さて、すごく残念なんですが、メルケル率いるCDU/CSU党は、基本的に、これ以上の気候保護に邁進するつもりがないことを、決定的に、明確にしました。
http://www.tagesspiegel.de/wirtschaft/energiepolitik-koalition-laesst-gebaeudeenergiegesetz-scheitern/19594854.html


ゴリゴリ保守の立場からエネルギー政策を語るDena(ドイツエネルギー機関)まで残念がっている…
https://www.dena.de/newsroom/meldungen/2017/gescheitertes-gebaeudeenergiegesetz/


本来は、2017年の秋の総選挙前に、つまり夏休みが始まる前までに、これまでのドイツにおける建物の省エネ性能&再エネ性能を決める『省エネ法』『省エネ政令』『再エネ熱法』の3つの法律を取りまとめ、新しい法律として『建物エネルギー法』を決議し、施行する必要がありました。


これはEU指令(EPBD)による国内法を整備するもので、策定が急がれる背景には、2019年1月1日から公共建物については『ゼロエネルギー建物(超低エネルギー建物)』の新築が義務化されるからです(法律施行後に、はじめて2019年以降の公共建物の新築の構想をはじめられるわけなので、時間的な猶予が必要です)。ちなみに公共以外のすべての建物は2021年1月1日からゼロエネルギー建物が義務化されます。
http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/legis/pdf/02460002.pdf


国内法の整備では、そもそもの『ゼロエネルギー建物(超低エネルギー建物)』とは何ぞやという定義をする必要があります。

EU令では「建物に必要なゼロに近い、またはきわめて僅かな量のエネルギーは、その大部分を、オンサイト、または近隣で生産される再生可能エネルギーにより賄われるものとする」と記してあるだけなので、

★何をもって「きわめて僅かなエネルギー消費量」として、
★何をもって「それを可能とする建物の性能」とするのか、
各国ごとの気象条件や建物の仕様に置き換えて、それを定義する必要があるわけです。


そこで、このドイツにおいては、この新法『建物エネルギー法』を策定し、これまでによる政治的な議論と専門家・ステークホルダーの意見を含めた環境・建設・原子力安全省による草案では、現行の省エネ政令で示す最低限のミニマムスタンダードから45%省エネを厳格化した建物(KfW55)を『ゼロエネルギー建物』と定義づけることに取りまとめられており、

この内容については、各種のエネルギー関連、建築、不動産関連のステークホルダーも、驚くべきことに産業団体であるBDIですら一定の理解を示しており、素早くこれを法制化することで、投資行動や経済的な枠組みが確定されることが市場から望まれていました。
※フランクフルト、フライブルク、ハイデルベルクなどの省エネ建築の盛んな自治体ではすでに数年前からこの水準を自治体内の建築基準としていますから、それほど驚くべき技術水準ではありません。
 

しかし、連立パートナーの社会民主党、および環境・建設大臣のヘンドリクスによる交渉もむなしく、CDU/CSU党は「この基準では厳しすぎて経済性が担保できない」として、連立政権委員会でこれ以上の審議を続けることを拒否、この法案は一旦廃案となって、夏休み前に国会に提出される可能性は潰されました。


これによって秋の総選挙の後にこのテーマは再び議論されることになりますが(すぐにはこの法案に取り掛かることは困難であり、おそらく来年の夏休み前に再度、法案の提出が間に合うかどうか分からないタイミングとなりそう)、そもそも2019年1月1日からのEU令をドイツが順守することもほぼ絶望的になりました。


なにやってんだか…


先ほどのブログ記事では、2020年のドイツの温室効果ガスの排出量の削減目標の達成は絶望的と書きましたが、こうしたCDU/CSU党のサポタージュのため、その後の気候保護やエネルギーシフトの目標自体にも悲観的にならざるを得ません。


日本ではメルケルや政権党であるCDU/CSU党自体がエネルギーシフトを牽引しているという誤った(?)評価をする方もいるようなので、私個人の意見では「彼らが妨害しまくっているにも関わらず、市民と市場がそれをけん引している」ことを改めて強調したいと思います。
 

この辺の背景は、以下の私と同僚で行った訳書がお勧めです。メルケル自身、エネルギーシフトに関心はほどんとないのがよくわかります。
http://amzn.to/2nEm4Dw