再エネや電力事情について、ドイツの状況は日本語でもかなり多く出回るようになりましたが、その他の欧州の状況はそれほどでもないので、ちょっと新しいところを調べてみました。
2017年の発電量中の再エネ割合として、
太陽光発電の割合トップ5:
1.ルクセンブルク=11%
2.マルタ = 9%
2.イタリア = 9%
4.ギリシア = 7%
5.ドイツ = 6%
そのあとにはスペイン、キプロスが5%と続きます。日射量からして当たり前のようにも思いますが、ギリシアとか皆さんノーマークじゃなかったですか?
風力発電の割合トップ5:
1.デンマーク =50%
2.リトアニア =35%
3.アイルランド =26%
4.ポルトガル =22%
5.スペイン =18%
そのあとには、ドイツが16%、イギリスが15%で続きます。アイルランドとか、皆さんここまで風力を進めているって知っていましたか?
バイオマス発電の割合トップ5:
1.デンマーク =21%
2.フィンランド =17%
3.リトアニア =13%
4.ラトヴィア =10%
4.ルクセンブルク=10%
このあとには、イタリア、イギリスが9%で続きます。バルト三国の健闘が目立っています。また通常の欧州の国々であると、その育成量からしてバイオマスを発電に使用できる割合は6~8%ぐらいが限度であると言えそうです。
そして、再エネの推進というよりは、そもそも伝統的に地形と気象の上で恵まれている国となりますが、水力発電のトップ5:
1.マルタ =74%
2.オーストリア =58%
3.ラトヴィア =49%
4.クロアチア =44%
5.スウェーデン =39%
EUという枠を外せば、アイスランド、ノルウェー、スイスなども入ってきますし、その年の降水量でこの数字は大きく変動しますが、まあ、こんなところかという感じですよね。
ということで、2017年のEUを取りまとめると以下のような姿になっています。
1.水力含む再エネ=30.0%
うち、風力11.2%、水力9.1%、バイオマス6.0%、ソーラー3.7%
2.原子力 =25.6%
3.褐炭・石炭 =20.6%
4.天然ガス =19.7%
5.その他化石など= 4.1%
詳しくは以下のレポートをご覧ください(英語です)。
https://www.agora-energiewende.de/en/topics/-agothem-/Produkt/produkt/482/The+European+Power+Sector+in+2017/
2017年からは屋根乗せも含めた750kWを超えるすべての太陽光発電(ただし10MW以上は適用外)の入札になってから2回目の入札です。
200MWの入札容量に対して、応札したのは646MWと入札が始まった初回を除く、過去最高の混雑ぶりです。
落札した32件のプロジェクトの平均落札価格は、なんと
5.66セント/kWh(約7円)!
とこれまでで最も低い金額となりました。
明らかに一般的な火力、原子力、そして風力発電よりも中型、大型の太陽光発電(巨大規模を除く)が安価になったという記念すべきポイントです。
ちなみに2017年5月に行われた第一回目の陸上風力の入札では平均落札価格が5.71セント/kWhと太陽光とデッドヒートを繰り広げています。変動性再エネ(VRE)の価格優位性にはもはや敵なしの状態です(もちろん、電力システムの柔軟性の向上が大前提ですが)。
PV入札の落札後は発電開始最終期限が2年後まで、落札から発電開始が1.5年を超えると罰則があります。
ということで、村上インデックス(これまでのFIT/FIPでの買取価格と削減率をもし継続していたら、入札から1.5年後の発電開始までにいくらになったのか?)と比較して、入札制度の導入後、2年を経過して、はじめてそれを下回る価格が実現されました。
これによって一方では入札制度には一定の価格低下の促進効果があることが証明されましたが、
他方では、ここまで入札容量を絞っての実現ですから、なかなか厳しいものがあるなという印象です。
(政府目標の年間PV設置量2.5GWには過去3年間の設置量は1.5GW前後と全く到達していない…入札容量を倍増しないことには話が始まりません)
また、落札者はいつものように大手資本、大企業が多数派であり、再エネ推進のステークホルダーの多様性(とりわけ市民エネ組合の没落…)という観点では、相変わらず貧しい状態が続けられています。
https://www.bundesnetzagentur.de/DE/Sachgebiete/ElektrizitaetundGas/Unternehmen_Institutionen/ErneuerbareEnergien/Ausschreibungen/Solaranlagen/Gebotstermin_01_06_2017/gebotstermin_01_06_2017_node.html
電力需給の見える化サイト:
https://wellnesthome.jp/energy/
意図、背景説明のブログ:
http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/archives/52006449.html
すでに数千人の方が、全国それぞれの電力会社で、春夏秋冬で、どんな電力供給の姿になっているのか、確認されているようで、嬉しく思います。こうした方々が、数万人、数十万人になってゆき、多様な議論ができてくると、日本の将来の電源MIXに関する議論がより高い次元で進むのではないかと思っています。
さて、こうしたサイトをオープンして、見える化がはじまると、どんな考え方が生まれてくるのでしょうか?
ドイツをはじめとする欧州では一般的になっている新しい考え方について説明しましょう。
1.まずは変動性再エネ(太陽光と風力)の破壊力に驚くことになります。日本では2016年末までに、累積でドイツを追い越す43GWの太陽光発電を設置しましたが、とりわけ九州、四国に偏っているので、該当する電力会社の需給調整は、まだまだ変動性再エネの1年間を通じた発電「量」自体は大したことがないのに、なかなか大変な状況になってきています。
2.ただし、この太陽光と風力の優れているところは、(日本ではいまだに割高ですが)世界的にもっとも安価な電源になりつつあり、最大の利点は、分散型で、燃料を必要としないところです。
3.また、太陽光と風力は、多くのケースで、お互いに補完し合う関係にあることに気が付きます(晴天→風なし、荒天で風あり→太陽なし)。
4.そのため、ドイツなどの一般的な再エネ先進国では、電力システムにおける基幹電源を、この太陽光と風力に据えることにしています(両者の原則優先給電のルールなど)。
5.え、この両者はお天気任せなんで、基幹電源に向かないって?
でも、電力需要のほうも見てください。これだって、常に安定しているわけではなく、時間帯ごとに刻々と必要量が変化し、とりわけ同じ平日でも、温かい日と寒い日では、需要量が全く異なっていることにも気がつきますよね。
そう、皆さんが今、お部屋で電気をつけるのも消すのも、テレビをつけるのも、テレビを消すのも、お天気任せと同じぐらい、個々人の気分と行動任せなんです。
それにもかかわらず、例えば、皆さんが100人の友人と示し合わせて(電力会社には何も言わないで)、一斉にテレビを消しても電力システムはブラックアウトすることはないですよね?
電力システムは多くの一般の皆さんが思い込んでいるほど、度量の狭い敏感なシステムではありませんし(であれば、すでに1890年頃から欧州に広く出現していないでしょう)、そのために同期運転で周波数を整えるなどの予備力によって保険をかけ、そしてお天気予報の確度を高めて、電力需要を(過去の経験を生かして)常に予測しながら、水力・火力発電所の運転計画を立て、随時、出力を変動させたりしているわけです。
6.ということで、再エネ推進の第二段階になると、この不確定要素の高い事柄の2つである「電力需要」と「変動性再エネ」を組み合わせることを行います。
つまり、予測される電力需要から、予測される変動性再エネを差し引いたものを「残余需要」という概念にして、この残余需要を、残りの手段(×バックアップ、〇柔軟化対策=後述)で、どのように調整してゆくのか、考えることになります。
https://www.next-kraftwerke.de/wissen/strommarkt/residuallast
7.例えば、この見える化のサイトで、四国電力の2016年7月1日から1週間のデータを見てください。
系統連系をガンガン使って(関西電力に電気を送り)、需給バランスを調整している(電気が不足しがちな関電を助けている)努力がうかがえますよね。
この時点では、四国電力管内における太陽光発電の設置量が、1.5GW出力以下でした(年末までに1.9GW設置)。ただし、2017年現在、FITの申請で認定が出ている太陽光発電の量は、すでに2.9GW出力もあります。
もしも、この2.9GW出力が実際に作られてしまったら(累積で4.7GW)、夏場の多くの日中の時間帯で、太陽光発電だけで、四国電力の電力需要のほとんどを瞬間的には賄ってしまいます。
ですから、系統連系容量、揚水発電の容量をすべて使いきってしまっても、需給調整はかなり大変になることが予想されます。
それでは、太陽光発電はもう必要ないのでしょうか?
8.はい、一方では、電力システムが後述するような柔軟化されていない段階では、さすがにここまで太陽光発電だけを推進するのは効率が悪いでしょう。
電力システムのバランスを考慮して、より一層「風力発電」の推進をすることのほうが得策でしょうね。
しかし、他方では例えばすでに四国電力が新規では取りやめをしているように「安価な深夜電力」という料金制度を廃止する必要があります。
http://www.yonden.co.jp/kouri/menu/kojin/code_57.html
すでに日本中で普及している電気式給湯器(電気温水器とエコキュート)を深夜にお湯を沸かすのではなく、太陽光発電や風力発電で大量の電力が作られているタイミングを狙って動かすことは、非常に有効な「柔軟化対策」になります。
9.そして、こうした「残余需要」を調整するための「柔軟化対策」とは、エコキュートの運用方法を変えるだけではありません。
・大型のロジスティック倉庫などで利用される大型冷凍・冷蔵設備のDSMなど電力消費の大量な産業と連携しても良いでしょう(ドイツのインダストリー4.0にはこの視点が大きく含まれます)
・水力・火力・揚水などの既存発電源をより柔軟に扱えるようにしてもよいでしょう
・天気予報の精度を高め、電力システムに統合することも重要です
・電力市場の取引をもっと活性化してゆくと、需給調整の厳しくなる時に電力価格は高騰したり、急減したりといったスパイクを示すようになります。ですから、そこで利益を得られるのを目的に需要を作ったり、供給を抱えたりといったプレイヤーの進出を促すのも一手です(ドイツでは、こうしたアグリゲーター、パワートレーダーが仮想発電所VPPを運営するようになっています)
・電力系統の強化とより柔軟的な活用も非常に大切です
などなど。
もし、こうした考え方で電力システムを、変動性再エネと統合してゆくなら、「硬直的な運用しかできない、いわゆるベースロード電源」というのは、障害にしかなりません。
そうです、太陽光発電が尖って飛び出しているように見えるのは、柔軟性のない電源がまだシステムに存在していることの証明で、柔軟性を上げてゆくと、以下のドイツのようなシステムに徐々になってゆきます。
https://www.agora-energiewende.de/de/themen/-agothem-/Produkt/produkt/76/Agorameter/
10.例えば、すでに一定の太陽光発電が過去5年間で普及してしまった四国電力においては、原発を再稼働することで、得られる電力システムにおける社会的な便益はかなり小さそうだ、とことに気がつきます(電力事業者としての短期的な金銭的な利益はあるのでしょうが、電力システムを取り囲む社会的な有用性はすでに小さいだろう)。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170721/k10011067721000.html
同時に、FITを利用して年中同じ出力で発電を続ける稼働を前提とした大型木質バイオマス発電も単なる障害にしかならないでしょう。
三浦さまの7/14の投稿:
https://www.facebook.com/shuichi.miura.5
11.ということで、長くなりました。
この見える化のサイトは、2017年4~6月のデータが公表されたら、アップデートを行うのですが、その時に、表示されるグラフを「これまでの考え方→発電所の運用で設備利用率の高いものからの積み上げ式」と「新しい考え方→残余需要方式」を選択できたりするように配慮したいと思います。
お楽しみに。
追伸です。
12.太陽光発電にしても、風力発電にしても、1か所であまり巨大なものを設置したり、一つの場所に集中させてしまうと、電力システムは硬くなります。
せっかくの分散型(=発電量もすべてが一斉に偏るわけではない)の特性が台無しになるからです(柔軟化対策の規模だけではなく、その対応のスピードも必要以上の速度が必要になってしまいます)。
ですから、日本で散見されるように10MW出力を大きく超えるような大規模な太陽光発電は、柔軟な電力システムを目指すなら、推進するべきではないでしょうね。
とくに電力消費者の負担(賦課金)で運営されているFIT(再エネ電力の固定価格買取制度)では推進する意義がないと、欧州の知見は教えてくれます(例:ドイツのFITでは当初5MW出力を買取価格の上限に設定していました。途中、各種の発電源によって上限を取り除いたり、強化したりしていますが、太陽光発電では10MW出力のものは適用外に落ち着いています)。
私の住むドイツの発電所を運営してる事業者は、電力取引市場の公正を担保するために、前日までには自身の発電所の発電計画を市場参加者に透明性高く報告しなければなりません。また、取引市場では、翌日の太陽光発電、風力発電の予測状況を公開することで、市場取引参加者に共通の透明性高い情報公開を担保し、インサイダー取引など公正取引を阻害する事柄を取り除く努力がなされています。
同時に、計画に対して、実質の発電状況もリアルタイムで公開されています。そんな各種の情報から、例えばソーラーエネルギーシステム研究では欧州最大規模のフラウンホーファー研究所ISE(ソーラーエネルギーシステム研究所)、あるいはドイツで最大規模のエネルギーシフトに関するシンクタンク、アゴラエネルギーヴェンデなどが、一般市民に向けて、広く、見やすい情報提供をすることで、電力事業にかかわる情報の公開の一翼を担っています。
エネジーチャート:
https://www.energy-charts.de/power.htm?source=all-sources&week=28&year=2017
アゴラメーター:
https://www.agora-energiewende.de/en/topics/-agothem-/Produkt/produkt/76/Agorameter/
皆さんは、そんなドイツの情報を耳にすると、それに引き換え日本ではまったく電力の情報公開が行われていない、「けしからん!」と思ってはいないでしょうか?
はい、もちろん、ドイツのように日本ではリアルタイムの情報や各種の発電所一つ一つの情報については、まだ情報公開されていません。したがって、その批判は一方では当たっています。
しかし、他方では、すでに2016年4月1日から、すべての一般電気事業者(大手電力10社)においては、四半期ごとに(公表は数か月遅れですが…)、1時間ごとの各種の発電源の発電状況、揚水水力の使用状況、あるいは系統連携の使用状況などを情報公開する義務が課され、そのデータについてはネット上に公開されるようになっているんです。つまり、皆さんの手に届く範囲で、これまで歴史上入手不可能だった情報が、すでに十分に手に入るようになっているんですね。
ただし、残念ながら、この情報は単なる数字の羅列として公表されており、なかなか普通の人では理解できない状況が続けられていました。私個人としては、2017年3月に至るまで、そのうち再エネのステークホルダーや経産省、あるいは環境省などが見える化をするようになるに違いない、と考えていました。しかし、この春になっても、すでに2016年4月1日から2017年3月31日までの1年分の情報が公開されるようになっても、「見える化」は行われることがありませんでした。
したがって、私たちは、建物の燃費性能の「見える化」では、すでに実績がある「一社日本エネルギーパス協会」と提携し、同時に、この事業のスポンサーとして、建物のエネルギー性能を見える化することでうまく他社と自身の建築の省エネ性能の差別化をしている「㈱ウェルネストホーム」に依頼をする形で、日本ではじめてと自負している電力の見える化を実現することが可能となりました。
https://wellnesthome.jp/energy/
本当にこの見える化ツール、優れものなので、皆さん、是非、このリンクをシェア、転送、コピーして世の中に広めてあげてください!
例えば、日本では2016年4月から2017年3月までの1年間においては、電力需要に対して、系統に流れ込んだ再エネ(自家消費分と揚水水力は含まない、水力、地熱、バイオマス、太陽光、風力の合計)は、13.8%になっています。多いと思いますか? それとも少ない?
数年前までは日本の発電では、水力9%とその他の再エネ2%程度の合計でおよそ11%だったのですが、2017年7月の今の時点では再エネの割合は16%程度まで成長しています(2017年の予測値、自家消費分なども含む)。過去5年間で5%も上昇しているわけですから、政府が2030年に目標としている22~24%(あと6~8%の上昇)という目標は、低いような気がしませんか?
しかし、上記の見える化のツールを使って、2016年5月4日の九州電力の電力需給状況を確認してみてください。この日は、GWによって会社はお休み。電力の需要が低いタイミングで快晴だったので、午前11時には太陽光発電だけで61%以上の電力を発電するようになっていますし、その他の再エネを合計すると77%程度にまで発電するようになっています。九州電力では2016年4月から2017年3月までの1年間における太陽光発電の発電量割合は8.2%に過ぎませんが、瞬間的には61%を、もし2017年5月のデータが公表されてきたなら、それ以上の出力を発電するようなタイミングもできてしまうわけです。
九州電力はこうした状況に対して、太陽光発電の出力抑制をかけると公表しています。
http://www.kyuden.co.jp/press_h160721-1.html
そういった状況であれば、変動性再エネといわれる太陽光発電、風力発電はこれ以上必要ないのでしょうか? それとも、再エネを入れにくくしている一定出力で発電を続けるのみの柔軟性のない原子力発電や、最近申請や建設がラッシュの木質バイオマス発電が必要ないのでしょうか?
これらについては、回答をここで急いで出すつもりはありません。このテーマについては、国民的な議論が必要になるのです。
そんなきっかけになるべく、情報の見える化を整備しましたので、それぞれの電力事業者において、それぞれの時間帯、日時において、発電状況がどうなのか、電池といわれる揚水水力発電の使用状況はどうなのか、他社との系統連携がどうなのか、つぶさに観察してみてください。そして皆さんの周りの方と議論してみてください。
その先には、きっと、将来のエネルギーMIX、電源MIXについて、これまでよりも、より一段高いところからの「意見」が待っているはずです。
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各自治体の精力的な都市計画上の努力と市場によって、2016年の新築申請は32.9万戸までに上昇しました。
新築戸数が10年前の1.5~2倍近くに大きくなったことで、省エネ改修のスピードが低下し続けているのは(建築市場がこちらに労力を割けず)、別の大きな問題としてあるのですが…
ただし、住宅総数の4150万戸からみると、新築はまだまだ小さな割合でしかありませんし、今後もこの新築30万戸レベルが持続的に続けられるとはあまり考えられていません。
その最大の理由は、現在のドイツの人口増加の一番の理由となっている南欧州からの優秀な若者の移民という玉も、少子化が急速に進むギリシャやスペイン、ポルトガルなどではそもそも尽きようとしていますので、持ってあと10年というところ。
基本は、ストックの改修と価値を持ったままの中古住宅の流通が、今後も建築、不動産市場の中心です。
さて、今回は、これらの住宅におけるエネルギー源(主に給湯&暖房)について。
ドイツのストックにおいては、
・49.4%が天然ガス(その多くが潜熱回収型)
・26.3%がオイルボイラー(ドイツは灯油ではなく軽油)
・13.7%が地域熱供給
・6.1%がバイオマスなどその他(一部、ブリケットなど)
・2.7%が電気生炊き(別荘など年中使わないところ、他のエネルギー源確保が困難なところのみ残されている)
・1.8%がヒートポンプ(多くが地熱利用で電気式)
という形で熱源が使用されています(ここまで正確に統計が取られているのは素晴らしい!)。
ただし、2016年の新築においては、
・44.4%が天然ガス(すべて潜熱回収)
・23.8%が地域熱供給(凄いですね!)
・23.4%がヒートポンプ(地熱主体)
・5.3%がバイオマス(木質)
・0.9%が電気生炊き(別荘など)
・0.7%がオイルボイラー(軽油・潜熱改修)
・1.5%がその他
という形に変化しています。(ほぼ例外措置であるバイオマス、電気生炊きを除いて)、オイルボイラーは市場からほぼ消滅したことが分かります。
https://www.bdew.de/internet.nsf/id/DE_Heizkostenvergleich
基本的には、ドイツで2010年に策定されたエネルギーシフトのシナリオでは、熱セクターでは、熱消費の総量を迅速に減らし、再エネ由来の総量を上昇させることで、再エネ割合の持続的な上昇を目論んでいました。
ただし、すでに数年後には再エネ由来の要であるバイオマス資源量がこれ以上増大させられないことが露見し、(人口増加などの予定外もあって)熱消費量の総量についても、削減され続けてはいるものの、思うような削減スピードにはなっていません。
というところで2015年ごろから出てきたセクターカップリングのコンセプト(電力・熱・交通の3つのセクター)。
これは、
1)予想以上のスピードで上昇している電力セクターの再エネ由来電力を、高効率なヒートポンプで熱セクターで活用すること、そして、
2)地域熱供給をさらに強化し、ヒートセンターにおいて、パワートゥーヒート(余剰電力を熱として巨大な蓄熱タンクに溜める)や各種の大型再エネ熱源、あるいは天然ガスコジェネなどを電力と熱と一体で供給運用し、それをIoT、VPPなどでつなぐことで電力系統の運用を柔軟化して、上記の電力セクターにおける変動性再エネ割合増加による影響を受け止める
という形の取り組みが進められています。
※ただし、ドイツの全戸がヒートポンプになることはありえません。そうすると、そもそも厳寒期の電力需要がフランスや日本などの「オール電化」された社会のようにいびつなピークを表し、年間で平均的な需要を作り出せないことから、その分、設備利用率の低い多大な容量の電力系統やネットワーク、柔軟度を準備することになりますので。
ですから、まだまだ安価で、手軽な天然ガスボイラーを追い落とす勢いで、1)のヒートポンプと2)の地域熱供給が実際に急増しているのを確認できてよかったです。
ただし、民生家庭用はボリュームゾーンではないですから、これが大勢であるわけではないこともご理解ください(日本の方はこれを誤解されているケースが多いので)。あくまで民生業務、産業などの大規模設備・消費場所が主戦場です。
40歳前後からの男女差が大きく離れてゆくのにも驚きますが(男のほうが無能なのに…)、
男性の40歳で平均11万ユーロ(約1300万円)というのは良い線ですね。
http://www.faz.net/aktuell/beruf-chance/recht-und-gehalt/studium-vs-ausbildung-ab-wann-gleicht-sich-das-gehalt-an-14919170/infografik-14916665.html
とはいえ、再分配を強く取る社会のドイツでは、40%は所得税と社会福祉負担費で普通は持っていかれますので、手取りは800万円以下が通常でしょう。
日本式と大きく異なるのは、45歳を境にして給与の上昇が止まることではないでしょうか。
専門職の平均所得でも45歳がピークになるようです。
http://www.faz.net/aktuell/beruf-chance/recht-und-gehalt/studium-vs-ausbildung-ab-wann-gleicht-sich-das-gehalt-an-14919170/infografik-14916629.html
例外はなんでもあるでしょうが、平均して、客観的な能力(=報酬)から見ると、そのほうがまともな社会だと個人的に思います。
老害が若者を食いものにしている社会に未来はありませんから。
ドイツの都市計画の基礎の基礎「ショートウェイシティ」について説明し、そして交通対策でまちを活性化する方策について論じています。
まちを活かすには、日本でのコンパクトシティ、立地適正化計画のような面=線引きでの取り組みではなく(もちろん大型商業施設の再開発でもなく)、ドイツのように面を意識した上で個々の建物ごとのミクロでの取り組みを積み上げて行く必要があります。
この本で試みたことは、都市計画の方針と交通政策について、これまでのまちづくり本にはない切り口で、とりわけ小規模都市、人口少数の農村も念頭においたことです。また、ウーバーX的なるもの、完全自動運転車など新しいテーマについての論考も含めています。
最終的なタイトルは出版社が会議で決めたわけですが、私個人的に内容的に即したタイトルをつけるなら、
『ドイツにはコンパクトシティという言葉すらないのに、なぜまちがコンパクトにまとまり、活気があるのか? ~交通から考えるドイツのショートウェイシティ、移動距離の短いまち ~交通手段を変更して、地域において経済的な付加価値の創造を行う、すなわちkm=¥のコンセプトとは!』
というものです。
もしよろしければ、お読みいただけると幸いです!
ゴリゴリ保守の立場からエネルギー政策を語るDena(ドイツエネルギー機関)まで残念がっている…
https://www.dena.de/newsroom/meldungen/2017/gescheitertes-gebaeudeenergiegesetz/
本来は、2017年の秋の総選挙前に、つまり夏休みが始まる前までに、これまでのドイツにおける建物の省エネ性能&再エネ性能を決める『省エネ法』『省エネ政令』『再エネ熱法』の3つの法律を取りまとめ、新しい法律として『建物エネルギー法』を決議し、施行する必要がありました。
これはEU指令(EPBD)による国内法を整備するもので、策定が急がれる背景には、2019年1月1日から公共建物については『ゼロエネルギー建物(超低エネルギー建物)』の新築が義務化されるからです(法律施行後に、はじめて2019年以降の公共建物の新築の構想をはじめられるわけなので、時間的な猶予が必要です)。ちなみに公共以外のすべての建物は2021年1月1日からゼロエネルギー建物が義務化されます。
http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/legis/pdf/02460002.pdf
国内法の整備では、そもそもの『ゼロエネルギー建物(超低エネルギー建物)』とは何ぞやという定義をする必要があります。
EU令では「建物に必要なゼロに近い、またはきわめて僅かな量のエネルギーは、その大部分を、オンサイト、または近隣で生産される再生可能エネルギーにより賄われるものとする」と記してあるだけなので、
★何をもって「きわめて僅かなエネルギー消費量」として、
★何をもって「それを可能とする建物の性能」とするのか、
各国ごとの気象条件や建物の仕様に置き換えて、それを定義する必要があるわけです。
そこで、このドイツにおいては、この新法『建物エネルギー法』を策定し、これまでによる政治的な議論と専門家・ステークホルダーの意見を含めた環境・建設・原子力安全省による草案では、現行の省エネ政令で示す最低限のミニマムスタンダードから45%省エネを厳格化した建物(KfW55)を『ゼロエネルギー建物』と定義づけることに取りまとめられており、
この内容については、各種のエネルギー関連、建築、不動産関連のステークホルダーも、驚くべきことに産業団体であるBDIですら一定の理解を示しており、素早くこれを法制化することで、投資行動や経済的な枠組みが確定されることが市場から望まれていました。
※フランクフルト、フライブルク、ハイデルベルクなどの省エネ建築の盛んな自治体ではすでに数年前からこの水準を自治体内の建築基準としていますから、それほど驚くべき技術水準ではありません。
しかし、連立パートナーの社会民主党、および環境・建設大臣のヘンドリクスによる交渉もむなしく、CDU/CSU党は「この基準では厳しすぎて経済性が担保できない」として、連立政権委員会でこれ以上の審議を続けることを拒否、この法案は一旦廃案となって、夏休み前に国会に提出される可能性は潰されました。
これによって秋の総選挙の後にこのテーマは再び議論されることになりますが(すぐにはこの法案に取り掛かることは困難であり、おそらく来年の夏休み前に再度、法案の提出が間に合うかどうか分からないタイミングとなりそう)、そもそも2019年1月1日からのEU令をドイツが順守することもほぼ絶望的になりました。
なにやってんだか…
先ほどのブログ記事では、2020年のドイツの温室効果ガスの排出量の削減目標の達成は絶望的と書きましたが、こうしたCDU/CSU党のサポタージュのため、その後の気候保護やエネルギーシフトの目標自体にも悲観的にならざるを得ません。
日本ではメルケルや政権党であるCDU/CSU党自体がエネルギーシフトを牽引しているという誤った(?)評価をする方もいるようなので、私個人の意見では「彼らが妨害しまくっているにも関わらず、市民と市場がそれをけん引している」ことを改めて強調したいと思います。
この辺の背景は、以下の私と同僚で行った訳書がお勧めです。メルケル自身、エネルギーシフトに関心はほどんとないのがよくわかります。
http://amzn.to/2nEm4Dw
緑の党の委託によるarepoコンサルトのレポートも興味深いかと。
http://www.baerbel-hoehn.de/fileadmin/media/MdB/baerbelhoehn_de/www_baerbelhoehn_de/THG-Kurzstudie_2016.pdf
そして、AGBEのエネルギー統計でも2016年の詳細なものが上がってきています。
http://www.ag-energiebilanzen.de/22-0-Pressedienst.html
ということで、2016年のデータがぞろぞろと上がってきているので、少し総括してみましょう。
2010年にドイツ政府が打ち出した「エネルギーシフト」という試みは、
『現在、ここ5年間、統計上は停滞している(エネルギーセクター部門、業界の変化は、革命といえるほど劇的に進んでいるにもかかわらず…)』
と表現するのがぴったりなように思います。
2010年の時点で9.42億トンだったCO2排出量を2020年までに7.51億トンまでに削減するという意欲高い目標は、例外なしで、毎年2%ずつの削減を継続的に続けてゆかなくては達成できません。
しかし、2012年からドイツでは、
①経済活動が一大活性化(産業でも、製造でも、輸出でも、EUで1人勝ち)、
②交通(とりわけ貨物輸送)総量も増加、
③人口の増加(とりわけ南欧州から若者、高学歴層が大量流入)、
という社会背景によって、CO2排出量は削減の足踏み状態であり、2016年には9.06億トンと3年連続で前年並みにとどまりました。
これで2020年目標の達成がほぼ不可能であることが確定してしまいました(経済の崩壊でもない限り、人口が増加を続けているのに、今後4年間、毎年4%以上の削減というのは実現不可能です)。
もちろん、1990年の12.51億トンを持ちだせば、すでに2016年までに28%の削減を達成しているとも言えますが、これを可能にしたのは、旧東ドイツの非効率な経済体制を西ドイツの投資によって大改造したこと、加えて、日本と同じようにグローバル化によって低付加価値の工業製品の生産地が他国に流出したことによる恩恵の割合も大きいです。
しかし、エネルギー源の内訳を見ると、方向性としては、石炭・褐炭の消費量が減少し続け、天然ガスや再生可能エネルギーに置き換わってきているのも事実です。全然、悪くない方向の発展があります。
ただし、全体のパイがなかなか小さくならない。
日本のように人口が縮小し、毎年輸出を減らし、名目GDPもすり減らしているような国ならともかく、毎年記録的な好景気を続け、輸出も記録更新、財政も黒字になるなど、ありえない経済状況の現在のドイツでは、「総量」を表す統計だけを見ていると見落としてしまうものがあるのかもしれません。
しかし、新興国も同じように人口増、経済発展をしている上で、パリ協定では徐々に縛りをかけてゆこうとしているわけであり、ドイツだけが例外とするわけにもゆきません。
エネルギーセクターの中の世界は、毎年のように破壊的なイノヴェーションが生まれ、業界は激しく変化しています。
それらの成果が数年後に「総量」のほうにも、大きく影響してくるのでしょうか? その結論を出すのはまだ時期が早いのかも知れませんが、楽しみな未来ではあります。
そして同時に、メルケル率いるドイツ政府にはこの時点で、もう一度謙虚になっていただき(無理かなあ…)、
①再エネ発電の推進にブレーキをかけ続ける政策を直ちに取り止め(とりわけ市民発電に対するブレーキがひどい…)、
②これまでほとんど進まなかった電気自動車の大々的な普及促進と、HVさえ搭載していない通常のガソリン・ディーゼル車、とりわけ大型車に対するいよいよの阻害・罰則措置などの対策をして、アウトバーンにも面状に時速制限を設け、
③新築ばかりに労力が奪われている建築市場において、もう一度省エネ改修事業を2005~2010年の頃のように一大推進を支援する、
というエネルギーシフトの基本のキホンである3本柱を地道にサポートする政策を打ち出していただくことを期待したいと思います。
エネルギー政策については、世界の新興国のお手本でありえる工業国、大国は、ドイツしかないと思うので。
自分で書くよりも、電力の需給バランス、VPP、系統の柔軟化系のコンテンツについては、最近の環境ビジネスさんに掲載されている記事群が、ひと頃と比べると急成長して、有意義な記事が満載です。
稲垣さんナイス!
https://www.kankyo-business.jp/column/014483.php
西村さんもイイね!
https://www.kankyo-business.jp/column/014486.php
村谷氏のコラムは、村上が言い続けていることと重なりました(敬服)
https://www.kankyo-business.jp/column/014487.php
でも、以下のようなレベルの記事だった時代であると、情報格差が大きいので、村上の講演でも「スゲー!深ーい!」感を演出することは容易だったんですが、記事などでこうしたことが上がってくると、村上的にはちとやりにくい…
https://www.kankyo-business.jp/column/013208.php
この法律は「ウィンドパークへの自治体・市民参加法」と名付けられ、2016年5月末から施行されました。
具体的には、この州内で風力発電を開発する事業者は、
①投資総額の最低20%を地域出資に(風車から直線距離で半径5km以内に居住する住民に10%+風車設置から5km以内に領土を持つ自治体に10%ずつ)提供しなければならないことが義務付けられています。また、市民出資の場合、一口は500ユーロ以下にすることが決められています。
②対象は高さが50m以上の風力発電
③そして資本参加の提供ではなく、代替案としては、
・自治体の同意があれば、風車設置から5km以内に該当する自治体が毎年一定額の支払い(この風力発電事業で得られる利益の10%)を受けることで免除されます。
・市民に投資参加を促さない場合は、該当する地域住民に対して貯蓄商品を提供することで免除されます。例えば、風力発電事業者は利益の10%を毎年適当な銀行に一旦預入します。その銀行は、該当する5km以内の市民がそこで定期預金を組む場合(3~10年で満期とする元本保証)、その利子を、毎年繰り入れられる風力発電からの利益で支払うことになりますので、かなりの利回りが期待できるという仕組みです(かつ、リスクが少ないので、投資に慣れていない市民も利用しやすい)。
http://www.regierung-mv.de/…/B%C3%BCrger-und-Gemeindebeteil…
もちろん、風力発電事業者の所有権を侵害する可能性の高い法律ですが、同時に、これによって風力発電への地域住民の受容度が高まるなら、反対運動などにあって、計画が遅延したり、最悪中止になるようなリスクを低減させることができます。
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もう、こういうの日本でも即時に必要じゃないでしょうか?
日本では、乱暴な方々が全国各地ですでに暗躍していますから、あと5年もすると、(メガソーラーと同様に)国中が風車反対だらけになりそうです。
原子力発電所の怖いところは、それに対して、マイナス側である「廃炉・核廃棄物の処理」については、無限に膨らむ可能性のあるマイナスの財産ですから、その時点で、即時破たんという可能性が究極的には飛躍的に高まります。
「無限-無限=計測不可能」ですが、「有限-無限=マイナス側に無限」となるからです。
加えて、ドイツはエネルギーシフトを進展中であり、再エネによって増加した発電量を既存発電所で減少させることをしてこなかったわけですから、電力取引市場における電力販売価格は超低迷を続けており、それによって既存電源を大量に抱える電力大手は多額の赤字決算を続けており、分社化などで延命を図っている状況です。
ということで、2015年からは電力大手4社の将来性に信頼が置けなくなったドイツ政府は、原発の廃炉&高レベルや核燃料廃棄物のパッキングまではすべて電力大手の無限責任としますが、高レベル核廃棄物の中間貯蔵やすべての核廃棄物の最終処分については、国が最終的な責任を取る形で基金を新設し、その基金には、これまで電力料金に上乗せされて回収してきた積み立ててきたはずの核廃棄物処理費用を電力大手に支払わせるというコンセプトで検討を続けてきています。
で、おおよそその基金に払い込まなければならない金額(233億ユーロ≒約2.8兆円+αのリスクコスト)やシステムの専門家鑑定書が2016年4月に国会に提出されたのですが、電力大手はその内容に不服を持ち、合意には至らないでグズグズとしていました。
https://www.bundesregierung.de/Content/DE/Artikel/2016/04/2016-04-27-finanzierung-kernenergieausstieg.html
ただし、この基本法裁判所の判決によって、「有限-無限=マイナス側に無限」という状況を少なくとも終わらせるためには、「有限-有限=経営判断できる範囲での有限でのマイナス」にしなければ、早かれ遅かれ電力大手は破たんします。
ということで、判決の数日後には、
イ.電力大手は、そのほかの廃炉にかかわる係争中・準備中の20近くの訴訟を即時取り下げ(電力大手なりの試算では、これらによって政府は6~8億ユーロ≒700~950億円の賠償金を支払わなければならないと言っていますが、これ都合の良い言い分のように聞こえます…ただし2件の裁判、一つは核燃料税について、もう一つはスウェーデンのVattenfall社によるアメリカでの訴訟については継続)
ロ.その代わりに、原発の廃炉、および放射性廃棄物の適正なパッキングについては、これまでの規定通り電力大手が全額、最終的な無限責任を持って執り行うものとするものの、
ハ.中間貯蔵、および低レベル、高レベルの放射線廃棄物の最終処分については、国の無限責任とし、国が公的基金を設立し、国がその運営事業者となり、
二.そのための基金への拠出は、これまでの法的な廃炉と最終処分のための積立金に加えて、最終的に処分にかかるであろう追加費用である230億程度に確定させ、その金額を電力事業者が支払う
という形の提案を電力大手は政府に送りました。変わり身は早い早い。
そして、上記の判決からわずか10日後の2016年12月16日には、国会でこの基金設立と責任の分担にかかわる各種の法律と契約が大多数の賛成で可決されています(ただし、将来のリスクコストの払い込みなどの詳細についてはまだ確定していない)。
http://www.das-parlament.de/2016/51/titelseite/-/485316
http://www.bmub.bund.de/presse/pressemitteilungen/pm/artikel/hendricks-entsorgungskonsens-schafft-klarheit-ueber-abwicklung-der-atomenergie/?tx_ttnews%5Bswords%5D=Atom&tx_ttnews%5BbackPid%5D=103&cHash=8d44e1a0c8c5eb8b170876912adf2c96
本来は、電力大手としては、基金に総額3兆円レベルを支払うが、本当は上記の基本法裁判所で完全勝訴して、係争中のすべての損害賠償請求で総額3兆円レベルを国から分捕り、これを行って来いにして終わりにしたかったわけですが、背に腹は代えられません。その目論見はまったく立たないことになりました。
最後にですが、ここで説明してきたように、ドイツが辿ってきた脱原発の経緯と、日本での経緯とでは全く異なります。
ですから、「脱原発を前倒しするとドイツのように膨大な損害賠償を支払わなければならなくなる」と主張される方の根拠はドイツには100%存在しないですし、
逆に、「損害賠償をドイツのようにほぼ支払わなくても良い」という状況を日本が享受できるのかどうかは、ドイツの事例からは主張できません。
ただし、人間の命や権利がある程度重いものとなっている日本やドイツのような社会では、基本的な考え方として、原発(脱原発)を取り扱う際、これまで「無限の売り上げ-無限のコスト=計測不可能」というメルヘン(先送りあるのみ)で進められてきたわけです。
これが、脱原発期限を確定してしまうと、途端に「有限-無限=マイナス側に無限」という現実に突き落とされることになります。つまり、原子力発電を事業として行ってきたものは、即時破たんになりかねません(そうなると廃炉と廃棄物は誰が処理する?)。
この問題をどう解決してゆくのか、これについては、ドイツでの経緯も参考になるかもしれません。
それでは、それでは。
ここでは、
1.モラトリアム(古い原発の即時の一時停止措置&③の2010年原子力法の一時停止措置)を含む、
2.④の2011年の原子力法の改正(古い原発の即時廃炉&③の2010年原子力法改正で追加された残余発電量の取り消し措置)が、
3.基本法で保護されている私企業の所有財産(電力大手の原発)の権利を犯したか、どうか(違憲か合憲か)を争ったわけです。ということで、ここでは具体的な賠償請求額は法廷での表向きな係争には現れませんし、正確には損害賠償請求を求めた裁判でもありません。
ただし、電力大手側の言い分は(思いは)、2011年3月のモラトリアム発動まで有効であった残余発電量が、一時停止後に廃炉になった8基については一挙にゼロへ、そして残りの新しい原発についても追加であったはずの14年分の発電量が瞬時に取り消され、私有財産としての原発の経済価値が侵害されたわけなので、オフレコから伝わってメディアで報道された金額では190億ユーロ(≒2.3兆円)などを、基本法裁判所での完全勝訴の暁には、政府との示談で、あるいは別件の通常の民事裁判による係争で、政府から分捕ることを目的としていました。
さらに、そのほかの係争中の訴訟群(20近く)でも、基本法裁判所での判決はダイレクトに影響します。
長く続いた基本法裁判所での判決は、2016年12月6日に下されました。
概要は次の通りです。
イ.2011年の原子力法の改正は、私有財産を侵害する法改正であり、2017年7月までに何らかの対応(原子力法の改正、および損害賠償)されなければならない(一応は、電力大手の勝訴)
※上記、誤りです。正しくは2018年6月末までに対応です…
ロ.しかし、その改正されなければならない内容とは、②の2002年の原子力法の改正において定められた残余発電量を満たさないままで、④の2011年の原子力法で廃炉措置とされた8基の古い原発が、2011年3月11日後の一時停止措置(モラトリアム)までに、まだ財産として確保されていたのにもかかわらず残っていた残余発電量については(および新しい原発に乗り移された残余発電量)、電力大手側に財産権があるため、それを考慮しなければならない。
ハ.加えて、③の2010年12月末に原子力法の改正(平均12年の延長)が施行されてから、2011年3月11日のモラトリアム発動までの3カ月の間に、平均12年の延長が認められたことによって、それに対応するために電力大手が投資をした分の費用(電力大手側はそれを証明しなければならない)についても、電力大手の私有財産が侵害されたことになるため、配慮しなければならない。
二.その他の内容(最大2022年までの時限か、もしくはそれよりも早く残余発電量を発電しきった際に廃炉になるとされた2011年の脱・脱・脱原子力法)は、合憲である。
ということで、8基の即時廃炉にされた古い原発のほとんど残っていなかった残余発電量分と、わずか3カ月間でほとんど追加で手をつける暇もなかった投資分だけを、示談か、もしくは民事裁判で係争して、政府が電力大手に賠償するか、それを賠償する内容にふさわしい原子力法の改正を2017年7月までに行うのか、ということに落ち着いています。
基本法裁判所は、いわゆる最高裁ですから、これで国内的には確定です。
ということで、「アタリだったけど、残念賞だった」というのが、ドイツのマスコミの報道であり、政府は、ドイツの脱原発が法的にもすべて認められたと、全面勝訴のような形でのプレスリリースを出しています。
ちなみに、上記を示談で解決する場合には、数百万ユーロ規模(≒数億円)の損害賠償になるということが各種のメディアで報じられました。
2~3兆円が欲しかった電力事業者ですが、丸が4つ抜けて、2~3億円しかもらえないことが確定したわけです。
加えて、平均12年間の延長とパーターで開始されたはずの「核燃料税」についても、パーターであることが法律に記されているわけではないので、合憲。つまり、これまで支払ったものばかりか、12年の稼働を取り消された今後も「核燃料税」を電力大手は支払い続けなければならないことになります。
泣きっ面に蜂とはこのことでしょう。
(続く)
そして、2009年9月の総選挙では、それまでの大連立のパートナーだった社会民主党を蹴落とすために、電力大手は大掛かりな献金・キャンペーンを張り、保保の連立政権誕生を助け、その見返りに、平均12年分の残余発電量(古いものは8年分、新しいものは14年分)を追加で、これまでの残余発電量に補てんしてもらう③2010年の原子力法の改正にこぎつけます(資料3のPDFの3ページの一覧表では、その追加された発電量が平均的な設備利用率で稼働したときの廃炉の時期が記載されている)。
③2010年の原子力法で実際に追加された残余発電量は、ドイツ語しかありませんが以下の一覧表をご覧下さい。追加された残余発電量が表の一番右にあります。
クライアント政治を思いっきり突っ走った第二次メルケルは、こうして電力大手に権利を与え、利益を得られるように配慮したその代償に(国民の批判をかわすためにも)、エネルギーシフトを進める財源だと主張した「核燃料税」を導入しています。
その後、ドイツでは当然のように政府に対する数十万人規模のデモなど、各地で反対運動が継続して続けられ、その最中に、福島での原発事故が発生します。
福島での事故を受け、1980年よりも稼働開始が古い原発7基と事故ばかり多発していたポンコツ原発1基を、緊急的に一時停止措置、同時に2010年の原子力法の改正も停止措置としたモラトリアムを発動します(その経緯についての詳しくは資料3、4、5を参照)。
そして最終的に、メルケル政権は、②の原子力法にほとんど戻す形で、かつ、設備利用率が低下して予想よりも発電しなかった際にも、はじめて日時を限定することで、④の原子力法の改正(脱・脱・脱原発)を採択し、2011年6月から施行されました。この内容については、法律の訳がありますので、資料5の邦訳のとりわけ第7条1aを参照して下さい。
(続く)
②それを法制化した2002年の原子力法の改正(脱原発法)、
③2010年の第二次メルケル政権(キリスト教民主同盟&自由民主党)による原子力法の改正(平均12年の延長≒脱・脱原発法)、
④2011年の福島第一原子力発電所大災害を受けての原子力法の改正(脱・脱・脱原発法)、
という流れと、それぞれの内容をしっかりと理解しないと話になりません。
国立国会図書館がドイツの原子力法改正についてレポート、邦訳しているものを読んでから(あるいは原文で)、それらの推移を把握すると、今回の判決の内容が理解できます(とはいえ、ここでも解説しますね)。
資料1(2010.06)
http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/legis/pdf/024407.pdf
資料2(2011.01)
http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/legis/pdf/02460103.pdf
資料3(2011.05)
http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/legis/pdf/02470209.pdf
資料4(2011.08)
http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/legis/pdf/02480208.pdf
資料5(2011.12)
http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/legis/pdf/02500006.pdf
まずは、資料1のPDFの31ページ(資料中のページ番号は101)の一覧表をご覧ください。ここに記されているのが、①の2000年の合意と②の2002年原子力法改正で定められた、当時ドイツで稼働していたそれぞれの原子力発電所が権利を持つことになった残余発電量です。原子力法では第7条1aとその附則資料で、原子力発電所の残り稼働期限が明示されることになりました。
この①と②においては、「いつ脱原発するのか?」という日時ではなく、「その原発は、あとどれだけ発電しても良いか?を決定する残余発電量」が取り決められています。
これは、それぞれの原発が商業運転開始から、平均的な設備利用率で発電をした場合、平均35年前後の稼働で発電しうる想定の総発電量から、これまでにすでに発電した量を差し引いて、導き出した残りの発電量です。この発電量を発電し尽くすと、その原発は廃炉ということになります。
※この残余発電量分を、それぞれの原発が今後も、もし平均的な設備利用率で将来も発電し続けるとしたなら、ドイツの脱原発はおよそ2021年前後になり、その数字がマスコミでは掲載されることになりましたが、ドイツでの最初に脱原発を決めたのは、残りの発電量で、日時ではありません!
※例外として、電力大手は、古い原発の残余発電量を残したまま廃炉にして、その分(発電量権利)を新しい原発の残余発電量に移し替えて稼働させることを可能にする措置も認められていました(古いものよりも、新しい原発のほうが世代が進んで安全になっているので)。ただし、電力大手は、減価償却の終了した古い原発こそ儲かるのでたくさん稼働させたいわけなので、このルールを使用したところは少数でした(これが後の判決に効いてきます)。
(続く)
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ドイツ基本法裁判所判決(2016年12月6日)のまとめ
訴訟内容:
ドイツの電力大手4社(1社は取下げ)が、国を相手取り、2011年原子力法改正が私有財産権を侵害するため、違憲(基本法違反)であるとして訴え
※もし、電力大手の意図した内容で完全に違憲との判決が出れば、別で行う損害賠償請求(電力大手側が試算した非公式ではあるが、マスコミで報じられた数字:190億ユーロ≒約2.3兆円規模)に有利となるが、合憲となれば、別で進められている損害賠償請求の成果はほぼ期待できなくなる
判決:
裁判所は、2011年原子力法改正(福島第一原発事故を受けて、古い原発8基の即時停止、後に廃炉と2010年原子力法(発電量の追加割当)の廃止)は、私有財産権を侵害する法改正であるとし(電力大手勝訴)、以下の内容で国に対応を求めた
1.廃炉となった原発8基に、廃炉の時点でまだ残っていた、2002年の原子力法改正で割り当てられた残余発電量(2010年改正で追加された残余発電量を含まない)に該当する私有財産の権利は保証されなければならない
2.2010年原子力法改正(2010年12月末施行)により平均12年延長(残余発電量の追加割当)が認められたことに対応して、新たに2011年3月までの3カ月間において投資された費用については賠償されなければならない
結論:
電力大手の念頭にあった賠償請求額(約2.3兆円規模)に対し、基本法裁判所(最高裁に該当するため、ここで判決は確定)が認めた内容から試算すると損害賠償額は数億円程度(1/1000レベル)となる
訴訟の評価:
・ドイツマスメディア=「当たり(勝訴)」だが「残念賞(賠償額小)」
・ドイツ政府プレスリリース=「脱原発が法的に完全に認められた」
※日本にはドイツが2002年の原子力法改正から導入したような「残余発電量」という概念がないため、日本で原発を停止した場合の賠償額の参考となるかは「不明」≒あまり参考にならない
※この判決を受けて、電力大手は、別で行う各種の損害賠償請求を取り下げることで調整中(損害賠償=0円になる見通し)
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そのため、野立てPVで2015年から試験的なFIP試算用の基準価格の入札の試みが行われています。第一回は4月に、そして第二回が8月に行われました。
まず、8月1日の連邦ネットワーク庁における野立てPVのFIP入札には150MW出力がかけられました。参加したのは136件、設備容量では558MWということでした(このうち15件は条件不適格で入札から外されています)。
http://www.bundesnetzagentur.de/cln_1431/SharedDocs/Pressemitteilungen/DE/2015/150806_PV-Ausschreibung.html?nn=265794
※政府側のコメントでは、本物の競争(原理)がここに来て現れはじめた、とありますが、そもそもこの入札にかけられた150MWという規模が小さすぎるわけで、この方式で政府の再エネ目標を2017年から入札にかけたとき、同じような競争が現れるかどうかの試金石とはなっていません。
最終的に、連邦ネットワーク庁が136件、それぞれの信憑性、妥当性などをチェックし、入札価格の低いものから33件、出力合計では159.7MWが落札されました。この入札情報の公開は8月13日に行われ、落札者は公表されます。ただし、価格の公表はその時点ではなされません。理由は、落札者との間で、実際にFIPを与えられた際に工事に取り掛かる、それを期限内に実現するかどうかの確認作業があり(もしその確約が取れないと、保留していた次点者に落札札が配分される)、かつ、FIP試算用の基準価格は落札したものの中から最も割高な価格ですべて統一されるからです。
そして入札から1か月後の9月2日に落札者の最終確定と統一落札FIP試算用の基準価格が公表されました。今回の入札では、落札価格(落札者の中で最も割高な価格)は8.49セント/kWhとなりました。
ようやく2014年8月にFITが終了した時点での野立てPVのFIT価格8.92セント/kWhを下回りました。もし、それ以降に他の屋根置きPVのFIP削減率を適用するなら、2015年8月には本来8.5セント/kWhを下回っていたはずですから、その水準に入札も追いついたという形になります。ということで、連邦ネットワーク庁も喜びのコメントを出しています。
ただし、不可思議なのは落札者の中で、最も低い入札価格を出したところは、1セント/kWhだったという事実です。つまり、建設許可さえ得れればFIPは必要なしという判断(?)のように見える入札者がいたわけです。
ただし、逆に言うと、他者はおそらく8~9セントで入札してくるので、かつ、最も割高な入札者のFIP試算用の基準価格ですべての落札者のFIPは確定するので、自身は確実に落札できるようにという目的だけで入札価格を提出したものがいたということです。しかも、もし、その確定した最も割高なFIPが、1セントで入札した落札者の提出しなかった内部での採算性が取れないと判断したなら、最終確認の段階で辞退できるという安全保険付きで。
こうした事態が支配的になると、入札制度自体が機能しなくなると考えるのは私だけでしょうか? それに関する議論は、政府からも、連邦ネットワーク庁からも、マスメディアからも聞こえてきません。
次回、12月の入札は、この点も注意して見てゆきたいと思います。
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そして、2016年1月のFBへの投稿です。
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昨年12月1日には、第三回の野立て太陽光発電のFIP基準価格の入札がドイツで行われました。
1月6日に連邦ネットワーク庁から公表されたので、紹介します。
入札対象の容量は200MW出力、入札不落の最高上限額は11.09セント/kWhでした。ちなみに10MW以下が対象です。
入札参加事業件数は127件、562MW出力で、最低入札価格が0.09セント/kWh(ふざけています…)、最高価格が10.98セント/kWhでした。出力ごとに加重平均した入札価格は8.08セント。
落札者は43件、204MW出力で、0.09~8.00セント/kWhでした。したがって、落札者のうちの最高額で今回のFIP基準価格が確定することとなり、落札者は全員、8.00セント/kWhの市場売却平均価格+FIPを手にすることができ、2年以内に発電開始する必要があります。
前回8月の入札価格8.49セントよりも、下落したことから、ますますこの入札制度はうまく機能しはじめているという政治的なトーンがありますので、一応、2014年8月に、もし野立て太陽光のFITが廃止にならず、その時前後の下落率が継続したら?という想定で計算してみますね。
FIT2014年8月、野立てメガ=8.92セント/kWh
★それまでのように毎月1%の価格低下が図られたら?
2014年8月→2015年12月=16か月
8.92×0.99^16=7.60セント/kWh…
はい、入札制度で太陽光が安価になった!とは、今の政府や連邦エネルギー省のように、お気軽に言えないとは僕は個人的には思います。
どちらにしても、日本のいまだに高いのは、お話にならないので、なんとかしなきゃならないんだろうけれど…
(終わり)
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ドイツの再エネのFITは昨年の8月の再エネ法の改正でほぼ終了しました。で、ほとんどが経過措置としてのFIPになっているんですが、EUやドイツメルケル政権は、(再エネ推進のスピードを押さえるためとしか思えない)入札制度に移行したい思惑で動いています。
具体的にはドイツは2017年に再エネ法を改正する際に、全面的に再エネは入札制度で管理するいわゆるクォーター制度へと移行する予定にしています。クォーター制度といえば、日本でも過去に失敗したRPS法など、イギリスなどを含め、世界各国で再エネ普及のスピードを殺し、再エネの価格を割高で留めておくことに成功してきた制度です。
で、2017年再エネ法改正の本格採用の前に、このクォーター制度&入札を野立ての太陽光発電で試験的に導入してみようというのが、昨年の再エネ法の改正に盛り込まれ、細かな諸制度関連法がようやく今年の2月などに出揃いました。
予定では、2015年4月15日に150MW出力分、8月1日に150MW、12月1日に200MW、2016年は通年で400MW、2017年は300MWが入札にかけられます。合計1.2GWですね。国のPV導入目標量は、2015~2017年まで毎年2.5GW、つまり3年間で7.5GWを目標にしています。つまり野立ては全体の16%に留め、残りは屋根にという計画です。
現実には2014年のPV新設量は1.9GWと目標である2.5GWに全く届かず…過去に7GWを超える新設があった面影がないほど、ここ数年の再エネ法改正での太陽光殺しは成果を上げてきています。日本も今の「長期エネ需給」の流れだとそうなることでしょうね…
ということで、前置きが長くなりました。この投稿で何が言いたいのかというと、4月15日のPV野立ての入札が終了し、一応の結果が出たので、それの報告ということです。
まずは、BDEWや連邦ネットワーク庁、与党政治家などの発言は、「入札に多くの方が参加した。本物の競争だ。入札制度は成功だ」という趣旨が流されていますが、数字を全く無視したおかしな発言です。
連邦ネットワーク庁のプレスリリースでは、以下の様な数字が掲げられています。
1.150MWの入札に、170もの入札者が参加した。
※だから競争が機能した成功という主張は理由になっていません。
2.そのうち、25の入札者の合計157MWのプロジェクトが落札した。
3.落札の平均設備規模は6.3MWで、平均落札額は9.17セント/kWhだった。
※2014年7月時点でのFITでの野立てPV(10MW以下)の価格は8.92セント/kWhでしたから、入札によって逆に割高になりました。現状のFIPの大型(屋根載せOR工場の敷地内の野立てなど)でも9.02セント。なお、今回の入札落札者は、落札から2年間以内の発電開始が義務付けられますが、もし去年の7月末までの制度が継続し、同じ削減率が継続されていたら、2年後の発電開始時点でのFITは8.5セントを下回っていました。この数字だけで、FIT負担を低減するという触れ込みの入札制度は完全に失敗しています。
4.170の入札者の中の最も割高な入札価格は11.29セント/kWhだった。
5.7名の個人の入札もあり、入札の多様性が示されたが、入札価格が高く落札されなかった。小規模の入札者も多数いた。
6.ある1つの企業は全体の入札枠の4割を落札した。
※だからこそ、小規模事業者には不利な制度だと、市民再エネ組合など草の根の力でドイツのエネルギーシフトを推進してきたステークホルダーは、入札制度に批判が殺到しているわけです。
ということで、なんだかなあ、というドイツの情報でした。
(続く)
そこで、その自治体内や議会内では、「そんなに大手が進めたい好立地であるなら、地域の市民と企業が連携して、そのプランに便乗し、自分らで開発したほうが良いじゃないか」という意見が出てきます。つまり、唾を付けようとした途端、大手に頼ることなく、地域の草の根が自身でウィンドパークを建設してしまうことに最終的にはなる可能性があります。
あるいは、土地利用計画の修正を餌に、自治体は強気で大手と交渉を重ね、「市民を納得させるため=ときには反対運動が起きるぞという脅しも暗にあり」として、大手の出資割合を減らして、例えば過半数以下に抑え、地域の市民エネルギー組合などが決議権を持つように過半の資本を投入するような会社新設の交渉がはじまったりします。
ということで、これまでのドイツでは、大手で、ノウハウを持っているところでも、なかなか純粋に自身だけで(地域との資本連携なしで)ウィンドパークや大型メガソーラーなどの開発を単独で手掛けることができませんでした。それがドイツにおける再エネ=正義を支えていた大きな柱でもあります。
しかしここに、複雑でハードルの高い入札制度が導入されればどうなるでしょうか? まず、こうした市民出資の機運自体は抑制されます(どうせ、市民単独ではできないんだから、大手のうちが引き受けて、少なくとも賃借料ぐらいは地域に落ちるようにしますよ的な文句が出てくるでしょう)。日本ではごく普通に行われているように、地域外の資本が、地域に迷惑だけ押し付け(景観の変化、騒音、日照変化、ビオトープ・種の多様性変化)、地域に巨大な再エネを投資して、利益は別のところに持っていってしまうという社会に変わることを電力大手やデベ、保守政党などは待望していました。つまり、火力や原子力から再エネと技術は変化しても、それを供給する体制には変化を持ち込まないという既得権益層の強烈な既得権益の保護です。
この辺の機敏が分からないと、なぜ、世界中の成功モデルであった(日本だけは例外ですが…)FITやFIPを廃止するようなEUガイドラインの策定に、再エネを進めることを政治的な課題にしているドイツも乗ったのか、理解できないことになります(もちろんイギリスやフランスには、強烈な原子力ムラも存在し、再エネを押さえることが着眼という別の機敏もありますが)。
これってかなり複雑な事態なんです。私はエネ大手のロビーや再エネ推進の草の根側の出している専門誌やプレスリリースなどを継続して読み解いていますからある程度の内幕は分かりますが、一般のこの分野にそれほど認識が高くないドイツ人は、この辺の経緯など全く知らないでしょう。
ですから、ドイツのマスコミの一部や日本のNHKのニュースにみられるように、「ドイツFIT廃止!入札へ!=電力の買い取りにかかる費用が電気料金に上乗せされて料金が高騰し、国民の間で制度の見直しを求める声が強まっていた」というそれらしい仕上がりのニュース記事が出来上がることとなります。
ということで、このブログで言いたいのは、EUガイドライン策定、再エネ法2014年改正、2017年改正というのは、①2000年からはじまり、現在に至るまでの再エネの推進状況にまずまず納得している大多数の国民が、再エネの推進というテーマに対する関心を失っている隙に(これはうまく行っているからこそ関心を失ったのと同時に、ギリシア金融危機、難民問題やISIL、EU離脱など他の巨大問題が山の様にドイツには押し寄せていて、常にトップニュースを占領し、再エネはニュースのテーマにならないということも関係しています)、②2009年の総選挙で快勝した第二次メルケル政権とスクラムを組んだエネルギー関連大手、ロビーが着々と準備を進め、「市民による再エネ」という社会の変革を抑制するための布石を打ってきた集大成ということもできるでしょう。
とはいえ、最近の市民エネ組合の中でも元気なところは、大手デベなどに負けない資本力やノウハウをすでに身に着けていますから、一方的にひっくり返されるわけでもなさそうです。しかし、風力発電、太陽光発電、バイオマス発電というのは、どれも土地の消費圧力が強くかかる発電源です。それは再エネのエネルギー密度が化石燃料やウランよりも低いという理由から来ることですが、再エネの社会に本格的に変貌するためには、これまでには想像もしていなかった量の土地を必要にすることになります。
日本のように消費量に対してわずか数パーセントの発電量の野立て太陽光発電の推進で、日本中の地方で、くまなく住民がネガティブな現状に苦しめられている、心を痛めているのと同じように、ドイツでも、地域の人が納得しない形で再エネの開発が行われる圧力が強くなることを私はとりわけ懸念しています。それは、中長期的な再エネの推進を阻む最大の障害であるからです。
これまでのドイツの再エネ推進の主役は、地域の住民であり、自身が消費者でありながら、発電者にもなったところに最大の快進撃の理由がありました。それが崩されると、再び元の位置に戻るまでに10年近くはかかるのではないか、という懸念とともに、今回の再エネ法2017年改正を読み解きました。
(終わり)
今回の改正の際にもっとも争点となったのは、「誰が落札者=再エネ事業者になってよいのか? なるべきなのか?」という命題についてであり、「再エネをそもそも進めるべきか?」あるいは「再エネは割高? 需給調整が機能しないか?」などという低レベルなところではありません。
そもそも、賦課金の高騰が問題であるなら、問題ないレベルまで賦課金が落とせるような計算で、固定買取価格、あるいはプレミアム計算のための指定価格AWをもっと低減させればよいだけです。そのほうが、その価格でもやるとなった事業者は、法によって実現が確定するのでプロジェクトマネーの調達は安価になり、事業者もリスクが少ないことから、期待する利回りを最小化できます。落札することが不確定なリスクの高い入札事業では(とりわけ事前のアセスメントなどの費用を準備するなど事前投資が莫大なので)、競争による価格の低減効果よりも、マネー調達の利回りUP、そして事業リスクが上昇した分だけ利益率をよりUPして見積もるようになりますから、価格(再エネの事業者の利益を含んだ発電コスト)の上昇圧力のほうが強いことは証明されています(というか事業者の方であれば、直感でお分かりかと思います)。
例えば、2017年から始まる入札では2019年に発電予定の風力発電が、20年間の指定価格(AW)の落札不落価格は、7.0セント/kWh(標準風況地)ではじまります。しかし、環境アセスメントの手続きにすでに入っていて、2017~2018年中に完成予定の風車は、最初の5年間が8.38セント/kWh、残りの15年間が4.66セント/kWh(標準風況地)でAWが指定されています(おまけに2017年4月から1.2%、その後も毎月約0.5%のAW価格の低減付きです!)。これは20年間の平均値で(8.38×5年+4.66×15年)÷20年=5.59セント/kWh(キロ7円以下!)です。
なぜ、わざわざ入札になるのに落札不落価格を現状の水準よりも25%上乗せしなければならないのか、それは野立て太陽光発電のお試し入札の経緯を見ても、現状のFIP/FITよりも入札は安価になりにくいからです。この点、メディアがなんのメスも入れられないのは、おかしなことですが、2017年の入札の落札価格の平均値が出てみないことには何とも言えない、ということなのでしょう。
話を「誰が落札者=再エネ事業者になってよいのか? なるべきなのか?」という命題に戻します。前回の再エネ法2014改正のブログでも記しましたが、基本的には、メルケル政権、およびEUの主要国は、既存大手エネルギー事業者の保護、既得権益の保護を第一に念頭に置いて、これらの改正を行ってきました。
おそらくニュースなどでご存知のように、ドイツ最大の電力事業者E.ONは、将来性がなく、赤字続きの既存エネ事業を新設会社Uniperに移して切り捨てた格好で、E.ON本体は需給調整サービスと再エネ事業に絞り込んで事業を行うようになりましたし、ドイツ第二の電力事業者RWEは、赤字に落ち込んだ本体から、将来の黒字化が期待できる需給調整サービスと再エネ事業分野を取りまとめ、新設した子会社のinnogyに移管して、ここに積極的に投資を絞り込んでゆく体制になりました(E.ONの逆バージョンで本体を切り捨て)。
つまり、新しい再エネ法2017の改正には、こうした巨額の資本を扱える事業者が(かつ、入札手続きが複雑になればなるほど、供託金の金額が大きくなればなるほど、豊富な専門職員を抱え、資本がある大手には有利なので)、手ぐすねを引いて待ち構えているという市場の枠組みの変化が生じているからこそ、これまでのEUガイドラインの施行と2014年、2017年の再エネ法の改正という経緯があるわけです。
再エネの推進は市民によるものではなく、政府の計画通りに大手に引き受けてもらう、という体制にすることが最近のEUにおける主要な流れなわけです。
それではなぜ、入札制度でないと大手資本は再エネ事業に食い込んでいくことができないのでしょうか? その答えを知るためには、これまでのドイツの再エネの投資分の2分の3を大幅に超える割合が、地域の市民主体、地域の中小企業主体、地域の農村自治体が主体、あるいはそれらが複合した形での市民エネルギー組合、市民エネルギー企業による投資体制が実施し、再エネの推進をリードしてきた背景、大手の出番がない背景を知ることが必要です。
そして決議された法案です(前回の2014年改正200ページと同文のところは省略しても100ページ超の大著であり、普通の法律ではないです…ここまで例外措置を増やして、ドイツ政府は何考えているんだか。関連諸法の修正と法案の理由書=ドイツでは法案作成時に同時に作成する訴訟用の書類、法の根拠の文章との合算で400ページを超えますので、さすがにすぐには全部は読み切れません…)。
この「再エネ法2017」改正法の目的は、国内電力総消費量(グロス)に対して、再エネ電力発電量の割合を2025年には40~45%に、2035年には55~60%に、そして2050年には最低80%以上にすることを目指すものです。加えて、電力以外のエネルギーも合わせた国内エネルギー総消費量(グロス)に対して、再エネによるエネルギー供給が18%以上になることも目的として併せて記載されています。
さらに法律の原則は、①再エネ電力を電力供給システムに統合すること、②再エネ電力をそのために直接市場で販売すること、③再エネ事業者の多様性は確保したまま、入札制度に移行すること(例外あり)、④再エネ電力のコストを低下させること、の4点が掲げられています。
※この③の再エネ事業者の多様性のところで、いまだに各ステークホルダー、および州、自治体においては、批判が残っていますので、後述します。
そしてその法律目的を達成するために、陸上風力発電、洋上風力発電、太陽光発電、バイオマス発電の分野において、2017年1月からは入札によってプレミアム(計算の根拠となる金額)を確定することとしています。例外は、出力750kW以下の施設(例:屋根乗せの太陽光など)、バイオマス発電の場合だけは出力150kW以下の施設で、この例外措置における入札を経ないFIP&FITによる発電量は、全体の2割程度になると想定されています。さらに入札開始当初からEU他国の事業者が参加できる入札枠は、最低5%確保されます(EUガイドラインの解釈によって)。
1.陸上風力については、
・2017、2018、2019年の3年間は、2,800MW出力/年が入札にかけられ、2020年からは毎年2,900MW出力が入札にかけられます。これはリパワリングなどで廃止された陸上風力の出力分を差し引かない新設のみのグロスでの数値となります(当初は差し引きありのネットでの議論が続けられていましたが、最後は陸上風力抑制派が勝利した形です)。
・また、陸上風力のプレミアム計算の根拠となる指定価格AWの入札不落価格(最高値)は、標準風況地において2017年1月1日に7.0セント/kWhで始められます。また、2018年1月からは直近の過去3回の入札における落札者の中でもっとも高い入札価格を提示したものの金額を平均したものに、8%を加えた価格が入札不落価格となります。
・入札希望者には、自身の想定している風車建設位置の風況が、標準風況であれば入札額とプレミアム計算のための指定価格AWは同じになりますが、その場所が標準風況から30%悪ければ、AWは入札額の1.29倍となり、標準風況から50%良ければ、プレミアム支払額は入札額の0.79倍になるという標準風況への調整曲線が準備されています。この曲線を事前に考慮して、入札額を決定することになります。
・入札に参加するためには、連邦環境悪影響保護法(BImSchG)で規定される環境アセスメントを取得しなければなりません(ただし、合計6基、総出力18MWまでのウィンドパークで、10名以上の個人からなり、かつ、その計画地に居住する住民からなる市民エネルギー組合などでは、事前に取得する必要はない→事業者の多様性確保のため)。
・入札に参加するためには1kW出力あたり、30ユーロ(例:平均的な2MW出力の風力発電の場合、6万ユーロ≒720万円)を供託金(罰則金への保証金)として準備する必要があります(ただし、合計6基、総出力18MWまでのウィンドパークで、10名以上の個人からなり、かつ、その計画地に居住する住民からなる市民エネルギー組合などでは、この供託金は半額となり、落札したのち、2か月以内に残りの半額を拠出すること)。
・落札後から30か月以内に発電開始できない事業者は、その落札権利を失います。また、落札後、5%以上の落札出力を縮小したり、建設しなかったりする場合、落札後24か月を超えて発電開始される際は罰則金として10ユーロ/kW、26か月後は罰則金として20ユーロ/kW、28か月後は罰則金として30ユーロ/kWを系統運営事業者に支払うことが決められ、これは供託金から強制的に支払われます(ただし、合計6基、総出力18MWまでのウィンドパークで、10名以上の個人からなり、かつ、その計画地に居住する住民からなる市民エネルギー組合などでは、それぞれの期限を最大2年延長可能→環境アセスメントを後付けで取得するため)。
・ただし、入札・落札後の風車が発電開始するのは2019年以降になるため、すでにアセスなど手続きを進め、2018年末までに発電開始をする風力発電については、再エネ法2014の延長でAWが決まり、プレミアムを受け取ることになります。つまり入札による風車の発電開始は2019年からになるといえそうです。
ということで、おおよそこれで抜けはないかと思いますが…この作業、続けますか? 興味深いですか? ちょっと予想したより法案を調べて記すのに時間がかかりすぎるので、他の電源については端折ることにします。いつか時間があるときに、水力、地熱、バイオマス、洋上風力、太陽光については書きますね。ごめんなさい。
(続く)
EUには「欧州連合の機能に関する条約:Treaty on
the Functioning of EU」が存在します。EUの憲法にしようと試みていますが、現状では、その実現はまあ困難な条約です。とりわけイギリスの脱退がありますから、ほぼ中期的には無理でしょう。
さて、この条約の中には加盟国政府による競争歪曲的政策を禁止するための目的で、第107条に「特定の企業・商品に対する競争歪曲的補助の禁止(国家補助規制)」があります。この107条では1項で原則的に国家の補助・助成措置について禁止規制がなされ、例外は、EU域内市場において調和しうる場合のみとされています。また、2項ではこの域内市場で調和しうる部門とその内容を(社会福祉的な助成措置など)、3項では調和しうる可能性がある部門とその内容が記されています。
FITによって再生可能エネルギー電力に対して助成措置、促進措置を実施することは、過去にはこの第107条3項の解釈でこれまでは説明されてきました。ただし、既存エネルギー事業者の積極的なロビー活動が功を奏し、再生可能エネルギーのみ特別扱いする内容を排除する目的で、かつEU気候変動対策目標値を同時にクリアするための苦肉策として、この第107条3項について、2014年4月には特別なルールとして「2014~2020年の環境・エネルギー関連の国家補助金に関するガイドライン(2014/C/200/01)」が施行されました。
これにより遅くとも2017年には再生可能エネルギーの推進助成策は、①一部の競争がほとんど存在しない部門と、②推進が想定通り進まないケース、③そして入札をすることでより高額になるケース、④さらに一定規模以下の小施設を例外として除き(1MW出力以下などに該当する小規模の再エネにはDe-minimisルールを適用し、FIT継続も可能)、残りはすべてEU内に開かれた「入札制度」にすることになりました。つまり、再エネのFITも原則禁止となり、前述のFIPによって他の既存発電事業者と同じように再生可能エネルギー発電者自体も電力販売に責任を持つことになったパラダイムシフトも、このガイドラインに依るものです。
ということで、このEUガイドライン策定については、フランス、イギリスだけではなく、ドイツ・メルケル政権は強力に推進していましたから(当時のEU委員会のエネルギー委員長はドイツの保守党から選出されたゴリゴリのエネルギー・電力大手を支持層に持ついわゆる族議員のエッティンガー)、それに事前対応する意味で、まずは第一弾として2014年の改正があったわけです(FIT→FIP、野立て太陽光発電に限ってのお試しでの入札制度の導入)。
そして、2017年の「再生可能エネルギー法」の改正によって、このEUガイドラインを完全にクリアすることになりました。
今更、このガイドラインについてどうこう言うつもりはありませんが、ドイツは制度変更でもかろうじて政策目標値をギリギリで継続的に達成してゆく可能性は高いと思いますが(市民の監視圧力が強いので)、他のEU加盟国で、それほど再エネが伸びていない国、例えばフランスなどでは、再エネの推進はより困難になることが予測されています。さらに、フランスではすでに入札制度が導入されていますが、政策目標値に達成した実績はこれまでのところありません。また、入札で価格が安価になるという短絡的な考えは持たないほうが良いでしょう。
このぐらい背景と経緯について記せばよいでしょうか。それでは、肝心の2017改正の中身について記してゆきます。
(続く)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160708/k10010588181000.html
まあ、このニュースを作成する方々も専門ではないのでしょうから、目くじらを立てても仕方がないんですが、2014年にすでに原則として固定価格買取制度(FIT)は終了し、フィードインプレミアム(FIP)に変更されていますので、この点が抜け落ちていると、意味が通じなくなります。また、以下の一文は完全な間違いですね。どこから持ってきたんだろう? いい加減なWEBニュース版のDer Spiegelとかかな?
「…しかし、電力の買い取りにかかる費用が電気料金に上乗せされて料金が高騰し、国民の間で制度の見直しを求める声が強まっていました」
制度の見直しを誘導したのは、既存エネルギー大手のロビーとメルケル政権であり、これはEUによって2014年にすでに決められたことなので、賦課金の上昇で国民の批判の声が強まって今回の改正につながったわけではありません。NHKはEUガイドライン知っているのかな?
また、本当に賦課金を安くということであれば、すでに価格低下がなされた陸上風力と太陽光こそ地産地消的な形で設置を伸ばすべきで、大手企業&大資本による割高で北ドイツにしか資源のない洋上風力と割高で南北間の大容量直流電力系統のセットの建設を伸ばすべきではありません。
それでは、順に説明しましょう。まず、過去の改正である2014年改正が持つ意味、つまりドイツがFITではなくて、FIPにしたところについて分かりやすくするために、まずは原理原則について記します。
FITの重要なポイント:
①法律で定義した再生可能エネルギー由来の電力の優先接続と、優先利用
②その電力は、電力系統事業者が法律で定められた価格で買い取り(例えば20年間にわたって固定価格で)
③その電力は、電力系統事業者がそのままEEPX(電力取引スポット市場)に全量販売
④電力系統事業者が購入した価格と販売した価格の差額分を、電力消費者に転嫁(サーチャージ、賦課金)
FIPの重要なポイント
①は同じ。
②については、電力系統事業者が自動的に買取するのではなく、再生可能エネルギー発電者が自身で販売先を開拓・契約し、あるいはスポット市場に自ら販売することが必要(第三者に委託することも可)。ここが最大のポイント。
③以前の固定価格に該当するマーケットプレミアム(MP)算出のための指定価格(AW)から、決められた平均化の計算式で算出されたEEPX(欧州電力スポット市場)の平均販売価格(MW)の差額を、再エネ発電事業者にマーケットプレミアム(MP)として支払い。
MP=AW-MW
参考: http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/archives/51857155.html
④プレミアム支払分を、電力消費者に転嫁(サーチャージ、賦課金)
ということで、ここでどんなパラダイムシフトが行われたのかというと、これまで再エネ発電者は、発電だけに注力すればよかったのですが(買取は自動的)、2014年以降は、発電した自身の電力に責任を持ち、自身で販売までしなければならなくなった点です。これは、再生可能エネルギー電力が量の拡大とともに発電原価も減少し、徐々にその環境価値と合わせて市場において競争力を持つようになったことから、再エネ電力だけが、他の電源と比較して特別に優遇されることを許さなくなった政治的な枠組み変化の結果です。
もちろん、再エネ電力は特別なものであることから、優遇措置を続け、固定買取価格の設定をより急速に下落させるという政治的な判断もあったのでしょうが(私自身は、前回にも記したように、そのほうが国民にとって総合的には安価にエネルギーシフトが実施できたと今でも考えていますが)、ドイツでなく、EUでそのように決まってしまったわけです(NHKさん、ドイツ国民の声で決めたわけではなく、EUによる指令です!)。ということで、そのように取り決められた「EUガイドライン」について少し、説明しておきます。
(続く)
それでは説明をと思うのですが、まず、このブログ記事を理解していただくためには、これまでのドイツの「再生可能エネルギー法」の経緯を予備知識として知っていただいたほうが良いと思います。ということで、時間的に余裕のある方は、国立国会図書館によるドイツの「再生可能エネルギー法」、およびその前の「電力供給法」の日本語への翻訳文、解説を読んでいただければ幸いです。リンクを記しますね。
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1991年施行「電力供給法」:再生可能エネルギーからの電力を規定価格で電力事業者に優先的に買い取ることを定めた法律。規定価格は、小口の電力販売平均価格の75~90%で設定(例:風力/太陽光発電8ユーロセント/kWh、水力・バイオマス発電7ユーロセント/kWh) 。
2000年施行「再生可能エネルギー法」とそれに続く、改正群:
・1991年の「電力供給法」、2000年の新法、2004年の改正については、国立国会図書館の「ドイツの再生可能エネルギー法(2005年、渡邉斉志)」には法律の概要と経緯、2004年改正法文の翻訳などが紹介:http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/legis/225/022506.pdf
・2009年の改正については、国立国会図書館の「ドイツのエネルギー及び気候変動対策立法
(2)(2009年、山口和人)」には法律の概要と経緯、2009年改正法文の翻訳などが紹介:
http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/legis/241/024105.pdf
・2010年の一部改正(太陽光発電の取り扱い)については、国立国会図書館の「再生可能エネルギー法の改正(2010年、渡辺富久子)」には法律の概要と経緯が紹介:
http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/legis/pdf/02450206.pdf
・2012年の改正については、国立国会図書館の「ドイツの 2012 年再生可能エネルギー法(2012年、渡辺富久子)」には法律の概要と経緯、2012年改正法文の翻訳などが紹介:
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_3497220_po_02520007.pdf?contentNo=1&alternativeNo
・2012年の一部改正(太陽光発電の取り扱い)については、国立国会図書館の「太陽光発電の促進を見直す再生可能エネルギー法改正へ(2012年、渡辺富久子)」には法律の概要と経緯などが紹介:
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_3491894_po_02510206.pdf?contentNo=1&alternativeNo
・2014年の改正については、国立国会図書館の「ドイツにおける 2014 年再生可能エネルギー法の制定(2014年、渡辺富久子)」には法律の概要と経緯、2014年改正法文の翻訳などが紹介:
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8841951_po_02620005.pdf?contentNo=1
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この国立国会図書館の翻訳文には、経緯や背景なども説明され、翻訳文も非常に優れています。私のブログの様に偏見と個人的な意見にまみれていませんし。とはいえ、この分野の専門でもない方には、量も膨大になりますし、ドイツの法律の翻訳を読んでもいまいちピンと来ないでしょうから、「再生可能エネルギー法=FIT」についての流れを把握するために、以下の在日ドイツ大使館のHPを、
そして最後のFIT法改正となった2012年の「再生可能エネルギー法=FIT」について、以下のドレスデン情報ファイルさんの取りまとめを、
http://www.de-info.net/kiso/eeg.html
そして、その予備知識の上で、2014年改正の「再生可能エネルギー法=FIT+FIP+一部入札」については、以下の私のブログ記事をお読みいただけると、これからの議論が分かりやすくなるかと思います。
http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/archives/51856426.html
(続く)
先日、2016年6月初頭に、NHKで以下のようなタイトルのニュースが流れました。
「独、再生可能エネルギーの固定価格買取制度を廃止へ」
※リンク先は時間が経過したのですでに消されてしまっています。
それを受けていろいろな方から質問を受けましたので、それについてFBでちょっと斜めにコメントしたところ、反応も大きかったです。
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6月10日のタイムライン:
すごいなあ、NHKの手にかかると、ドイツで現在法律改正の草案が公表され、審議をしている「再エネ法」について、こんな表現になるんだ。
NHKニュースからの引用:「固定価格買取制度」について、原則、来年から廃止する方針を決めました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160609/k10010550621000.html
事実と異なる点:
1.小型屋根置き太陽光など、小規模のものについては、FIT/FIP/自家消費などの混合モデルは継続…(屋根置きPVの場合、2010年前後からすでに、いわゆる純粋な全量買取はドイツにはなくなっています)
2.NHKの言うところの「原則」の部分にあたる中・大規模な風力、太陽光は、すでに2014年に固定買い取り制度(FIT)からプレミアム授与制度(FIP)に移行済み(系統事業者は買い取ってくれないので、自身で販売先を見つける必要あり。で、一定のプレミアムがもらえる)。で、今回の改正では、そのプレミアム設定を入札制度へ移行(ただし、野立てPVについては、2014年からすでに入札制度導入済み)。
また、これは、EU指令に基づくもので、ドイツはそれに従っているだけ。
3.バイオマス、水力、地熱などは入札制度には移行しない。
これらの複雑な制度改正を、一口で、「原則FIT廃止」と言いきってしまえる報道機関って、ある意味すごいですね。
正確な改正の内容と背景を知りたい方は、7月に入って時間ができたら、EU指令の内容も併せて、こんな感じでブログにまとめますので、もう少しお待ち下さいね。
http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/archives/51856426.html
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また、ネットを漁ると、このニュースを受けて、見当違いな発言をされているブログなども多々あります…どうして経緯と背景、そして法律の中身を知らないのに、「ドイツ&FITは失敗」という結論を引き出せるのか本当に不思議ですね。
ということで、FBでの約束でもありますし、ちょうど、先週の金曜日、2016年7月8日に法案も議会を通過したので、この「再生可能エネルギー法」の改正について記してみることにします。
(続く)