純粋とは矛盾色

―Necronomicon rule book―

幸せとは何かを探していた。
最高の幸せを追求し、自らの幸せを探求し続けた。 
人と同じことをすれば腹が立ち、人と違うことをすれば角が立つ。
特別になろうと私欲に働けば、抑止を以って常人の行動なのだと気づかされる。
故に、自らを幸せにすることに意味はなく、他人を幸せにすることに意義を見つけ出す。

他人に乗り移る呪い事は自らの存在を薄め、描いた作品を腐らせる。
幾千にして腐敗。誰かに恨まれる人生でも構わない。
キャラを殺し、自分を殺し、最悪の結末で物語が終わろうと、
己の私欲をかけた場所を守り続ける。


私には、正義としての素質があったのだ。


『純粋とは矛盾色 村崎色の手記より抜粋 Necronomicon rule book』 

「そんなに怒るなよ」
「良いじゃねえか。別に減るもんじゃないし」
「失ったわよ!!!」

 私の大事な、大事なヴァージン!それを、こんな、こんな奴なんかと・・・

「うわあああぁぁ!!!」

  部屋の帰った私はベッドに突っ伏せる。悲鳴を聞かれないように枕を頭から被って出来るだけ声を殺していた。

「感謝しろよ、俺様のおかげでアイドルに操を捧げたんだからよ。こんなこと知られたらファンに殺されるぞ。夜道刺されないように気をつけな」
「誰のせいよ、ダ・レ・の・!!!」
「ちなみによ、お前がずっと六十夜様六十夜様って叫んでたけどよ。実はあれ一十松―カズマ―(本名一十一松―にのまえかずまつ―。苗字と合わせて王と書き、十一月―おうげつ―にする予定だったが、松(まつ)と月(げつ)を役場が間違え一松になってしまった悲しい過去がある。ただし、本人はそれほど気にしていない。メンバーと語呂を合わせるため一を前に持ってきて、かずまと呼ぶ。しかし最近になって、いちまつと呼ばれることがある。一人称は俺。どサドの毒舌キャラ)なんだぜ?」
「あんたなにしてくれてるのよ!!!」
「あのメンバーちょくちょくやってたんだろ?『僕はダレでしょう』ってコーナーで入れ替わり立ち替わりメンバーシャッフルしてたらしいじゃん?だからよ、俺様がビシッと分からない様完璧に兄弟に変装してやったってわけよ」
「事務所に殺される!私は知らない!不可抗力だったの!お願い信じて!!!」

 テレビを見るのが怖い。ニュースで警察が私を探しているなんて報道がされていたららどうしようという不安感が付きまとい、しばらくインドアな生活を余儀なくされる。
 私って、不幸な女の子だ。
 ・・・・・・・・・・・・くぅ・・・
 こんな時にもお腹が空くなんて、ちゃっかりしているなぁ。 

「疲れた。お腹空いた」
「飯か?俺が作ってやるか?そうすれば感謝――」
「しない。お母さんがご飯作ってくれるから」
「あん?おかあさん?」

 私が部屋から出るとタイミングよく母、香恵の声が聞こえてきた。

「あらっ、呼ぶ手間が省けたわ。ご飯出来たわよ。早く食べちゃってね」
「うん。お母さん」

 椅子に座り、テーブルの上に並ぶ豪勢な食事に目が輝く。
 野菜サラダとオムライスという、見た目も派手で豪華だ。
 お母さんの作るオムライスは他の家庭より甘めになっている。甘くて蕩ける卵焼きとチキンライスの味が絶品だった。

「おいしい!お母さん!」
「そう」
「いつもありがとう、お母さん」
「あらあらまあまあ。どういう風の吹き回し?」

      感謝に困惑するのも母娘だからだよ

 私が感謝の声をかけたからか、お母さんはなにか勘ぐろうとしていたけど、ふっと表情を和らげて微笑むお母さんの笑顔がとても可愛かった。

「くっ!」

 逆に私がお母さんに感謝の言葉をかけることに苦々しく唇を噛みしめる悪魔の姿が脳裏に映った。

お母さんになら感謝をするんだな・・・・・・そうなんだな?」


 悪魔は私に対してまた一つの策を講じようとしていた。


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「あわ、あわわわ・・・・・・」

 なんで、こんな場所に来ちゃったのだろう。
 なんで、あなたと入れちゃったのだろう。
 アイドルの一六十夜―にのまえとうや―(本名:一十六夜―にのまえいざよい―。メンバーと語呂を合わせるため六を前に持ってきて、さらに呼び名は六(む)を無いものと読み、とうやと呼ぶ。一人称は俺様。クールな完璧主義者を気取るが半面、空気を読めないため、周りから失笑されることもあったり)に誘われてラブホテルに初めて入っちゃった・・・・・・。
 やっぱり、有名人はこんなホテルなんていとも簡単に入れちゃうみたいだったし、ここで竦んだら、田舎者だって思われちゃうみたいで恥ずかしかったし・・・・・・
 っていうか、本当に、いいの?
 ここに来たってことは、目的はそういうことで、いいの?
 私、なんかで、良いの?

「どうしたんだよ?さっきから落ち着かないな」
「そ、そんなこと、ないでしゅ」

 噛んでしまいました。
 でも、でも、やっぱり私には堪えられないよ。
 だって、アイドルが目の前にいるだけで信じられないのに、六十夜様と一緒にホテルに入っちゃうだなんて、夢みたいだもの。夢なんかじゃなくて、桃源郷に迷い込んで、三途の川が見えてきそうだよ。
 今すぐにでも死んでもいいっ!心臓が高鳴って張り裂けてしまいそうっ!

「まあ、いいや。ほらっ、さっさと脱げよ」

 きたっ。やっぱり、夢じゃないのね。
 私、未成年にして大人の階段をのぼっちゃうのね。
 このまま六十夜様の手で昇天しちゃうのね。
 イかされちゃうのね。

 大丈夫。絶対、お父さん、お母さん、警察なんかに連絡しません!
 示談、事例なんかにしません!
 ツイッター、フェイスブックに何か乗せたら大炎上しちゃうので私だけの秘密にします! 
 一生、私の想い出に仕舞っておきます。
 そんな夢の一時を、過ごさせて・・・・・・

「・・・・・・いいんですか?」
「あっ?」
「本当に、私なんかでいいんですか?」

 期待からの不安。なんで私を見つけたの?
 それほど可愛くないし、特別綺麗でもない。自慢になる取柄もないけど、友達がいないわけじゃない。どこにでもいる、普通の女子高生の私が、影響画面越しにしか見ることが出来なかったアイドルに目をつけられるなんて、どう考えてもおかしいじゃない?
 そんなこと分かってる。夢でも、幻でも、現実じゃない。私が描いた空想物語。
 我に返れば六十夜様と出会う前まで時間が戻り、何事もなかったように家路に着く。何気ない日常が戻ってきて、夢のない日々が繰り返される。
 私はいま、どっちの夢を望んでいるのだろう・・・・・・

「はぁ・・・」

 六十夜様がため息を着いた。私に対してあまりに落胆した息だった。

「嬢ちゃん。俺様はそんな神聖な奴じゃないぜ」
「えっ?」
「わりぃな、嬢ちゃん。運命とか物語性を望むなら俺様は叶えてやれねえ。可愛い子が目の前にいたから声を掛けた。それだけさ。つまり君は、俺様をナンパさせるに値する女だってことさ」
「私が・・・」

 ドラマがどんなに出来が良くても、シナリオ、主演、音響がどんなに素晴らしくても、
 噛んでしまう素人を使った即興劇に勝る喜劇はない。
 
「でもまあ、あえてドラマチックな台詞を言うとすれば・・・・・・きみがどんなに遠く放れ、億千の観客の中に霞んでしまっても、俺様は必ずきみを見つけ出す」
「ふきゅぁぁぁ///」

      ファーwww

 ごめんなさい。変な声がでちゃった。聞いているこっちが恥ずかしくなる台詞を真っ直ぐな瞳で言い切る六十夜様・・・・・・
 私はメロメロになっていた。


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 私、枇々木夏美―ひびきなつみ―の頭の中には、悪魔が住んでいる。

「感謝しろよ。俺様に感謝しろよ」

 やけに恩を売ってくる、男性口調の悪魔だ。

「なんで貴方に感謝しなくちゃいけないのよ?あなた悪魔でしょう?」
「悪魔だからなんだよ?俺様がいるから淋しくないだろう?」
「うるさいわね」
「いつも同じ友達と一緒でクラスの輪の中に入れないお前を憐れに思ってお前に憑依してやったんだぞ。ありがたいと思えよ」
「余計なお世話よ!」

      感謝に癇癪

 ――意趣返しの恩教師。
 前回、友達の志田彩ちゃんに『憑依』していたこの【悪魔】――


「ありがとう」

 そう伝えたのは言葉だけだった。気持ちでは全く感謝などしていなかった私に、『憑依』は失敗し、私の行動を完全に支配することは出来なかったのだという。
 不完全な『憑依』はただ頭の中で『感謝しろと』叫び続ける。私は彩ちゃんに『憑依』していた【悪魔】を許さないし、誰が頼んだわけでもないのに、勝手に私に『憑依』して頭の中で感謝しろ、感謝しろの大クレームを叫び続けるだけの【悪魔】。そんな彼に感謝なんかできるわけないでしょう。
 そもそも『憑依』ってなに?薄気味悪い言葉使って不安を煽ってるんじゃないの?人体に影響しないでしょうね?

「感謝しろよ」
「はぁぁ…」
「感謝しろよ。ため息つけることに感謝しろよ」
「あなたのせいで余計なことまで考えてるのよ!迷惑なのよ、わかってよ!」
「まわりのことを考えられることに感謝しろよ」
「はぁぁ…」

 なんなのよ、この【悪魔】。なにかしら理由をつけて感謝させようとしてくる。口で勝てる気がしない。このままいったら生まれてきたことに感謝しろとか言いかねないんだけど。

「生まれてきたことに感謝しろ」
「言ったし……」
「お前が無駄に過ごした“今日”は、昨日死んだ誰かが死ぬほど生きたかった“明日”なんだ」
「無駄に過ごしてないし。宣伝広告を勝手に使わないでくれる?」
「感謝しろよ」
「恩着せがましい」
「ん?俺は恩を『売る』【悪魔】だ。『着る』【悪魔】は俺じゃなくて曲芸――」
「知らないわよ!あなた達の悪魔事情なんか!」

 ほんと、面倒くさくて嫌になる。こんなに相手するのが大変なら普段通り一人で生きていた方がずっと楽なんだけど。

 誰にも迷惑をかけず、
 誰にも邪魔されず、
 誰にも怒られず、
 誰にも嫌われず、
 自分の好きなことをして。
 自分の好きな時間で遊んでいられるから。
 
「・・・・・・・・・・・・」

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 ヤリマン・・・美姫が・・・?
 誰からも好かれているから魔性の女という噂がたっても、噂は所詮噂。証人がいなければ立証もできないことで、彼女の噂を証明することは今まで誰にもできなかった。
 噂と現実の二面性が入り混じる彼女で、清楚で潔癖な純粋無垢な姫を僕を含めた男性たちは信じていた。
 それを・・・こんな形で――彼女の口から真実を聞かされるなど夢にも思わなかった。

「俊哉くん、ごめんね。私は俊哉くんが思っているほどの清楚な女性じゃないんだ。一週間前はサッカー部部長の三宅くんとしたし、一昨日は家庭ゲーム部部長の亀田くんに負けて罰ゲームで挿入れちゃったな」
「・・・・・・やめろ」
「亀田くんったら私の全身を舐めまくって本当に気持ち悪かったわ。んーでもぉ、おちんちんは臼田先生よりも大きかったから超気持ちよかったんだけどね」

 彼女の口から告げられる爆弾発言。自分の知っている生徒、先生たちの名前が次々に暴かれ、顔と名前が一致してしまう僕にはものすごい吐き気が込み上げてくる。

「あ、そう言えば私、この件は誰にも言たことがなかったけど、一回子供だって下ろしたことが――」
「やめろおおおぉぉぉぉ!!!」

 僕は思わず叫びあがってしまう。美姫が告げる真実がリアルすぎて、僕の頭の奥をぐちょぐちょに掻き混ぜていた。口の端から粘り気の強い唾が垂れ落ちていった。

「・・・・・・ね?私って俊哉くんが思っている以上に波乱万丈の人生を送っているんだよ?」

 自分が起こしてしまった事実。本人が隠しておきたかったことを悪魔の力を借りて赤裸々に告白する美姫は清々しいほどの笑みを見せていた。
 僕はもう、美姫の姿が霞むほど涙で前が見えなくなった。

「ぅぁ・・・ぁぁ・・・・・・」
「この歳でやっちゃいけないことってあると思うけど、でも、実際遭遇したらどうしようもなくない?だって、感情に流されてナマで犯してほしいってどうしようもなくなる時が私にはあったんだよ。そしてそれは、今も変わらない。ピルを飲んで避妊はするけど、大好きなセックス依存症はどうしても止められないのよ、私は」
「そんなことない・・・・・・僕は・・・・・・」
「信じてくれないの?私自身が直接教えてあげてるのに?」
「悪魔の声に耳を傾けるなんて・・・・・・」
「優しすぎるね、俊哉くんは。でも、それだと人生損するよ?」
「ふざ、けるな・・・・・・おまえ、なんかに・・・・・・」

 震える拳と供に湧き上がる感情。悟っている表情をする美姫と悪魔の道化師の表情が重なり合う。
 一緒にいた時の想い出も、美しい過去も、彼女の告白ですべてが消えていく。いや、消えるわけではない。美しい想い出が、どす黒く汚れていくのが分かった。

「俊哉くんだって、本当は望んでいるんでしょう?ねえ、素直になろうよ?私を犯したいんでしょう?」
「くっ・・・」
「いいんだよ。私を犯したって。だって、私にとって俊哉くんもただ一人の男の子っていう印象でしかないんだから」
「本じょう・・・・・・美姫っ!」

 いい。分かった。僕の勘違いだ。
 美姫を救おうとした。頑張った。
 でも、ダメだった。彼女はもう、救えない。
 悪魔じゃない、人間として救えない。
 表に出てこない闇を悪魔は露呈させた。むしろ、悪魔の方が正しいことのように思える。
 僕も彼女に騙されていたのだから。
 下手したら僕も一生彼女に騙されて生きていたのかもしれない。
 他の男子生徒、先生たちと同じように魅了されていたのかもしれない。
 それほど彼女は最低の人間だった。
 人を殺しているような人間だった。
 許さない。僕は、本条美姫を許さない――。

「きゃっ!」

 力いっぱい壁に押し付ける。細い華奢な美姫の身体は簡単に動いて僕に引きづられて供に細道の影に隠れていった。そして、力いっぱいに彼女の制服を破りすて、豊満な乳房にしゃぶりついた。
 僕自身ここまで美姫に横暴な行動ができることに驚いた。

「け、ケキャキャ!そうだよ。それでこそ俊哉くんだよ。私なんか気にすることなく、自分のやりたいことをやればいいじゃない。大好きな私を犯したいって思ってたんだよね?」
「はむ。むぐむちゅっ。ちゅぱ・・・ちゅぺ・・・」
「ひぅん、は、はぁん・・・。気持ちいいよ、俊哉くぅん。あはぁん」

 五月蠅い、黙れ。僕の心を決め込むな。
 好きとか、嫌いとか関係ない。
 これは当然の報い。当然の裁き。
 しっぺ返しが来ればいいとか、他人の力を借りるまでもない。
 僕自身が彼女を犯す、ただそれだけのこと。
 大好きなセックスとか言っていた彼女が嫌いになるほど、セックス狂いをさせてやるんだ。

「むぐぅ!むちゅ!ちゅぶぶぶぶ!!?」

 彼女の頭を掴んで強引に喉奥までいきり立った逸物を突っ込ませる。イラマチオだ。

「えほ、えほ、ふぐぅ!?ふごごごぅ!!」
「歯を立てるな。奥まで飲みこめ。唾液を絡ませろ」
「ふご、ふご・・・ぉぇっ・・・ぐふぅ」

 涙目を浮かべながら僕の逸物を指示通りに飲みこむ美姫。彼女を支配している感覚が頭の奥で鋭く刺さった。

「ちゅぶちゅばっ・・・えふっ、えぐぅ・・・ふぅぅ・・・」

 今まででかい態度を取っていた彼女がしおらしく僕に従い身体を差し出す。露出した乳首も突起しており、Mっ気質の高いことが伺える。
 散々男性を誑かしていた彼女を僕が正すんだ。狂った者同士、落ちるとこまで落ちてしまうように最後の仕上げを整える。

「んっ、ぐぅっ・・・んんっ・・・!」

 美姫の片脚を持ち上げ、彼女の口で舐めさせた逸物を突き上げるように挿入する。立位プレイだ。

「き、きつい・・・ん、ふぅ、ふぅ・・・」

 慣れていないプレイのせいか、顔をしかめ、大きく呼吸を整えようとする美姫。僕は腰をゆすった。

 ――じゅぷじゅぷと、卑猥な音と供に愛液が溢れだす。

「あっ、はぁ・・・んっ、んっ、んくっ・・・あ、んんっ」

 息を荒げ、控えめではあるが快感の声をあげる。美姫が声を殺しているのはそれでも世間体を気にしているのもあるのかもしれない。誰が入ってくるか分からない状況で、長くセックスを楽しもうとしているのかもしれない。
 腰を振るたびに揺れる美姫の胸。密着している状況で繋がる僕と美姫の吐息がお互い相手にかかるのだった。

「ひくっ、うあっ・・・ああんっ!」

 挿入する逸物がまっすぐ美姫の膣奥に潜り込み子宮口に当たると美姫は痙攣し、僕の逸物を締め付けていった。

「ふぐぅ!ぅ、んんうぅぅぅん!!」

 一際強く奥まで突き上げると、我慢できない美姫の喘ぎ声が漏れだしていた。一度零れた快感に彼女は流されていくだけだ。世間体も関係なく、次第に人々に聞こえるくらい大きな声を出すようになっていた。

「これぇ、しゅごいのぉぉ!!俊哉くんのおちんちんがぁぁぁ!一気に奥まではいってくりゅのぉぉ!!たまらにゃい!!きもちひぃぃ!!」
「うるさい、だまれ。黙って僕に犯されろ」
「ひぃっ、ひぃぃ!むりぃ・・・こんな気持ちいいセックシュ、我慢できにゃいぃぃ~!」

 泣き、悦び、震え、悲願する。

「お願い、いかせてくらしゃい!ううっ、が、我慢っ・・・が、まん・・・・・・でき、うぅぅうっ、うぐっ、んぐくぅぅううぅぅっ!」

 歯を食いしばり、白目を剥いてまで堪えようとし、そのまま絶頂に達しようとしている。
 その美姫の姿は滑稽で、僕の支配欲を最高に満たしていた。

「らひて・・・・・・おくに・・・・・・俊哉くんのせーえき。ほひいのぉぉぉ!!!」

 欲しかったらくれてやる。これで最後だ。
 これで決別だ。
 大きな塊が逸物の奥から競りあがってきた。そのまま美姫の最奥に、精液を送り込んだ。

 どびゅるるっ!びゅるぅ!びゅぼぶぅぅぅっ!

「ひぅぅぅん!!!あちゅいせーえき。お腹にはいってくりゅううぅぅ・・・・・・」

 美姫が痙攣し、何度もイキ続けるのを押え込みながら、最後の一滴まで彼女の意志関係なく僕の精液を飲み干すように彼女の子宮が動いていた。

「はぁ、はぁ・・・・・・、んっ、ふ、ふふふ・・・・・・」

 僕の精液を啜り取った彼女が笑みを浮かべる。あれだけ横暴な行為をした僕に対して、美姫は何事もなかったように制服を脱いで変わりの体操服へと着替えていった。

「お互い利害が一致したね。あなたは私の身体を。そして私は貴女のカラダを。一時の至福をありがとう」

 彼女にとって僕はただの男子生徒。そして、セックスフレンド。
 ただ、それだけの関係。
 そういうプレイを済ませた彼女は、役目を終えた僕の元から姿を消していった。

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「良いですか皆さん。一日一回は人に喜ばれることをしましょう」

 先生が生徒たちにする他愛ない話。ホームルームに伝える先生の話には、私たちの心を豊かにする言葉がある。

「重たい荷物を持ったおばあちゃんが居たら荷物を持ってあげましょう。道が分からない外国人がいたら、勇気を出して話をしてみましょう。人に感謝される人間になりましょう」

 物騒な社会。近隣の住民と会話すらなくなった住宅街で、先生は時代に逆行している話をしていると思った――。

「あっ、でも、見た目で危ない人がいたら絶対についていっちゃダメよ。親の知人だってその人が言っても自分が知らなかったら信用しちゃダメですからね」

 補足のように付けた言葉に私たちは笑みが零れた。
 ――それでも、いつの時代も不変の人に喜ばれる行動があると信じたい。
 感謝されることを拒む人は早々いないだろう。良い行動をすると送られる相手を讃える言葉、「ありがとう」。私だってその言葉が大好きだ。自分だって言う時もあるし、相手が言ってきたら悪い気はしない。
「良い子」になるっていうのは、その言葉の数をどれだけ言われたか。どれだけ多くの人に言われたかということになるのだろう。
「良い子」は自分でなれるものではないし、なりたいと思ってなれるものではない。相手が自分に対して送る称号のようなもの――――そう、現代版『英雄』みたいなもの。
 つまり人は、「良い子」になることで心が豊かになるのだろう。心が豊かになるということは、暮らしが豊かになるということ。環境が豊かになり、仲間や友達が増え、時間を有意義に使うことができるようになるのだろう。人は皆、「良い子」になりたいと心の中で想っている。そして、それを可能にするために、感謝される行動を考えているのだろう。
 そのために、私、枇々木夏美―ひびきなつみ―ができることは――――
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 道化師――サーカス等見世物でお客を楽しませる人のことを指す言葉。滑稽な格好と曲芸的な行動、言動が得意とする彼の活躍でお客は日常を脱し、非日常的な世界に連れ出してくれるのだ。
 しかし、そんな彼が本当に日常に現れるとこんなに恐怖するのだろうか。夕焼けに染まる仮面。股の別れたピエロハットと血のように赤い全身コスチューム。
 彼を目撃した瞬間僕の身体は瞬間的に凍り付いた。毛が逆立ち、震えが止まらない。それは対峙する以前の問題で、今の僕は捕まっている美姫と全く同じ表情を浮かべていたに違いない。

「たすけて……」

 美姫がもう一度僕に助けを求めたが、僕は耳に入っても声を出すことは出来なかった。 

「あー?なんだいきみは?」

 彼の方が僕に訪ねてくる。きみはだれ?それはこちらの台詞として返したいくらいだった。

「あーあ、本当は誰にも見られずに事を済ます予定だったんだけどな。駄目じゃない。観客が楽屋にやって来ちゃ」

 道化師に楽屋というものがあるのだろうか。彼はそんな大層な役者なのだろうか。そう、彼にとって僕と対峙している状況は、まだ裏方なのだ。表に出てくる時の姿ではないのだ。道化師としての格好をしていながら、それはまだ非日常の格好なのだと知っているのだ。

「事を済ます……?」

 美姫は震えた声で聞き返す。その彼が発した台詞の言い回しの真意を――

「ああ。お前さんは俺様と相性が合いそうだからな。しばらくお前と供に行動させてもらうことにするんだよ。俺様だって未だに生まれてこの方時間が経ってないからな。この世界の状況を知るための隠れ蓑にさせてもらうんだよ」
「隠れ蓑……?」

 彼の言うことがまるで理解できないでいた。生まれたばかりで世界の状況を知るとか、彼がいったい何者なのかも理解できない。なにが目的なのかも理解できない。
 美姫をどうするつもりなのかも理解できないでいた。
 疑問を解決するために話し合う。僕は彼のことを理解したくて自ずと口を開くことが出来た。

「待ってよ。貴方の言うことが分からない。貴方はいったい何者なんです?なにが目的なんですか!」
「アヒャヒャ!俺様は『早着替えの曲芸師』。言ってしまえば『悪魔』さ」
「悪魔・・・・・・はあ!?」
「あーあ。やっぱり分からないか。悪魔なんかこの世にいないって言うのかね?」

 僕の叫びを聞いて、彼は全てを悟ってしまった。しかし、彼は落胆はしていない。むしろ楽観していた。

「残念ながら『悪魔』はこの世に無数に存在してるぜ?俺様の仲間もそこかしこに散らばっている。おまえ達『人間』なんて『悪魔』である俺様たちにとって雑魚なんだよ。アヒャヒャヒャ!!!」

 人間と悪魔……そこに分かり合う必要などない。別種であり、 異端であり、次元が違うはずの存在なのだから。

「まだ俺様の言うことを疑ってるんだろ?それならこれを見れば一目瞭然だろう。・・・・・・ほれえ!」

 彼はさらに自分の言うことに間違いがないと、立証するように彼の仮面を外した。素顔を見せた。
 見せたはずだった。
 顔はなかった。
 目も、鼻も、口も、前髪も、全ては闇に消えていた。
 仮面によって顔を作っていた。それが彼の正体だった。その衣装の中も、そのピエロハットの奥も、全ての答えは闇に消えた。
 僕も美姫も声を失った。叫ぶ気力すら湧かなかった。恐怖が凌駕すると人は青ざめることも脱力することも、泣くことも息をすることも失うのだと、この時知った。

 「アヒャヒャ!いいねえ、その表情。絶望―かんき―するその表情が俺様の生きる糧となるのよ!俺様人の歓喜する表情大好き!もっともーと驚かせてやるんだよ!」

 彼は善という感情はなかった。悪意に満ちて、嫌がらせをすることに長けていた。見たくない、聞きたくない。触れたくない、嗅ぎたくない――そんな恐怖を体現することを無理強いにしてくるように、 無理やりショーの開幕を知らせたのだった。

「観客はたった一人。だけどお前さんのために特別に見せてやる。俺様の最も得意とするショータイム――『高速かみな脱皮』!」

  
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「『正義』は誰の心にも存在すると思うのだ」

 村崎色はそう語り始めた。 

「当然だろ?人が『行動』するのに目的も目標も持たないはずがないだろう?今日一日何かをするために目を覚まし、何処かを目指して歩みだす。誰に言われるわけではなく、自分の目標のために人は行動を起こす。――つまりそれは『正義』の心だ」

 誰のためではなく、自分のため。自分の幸せのために行動する。それが人。それが本能。
 思考があり、思想があり、理想があり、私欲がある――

 しかし、そこにはダレもいないのだ。 
 自分の、自分による、自分のための幸福――そのために犠牲になるダレか。
 ダレが傷つこうと――、
 ダレが泣こうと――、
 ダレが痛もうと――、
 自分だけが幸福なら、それは 世 界 で 只 一 人 の 成 功 者 なのだと――

――貴女は、それも『正義』だと思いますか?

「ああ、思うね」

 色は即答した。迷いなく答えた。「それも一つの『正義』だ」と。
 自分のみの幸福を追求し、味方が全員瀕死の重症を負おうと、見方を変えればそれは一つの『正義』の在り方なのだ。
 彼女の前に敵はいない。
 彼女の横に味方はいない。
 彼女の後ろには誰もいない。
 誰と比べることのない幸福なら 世 界 で 只 一 人 の 生 存 者 なのだと――

――貴方は、それが『正気』だと思いますか?

 戦場に残された彼女に笑顔はない。
 戦場に残された彼女に悲壮はない。
 戦場に残された彼女に表情はない。 
 そうやって生まれた彼女に、『正義』はない。 

「ただね、私は思うんだよ」

 唐突に色はつぶやいた。私の質問に答えは言わなかった。

「『正義』がいるなら、『悪』だって存在するんだよ」

 色の声色は先程と変わっていた。悲観とは違う、真逆。何かを期待する吉報を聞いた興奮に口走る声だった。

「当然よね?『正義』が存在するなら『悪』だって存在してなくちゃいけないんだ。『正義』に倒される『悪』が存在してこそ世界は成り立つ。逆に『悪』が居なくなれば『正義』なんて価値が生まれないだろ?」
「そんなことない。『正義』に価値はあって『悪』には負荷の価値が既に存在している。世の中は±0じゃない。そうじゃなければ、世界は歴史を繰り返すだけ」

 より良い未来を築くために人は歴史を学び過去を勉強する。世界を変えるために人は勉強する。
 戦争のない世界を――
 笑顔が絶えない世界を――
 誰も悲しまない世界を――

「貴方は、それが正気だと思うのか?」

 自分のためではなく、誰かのため。誰かのために自分の行動する。それが人。それが本能。
 思考があり、思想があり、理想があり、私欲がある――

 しかし、そこには私はいないのだ。 
 皆の、皆による、皆のための幸福――そのために犠牲になる自分。
 自分が傷つこうと――、
 自分が泣こうと――、
 自分が痛もうと――、
 皆が幸福なら、それは 世 界 で 只 一 人 の 犠 牲 者 なのだと――

「貴女は、それも『正義』だと思うのか?」

 ええ、思います。

 私は即答した。迷いなく答えた。
 皆の幸福を追求し、自分が瀕死の重症を負おうと、見方を変えればそれは一つの『正義』の在り方なのだ。
 私の前に敵は泣き。
 私の横に味方は痛み。
 私の後ろには皆が苦しむ。
 私と比べることで皆が幸福なら 世 界 で 只 一 人 の 不 幸 者 なのだと――
 戦場に眠る私に笑顔はない。
 戦場に眠る私に悲壮はない。
 戦場に眠る私に表情はない。 
 そうやって生まれた私に、『悪』はない。

「無知とは愚かだな。お前は『悪』を 知 ら ないだけだ。自分を不幸にしておきながら他人全員が幸せだと勘違いしている。お前は『悪』そのものなんだよ」
「ち、ちが――」
「いや、『悪』そのものが既に固有化して『正義』を振り翳しているのか。私のもとへやってきた目的はそれか」
「ちがう!私は話し合いをするためにやってきたんだ!決して貴女を〇〇に来たわけじゃない!」
「別にお前の目的などどうでもいいんだ。 既に『悪』がすぐそこまで来ているってことが分かればいい。私は救わなければならない。――この世の『悪』に苦しむすべての人を」
「きゃっ!」

 室内に吹き荒れる突風。まるで色を中心に生み出される暴風は本に埋もれる室内を深緑生い茂る密林に風景を変えた。

「あ、ありえない……」

 今まで居た場所が変わったこともあり得なけば、摩訶不思議な現象すらあり得ない。
 ココが魔法や魔術の世界はあり得ない。列記としたリアル、日本。
 種も仕掛けもあるはずの社会なのに、私は闇社会に足を踏み入れてしまっていた。
 日常から脱し、非日常世界に迷い込み、そして私は〇〇される。

「お前を救おう――」
「あ…ああ……」

 こんな場所に来なければよかった。
 そうじゃなければ、悪も、正義も、生まれなかったのに……




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 パルティアが洞窟に閉じ込められて数日が過ぎた。シリルガレンの元へ『スライム』が帰ってきたのだった。偽カディルとしてシリルガレンに跪く姿に、シリルガレンは興奮を覚えていた。

「おお。戻ってきたか、『シェイプシフター』」
「・・・・・・シェイプシフター?」

 『スライム』にとって聞いたことのない名だった。それは名前なのだろうか?
 誰の・・・?
 誰に・・・・・・?
 名づけられた・・・・・・・?

「おまえの名前だ。数多の『スライム』から俺様はおまえを生み出した。そしておまえは俺様の命じた通り、さらに強くなって帰ってきた」

 いちごから魔力を手に入れ、レスカから体力を手に入れ、カディルから××を手に入れて帰ってきた――

「魔道具から魔族を作れるのは魔を統べる俺様しかいない。 おまえの誕生こそが次の新たなる魔族を生み出す糧となる!最強、最恐、最凶。こんな小さな化物に恐るべしパワーを持たせるとは末恐ろしい。これで再び世界は混沌の世界へ戻る。世界の終末がすぐそこまで来ている!」

 シリルガレンの恐るべき計画。終末を齎す魔道具の魔物の製造の成功。
 変身、略奪、強姦などその計画の一つに過ぎない。
 いずれは強制操作による心の破壊。肉体―うつわ―のみが残り精神の入れ替えを可能にし、望まない結婚を強要する。
 目に見える幸福と不幸の確立。――格差。一方的な幸福。そして不条理な平等。
 目に見えない曖昧さによって救われていた部分がある。
 目で見てしまうと自分がいかに不幸であると思い知らされた。
 知らないことで、世界は平和に見えた。見たくなかった現実を見てはじめて思い知らされる、そこにある罪を。

「ディルは!?」

 パルティアが叫んだ。『シェイプシフター』が答えた。

「・・・死んだ。俺が殺した」
「・・・・・・う・・・ううぅぅ・・・」

 目の前が真っ暗になった。洞窟の中よりも深いどん底にパルティア姫は落ちた。
 その目に涙を滲ませ、霞む景色を拭い取ることができなかった。パルティアはそれでも否定したくて偽カディルを見ていた。彼が死んだことを否定したくて、偽カディルに姿を重ねて救いを求めている姿が痛々しい。

「そんな悲しそうな目で俺を見るなよ、姫」

 偽カディルに冷たくあしらわれたパルティアはその辛い真実を受け入れるしかなかった。
 その現実を見るしかなかった。
 そこにある罪を知るしかなかった。
 世界は平和じゃない。嘘なのだ。

 その嘘の中で、パルティアを救おうとしたカディルを一掃した。
 仲間たちを一閃した。
 殺した。
 コロした。
 コロシタ。
 ダマシタ。
 ナリスマシタ。
 リョウジョクシタ。
 ウバッタ――――。
 ノウリョクヲ。
 サイノウヲ。
 イノチヲ。
 カケガエノナイモノヲ。 

 ――――ウソだ。
 『シェイプシフター』がココに居る意味。
 幸福と不幸が確立された世界――――ウソだ。
 幸福を奪った――――俺―つみ―。
 命令通りに動き、任務のために遂行し、実行してきた。それが幸福・・・・・・自分の存在価値?
 ・・・ホントウに?

「俺はダレだ。何の為に生きている?」
「おまえは世界を混沌の世界にするために生まれてきた」

 シェイプシフターの初めての疑問に答えを出すシリルガレン。その絶望的な事実を突きつける。
 生まれることが他人を不幸にするという存在意義。
 混沌―カオス―の存在。罪そのもの。

「殺すことは誰にでもできる。しかし、生み出すことは俺様にしかできない。まさに魔族の勝利だ」

 誰も生んでほしいと頼んだわけじゃない。
 生きることが罪なのか。
 生まれたことが間違いなのか。
 自分という存在に意味はない。自分という存在に価値はない。
 他人がいくら誉め称えようと、自分の生が恥る存在と思うなら、生きる必要があるのだろうか。

「俺はダレだ。何の為に生きている?」

 もう一度『シェイプシフターは尋ねる。シリルガレンは二度は言わなかった。
 いや、言わなかったのではなく、言えなかった。
 その言葉を紡ぐ前に、『シェイプシフター』の異変を察したからだ。カディルの姿でシリルガレンと対峙する『シェイプシフター』。剣を取り出し魔力を込めて、自らの存在を否定する。

「なにをする!?」
「実際のところ、俺自身もなにをしているのか理解できない。でも、しなくちゃいけない気がするんだ。誰の目に見えることなく、再び影として消えることを俺は望む」
「自爆する気か?何故だ!?最恐を生み出した俺様の夢が・・・っ!どうしてこんなバカなことをする!!?」
「最恐?それは勘違いだ。俺は他人に『変身』するだけの雑魚キャラだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「馬鹿物があぁぁぁぁ!!!」

 世界を混沌へ導く化物を理解できない。それは例え生みの親であっても――


「『混沌と悪魔の終焉‐Chaos Devil End‐』」


 偽りの平和と供に、世界は音を立てて崩れ落ちていった。



 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 洞窟は崩壊した。
 しかし、 瓦礫に埋もれた僅かな空間の中で、『シェイプシフター』は目を覚ました。
 頭の下から温もりと柔らかい肉感を感じる。目を開けると、『シェイプシフター』の顔を覗き込むパルティアの姿があった。
 大粒の涙を今も流し、『シェイプシフター』の頬を濡らしていく。

「死なないで」

 パルティアはそう『シェイプシフター』に言った。

「俺を気遣っているのか?俺はお前の仲間を殺した」

 カディルの姿で告げる『シェイプシフター』にパルティアはまた苦しそうな表情を浮かべていた。

「ええ。だから私はあなたを絶対に許しません」
「・・・意味が分からない。許さない相手を死なせないのか?」

 生きる必要などない『シェイプシフター』に命など惜しくない。しかし、パルティアはその命を見殺しにさせなかった。

「――もう、ディルを失いたくない」
「・・・・。そういうことか」

 子供のようなことをいう姫に苦笑し、『シェイプシフター』は彼の代わりに、パルティアの膝枕で目を閉じた。決して『シェイプシフター』を放そうとしないパルティアに、しばらくした後身体を起こした。

「俺が帰ってきた水路を使おう。洞窟内は道が塞がれ誰も脱出できないだろうし、この地下水を通っていけば迷うことなく出られるはずだ。後はどこまで道が塞がっているか。魔力と体力が持てばいいけど・・・」
「・・・・・・・」

 きょとんと、呆然と『シェイプシフター』を見つめるパルティア。

「どうした?せっかく救われた生命をみすみす手放すつもりなのか?」
「い、いえ!」
 
 我に返ったパルティアに手を差し出し、パルティアは『シェイプシフター』の手をつかんだ。
 二人は魔力で明かりを灯し、下半身を水の中に浸かりながら、洞窟の脱出を試みていた。決して容易くない水路は問答無用で体力を奪い、いつ天井が崩れるかもわからないぎりぎりの状況を二人は足早に進んでいった。
 塞いだ岩や檻は魔力と剣さばきで突破していく。奪った仲間の能力で姫を救うとは幸運にも皮肉なものである。
 『シェイプシフター』はシリルガレンが生んだ最凶の夢。しかし、それは今や最強のパーティの力を持った頼もしいパルティアの護衛になっていたのだった。
 いつ死んでも構わない。
 いま死んでも構わない。
 そんな二人が生きようとしている。
 脱出を試みようとしている。
 何の為に生きている?
 生きて何をするつもり?
 辛い現実を生きて何になる?
 流れに身を任せれば楽に死ねるのに?

「あ――」

 足を取られたパルティアの身体が濁流に流されそうになる。しかし、間一髪のところで『シェイプシフター』がパルティアの手をつかみ難を逃れた。

「大丈夫か?」

 二人ずぶ濡れの格好。否応なく寒さが体温を奪い続ける。しかし――

「はい!」

 パルティアは強く頷き歩みを進めた。

「よし。いこう――」

 ――二人は絶望のなか、希望もなく、必死に生きようとしていた。
 今はそれでいい。
 何故なら、前に進みさえすればいつか必ず光は差し込んでくるのだから――。


 
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 カディルの寝室までやってきた『偽レスカ』。ノックすると間もなくカディルが顔を出し、疑う様子もなく『偽レスカ』を招き入れた。

「カディル!」

 飛びかかった『偽レスカ』に一瞬身構えるが、カディルに唇を突き出す様子はまるで密会する恋人同士のようである。しかし、レスカの顔を両手で挟みキスを防いだカディルであった。

「ン――――」
「なにをするんだよ、いったい」
「だってぇ。カディルとキスしたいなって」
「バカ。場所が場所だろ。その・・・パルティア姫に申し訳ないだろう」

 寝室といえど城内。仲間とはいえ、いちゃついている姿を傭兵たちが見ていたらよからぬ噂が瞬く間に広がるだろう。男性としては賢明な判断で、女性としては尚早な判断だった。

「ふぅん。カディルって私とパルティア姫どっちを取るのかしら?」
「何の話だよ?」

 唇を尖らせて面白くないことを表すレスカ。

「たとえば、私とパルティア姫の二人が捉えられていて、その前に番人が見張っています。カディルはどちらか一人を助けることは出来るけど、そのあともう一人は番人に殺されてしまいます」
「なんだよ、それ」
「カディルならどっちを助ける?」

 IFストーリーを語りながらも期待せずにはいられないレスカ。ベッドに押し倒しながら尋ねるレスカに、カディルは本気で戸惑いを見せていた。

「そんなの決められるわけがないだろ」
「男らしからぬ言葉だね」

 レスカの瞳が鋭くなる。実に面白くない返答だった。

「仲間を救うか、姫を救うかなんて俺にはできない。もちろん、二人のうちどちらかを見殺しにすることも出来ない。殺されると分かっているのに、はいそうですかって言って二つの選択を強要されるのなら、俺は絶対に選択肢を選ばない。それより俺は二人を一緒に助け出す方法を考えるね」

 姫と仲間。異性と異性。好きと好き。
 勇者だからこそ女性が集まるのか、勇者の素質があるからこそ女性が集うのか。
 勇者の血を引くカディルにとってそれは正しい判断である。それが本心であり、それが願い。
 『世界』を救うか、『一人の女性』を救うか、と問われれば現代の勇者であればこう答えるだろう。どっちも救うと――。

「ふうん。そうか、さすが勇者の血を引く者の言葉だね」

 ――たとえ、『一人の女性』を傷つける結果になるとしても。

      イケメン

「レスカ・・・?」

 レスカはカディルにそれ以上なにもしないまま部屋を後にする。寝ずの番をしている傭兵がいるにも関わらず、カディルの傍には誰も居ない廊下で静まり返り、異質な不気味さを醸し出していた。
 『偽レスカ』はカディルの答えを飲みこむと、化けの皮が剥がれたように歪んだ笑みを崩していた。

「本当に二人を大事にしているのか・・・?それとも、別の思惑があるのか。クスクス・・・その発言に偽りがないか証明してもらおうかな」

 レスカの姿をしていたモノが崩れていった。思い描いた人物像を強く描き、その型に自分を流し込んでいく。レスカから再びパルティア姫へと変身し、ついでに正装まで完璧にこなしていた。

「姫が自ら誘惑して来たらどんな気持ちになるだろうな?仲間と同じ答えを出せるか見物だな、クヒヒ・・・」

 体力が付き、口調が男性口調へと変貌した『スライム』。変身能力と供に進化を繰り返す怪物。

「ディルがいけないんですよ。素直に私を選んでくれなかったから――その血を奪いたくなるんですよ」

 カディルとセックスすることを望み、パルティア姫としてなりすまし再び部屋をノックする。
 記憶も身体も完璧にパルティア姫と同じ状態で、カディルの前に現れた。


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