風と屋根と締切と の巻

ee47e7b4.jpg 屋根のトタンが剥げているようなガワガワという激しい音に目が覚めた。
 だいぶ前から強い風が家に吹き付けているのは意識の底で感じていたが、それよりはるかに大きい音。
 ガワガワというよりバリバリに近く、物が壊れているような音。
 半端じゃない怖さがある。
 突風だ。
 生まれてこの方70年近くこの地に住んでいるが今の音は特別だった。
 瞬間的に風速20メートル以上になったかもしれない。
 私が寝ているのは2階西側の部屋。
 冬の津軽は強い西風の日が多いのだが、年に1〜2度というとてつもない風が今吹き荒れている。
 恐らく猛吹雪だ。
 畳の上に布団を敷いて寝ているので、耳が屋根とほぼ同じ高さにあってトタンの泣く音が真っ直ぐ届く。
 津軽の人も犬も家も何もかもがこの風と音と雪に耐えなければならない。
 こんな時は屋根のトタンが剥がれても外へ出てはいけない。屋根が壊れてどこかへ持っていかれるまではじっとしているしかない。
 たぶん屋根は壊れていないしトタンも剥げてはいない。
 なんとなくそれは分かる。
 きょうは2017年1月12日、木曜日。
 この冬は年末から数日前まで過去に経験がないほど好天が続き、3日前は何と「積雪なし」と報道された。
 それが一転し、昨日から吹雪。
 雪掻きもせずに良い思いをしてきた罰ではないだろうが、困ったものだ。
 私は寝る時、習慣的に小さな明かりも消してしまうので真っ暗で何も見えない。
 枕元にいつも置いてある二つ折りの小さな時計を手探りで探しボタンを押す。
 ぼんやりとデジタル表示が見えた。
 午前3時半だ。
 この時計は安物だが光エネルギーを電気エネルギーに換えて動くソーラー時計で、しかも電波時計だから狂うことがない。
 昨夜寝る時も風が強く、もしかしたら風の音で夜中に目が覚めるかもしれないと思ったが、これほど強くなるとは予想外だ。
 最近の天気予報は昔と違ってよく当たる。
 テレビの天気予報にはたいてい気象予報士が出てくるし、気圧の変化や寒気の動きなどを元に詳しく説明してくれる。
 昨日の予報では青森県に猛烈な風が吹き雪も非常に多いと言っていた。
 酸ヶ湯の積雪は2メートルを超えたらしいが、あそこは八甲田山の中腹だから平地に住む者には参考にならない。
 突然、強い風の音がして家が震えた。
 トタンの音が耳を襲う。
 グワッグワワワッ。
 屋根が壊れたんじゃないかと恐ろしくなる。
 でも、壊れてはいない、と思う。
 これまで何度か経験しているので慣れてもいいはずだが、屋根のトタンのこの音は聞くたびに「ああ嫌だ」と思う。
 なんでこんなところに生まれてしまったたのだ、と呪いたくなる。
 できもしないことだが、雪の降らないところへ移住したい。
 何でさっさと引越ししないんだ、とも思う。
 やってやれないこともないだろうが、それは現実的じゃないことも知っている。
 もしかしたら、家の西側10メートルほどのところを走っているJR津軽海峡線がストップしているかもしれない。
 始発が通過するのは5時40分ころだからまだ先だが、貨物列車は夜中でもしょっちゅう走る。
 あのゴーゴーとうるさい音をきょうは聞いていないような気がする。
 風の音が邪魔で列車の音が聞こえないのか、雪がひどく降り積もって音を吸収してしまうのか、それとも走っていないのか…。

 再び眠ろうとするが、風の音が眠りの世界へなかなか戻してくれない。
 少し考え事をする。
 15日は「月刊おかじょうき」の原稿締め切り日だ…。
 あと3日しかない…。
 1月句会の結果は打ち終わったが、雑文「ムーさんの独り言」を書かなければいけない。それに添える写真も見つけなければ…。
 自由詠鑑賞コーナー「カンテラ」に載せる句を選んで鑑賞文、のようなものも書かなければいけない。
 先月の自由詠欄から月間賞の句を選ばないとならない。
 あれもこれも手つかずだ…。
 うーん、きょうの午後は青森ペンクラブの役員会があって出席することになっている…。
 でも、この天気だから、雪片づけが大変そうだし、津軽線がいつ運休にならないとも限らない…。事務局へ欠席の電話を入れよう…。
 待てよ、明日の夕方はおかじょうき川柳社の打ち合わせがある…。
 締め切りまで原稿を揃えることができるのだろうか、うーん、うーん…。
 頭の中をそんなことが行ったり来たりしている内にいつの間にか眠っていた。

 次に目が覚めたのは午前6時25分。
 夜はまだ明け切っていない。
 数年前から朝6時半頃になると勝手に目が覚めるようになった。
 友人に目覚まし時計を持っていないやつがいて、彼は若いころから起きようと思った時刻に自然に目を覚ますことができるという。
 まるで人間時計みたいなやつだが、私が朝6時半頃目覚めるのはそれとは違う。たぶん老化現象だ。
 風が相変わらず家に襲い掛かっている。
 パジャマの上に薄いダウンジャケットを羽織って部屋を出ると、薄明りの中に屋根が見えた。
 吹雪いているが、それほどひどくはない。
 あちこち見回しても屋根はどこも壊れていない。
 屋根の上には積雪が5〜6センチ。
 雪掻きが楽で助かるなあと思いながら階下へ降り、トイレに入って膀胱を軽くする。
 トイレには小さなパネルヒーターを置いて24時間電源を入れっぱなしにしてあるから寒くはない。
 トイレを出て居間兼キッチンへ。
 とてつもなく寒いというわけではないが気温はプラスじゃないだろう。
 居間側の大きな石油ストーブとキッチン側の反射式石油ストーブの両方へ点火。
 南部鉄のケトルをペットボトルの水で満たしキッチンのIHヒーターへ載せる。
 テレビのスイッチをオン、チャンネルはNHK総合だ。
 朝起きるといつもテレビをつけるのだが、前に座って画面を見るわけではない。
 キッチンが部屋の西側にあって、窓に風が吹きつけうるさかった。
 家は親父が建てたもので、もちろん文句を言うべきではないが、雨や雪が2階の屋根から1階の屋根に落ちる構造になっていることやキッチンが西向きになっているところなど気に入らない所がいくつかある。
 自分がいいと思うように建て替えればいいのだが、それは無理。金がない。
 そんなことを考えているより、早くコーヒーを淹れ朝食を済ませて雪片づけをしなければならなかった。
 何やかやを済ませたら、2階のストーブへ灯油を満たし、何とか原稿づくりを始めよう。
 カンテラへ先に手をつけようか、それともやっかいな「ムーさんの独り言」を書き始めようか…。
 でも、ムーさんは何を書けばいいんだ?
 待てよ…、黒石川柳社から選句依頼もあった…。
 そうだ、ペンクラブの事務局に欠席する旨電話しないと…。
 あまり早く電話しても迷惑だろうから9時頃にしようか…。
 いろんなことが頭の中でモクモクしている内にケトルの湯が沸騰。
 コーヒー抽出用のポットとサーバー、ドリッパーをテーブルへ並べる。
 淹れたコーヒーを保温するための小さな電気コンロも出す。
沸騰している湯は高温すぎるので、冷ますため抽出用ポットへ移し温度計を突っ込む。
 コーヒー豆をメジャーカップで2つ電動ミルへ入れる。
 豆は青森市にある専門店で仕入れたエチオピア産。
 モカが手に入らないので今はこれがお気に入りだ。
ドリッパーに円錐形のペーパーをセットする。
 コーヒーカップはどれにしようか…。
 20個ほどあるコーヒーカップの中で最近使っているのはあまり大きくない青白磁のもの。
 きょうもそれにしようかと、粉になったコーヒーをドリッパーへ入れ少し振って表面を平らにする。
 風の音に混じって玄関引き戸の開く音が聞こえた。
 吹雪の中を朝刊が届いたのだ。
 テレビが「今シーズン最強の寒波です」「北日本を中心に暴風雪、高波に警戒を」「きょうも冬型の気圧配置が続きます。北海道や東北の日本海側は雪や猛吹雪となるでしょう」などと言っている。


 *本文と写真は互いに関係ありません。
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Posted by musan8 at 2017年01月15日 17:19│Comments(0)TrackBack(0)

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