最近、テレビやWEB、新聞、ラジオからなどの問い合わせが多いのですが、その理由はひとえにドイツ政府が脱原発政策を採択したというニュースを受けてのものだと考えられます。

その際に、勉強不足のメディアの方々は、私に対する質問をこう唱えています:

「ドイツ政府は脱原発を決めましたが、それに対する市民の反応はどうですか?」

この質問には誤りが1点、そして間抜けすぎて笑えないポイントが1点あります。

1.ドイツ政府は、2000年に電力事業者との協議の末、契約書を交わし、その後、2002年には原子力法を改正する形で、すでに脱原発を決めています。このときの脱原発期限は2021〜23年。この時間的に開きがあるのは、原子力法では、稼動している原発の残り発電を許可する量を取り決めたので、原発の稼働率によって廃炉される日時が前後するからです。ということで、脱原発の採択は、今から10年以上前に決まっており、今の政府が脱原発を決めたというのは誤りです。

ややこしいのは、その後、2009年の総選挙で過半数を獲得した保保連立政権がこの原子力法を、2010年12月に改正したためです。

メルケル首相とキリスト教民主同盟(保守)は、その前の選挙では、保保で過半数を獲得できなかったことから、社会民主党との大連立で政権を立ち上げました。このとき、社会民主党との連立政権の契約書には「原子力法には触れない」という一項がありました。しかし、このキリスト教民主同盟は、4大電力事業者からロビー政治家や多大な政治献金を受け付けている政党ですから、脱原発期限の延長は、いわば悲願ともいえるものでした。

そして先述したとおり、2009年には保保連立になり、昨年の秋から冬にかけて、脱原発期限を平均12年間延長する原子力法の改正を行ったわけです。ということで、福島事故の当時のドイツであっても、2035年前後に脱原発という政策を保持しています。つまり、脱原発をしないとは全く言っていないわけですから、いまさら、脱原発を決めたというのは事実ではありません。

そして6月9日、国会に政府は原子力法の改正を含む関連法案を提出し、議論がはじめられましたが、その脱原発期限は2022年、つまり昨秋に自身で強行的に改正した原子力法を、その前の時点に決められていたものに戻したというのが正解です。こういうのをマッチポンプと言うのでしょうね。もちろん、全く同じに見られないように、多少の変化はつけていますが(1980年以前のものを即廃炉、2022年という年度を明記など)、まあ、脱原発期限が延長されたのは福島事故の影響で、わずか6ヶ月のみという惨状です。


2.ここでもう一つの誤りについて説明します。それは、質問としては、「ドイツ政府は脱原発を決めましたが、それに対する市民の反応はどうですか?」ではなく、「ドイツ市民は一刻も早い脱原発を訴え続け、その力に政府は屈服する形で脱原発期限の短縮を余儀なくされましたが、ドイツ政府の反応はどうですか?」であるべきなのです。

上述しましたとおり、メルケル首相を含め、保保連立政権は、4大電力事業者にかなり依存しているため、脱原発を少しでも延長したい意向を持っていました。選挙後にエネルギー戦略を策定する段階(2010年の上半期)では、ロビー政治家からは2050年だとか、新設はしないものの、使える限りは既存の原発を使用するという内容のコメントが数多く散見されました。それに対して、ドイツ国民は10〜30万人規模のデモなどを駆使し、メルケル政権にプレッシャーを与え続けます。最終的に、12年間の延長が決まりましたが、政権内でもこの弱腰の政策に批判がでるほど保保政権は足並みが乱れていたわけです(もちろん保守政権内にも脱原発の延長反対を唱える政治家は多数おりましたが、お金があまりないので政党内では強い影響力を持っていません)。

各種のアンケート調査によると、大まかに言ってドイツ国民は以下のように分類されていました(福島事故前):
・2022年前後より早く、できれば即刻にでも原発の停止を求める=30%
・2022年前後に脱原発=35%
・2022年よりも長く原発を利用=15%
・脱原発しない=10%
・分からない=10%
(以下の調査などを参考:2006〜2010年までの環境省が研究機関に依頼し、定期的に行っているアンケート調査、国営放送ARDとZDFがそれぞれ行ったアンケート調査)

つまり、福島事故の前であっても、遅くとも2022年前後に脱原発という主張の方が65%おり、とりわけ昨秋に脱原発期限を延長するとなったときからこの割合はおよそ7割超に達します。

メルケル首相は、メディアでは「アンケート首相」とも比喩されている人物で、通常の政策は、各種の世論調査の動向を見ながら、自身の主張も変化させるという人物ですが、昨秋の原子力法改正の際は、ロビーと世論の板ばさみになっており、なんだかかわいそうなくらいの感じがしました。その数年前に、社会民主党との大連立政権を率いたときの精悍さは、2009年の保保政権樹立以降、色あせてしまった感があります。

ちなみに福島事故直後のアンケート調査では、脱原発については:
・2035年(そのときの現行の原子力法)=14%
・2021年(その前の原子力法)=24%
・可能な限り迅速に=60%
・分からない=2%
(国営放送ARD、3月14日調査)

ということで、2022年前後よりも早くに脱原発を求める声が84%に上昇していることが分かります。ということで、8割以上の国民が求めて、なんとか最低ラインではあるものの、その通りになった政策について、「市民の反応はどうですか?」という間抜けな質問をしてしまう日本のメディア・・・それよりも、「いかに今のメルケル政権が福島事故によって傷ついたのか?」「14%の支持しかえられないような政策を採択したことの理由は?」ということのほうが、一般には興味深いと思います。というか、設問の仕方の常識でしょう。

とまあ、今後も繰り返し、同じ設問に答えなくとも良いようにという思いで、今のドイツの脱原発の事情についてここに記しておきました。