純粋とは矛盾色

―Necronomicon rule book―

幸せとは何かを探していた。
最高の幸せを追求し、自らの幸せを探求し続けた。 
人と同じことをすれば腹が立ち、人と違うことをすれば角が立つ。
特別になろうと私欲に働けば、抑止を以って常人の行動なのだと気づかされる。
故に、自らを幸せにすることに意味はなく、他人を幸せにすることに意義を見つけ出す。

他人に乗り移る呪い事は自らの存在を薄め、描いた作品を腐らせる。
幾千にして腐敗。誰かに恨まれる人生でも構わない。
キャラを殺し、自分を殺し、最悪の結末で物語が終わろうと、
己の私欲をかけた場所を守り続ける。


私には、正義としての素質があったのだ。


『純粋とは矛盾色 村崎色の手記より抜粋 Necronomicon rule book』 

 先生と身体が入れ替わって、先生として生活しながら家に帰ってくる。
 北河理恵としてではなく、乙成武としての家には、家族の温かさもなければ、大層な家の中で一人で生活しているのだから寂しささえ覚えてくる。
 帰ってきて「ただいま」って言っても、お母さんの「おかえり」という声は当然聞こえない。照明の明かりをつけて家中を照らして、初めて家の中に人がいると外部に知らせることができる。当然、だからといって周りが気にかけるような素振りはない。赤の他人で、近所付き合いの皆無の引き籠りな人――それが私の学校で先生をやっていることを改めて思い知る。
 先生というにはあまりにも尊厳はなく、尊敬できるかといえばそうでもない。私たち生徒が先生として敬っていることが、乙成武としてのアイデンティティーは生徒が作り、生徒が崇拝した彼の人格は、歪んだ理想像へ変わっていった――それが、彼の奇行の趣味趣向。唯一彼が捻出したお遊戯――盗撮という犯罪行為。
 信者(生徒)の行動を逐一確認し、自分の崇拝が弱まっていないということを撮影する奇行。生徒の自由を束縛し、生徒の思想を拘束し、自身を尊重させ続けるよう強制する彼の犯罪行為。自分で何が間違っているのか分からず、そして誰も間違いを教えないまま成長した大人の姿。
 捻じ曲がった性格はもう元には戻らない。伸びてしまった月日は大量のDVDを部屋の中から見つけ出すことが出来た。
 あとはこれを処分するだけ。彼には絶対に出来ないのなら、私が変わりに目的を達成させる――。

「こんなものがあるからいけないのよ。歪んだ性癖はすべて断罪しなければならない」

 風紀委員として私が正す。学園の風紀は家庭内の空気から変わらなければならない。彼が出来ないのなら私が処罰を下す。それが乙成武という一人の男性を治す第一歩になると信じて。
 故に、DVD一つたりともこの部屋に証拠を残してはならない。一つでも残したら奇行を思い出し、また元の生活に戻ってしまうに違いないから。

「本当にもうどこにもありませんよね・・・?」

 私の探せる場所は全部探した。想定している箇所を探したとしても、本当に全てのDVDを見つけたという確証はないのだから。それを確かめるには、本人以外に成し得ないから――

「・・・・・・仕方ありません」

 ため息を一つ吐いて私は覚悟を決めた。
 正義感故に、私は乙成武の記憶を少しだけ自身に取り込もうとした。それはつまり、彼の性癖、趣味趣向を自ら知ろうという愚かな行為。理解する必要のない性癖に理解しようとする、風紀委員として矛盾した行為。
 だけど!そんなの許してはいけない。風紀を乱す彼の行為を止められるのは私しかいないじゃない。
 ・・・大丈夫。彼なんかに私は負けない。本当に、ほんの少しだけだから。彼の記憶から、DVDの隠し場所を掴む程度のものを取り込んだところで、私に支障はないはず。現に彼の生活リズムを知るために記憶を取り込んだ時には、現に特に変わったところはなかったのだから。

「―――――――」

 私は目を閉じ、少しずつ彼の記憶の引き出しを開けていった。知られざる彼の私生活を重点を置き、彼の記憶を覗いていく。
 ほんの少し・・・
 あと少し・・・
 ・・・・・・。

「・・・・・・・・・・・・わかったわ」

 彼が隠していたお気に入りのDVDの場所を見つける。それは、私の想定の届かない、ベッドで隠してある引き出しの奥に隠されていた。
 さらに大量に出てくるDVDの山。彼が溜めた宝の山を見て私は吐き気すら覚えた。

「・・・・・・最低です。あの男は・・・・・・」

 全ての男性が悪いわけではない。しかし、女性を欲求の目で見ているという男性が一人でもいる限り、男女平等ではないと私は思う。
 学園の風紀を正すために一刻も早く捨てるべきである。ゴミ袋に包み、彼の秘蔵コレクションを翌日には清掃業者に持って行ってもらうことが学園のためになるはずだ。

『それは違うよ』
「・・・ダレ?」

 私の頭に直接語り掛けてくる彼の声。乙成武の最後の説得が聞こえてくる。

『きみは学園の風紀のために男女の愛を否定するつもりかい?学園にカップルがいないと信じているわけじゃないだろう?いや、きみの言う学園の風紀に、男女の仲は存在するのかい?』
「黙りなさい!私を口説こうって言うの?語り掛けるしかできない貴方が!!?」
『君は認めたくないだけなんだ。恋人という関係に嫉妬していることに。学園の風紀のために男女の愛を否定しなければいけないことに』
「黙りなさい・・・」
『学園の拘束を破る生徒を見て嫉妬している。化粧品を持ってきて女子力を高めている生徒を妬んでいる』
「・・・だま、れ」
『まじめに生活している自分に対して悲しんでいる。校則を破りたいという想いが我慢できなくなっている』
「黙れ、黙れ、黙れ、黙れ!」
『俺のDVDに目を通しなさい。そうしたらわかるはずだ。どれだけ自分が他の生徒より劣っているか。女子生徒の普段の生活が見えるはずだ』
「・・・面白いこと言いますね。私が?他の生徒より?劣っていると??」

 彼の挑発で乾いた笑いが出た。彼が私に説教できる立場にあるとも思えない。そして、彼のDVDが私の人生を変えるとは到底思えない。そんな彼が私を馬鹿にすること自体滑稽で、愉快で、嘲笑を買った。

「いいでしょう。たった一度だけ、3分だけ見てあげます。こんな下らないものを私が見てあげるんですから、感謝してくださいね」

 売り言葉に買い言葉。私は彼のお気に入りのDVDをつかみ、プレイヤーに入れて再生した。

『・・・・・・・・・・・・』

 彼はこれ以上何も言わず、それでも私を冷笑していた。続きを読む

 やれやれ・・・ここまで予定を崩されるとは思わなかった。
 北河理恵という女性は正義感が強い。風紀委員として活躍している時から他の生徒よりも躍起になっているのは、それが彼女の生き甲斐になっていたかもしれない。
 心に染みついた体制は身体にも伝染するのか、身体が”入れ替わった”にも関わらず、乙成武の意識は北河理恵が言っていた通り、”入れ替わり”から三日経過した現在も思い通りに動かすことは出来なかったのだ。

『当然です。先生の意志なんかに私は負けません』

 まるで北河理恵という生徒が身体に宿っているように、私の意志に反して身体が勝手に彼女の習慣をなぞっていく。朝6時に帰宅し、早朝ランニングで目を覚まし、部屋の掃除をした後で朝ごはんを食べて、占いを見てから制服に着替え、友達と供に学校へ向かっていく。
 変わらない日常をなぞるように繰り返される毎日。学校から帰ってきては一時間勉強した後、お風呂にゆっくり入って、制服の皺を伸ばし、翌日の学校の準備を整え、10時には就寝する。
 規則的な生活、純粋無垢な性格。まるで俺の意思は埋まる隙がないほどに組まれた生活リズム。
 俺の意識は北河理恵の生活を盗撮しているに留まるしかなかった。まあ、それはそれで満足であるのだが、面白くはない。せめて、俺の意志が少しでも関与でき、『オナニーしろ』と頭に訴えかけてその通りに身体がオナニーを始めてれればまだ楽しめたものを。意識が齎す関与すら遮断しているせいか、今のこいつは五感を失っているはずである。ただ生活リズムの通りに時間に沿って行動する空っぽの器だ。

「なあ、俺に身体を洗わせてくれよ」
『触らないでください。汚らわしい』

 よほど俺のファーストキスがトラウマなのか、絶対に俺に身体を洗わせてくれない。

「そうは言っても、今は俺がきみの意識なんだよ?仲良くしようじゃないか」
『結構です。私は私で勝手にやりますー』

      主導権は譲らない

 目上のいう事を聞かないのは今時の女子高生か。苦々しい表情を浮かべながら黙々と身体を洗い続ける理恵のギャップが鏡に映し出されている。綺麗に洗うと言ってもスポンジで簡単に擦って終わり程度のものだ。泡が身体に付着すれば汚れが落ちたと思う典型的な初心者だ。

「俺が洗ってやるって。全然綺麗に洗えてないぞ。そんなものじゃ一日の汚れは落ちないんだ。爪の間や指の隙間もちゃんと擦らないと洗ったうちには入らないんだぞ」
『うるさい!そうやって私の胸を揉むつもりでしょう!』
「洗う為じゃないか。胸の谷間にだって汗が溜まるし、腋の匂いだって気にかけないといけなくなるんだよ?実際、いまの君からは――」
『うぇぇ・・・さすが、そういう部分に異常に執着するマニアね。変態がまじめに私に指図しないで、フン』

 お湯を被り、泡を洗い流してすぐに浴室から出ていってしまう。やることはきっちりすると思いきや、思いの外自分のことに対して雑な印象を持つ。スポンジを滑らせるようになぞっただけで胸を洗ってしまった行動を見て、俺はある一つの可能性を思い描いていた。
 それまで俺は何も言わず、ただ好機を待つ。それが何時なのかは分からないが、二週間以内――”入れ替わり”期間が終わる前でなければ俺の負けだ。

『ふぁ・・・・・・そろそろ寝ようかしら』

 何も出来ずに”入れ替わり”が終わるのを指を咥えてみているしかないのか――残念ながら今日もまた一日が終わろうとしている。布団に入る理恵が就寝すれば、俺もまた嫌でも眠らなければならないのだから――

 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・
 ・・・

「・・・・・・・・・ん?」

 おかしい。俺の意識はまだ眠っていない。時刻はとっくに定時を過ぎている。規則正しく就寝する理恵が夜更かししているという事だ。
 いったい、なにが起こっているのか?自分の意識を少し下に動かしてみる。そこで目にしたのは――

『んふぅ・・・ん・・・ん・・・』

 なんと、このカラダ。自分を慰めているじゃないか。

『はぁ、んっ・・・!んあ、ああ・・・・・・ダメ、なのに・・・・・・あぁっ・・・』

 頭ではそう思っているのに、手が止まってくれない。パジャマの上から胸を揉み、何度も何度も身体をビクつかせる。

『はやく、終わらせないと・・・・・・明日に支障でちゃうからぁ・・・』

 そう言いつつ彼女を覆う布団の一部がもぞもぞと動いていた。パジャマ越しにふっくらとした乳房とやんわりとした肉の感触が合わさるように、胸元と股間からは、細い指先がパジャマ越しに当たってくるのが感じられる。
 何をしているのかなんて言うのは聞くことが野暮だ。そして、それこそ俺が待ち続けた瞬間だ。そう、彼女自身が来る定期的の自慰行為を待ち望んでいたのだ。

『ああっ!?』

 抗えぬ欲求に負けて手がクリ〇リスに触れ、思わず声を上げてしまう。

『あっ・・・あぁ・・・・・・・・・こんなに・・・・・・少し擦るだけでイヤらしい水音がして、恥ずかしい。こんなことをしては、ダメなのに・・・・・・んんぅ!』
「よぉっ」
『ヒッ!?見てたんですか!?』

 俺の声を聞いて驚いている。当然だ。いま俺は北河理恵の秘密を知ってしまったのだ。
 理恵の身体は意識がない。つまり感覚もなく、ただ同じ周期を繰り返す器だ。いかに誤魔化したところで、その身体は感じてなんかいない。
 見えていない視点でいくら胸を揉みしだいたたところで、水音なんて聞こえやしない。感じてなんかいないから、自慰行為は永遠に終わらない。
 しかし身体は馬鹿正直に定期的に自慰行為を始める。俺が見ていたとしても身体を慰め、感じるまで身体を弄り続ける。模倣的に自慰行為をしたところで、精神と身体が繋がらない限り、快感は得られない。

「感じたいだろ?」
『別に、感じたくなんかありません』
「あ?」
『これは周期的に来る性的な処理です。別に感じなくたって乳首は勃ちます。別に気持ちよくなくたって、イけばいいんです』
「・・・なるほどな」

 どおりで彼女は性に対して開拓が弱いはずだ。今まで愛撫していた刺激はすべて俺に流れていたにもかかわらず、全然気持ちよくはなかったのだ。女子高生にしては疎いその刺激にもどかしさを覚える俺がたまらず声をかけたのだ。彼女にとって自慰行為は快楽を得るものではなく、処理するものという認識ではこの先いくら経っても快感は得られないだろう。
 故に――俺が理恵の身体に付け入る隙はこの瞬間しかない。

「俺に任せろ」
『えっ・・・』
「俺がきみの身体を開拓させてやる。そんなもどかしさを味わうのはもう辞めにしろ」
『冗談じゃありません。結構です』
「こういう事は俺の専門職」
『先生・・・保健体育の先生でしたか?』
「いや、国語教師だ」
『そうじゃなくて、反語表現!』
「むしろ、誰かに教わりたくても教われるものじゃない」
『教わる必要があるものとは思えませんが・・・』
「確かに。でも、決して損はない知識だ」
『・・・・・・まあ、そうかもしれませんが・・・』

 彼女の意志が少し揺らいだ。あと少しか――

「北河さん。もう意地を張るのは止めにしないか。いまの俺はきみの意志できみ自身なんだ。精神と身体が一つになれば、きっと今より得られるものがあるはずだ」
『そんなこと言ったって・・・』
「第一、今の北河さんは――腋から匂いが出てるんだよ?」
『う、ウソ・・・』
「本当なんだ。毎日走っているのに、身体を雑に洗うから匂いが発生しているんだよ。今のきみには分からないけど、俺にはずっと分かっていたことだ。きっと、まわりのみんなも気付いていたはずだよ。それなのにきみは誰の言葉も聞かず、自分の意志を貫いて迷惑かけている。風紀委員が風紀を乱していることに気付かない――」
『そんな・・・先生。本当ですか!?わたし・・・なんてことを・・・』

 ショックを隠せない。理恵の声が弱々しくなっていくのに対し、少しずつその傷を埋めるように優しく慰める。

『だから、ほんの少しでもいい。心を開いて。俺を受け入れて。お互い感じる自慰行為を教えてあげる。心も身体も満足する、そんな気持ちいいオナニーを――五感がなければ快感は得られない。身体が満足できない自慰行為は本当に救われるのかい?』
「・・・・・・・・・・・・わかりました」

 理恵の身体が俺を受け入れた。少しずつ、俺は理恵と混ざり合っていくのを感じた。

「ありがとう。理恵さん・・・」

 この時、身体は五感を手に入れ、俺は彼女の身体が持つ北河理恵の主導権を少し手に入れた――。



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「生徒会の持ち物検査です。皆さん。校門をくぐる際、鞄の中を見せて下さい」

 朝の通学時間。校門には私、北河理恵―きたがわりえ―の声が突如響き渡った。そこで待っていた生徒会の一員に動揺し始める生徒達。風紀委員の私たちの突然の持ち物検査で慌てて引き返そうとする女子生徒達――。

「あなた。そこで何をしているの?」
「あっ、ちょっと。これは・・・」

 鞄を取り上げて中を覗けば、お化粧やら携帯電話等校則違反の物品の数々が教科書と一緒に乱雑されていた。私はそれを取り上げて酷くため息をついたのだ。

「こんなものを持ってきて。うちは校則で化粧禁止です。これらは生徒会が没収します」
「そんなぁ」

      制服が違うのは校則違反?(いいえ、間違えました)

 最近では一年生からも化粧を始め、学園の風紀が乱れが一段と激しくなる。携帯依存している生徒も多く、風紀委員では多くの校則違反の商品を回収することが出来た。しかし、私の心は晴れることはなかった。

「はぁぁ。風紀委員が活躍すればするほど悲しくなるわ」
「お疲れ様だったね。これは先生が預かるよ」

 風紀委員の担任である乙成武―おとなりたける―が生徒から回収した物品を取り上げようとする。私は先生にそれの入った箱を預け、先生が両手を塞ぎ鞄を地面に置いたのを確認した。

「先生。あなたもです」
「・・・・・・えっ?」
「当然でしょう?先生ともあろう方がまさか学校の規則に外れたモノを持ってきてはいないでしょうね?」
「ちょっ、ちょっと待って!北河さん――開けないで!」

 普段はしない生徒から先生への持ち物検査。それは断っておくと私が独断でしていることではない。
 少し前から、学園ではある噂が持ち上がっていたことが発端だった。

 ”女子生徒を盗撮している人がいる”

 その噂は一件や二件だけではなく、数多くの問い合わせが来るほどの事案であり、風紀委員の最重要課題と位置づけた。犯人はネット動画で盗撮をあげ、視聴者の多さで多額の返戻金を貰っているようだった。罪なき生徒達を撮影しネットで全国の晒し者にする悪しき違法者を断じて許すわけにはいかない。
 私は遂に犯人の目星をつけ、そして辿り着いた。

「――やっぱり、あなただったんですね。乙成先生」

 先生の鞄の中に入っている小型カメラと小型SDカードの予備。それは撮影用の道具以外の何物でもない。小型ながらにしっかりとマイクが装備されており、様々な音を高度に拾うことが出来るだろう。気にしなければカメラとも分からない、ペンシル型の盗撮カメラ。それは既に常習さえ思える悪態の正体だった。

「・・・・・・・・・・・・」
「そんな・・・人があろうことか私と同じ、風紀委員会の中に潜んでいただなんて・・・・・・!」

 悔しくて全身が震えてくる。今まで優しい顔で助けてくれた先生が・・・裏では生徒達を売買していたという事実を受け入れることが出来ない。しかし、押収された証拠が物語っている。私が追い求めていた犯人がこうして目の前にいることを。

「勘のいい子供は嫌いだよ」
「――――先生ぃっ!」

      身体と性格は一心同体

 信じたくなかった。疑いたくなかった。人が変わってしまったように下卑た醜悪な表情で嗤う先生を犯人だと認めたくなかった。

「じゃあ、やっぱり先生が・・・・・・」
「違う。違うんだよ。北河さん」

 私に向けて先生は普段と変わらない優しい声で語り始める。

「これは病気なんだ」
「えっ・・・」
「君たちが何気なく過ごす日常はお金になるんだ。女子高生というだけで一日の動画を撮影し、動画にするだけで視聴者は集まり、君たちの生活の一日をつい見てしまう。俺にとって君たちは商品であり、売れる材料なんだ」
「私たちはあなたの商品じゃない!そんな勝手な理屈言ったところで、侵害以外の何物でもありません!」
「だから病気なんだ。この病は治らない。君たちが理解してくれないし、俺を理解してやくれない。俺だって悪いと思っていても、この行為を止めたくても止めさせることができない。習慣、趣味、趣向・・・もう身体が勝手に動いて抑えることが出来ない身体になってしまったんだ」
「ふざけないで!そんなのあなたの心が弱いだけじゃないですか。身体が勝手に動く?そうやって仕向けて心にブレーキを掛けないあなたの心が促しているだけじゃないですか!!」
「そうかな?悪いと思っていてもついやってしまうことは多いんだよ。心と身体はお互いを映す鏡のようなもの。どちらかが変わればもう一方も自然と変わってしまうものだよ」
「なら、あなたの心がもう少し強ければ、身体を止めることだって出来たじゃないですか!今からでも心を入れ替えて悪趣味を止めることだって出来るのに、それを諦めて私たちに危害を及ばせているのを黙認して悦んでいるじゃありませんか!私は風紀委員として見過ごすわけにはいきません!やっぱりあなたは屁理屈を言っているだけの変質者でしかありません!!」

 警察にすぐ連絡したいけど、私は携帯を持ち歩いていない。別の先生にこの事実を伝えに職員室へ向かうつもりだった。

「ふぅん。君の言っている更正はそんな簡単なことじゃないよ?」
「はぁ?」

 何はともあれ、先生の鞄はここにある。素手な先生が襲い掛かっても対応できるように十分な距離を取っている。しかし、先生は突然うずくまり、苦しそうな表情を浮かべた。

「ごめん。鞄の中にある『粉薬』を取ってもらえないか?」
「『粉薬』?」
「鞄の中にあるだろう?ハァ・・・ハァ・・・水と、薬が」

 確かに、先生の鞄の中には盗撮用道具だけじゃなく、教科書や資料、常備薬が入っていた。もとは真面目でまともな先生。決して悪い面だけじゃなく、生徒に好かれる一面を併せ持っていた人物だ。だとしたら、先生が病気というのは本当で、病気さえ完治すれば更正できるのではないかと思ってしまう自分がいた。苦しそうに息を絶え絶えに吐きだす先生を見過ごせない私は、最後の情けで先生の言われた『粉薬』と水を先生に差し出した。
 すぐに『粉薬』を飲んだ先生は水で流し込む。苦しそうな表情をしていた先生の顔がすっと安堵を浮かべていた。

「・・・ありがとう。北河さん」
「い、いえ・・・」

 ペットボトルに入った水を何故か返される。それを無意識というか、何気なしに受け取ろうとする私。しかし、それは失敗だった。伸びた私の手をつかんだ瞬間、物凄い力で先生は私を手繰り寄せた。

「な、何をするの!?」
「うっぷ・・・へへ。もうすぐ来るぞ・・・。もう少しできみの身体を・・・」

 先生が気持ち悪い独り言をつぶやき、私の顔を覗いている。暴れる私を先生は羽交い絞めにして身動きを取らせない様に固めていた。先生は私の口に自分の手をつっこみ、無理やり開かせて閉じさせないようにした。

「あ゛か゛か゛か゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!?」
「北河さん。これから面白いものを見せてやる。くふぅぅ・・・お、くる。くるぞ。・・・うえっ、こみ上げて、くるっ!」
 先生は私の鼻を摘まみ、無理やり口を開かせた。嫌な予感がした私は最後まで息を止めたのだが、酸素がなくなり補充しようと大きく口を開いた瞬間、先生が私の唇を自分の唇で奪ったのだ。
 ファーストキスのことなど考えも及ばず、今は目を見開き先生とのキスにただただ硬直するだけだった。

「ん゛ふ゛ぅ゛・・・ん゛ん゛ーーっ!!?」

 先生とのキスの間に、何かが口移しに私の口の中にどんどんと押し流されていくのを感じた。それは水であり、先程先生に渡した薬の味が私の舌で感じ取れた。
 どうして先生が薬を流し込んでくるのか分からない。それでも私は鼻を塞がれたせいで薬を口移しで飲み込んでいくしかなかった。
『粉薬』を飲み、喉に落としていった私に、先生がようやく解放する。先生は満足そうな顔をしていた。

「ぷはぁ。ごちそうさま。北河さんの唇はとっても美味しかったよ」
「キモい・・・先生。その顔見たくない・・・」

 先生が私にした残虐非道な行為に涙が流れる。キスを奪われたことも、口内に先生の薬を無理やり流し込まれたことも、先生の口移しから良からぬ黴菌が入ったんじゃないかというテロ行為も、あまりのショックに一瞬のことながらに気持ち悪さを覚えてしまった。
 先生としてあるべき人ではない。先生の皮を被った変質者という認識になってしまった私は、乙成武という人物に拒絶反応を見せるようになってしまった。

「いやいや。もう、俺の顔は嫌でも見続けることになるんだよ?」
「けほっけほっ・・・なにを、言ってるの・・・?」
「ほらっ。君も感じるだろう?もうすぐ、きっと・・・」
「なにを言ってるの・・・・・・うっ・・・、・・・なに?」

 急に襲ってくる吐き気。吐き気も気持ち悪さも体調不良もあったが、今襲っているのは先生に対してではなく、自分の体内に関しての気持ち悪さだ。

「うぅっ!」

 思わずその感覚に顔をしかめるも、手のひらで口に抑えて表情を隠すようにした。体内からこみ上げてくるものを必死に押し留めようとするも、水分が先に零れて私の体力を急激に奪っていく。

「ダメダメダメダメ。そうなったらもう手遅れだよ。あ~あ。きみの零した体液が勿体ないじゃないか」

 弱々しい私の手の平をつかみ、零れた水分をペロリと一舐めする。私は既に意識も朦朧としており、先生は再び私の唇を自分の唇に押し当てた。

「いつでも来なさい。先生が全部受けとめてあげるから♡」
「(だめ、だめだめだめ。おねがい、でないで!いや、で、でちゃうぅ!)」

 私は体内の吐き気を押さえることが出来ず、先程の先生と同じように自分の嘔吐物を先生に口移しで流し込んでいた。口の中いっぱいに広がる薬の味を、先生は自ら吸い取るようにして喉に流し込んでいった。
 目の前が回るように気持ち悪さで意識を失う。先生との嘔吐物の交換だけでなく、キスすら望んでいない状況が夢であったらいいのにと、薄れゆく意識の中で私はそう思っていた。




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「ン・・・ン・・・」

 義也の目の前で、裕香がパイズリを始めていた。しかも、チアリーディング部の衣装を借りて――

「生徒会はな、部室の鍵一つ一つすべて管理してるんだよ。だからよ、誰もいない部室から衣装を一つ失敬させてもらったんだよ」

 裕香に憑依してから義也のもとに来る前にちゃっかりしている貴明である。そんな誰のものかもわからない衣装を、生徒会長である裕香が自分の身体に通して着替え始める。

「ジャーン!どうだ、生徒会長のレアチアガール姿!」

      憑依部を応援

 上半身は赤い長袖のインナーシャツと上から着るノースリーブのトップス。下半身はプリーツタイプのミニスカート。スカートの中では青のショーツが見えず白のアンスコに穿き変わっている徹底ぶりである。ソックスと靴だけは会長のをそのまま使っているが、両手にボンボンを持っているその姿は粉うことなき会長のチアガール姿である。
 普段は人目につかないように清楚な服装、清潔な身だしなみをして眼鏡の奥から表情も読み取れない毅然とした態度で振る舞う生徒会長である裕香が、チアガール姿に変身すればなんて明るく可愛い印象を持つのだろうか。
 出来ないと分かっているのに懸命に跳ねながら足を大きく上げようと頑張っている。Y時バランスをやろうとしているのだろうが見栄えは決して綺麗ではない。その度に胸が踊り、アンスコが見えていることを義也は黙っていた。

「フレ!フレ!ひょうい部!頑張れ!頑張れ!ひょうい部!」
「なんだよ、その声援?」
「えへへ。生徒会長たる私から憑依部のみんなへの応援じゃない。あなた達の活躍をこれからじっくり見守ってあげるわけなんだからしっかりやりなさい」
「(生徒会長がそんなこと絶対言うわけないだろ、いい加減にしろ)」
「ーーーーーー」
「・・・・・・ん?」
「ジーーーーーー」
「・・・そう言って見てるものが違うんだけど」

 裕香(貴明)の顔はまっすぐ義也を向いているのかと思っていたが、実は視線は義也の股間を捉えていた。珍しい会長のチアガール姿を見たせいで、学生服の上からでも分かるくらいテントを作っていたのだった。

「早くあなたの粗チンを出しなさい。私が直々扱いてあげるなんて二度とあり得ないわよ?」
「い、いいのかな・・・?」

 迷惑とか道徳とか背徳感とか、義也にとって常に正しい道を歩いている人生。その半ばの高校生活において岐路に立たされているなんてこの時義也が考えているわけもない。転落人生になるかもしれない甘い罠や落とし穴に人は自分が落ちるなんて夢にも思わない。人生の成功者を夢見て常に人生を賭け戦っている。そういう概念がない者にとって流される人生が最も幸福な人生であり、他人に流されることで他力本願にも幸福を得られるのだから、労せず楽に成功を収められる。
 故に、義也がこの時裕香(貴明)に流され性行為することは、義也が必然の選択を選んだことと同意であった。
 初めて他人に見せる暴君の逸物。会長の顔に届きそうなほどいきり立つ逸物は、直立不動の佇まいをお見舞いしていた。

「義也くんったらもうこんなにバキバキになってる。欲張りなおち〇ち〇ね」

 生温かい会長の息がかかる。それだけでも敏感な義也の逸物は早く触ってほしいと言わんばかりに脈打っていた。

「熱いわね。義也くんのおち〇ち〇」

 初めて触れられる肉棒。熱く滾った血液が皮を隔てて亀頭の中で集まっていく。裕香(貴明)の手が触れる度に逸物が硬くなり、擦れば擦るほど逸物は敏感になっていく。敏感な亀頭を労わるような愛撫。義也自身の手で扱くよりもしなやかで柔らかい逸物の扱い方は、どんな男でも瞬殺されそうな手腕だった。

「あ・・・あ・・・会長・・・ダメ、です。僕、もう」
「早すぎるわよ。もうちょっと頑張ってもらわないと」

 盛り中の高校生真っ只中の義也に我慢させるのは酷の話である。しかし、それに見合った報酬があれば我慢は辛くなくなる。
 手コキを止めた裕香(貴明)は、自らの持つ豊満な胸に義也の逸物を宛がった。インナーシャツとトップスの上からだったが、彼女の持つ二つの柔肉で逸物を挟みこむと、服の上から深い谷間が描かれ、そのくぼみに逸物がストンと嵌るように落ちていった。まるでフランクフルトのウインナーのようにパンズのように乳房に挟まれて亀頭の先と竿の付け根がはみ出している。二人は身体を密着させて互いの熱を相手へ伝え合った。

「ああっ・・・ぅっ・・・会長の胸にみっちり挟まれてる・・・」
「ふふっ。本当に大きい。私の胸でも収まりきらなくて頭の先がぴょこって出てる・・・んふ」

 裕香の手が両胸を押し寄せるように動き始める。途端に逸物から乳肉の圧迫感と重圧感が一斉に襲い掛かってくる。しかし、どんなに締めすぎても苦しくなく、乳の中で亀頭の大きさに形を変えて優しく包み込むように波うつ乳房を目の前で体感させてくれる。
 こんなことを覚えていいのだろうか。こんな快感を義也は今まで知るはずがなかった。

「あぁあ。なに、これ。会長のおっぱい、気持ちよすぎて、腰が浮いちゃうよ」
「うふ。本当に気持ちよさそうな顔してるわね。でも、これだけじゃないんだから。んふ・・・れろ・・・」

 裕香が舌を出し、口から透明な涎を垂れ零そうとしていた。その光景は義也にとってスローモーションで流れ、舌の先から伝って伸びる夕夏の唾が自分の亀頭めがけて降りかかっている光景が瞳孔を縮小させた。

「う、ぁあっ!会長のよだれで、冷ぇ・・・っ」
「じゅるっ・・・んっ・・・気持ちいい?」
「あっ・・・ハイ」

 堪えず滴り落ちてくる唾液にチア衣装が変色してきていた。だいぶ溜まった涎の中で裕香は再度両胸を揉み始めた。

「うひゃぁあっ!か、会長に扱かれて・・・・・・ひぅっ」
「あんっ。あぁ・・・おち〇ち〇が脈打ってるぅ。胸の中心がどんどん熱くなってくるのがわかるわ」
「やわらかいおっぱいが・・・僕のち〇ぽをしごき上げて・・・」
「む、胸の中でビクビクって、動いてる・・・・・・ンんんっ!」

 膨張し続ける肉棒に何度も乳房を擦りつける裕香。余裕がなくなる義也。裕香の熱い吐息がぱっくりと開いた鈴口にも当たる。

 ――ニチャヌチャ。ヌリュヌチュ――

 形の良い裕香の乳房がムニュムニュと変形し、衣装に皺がつく度、涎の湖が卑猥な音を奏でていく。摩擦熱にしっとりと絡みつく涎まみれの乳房。まるで裕香の乳房全体が義也の逸物に吸い付いてくるようだった。

「うぁ。ぁああ・・・パイズリってこんなに気持ちいいのかっ。すぐにイっちゃいそう・・・」

 天にも昇る義也に思わず笑みを浮かべる裕香。

「待って。これも使ってあげるわ」

 そんな義也に見せつけるように、裕香は『飲み薬』の瓶よりも少し大きいローション入りの瓶を開けた。

「本当はチア部の靴擦れのために用意してあったんだけどね。全部使ったら怪しまれちゃうかも」
「それも黙って持ってきたんだ・・・」

 瓶を絞り、ローションを垂らしていく。涎の時よりも粘液が強く、手のひらの中でトロトロと溜めると、両手いっぱいに馴染ませて自分の両胸をその手で揉みし抱いた。

「うわぁ」

 ローションがチア衣装と交わり、衣装との隙間にローションが塗りたくられた場所からは裕香の豊満な乳房がくっきり浮き出ていた。胸の谷間に溜まっていたローションが少しずつ零れて床に落ちていった。

「んっ、んんっ・・・・・・あぁ・・・・・・んっ・・・・・・」

 裕香が動くたび、胸全体にヌルヌルが広がり、乳房の滑りがさらに良くなっていった。

「あんっ、んんっ・・・・・・すごい、おち〇ち〇で、擦れる・・・・・・くぅ」

 ローションに塗れた乳房が逸物を擦る。裕香が身体を揺らすたび、逸物と乳房の間からちゅくちゅくと濡れた音が響いた。

「すごく、気持ちぃいです・・・・・・あっ」

 裕香の乳房の押し包んでいた熱の感触とはまた違う快感だ。ヌルヌルのローションのおかげで滑りは凄くよく、ヌルンと滑る義也の逸物が暴れ、回る熱感が二人をさらに火照らせる。

「あぁ・・・義也くんったら。そんなにおっぱいの中で暴れないで」
「あ、暴れているわけじゃなくて、勝手に滑っちゃって・・・ふぁ!」
「んんっ・・・ダメだって。逃げないで・・・ん、ふぅぅ」
「あ、ま、待って。会長!これ以上動くと・・・・・・あ、ああぁ!」

 裕香は義也の逸物を抑えようとするのに必死だった。多方面に当たる乳房の肉感が義也の我慢を限界に誘う。

「だ、ダメ・・・!会長っ、もう、出ますよっ・・・!あああぁぁああぁぁぁ!!!」

 裕香の逸物全体を搾るように圧迫する乳房の感触を味わいながら、義也は欲望を解き放つ。

      透け乳

「んなあぁぁっ!出てるっ・・・顔に・・・っぶぇ!」

 胸で受け止める裕香であったが、義也の暴発の勢いは止まらず、亀頭の先から発射された精液は裕香の顔面に多く降りかかった。

「ぉぶぇっ・・・・・・精液すごぃっ・・・あつい・・・身体中にぃ、チ〇ポ汁出されてるっ・・・!」

 びっくりした裕香が胸から手を放し逸物を解放し、髪の毛にかかった精液を掬い取って口にいれて飲み込んでいった。そんな光景を見ながら敏感になっている義也の逸物はまだまだ溜まっている感覚があった。

「くうぅっ・・・まだ、出そうっ・・・」
「ええ・・・・・・もぉ、しょうがないな。私のカラダもまだ疼いちゃってるし・・・一人で勝手にイって義也くんだけズルいものね」

 精液塗れのチア衣装を脱ぎ、全裸になった裕香。そして、机に両手を置いてお尻を突き出すように持ち上げた。ローションは裕香の至る所に流れており、滑り潤う身体が義也を誘う。

「それじゃあ、私の後ろから・・・ぶっといおち〇ち〇差し込んで」

 お尻を両手で持ち上げ、開いた肉襞の先には、裕香の光沢ある神秘の蜜部が広がっていた。


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 貴明の飲んだ薬というのは、他人に”憑依”する力のある不思議な薬――だという説明を聞いて、果たして人はどれほど信用の持つというのだろうか。”憑依”というオカルト用語に興味を示す人が現れたとしてもそれで信用を得られるわけではない。貴明ほどの大馬鹿者でなければ決して妙薬を飲もうという発想にはならないはずだ。
 だがしかし――説明を聞いて目の前でその効力を見た後で、それでも信用できないというのはただの馬鹿者だ。百閒は一見に如かずという言葉が状況を表している。義也の目の前で生徒会長の伊澤裕香に貴明が”憑依”している事実が否応なく証明されていく。

「おい、義也。これをお前が渡してくれ」

 裕香(貴明)が一度部活申請書を義也に手渡す。そして、教壇に椅子を置いて腰を下ろすと、カメラを回し始めた。

「はい、なんでしょうか?」

 貴明が裕香の声を真似て義也に問いかける。カメラは裕香を映すように設置されているので義也は映らないように部活申請書を裕香(貴明)に渡した。

「ああ、憑依部・・・はいはい。えっと・・・・・・大丈夫ですね。特に記載の不備はありませんでしたので、学園で正式の部として認めましょう」

 裕香(貴明)が義也にウインクを投げる。それがカメラを停止させるサインだと気付き、義也はカメラを一時停させたのだった。

「はい、オッケーです。これで我ら憑依部は正式な部となった!」
「いいの!本当にいいの、これで!?」
「いいっていいって!放課後空いてる教室ばっかだし、一つぐらい埋まってても平気だろ?」
「そうじゃなくて、これ、完全に作ってるよね!捏造だよね!?」
「ばれなきゃ大丈夫だって。おまえは部費の月30万が欲しくないのか!?」

 誰だってお金には弱い。義也の正論も金の前に霞んで消えていった。

「・・・なんか、企業が国を騙してお金を貰っているみたいで居た堪れないのだけど・・・」
「貰えるものは貰っておく。ばれたら金はありませんと自己破産しよう」
「完全に闇会社そのものじゃないか!お母さん、僕、闇の部活に入部されられそうです!!」
「今のうちに連帯保証人になってくれって言っておけよ」
「お母さんの知らない間に親を売ろうとしてます!!ごめんなさい、お母さん!生まれてきてごめんなさい!!」
「そうならない為に、こうやって証拠を作っているわけじゃないか。生徒会長が何か言ってきても、『いえいえ、ちゃんと生徒会長が直々承認した正式な部活動です』と胸を張れるようにな!」
「だから、これがねつぞ――」
「んっ?そうか?証拠物件にしては少し弱いか。SDカードじゃ加工修正されると難癖をつけられる可能性があると、そういうわけか。やっぱりカセットテープが定番だよな!」
「(貴明、裁判沙汰に詳しくないか・・・?)そうじゃなくて、これは貴明が生徒会長に成りすました演技じゃないか」
「ええ?義也君ったらなに言ってるの?」
「っ!?」

 急に裕香の喋り方から仕草まで一変する。いや、今までがおかしく、元に戻ったという方が正しいのかもしれない。今の口調や仕草は貴明が憑依しているということを疑わせるほど、伊澤裕香本人に聞こえたのだった。

「クスクス・・・私のこと、どこからどう見たって伊澤裕香だよね?」
「あ、ぁぁぁ・・・(成りすましっていうより、その身体は本人なんだから当然じゃないか・・・それに、そんな口調されたら・・・・・・貴明だと思って会話していた自分の方が寧ろ疑ってしまうよ)」
「・・・・・・おまえ、本当に容易いな。ちょっと裕香本人の性格を強めにしただけで挙動っちまうなんて」
「あ、じゃあ・・・(やっぱり貴明なんだ・・・)」
「確かに俺には女の仕草やら口調なんて出来ないけど、こういうやり方が『飲み薬』には出来るんだ。だから、本人に成りきることなんて簡単なんだよ」
「もうそれって犯罪だよね?軽じゃなくて、重度の・・・」
「憑依だから無罪!」
「法をすり抜けた!?」

 まるで貴明に合わせざるを得ないほど感情の起伏が激しい義也。それはまるで今までの生活にはなかったほどの新鮮さで、義也自身、自分がこれだけ喋る人間だったのかと疑うほどの突っ込みをしていた。
 憑依部の恐ろしさの片鱗を義也も体感しているみたいだった。

「でも、そっか。まだ証拠として弱いか。日和見主義の俺からすれば出来れば揉め事を控えたいんだがな・・・」
「裕香さんにごめんなさいしてからその発言してね。そして生徒会長に復讐するって言ってたよね?それのどこの日和見主義なの?ねえねえ」
「仕方ないからカメラに生徒会長の秘密を抑えて、今度はそれをカードにこっちが優位に立つとするか」
「真面目な人の思考とは思えない逆転の発想だよ・・・」

 義也と裕香(貴明)は早速打ち合わせにとりかかった。続きを読む

「憑依部?」

 生徒会室で現生徒会長である伊澤裕香―いゆざわゆうか―を前に千村貴明は堂々と「はい」と断言した。
 二人が対峙する構図のなか沈黙が流れる空間に唯一取り残される部員、布施義也は後ろめたさを感じざるを得なかった。

「へえ~。憑依部。・・・なにをする部ですか?」

 会長の顔は笑っていたけど声は笑っていなかった。そんなことを知ってか知らずか、貴明ははっきりと明言した。

学校で色んな憑依かんさつして遊ぶりあじゅうする部です
「へえ~リア充ぅ~」
「(貴明・・・本音をルビで隠した)」
「なに言ってるんですか?こいつ・・・」
「(生徒会長。本音が漏れてる!!!)ち、違うんです、生徒会長。貴明はこう言ってますが結構まじめな性格で、成績は優秀で、人望は厚くて――」
「私を前に選挙演説やってる・・・」
「――と、言うわけで彼の言う通り、色んな生徒を観察して遊ぶ部です」
「へえ~、遊ぶ・・・舐めてる?」
「(義也、てめえ!俺の本音と建前を50/50にして会長に飲ませてるんじゃねえよ!!)違うんです、生徒会長。俺たち、真面目な部です!」
「――――」

 裕香が軽く書類に目を通す。義也が懸命に作った書類を眼鏡に視線を隠して最後まで流し読みしていた。

「・・・真逆のオカルト部って感じですね?」
「なに?アダルト部?まさか会長、俺の心を読んだだと?!」
「貴方のことは怪しくて卑しい人だということがわかりました」
「か、勘違いです生徒会長!もっと俺のことを知れば素晴らしい部だということが分かるはずです」
「(貴明、それ逆効果!!!)」
「そうですねぇ~~・・・・・・――お家でやりなさいよ。プライベートなら誰も何も言わないから」
「ぁゃιぃわーるど!!」

      眼鏡の奥が見えない怖い

 裕香の棄却に貴明が涙交じりに訴えかける。

「それじゃダメなんです!それだとお金が足りなくなるんです!な、何が望みですか?肩でも揉みましょうか?それとも足?胸?いえ、それが望まないなら床を舐めましょうか?それとも足?胸?」
「触らないで、汚いからぁぁ!」


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

「うぇぇぇん。申請が棄却されたぁぁ」

 廊下に響く貴明の泣き声。本気の悔し涙を滲ませているだけに義也は慰めるように肩を貸すことしかできなかった。

「こんな部活名じゃ活動内容が不明瞭になっても仕方ないよ。(・・・本当は貴明の本音を隠す言葉を見つけることに手いっぱいで、僕が見てもよくわからない部活内容になっているもんな)」
「部活申請が通れば部費として30万支給される筈だったのに」
「高っ!」
「これで『飲み薬』を調達する予定だったのに・・・」
「始まる前から破綻してる!?」
「薬・・・買えなくなっちゃうぅぅ!!!」
「その発言は完全にヤバい人!?」

 部活申請が通らなかった二人にとって、部活に入らないは実質死に繋がる。
 高校生という水色時代――自分の好きなことに打ち込める時間もあり、人と協力する力や目標に向かって努力する力を身に付けることに繋がる部活動。興味のある物を通して特別な友達を作れる絶好の機会。協調性、社会性、人間性の向上。それはつまり、一生の趣味を通じてクラスメートとは一味違う、特別な友達を見つける機会でもある――

「(憑依部ってそんな奥深いの!!?)」

 クラスメイトでありながら全然話もしたことなかった義也に貴明が持ってきた一枚の部活申請書。それに乗っかり貴明と憑依部を開設しようとしたが、初手でつまずく散々な結果になってしまったのは残念である。
 だがしかし、深い思い入れがない分あっさりとした別れが出来ると、この時義也は思っていた。

「どうするの、貴明?(と、聞いてるけど結果は出ている。これはもうどうしようもない。また僕たちは元通りただのクラスメイトなんだ)」

 しかし――貴明は違った。既に貴明は泣くことを止めていた。そして拳をプルプルと震わせて、感情を爆発させていた。
 これは怒り。自分の意見が通らなかったことに対して起こる反逆の感情。

「生徒会長ぅぅ・・・俺がどれだけ真面目な人間なのか教えてやる!そして、いずれ俺がすべての部活動の頂点に立つ男になるんだ!!!」

 発言は貴明のままであるにも関わらず、義也と違う逆境精神。
 抗い、もがき、苦み、茨の道だと提示されても己の信念を貫き通す。
 山は高いからこそ登り甲斐がある。脱出不可能迷路を攻略してしまう。その信念は奇跡すら呼び起こす――
 それは義也の持たざる粉骨砕身の極み。まさに主人公の片鱗――。
 そのことを二人が知るのは、まだ先の話・・・

「貴明・・・ひょっとしてどこかの部活と揉めたのかな?」
「貴明!!」
「茜音ぐえぇ!?」

 教室から飛び出してきた茜音が貴明の顔面に学生鞄をクリーンヒットさせていた。

「さっきからあんたの泣き声や叫び声が大きくて部活に集中できないでしょう!どれだけ他の生徒に迷惑かければ気が済むの」
「うるせえ!世界は俺を中心に回ってるんだ!悔しいときは思いっきり悔しみ、笑う時は思い切り笑うのが俺だ!!」
「時と場合を考えなさいよ!大体あんたはいっつもいつも子供みたいな良い訳ばかり繰り返して――」

 二人の痴話喧嘩が始まる。教室でも何度も見たこともある二人のやり取りは喧嘩というよりむしろじゃれ合いだ。それを見ながら義也は――

「(貴明って十分現実―リアル―が充実しているよね・・・)」

 義也が白目を剥いていた。続きを読む

「たまたま近くを歩いていたらきみに逆ナンされたんです。だから俺は悪くねえ。俺は悪くねえ!」
「そうですか・・・」

 俺の言葉に怜夢はただ静かにうなずいていた。決して彼女が納得したわけじゃない。しかし、これ以上の検索は俺に迷惑がかかると怜夢が配慮した答えだった。おかげでしばらくの間沈黙が続いた。一般人とアイドル。普段なら手が届かないところにいるはずの関係なのに今は同じの家の中にいる。彼女が勇気を出して俺の元までやってきてくれているにも関わらず、俺たちの距離感が縮まることはない。

「どうして俺の居場所が分かったんですか?」
「ネットで聞きました。ファンの中には事件の真相を突き止めようと試みた人がいたみたいで、写真から田上さんの情報を提供してくれた人がいました。半信半疑でしたけど」
「ネットこえぇぇ・・・」
「ごめんなさい。決してあなたを疑っているわけではありませんでした。私も自分の犯した過ちの真相を知りたかっただけなんです。急に押しかけてしまって申し訳ございませんでした」
「いえ・・・」

 「おじゃましました」と、すっと立ち上がる怜夢の後姿を俺は見送っていく。彼女の知らない記憶の断片を俺は知っているだけに、心苦しいものがある。しかし、それを本人に伝えることなどできやしない。例え、怜夢本人が苦しんでいたとしても、俺と琴子が他人の身体を弄んだことを知ってしまえば、嫌われるだけでは到底許されない制裁を受けることになるだろう。
 社会的制裁・・・。社会的道徳・・・。憲法・・・。司法・・・。
 他人を傷つけた者には万人必ず罰を受ける。
 それは決して逃げられない。
 夢や希望を持つ俺たちだって関係ない――。
 好奇心や向上心で「つい」「うっかり」「おもわず」「とっさに」「そんなつもりはなく」、――怜夢を傷つけてしまったのだから。
 それは俺だけじゃない。
 天才だろうが馬鹿だろうが関係なく――
 男だろうが女だろうが関係なく――
 琴子にもその罰がやってくる。

「ヤッホー!浩平!帰ってる?」

 こんなタイミングで樹下琴子が家にやってくる。そして怜夢と鉢合わせする。

「はっ!な、何奴!?」
「えっと・・・お友達ですか?」

 怜夢にとって琴子とは初対面だ。きょとんとする彼女をよそに俺は琴子に粗相がないように先に釘を打っておく必要があった。

「琴子・・・待て、何も言うな」
「あれ?・・・よく見れば・・・私が取り憑いたアイドルちゃんだよね?」
「琴子!!?」

 やりやがった。琴子が先制パンチをお見舞いしやがった。取り憑くとか今のこの雰囲気では絶対に御法度にしたかったワードの一つだ。怜夢の表情も引きつり始めていた。

「取り憑いた・・・へ?」
「まさか、あの時の快感が忘れられないからって遥々家までやってきたの?こ、この・・・色情魔!!」

 マズい。琴子が暴走しかけている。良からぬ発言で誤解を招くことは出来るだけ避けなければ取り返しのつかないことになる。

「浩平もまさか、こんな子を家にあげるだなんて・・・私という内縁の妻がいるにも関わらず、情が移ってあわよくばワンチャンあるなんて画策するだなんて・・・」
「・・・・・・そうなんですか?」
「妄想をやめろ!頼むからやめてくれ!」
「この泥棒猫。殺しておけばよかった」
「物騒なこと言うな!」
「ふっ。案ずるな、浩平。――生きているのなら、神様だって殺してみせる」
「お前がその台詞を言うな!」

      瀬戸際の境界線

 琴子がポケットから取り出したのは短刀・・・ではなく、小瓶に入った薬だった。

「浩平に言われて『馬鹿につける薬』を手に入れてきた。『飲み薬』をくれた関西弁のお姉ちゃんが『こいつは劇薬やで!』ってくれた代物なんだよ」

『飲み薬』も貰い物だったのかという突っ込みを置いといて、琴子が持ってきた新たな薬は、『飲み薬』と同じくらい劇薬という代物だとすれば、さすがにヤバいとしか言い表せない。

「それを使って何をしようって言うんだよ・・・」

 琴子は鼻で笑うと、手に持った『薬』を口に持っていき、ゴクゴクッと、喉を鳴らして飲み干していった。

「ぷはぁ!うめえ!」

 おいおい、やりやがった。『馬鹿につける・・・薬』なのに飲んじゃったよ・・・。
『塗り薬』みたいなものを想定していたのだが、飲めるのかよ。それ、本当に飲んで大丈夫な代物だったのかよ。一回で全部飲み干して用法用量合ってるのかよ。
 馬鹿か。樹下琴子はここまで馬鹿だったのか。馬鹿は死なないなんていう言葉はあるけど、むしろ死にたがりのようにしか見えなかった一連の行動の後――

「うっ」

 琴子はその場にばったりと気を失って倒れた。慌てて駆け寄った俺は琴子を抱き上げると、苦しそうな表情を浮かべているわけでもなく、呼吸を正しく眠りについているようだったので安心する。それはまるで、『飲み薬』の時と同じ展開を予感していた。
 そのことに気付いて慌てて怜夢に振り向いた瞬間――

「うぅっ・・・」

 怜夢の身体がぷるぷる震えており、苦しそうにもがく様子が俺の目に映った。
 しまったと思っていてももう遅い。俺は慌てて引き返し、今度は怜夢を抱きかかえた。

「しっかりしてください。坂本さん!坂本さん!」

 何度か肩を揺らす俺の言葉が聞こえたのか、しばらくして怜夢はゆっくり目を開けた。先程までの苦しみや痛みは全くなさそうで、きょとんと俺の顔を見つめた怜夢の様子に胸を撫で下ろす。しかし、俺は知っている。それは決して余裕や猶予があるわけじゃないということ。憑依した相手が他人の身体を浸食し、馴染み終わったことを意味するのだということを。

「・・・・・・バナナ食べたい」
「坂本さぁん!!!」

 怜夢の口から出ていた突拍子もない発言に、俺は身体を強張らせた。


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 坂本怜夢―さかもとれいむ―は普通の女の子だった。
 対して取柄があるわけじゃないし、自画自賛するほど可愛い訳じゃない。同じ年くらいの子と同じくらいの身長、体重。スリーサイズだって特質しているわけじゃない。普通に夢を持ち、普通に願望を持ち、普通に未来を持ち、普通の生活をしている高校生だった。
 だから最初は私がアイドルになれるなんて信じられないくらい夢見心地だった。

 生まれてこの方、アイドルになりたいと思っていたわけじゃない。何気なく街中を歩いていたら「芸能界で働きませんか?」と声を掛けら―スカウトさ―れただけの、特に夢も希望もない理由だ。
 アイドルを続けたいと思っているわけじゃない。将来不安だし、お給料が良いわけでもない。入れ替わりの激しいテレビ界隈で、時期が来ればきっと辞めることができるだろうと静観しているもう一人の私がいた。
『アイドル』とはつまり自分という商品。自分の人気が価値になって評判になって、立場になって、お金になる。
 それが普通なんだと思う。
 その中で私が人より少し売れたのは異例であり、特例であり、異質であり、特殊なんだと思う。

「彼女ってもしかして種田さん?」
「凄いだろ?かつて一世を風靡した種田架純と瓜二つの新人、坂本ふぁんとむちゃんだ」
「別人なの?血も繋がってないの?」
「ドッペルゲンガーみたいだろ。その魅惑こそ彼女の魅力だ」

 ――そう。私はドッペルゲンガー。伝説のアイドル、種田架純と瓜二つの容姿を持つ赤の他人。『生まれ変わり』のアイドルと言われる私の知名度は瞬く間に上昇した。地下アイドルとして発掘される前に大手事務所と契約は成立していて、来年にはドラマ、CM出演の話も飛躍的に増大する話がでていた。お茶の間に顔を出すのも時間の問題という順風満帆さに私は逆に不安になっていた。
 しかし、それが本当に私の価値なのだろうか・・・・・・CDを出せばミリオン連発、テレビに映れば高視聴率、コンサートを開けば会場だけではなく、場外で隣駅まで出待ちが群がる。当時の社会現象すら作り出した伝説のアイドルの面影に便乗しているだけの私、坂本怜夢に果たしてそれだけの価値があるのだろうか・・・。
 本当の自分ですら他人に見せたことのない私が、アイドル業をやっているのだから失礼極まりないのは分かっている。でも―――――、

『忙しい?立編結構なことじゃない。人生暇しているより全然マシよ』
『売れればいいじゃない。怜夢はファンのイメージ通りの行動をして喜ばせてあげればいいのよ』
『休みたい?どうしてそんな自分勝手なことを言うの?以後言葉に気をつけなさい。理由によっては今後の出演を減らさなくちゃいけないけどそれでいいの?』

 もう世間の波は私の力じゃ止めることは出来なくなっていた。私の想定を超える反響に驚愕し、同時に恐怖を覚え、足が竦み縮こまる想いを隠し、偽りの笑顔でイベントの数をこなしていくしかなかった。
 強大すぎる力の一つの駒と成り果てた私は、言われた通りの場所に行き、言われた通りの行動を取り、言われた通りの言葉を繕う、ただの偶像でしかなかった。ファンが貢いでくれた雀の涙ほどのお金は事務所へ流れ、私にははした給料しか入らない。それでも売れている限り私は逃げられないと悟った時、会社に貢献して行動の場を広げることで、いつか事務所の目が届かなくなるのではないかと思っていた。

 今日もアイドルのイベント会場でのイベントに参加した私。マネージャーも前会議の予定が重なり到着がイベント後になってしまい、急いで打ち合わせを始めていく。私はスタッフさんが私のために用意してくれた会場作りに感謝の言葉をかけていく。一人一人に挨拶をしていくと疲れた表情の中でぱっと笑顔になって返事を返してくれる人もいる。しかし、その中でも事務所と内通して私の行動を監視している人がいるのだ。偽りの笑顔を偽りの笑顔で返しながら、心だけは絶対に縛られないように心掛ける。身体はもう雁字搦めで見動きが出来ない状態でも、私の心だけは自由でいたいと切望しながら今を生き続ける。
 安直にアイドルなんてならなければよかったと後悔してももう遅い。自分を殺し、商品化してこそ私なのだから。
 ぞくりっと悪寒が走る。それは私に芽吹いた小さな諸悪の根源だったのかもしれない。その芽は瞬く間に開花して私の意識を塗りつぶすように埋めていき、気付けば私の記憶はそこからしばらくなくなっていた。
 ・・・・・・・・・。
 ・・・・・・。
 ・・・。

(この作品は、GG『飲み薬―職業ガチャ―』とリンクしており、合わせてお読みいただけるとより楽しめるようになっております)

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

「――――――えっ」

 気が付けば私は会場のトイレで眠っていた。しかもスタッフやキャストが使用する専用ではなく、来客が使用する店内トイレだった。どうしてこんな場所に居て眠っていたのかもわからない。私にはここに来た記憶すら覚えていない。ライブ衣装のままやってきて、いったいどのくらい眠っていたのかもわからない。
 私がスタッフの元に戻った時――会場は大慌てな状況になっていた。私の顔を見て安堵するスタッフとため息を漏らすスタッフが見えた。

「坂本さん!今までどこに行ってたんですか!?」
「えっ・・・あの・・・」
「坂本さん戻りましたー」

 私を心配して様子を見に来たスタッフに一言声を掛けていると、「怜夢!」とマネージャーの大きな怒号が響き渡った。鬼の形相を見せるマネージャーにスタッフが通路を開けていく。
 私の元に駆け寄るハイヒールの高い音が私を竦ませる。今にも泣きだしそうだった。

「いったい何処に行っていたの?」
「それが、その・・・お手洗いに・・・」
「馬鹿言わないで。いま何時だと思っているの?」

 マネージャーの視線から逸らすように時計を覗く。それは私の記憶から既に一時間は経っていた。お手洗いという理由で通じる様な時間の経過ではない。一時間の記憶が丸々私から抜け落ちていた。
 それを言って果たしてこの場にいる皆が納得できるのだろうか・・・・・・。
 マネージャーの怒りに油を注ぐような行動ではないだろうか・・・・・・。
 今までの私の態度、私の行動で、許容されるような範囲なのだろうか・・・・・・。

「ちゃんと誰かに報告してきたの?誰かに許可取っていったの?」
「ご、ごめんなさい・・・」
「謝罪なんて言葉はいらないわ。どうしてみんなに迷惑をかける行為をしたの?その理由を教えなさい!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「いい加減にしなさい、怜夢!どうして本当のことを言ってくれないの!今までいったい何をしていたの!言いなさい!!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
「怜夢・・・あなた・・・本当は逃げ出そうとしていたんじゃないわよね?」
「ちがいます。それだけはちがいます!ごめんなさい!本当にごめんなさい・・・」

 何が何だかわからない状況で、何も言えず、何も伝えられず、ただ「ごめんなさい」と、私は言葉を繰り返すことしかできなかった。
 他の誰よりも状況を理解していない。どうして私が謝らなくちゃいけないのかと疑問さえ脳裏をよぎる。床に涙を零し、顔を上げられないくらい酷い顔になりながら、ただ、場の雰囲気を和ませたい一心で私は頭を下げ続けた。
 埒があかないと無言で立ち去るマネージャーが居なくなったことにも気付かず、入れ替わりに私のことを気にかけてくれたスタッフたちが優しい言葉をかけてくれた。そうなって初めて私は解放されたのだと思った。

「無事でよかったよ。坂本ちゃん」
「ご、ごめんなさい。本当に・・・ご迷惑おかけしまして・・・」
「いいんだよ。坂本さんが無事ならそれで」

 悪いことをしたことを分かっている。時間が限られている仕事の中で一時間もの間作業を止めて私のことを探してくれていたスタッフのことを考えると不便でならない。それでも私を気遣って追い打ちをかけることをせずに優しくしてくれるスタッフに心が癒される。
 だけど、それでも、いつも仕事をさせてくれるプロディーサーは「でも・・・・・・」と――


「あなた、本当に坂本さん?」


 私に対してまるで別人を見る様な視線を向けてくる。ぞくっと背筋に寒気を感じながら私は答える。

「はい、坂本ですが?」
「そう・・・ごめんなさいね。ヘンなこと聞いちゃって。ただ、あまりに普段と雰囲気が違ったから」

 まるで私の中に住まうもう一人の私の片鱗を垣間見たような居心地の悪い言葉を投げかけていた。
 そんなの私の中にいるわけがない。もう一人の私という怪物を私自身育ててしまったなんて思いたくない。二重人格、多重人格者の話を聞いたことがあるけど、社会のストレスで私自身生み出してしまったとは考えたくない。
 仕事の途中で意識がなくなったことも、一時間もの記憶力の欠如も、もっと別の理由があるんだって信じたい。 
 坂本・・怜夢・・普通・・いたい・・・と信じたい。
 でも、残念ながらそんな想いは脆くも崩れ去ることになる。
 その夜、マネージャーから送られてきた一通の画像とお知らせ。それは、私が知らない男性と眠る裸の写真が流出したことを知らせる内容だった。
 後日、私の仕事は一切白紙に戻った・・・・・・。
 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・
 ・・・

 翌日から私は世間を騒がす人物になっていた。
 新聞社は一面記事に載せ、テレビ各局はニュース番組で大々的に放送し、雑誌では詳細を掲載し、報道者は事務所、自宅周辺、友達、ファン片っ端から情報収集を始めていた。
 私は堂々と表を歩けるような状況ではなくなり、熱りが冷めるまで自宅待機がくだった。実質的な謹慎処分であり、現実的に自主退社を願う事務所の態度だった。
 太陽の光すら遮るようにカーテンの締まった部屋の中で毛布にくるまり、ただじっと時間が過ぎるのを待ち続ける。
 一時間の記憶を失った日から私の生活は一変した。アイドルとしての生命を断たれ、今度は世間から叩かれる人生に転機する。ファンの声援はアンチの罵声に変わり、信用は失墜。それはまるで明と暗がはっきりわかるくらいの暴落ぷりだった。

「どうしてこうなったの・・・・・・」

 『空白の一時間で枕営業?!』という見出しと供に私と事務所にダメ出しをするコメンテーター。私の携帯から送られた写真に関しても、事務所は事実を否認し、『SNSアカウントを乗っ取られ、コラ画像をあげられた』と回答し続けている。アイドルとして輝く私の人生は今や犯罪者としての扱いだった。事務所に対する不平、不満を洗いざらい報道し、私が悪者のように扱われていく。テレビだけでもなく、ネットでも私のアンチスレが立つ始末。匿名でいくら擁護を試みても、

『痴呆症でしょ。病院イケBBA』
『おばあちゃん、ご飯は昨日食べたでしょう?』
『うーん。これは嘘松!」
『本当松なら悲しすぎるから嘘であってほしい』
『伝説の名を穢すアイドル。一刻も早く記憶から消し去りたい』
『生まれてくるのが早すぎたアイドル』
「・・・・・・・・・」

 まるで世界に味方なんて一人もいないような扱いだ。今まで私は私自身偽りだと思っていたけど、本当は世界そのものが偽りだったのかもしれない。本当の世界はこんなにも酷く、惨く、辛いものだったんだと思い知らされる。
 住み心地が良かっただけで、環境を守られていた私は、幸せを盲目になっていたのかもしれない。地獄の世界はココにあるんだと知って死にたくなった。
 元からやりたいわけじゃなかったアイドルに手を出してしまったために私の人生そのものが取り返しのつかなくなってしまった。就職活動も不可能に思える状況でいったいどうやって生きていけばいいのかわからない。
 私すら正解の見えない岐路に迷い込み、ただ無意味に時間を過ごしていくしかなかった・・・。
 一週間・・・・・・
 一ヶ月・・・
 ・・・

 三ヶ月が経過した頃。私の脳は寝て起きてを繰り返して完全に蕩けてしまい、何を血迷ったのか思わずカーテンを開けてしまった。
 三ヶ月ぶりに浴びる太陽の光に視界が失う。眩しいくらいに快晴の天気と雀の鳴き声が朝の時刻を知らせてくれる。
 かつて私の家を囲っていた報道記者の姿は今やどこにもいなくなっていた。人のうわさも75日というくらいだし、私の報道に世間が飽きてしまったのかと、ようやく私はこの時自分の置かれている立場を再認識した。
 誰とも会話をしていないため、声は以前にもまして出なくなっていた。そして、体重も痩せてしまい目の下に深い隈ができており、別人のように見えてしまうほどだった。
 そんなことよりも――

「あの画像・・・・・・」

 私は改めて自分の携帯に残った例の画像を見つめた。
 時刻は運命の日。私が記憶を失っている間に、見知らぬ同じ年くらいの男性が眠っている隙に裸で笑顔を向けて自撮りする問題の画像。
 そこに映る男性なら、この未解決事件の重要な手がかりを知っているのではないだろうか。
 この事件、私はただ謝っているだけしかできなかったけど、それだけでは自分を納得できない。
 不条理な理由で信用を失墜させた原因を私は知りたい。
 空白の一時間で私は彼と一体何をしていたのだろう。
 納得できる理由が欲しい。
 私は自分を守るために戦おう。
 そのために、彼と会おう。
 勇気を出して、彼に会いに行こう。
 その後のことは、彼に会った後に考えよう。
 私はもう幸せにはもうなれないなら、不幸から脱しよう。

 そして、普通に生きて、普通に死のう。
 
続きを読む

 千村貴明は無類のアイドルヲタクである。
 今を活躍するアイドルグループだけではなく、一世を風靡した伝説のアイドルからメディアにほとんど出ず、ライブ活動中心に活躍する地下アイドルまで熟知しているほどだ。
 今日も社会が生み出したアイドルの卵を発見する”シグマップ”の会場にやってきていた。


「どけ。ここは俺に任せておけ」
「隊長みずから!?」

 一人異常なほどの熱が入る貴明に、今日は普段とは何か違う予感を察知するアイドルヲタク一同。

「気合入れるぞ、お前ら。今日は凄いのが現れるっていう情報があるんだ。刮目せよ!」
『はい!!!』

 一致団結する貴明たちと同じタイミングでアイドルが会場に入ってくる。今日のアイドルの卵を見たファン達はどよめきを見せ始める。

「みなさん。今日は私のライブに来てくれて本当にありがとう!」

『う、うおおおおお――――!!!』

      アイドルは常に変化している。

「ま、マジなのか!?マジなのか!?」
「すげえ、これは凄すぎるぜ!」

 一斉に彼女に向かってシャッターを切る。
 紹介された彼女の顔を見て布施義也ですら「えっ?」という声を上げてしまった。それはそうだ。アイドルに疎い義也ですら、彼女の顔を見て知らない人はいないと言わんばかりの知名度を持つかつてのアイドルの姿が蘇っていた。

「あれ?貴明。彼女ってもしかして種田さん?」
「凄いだろ?かつて一世を風靡した種田架純と瓜二つの新人、坂本ふぁんとむちゃんだ」
「別人なの?血も繋がってないの?」

 言われてみれば一回り小さいような気がするが、現在、アイドル育成のマネージャーをしているはずの架純に義也は一度しか会ったことがない。そんな記憶を思い出しても背丈まで完璧に覚えていられる自信はない。
 しかし、彼女の姿を見れば誰だって彼女と間違えてしまう。それほど彼女は似ているのである。

「まさにドッペルゲンガーみたいだろ。その魅惑こそ彼女の魅力だ」

 架純のカバー曲を歌う坂本ふぁんとむに、ヲタク達も一緒に踊って見せる。もちろん、彼女の踊りも歌唱力も一流だ。そんな彼女が地下で活動しているということにアイドルヲタクは早速目を付けていた。普段よりも一際大きな握手会になった坂本ふぁんとむの列を見て、アイドルの可能性をさらに発見した貴明であった。


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「監督。今日はありがとうございました」
「はい、お疲れ」
「照明さんもありがとうございました」
「いえいえ。お疲れさまでした」

 イベントを終わらせた坂本ふぁんとむ、本名、坂本怜夢―さかもとれいむ―はマネージャーが打ち合わせをしている時間の合間に会場の準備をしてくれたお手伝いの人一人一人に挨拶に回っていた。ファンサービスだけじゃなく、会場作りのスタッフにもきっちり大人の対応をする彼女。それはかつて教育してくれた者がいた――。

「んっ・・・・・・」

 しかし、突然彼女が小さく呻き声をあげて震えだした。小さな彼女が体調を崩したのかと思い、スタッフたちは彼女のもとに駆け寄る。

「どうしました、坂本さん?」
「はっ!・・・・・・お、おおぉ!これがアイドルかあぁぁぁ!!?」
「えっ?坂本さん?」

 突然、奇声をあげた怜夢に目を丸くするスタッフ。普段の彼女とは別人のように目を見開き自分の動きを確認している彼女は様子が普段と違うという印象を持たせる。

「どうしたの、坂本ちゃん?」
「って、こんなことしている場合じゃない。早く浩平に知らせてあげないと!」
「ちょ、ちょっと!どこいくの?坂本ちゃん!?」

 衣装をそのままで全速力で会場を後にする怜夢。スタッフの声などお構いなしに飛び出していく姿に、会場に残った全員が呆然と眺めるしかなかった。
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