBのSMPから200億ユーロ
IWFから180億ユーロ
その他 1020億ユーロ

合計 3130億ユーロ(≒40兆円)

http://www.welt.de/wirtschaft/article143351364/Das-ist-nur-noch-absurd-Der-Mann-ueberfordert-mich.html?wtrid=socialmedia.socialflow....socialflow_twitter



最悪、ギリシャが破綻した場合、ドイツ国民が税金で負担しなければならない金額は、EFSFの420億ユーロを筆頭に、合計800億ユーロ(≒10兆円)程度になると言われています。

これが多いか少ないか。ちょっと数字あそびをしてみましょう。


ドイツは欧州金融危機以来、弱いユーロを背景に輸出量を伸ばし(それだけが理由ではもちろんないですが)、国内の経済は戦後の高度成長期以来の好景気に湧いており、欧州最低の低失業率や新規国債発行なしの財政規律を謳歌しています。

この弱いユーロを演出したもっとも典型的な国がギリシャと言えます。

もし、こうしたユーロ共通通貨がなく、ドイツがマルクを維持していたら、マルクは当然強くなり、ここまで輸出が伸びなかったことでしょうし、経済も今のレベルを謳歌しているとは思えません。

想像して下さい。日本で首都圏だけで東京円を作ったら、当然その通貨は現在の日本全体を平均した円よりも強くなるでしょう(ドイツ・マルクに該当)。また、東北・北海道円という独立の通貨があれば、それは現在の日本全体を平均した円よりも弱くなるでしょう(もちろんギリシャのドラクマよりは強いでしょうが)。

しかし、東北・北海道円は、自地域圏の通貨が切り下げられる、つまり安価な通貨(=安価な労働力、資源など)を背景にしたとき、東京円の地域よりも、往々の経済分野で競争力を持つことになります。東京円は自地域通貨が割高なので、さらなる生産性の向上を果たさないことには、地域内の経済、景気は衰退することになります。つまり、そのことによって、東北・北海道円は若干強くなり、東京円は弱くなり…と、もし東京と東北がまったく同一の生産性を誇るのであれば、時間の経過とともに、通貨は収束し、均等に経済的な恩恵は受けられることになります(そうならないのが経済ですが)。

しかし、ユーロを使用している以上(あるいは日本全体で平均的な円を使用している以上)、どう考えても生産性がドイツに叶わないギリシャは、自国通貨を切り下げることができず、早かれ遅かれ、負債に追われることになるでしょうし、ユーロを切り上げる必要のないドイツは、経済的な果実を常に得る体制が固定化することになります。

しかし、一国の範囲内では、例えば、日本国内では、通常、地方交付金など税金の配分で、そうした自国地域の通貨を切り下げできない地域の経済やインフラ、市民生活のレベルを向上させることを当たり前としていますので、(もちろん生産人口の首都圏への集中など、地域格差は残るものの)、その配分がある程度機能している限り、その配分の規模に見合った形で、それは大きな問題にはなりません。

ここで話を難しくしているのは、ユーロの統一貨幣圏内でもEU予算によって、かなりの財源を地方交付金のような形で分配しているものの、ユーロ統一通貨から10年ぐらいで、その分配の規模感が足りないことが明らかになり、今のような問題が固定化されてしまっていることです。これが問題の本質だと思います。


ドイツの報道を見ていて、このへんに言及するコメントがあまりないこと、そしてあまりにも上記の10兆円の負担というポイントにだけ、そしてユーロという通貨圏の経済にだけ言及しているのは、片手落ちのような気がしています。

数字あそびを続けます。

国民の1人が職にありつけず、税金で社会福祉費用の手当を受ける場合、例えば国の負担が250万円/年ぐらい発生するとします。しかし、その人が職にありつけると、その250万円を国は支払う必要がないばかりか、その1人が労働することで発生・波及する経済効果を、納税や企業の業績上昇における事業税収入、そして波及的に広がった際のその他の便益として得ることができます。例えばこれを150万円程度のプラスだとみなしてみましょう。

ある瞬間に、景気が良くて職があるか、それともないのかで、1人あたり400万円/年の国の負担が軽減されたと単純化して考えます。10兆円÷400万円=250万人分ですね。もし過去5年間、そうした状況が続いたなら、250万人÷5年=50万人分に該当します。

ドイツの失業者数の推移を見ると、経済状況が悪かった2005年は480万人と過去最高だったのが、2010年には320万人に、そして2015年の現在は280万人前後で推移しています(今では数百万人規模の求人があるので、どちらかというと労働力の不足が言われています)。
https://de.wikipedia.org/wiki/Arbeitslosenstatistik#Deutschland

もちろん、ドイツの好景気のどれぐらいの割合を、ギリシャの恩恵と考えるか、それには多様な意見があるかと思います。

ただし、ドイツが負担することになる10兆円は、それほど高いわけではないと思わざるを得ない私がいます。
短期的に考えると今回、もしギリシャ国民は疲弊し、かなりの悲劇が発生するかと思いますが、中期的には、ドイツなどの欧州北部と生産性が違いすぎるギリシャは、自国通貨を持たない以上は、年金制度や公務員制度、納税制度などの小手先の歳出削減では、未来がないように思われます。

あるいは借金を定期的に棒引きするか、地方交付金のような形で配分するかですね。

ドイツのリザーブ用のガスタービン発電所と石炭・褐炭について

5月初頭にFBで議論した内容を、加筆・修正してこちらのブログでもUPすることにしました。


4月28日にデュッセルドルフ高裁は、電力大手が、(電力取引市場が過剰供給のため下落し)採算の取れなくなったガスタービン発電所の閉鎖を求めている問題について(連邦ネットワーク庁はリザーブ発電出力確保のため許可していない)、そうしたリザーブ火力のための助成措置(燃料費の支給など)だけでは足りず、それ以上の数百万ユーロ規模の助成措置を与えるべきだとの判決を出しました。

もちろんメルケル政権は、こうした判決を受けると、その財源については、一般財源からではなく、大好きな電力料金へのさらなるサーチャージを最優先で検討することになると思います。

そもそも基本的には、こうした事柄が裁判になる事自体が、メルケル政権の計画性なき怠慢、問題だと私はみなしています。

ドイツ政府、ならびにEUでは、政策的にも、法的にも、規制でも、(民意を受けて)再生可能エネルギー発電を過去15年間にわたって促進してきたわけですから(そして今ではグロスの国内電力総消費量の3割も発電するようになった!)、同時に、その3割分、電力の浪費でも促さない限り、その増加分をどこかで減らす措置が必要です。でないと当たり前の話ですが、電力市場は過剰供給にあえぐことになります。
 
しかし、政府は(既存の大型発電所を所有する電力大手や大型産業のロビーを受けて)、こうした発電所については、従来型の助成措置の継続(→とりわけ国内産の褐炭と原子力)、大量の無償枠提供により温室効果ガス排出量取引の形骸化(→褐炭と石炭)などの政策によって、一部では(福島第一原発大災害の影響で)脱原発2022年というシナリオは作り上げたものの、基本的にはメスを入れることをしてきませんでした。

こうした裁判について、保守系メディアなどでは、「再エネ電力が一方的に増加し、電力取引市場が過剰供給のため下落したため、高効率であるはずのガスタービン発電の採算性は悪化、それは再エネの推進にこそ責任がある」というような論調が見られます。同じ保守系のメディアは、過去には再エネの推進で電力不足が表面化し、ブラックアウトの危機が高まると言っていた時代もありましたが・・・
 
しかし、そもそも再エネを増加させることを目的にした政策を目標値を決め、ロードマップを描き、過去15年間大多数の民意の支持と共に行なってきたわけで、過剰供給で市場が機能しなくなる前に、過去にはいわゆる「ベース電源」と呼ばれた、老朽化の激しい、再エネに連動して機敏な出力制御のできない、また市場においては発電設備の原価償却が終了して、CO2排出量取引の単価が暴落しているため、不当に安価に提供され、天然ガス発電・コジェネ発電を市場から追いやっている、褐炭火力、そして追加で原子力を、再エネの増加具合と同量、「順次・継続的」に減少させてゆかなければならなかったわけです。

ドイツでは、本来はこうした問題が2011〜12年頃には大きく表面化したはずなのですが、福島第一原発大災害の影響で、直後に古いタイプの原発を一気に8基止めたので、(過剰供給が一度は沈静化し→日本ではドイツはフランスの電源に依存しているというチンプンカンプンな論調がメディアに載りましたが・・・)、2014年までこうした問題が先延ばしされました。


今回のようにこうした問題が生じる度に、財源捻出のための特殊な法律を作ったり、助成措置の上塗りをするのではなく、社会から不必要な技術を取り除くことで、市場や競争が再び正常化するように、つまり、電力大手への遠慮で2022年までとは言いながら、その直前の数年間に廃炉が一気に重なるような脱原発の行程表の見直しをするのか、新しい規制などで褐炭火力を順次閉鎖させるのか、排出量取引の単価を上昇させるのか、これらの政策のうちのいくつかを実施する必要があります。

ドイツの電力供給においては、すでに(ガスのそうしたリザーブが大量にあるため)使い古された褐炭火力は不要です。ガスタービンの発電施設だけではなく、産業や地域熱供給用のガス・コジェネなども動いていないものが最近は多くなりました。

そりゃ、再エネで3割近く発電しておいて、古い褐炭・原子力を止めないので、電気余り過ぎです。


最後に、面白いコラムを見つけたので、この内容の数字をいくつか紹介しましょう。再エネ専門誌「Neue Enegie」の2015年4月号に掲載されたもので、著者はフォルカー・クヴァシニンク教授(ベルリン技術・経済大学HTW、再エネシステム学部)です。

・ドイツの石炭・褐炭の、主に発電用途への利用の影響によって、統計学的には、欧州で毎年3100人の死者が発生している(シュトゥットガルト工科大研究)。

・過去数十年間で、ドイツでは10万人以上の市民が故郷、居所を追われ、その農村、街は消滅した(褐炭の露天掘りのための強制徴収手続きによって)。

・ドイツの1つの褐炭発電所(Jaenschwalde)では、2014年の1年間で褐炭の燃焼によって、約505キログラムの水銀が大気中に放出された。これは、蛍光灯型電球2億個(!)が、不正に廃棄された際の環境汚染規模と同じである。

・バイエルン州では自宅から徒歩で20分以上もかかる距離に、風力発電が建設される予定であることを知れば、多くの村民が反対デモや市民組織を作成して運動を活発に行うが、ブランデンブルク州やノルトライン・ヴェストファーレン州において数千人の村民が故郷を追われ、その場所が200m以上の深さのクレーターとなっても、関心を示さない。

・ほとんどの褐炭・石炭火力発電所に出資・運営する企業には、保守政党・中道左派政党の引退した政治家が、天下り採用で社会取締役に任命され、給与を受けている。

・ドイツのCO2排出量の4割は、褐炭・石炭に起因する。

・ドイツ環境庁は1トンの温室効果ガスが環境に負荷を与える被害額は、およそ70ユーロと試算している。

・ドイツの褐炭・石炭発電所から毎年発生しているCO2に、上記の数字をかけると、環境影響被害額は毎年200億ユーロ(2.6兆円)になる。これをもし、電力料金のサーチャージとして徴収するとしたら、1kWhの電力料金あたり10セントを支払わなければならないが、このお金は、将来の子どもたちの世代に付け回され、実際には今の電気を享受している人びとが支払うことはない。

・ほとんどの褐炭・石炭火力発電所に出資・運営する企業には、保守政党・中道左派政党の引退した大物政治家が、数えきれないほど天下り採用で会社取締役に任命され、多額の給与を得ている。

・現在のドイツの褐炭産業には2万人超の雇用があり、これは強力なロビーで、かつ選挙の際には高い集票能力を持つ。これを守るために、2012年以降、ドイツでは太陽光発電の推進をストップさせる法改正が矢継ぎ早に連発され、最盛期と比較すると、今では合計6万人の太陽光発電産業での雇用が失われた(・・・と同時に政府の現在の目標値である毎年2.5GWの太陽光発電の設置スピードが、2014年には1.6GWまで減少し、2015年はそれを下回ると予想されており、目標値に到達することは容易でない状況となった)。
 
・「褐炭・石炭」と「再エネ」を両立させる将来、というシナリオは存在しない。石炭か、再エネか、という1つの選択肢しか私たちには与えられていない。
 


Twitter プロフィール
ドイツ在住の環境分野のジャーナリスト、村上敦です。2012年秋に本を出しました。『キロワットアワー・イズ・マネー』。よろしくお願いします。http://t.co/0ojypWDT
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